もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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どうも皆さんお久しぶりです。白だし茶漬けです。
皆さんはアズールレーンで誰からチョコを貰いました?
僕は去年天城さんから貰ったので今回は信濃さんから頂きました。

この小説が感想100件とお気に入り数が500を突破しました!皆さんのご愛読に感謝です!
最近で更新頻度が大変遅いですが、これからもよろしくお願いいたします!



ただいまと言えたこの日

_ねぇねぇ、長門ちゃんはどうしてここにずっといるの?

 

昔からずっと疑問だった。この子はいつもこの大きな屋敷の中にいた。外で出会った事なんて1度も無い。

それどころか、この屋敷から1歩も出てないと彼女は言った。

 

_余はここから出てはいけないと言われているからな

 

_どうして……?

 

_とっても偉い人に言われてな……

 

そう言って長門ちゃんは僕が持ってきた日記をそっと閉じて返した。

 

_今日も読めて楽しかったぞ。今日は少し用があるから、もうそなたは帰ると良い

 

_……何だか凄く寂しい顔をしてる

 

_……

 

小さい頃だったせいか、笑顔なのにそんな寂しそうな雰囲気が凄く疑問に思い、ひどく印象的だった。

彼女は顔を曇らせ、彼女から笑顔が消えた。

 

_寂しいか……そうだな、余はそなたの書いた紙の上だけの世界しか外の世界を知らぬ。実際に目で見た訳も、足を踏み入れた訳でも無い。空想だけの世界と言うのが……寂しいのだろうな

 

あの時の彼女は羨むように窓から外の景色を見ていた。未だに外にも出られず、外への興味と出ることへの渇望に満ちた目は、鳥籠に閉じ込められていた鳥のようだった。

 

_じゃあ!約束するよ!

 

_む?何をだ……

 

_えへへ、僕が大きくなったら…………

 

 

あれ……何だっだっけ……とても大事な所なのに、何故か思い出せずにいた。

約束……何だっけ…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!いっ……たぁ……若干走馬灯のようなものが見えた気がしたぁ……!」

 

長門が放った無数の砲弾の弾幕を捌く事が出来ないと判断した俺は咄嗟に防御に専念するように、二丁の拳銃を巨大な白い大盾へと変形させた。

両手で大盾を構えると、俺の周りに白いバリアがおらを包み込み、それが長門の砲撃から守ってくれた。

 

しかし、さすがビッグセブンの1人と言うべきか、バリアで防御した筈なのにかなりのダメージを受けてしまった。

 

まるで無数の人からタコ殴りされたかのような衝撃と砲弾の火薬の熱で体全体が沸騰仕立てのお湯のように熱い。

正直、あれをもう一度耐えられる自信は無い。

今度は確実に回避しなければ勝ち目は無い。

 

いや、そもそも俺の狙いは長門ではなく、長門の背後にいるあの黒い影だ。

最初に出会った時は、まるで長門の事を操っているような感じだったのだが、今は泣いた子供が親に縋るように長門の後ろに縮こまっていた。

 

「オオオオナガとサマ……アリガタヤ…… 」

 

まるで多くの人が長門を崇拝するような不気味な歓声の声が広がり、不気味さを際立たせるように長門を崇めるように影は手を握っていた。

 

あれはまるで……重桜の民達だ。長門を信仰し、崇める姿なんてまさにそれなのだが、だとすると最初のあの長門を操るような態度の説明がつかない。

 

長門を操れるような存在と言えば……重桜の上層部が当てはまりそうだが……

今の態度でそう判断するのは流石に無理がある。最初の態度であれば説明がつくのだが……

あの影、まるで無数の人格があるように様変わりしている。

 

「ソウダ……ナガト、ォマェはたワレワレノ

イウトオリにスレばイイ…… 」

 

言う通りにすればいい。その言葉が起爆剤になり、俺の怒りが急に込み上げてきた。

 

「そんな訳ないだろ……それが良い訳無いだろっ!! 」

 

怒りでアドレナリンが出たせいか、受けたダメージの痛みが忘れ去るように無くなり、影を睨んだ。

影は怯える事も見下す事もせず、朧気な様子でこちらを見ていた。

 

 

「誰かの言いなりで良いなんて良い訳無いだろっ!」

 

喉を震わせ、千切れるような勢いで俺は叫んだ。怒りを載せ、顔も何もかも分からない影に向かって声を突き上げた。

 

「長門は誰かの道具でも、人形でも無い!お前みたいな奴に縛られる義理なんて無い!」

 

怒りを込めて盾から二丁の拳銃に形を変え、それを連結させて1つの長銃へと切り替える。

影の額に狙いを定め、追い出すように長銃の弾丸を放つ。

 

弾丸は空を突き破り、影の頭を貫いた。影の頭に風穴が当たり、苦しむように頭を抱え、ゆっくりとのたうち回った。

 

「オオオオオオオ……ナガトサま……どうかワレらをオタすけを……メグみヲ…… 」

 

今度もまるで泣き叫ぶ子供のように長門に泣き付いていた。

 

(……我ら?そう言えばさっきもそう言っていたな )

 

ここで俺はあの影の共通点らしきものを見出した。

それは、あの影の一人称が「我ら」という事だ。

あの影は1人の【個】では無く、複数人の【集合体】だとしたら、あの影は恐らく……長門を縛っている存在だ。

あの言動からして、あの影の存在の元となっているのは重桜の上層部と重桜の民達だ。

 

上層部からはまるで人形のように扱われ、民からは全面的に期待や責任を押し付けられ、長門にとってはかなりの重荷になったはずだ。

それを長門は……ずっとずっと背負ってきた。「重桜」の長門である為に……

 

「ヨハナガト……ジュウオウノナガト……」

 

「もういい!やめろ長門! 」

 

長門は艤装の主砲を俺に向けたが、俺はそれに構わず長門に近づいた。傍から見れば自殺行為であり、長門は少しながら動揺した。

 

「一人で背負わなくても良いんだ!抱え込まなくても良いんだ! 」

 

長門との距離が目と鼻の先まで近づき、俺は膝を曲げて長門と同じ目線にする。目線と言っても、今長門は自分を閉じ込めるように狐の面を被っている為、今どんな顔をしているか分からないのだが……

手の震えからして動揺してるのは分かる。

そんな長門の手を握り、狐の面の目を向けて言葉を放つ。

 

「長門……一人で背負わなくても良いんだ……俺も、そうだったから分かるんだ。一人で背負う辛さを…… 」

 

俺も指揮官の時、役に立たなければと必死になっていた。

しかもその時、俺はマーレさんとして生きていたから、誰にも頼れずにいた。バレたらどうなるか分からなかったら、出来る限り一人でやろうとした。

でも、アズールレーンのKAN-SEN達は、そんな俺を支えてくれた。

 

「でもね、アズールレーンのKAN-SEN達はそんな俺を支えてくれたんだ。一人で資料とか事務作業とかしてる時、ベルファストが休みなさいって言ってくれたり、秘書艦って言って、俺の仕事を手伝ってくれる人だって居るんだ。……皆のおかげで俺は……"天城優海"として生きられたんだ 」

 

俺が全てを話した時、KAN-SEN達は俺の事を……"天城優海"を認めてくれた。

元々セイレーンだった俺を、今まで騙してきたのにも関わらず皆は俺を認めてくれた。俺を……指揮官って言ってくれた。

 

「でも結局……俺は俺自身が許せなくてさ。閉じこもっちゃった…… 」

 

そうだ。自分で自分を許せなくなってしまい、俺は俺自身が消えることを望んだ。

結果、俺は意識は閉じこもり、変わりに本来の俺である【コネクター】が俺の体を使い、生きてきた。

いや、最も【コネクター】が本来の俺なのだからこの場合は返したとも言っていい。

 

でも、アイツは……コネクターは俺に『生きろ』と言った。アイツだって人生を謳歌したかった筈なのに、アイツは笑って俺を生かしてくれた。

その時から俺は決めた。……もう逃げないって

 

「でも俺は……俺は色んな人のおかげでここまで来れた!生きられた!だから長門……そんな奴らに負けるな!一人で背負うな!誰かを頼れ!長門っ! 」

 

「ヨハ……余は…… 」

 

言葉が届いたのか少し正気に戻ったようにカタコトの言葉が無くなり、意識を取り戻したかのような声が聞こえた。もう少しで取り戻せると強く長門の腕を引いたが、長門の背後にいた影がそうはさせまいと腕を伸ばし、腕から枝のようなものを伸ばし、長門を絡めとった。

 

「サセヌ……サセテハならぬぅ……!ジュウオウのタメにぃぃぃぃ!ワレラノアンタイのタメにぃぃぃぃぃぃぃ! 」

 

凄まじい力に長門は影に持っていかれ、影は自分のものにしまいとそのまま長門を自分に押し込み、取り込もうとした。

長門は徐々に影に吸い込まれ、このままでは救い出す事が出来ない。

 

「長門を救うには……あの影をやるしかない……! 」

 

しかし、倒すにもまずは長門を影から引き離さなければならない。

仲間とは影の中央に囚われており、だんだん影の中に溶けていってしまってる。もしも完全に長門が取り込まれしまったらどうなるか分からない。急いで助けなければならない。

その焦りからか、俺は長銃を狙いを定めずに連射した。

長銃だけでは無く、艤装の主砲とミサイルを駆使して影に全火力を叩き込んだ。

それぞれの武装に当たった影は所々に穴が開き、苦しそうにもがいていた。

 

「オオオオオオオオオオオ!!!! 」

 

「今だ……! 」

 

着弾したおかげで周囲には爆煙が巻かれ、煙に紛れて影に接近する。影は痛みで苦しみ、更には煙で俺を捉えられない。

煙をかき分け、影の中央に向けてジャンプすると目の前には意識を失っていた長門がいた。

 

長門の手をつかもうと必死に手を伸ばし、あとほんの数センチの所で影の腕に邪魔をされた。

影の手が俺の腕を掴み、そのまま海へと叩き落とした。

 

「ガッ……! 」

 

まるで地面から思い切り背中をハンマーか何かで思い切り殴られたような衝撃が走り、少し呼吸困難な状態になった。

影はその巨大な見た目通りかなりのパワーを持っており、単純な力比べではまず勝てないだろう。

 

だが戦い方そのものは大雑把だ。巨大な腕を振り回して俺を近づけさせないようにしたり、腕で海を叩くように暴れてるだけだ。

これなら付け入る隙はいくらでもある。

 

……そう思っていた。すると影は腕の形を変え、日本の腕は2本から4本へと増え、内の2本は刀に、1本は弓に、最後の1本は槍へと形を変えた。

 

「な……!?なんだあれ…… 」

 

驚く俺を気にしないように影は弓を俺に向け、黒い矢を俺に向けて放った。

巨体から放たれた矢は大きく、それがとんでもない速さで俺に迫ってきた。

武装を長銃から盾に切り替わる猶予は無い、かと言って回避する余裕も無い。

となると……残った手は迎撃だけだ。艤装の右側にあるレールガンのレールを延ばし、銃口を向け、すかさず弾を放つ。

 

レールガンと影の矢が衝突しようとしたその時、矢が全てを道ずれするかのように黒い爆発が置き、レールガンの弾丸を巻き込んで消えてしまった。

弾丸だけでは無く、海の一部もまるで削り取られたかのような空洞があき、その空洞は直ぐに海で埋められた。

 

「あの矢に触れたら終わる……! 」

 

あの矢は恐らく接触したら球体状に物質全部を削り取る物だ。下手に武器で迎撃や防御しなくて良かったと心底思った。

安心もつかの間、影は次に槍を構えた。

 

影は体を傾かせ、思い切り槍を俺へと投げつけた。あの矢のように槍には何かあると踏んだ俺は、今度は回避に徹底する。

速力をあげ、難なく槍を回避する。槍は海へと突き刺さり、やがて黒い靄のように消え、影の手に戻った。

槍自体には何かある訳でも無さそうだ。

 

攻撃が当たらない事にイラついたのか、影は2本の剣を雑に振り回した。剣から黒い斬撃が飛び交い、斬撃が海を斬りながらこちらへと向かっていく。

 

斬撃は可視化されている為、しかも雑に攻撃しているから回避自体はそれほど難しくは無いが、やはりそびえ立つ巨木の様な巨体であれだけ暴れるような攻撃をしていては近づけないし、物質を削り取るあの矢がある以上、どうしてもあれに気をつけなればならない。

 

「まずはあの矢をどうにかしないと…… 」

 

剣と槍は海に接触しても海には何も変化がなかった為、恐らく接触しても大丈夫だ。

だが矢だけは別格だ。あれをどうにかしなければ勝機はないし、長門だって助けられない。

 

「だったら狙うは……弓だ」

 

すかさず弓に主砲を向け砲撃を行った。砲弾は影を持つ弓へと当たり、弓とそれを持つ影の腕は散り散りに消え、脅威は去ったかと思えたその時だった。

 

散り散りになった筈の影は瞬く間に再生し、腕と矢は何も無かったかのように復活した。

 

「そんな…… 」

 

しかしこれだけでは終わらない。影の腕がまたもや2本増え、計6本となった。

新しく増えた腕にはそれぞれもう一個の弓と槍が持っていた。

ひとつでも脅威だった弓が二つに増え、受け止めざる負えない現実に打ちのめさせれていた。

 

「オ゛オ゛オ゛……コレガシンピのチカラ!カミのチカラァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙! 」

 

甲高くも低い声が混じり合い、まるでノイズのような声に思わず耳を塞いでしまう。

その隙を突くかのように、影はすかさず二つの弓を構え、矢を放った。

先程よりも速度を増した矢を2本ともギリギリ避けるが、直ぐに槍の投擲を影は始めようとしていた。

回避は無理だと判断し、咄嗟に長銃から盾へと変形させ防御の体制をとる。

 

影は槍を思い切り2本とも投げ、まるで流星のような速さを持つ巨大な槍は真っ直ぐこちらへと向かった。

槍とバリアが衝突した瞬間、まるでバリアが紙切れのように呆気なく壊れ、片方の槍はそのまま俺の横を通り過ぎ、もう片方の槍は盾と衝突した。

槍は盾を貫通せず、盾は貫通させまいと火花を散らせながら踏ん張るものの、限界が来るように盾に亀裂が走る。盾を壊させまいと俺は盾の角度を少し変え、槍の軌道を逸らして受け流すように回避した。

 

しかし今度は無数の斬撃がかまいたちのように襲い掛かり、窮地へとおいたたせる。

すかさず盾で斬撃を防ぐものの、盾はもう限界に近づき、亀裂が盾全体へと走った。

バリアも槍で壊された為、バリアの再生には時間がかかってしまう。

 

防げない。そう頭の中で過ぎったのと同時に、盾は限界に達して砕け散った。

 

「あ…… 」

 

そして、俺は無数の斬撃の餌食となってしまった。

 

 

 

 

 

 

(……勝てない )

 

うつ伏せで頭の中で思いついたのがそれだった。どう考えても、どうやっても勝てる気がしない。勝てる考えが思いつかない。

折角ここまで来たのに、今目の前に長門がいるのに、助けられない自分が情けない。

自分の弱さに腹を立て、自分の弱さを憎み、自分の弱さを情けなく思い、手を力強く握った。

もうダメだと諦めたその時だった。どこからか声が聞こえた。

 

『……まだ立てるよ 』

 

誰の声かも分からないが、知っているような声な気がした。だから誰とは言わず、そのまま謎の声と会話した。

 

「無理だよ……勝てないし、立てないよ…… 」

 

武器も壊れ、もう立つ気力も力も無い……もう諦め寸前……いや、諦めていた。

 

『大丈夫ですよ。だって貴方は……1人じゃないのだから 』

 

「……え? 」

 

前に人の気配がした。声の主では無く、俺の知っている人達の気配だ。顔を上げ、横に並んで真っ直ぐ俺の事を見ている人たちを見ると、そこには重桜のKAN-SENの他に、アズールレーンのKAN-SEN達が立っていた。

 

「そうだ……俺はまだこんな所で……終われない……終わらせて……たまるもんか……! 」

 

母校で待っている皆に会うために。

俺の事をいつまでも家族として見てくれた人達の為に。

俺の事をここまで育ててくれた人の為に。

俺に……生きろと言った人のためにも……!

 

「こんな所じゃ……終われないよな! 」

 

『はい! 』

 

声がすぐ隣に聞こえ、すぐ様顔を横にふる向くと、朧けながら人影が見えた。

影は白く、霧が人の形を型どったようにも思えるその姿はどこかで見た姿だった。

いや、もう分かっていた。

 

「……コネクター? 」

 

形が俺と似ている所からそう言うと、影はこくりと頷いた。

するとコネクターの影は俺に近づき、あるものを手渡した。

 

「……これは? 」

 

『あなたに必要な物ですよ 』

 

俺の手に渡された物は小さな光り輝く何かであった。

その光の正体は何となくだが分かった。これは、コネクターが残していった物……力だ。

皆と繋がる為の……そして今は、長門を助けられる力でもあった。

 

「ありがとう…… 」

 

そう言うとコネクターの影は、満足したかのように粒子となって消えていった。

渡された光を俺の中に押し込むように手を握り、俺の意識は覚醒する。

 

 

 

 

 

 

「まだ……だ……まだまだ……これからだ! 」

 

斬撃で受けた切り傷が叫ぶように激痛が走り、それでも尚腕に力を入れ、足腰に力を入れて立ち上がる。

武器も壊れ、体も満身創痍。勝ち目の無い戦いが誰もが思う中でも、一筋の光は見出していた。

 

「マだ……タチアガルのカ……?アワレ……アワレアワレアワレぇ! 」

 

嘲笑うかのように影は高らかに甲高い声を発し、狂ったように剣を振り回して斬撃を飛ばした。

無数の斬撃が荒れ狂うようにこちらに飛び交うが、不思議と脅威には感じられなかった。

 

あの斬撃は確かに強力だ。海を切り裂き、あわよくば風さえも切り裂く強力な刃だ。

だが……それだけだ。

 

「残してくれたこの力……使わせてもらうよ 」

 

アイツが残してくれた力、かつて俺がKAN-SEN達と戦った時に使ったあの力の事だが、もうあの時のように暴走はしない。

 

右手を刀の柄を持つように構えると、蒼い光が生まれ、それが刀の形となり、新たな刀を生み出した。

刀を生み出した後、向かってくる斬撃を横一閃に振り、斬撃を斬った。

 

「ナ……!?」

 

「刀はおもちゃじゃないんだ。そんなに振り回しても、刀本来の持ち味は活かせない 」

 

そういえば……高雄さんにこんな風に言われたっけ……

まだ小さい頃、高雄さんの鍛錬で初めて木刀を持った時、武器を持てた喜びと刀のかっこよさで思わずブンブン振り回してたっけ……

 

何故か余裕を持てた俺はついつい昔の事を思い出してしまう。だが、不思議と負ける気はしなかった。

刀を頭の上まで持ち上げ、心を沈めるように息を整える。

 

「よく見てろ、刀はこうして振るんだ! 」

高雄さんに教えてもらった通り、腰を入れ、足を踏み込み、雑念を捨て、一心不乱に剣を真っ直ぐ振り下ろす。

空を斬った音と共に、白い斬撃が真っ直ぐ影へと突き進み、左真ん中の腕を切り落とした。

 

「オオォォォ……オ゙オ゙オ゙オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!」

 

腕を切り落としたせいか、影は痛みで悶絶しているように暴れた。その隙に一気に距離を詰めて長門を救い出そうとするも、そう簡単には行かない。

影は怒りで弓矢を乱射し、こちらの接近を許さなかった。

 

「ユルセン……ユルせンゆルせンユルせん……ユルセヌゥゥゥゥゥ!! 」

 

「許せないのはこっちも同じだ!長門をずっと苦しめ……責任を押し付けておいて……長門を何だと思っているんだっ!! 」

 

刀が手から消え、その代わりに赤城姉さんと加賀姉さんがいつも使っている式神が両手に加わり、矢に向かって全て投げつけた。

赤と青の式神は赤と青の炎を纏った艦載機へと変わり、黒い矢へと突撃する。

 

艦載機と接触したせいで矢は空中で爆発し、何も削り取られずただ虚しく爆散していった。

残った艦載機が影へと飛び、炎を纏った機銃が弓を破壊し、そのまま影の腕に突撃をかけた。

弓を持った2本の腕が艦載機の炎で焼かれ、ついには腕は朽ちていき、残るは槍を持つ2本の腕だけとなった。

腕を無くした影は更に俺への敵意を剥き出しになり、怒り任せで槍を2本同時に投げつけた。

しかし雑に狙った槍が標的に当たる訳も無く、槍は虚しく俺の左右横に通り過ぎてしまった。

 

槍が当たらず焦った影は、また新しい槍を作り出そうとしていたがそうはさせない。

すかさず残った艦載機で残った2本の腕を攻撃し、機銃で腕を貫く。

腕は蜂の巣になると使い物にならなくなったかかのように消滅し、木偶の坊当然となった。

 

俺の艦載機も役目を終えたように赤と青の炎に包まれ、消えていった。

 

「この隙に…… 」

 

腕が無くなり、影は何も出来ないのは事実だがそれは時間の問題だった。失った腕が徐々に再生し始め、しばらくしたら直ぐに全ての腕は元に戻るだろう。

その前に何としても影に取り込まれている長門を助けなければならない。

 

ようやく影の目の前まで接近し、徐々に吸い込まれていくように影に取り込まれる長門は意識を失っているのか微動だにしなかった。

 

「長門ぉぉぉ!! 」

 

救い出そうと手を伸ばそうにも、影は2本の腕を再生させ、すぐさま俺を潰そうと上下に挟み込むように妨害した。右腕と両足に力を入れ、潰されないように踏ん張りをかける。

 

ナガとさマにチカヅクナ!ナガとサマニフレれるナ!!ナガとサマをソソのカスな!

 

頭が割れるような影の叫びで意識を失いかけるも、渾身の力で上下からの腕に潰されないように押し上げる。

もたもたしてると別の腕が再生して空いている左右から叩き潰されると防御する手段が無い。

これが正真正銘の最後のチャンス。

 

息を吸い、力を込め、長門に向けて言葉を叫ぶ。

極限状態のせいか、あの時長門との約束を今更ながら思い出した。

 

_じゃあ僕が大きくなったら…………

 

「戻ってこい長門!一緒にあの時の約束を………俺と一

緒に……」

 

_一緒にね……

 

 

_外の世界を見ようね!

 

「外の世界を見よう!」

 

その言葉に長門は反応し、微動だにしなかった長門がようやく動き出し、顔を俺に向けた。

 

「俺と一緒に色んな世界を見よう!色んな食べ物や色んな建物、色んな文化に色んな人!日記の上じゃない本当の世界を一緒に見よう!だから……手を……手を伸ばして!」

 

「……優……海…… 」

 

長門は影から抜け出そうと右腕を伸ばし、俺はすかさずそれに手を伸ばす。徐々に縮まる腕はあと少しで手が届き、俺と長門は懸命に腕を伸ばす。指と指が触れ合う距離まで近づく中、影はもう2本腕を再生させ、俺を左右から叩き潰そうとしていた。

 

サセヌサセヌサセヌサセヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

左右から黒い腕が迫る中ようやく長門の手首を掴む。

しかし四方から来る腕の対処が間に合わず、絶体絶命のその時、突如長門の背後に炎が生まれた。炎は近くにいた俺たちを燃やす事無く、徐々に獣の形へと姿を変えた。

体毛は白く、9つの尻尾があり、まさに物語の中で出てくる九尾そのものであった。

 

獣の召喚は加賀姉さんも同じ事をするのだが、あの獣とは一回りも二回りも大きく、影とほぼ同じ大きさだった。

 

長門が生み出してたであろう九尾は影に体当たりをかけ、影の体勢を崩した。

体勢を崩した影は手の力を弱め、俺に脱出のチャンスを与えた。

その隙を見逃さない俺は咄嗟に影の手から脱出した。それを見た九尾は俺の元に飛び、背中に俺を乗せた。

 

柔らかな体毛の上に着地し、すぐ様長門の安否を確認する。仮面をとろうと仮面に触れると、亀裂が走り、そのまま静かに仮面は光となって砕け散った。

 

「長門……! 」

 

名前を呼んでも返事は無く、長門はまだ意識を失ったままだった。

だが、確かに長門は俺の名前を呼んでくれた。無事な事は変わりないはずだ。

 

これで残るはあの影を倒すだけとなった。

 

「アァ……アアァァ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!

 

長門がいなくなった事により、頭が割れるようなノイズの叫びが鳴り響き、影の腕が6本から2本へと戻った。

どうやら長門を取り込んで力を増したようであり、その長門が失った事から力を失ったようだ。

 

「カエセカエセカエセぇぇぇぇぇ!!!ナガとサマはワレラのモノダァァァァァァァ!!!! 」

 

狂ったように影は俺の方に真っ直ぐ近づいていく。思わず逃げそうになるほどの狂気を感じるものの、ここで逃げる訳にはいかない。

ここで逃げたら長門を本当の意味で助けられないし、何しろあんなのに縛られたままではダメだ。

だからここで……終わらせる。

 

「一緒に行ってくれるかい? 」

 

九尾にそう言うと、九尾は俺の目を見て頷いてくれた。

 

「よし……じゃあ、行こう! 」

 

九尾は合図と同時に吠え、真っ直ぐ影に向かって海を駆ける。振り落とされないようにしっかりと毛を掴み、長門も振り落とされないように式神を使って長門を九尾の体に固定させる。

固定を確認したあと、蒼い光と共にもう一度刀を作り出し、影を切り伏せようと構える。

 

影との距離が縮まり、影も対抗しようとしているのか右腕を刀へと変えた。

 

「スベテハジュウオウのタメにぃぃぃ……ワレラのタメにぃぃぃぃ!! 」

 

「長門はお前らの道具でも何でもない!一人の……命ある人だぁぁぁぁぁぁ!!!! 」

 

刀の間合いより先に九尾は飛び、影の懐へと飛び込む。

同時に影は九尾ごと俺を切ろうと腕を大きく横に振った。

こちらも対抗しようと腰を据え、足を踏ん張り、刀を左腰にある鞘に収めて構えた。

あの人のように、早く、速く……刹那の一瞬を斬るように……

 

「行きます……江風さん! 」

 

江風さんの構えを重ね、俺は刹那に刀を抜き、刀を振るった。

九尾と影は通り過ぎ、何事も無かったかのように思えるが、刀をゆっくりと鞘に収め、カチャリと刀が音を出しながら収めた刹那、影は横一閃に体を真っ二つにされた。

 

影の下半身は消え去り、残るは上半身だけとなった。

影はなおも長門を我が物にしようとしているのか、腕を使って海を進み、こちらに近づいていた。

 

「ナガトサマ……ナガ……ト…… 」

 

「ここまで来るともはや狂気だな…… 」

 

恐るべき執念が具現化してるかのように、海を地を這うように移動し、九尾は喰い殺そうと言わんばかりに影を睨みながら唸っていた。

俺はそれを止め、影の方に歩いた。弱っている奴に対しての同情では無く、あれがもし上層部と重桜の民達の意識の集合体なら、言っておきたい事があるからだ。

 

「オオナガとサマ……ナガトサマ……どうかワレラにおメグミを…… 」

 

「っ……そうやって、長門にばかり期待を押し付けるな!! 」

 

怒りをぶつけ、影を睨みながら俺は言いたいことを言い続ける。

影は驚いたように動きを止め、俺を見ていた。

 

「貴方達の身勝手でどれだけで長門が苦しんで来たと思っているんだ!勝手に期待を押し付けて、挙句の果てには責任を全部押し付けて重桜に封印する?ふざけるな! 長門は道具でも何でもないんだぞ!! 」

 

息を荒らげ、長門に代わって怒りを全て影にぶつける。

影は反論するのか体を震わせていた。

 

「ダカラ……ナンダ……カンセん八ドウグ……タタカウためにウマレタソンザいダ。」

 

「ズッと……カミがワレラをミチビイタ……ナガとサマ八ソノコエをキキ、ワレラヲミチビくソンザい…… 」

 

上層部の意志と民の意志が交互に行き来してるような意見が聞くと、さらに俺の怒りが爆発した。

 

「長門はそんな存在じゃない……あの子は誰よりも重桜の事を思い、誰よりも……外の世界に憧れていたんだ…… 」

 

不意に昔の事を思い出した。長門に内緒で会いに来て、日記を見せていたあの頃、そして、約束を交わしたあの時の事を。

いつか一緒に外の世界を見に行こうって、美味しい物や綺麗な景色や色んな人と会おうって笑ったあの日、初めて長門の本心を見た気がしたんだ。

だって……笑っていたのだから。

 

「長門が笑った姿……見た事あるか? 」

 

「ナニ……? 」

 

「あの子……いつも威厳ある表情で近寄り難かったんだ。でも、いつか一緒に外の世界を見ようと約束した時、少しだけど長門は笑ったんだ…… 」

 

「………… 」

 

影は黙って俺の話を聞き、徐々に体が消えかけていた。

長門を失ったと思ったのか、それとも先程の一撃が効いたのかは定かでは無いが、戦いに決着はついたようだった。

でも終わらせない。まだこの人達には言いたいこと事が沢山ある。

 

「だから道具だなんて言わせない。長門は……いや、KAN-SEN達は命ある『人』だ。人間と変わりない存在だ」

 

「ソレは…… 」

 

「それは違うとは言わせない!言わせるもんか……!」

 

KAN-SENと過ごし、KAN-SEN達のお陰でここまで来た俺の前でKAN-SENは道具だと言い切るなんて絶対に許さない。

感情が昂り、何故か片方の目から涙が流れる。

否定された時の悲しみを考えてか、それとも怒りを通り越して涙が流れたのかは分からない。

 

影はそんな俺の姿を見て何も言わず、ただ朽ちるのを待つように静かに動きを止めた。

 

「ダガ……ナガと……カミをナクシテジュウオウにミラいハナイ…… 」

 

「そんな事無い。自分達の国でしょ?力を合わせたら皆で歩いていけますよ 」

 

「コンキョは……? 」

 

「俺がそうだったから 」

 

姉さん達重桜のKAN-SEN達だけじゃない。ジンさん達人間や、アズールレーンのKAN-SEN達に支えられたから歩いてこれた。

どんなに苦しくても、辛い事があっても、俺は皆のお陰で乗り越えられた。

だからきっと……

 

「だから……貴方達も歩いて行ける筈です 」

 

「ソウ……カ…… 」

 

やがて影は倒れ、そのまま朽ちていった。影の破片が空へと消え、ついに戦いは終わった。

それを迎えた俺はどっと疲れが体全体に押しかかるように体が重くなり、そのまま仰向けに海に倒れてしまう。

 

「終わったぁ……けど、ここからどうやって出ればいいんだ……? 」

 

周りは海一面であり、戦いに夢中であまり気にしてなかったが、ここがどこなのかも分からない。

そもそも現実なのかも分からない。

 

「夢なら覚めて欲しいなぁ…… 」

 

現実逃避……と言えるか分からないが、今の俺は動く事も出来ない。このまま目を瞑ればもしかしたら帰れるかもしれないという謎の答えに辿り着いてしまうものの、どうすればいいか分からない。

そんな時、九尾が俺を上から除くように見つめ、口を小さく開けた。

 

「え?何!?食べるつもり!?嘘でしょ!? 」

 

さっきまで一緒に戦ったのにまさか最後に食べるつもりだっとは……もう俺には抵抗する気力も体力もないのでこのまま黙って食べられるしか無いと覚悟していた。

……のだが、九尾はそのまま俺の服を破れない力で噛み、そのまま俺を上空へとほおり投げた。

 

少しの遊覧飛行を受け、重力に従うように真っ直ぐ九尾の背中へとダイブした。

結構な高さを飛ばされたにも関わらず、落下の衝撃が無かったことから、この毛の柔らかさが垣間見える。

 

「おぉ…モフモフだ……」

 

毛布に包まれているような温かさも感じられて思わず寝てしまいそうになるが、九尾が突如動き始めた驚きで眠気は吹っ飛んだ。

 

「あ、もしかして……出口みたいな所知っているとか……? 」

 

九尾の顔を覗き、そう尋ねると言葉が分かったのか、九尾はこくりと頷いた。

 

「じゃあ、お願い 」

 

九尾は再度頷き、俺や長門が振り落とされないようにゆっくりと歩いた。

ゆりかごのように九尾の体が揺れ、何もしないとなると疲労のお陰で眠ってしまいそうになる。

だが隣に長門がいるのでそうはいかない。出口が見つかるまで、俺が守ってやらなければ……

 

「でも俺一人じゃ長門を助けられなかったな…… 」

 

こうして長門を助けられたのはコネクターのお陰だ。コネクターが力を遺してなければ俺は完全に負けていた。

 

「ありがとう……コネクター 」

 

_どういたしまして

 

俺の目の前にコネクターの笑う姿と声が聞こえたような気がした。

と言っても、姿は俺自身なのだから自分を見ているようで気恥しいのだが。

恥ずかしさで人差し指で頬をかいてると、九尾が動きを止め、俺を呼ぶように鳴いた。

 

どうしたのだろうかと九尾の顔を覗こうとしたが、その前に前方になにか白く光る物を見つけた。

光は扉のような形をしており、直感でたが出口なのではと考えた。

 

九尾は下りろと言わんばかり足を曲げて身体を下ろした。

意図を汲み取った俺は長門を抱いてそのまま海へと着地する。すると九尾は役目を果たしたと言わんばかりに炎となって消えつつあった。

 

「ありがとう。ここまで来てくれて 」

 

せめてものお礼を言い、九尾は満足そうな顔を浮かべて炎となって消えてしまった。

長門の式神……みたいな物だから完全には消えていないのだろうが、目の前でいなくなった喪失感にかられながらも、俺は光る扉の前に立った。

 

「行こう…… 」

 

目を閉じている長門をしっかりと抱き寄せ、俺は光の扉の中へと入る。

 

__

 

____

 

 

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「うん………ん? 」

 

意識が朦朧とする中で何とか瞼を開け、体を起こすとそこには巨大な桜の木『重桜』があった。

先程の一面海だった景色は無く、やはりあれは夢……にしては感覚がかなり現実的だった。

あの世界がなんだったのかはよく分からなかったが、とにかく今は周りの状況を確認する。

そして、倒れ込んでいる長門の姿を目にした時、俺の意識は覚醒する。

 

「長門! 」

 

名前を呼び、すぐ様長門の安否を確認する。脈もあり、息もしている。重桜の幹や水晶に封印されていない事から、助けられたのは間違いない。だがどうしてなのか目が開いていなかった。

体を揺らし何度も何度も名前を呼んでも返事がない。

焦りで呼吸が荒くなり、最悪な事を想像すると涙が零れてしまう。

嘘だと、有り得ないと思いながら必死に長門の名前を呼び続ける。

 

「長門……長門!返事してよ……約束したじゃないか……!外の世界を一緒に見るって……! 」

 

一粒の涙が長門の頬に当たると、それに反応するように長門から声が漏れ出た。

全意識を長門に向け、長門を見つめると、ゆっくりと長門は目を開いた。

 

「優海……? 」

 

「長門……!」

 

溢れ出る嬉しさが衝動となり、刺激するように涙が目から零れ落ちた。滝のように止まらない涙を拭いもせずにただ長門が無事だった事実を噛み締めていた。

 

「心配をかけたようだな…… 」

 

そんな俺を見て長門はクスリと小さく笑いながら左目からでる涙を自身の裾で拭ってくれた。

いつまでも泣いててはいけないと今更ながら思い始め、右目から出る涙を裾で拭う。

 

「……随分と長い夢を見ていた。黒い影の様なものに縛られ、重桜の民達の為に苦痛を強いられ続けていた…… 」

 

黒い影という言葉に反応し、俺が今までいた場所は長門の夢の中だったのかと思ったが、夢にしては随分と現実的な感覚だった。

実際、体の節々がかなり痛んでいるし……後で考えないと行けないな……

 

そんな事を考えていたせいか、急に長門が俺の頬に手を添えてきた。あまりの事に驚き、思わず手から顔を離させようとしたが、長門の手はまるで頬に張り付いているかのように離れなかった。

 

「じゃが……夢でそなたが助けてくれた……影から救い出そうと、余に手を差し伸べてくれた……ありがとう 」

 

「当たり前だよ。だって約束したから、一緒に外の世界を見ようって 」

 

「……そうだったな…… 」

 

長門の手を握り、俺と長門は笑顔で見つめあった。

長門を助けられた事を祝福しているかのように、^神木の桜も大きく散り、美しい花吹雪が辺り一面に舞った。

 

……そして、その花吹雪の影からある男が現れた。

気配に気づいた俺は後ろに振り返り、長門を守るように身構えた。

 

桜吹雪が止み、俺の前に現れたその人の姿は黒い和服のような服を来ており、返り血のようなものがベッタリと付着していた。

服だけではなく、髪も顔も、手も足も殆ど全身に返り血がついていたその人は……ロドンさんだった。

 

「ふむ……良い雰囲気な所申し訳ないが、邪魔するぞ 」

 

「ロドン……さん 」

 

ロドンさんは返り血の鉄臭い臭いを纏いながらゆっくりこちらに近づき、俺は咄嗟に武器を呼び出して構えた。

影との戦闘で武器は壊れ、使えないと思っていたが、無事に使える事に安心しながらもロドンさんから目を離さない。

 

だがダメージはまだ残っており、このまま戦えるかどうか不安要素はある。

 

「そんなに気負うな、当方は戦う意思は無い。……そちらの選択にもよるがな…… 」

 

「どういう事ですか…… 」

 

確かにロドンさんは刀に手を添えておらず、戦闘の意思は無いと思われるが……だったら何をしにここにやってきて、しかも返り血まみれで……一体ここに来るまで何をしていたんだ……?

 

疑問が浮かぶ中、ロドンさんがついに俺たちの目と鼻の先まで近づき、倒れる長門に向けてこう尋ねた。

 

「……【ワタツミ】を渡せ 」

 

「なっ……!渡す訳が無かろう! 」

 

長門がこれまで以上に驚きを見せ、ロドンさんの要求を断固拒否した。

だがロドンさんは分かっていたかのように溜息をつくと、懐からあるものを取り出した。

 

「いやもう良い、【ワタツミ】はつい先程こちらが貰った」

 

「な……? 」

 

「長門、貴殿は当方が質問した時、あの【重桜】の木の根元に僅かだが視線を逸らした。だからそこにあるとふんだ当方はつい先程そこに行き、見つけた 」

 

は……?ついさっきって……あの木の所に移動したって事か……?でも俺から見ればロドンさんはその場から1歩も動いていない。

 

残像と話した気もしないし、俺目線で全く動いていないように見せるには物凄い速さで移動したことになる。

その際、移動した痕跡……音速を超える速さならソニックムーブや衝撃波が起こるはずなのに、それが無かった。

 

物理の法則を無視するような動きに圧倒された俺はロドンさんを見つめることしか出来なかった。

 

「では当方達の目的は果たした。これにて失礼する 。……そうだ1つ忠告しておこう 」

 

ロドンさんは振り返りもせず、背を向けて俺へ忠告を始めた。

 

「貴殿はまだ……己を知らない。己を知ることが出来なければ、いずれ貴殿は……仲間に縛られる事だろう 」

 

「え……?」

 

ロドンさんはそのまま徒歩でこの場から去っていった。威圧から解放され、俺はそのまま情けなく尻もちを着いてしまう。

 

「……何も……出来なかった…… 」

 

悔しさを込めるように俺は地面に拳を突きつけた。

最後に言われたあの言葉に引っ掛かりを覚えながら……

言われた言葉に「仲間」という単語で俺はKAN-SEN達の状況を思い出し、こうしては居られないと思い立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろか 」

 

どれほど戦闘を行ったのだろうか、青い空が夕焼けの空へといつの間にか変わり、太陽はもう沈みかけていた。

そろそろあの人達が目的を達成してるはずだ。これ以上戦う意味を持たなかった俺は、KAN-SEN達と距離を大きく置いた。

 

「逃げるのですか!? 」

 

「目的は果たしたんだ。これ以上戦う意味は無い 」

 

龍驤の問に答えるように【重桜】への入口に指を指すと、丁度いいタイミングでロドンさんが現れた。

全身返り血まみれである事から、どうやらやってきたようだな……

しかし、KAN-SEN達はその返り血を見て誤解をしていた。

 

「その返り血……まさか、優海の…… 」

 

「違う、これは別の奴らの血だ。優海と長門は無事だ。先程確認した。恐らく……すぐ来るだろう 」

ロドンさんの言う通りあとからついて行くように優海と長門が一緒にやってきた。

優海の姿を見たKAN-SEN達は安堵の息を漏らし、一瞬だけ戦闘から意識を離していた。

その隙にKAN-SEN達の包囲網から抜け出し、ロドンさんも俺の隣に移動した。

 

「しまった……! 」

 

気づいた時にはもう遅く、先程の戦闘でもう俺たちを追う戦力も気力も無いはずだ。

 

「貴方……ワタツミと黒箱を使ってどうするつもりなのかしら!? 」

 

赤城の問いには他のKAN-SENも興味を示していた。俺はロドンさんからワタツミを左手で取り、赤城から奪った黒箱を右手に出した。

 

「それを今から見せてやる…… 」

 

ワタツミと黒箱、ふたつの物体を左手に合わせ、そのまま自分の胸を貫くようにワタツミと黒箱を自分の体内に取り込むように押し込んだ。

 

「ガッ……ア゙ア゙ア゙ア!!! 」

 

自分の手が体の内側に入り込んだ異物感、ふたつの物体から伝わる凄まじい力が身体から出たがるように暴れており、それを抑えるように体を強ばらせる。

 

「グッ……ァァァ…………ッッッ!!!」

 

息が苦しく、自分が自分で居られなくなるほど理性が破裂するような激痛が張り巡らさた。

耐えるに耐え、ようやく激痛が収まっまた頃には俺は疲弊してしまい、そのまま半ば意識を失った。

 

「ワタツミと黒箱を……取り込んだ? 」

 

その様子を一部始終したKAN-SEN達は絶句し、激痛に耐えた俺は体のバランスを失い、ロドンさんの肩に掴まった。

 

「上手くは……いったか。……今日はここまでだ。……また会おう。KAN-SEN達よ 」

 

ロドンさんがそう言うと、俺たちは吹く風と共に消えてしまい、戦闘は過ぎ去るように終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったのか……? 」

 

 

「優海! 」

 

その事にいち早く受け止めた赤城姉さんは真っ先に俺の下に行き、傷がないか確認するように顔に手を添えた。

 

「大丈夫!?どこかに怪我は無い!? 」

 

「ふみゅ!!だ……大丈夫だから!……相変わらずだなぁもう 」

 

「相変わらず……?まさか貴方……! 」

 

その言葉の真意に気づいた赤城姉さんは驚いたような顔しながら、静かに涙を流した。

 

「……ただいま。赤城姉さん 」

 

「っ……優海っ! 」

 

俺の記憶が元に戻ったということに理解した赤城姉さんは、そのまま力強く俺を抱いた。

 

(こうして抱き合うの……何時ぶりだっけ )

 

赤城姉さんの温もりを感じながら、そんな事を考えていると、続けて加賀姉さんと土佐姉さんも傍に来てくれた。

 

「……ようやく戻ってきたようだな 」

 

「ごめん加賀姉さん…… 」

「別に謝る事は無い 」

 

「あら、素直じゃないのね 」

 

そう言って怒りもせずに加賀姉さんは優しく頭を撫でてくれた。しかし赤城姉さんの一言で何故か加賀姉さんは俺の頭をわしゃわしゃと荒っぽく撫で始めた。

 

「ちょ……加賀姉さん!?いきなりどうしたの!? 」

 

「……うるさい 」

 

そう言って撫でる力と速度を速め、俺の髪がボザボサになってしまう。別に髪型のセットはしていなのだが、頭がボサボサななったのでだらしない格好になってしまった。

加賀姉さんは満足したのか、頭から手を離した。

 

「あ〜あ……髪がボサボサだよ…… 」

 

「ふん……土佐、お前も何か言ってやれ 」

 

加賀姉さんはそのまま後ろに振り返り、いきなり言われた土佐姉さんは何をすればいいのか分からないという顔をしていた。

気持ちは分からなくもない。小さい頃はあまり会ってはいないし、最近あったのは記憶喪失の俺だ。土佐姉さんの心境は複雑なはずだ。

 

「久しぶり、土佐姉さん 」

 

ここは自分から切り出すべきだと考え、こちらから話を切り出す。土佐姉さんは驚いたような表情を浮かべたが、直ぐにその表情が消え、俺の頭に手を置いた。

 

「気使いは不要だ。……良くやったな 」

 

どうやら余計なお世話だったようだ。

 

「あら、照れ隠しかしら? 」

 

「黙れ腰巾着…… 」

 

「ふふ、いつものキレがないわよ? 」

 

「貴様……! 」

 

なんで喧嘩に勃発するんだ……こればかりは止めないといけないと思い、赤城姉さんから離れて土佐姉さんを宥めようとしたが、背後から感じる巨大な圧に皆は圧倒される。

 

「2人とも……?こんな時に限って喧嘩をするのですか? 」

 

「ヒッ……! 」

 

2人とも情けない声を上げ、そそくさと天城母さんから離れていった。

 

(あ……今、俺母さんって…… )

 

別にあいつの呼び方につられた訳では無い。単にそう思ったからだ。

俺は昔から、天城姉さんと言っていたのだ。

でもそれは、俺の本当の親……本当の母さんとの繋がりが無くなるのが怖くてそう呼んでいたのだ。

……でも、そもそも俺に親なんていなかった。

 

産んでくれた母と父も一緒に過ごした兄妹なんていなかった。

 

セイレーンとして生まれ、ただ戦う為に産み出された俺に家族なんて無かった。

 

でも……今は違う。確かにここにいる。

血は繋がっていなくても確かに俺の家族は……ここにいる。

目の前には、いなくなった俺の母さんがいる。

 

「おかえりなさい……優海 」

 

そう言って母さんは俺を優しく抱いた。赤子を抱くようにそっと腕を俺の背中まで巻き付け、全身から伝わる懐かしい温もりが伝わってきた。

 

その温もりのせいか急に昔の事を思い出した。今まで家族として過ごしてきた何でもない日常が雪崩のように蘇り、思わず涙が零れる。

 

懐かしい温もり、懐かしい匂い、懐かしい声に、懐かしい声……もう二度と会えないと思った母親が今俺の目の前にいる事実に俺は脇目も振らず涙を流した。

 

「母さんだ……姉さんや皆が……ここにいる……っ! 」

 

「はい、私はここにいますよ 」

 

母さんは泣き止むように頭を撫でながら胸まで俺を抱き寄せたが、更に俺は泣いてしまった。

赤子のように情けなく、涙で母さんの服を濡らしてしまうが、母さんはそれを笑って許した。

 

「あらあら、泣き虫なところは変わっていませんね 」

 

「ごっ……ごめん 」

 

泣き疲れたせいか涙は出なくなり、情けない姿をこれ以上見せないように涙を拭う。まだ涙の吃逆は止まらないが、堂々とした表情で重桜のKAN-SEN達に向けて顔を上げる。

 

今まで出会ったKAN-SEN達が微笑みの表情で俺を暖かく見ていた。懐かしの顔ぶれの前で俺はひとつの言葉を紡ぐ。

ようやく言える。本当の意味で俺は……

 

「ただいま……皆っ!! 」

 

俺はこの日、本当の意味で重桜に帰ってこれた。

 




バレンタインの修羅場とか書きたいなぁ……
まぁ書く頃にはバレンタインなんてとっくに過ぎてる()

もしもの話(R-18)を観測しますか?

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