もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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どうもこんにちは白だし茶漬けです。

いよいよ、第2部重桜編が終わり、物語が本格的に動き出します。

最初に比べるとかなりのペースが落ちたにも関わらず沢山の人のご愛読に感謝です!

そして相変わらずの誤字で少し申し訳なさもあります
( ̄▽ ̄;)

さぁ、重桜編最後の話をどうぞ!



新たなる蒼き航路への旅立ち

「全ての陣営の上層部が……壊滅……? 」

 

その日、人類は英雄達によって指導者達を失った。

ユニオン、ロイヤル、鉄血、重桜、の四大陣営だけでは無く、アイリス、ヴィシアサディア、東煌、北方連合の上層部も壊滅状態に陥っていた。

長門から出た言葉を疑い、俺は問い詰めるように長門の前に近づく。

 

「この重桜も例外無く上層部は壊滅状態だ。恐らく、ロドンがやったのだろうな。余が見たあの返り血は……上層の人間の返り血だったのだろう 」

 

あまりの大きな事実を飲み込めず、理解が追いつかない事を焦ってなのか息が荒くなる。

それに、アズールレーン上層部には俺の育ての親と言ってもいい『オセアン』さんがいる。その人が知らない間に何かあったのなれば、いてもたっても居られなかった。

 

「だとしたら、アズールレーン上層部のオセアンって人はどうなった!?あの人は……俺の……大切な…… 」

 

「落ち着け、死亡したリストにはそのような名前は入っておらぬ 」

 

「そ、そう…… 」

 

という事は、最低でもオセアンさんは生きているという事になる。全身の力が抜けた俺は情けなく尻もちをつき、貯めていた息を全てはく。

 

「安心してる所悪いけど、これ結構ヤバいわよ。上層部が壊滅して、もうどこの陣営も混乱状態。今はまだこの情報は表に出て無いけど、いずれはバレるし、何より情勢が保てない 」

 

隣にいたオロチさんが簡単な状態を説明し、この事態の重要性を示した。

確かに、上層部は陣営の政治や艦隊の運用にも手を出している。言わば指導者だ。だがそれが無くなった今、政治や情勢は保てず、いずれは暴動が起きるはずだ。

そうなってしまえば……最悪、人類同士の大きな戦争に発展するかもしれない。

セイレーンだっているのに、そんな事すれば間違いなく人類は終わってしまう。

 

「何とか……ならないのですか? 」

 

恐る恐るオロチさんに尋ねると、オロチさんは紙束、恐らくは上層部の被害状況をまとめたレポートを見つめていた。

 

「……私の計算だと、政治等の情勢に殆どの手を回せば陣営は安泰するわ。その代わり、軍事情勢には手は回らないけど 」

 

「え……でも、上層部は壊滅したんじゃ…… 」

 

「壊滅的な状況ね。別に無くなった訳じゃない。どういう訳か、テネリタス達は政治情勢がギリギリ安泰出来るレベルに被害を抑えているわ。ほんと、何考えているのかしら…… 」

 

確かに、あの人達の能力を考えると、人類の虐殺なんて赤子の手をひねるようなものだろう。それなのに何故かわざと被害を抑えている……これまでもそうだが、全く持って目的が分からない。

一体何がしたくて、何を目指しているのだろうか……

 

「まぁ、分からない事を考えたも仕方が無いわ。アイツらの目的は一旦置いといて、問題はここから。貴方を呼んだのもこの為よ 」

 

オロチさんは考えを離すように手を叩き、俺に意識を向けさせた。

 

「うむ、この数日間、残った全ての上層部の者達の議論の結果が昨日通告された 」

 

長門の透き通る瞳が俺の目を見つめ、真剣な顔を見てしまったせいか緊張が身体中に駆け巡り、思わず息を呑む。心臓の鼓動が早まり、落ち着かない手をしっかりと握る。長門の言葉を聞き逃さないように、しっかりと耳を済まし、長門の顔を見た。そしてついに長門から答えが紡がれる。

 

「全ての陣営の軍事情勢をアズールレーン指揮官に譲渡する。これが答えだ。」

 

「譲渡……? 」

 

しかも全ての陣営の軍事情勢ってつまり……

 

「KAN-SENは勿論、武器や何もかも貴方の好きに出来るって事よ。つまり、この世の武力全ては貴方の物ってことね。まぁ、流石に大まかな指揮権は上層部の方が上だけどね 」

 

やっぱりというかなんと言うか、オロチさんがハッキリと言ってくれた。

いや……いやいやいや、四大陣営ならまだしも、全ての陣営って……そんなのかなり危険な事だ。

オロチさんの言った通り、指揮官1人が全ての武力権限を持つという事は、ある意味人類で一番驚異的な存在になる。

言ってみれば人類の中で唯一武器を持っており、簡単に人を虐殺出来るような物だ。

 

上層部だってそれは分かっている筈なのに、それを決めたと言う事は余程追い詰められているのだろうか。

 

「まぁ、これには私もどうかしてると思うわ。その指揮官が、よっぽどの聖人では無い限り……ね 」

 

「でも、そんな聖人が今、私たちの目の前にいるよ! 」

 

陸奥の言葉に、この場にいる俺以外の全員が俺の事を期待の眼差しで見つめていた。

 

「うむ、優海よ。お主はアズールレーンに戻るが良い 。お主が指揮官になる為に、色々とこちらで準備もしておる」

 

「……! 」

 

……そうか、ようやく戻るのか。やっとなのか、それともまたここを離れてしまう寂しさが入り交じった感情が体の中で渦巻いていた。

そのせいかあまり嬉しくも驚きもしなかった。それに、今の話を聞いた後だと、『指揮官』という立場はあまりにも重かった。

 

「……どうした? 」

 

反応が薄かったのを心配してか、長門が覗き込むように俺を見ていた。

 

「いや……なんていうか、俺で良いのかなって思って…… 」

 

「どういう事だ? 」

 

「……自信が無いんだ。アズールレーンの陣営だけでも結構手一杯だったのに、いきなり全陣営を動かすなんて事、出来るのかなって 」

 

俺には合理的かつ効率的に艦隊を動かす能力なんて無い。

現にアズールレーンにいた時、かなり無理して動かしたと自負している。まともに寝ない事も度々あったし、それがバレてベルファストに怒られたのもかなりある。

そんな俺に、出来る出来ないと言えば……出来る自信が無い。

 

「優海、お主は余に言った。一人で背負い込むなと……あれは嘘だったのか? 」

 

「あ…… 」

 

「お主は1人では無い。どんな状況でも、どんな事になっても、余は……いや、我ら重桜のKAN-SENやアズールレーンのKAN-SEN達はお主を全力で支える 」

 

うん……それは分かってる。でも、なんだろうか……どこか引っかかりが感じられた。

アズールレーンに戻り、皆と再会出来るのも嬉しいし、長門達だって協力してくれるのも嬉しい。

でも、俺が指揮官で良いのかなという疑問がどうしても心の中で渦巻いていた。

 

「うん、ありがとう…… 」

 

「……うむ 」

 

心の中が葛藤で渦巻くも、ここで話す勇気も無く、そのまま俺は自分の中にしまいこんだ。

俺はそのまま立ち去ろうとすると、オロチさんが止めた。

 

「あぁ待って。まだ話は終わってないわ 」

 

「え?そうなんですか? 」

 

まだ話が終わってなかったのか……そう言えば、さっきから黙って座ってる2人は、これまでの会話に参加していなかったな……だが、あの二人との接点は無く、俺に関係してるとは思えない。

 

「次に話すのは、貴方自信についてよ 」

 

「俺自身……? 」

 

「そ、貴方が長門を救った時の事や貴方の今の状況……これ結構大事な話だから、よく聞いといてね? 」

 

口調は柔らかいが、目が真剣なオロチさんを見た俺はその場にまた座る。

 

「それじゃあ、まずは貴方の状況について、話すわね。まず貴方には元々3つのキューブがあった。KAN-SEN達と同じ性質の『メンタルキューブ』、セイレーンの『キューブ』、そして私を起動させる為の『ブラックキューブ』が存在していた。因みに『ブラックキューブ』は私が持ってるわ。じゃないとこうして存在してないもの 」

 

それは分かっている。元々は、セイレーンのキューブと『ブラックキューブ』だけが俺の中にあったのだが、誰かが俺の中に『メンタルキューブ』を渡して、俺の中に取り込んだ。

そうして生まれたのが俺、『天城優海』だ。

 

 

元々セイレーンである俺は、『コネクター』という存在だったのだが、『メンタルキューブ』の影響でもう1つの自我が生まれ、俺は言わば二重人格みたいな状態になった。

オロチとの戦いで俺は自分自身の存在を許さなくなり、俺は自分を深い意識の底についた。

 

代わりに表立ったのがこのコネクターだ。俺のメンタルキューブの影響のせいなのか、コネクターはまるで昔の俺みたいな性格になっており、まるで全てを初めて見るような態度を取っていた。

 

周りからは記憶喪失だと認識されたが、実際には別人なのだから記憶があるわけが無い。

そうしてコネクターは数週間過ごしてきたが……

 

「でも、2つのメンタルキューブは強力過ぎた……互いに互いをぶつけ合い、最悪2つのメンタルキューブが砕け、存在そのものが消え去ってしまう恐れが出てきた 」

 

「どうしてそんな事が起きたの?喧嘩したの? 」

 

陸奥の質問には、俺にも疑問に思った。今までキューブ同士が相反する事なんて無かったのにも関わらず、何故か急にぶつけ合うかのようになった理由が分からない。

 

「考えられる理由は……相性ね 」

 

「相性……? 」

 

「そもそも『メンタルキューブ』とセイレーンの『キューブ』は性質的に相反してるの。そんな物があって今まで無事でいたのはある意味奇跡よ 」

 

「じゃあどうして急に…… 」

 

「多分、人格が表に出たからでしょうね。まぁ、二重人格者の性みたいな物よ。人格を1つにする為、片方の人格を消すか、それと融合するかなんだけど、貴方の場合はコネクターが自ら存在を消したようだけど 」

 

そうだ、コネクターはもういない。元々あっちが先に生まれたのにも関わらず、あとから生まれてきた俺を生かしてくれた。

今でもあの最後の笑顔がどうしてか胸に刺さり、俺は服の裾を無意識に掴む。

 

「でもここからが問題よ。存在は消えたけど、貴方にはセイレーンの因子が残っているわ。それが長門を助けられた理由よ 」

 

「因子……? 」

 

「そ、貴方はコネクターの艤装は使えないけど、能力は使える筈よ 」

 

能力……確かコネクターの能力は、他者と繋がり、位置や状況を一瞬で把握し、味方の強化をしたり出来るが、それ以上に他のKAN-SENの能力をコピーして自分の物にする事が出来る能力がある。

でも、こんなので長門を助ける事が出来たとは到底思えないのだが……

 

「訳が分からない。って顔をしてるわね 」

 

「ま、まぁ…… 」

 

「今から説明してあげるわ。コネクターの能力は正確に言うと『メンタルキューブ』への介入よ 」

 

「『メンタルキューブ』の……介入? 」

 

「そ、繋がる……と言うよりかは、キューブに介入し、その中にある情報を閲覧、収集するの。そして、そのキューブの意識下に入ることだって可能にするの 」

 

なんだかすごく難しい話になったような気がするけど……ようするに、KAN-SEN達のキューブを調べたり、真似したりする事は分かる。この前の戦闘だって、高雄さんと江風さんの太刀筋を使ったり、姉さん達の式神型艦載機だって使ったのだから。

 

でも、最後の意識下に入るという事がいまいち良く分からない。頭をしぼって考えては見てるが……やはりピンと来なかった。

 

「ちょっと難しかったわね。まぁ、ようするにKAN-SENの心の中に入れるって事よ 」

 

「心の中に……?どうやって? 」

 

「まずKAN-SENのメンタルキューブの量子情報を解析して後に貴方の疑似人格を作り出してそこから直接接触で疑似人格を他のKAN-SENのメンタルキューブに介入出来てそこから 」

 

「あーあー待って待って!なんか話ややこしくなりそうだからもう良いです!」

物凄い難しい言葉をオロチさんは噛まずにスラスラと喋ったが、どうせ理解出来るわけも無いので原理は一旦置いておく。とにかく、俺はKAN-SEN達の心の中に入れって事で良いのだろうか。

 

確かにあの黒い影と戦った場所は、どこか現実とは違うどこかに思えた。それに、あの影が長門を縛っていた人達の集大成だったので、そう考えると納得がいく。

 

「というかこの繋がる力、正式名称とかない訳?説明する時凄く面倒くさいのだけど 」

 

「え?いや……無いですけど…… 」

 

一応、KAN-SEN達の能力を分析する事を【アナライズ】、KAN-SEN達の能力を使うことを【ラーニング】とは呼称しているけど……繋がる事に関しては決めてない。考えるのもめんどくさいし……

 

「じゃあ……【リンク】で良いのかな……繋がるって意味で 」

 

「安直ね〜 」

 

「別に良いでしょう分かりやすくて!でも、それってKAN-SEN達には害は無いんですか?メンタルキューブに直接介入するから結構危ないような気がしますけど…… 」

 

メンタルキューブは言わばKAN-SEN達の核だ。人間で言う心臓見たいな感じだから、そこに介入するとなればKAN-SENの人体や精神に異常をきたしてしまうかもしれない。

どうやらその考えは当たっていたようで、オロチさんは首を縦に頷いた。

 

「確かに危険よ。言うなればKAN-SEN達を好きなように操る事だって可能だもの 」

 

「お……俺はそんな事……! 」

 

「分かってるわよ。ここにいる全員がそんな事はしないって。でも、乱用は絶対禁止よ!これは貴方の為でもあるんだから! 」

 

「どういうことですか……? 」

 

俺の為……?と言うが、俺自身別に変化は何も無い。しかし、オロチさんの様子からしてメンタルキューブへの介入は俺にも害があるようだった。

 

「その力は元々セイレーンの【コネクター】の物よ。もう一度言うけど、貴方の中にはセイレーンの因子が残っているの、だからそんな力が使えたの。でも……力を使いすぎると因子は貴方のメンタルキューブを侵食して……いずれは貴方は人では無くなるわ 」

 

その言葉にオロチさん以外の全員が驚愕した。

 

「人じゃ無くなるって……どういう事? 」

 

オロチさんの隣にいた陸奥が俺を横目で見ながらオロチさんに詰め寄った。

 

「そのままの意味よ。この子がもし力を使いすぎてセイレーンの因子に呑まれたら……五感も感情も記憶も何もかも失って、本当に戦うことだけが存在意義の兵器になるわ 」

 

五感も記憶も……何もかも消える……?その言葉に恐怖し、俺の手が細胞ごと震えているような気がした。

長門の時でその力を使ったのだから、俺の体にどこか異常があるのではと不安に感じたが、その心配は無用だった。

 

「まだ1回目だから大丈夫だけど……乱用は厳禁。多く見積っても3回メンタルキューブに介入したらどこか体に異常が出るはずよ 」

 

3回……長門の時に1回使ったから、あと2回という事になる。でも、メンタルキューブに介入なんてこれ以上するつもりは無い。

 

「それに、KAN-SEN達の能力を使うのも乱用は禁止よ。セイレーンの力自体が貴方を蝕むから。使うとしたら、貴方自身の力、つまりはズムウォルトの艤装ね 」

 

あのレールガンは問題なく使えるのか……まぁ、俺の艤装も中々の性能をしているので、セイレーンの力に頼る事は殆ど無いはずだ。

 

「じゃが、こやつはあくまでも指揮官だ。もう戦闘に介入する事は無い。……そう易々と戦闘に参加はさせん 」

長門は真剣な顔と低いトーンでそう言った。

確かに……俺はあくまでも指揮官……皆を戦闘を指揮するのが役目だ。

それは分かっている。分かっているのだが……何故か引っ掛かりを感じていた。折角戦える力があると言うのにそれを使わず、ただ後ろからただ指揮をする事に少しもどかしさを感じていた。

俺も戦うなんて言ったら長門の……いや、KAN-SEN達の思いを踏みにじる事になる。俺は何も言えず、ただ蹲って黙っていた。

 

「……そうね、でも……テネリタスは全員化け物よ。正直言って、まともに対抗出来るのは優海しかいないないわよ? 」

 

「それでもだ。それに、KAN-SEN達も成長し強くなれる。対抗する力は付ける 」

 

「……そう、私の話はこれで終わりよ。それじゃあね 」

 

オロチさんは話を終えると立ち上がり、そのまま部屋に出ようとした。

 

「あ……どこに行くんですか? 」

 

「ん?ちょっと先にアズールレーンに戻るわ。貴方の記憶が元に戻ったのと、諸々の状況報告をする為にね。それじゃあまたね、優海 」

 

そう言ってオロチさんは部屋から……いや、重桜からアズールレーンへと出ていってしまった。

次に会う時はアズールレーンだろう。少し寂しく思いながらも、俺は追い掛けすそのまま座り通した。

 

「余の方も話は終わりだが……そなたに会いたいと申した者がいる。それがあやつ……【信濃】だ 」

 

長門は信濃さんの方に目を向けると、俺も釣られて信濃に目をむく。

青い着物に少し蒼みがかっている白髪は腰までなびいており、大きな銀色の尻尾が存在感を表していた。

……着物がはだけて、上部が顕になっている胸も別の意味で存在感を表しているけど……なんで着物を着崩す人が多いんだろう……

 

さて、名前を呼ばれた筈なのに信濃は微動だにせずただ目を瞑っていた。全員黙って信濃の顔を見ると、信濃から規則正しい呼吸音が聞こえてきた。

これは……明らかに寝息だ。もしかして……寝てる?

 

「あ、信濃さん!起きて起きて! 」

「んん…… 」

 

信濃さんの隣にいたKAN-SENが信濃の体を揺らしたが、信濃さんは重たそうな瞼を開き、瞳を見せた。

 

「ふぁ……これは失敬…… 」

 

小さく欠伸をし、目頭に少しの涙を浮かべさせた。

 

「どうやら、お主と話がしたいそうだ。じゃが、信濃の言う事はなんというか……少々理解し難い言葉遣いだ。初対面での話し合いは難しいだろう 」

 

「そこで、私の出番という訳!私は駆逐艦の【涼月】よ!分からない事があったら言ってね! 」

 

なるほど、言わば通訳見たいな物か。しかし……肝心の信濃さんが凄く眠たそうな目付きをしており、話し合いできるかどうか不安だ。

涼月曰く、いつもの事だから大丈夫らしいが……大丈夫かな……

 

「……やはり再び合間見えた 」

 

信濃さんは小さく笑いながらそう言った。今のは通訳無しでも内容はわかった。

また会えた……そう言えば、夢で見た信濃さんは『また会える』って言ってたような気がする。

 

信濃さんの笑顔がまるで俺と会う事が分かっていたかのような笑みに思えて来ており、まるで未来でも見えているかのような感じだ。

 

「まるで俺と会う事が分かっていたかのようですね 」

 

好奇心でそう質問すると、信濃さんは少し困った表情を浮かべていた。

 

「それは……少々誤り……妾が見れるのは可能性のみ……」

 

「可能性……? 」

 

言っていることがよく分からず、チラリと涼月さんの方に目を向けると、俺の事を気づいたのか、涼月さんが通訳してくれた。

 

「えっとね、信濃さんが見える未来は、数ある内の1つなんだ。例えば道に転んで怪我をしたのと、転ばないで怪我を回避する未来があるとすれば、そのどちらかしか見れないの 」

 

「へぇ〜それでも凄いなぁ 」

 

そういうと信濃さんは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。結構無表情な人だと思ったけど、結構顔に出るタイプなのだろうか。

それ故に、わかりやすいほど恥ずかしそうに、信濃さんは狐耳をペタンと下がらせていた。

 

「でも……俺と会う事自体にはなんだか確信をついたような感じでしたけど……あれは何でですか? 」

 

そう質問すると、少し考え込むように信濃さんは指を口に当てて考えていた。考えがまとまったのか、信濃さんはこちらに目を向けた。

 

「……繋がりを……辿った故 」

 

「繋がり……? 」

 

「汝の繋がりと妾の夢が重なり……夢のカケラにて妾と汝は出会った……また繋がりを辿り、今に至る…… 」

 

……ダメだ、何言ってるか全然分からなかった。【繋がり】はコネクターの能力の事だとして……【夢のカケラ】がよく分からない。通訳である涼月さんもこれには頭を悩ませていた。

「う〜ん……これはちょっと私でもよく分からないかな……ごめんなさい…… 」

 

「いや大丈夫ですよ。……とりあえず、コネクターの力のおかげ……という事で良いのかな? 」

 

判断材料がこれしか無いため、真相はよく分からないが、今の所はこれで納得するしかない。

 

「……天城なら、理解してくれよう 」

 

「母さんが? というか……母さんと知り合いなんですか? 」

 

「少し……縁がある故 」

 

意外……では無いのか?母さんは結構人望があるし、人脈だって広いはずだ。別に不思議では無い。

 

「……妾からは以上……失礼する…… 」

 

そう言ってまた小さく欠伸をしながら、涼月さんと共に部屋から出た。……不思議な人だったなぁ……帰ったら母さんに話を聞かないと。

 

さて、多分これで話は終わった為、長門と陸奥に挨拶を済ませてから俺も部屋から出ようとする。

 

「優海、そなたがアズールレーンに戻る日時は1週間後だ。それまで準備をしておくと良い 」

 

「……うん、分かってるよ 」

 

これで話は終わり、俺は部屋から出た。

廊下を歩き、屋敷から出ると外はもう夕暮れだった。

夕焼けを背景にカラスが飛び、まるでもう帰る時間だぞと鳴いてるような気がした。

そんなカラスの言う事を聞き、俺は家へと帰った。

 

いつも通りの帰り道、いつも会う人達……でも、アズールレーンに戻ると決めたと後だと、寂しい気持ちが込み上げてきた。

折角帰ってきたというのに、またこの光景を見れないと思うと、無性に寂しくなった。

 

別にもう二度と見れないという訳では無いのだが、なんと言うか……とにかく寂しい。と言うより、指揮官に戻るのを戸惑っていた。

ネガティブ思考な自分が嫌になったのか、大きなため息をつき、ここに残りたいと足が思っているのだろうか、変に足取りが重く感じられた。

 

「ただいま…… 」

 

「あら、おかえりなさい。……元気が無いけど、どうしたの? 」

 

天城母さんが元気のない返事を変に思ったのか、そう質問した。心配させないように俺は慌てて別の話題で気を逸らそうと考えを張り巡らせた。

そう言えば、確か信濃さんは天城母さんの知り合いだ。その話題に切り替えよう。

 

「い、いや〜今日の信濃さんって人に会って、母さんと知り合いらしいから話を聞こうかなって! 」

 

作り笑いで感情を無理やり明るくさせ、どうにかしてこの場を乗り切る。

 

「……まぁ、信濃さんに会ったの。一体どんな事を話したの? 」

 

何とか誤魔化せたのか……?てっきりバレるかと思ったてから驚きながらも、俺は今日の事を話した。

俺が指揮官に戻ることも、俺自身の事、そして、信濃さんの事も全部話した。

……俺の心境を除いては。

 

「夢……カケラ……繋がり……成程、そういう事ですか 」

 

俺は信濃さんの言葉の意味を天城母さんに説明したがら母さんはそれだけで信濃さんの言う事を理解出来たらしい。

 

「優海、貴方はこの世界と違う世界があるとしたら……信じますか? 」

 

「え?う〜ん……どうだろう 」

 

そんな話は本とかで聞いた事あるけど……実際信じてないと言えばそうだ。この目で見た事無い為信じてはいない。

俺はそう答えると、母さんはやはりと言って笑った。

 

「実は……存在するらしいですよ。信濃さんは、別の世界に渡れる力があるんですよ 」

 

「え……えぇ!?嘘でしょ!? 」

 

流石にそれは嘘だろうと思ったけど、母さんが嘘をつく事は無いし、ついている様子も無い。本気で言っているのだろうか……

 

「まず、【夢のカケラ】というのは世界線の事です。信濃さんは、眠り、意識を別世界の自分に上書きする事でその世界にいけるのです。言わば、夢であり現実……されど夢という訳です 」

 

「ううん……難しいし、なんだか信じられないよ。別の世界の存在なんて 」

 

「ふふ、恐らく貴方も別の世界の自分を見てるはずよ?」

 

「ええ!?いつ!?何処で!? 」

 

全くそんな覚えも無いし、見た事も無いし……訳が分かんなくなって来た。そんな反応を天城母さんはクスクスと笑いながら説明してくれた。

 

「恐らく、貴方の力……ええと、あれ、何と呼ぶのでしょうか……? 」

 

「KAN-SEN達と繋がる力の事?正式名称は無いけど、勝手に【リンク】って呼んでるよ 」

 

「その力に信濃さんは惹かれたのでしょう。あの人の世界渡りは、行き先が完全にランダムですが、貴方の力が道となり、この世界に来たのでしょう。その際、貴方も信濃さんの力の影響を受けて、少しだけど別世界を見ているはずですよ。多分……夢とかで 」

 

夢か……そう言えば、思い当たる節が一つだけある。

俺や姉さん達が制服を着ており、普通の学校生活を送っていた事だ。

戦闘なんて無縁な、普通の生活……あれがそうなのだろうか。

 

「ふふ、思い当たる節があるようですね。どんなものでしたか? 」

 

興味津々にそう訪ねると、俺は恥ずかしながら答えた。

 

「えぇと……学生服を来ている俺や赤城姉さん、加賀姉さん、土佐姉さんを天城母さんが見送った夢。普通の家族で、普通の生活をしていた夢を見たんだ…… 」

 

「……そうですか、それは嬉しいですね。別世界でも、私達は家族なんですね…… 」

 

「……うん 」

 

それにあの世界なら……もしかしたら血の繋がりだってあるのかもしれない。あれ?でもそうしたら父親は誰なんだろうか?そう考えると、少しだけ気になり、色々考えると笑ってしまう。

 

「ところで……気になっていたんだけど…… 」

 

そう、いちいち気になっていたのだ。端っこに何故か赤城姉さんと加賀姉さんが正座されている事に……

 

「なんで姉さん達正座させられてるの? 」

 

「土佐を送り出して分かったのですが、貴方を尾行した挙句、愛宕さんと喧嘩したからです。 」

 

「うん……ソウデスカ…… 」

 

うん、なんだろう。もう尾行された程度では驚かなくなった自分が恐い。まぁ確かに視線は感じられたから何となくは察していたけどまさか本当に尾行しているとは思わなかった……

 

え、何?というかこの人達はなんで弟を尾行してるの?初めてのおつかいとか何かなの?

というかなんでまた愛宕さんと喧嘩してるの?まぁ……あの人と赤城姉さんは仲が良いようで悪いから、良くある事ではあるのだけど……

 

「わ、私は一応止めました!ですが姉様が強引に…… 」

 

「ずるいわよ加賀!貴方だって段々と乗っかってきたクセに! 」

 

「言い訳ですか……? 」

 

何かの弁論も天城母さんの圧で消し炭にされるように無くなり、赤城姉さんと加賀姉さんはただ震えるだけしか出来なかった。

2人の状態からしてかなりの時間正座されてるからそろそろ足の痺れも限界だろう。ここは何とかフォローいれるべきだと思い、俺は口を割ろうとしたその時、土佐姉さんが後ろから俺の右肩を掴んだ。

 

「優海、止めておけ……ここは大人しく撤退するべきだ…… 」

 

「いや、もう許しても良いんじゃ…… 」

 

と言おうとしたが、やはり怖すぎる圧に怖気付いてしまい、心の中で赤城姉さん達に謝りながら土佐姉さんと一緒に部屋から出ていった。

 

「……うどんでも食べに行くか 」

 

「うん……食べに行こうか…… 」

 

気まずいながらも家を離れ、近くの店まで足を運んだ。外はもう夜で冷え込みながらも、店の暖房が凍えるような寒さを無くしてくれた。

空いているカウンター席に座り、店番の饅頭からお品書きを渡される。

 

「どれにしようかな…… 」

 

うどんなんて久しぶりに食べるから、どれを食べようか迷っていた。自分のお腹と相談し、写真にあった天ぷらを見たらそれが食べたくなってきた。

 

「よし、天ぷらうどんにしようかな 」

 

「では、私はきつねにしよう。大盛りでな 」

 

饅頭に注文を通し、うどんが出来るまで暇を持て余す。

そう言えば、土佐姉さんとこうして2人でご飯を食べるなんて初めてかもしれない。

待つこと数分、予め麺を用意していたのかそれ程待たずに天ぷらうどんときつねうどんが机に置かれた。

出汁の匂いが食欲をそそり、懐かしのうどんを目の前に目を輝かせた。

 

「わぁ……久しぶりだなぁ 」

 

「アズールレーンにうどんは無かったのか? 」

 

「麺類はパスタとかそういうのだっからね。それに天ぷらもエビフライだったから、なんだか食べたくなっちゃって。啜り方忘れてないかな? 」

 

パスタを食べる時はフォークを回して麺を周りに集まらせて食べるとオセアンに教わったから、啜るという事は長年してきてない。

 

そう思いながら箸を手に取り、いただきますと言ってからうどんの麺を掴み、1口啜った。

幸い問題なく啜ることができ、そのままコシのある麺を噛んだ。

お餅のようなモチモチと歯ごたえの良い食感と、出汁の風味が合わさり、更に懐かしのうどんのせいかこれまでなく美味しさを感じられた。

 

次に天ぷらを半分食べると、出汁で衣がふやけていたが、その分出汁の風味が染み込んであり、エビの味とマッチしていた。

 

「美味しい!いやぁ〜本当に久しぶりに食べるうどんは良いな〜! 」

 

「おい、もう少しゆっくり食べたらどうだ。汁が飛ぶ 」

 

土佐姉さんに注意されて、もう少し俺はゆっくりとうどんを啜った。

 

「……優海、お前はアズールレーンに戻るのか? 」

 

「んむ? 」

 

口に含んでいるうどんを飲み込み、そのまま口を出す事は無かった。何故なら自分でも迷っているからだ。

 

「……戻りたいとは思ってるけど……分からなくなったんだ。そもそも指揮官になった理由は、この重桜に戻りたい一心だったんだ。そんな俺が戻っても良いのかなと、この場所を離れるのが嫌な自分がいるんだ 」

 

うどん一杯の汁に映っていた自分はなんとも情けない顔をしていた。

どうして良いか分からず、あわよくば他人に答えを決めてもらおうと言った心境が顔にも浮かんでいて嫌になった。

そんな顔を見ないようにと、箸で汁を少し回し、見えないようにした。

 

「俺……どうしたら良いと思う……? 」

 

「それは自分で決める事だ。他人から得た答えを進んで、お前はそれで納得するのか? 」

 

「それは……納得はしないと思う…… 」

 

「それに、お前がそんな理由で指揮官になったとは思えんがな 」

 

「え……? 」

 

そんな理由って……重桜に帰る理由で指揮官になった事で良いのだろうか。

でも実際帰りたいからなった訳だし……他に理由なんて見当たらなかった。

そんな事を考えてる内に、土佐姉さんは大盛りのうどんを完食していた。

「ほら、早くしないと麺が伸びるぞ 」

 

「ん?……ってあわわ! 」

 

汁を吸収しすぎてモチモチの麺がふやける前に、俺は急いで麺を完食した。

 

お腹がふくれ、暖かいうどんを食べたおかげで身体中が温まっている中、土佐姉さんと隣で夜道の帰り道を歩いていた。

 

「……さっきの話の続きだが、お前はもっと別の理由を持って指揮官を続けたはずだ。動機はどうあれな 」

 

少し歩くと、土佐姉さんは店の中での話の続きをした。

 

「別の理由って言われても……俺、自分の事で精一杯だったし…… 」

 

「そうとは思えないがな 」

 

「どういう事……? 」

 

こう言ってはなんだが、土佐姉さんは俺かまアズールレーンにいた時の頃を見た訳でも無いのに、そう言われる筋合いは無い。

しかし、何故か確信があるかのような言い方に、少し戸惑った。

 

「お前はいつも通り、前に進めばいいんだ。……天城さんの教えの通りな 」

 

そう言って土佐姉さんは早歩きで先を急いだ。

俺は言われた言葉の意味を考えるのに夢中で足を止めてしまい、考え込んでしまった。

(前に進む……か )

 

俺は不意に自分の足と背後の道を交互に見た。今まで自分が歩いて来た道はどんなものだったのか、そして、自分が行きたかった場所はどこだったのか。

 

「俺……どこに向かっているんだろう 」

 

そう呟きながら、土佐姉さんに追いつくように走り、そのまま我が家へと帰った。

 

 

 

家に帰り、俺は眠れずにいた。満月が綺麗に浮かんでおり、月の光が縁側に明かりを灯していた。

頭を空っぽにして月を見上げていると、詰まった息を吐くようにため息をついた。

 

結局、俺は自分がどうすればいいのか分からずこの場所でずっと悩んでいた。考え込んで煮詰まってしまうのは良くないとは思うが、どうしてもここで考えを明らかにしないとダメなような気がしてならなかった。

 

悩みに悩み、また1つため息をつき、今はもう考えるのに疲れて今は月を眺めていた。

 

「みんな……今どうしてるんだろう 」

 

全陣営の上層部が事実的壊滅した今、KAN-SEN達やジンさん達にも多少なり影響はあるはずだ。

そう考えると気が気でならない。

 

そんな時、後ろから足音が聞こえてきた。泥棒かなと一瞬思ったが、泥棒なら庭が見えるこっちで必ず見つけられるし、姉さん達の誰かが来たのかと思いきや、近づいてきたのは天城母さんだった。

 

「あら、まだ寝ていないのですか?そんな所にいると体が冷え込みますよ? 」

 

「あ〜、ちょっと眠れなくて…… 」

 

「……さしずめ、自分が指揮官になって良いかその辺でしょう 」

 

「……土佐姉さんから聞いたの? 」

 

「そうですが……貴方が帰って来た時の様子から、何となくは察していましたよ 」

 

その時点で勘づかれていたのか……敵わないな本当に。

こうなってしまえば相談しないと選択肢は無かった。

母さんが隣に座ると、これぞとばかりに質問してきた。

 

「……向こうで会った人達には会いたくないの? 」

 

それは勿論……会いたい。会いたくないわけがない。

いつものように話したり、ご飯を食べたり、ちょっとふざけあったりしたい。

アズールレーンの人達は、ここの人達と同じぐらい大切な人達だ。でも、だからこそ……

 

「会いたいけど……だからこそなんだ。これからの【指揮官】は今までと重みが違うんだ。だから、俺よりも優秀な人が指揮官になった方が皆の為にもなるよ……俺は、出来レースでなった指揮官だから…… 」

 

そう、俺は上層部の策力によって指揮官になった。

いや、ならされたと言ってもいいだろう。俺だけが指揮官になり、他の人達は絶対に指揮官なれない出来レースに、皆は巻き込まれてしまった。

俺のせいで……重桜に帰りたいが為に指揮官なった俺よりも、もっとずっと信念をもった人だっていた。

 

その人の方がいいのでは無いか?その人の方がもっと上手な指揮が出来るのではないかと脳裏に過ぎる。

 

「俺には……【指揮官】になる資格なんて……無いよ。他人の夢や信念を踏みにじって、自分の為に指揮官になった俺なんて…… 」

 

「……少しここで待ちなさい 」

 

そう言って母さんは席に戻り、すこししたら帰ってきた。すると、母さんの手には1枚の紙……いや、手紙があった。

 

「貴方がアズールレーンからここへ戻る前に、赤城がある人から渡された物です。貴方の記憶が戻ったら渡すように言われたらしく、改めて私からこれを渡します 」

 

ある人……多分手紙を書いた人なんだろうけど、誰なんだろうか?

手紙の封を確認すると裏面に『ジン・カービス』と書かれていた。

 

「ジンさんから……? 」

 

意外な人からの手紙に驚きながらも封を明け、折りたたまれた紙を広げて手紙を読んだ。

 

 

 

よぉ、お前がこの手紙を見てるって事は、無事記憶が元に戻った見たいだな。とりあえずそうしておくわ。

 

まぁ、前書きとかはこれくらいにしてお前にちょっと言いたいことがある。

 

どうせお前の事だから、俺や指揮官を目指した奴に申し訳ないかと思って、アズールレーンに戻ることを戸惑っているかもしれないと思う。

 

でもな、少なくとも俺はお前の事を恨んでないし、妬んだりとかもしてない。むしろ俺は納得してるんだ。

お前のような奴こそが指揮官に相応しいって。

 

確かに、お前よりすげぇ信念を持った奴はいたけどよ、それ以上に腐った奴が多かった。でもお前はそんな奴らに負けずに必死に努力を重ねた。

 

正直すげぇビビったわ。俺らと同じきつい訓練を受けてるのにも関わらず、夜遅くひたすら戦術についての知識を深めていたしな。

 

……そんで、お前は挙句の果てにKAN-SEN達との絆を深めていた。聞いたぞ?お前結構好かれてるし、自分よりもKAN-SEN達の時間を優先してるらしいな?

ホント、お前は優しいよ……俺の知ってる誰よりもな。

お前は誰かの為に行動出来る。それはすげぇ事だぜ?

 

 

だからこそKAN-SEN達はお前の帰りを待っている。

【指揮官】という立場の代わりはいても、お前という代わりはいないからな。

 

……もし、お前が戻らないと決めたらそれでいい。その時は俺がなんとかしてやる。

そんでお前が指揮官になったら、KAN-SEN達と一緒に支えてやる。

お前の戻る場所を守りながら、待ってるぜ。ベストフレンド!

 

 

 

手紙はここまでだった。しかし、手紙は一通だけでは無く、KAN-SEN達が書いた手紙もあった。

どれも帰りを待っているとか、俺の体を心配したりと、俺の事を思っての手紙ばかりだった。一字一字丁寧に読み進め、いつしか手紙が水面のように揺れた、それに、目頭がほのかに熱い。

ても少し震えていて、少し呼吸が荒くなってきた。

 

いつの間にか目から涙がこぼれ、一粒の涙が手紙に落ちてシミを作った。

 

「あれ……おかしいな……っ、なんでだろう…… 」

 

涙が止まらず手紙が濡れないように折りたたみ、袖で何度も何度も涙を拭いた。

けれども涙は止まらなかった。

そんな俺を母さんは優しく抱いてくれた。

母さんの腕の中は夜の寒さを無くすぐらい暖かく、優しかった。

 

「良いのかな……っ、元々はセイレーンで、皆を騙してたのに……こんなっ……こんな俺の事を……帰りを待っているって言われて……良いのかな……っ」

 

「良いのですよ、貴方はいつも誰かに寄り添い、誰かを思い、誰かの為に行動しました。だからその人達も貴方に寄り添うのです。……貴方の周りには沢山の人が傍にいますよ 」

 

その言葉に俺は救われたような気がした。俺は更に泣いてしまい、母さんの服をまた1つ濡らし、涙がかれるまで泣き続けた。

夜で声がこだましないように静かに、ひたすら母さんの中で泣き続けた。

 

そしていつしか泣き疲れ、俺はいつの間にか母さんの腕の中で眠った。そんな俺の事を母さんはいつまでも頭を優しく撫でてくれた。

「おやすみなさい……愛しい息子……どうか良い夢を 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_1ヶ月後 ……

 

冬が終わり、春が訪れた。寒さが無かったかのような温かさと陽射しと心地よい風が吹き、良い出発日和だ。

俺はこの日、この故郷を離れてアズールレーンへと戻る。

戻ると言っても、元々居た基地に戻る訳では無い。

アズールレーンとレッドアクシズが同盟を組んだ事により、随分と前から新しい基地が完成していた。俺が行くところはそこだ。

 

「優海〜!そろそろ出発の時間よ! 」

 

「今行くよー! 」

 

向こうから赤城姉さんの声が聞こえ、別れを惜しむように重桜の土地を目に焼き付け、俺は艦へと乗ろうとした。しかしその時、長門によってそれは止められた。

 

「優海、少し待ってくれないか? 」

 

「ん?どうしたの? 」

 

長門は立場上、新しい合同基地には行けない。しばらくは会えないからちゃんとした会話が出来なくなる今、俺は長門の顔をしっかりと見た。

 

「お主に……こ、これを渡す! 」

 

そう言って、長門は俺の手に何か物を渡した。そっと手を開くと、そこには桜の刺繍が縫われた御守りがあった。

 

「これ……長門が作ったの? 」

 

店では見た事無いし、市販品にしては少し形が不格好だったので、もしかしたら長門が作った物だと尋ねた。

すると案の定、長門は恥ずかしながらも頷いた。

 

「余だけでは無く、陸奥も少し手伝ってくれた。お、お主はかなり無茶をするからな。きっと……守ってくれるはずだ! 」

 

「重桜の神子直々に作ったお守りかぁ……凄くご利益ありそうだね 」

 

「か、からかうのはよさぬか!全く…… 」

 

やはり手作りだと気恥しいのか、長門は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 

「そうそう、しかも長門姉、昨日の夜何度もお守りに願いを込めたんだよ!優海君が無事でありますようにって!」

 

「言うでは無い! 」

 

ひょこっと跳ねるように陸奥が長門の背後から現れ、満面の笑みで長門の恥ずかしさを増すような事を言った。

笑顔なのにやる事えげつないなぁ……いや、本人からしたら悪気はないと思うんだけど。

でも、嬉しいものは嬉しい。俺は肌身離さずにお守りを服のポケットに入れた。

 

「ありがとう2人共。じゃあ……行ってくるよ 」

 

「うむ、気をつけるのだぞ! 」

 

「行ってらっしゃい! 」

 

2人に見送られながら、俺は重桜の土地から足を離し、艦に乗った。

乗った艦の名前は……【江風】。そして、そのKAN-SENが甲板で俺を待っていた。

 

「神子様とはもう良いのかな? 」

 

「それはこっちのセリフですよ。良いんですか?長門と離れてしまって…… 」

 

江風さんは長門の護衛役の筈なのに……どうしてか俺と一緒にアズールレーンに行くらしい。

俺は疑問に思い、今ならば間に合うと行ったが、江風さんの考えは変わらなかった。

 

「……神子様にお前の力になれたと言われんだ。もうあの子には、私の護衛なんて要らないほど強くなられた……お前のおかげでな 」

 

「そんな、俺は何もやってないですよ 」

 

「いや、お前のおかげで神子様は立派になられた。……私も踏ん切りがついたしな 」

 

「……?最後何か言いましたか? 」

 

最後の方、江風さんが俺とは反対向きになって喋った為、よく聞き取れなかった。もう一度言ってと言っても、江風さんは何でもないと言って何も言ってくれなかった。

 

「あらあら、そんなに人を困らせてはダメですよ? 」

 

後ろから天城母さんの声が聞こえ、俺は後ろに振り返る。そこには赤城姉さんと加賀姉さん、土佐姉さんもいた。

 

「さて、もう皆さんも位置に着きました。そろそろ出発致しましょう 」

 

「そうだな……よし、出発するぞ 」

 

江風さんが、艦の方に意識を向けると、艦はゆっくりと動き出した。とうとう、この重桜とは一旦のお別れとなってしまい、俺は重桜の土地を見た。

まるで船出を祝福するかのように桜が土地に満遍なく咲き誇っており、桜の花びらが風でここまで届いた。

柔らかい花びらを握り、必ずまた帰ってくると誓った。

 

(必ず……ここに戻ってくるよ )

 

こうして、俺の新たなる蒼き航路の物語は始まった。




これにて重桜編は完結です!
ここまで読んでくださり、本当に有難うございます!

次は一体何編なのか、どんな事が待ち受けるのか……!?

ご期待ください

もしもの話(R-18)を観測しますか?

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