もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
どこか遠い懐かしい記憶。俺はまだ幼く、背伸びをしようと一人称を変えたり、少しカッコつけていたあの時、少しだけ江風さんと過ごした時間があった。
きっかけは至って普通、日課となっていた高雄さんとの修練の帰り道、川沿いでたまたま江風さんと会ったからだ。
いつもは長門の所にいるから珍しく思い、つい声をかけたのが事の始まりだ。
_何してるんですか?
_釣りだ
3文字で答えが返ってきたよ……相変わらず距離が遠いというか、間に壁があると言うか……
このような堅い性格だからか、陸奥はかなり苦手意識があった。
『何考えているか分からない!つまらない!』って言ってたっけ。
_それで何の用だ
_あ……いや、いつもは長門の所にいるから珍しいなって……
_……そうか
……話が続かない。まずいな、かなり気まずい。特に話す事も無いからこの場で別れるのも良いが、それではなんだか江風さんに申し訳ないし……むむむ……
何を話せばいいかも分からず、俺は無意識に江風さんの隣に座って頭を悩ませた。
_おい、何故隣に座るんだ?
_え?あ、いや……折角会えたんだから何か話そうかなと……
_と言うが、お前と私には接点が無い。話す事なんて無いだろ。
それを言われるとそうなるけど……何か話せる話題は無いかと探すと、ふと江風さんの腰にかけてる刀が目に入った。
_……江風さんも刀を使うんですね
_まぁな。それがどうした
_ついさっき、日課で高雄さんと鍛錬はしてたんですよ。それで高雄さんが『拙者以外の輩とも鍛錬しとおくと良い』って思い出して……
もう1年ぐらいかな……毎日高雄さんの所に行って鍛錬するのが日課となっている。高雄さんから体術や刀の指南を教えて貰ったり、たまに愛宕さんからも教えて貰ったりする。
江風さんも刀を使うなら、言われた通り一戦交えたいとは思うけど……
_それでなんだ、私と一戦刀を交えたいとでも?
_ええっ!?なんで分かったんですか!?
そんなに分かりやすかったのか、江風さんは僕の考えをピシャリと当てた。
しかし、当の本人は嬉しそうでも無ければ、興味が無いように釣りを再開した。
_お前は分かりやすいからな……それに刀を交える気など無い。お前では相手にならん
_なっ……!言いましたね〜!?
_うるさいぞ、魚が逃げるだろう
いや流石にこれは俺でも怒る。やった事あるならまだしも戦った事も無い相手にそんなこと言うのは些か失礼じゃないのだろうか。
しかし釣りの邪魔をしてはならないのでここでじたばた暴れるのは一旦抑える。そのせいかなんだか体の内側が燻り、まるで中々燃えない紙があるようだった。
_むぅ……じゃあどうしたら手合わせしてくれますか?
_そうだな……
すると浮き餌が水面に沈み、魚が餌に食いついたようだった。喋りながらも江風さんはその隙を見逃さず、そのまま一瞬で竿を引き、見事に魚を釣り上げた。
_お前が私の敵になった時だな
_……それって絶対相手にしないって事じゃないですか!
理由は簡単。俺が江風さんの敵になんて絶対ならないし、なりたくないからだ。江風さんはそれを分かっているからそういったのだ。
遠回しに戦う気が無いと言われたら、男のプライドが黙っちゃないない。
_むむむ……じゃあ江風さんから手合わせしたいと思えるような人になりますからね!
_ふっ……その時は手加減しないからな
_はい!約束ですよ!
「まさか、お前とこうして刀を交える日が来るとはな…… 」
「なんだ、覚えていたんですか?」
「そっちもな 」
江風さんを見たせいなのか、随分と昔の思い出を思い出してしまう。
てっきり忘れているかなと思ったけど、江風さんも忘れていないって知ると、なんだか変に嬉しい気分になる。
でも今はそんな気分に浸っている場合じゃ無い。今でも江風さんは刃のような目で俺を見詰め、思い出話をしても構えを解かなかった。
「まさかお前が敵になるとはな 」
「俺は敵になった覚えなんて…… 」
「私にとっては敵だ 」
有無を言わさない答えが返り、もはや話なんて聞いてくれそうには無い様子だ。
でもここまで来て引き下がれば長門を起こす事なんて出来ない。
江風さんとの戦闘は避けては通れない道だと悟り、呼吸を整えて右足を1歩だす。
同時に刀を手に出現させ、俺も刀を構える。
「……行くぞ 」
「……っ! 」
艤装を装備しているのも関わらず、主砲や魚雷等の牽制攻撃をせず、江風さんは真っ直ぐこちらに向かってきた。
戦法とかそういうのでは無く、多分最後まで艤装は使わず、約束の為にあくまでも刀のみで戦うつもりなのだろう。
振り下ろした刀を刀で受け止め、何とか初撃は防御出来た。
こう言っては何だが、高雄さんほど刀に重みが無く、受け止めるだけなら何とかなりそうだ。だがやはりそう簡単にはやらせてはくれない。
江風さんは防御されるのと同時にすぐ様次の攻撃に移り、止まらない連撃を繰り出してきた。駆逐艦だからなのか動きが早く、まるで滑らかに流れる川のような身のこなしだった。
刀がまるで鞭のように次々と色んな方向から飛ぶように錯覚し、防ぐのも限界ギリギリであり、一度後退して体勢を整えようにも攻撃が激しすぎて下がれない。
「どうした!そんなものなのか! 」
「ぐっ……攻撃が速すぎて見えない……! 」
やがて甘えで一瞬防御が疎かになってしまい、体勢を崩してしまった。江風さんはその隙を見逃さず、そのまま刀を
何とかギリギリの所で顔を左に逸らし、突きを回避したが、頬が掠ってしまい、頬に横一線の傷が生まれた。
(少し遅ければ……俺どうなってた……?でも今のって…… )
死が隣り合わせの恐怖に背筋を凍らせれるものの、体制を立て直すチャンスが生まれた。
江風さんの腕を左手で掴み、そのまま投げ技で江風さんを投げ飛ばす。
江風さんは見事な動きで受け身を取り、俺は右頬に流れる血液の感覚が気にならないように左の服袖でぬぐい去る。白い着物の振袖が少し赤く汚れてしまい、血の汚れで俺は1つ確信を得た。
江風さんは……本気で俺を倒そうとしてる。
抜き身の刀のように鋭く、見つめたら刃で傷つかれそうな目はまさに俺を敵として見てる目だ。
さっきの突きだって俺が避けなかったら間違いなく死んでいた。
恐怖と緊張が混じった冷たい汗が額から頬へと流れ、ぬぐい去る余裕も無いし、それを意識する暇だってない。
そんな素振りなんてしたら、江風さんは一気に距離を詰めてくる。
一瞬でも気が緩めない状況に息が詰まりそうだ、何とかして江風さんを突破しないと……
「……お前、私を倒さないで先を進もうとは考えてないよな 」
「うっ…… 」
考えを読まれ、江風さんはそんな俺の態度を見て苛立ちを顔に出した。
見たことない険しい表情に怯んでしまい、思わず左足を一歩下がってしまう。
「戦場でそんな甘い考えは捨てろ!そんな物は邪魔にしかならないぞっ! 」
またもや一直線にこちらに近づき、鞭のような連撃を繰り出して来る。
この戦い……間違いなく俺に勝ち目は無い。理由は単純、相手は殺す気で俺は倒す気なんて無いからだ。
こんな中途半端な気持ちで江風さんに勝てる確率なんて……間違いなくゼロに近い。
でも正気はある。
一度だけ、一瞬だが江風さんが手を抜いた攻撃があった。
もしも俺の考えてる事が合ってるなら……戦わずして勝てるかもしれない……
「考え事をしてる暇があるのか! 」
大振りの一撃を刀で受け止めるものの、衝撃をいなす事が出来なかったっ為、体勢が崩れ、無防備な状態になってしまった。
「しまっ…… 」
防御なんて出来ない、死を悟ったその時、江風さんは前髪で目を隠しながら俺の左肩を刀で刺した。
「がっ……!! 」
刀の冷たさと痛みの熱さが左肩に襲いかかり、目を見開いて右手に持ってる刀を離しそうになるが、柄が潰れるくらい力を込め、歯を食いしばりながら江風さんから距離をとる。
左肩から流れた血が服を赤く染め、海へと滴り赤く汚していき、激痛の中で何か違和感を感じていた。
(……これってやっぱり )
激痛の中で何とか立ち上がり、ある考えを導き出した俺は、この戦いに勝機を見出していた。
この人……やっぱり……
「次は仕留める…… 」
刃に付いた血をぬぐい去る事はせず、刀の振りだけで全ての血を払った江風さんは、決着をつけるかのように接近する。
先程の止まらない斬撃とは対照的に、今度は刀を両手で持ち、一撃が重い斬撃へと変わった。
左肩を失った俺にそれを受け止める術は無い。何とかして攻撃を受け流すしか無いが、肩を貫かれたせいで肩に力が抜かれ、体の重心がどうしても左にずれてしまう。
手数よりも威力重視の攻撃を行った事により、攻撃が避けやすく思えた俺は、防御よりも回避を優先する。
思った通り攻撃が避けやすくなっており、勝機を見失わいですんだ。
だがそれもつかの間だった。後ろに下がりつつ江風さんの攻撃を避けていくのは良かったが、いつの間にか壁際まで追い込まれ、逃げ場を失ってしまう。
「あっ…… 」
「終わりだ……! 」
死が近づいてるせいか、刀の尖端がスローモーションのようにゆっくりと近づいていた。勿論本当は目にも止まらない速さの突きなのだろう。
瞬きすらもゆっくりになり、もはやこれまで……とは思っていない。何故なら、今のこの人ならこの攻撃は必ず外す。
俺は微動だにせずその場に佇んだのにも関わらず、江風さんはわざとらしく俺の顔を避け、岩肌の壁に刀を突き刺した。
江風さんも次の動作はせず、俺の目の前でじっとしていた。
「……何故避けなかった 」
「外すって分かっていたから 」
最初に違和感を感じたのはあの時の突きだ。あの時江風さんは、わざとらしく刀の尖端を右に傾かせていたのだ。だから俺は咄嗟に左に顔を動かして避けれた。
これは江風さんのミスかなと思ったが、確信したのは俺の左腕を貫いた時だ。
江風さんなら間違いなくあの時俺を仕留めていた筈なのに、それをしなかった。
だから思った。江風さんは……僕を倒す気なんて無い。俺が引くのを待っていたんだ。
「……甘い事を考えてるなら大間違いだ。この刀を振ればお前の首なぞ飛ぶぞ 」
確かに刀は首の皮一枚の間合いで俺の右隣に存在してる。江風さんが力強く刀を振れば俺の首なんて体から離れてしまう。
だがいくら待っても刀は動かず、江風さんの手の震えに合わせて震えていた。
「……何故お前は神子様を起こそうとする。あの木に眠り、民を導く事が神子様の意思だ。それなのに……何故だ 」
目を合わせずに江風さんはそんな事を聞いてきた。
たしかにこれは長門の意思に反する行動だ。
ここに来た時に立ち去れとか言われたぐらいだ。きっと快く思っていない。
皆を安心させ、良い方向に導くのはとてもいい事だ。でもだからって一人を犠牲にするなんて俺はごめんだ。
でもそれは俺のエゴだ。分かっている……
これはただの押し付けだって事は、俺自身が1番よく分かっている。でも、それでも伝えたい事がある。
あの時、あの夜言った長門の問いを……俺はまだ答えてないのだから。
「……伝えたい事があるんです。でもそれ以前に……友達だから 」
「……! 」
江風さんはハッとしたような顔でようやく目を合わせてくれた。そのまま突き刺さった刀を抜き、静かに鞘に刀を納めた。
そしてどこから桜の花びらを俺の左肩乗せると、またもや俺の傷を治した。
左肩が貫かれていた事が無かったかのように傷口と痛みが無くなり、問題無く動かせるようになっていた。
「私の負けだ……ついてこい。神子様に会わせてやる 」
「え?あ……はい! 」
とにかく……許された……というか負けを認めたのか?何故だか分からないが、江風さんが戦闘をやめて長門の所に連れて行ってくれるらしい。
願ってもないこの状況に流されながらも、俺は江風さんについて行く。
「……神子様はあまり笑わない方だった 」
「え? 」
海の道を進み続け、変わらない桜の景色が続く中で、ふと江風さんは話を振ってきた。
言われてみれば確かに長門はあまり笑わない子だった。一緒に遊んだ時だって、いつも笑ってはしゃいでいたのは俺と陸奥ぐらいだ。
長門はそれをただ見つめている事が多かった。
でも、日記を渡した時は違っていた。目を輝かかせ、次のページをドキドキしながら丁寧にめくるのをいつもしていた。
そんな、ただ一般的で当たり前の『普通』に憧れていた。
「あの子は言わば飾りだ。上層部にまるで人形のように扱われ、神子などと言っているが実際には民主の信仰を集めるだけのただの偶像にすぎない。最早笑い方を忘れたその時に現れたのは……優海、お前だ 」
そうか……無理してたんだ……ずっと。自分の立場を、威厳を、保つ為にずっと……例えそれが酷い人達の命令であっても、全部重桜の皆の為に……
「お前がいつからかコソコソと神子様に会い、少しづつだが変わられていった。勿論良い意味でな 」
「そんな自覚なんて無いんですけどね……って、ん?」
コソコソと会ってた……?確かに誰にも知られないように会ってはいたのだがどうして江風さんがその事を知っているんだ?
江風さんにバレないようにしていたのに…………長門や陸奥が言いふらした点は無い。なぜなら彼女達も江風さんには内緒だと言っていたのだから。という事は……
「まさか……昔から僕が屋敷に忍び込んでいたのも……
」
「バレバレだ。私の目からは逃げられないからな 」
「えぇ〜……言ってくれれば良かったのに〜言えば誘ったのに…… 」
昔から屋敷に入る度、江風さんに見つからないように緊張していたのに……これでは損した様な気持ちになり、バレていたなら言って欲しかった。
そうすれば江風さんも一緒に遊ぶ……というか交流を深めたのに。
それを聞いた江風さんは少し暗い顔を浮かばせていた。
「私にそんな資格は無い。神子様の護衛と言うが、実際には監視だ。護衛と欺き、ただ見てる事しか出来なかった私がそのような資格がある訳が無い」
それを引け目に思ってなのか、心無しに江風さんの歩く速度が少し遅くなった。
足に重りがあるかのように踏み込みが小さくゆっくりになり、いつしか会いたくないと思っているのか、江風さんは立ち止まってしまった。
「私が神子様に会う資格なんて無い……ここから先はお前一人で行け。このまま真っ直ぐ行けば『重桜』にたどり着く 」
江風さんは顔を俯かさせ、真っ直ぐの道に指を指した。指を指した方向に顔を向けると、向こうに聳え立つ神木『重桜』が圧倒的な存在感を出しながらそびえ立っていた。
桜の枝が島まで覆い尽くしていたので、かなりの大きさかなと思えたが、実際にはそうでは無かった。
木の幹は普通の木よりは大きい方だが、やはり桜の花びらの数と枝の大きさと数が異常な程多い。
あの中に長門がいると思うと、いてもたっても居られないが、立ち尽くす江風さんを放っておけなかった。
「ほら、何してるんですか。早く行きましょう 」
江風さんの手首を握り、無理やりにでも一緒に行かせようとするが、江風さんは手を振り払おうとし、その場から動かずにいた。
しかし、今の俺には艤装もある。昔だったら簡単に振りほどかれたと思うけど、今は違う。
江風さんは手を振り払う事は出来ず、ずっと俺に手首を握られたままになった。
「は……離せ!もう私があの子に会う資格なんか…… 」
「誰かと会うのに資格なんていりませんよ。それに、ずっと一緒にいたんでしょ?居なくなったらきっと寂しがりますよ 」
ようやく諦めがついたのか江風さんは抵抗を止め、息をひとつ小さくはいた。
「分かった……分かったから早くその手を離してくれ 」
やれやれと思いながらも思わず小さく笑い、そのまま手を離したが、江風さんは先行して歩いてくれた。
「……着いたぞ 」
いよいよ着いた神木『重桜』。吸い込まれるような美しい桃色の桜が辺り一面に咲き誇り、そびえ立つ大樹の幹には、水晶に封じ込められた長門が眠っているようにそこにいた。
「……長門! 」
ようやく会えた長門の元に近づき、水晶に手を触れようとしたその時、ある幼い声の女性が呼び止めるように俺の名前を呼んだ。
「……優海君? 」
聞いた事ある声に振り返ると、そこには待っていたかのように現れた少女『陸奥』がいた。
昨日会ったのにも関わらず、まるで久しぶに会えたかのような表情を浮かべていた。
恐らくさっきの言葉は、記憶が戻ったのかという問いかけの意味も含まれているのだろう。
不安そうな顔をした陸奥に小さな笑顔を振りまき、小さく頷いた。
言葉を言わずとも意思が伝わったのか、陸奥はそのまま真っ直ぐ俺の所に走って来た。
そのまま俺の体に飛び込み、俺の服の裾をギュッと握りしめていた。
「良かった……昔の優海君だ!帰ってきたんだね…! 」
漏れ出る涙で服が少し濡れ、泣き止ませるように優しく頭を撫でる。
KAN-SENは身体的な成長をしないため、陸奥とはもうすっかり背丈が離れてしまった。
俺は元々セイレーンで、少々特殊に造られた事によって、人間と同じように成長は出来たが、KAN-SENにはそれが無い。
なんだか俺だけ変わってしまったようで寂しい気持ちになりながらも、泣き止ませるようにした。そのかいがあったのか、腰にしがみついていた陸奥の体が離れ、陸奥は着物の袖で涙を拭き、泣くのを止めてくれた。
「グスっ…ごめん、もう大丈夫…… 」
「心配かけたね…… 」
「ううん、戻ってきてくれただけでも嬉しいから……ここに来たって事は…… 」
「うん、長門を……起こしに来たんだ 」
水晶に閉じ込められている長門に近づく為、【重桜】まで足を踏み入れる。
入ってはいけないと言っているかのような紙でできている柵をくぐり抜け、いよいよ長門の目の前にたどり着いた。
長門顔がどこか苦しそうにしており、痛みに耐えるかのように眉をひそめていた。
「長門……! 」
心配で思わず水晶に触れようと右手を出すと、水晶に触れた瞬間、まるで拒むかのように電流が流れた。
「痛っ……! 」
体の外側だけではなく、内側まで侵食するような痛みに思わず手を離してしまう。痛みで体がよろめきながらももう一度触れようとする。
だがしかし、またもや拒むような電流が流れ、またしても手を離してしまう。
想像絶する痛みのせいか、一瞬だが意識を失いかけてしまう。
「っ……もう一度…! 」
「無茶だよ優海君! 」
「流石のお前でも無理だ! 」
「でもこのままじゃ! 」
陸奥と江風さんに止められてしまうものの何とかして跳ね除けようと強引に歩くものの、やはりKAN-SENなのか、そのまませき止められてしまう。
丁度その時だった、一つの光が重桜の枝を数本消し炭し、桜の花びらが燃え盛った。
「何!?どこから!? 」
あまりの展開に陸奥は混乱し、どこから光が来たのか探し回るかのように首を振った。
「これは……まさか 」
あのビームは間違いない……来たんだ、マーレさんが。
_同時刻 重桜 聖域
ロドンさんは予定通り【黒箱】を手に入れてくれた。これでここでの目的は6割程達成した。あとは【重桜】にある【ワタツミ】を奪うだけだ。
そしてその【ワタツミ】は長門の封印に用いられている……重桜を焼くか長門をどうにかするかで【ワタツミ】が手に入れられると思うが……
「これ以上【重桜】を傷つけさせません! 」
やはり【重桜】を攻撃したせいかKAN-SEN達から反感を買ってしまった。
まぁ、この程度の相手ならどうとでもなるが……そろそろ天城達の艦隊がこちらに到着する筈だ。
こちらの艤装稼働時間もそろそろ限界に近い……これはこれでキツイな。
一応念の為、ロドンさんが近場にはいるにいるが、あの人には別の事をやらせている。
他の先代達も同じで、援護を受けられる事はほぼ無いと言ってもいい。
「だから少々荒事にするぞ 」
左右の艤装を切り離し、それぞれ【重桜】に向けて攻撃を開始する。
ビームと艦載機の爆撃よって重桜の枝はちぎられ、桜も引火して燃え盛り始めた。
「しまった【重桜】がっ! 」
俺の艤装を撃ち落とすべく、KAN-SEN達は艤装に気を取られ、俺の接近に気が付かなかった。
まずは近場にいた鬼怒の艤装を剣で抉るように突き刺す。
「しまっ… 」
艤装はKAN-SEN達そのもの……命といっても過言ではない。それが剣で突き刺されているのだから痛みはかなりのものだ。
鬼怒は激痛で刀を落とし、戦意が失い始めた。
トドメを刺すように剣を振り下ろし、鬼怒の艤装は半壊し、そのまま倒れていった。
「鬼怒! 」
「よそ見してる暇があるのか? 」
仲間思いなのか、龍鳳は倒れた鬼怒に寄り添った……俺が目の前にいるのにも関わらず、そのままゼロ距離に近い間合いでビーム砲を突き出し、そのまま龍鳳に向けて放った。
直前に龍鳳は艦載機を壁代わりとして発艦させ、更には鬼怒を庇ったので直撃は免れたがかなりのダメージを負った。これであいつは戦闘不能だ。気にかける必要は無い。
「さぁどうする、早くしないとお前らの大事な【重桜】が燃えるゴミになるぞ! 」
「そうはさせぬ…… 」
突然寝起きのような気だるい声ながらも、油断ならない声が響くように聞こえた。
その声と同時に目の前に青い蝶が飛んできた。
すると蝶が突然煌びやかに爆発を起こし目をくらませ、その隙をつくかのように艦載機が突然上空から攻撃を行った。
分離していた艤装の艦載機使い、迎撃機で何とか艦載機を破壊する。
「……誰だ 」
気配が全く感じられなかった……いつからそこにいたのか分からなかった程にだ。
俺の声が届いたのか、ようやく攻撃してきた奴が姿を表した。
髪は銀色でかなり長く、重桜のKAN-SENらしい狐耳とかなりでかい尻尾がいくつかある。
月齢をモチーフとしているのか、アイツの周りには三日月から満月の月が5つ浮遊している。
青い着物はわざと着崩しているのか、それともそのかなり豊満な胸のせいでま収まらないのか、胸部分がかなり露出している。
……重桜の奴らはこんな奴ばかりなのか?こう言っては何だが目のやり場に困るには困る。
まぁそんなことどうでもいい。アイツは……俺の考えが確かなら……
「お前は…… 」
「妾は……信濃、大和型三番艦……信濃 」
_同時刻 【重桜】
「あぁ!また重桜が! 」
数々の攻撃を受けた重桜は枝が折られ、どんどん桜を散らしていった。
重桜が傷つけられたせいか、長門の苦しそうな顔が更に悪くなった。このままでは長門もどうなるか分からない。
長門を【重桜】から目覚めさせる方法が今に考えつかない以上、俺がマーレさんと戦おうかと考えたその時だった。
「優海、神子様の事は任せるぞ 」
「なっ……それなら俺も一緒に……」
「優海君は長門姉をお願いね 」
「陸奥まで!? 」
てっきり江風さんだけだと思ったが、まさかの陸奥までマーレさんと戦うと言い出してきた。
それなら俺も行こうと口を出すも、江風さんの目が鋭くこちらを見つめた。
「今神子様をあの木から救えるのはお前だけだ。……分かるだろう 」
「でも…… 」
「大丈夫だよ!だって私、ビッグセブンなんだよ! 」
それでもマーレさんはかなり強い。アズールレーンの一艦隊……いや数艦隊を1人で軽々と殲滅できる程の力を持っている。信用していない訳では無いのだが、マーレさんにやられる姿を想像すると、背筋がおぞましい寒気が走り、惨劇で少しの吐き気がする。
そんな恐怖の表示を見たせいなのか、江風さんは俺の右肩を優しく叩いた。
「頼んだぞ」
初めて見せた江風さんの笑顔に驚いたせいか、それともそんな言葉を聞いた言葉に驚いたのか、いずれにしても、俺はそのまま江風さんと陸奥をただ黙って見送った。
今からまだ一緒に行ける。だがそれをすれば江風さんを裏切る事になると思い、長門の方に顔を向けた。
再度【重桜】に近づき、水晶には触れずにじっと長門を見つめる。【重桜】を傷つけられたせいか、まるで悪夢でも見ているかのように苦しそうな顔をしていた。
「長門……聞こえているか分からないけど、昨日の夜に言った事……答えるよ 」
昨日の俺……つまりは【コネクター】だったのだが、しっかりと俺にも聞こえていた。
_もし余が果てしなく遠い所に行こうとしたら、お主はどうする?
あの時俺は意識だけの存在で答えられなかったけど……今なら答えられる。
「遠い所に行っても……俺が連れ戻す!手を伸ばして……長門の手を掴んで連れ戻すよ! 」
もう一度水晶に手を伸ばし、長門の手を掴もうとするも、電流が流れ押し返されてしまう。
今度は水晶を壊すまいと拳を握り、水晶に懇親の一撃をぶつける。
威力と比例するかのように電流も威力も増し、今まで1番痛い思いをする。
それでも歯を食いしばり、何度でも何度でも何度でも水晶を壊すまで殴り続ける。
長門の手を取る一心のせいか、痛みも感じなくなり、水晶も限界が近づくかのように少しずつ亀裂が走った。
「また遠くに行っても何度でも連れ戻す!手を伸ばして、届くまで君の所まで行くよ!だから……だから手を伸ばしてくれ!長門っ!! 」
もう何度水晶を殴ったか分からない。手から血が流れ、意識が朦朧として来た。
そんな時、何発目かも分からない拳を水晶に当たり、水晶全体に亀裂が巡った刹那の時……水晶は粉々砕け散った。
そして、俺の意識も砕け散るように失っていった……
____
______
余は人とは触れ合わない。神子の神格を損ねるがゆえに。
余は笑わない。威厳を保たねばならぬがゆえに。
余は笑えない。笑い方を忘れたがゆえに。
余は求めない。求めてもそれは決して届かないゆえに。
「今のは誰の声?って……あれ、ここは……長門の屋敷?」
どこかで聞いた事あるかのような声を聞いたと思ったら、幼き頃、長門と出会った場所に俺はいた。さっきまで【重桜】にいたのにも関わらず、何故ここに来たのか理解が追いつけずにいた。
手の傷も無くなっており、先程までの疲労感や痛覚がまるで無い。
「え……と……これまさか俺……死んじゃった……? 」
死んだのとは思い、焦り始めたその時、屋敷から何やら女性の泣き声が聞こえた。
誰にも聞かれないように小さく、静かに泣いていた声に俺は気になり初めて、長門の屋敷へと足を踏み入れる。
足を踏み入れたその瞬間だった。まるで景色が引き伸ばされ、自分が超高速で動いているかのような感覚に陥り、いつの間にか屋敷の廊下から、どこかの個室へと移動していた。
部屋は広く、奥で長門が俯いており、周りには黒い影のような人が長門の周りを囲んでいた。
_神子様……神子様……どうか我らにめぐみを……
_長門様……長門様や……
_お前は私たちの言う事を聞いておれば良い。この世で信じられるのは【ソウゾウシュ】のみ……
黒い影達の言葉を聞いた長門はそのまま耳を塞いで縮こまってしまった。同時に影達が消え、俺はすぐさま長門の元に駆け寄った。
「長門!」
心配でうずくまった長門の肩を抱こうとしたその時だった。急に長門が俺の手を跳ね除け、俺から離れてしまった。
「長門……? 」
声をかけるものの反応が無く、長門は顔を俯かせたままだった。
少し待つとようやく長門がゆっくりと顔を上げ、顔が見えようとしたその時、俺の目に映ったのは長門の顔ではなく、白いキツネの面を被った姿だった。
「ヨハ……ナガト……ジュウオウノナガト…… 」
まるで機械のように言わされているかん満載の言葉を延々と発しており、まるで人形のような動きで長門は静かに奥へと正座した。
あれは本当に長門なのかと疑ったが、仮面から篭ってる声、長い長髪に体格からして間違いなく長門だ。
そのはずなのに不気味さが波のように押し寄せ、長門では無い頭が勝手に決めつけてしまいそうになる。
「長門……?返事をしてくれ!長門なんだろ!? 」
「ヨハ……ナガト……ジュウオウノナガト…… 」
何を言っても同じ言葉を繰り返す様子で、まるで本当に人形のような感じだった。
言葉に意思も感じられず、操られていると考えた俺は長門の周りを見た。
注意深く見ると、長門の背後に何やらモヤがかかったように空間が少し歪んでいた。明らかに何かありますよと言っているようなものだ。
モヤは人のような形をしており、長門の背後にずっといた。隠れることもせず、まるで長門の事を操るように手を広げていた。
あいつのせいで長門の様子がおかしいのか……?
「おい!そこにいるのは誰だ!姿を見せろ! 」
人の形をしているのであれば、あそこには誰かがいるとふんだ俺は、姿を見せるように言った。
しかし反応は無く、静寂が響くだけであった。
埒が明かないの踏んだ俺は何かぶつけるものは無いかと探したがそんなものは存在しない。
「そりゃあるわけないか……よし、出せるか分からないけど…… 」
一か八か武器を呼び出そうと力を込めると、奇跡的に武器が俺の手の元に来てくれた。
「おお!?出てくれた! 」
武器が出せるとは半ば思っておらず、驚きはしたが使えるならありがたい。
予め二丁拳銃を呼び出すように念じたおかげが、武器は大剣では無く、最初から二丁拳銃の状態で来てくれた。
二丁の銃口をモヤがかかっている所に狙いを定める。
標的がまだ捉えられないのでどこが頭でどこが腕なのかは分からないし、そもそも当たるかどうか分からない。
それでもまずは行動だ。銃の引き金を引き、銃口から二つのビームが真っ直ぐモヤへと向かっていった。
ビームはモヤに当たったのか、途中で消滅してしまった。
当たったおかげなのかモヤは徐々に黒い影へと変わり、ようやく視認出来る形になった。
影はビームに当たったせいか苦しむように頭を抱え、蠢いていた。
「オオオオオオ…… 」
まるで色んな人の叫びが入り交じったような不気味の声が部屋を震わせた。
反撃が来るかと構えたが、影は長門の後ろへと隠れ、怯えているような様子が伺えた。
「何やってるんだ……?あれは……」
行動も正体も意味不明であり、それ故に不気味さを漂わせている。
さっきまで長門を操るようか素振りをしたのに、今では長門に縋るように後ろで縮こまっていた。
「ナガトサマ……ドウカオタスケヲ……」
あの不気味な声で今度は長門に助けを求めていた。
すると長門は立ち上がり、艤装を展開して俺に主砲を向けていた。
「な……長門……? 」
すると屋敷の空間が歪み、いつの間にか屋敷の部屋から海上へと場所が変化した。
「え……!?嘘でしょ!? 」
何とかギリギリ艤装を展開し、海の底に落ちずに済んだが、俺はこの時長門がこちらに主砲を向けている事を忘れていた。
そんな事はお構い無しと言うように長門は主砲を放った。
拳銃で迎撃は間に合わないと判断し、こちらも主砲で砲弾を撃ち落とす。
砲弾同士がぶつかり合い、何とか迎撃には成功した。
だが、それはまだ序の口だった。砲弾の煙が晴れたその瞬間、長門の周りに無数の青い光を帯びた砲弾が浮いていた。
「ちょ…… 」
恐らくだけどあれ1発1発主砲並の威力を誇り、それが今無数にあるのだから捌けるのは……無理だ。
非情にも長門はその無数の砲弾を全て俺に向けて放った。
防弾の雨……いや嵐とも言える無数の砲弾は俺に襲いかかった。
もしもの話(R-18)を観測しますか?
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Yes
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NO