もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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鎧からの目覚め

「お前は『コネクター』……セイレーンのコネクターだ 」

 

その事実は辺りにKAN-SEN達がいたら驚きの声をあげていただろうが、周りには気絶したオロチとその本人である優海……いやコネクターしかいなかった。

この場に人がいなかった事を、コネクターは少しホッとしていた。

そして、自分がセイレーンだった事実に対しても驚かなかった。何故なら、艤装を出したと同時に自身の記憶、セイレーンとしての記憶も戻ったのだから。

 

「その反応……恐らく自身の中でうっすらとだが存在が目覚めつつあったようだな。さしずめ、俺とロドンさんが重桜を襲撃し、お前が艤装を出した時辺りか 」

 

心当たりはあった。最近味覚の感覚が妙に鈍り、何に対しても味が薄かった事やあまり寒さを感じられず、感覚も少し鈍っていた事だ。

 

そもそもコネクターはセイレーンの中でも最も機械的な存在であり、戦闘に関連しないもの、つまりは味覚等の設定は施されていない。

その為、セイレーンとしての存在を目覚めつつあった最近、味が薄く感じられたのだ。

完全にセイレーンとして目覚めたコネクターは、味覚は抹消されているのだ。

 

「だが1つ分からないことがある。お前の性格は何だ、お前はそんな人間じみた性格では無いはずだ 」

 

マーレは優海の今の正体がコネクターだと勘づいてはいたが、確信は無かった。その1番の理由が性格だ。

コネクターは機械的な性格な為、必要最低限の会話しかせず、口調も最低限だった事に対して、今のコネクターはまるで産まれたばかりの子供のような性格だった。目に映るものは全て新鮮であり、純粋無垢な性格は、前のコネクターとは大違いだった。

 

「……何で自分がこうして存在出来てるのかさえ、自分でも良く分からないんです。そんなの分かるわけないです 」

 

「それもそうか、さっきまで自分の正体も分からなかった奴だからな 」

 

「でも、もしかしたら……優海君のお陰かも知れません」

 

「なんだと…? 」

 

説明は出来ないが、それだけは確かな確信を持ったコネクターは今も尚自分の中にいる優海を感じ取るかのように、胸に手を置いた。

 

優海はこの瞬間あるひとつの決意を決めていた。もし本当に優海のお陰で自分がこうして存在しているのなら、この体は本来の持ち主に返すべきだと、例え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

最後の生を謳歌するかのようにコネクターは空気を目いっぱい吸い込み、息を止めて空を見上げた。

 

空は海よりも蒼く、空に浮かぶ雲は乗れたらきっとふわふわで心地が良いだろう。今この空の下に戦闘が起こっているなんて思えないようでもあった。

空の景色を堪能したのか、それとも息を吐きたかったのか、コネクターは口の中に貯めた酸素を吐き出し、二酸化炭素を作り出す。

 

大きく深く深呼吸したせいで心臓の鼓動が若干早くなり、コネクターは命の鼓動をてから感じ取る。

 

「これが……人の鼓動。生きている証であり、1つしかない貴重で尊い物なんですね……」

 

瞳を閉じ、薄れゆく感覚に全神経を集中させ、自身の鼓動を感じていた。

セイレーンであるコネクターは、いままで人のように生きていた為か、この命の鼓動に感動を覚えていた。

 

「命なんてものに価値なんて無い。有象無象にあり、一瞬で散る虫のような物に、尊さなんて無い。」

 

マーレはそんな命を冒涜するかのように履いて捨てるように発言した。マーレは同時にある言葉に哀れみのような感覚すらも覚えていた。

 

「それに1つしかないと言うが、俺は一度は死んでセイレーンの手によってまたこの世に戻った。どうだ?お前の言う命の尊さなんて、誰かの手によってこんなにも弄ばれるんだ。そんな物に価値なんて最初から無い…!」

 

『1度きり』という命はマーレ……いや、テネリタスに対しては矛盾している言葉でもあった。

1度は死に、もう一度この世に蘇ったテネリタスからしたら、『1度きりの命』という言葉は最早無縁の言葉であった。

 

「……命に価値なんて無くても、いや、価値なんて付けられないんです。命があるから人は生き、終わりがあるから人は美しく、尊く生きていけるんです!」

 

「美しい……?尊く生きる……?……ははっ……ハハハ………アッハッハッハッハッ!!!!」

 

一体どこが面白かったのかマーレは自分の顔に手を当て、狂ったように笑っていた。その意味不明な行動にコネクターでも若干の恐怖を覚えていた。だがコネクターは、その笑いは何かを抑え込むようにわざと笑っているかのようにも感じ取り、それが恐怖に繋がっていると考えた。

やがてマーレの笑いが収まると、先程の騒ぎが嘘のように辺りは静寂した。

 

「そうか……そうだよな……誰だってそんな風に生きていきたいんだよ。元気良く遊び、美味しいものを頬張り、綺麗な景色を見たり、誰かを好きになってその人と最後まで生きる。そんな美しくて、尊い人生……誰だってしたいはずなんだよ………だが…… 」

 

突然マーレが何か喋り出すと、徐々海が静かに揺れていた。まるで何かを恐れているかのように小刻みに揺れていた。

 

「知ってるか……?その裏にどれだけの人が無惨に死んだと思う?ゴミのように見捨てられ、最早明日さえ見えない現実に苦しめながら生きている人達の事を……お前は知っているか? 」

 

揺れはだんだん大きくなり、津波がいつ来ても可笑しくない状況までになった。

 

「お前の……お前のような上っ面だけで世界を見てる奴が、知ったような口を聞くなァァァァ!!

 

揺れが収まり、マーレの中心から広がるように周りの海が衝撃波で押し出されていた。

 

「気迫だけで衝撃波を生むなんて……!」

 

衝撃波だけの為それ程の被害は無いが、マーレから出る滲み出る怒りがコネクターに突き刺さるように襲いかかっていた。

先程の笑いは止まることの無い怒りを抑える為の物なのかとこの時初めて理解出来た。

 

「もう話は終わりだ……いい加減始めるぞ 」

 

「……!」

 

マーレは左腕の剣先をコネクターに向け、コネクターは真っ直ぐマーレに向かって進んでいった。

 

「……データベーススキャン開始、ラーニング『高雄』 」

 

コネクターは自身の能力でこれまで解析したKAN-SENの中から、最も接近戦が強いKAN-SENのデータを検索し、自分の能力として扱った。

コネクターはその中から高雄のデータを選び、コネクターの右手の内から高雄が使っている刀と全く同じ刀を無から作り出した。

久しぶりに自分の力を使った為、不備がないか確認するように刀を一振し、問題無いことを確認した。

刀を構え、島で気絶しているオロチに被害を与えない為、接近戦に持ち込む用意をしていた。

一気に距離を詰めるためのタイミングを見計らい、刀の柄を力強く握る。

 

やがて波は静まり、元の穏やかな海に戻ったその時、コネクターはマーレに突撃をかけた。

加速で一気に自分がだせる最高速度まで動き、一気に勝負をかけようとしたが、やはりマーレはそうはいかなっかった。

マーレは右の艤装でビームを連射させ、コネクターの行く手を阻むが、コネクターは刀で斬り伏せ、間に合わない場合は小型の艦載機をビームに突撃させて凌いだ。

 

「はぁぁ! 」

 

刀の間合いに入り、マーレに斬りかかったが、マーレは左腕の剣でいとも容易く受け止める。

 

「オロチに被害を加えない為に接近戦を選んだようだが、お前は本来戦闘タイプでは無い。そんなお前は俺には勝てない…! 」

 

マーレの言う通りであり、コネクターの性能は他のセイレーンと比べると弱い方である。それもそのはず、コネクターは本来、仲間の指揮を担い、後方から支援するタイプなのだから、このような戦闘は不得意に入るのだ。

長い鍔迫り合いはマーレの圧倒的な力でねじ伏せられ、コネクターの体勢が崩されてしまう。

コネクターの体勢を崩した隙を見逃すマーレでは無い、すぐ様右腕のビーム砲を連射させ、コネクターを蜂の巣にさせようとするが、咄嗟にコネクターは艤装を盾がわりにして防いだ。

ビームと艤装が衝突した衝撃で爆発が起き、コネクターは飛び石のように海上に転がってしまい、艤装のフィードバックでダメージを受けてしまう。

 

「どうした!早くどうにかしないとオロチは助からないぞっ!!」

 

「くっ……オロチさん……! 」

 

オロチの名前を聞いたコネクターは一瞬でだけオロチがいる小島に目を向けた。まだ助けられる状態だとしても、このままでは衰弱して助からない場合だってある、コネクターの頭はとにかく一刻も早くオロチを助ける事ばかりだった。

だが、この状況を覆せる考えが浮かばず、万事休すだったその時、別方向からこちらに迫る物体、いやKAN-SENがいた。

マーレとコネクターはすぐ様察知し、その方角に目を向けた。

 

「指揮官!離れるのです!」

 

「あの子……綾波? 」

 

コネクターが見えた者は間違いなく綾波であり、コネクターは綾波の言う通りその場から離れたと同時に、綾波は魚雷をマーレに向けて放った。

しかし距離が離れ、しかも位置を特定された状態だった為、マーレはいとも容易く全ての魚雷をビームで命中させ、撃墜させた。

しかし、綾波の狙いはそこにあった。撃たれた魚雷は水中で爆発し、その場の海水は打上げられ巨大な水の壁を作った。

水の壁によってマーレは綾波を目視する事が出来ず、綾波を見失っていた。

 

「ちっ……小細工を……」

 

マーレは見失った綾波をいぶり出そうと艦載機を全方位に向けて無差別爆撃を行うと艦載機を出すが、そうははせまいとコネクターが艦載機を発艦させる。

 

「そうはさせない! 」

 

艦載機のみの迎撃だけでは無く、艤装の砲撃を艦載機を撃ち落とす事のみに専念した。先程の綾波の行動のお陰で、マーレからは距離が離れている為、攻撃されてもギリギリ回避できる距離にいる為、迎撃に専念できた。

その甲斐あってか、コネクターは無傷で艦載機を全て撃ち落とす事に成功した。

 

「これでっ……!」

 

艦載機が全て撃ち落としたことを確認し、マーレの背後まで最高速度で接近した綾波は、自身の剣をマーレ目掛けて振り下ろした。

誰しもが当たると思われた攻撃だが、マーレはまるで最初からいる位置が分かっていたかのように、背後にいる綾波を見ず、右へ1歩進んで体を傾かせて攻撃を避けた。

 

「なっ……そんな……! 」

 

全体重を載せた最大級の一撃を軽々と避けられた綾波はそのまま海に向かって虚しく剣を振り下ろし、そのままマーレのビームに直撃を受けてしまった。

 

「っ……! 」

 

「綾波! 」

 

直撃の衝撃で吹き飛ばされた綾波を綾波を咄嗟に見たコネクターは刀を捨て綾波と直線上の場所まで移動し、飛んでくる綾波を全身を使って抱えた。

 

「綾波、大丈夫!? 」

 

「うぅ……大丈夫……なのです…… 」

 

そう言って綾波は震える体でコネクターの腕の中から離れ、剣を支えにしてやっとの思いで立った。

 

「はぁ……はぁ……まだ…戦え…る…です 」

 

綾波本人はこう言うが、額から血が流れ、艤装に直撃を受けたせいでかなりのダメージを受けている。もう戦う事は出来ないと判断したコネクターは綾波の肩を持った。

 

「綾波、それ以上は無理だ。あっちの島にいるオロチさんと一緒にこの場から離脱してくれ 」

 

「嫌…です!綾波は指揮官を」

 

「頼むっ!もうオロチさんは弱って、早く手当したいと間に合わないんだ!……お願いだっ 」

 

コネクターは必死な形相で綾波に訴え、何とかしてこの場から離脱するように説得する。

その目を見て綾波は自身の状態とコネクターの本気に甘え、渋々と頷いた。

 

「……分かったのです 」

 

何もできなかった無力さを恨み、噛みしめながら綾波は言う通りにオロチの元へ移動した。コネクターは綾波に危害がいかないようにマーレを見ていたが、それはすぐに無駄な行動となった。

マーレの姿が突然消え、完全にコネクターの視界から消えていった。

 

「な……どこに行った!? 」

 

辺りを見渡しマーレを見つけようとするが、姿が何処にも見られなかった。淡い希望を抱いてこの場から離脱したとは考えたが、どう考えてもそれは無い。必ずどこかにはいるはずだ。

 

「きゃぁぁ!! 」

 

「綾波!? 」

 

綾波の悲鳴を聞いたコネクターは後ろの振り返り、マーレの姿は綾波の悲鳴と共に姿を現していた。

マーレはいつの間にか綾波に近づき、抵抗できないように綾波の首を絞めていた。

あまりの苦しさで綾波は抵抗も出来ず、ただ苦しむことしかできなかった。

 

「っ…あっ…くぁぁ…」

 

「綾波を離せっ! 」

 

英雄からあまりにもかけ離れた行為に激怒したコネクターは一直線にマーレに向かったが、怒りゆえの単調な動きはマーレの思うつぼであった。

よくよく見ると、マーレの背後にある艤装が見当たらず、マーレの艤装は切り離すことで自律的に行動可能な艤装な為、コネクターは艤装の攻撃を警戒すべきだった。

だが怒りで考えが単調なった為、コネクターは背後から来た艤装の攻撃を無防備に受けてしまう。

 

「ぐはっ・・・! 」

 

ダメージを受けたコネクターはそのまま体ごと倒れてしまう。本体がダメージを受けた為、艤装も続くように倒れ、最早戦闘続行は困難となってしまった。

 

「うぅ…指揮官…! 」

 

コネクター、いや綾波にとっては優海を助ける為に力を振り絞って剣を振りあげようとするが、マーレが更に首を絞める力を強め、綾波の意識は薄れつつあった。

綾波は剣は手離してしまい、ついに抵抗する手段はなくなってしまった。

 

「どうした、このままじゃ誰も助けられないぞ。お前の力はそんなものなのか 」

 

煽るような発言に綾波の戦意は消えず、今もなお必死に抵抗するようにマーレの手をどけようとする。

 

「まだです……!今度は綾波が指揮官を助けるのです…!」

 

「なに……?」

 

「指揮官は……何度も綾波を助けてくれました……だから今度は…綾波が…指揮官を助ける番なの……ですっ!!」

 

優海を守る意思の力なのか、綾波は徐々にマーレの腕を抑え続け、手が首からほんの少し離れて行き、綾波は呼吸が少しだが可能になった。

流石のマーレもこれに驚きはしたが、力を弱める事はせず、むしろ油断しないように更に力を強めた。

綾波は再度呼吸が出来ず、もがき苦しんだ。

 

「助けるか……だったら目の前でアイツにトドメをさしてやる 」

 

右腕の銃口がコネクターに向けられ、綾波は何とか脱出しようと抵抗を続けるも、マーレとの力の差は圧倒的であり、まるで赤子と戦闘員のようであった。

 

「やめて……やめる…のですっ!!」

 

「やめろと言われて攻撃を止める敵がどこにいる 」

 

綾波の言葉を無情に否定するように、マーレは確実にコネクターを仕留めるようにビームの出力をチャージして高めた。

コネクターも攻撃を避けようと立ち上がろうとするも、マーレの艤装がコネクターの動きを止めるようにしていた。

 

(これじゃあ避けられない……! )

 

半ば死を悟ったコネクターは何とかして防御方法を考えたが、この状況ではまともな防御は出来ず、最大限のダメージを受けるしか無かった。

最早諦めるように瞳孔を開き、チャージで大きくなりつつあるビームの光を吸い込まれるように見つめ、ついにその光はコネクターに向けて放たれた。

 

「やめるのですっ!!!」

 

しかし綾波の叫びは無情にもビームの発射音にかき消され、ビームはコネクターに直撃して大爆発を起こした。

直撃した証拠に、コネクターの艤装が両方とも息絶えたように倒れ込みながら光となって消え、コネクターは海の底へと沈んで行った。

 

「そんな……綾波は……綾波…守れなかったの…です 」

 

助けると誓った人が目の前で沈んだ絶望に負けた綾波はマーレに対する抵抗を止め、力無く涙を流した。

最早戦意すらも失った相手に攻撃は無用なのか、マーレは綾波を捨てるように離し、綾波はそのまま海上に倒れるように浮かんだ。

 

「か八っ……ごホッ…! 」

 

ようやくまともな呼吸が出来た綾波は呼吸を激しく行い、咳き込んだ。

しかし綾波にはこれ以上戦う意志も無く、立ち上がる事さえ無かった。

 

「どうした、さっきのあの態度はどこに行った 」

 

しかし綾波からの返事は無く、ただ沈めてくれるのを待っているかのようにそのまま呆然としていた。

マーレは拍子抜けなのかそれともガッカリしたのか、大きな溜息を吐いて剣の刃を綾波の首に添えた。

 

「心配するな、お前もアイツの所に送ってやる。せめて死に方は選ばせてやる。お前はどんな風に終わらせられたい? 」

 

しかし綾波からの返事は帰ってこず、まるで抜け殻のような状態だった。

 

(……こいつならもしかしたらと思ったが、アイツは結局目覚めなかったか……まぁ、 最終的な目的は変わらないが問題は無いのだが )

 

マーレが何故綾波を選んだのか、その理由は優海にあった。優海との距離が近いKAN-SENは家族である天城や赤城、加賀なのだが、指揮官の優海にとって重桜で1番距離が近いKAN-SENは綾波であった。

その為、綾波の危機を目の前で見せつけ、優海を目覚めさせる算段だっただが、結局優海は目覚めなかった。

 

「もうお前に用はない。せめて苦しまないように一瞬で終わらせてやる 」

 

食用の家畜の首を解体するかのように、マーレは綾波の首に剣を振り下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たい……暗い……あれ、ここ何処だっけ……。

周りを見回しても暗い景色が広がるだけで、どこも変わり映えが無かった。

どうしてこうなったのか理解する為に、今まで何をやってきたか整理する。

えーと、確か重桜に封印された長門ちゃんを助ける為に祭壇に行って、その途中でマーレさんと会って……あぁ、思い出した…!

僕はマーレさんに負けて海に沈んだんだ。海中にいるにも関わらず苦しく無いのは、僕がセイレーンなのだからだろう。でも体は動けず、どんどん海底に沈んでいく一方だった。

 

あぁ…これダメなやつだと諦め、死を覚悟するように目を閉じた時、夕日のような淡い陽の光が瞼を突き破った。

 

眩しさで目を開けると、そこは海の中では無く、地上であった。重桜では無いどこかの場所は酷く懐かしい場所でもあった。

 

周りに建造物は無く、あるのは防波堤と海だけ……こんな殺風景な背景には夕日を背に2人の人影があった。

何やら話し込んでいる様子であり、1人の影がもう一方の影に何かを渡していた。

 

_はい、これを使ってみて。きっと貴方の願いの手助けになるはずだから……

 

 

あぁ……思い出した……。ここは、僕が本当の意味で生まれた場所と……

 

「……貴方が生まれた日でもありますよね 」

 

何となくの気配だが、誰かがいるような気がした僕は、その人に語りかけるように喋る。

同時に景色が壊れ、ガラスのように散っていくと、元の暗闇の世界に戻り、背後に黒鎧の人が立っていた。

顔は分からないが、ハッキリ分かる。あの人は……優海さんだ。

 

「いつまでそうしているつもりですか……? 」

 

「……俺がいなくなるまでだよ 」

 

力無い声で返した言葉は、悲壮感満載の言葉であった。

 

「貴方の帰りを待っている人が沢山いるんですよ? 」

 

「……分かっているさ 」

 

「じゃあどうして」

 

「そんな人達だからこそだよ……!」

 

画面越しの反響した声が体全体に響かせ、思わず固唾を呑んでしまい、圧倒された。

 

「俺は……俺はセイレーンで、操られたからって皆に危害を加えたんだ……怖いんだ……また皆を傷つけて、離れて……1人になるのが…嫌なんだ…!」

 

「………」

 

「だからもう……居なくなった方が良いんだ!皆にこれ以上傷つけないように!だから…!」

 

…そうか、やっぱりこの人は自分よりも皆の事を……だから僕もこうして……

 

「……やっぱり貴方は優しい人だ。自分よりも他人を優先し、いつも誰かの為に行動している。だからこそ僕は今までこうして生きていられたんですね 」

 

「っ…」

 

仮面で表情が読めないが、明らかに図星をつかれたかのように動揺していた。

 

「やっぱり、貴方のおかげだったんですね。メンタルキューブを介して僕の意識を全面に移行させ、この体を使わせたんですよね? 」

 

この場合、例えるなら二重人格と言えば良いだろう。

この体はセイレーンによって作られ、元々は僕の体だ。でも、僕はある日、ある人によって別のメンタルキューブを貰い、ある願いを込めて使った。

そうして貰ったメンタルキューブで生まれた意思が…優海さんだ。

あの時から、一つの体に2つの意識が生まれ、その時から意識は優海の方に移された。

 

でも、それは僕自身の願いでもあった。僕の込めた願いは『心が欲しかった』事。兵器として生まれ、使わされ、生きているという実感が欲しかった僕はそう願った。結果、優しくてとてもいい人に育ってくれて、良かったと思っている。

 

だからもう……

 

「だから……返します。もうこの体は……貴方の物だから……」

 

「何を言って……この体はお前ので、俺は後から……」

 

「分かってます。でも、貴方は僕でもあるんです。だから良いんです 」

 

そう、この人は僕。言わば鏡のような存在だ。僕から生まれ、僕の願いを胸に生きてきた彼は、鏡写しのような存在だった。不思議な事に、見ていて悪い気はしなかったし、寧ろ喜びを感じていた。一緒に追体験が出来たお陰なのだろうか?まぁ、今となってはもう遅いかな…?

 

「だから貴方は、皆さんの元に帰るべきだ 」

 

「……でも俺はセイレーンで 」

 

「違うっ!!」

 

優海さんは肩を跳ね上がらせ、仮面の下で恐らくびっくりしたような顔をしているのだろう。

こう言うのは分かっていた、だから伝えるんだ、分からせるんだ。貴方は貴方だって事を…!

 

「良いですか!よく聞いてください!貴方は優しくて!」

 

僕の叫びが鎧を壊すかのように、優海さんを纏った黒の鎧の篭手に亀裂が走る。

 

「他人の為に行動出来て!」

 

亀裂は肩まで走る。

 

「たった1人にこの世に生まれた命ある人の!」

 

肩まで走った亀裂は上半身、下半身の鎧まで走る。

 

「天城の息子、天城優海ですっ!」

 

黒鎧がガラスのように砕け散り、ついに優海さんの姿は顕になった。

それ同時に、僕の姿も変わっ…いや、元に戻った。髪と肌は白くなり、自分の目は見えないけど多分黄色くなっている。……元のセイレーンの姿に戻って行った。それは優海さんの驚いた顔を見て分かった。

 

「こんな俺でも…生きていいのかな……」

 

「はい、良いんです 」

 

「でもお前は…… 」

 

優海さんが何かを言おうとした時、地面が揺れた。ここは言わば僕の心の中の筈なのに、地震はおかしい。

もしかしたら…もう限界なのかもしれない。

 

優海さんの中には3つのメンタルキューブがある。1つは僕、セイレーンのキューブ、もう一つはあの人に渡されたメンタルキューブ、そして最後に、オロチさんに使われていたブラックキューブだ。

それぞれ独自の性質を持つキューブがこれ程あり、それぞれ強大な力がある。それが一つの体にあるのだから性質が喧嘩して暴走するリスクもあれば、下手をすれば自我が崩壊する恐れもある。

多分この揺れはそのリスクが近づきつつあるという警告だ。急がなねば取り返しのつかない事になる。

 

「もう時間がありません。早く行ってください 」

 

「行くって……お前も一緒に 」

 

「それは……ダメなんです。この先、もう僕は存在する事はできません 」

 

「何でだよ!?」

 

「そもそも奇跡なんです。セイレーンのキューブと、KAN-SENのようなメンタルキューブが同時に存在するにも関わらず、自我が崩壊しないことが。普通なら違う性質同士が喧嘩して、そのまま暴走なんて有り得るのに……」

 

事情を話した隙に揺れがどんどん大きくなった。このままではどちらとも共倒れは確実だ。説得する時間は無い……こうなったら強硬手段だ。

 

「っ……お願い!」

 

僕は艤装をそのまま優海さんに突撃させ、この場から優海さんを離れるようにした。

突然の事で抵抗出来ず、艤装によって押し上げられてこの場から離れていった。

 

「ちょ……何するんだ!お前も一緒に…! 」

 

「いえ…もう、充分に堪能しました! 」

 

「え……? 」

 

「たった数十日だけでしたけど……こうして人として生きるのは嬉しかった……僕にとって宝物のような日々でした 」

 

もう声が届かない距離まで離れていき、今何か言っても届きはしないだろうが、せめてこれだけは言いたい。ケジメの為にも、優海さんの為にも……

 

「僕に『生きる』をくれてありがとう……!だから、貴方も生きてください!KAN-SEN達と……皆と一緒に!」

 

見送るように手を大きく振り、笑顔で最後を締めくくる。そして、時間がやってきた。

徐々に体が粒子となり、とうとう僕の意識は消える。でも不思議と恐怖はない。

まさか兵器として生まれた僕がこんなふうに終わるなんて……人生って分からない物だ。

 

「さようなら……僕の……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マーレの剣が綾波の首の皮に触れようとしたその時、マーレの背後に衝撃が生まれた。衝撃は海中から発生し、辺りの海水は打ち上げられた。

 

「何っ!? 」

 

予想外の事に戸惑いを隠せないマーレは綾波に対する攻撃を止め、背後を警戒する。

 

「はぁぁぁ!!」

 

突然の叫び声と共に、打ち上げられた海の中から1人の男が白の大剣を構えてマーレに迫っていた。今この状況で、しかも海水から現れる事が出来る男と言えば一人しかいなかった。

 

「こいつは……! 」

 

マーレが男の名前を言うより先に、男はマーレ目掛けて大剣を振り下ろした。大剣と剣が激しくぶつかり合う鈍い金属音が鳴り響き、激しい鍔迫り合いなのか剣同士の間に火花が発生していた。

しかし流石に大剣の質量には敵わないのか、マーレはわざと体勢を崩して鍔迫り合いを止め、跳躍して男から距離を置いた。

 

先程の鍔迫り合いを間近に見た綾波は意識を持ち直し、男の姿を見て息を呑んだ。

 

「あっ……あぁ……! 」

 

男の姿を見て綾波は無意識に涙を流していた。その涙は悲しみから生まれた涙では無く、喜びや歓喜から生まれた涙だった。

 

「ごめん、遅くなったね 」

 

帰りが遅い事を謝るように言いながら、男は申し訳ないように小さく笑った。

その後笑顔は消え、マーレに対して厳しい目付きを送った。

 

「ようやく起きたか……優海 」

 

「ええ。アイツのおかげでね……」

 

託された想いを胸に目覚めた優海は大剣の剣先をマーレに向けた。

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