もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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こんにちは!白だし茶漬けどす!(唐突な京都弁)

今回はテネリタスの物語です。
やはりこちら側も書きたいと何度も思ったので、この幕間の物語を借りて書かせてもらいました!

意外な一面が見れるかも……?それではどうぞ!



正義と悪とは

どこかは知らない海域にセイレーンが作り出す【鏡面海域】を作り出し、KAN-SEN達とセイレーンに見つからない拠点を作った。

 

【鏡面海域】とは、セイレーンが定期的にKAN-SEN達の【駒】を使って何かの実験をしている所だ。

端的に言えば、鏡合わせのもう1つの海だ。俺はそれをひと工夫して、全く別次元の海域を作り出し、いかなる探査も映し出されない、いわば【虚空海域】を作り出し、その内にある小さな島を拠点にしていた。

いつまでも艦の上で拠点を置いては行けないからな……

 

そして、その拠点で何をしてるのかと言うと……

 

「マーレ?ちゃんとご飯は噛まないと、体に悪いのよ?

 

祖母と朝食を取っていた。祖母と言っても、俺が蘇らせたのは全盛期の姿……20代前半なので祖母と言うにはかなり違和感がある。

薄い桃色の髪に、眼鏡を掛けており、俺と一緒に朝食を食べていた。

テーブルの上には、白米と味噌汁、そしておかずに焼き鮭と、いわゆる重桜食が並んでいた。

 

「……なんで重桜食なんですか 」

 

俺たち全員はロイヤル出身だ。朝にしてはかなり作り込まれ、それに量が多い。この箸という物も使いずらいし、朝食で小一時間は取られそうだ。

別に不満がある訳では無い。料理は美味いし、朝から活力が得られそうだった。

 

「ええとね……貴方の為に栄養バランスを考えたら……重桜食が一番良いかなって。……美味しくなかった? 」

 

申し訳なさそうにミーアさんがこちらを見つめ、何故か変な罪悪感が生まれた。

「……美味しいですよ 」

 

お世辞では無く、こればかりは事実だった。むしろ、こっちの料理の方が舌に合っていた。ロイヤルは菓子の方は美味いが、料理の方はと言うと自分でも食べたくない物が多かった。

まぁ、最近に至っては他の陣営のアイデアを取り入れ、マシな料理が増えてるとは聞いたが……

 

「本当に!?良かった……重桜食には慣れてないからどうかなるかなって思ったけど、本当に良かったぁ…… 」

 

ホッとしたようにミーアさんは笑い、そのまま嬉しそうに俺が朝食を食べている所を見つめていた。そんなに見つめられると、少し食べづらいくなる。なんて、ミーアさんの今の顔の前では言える訳も無く、ここは1つ話題を作ろう。

 

そう言えば、起きてから今まで他の人を見た事が無いな。まだ寝てる……事は無いだろう。何せロイヤルの英雄だ。きっと規則正しい生活を送っているのだろう

 

「他の人達は何処に行ったんですか? 」

 

「ん?多分まだ寝てると思うけど…… 」

 

……は?まだ寝てる?だって今午前8時だぞ?疲れているのか?しかし、昨日は全員それ程動いては居ないはず。唯一体を動かしたと言えば、日課の手合わせだけだ。

日課の手合わせとは、俺が自主的に先代のテネリタスに勝負を挑むという物だ。戦績の方はと言うとまずまずなのだが、3代目の当主【アトラト・テネリタス】にはまだ1勝もしていない。しかも本来の力の5分の1にも満たない力らしいので、底が読めなかった。

 

そんな人が……寝坊とは考えられなかった。そして、後ろから覇気のない欠伸が聞こえた。

 

「ふぁ〜……あ、8代目ちゃんと10代目君、おはよう。早いね〜 」

 

この日、俺にとっての偉大なる英雄の象が跡形もなく崩れ去った。だらしない寝癖に覇気のない雰囲気、今なら楽に倒せるのでは無いかと思える程だ。

だが……にじみ出る圧がビリビリと感じ取られ、本能で勝てないと悟った。

俺は挨拶を交わした後、朝食を食べた。

 

「おはようございます、アトラトさん。朝食は如何なさいますか? 」

 

「ん〜トーストで良いかな〜あ、ジャムとかたっぷり塗ってね〜 」

 

「ダメです。アトラトさんは甘い物を食べ過ぎです。今日のジャムはちょっとにします 」

 

「え〜そんなぁ〜! 」

 

まるで母親と駄々をこねる子供のような雰囲気に俺は1人取り残されていた。これがロイヤルの英雄……ますます信じられなかった……

俺は朝から気が重くなりながらも朝食を食べ終えた。

 

 

 

 

_数時間後

 

朝からとんでもないショックを受けた俺は、気分転換にロドンさんかセイドさんに手合わせをお願いしたい所だが、どちらも部屋にはおらず、恐らく外に出てるとは思うが、行き先が全く見当がつかない。

 

そこである人に相談だ。ロドンさんにとっては孫、セイドさんにとっては娘である、7代目当主【マリン・テネリタス】さんなら、行き先に心当たりがある筈だ。

 

丁度よく近くにそのマリンさんが近くを通り、声をかけた。

白銀のセミロングの髪に、爪を塗ってたりメイク等何故か妙にオシャレをしており、どこかに出かけようとしている雰囲気だった。

 

「あ、マーレ君じゃないの。どうしたの? 」

 

陽気な雰囲気で話しかけられ、俺にはその陽気さが眩しく見えた。

 

「えぇと……ロドンさんとセイドさんが何処に行ったか知りませんか? 」

 

「ん?お父様とお爺様?え〜と、お爺様は大きなひぐまを倒しに北方領土に、お父様はユニオンでギャンブルに行ってるから、もうすぐ帰ってくるわよ 」

 

俺は今日、景色が壊れる程のショックを二度受けた。

何をしてるんだあの二人は……ロドンさんは……うん、まぁ分かるとして、ロイヤルの英雄がギャンブル……想像出来ないというか、したくない。

人生で初めての大きなため息を吐いていると、そのセイドさんが酒臭さを帯びながら陽気な雰囲気で帰ってきた。

 

「いや〜大漁大漁!ガッポリ稼いで来たぜ〜!いや〜ディーラーが下手くそでお陰でやりやすかったぜ! 」

 

「わぁ!流石お父様〜! 」

 

「……はぁ 」

 

テンションの高い家族についていけず、俺は呆れてワープ装置で拠点から出ていった。

場所は特に指定はせず、ランダムの座標で海上に出た。

確認した所、アイリスの海域内だった。

 

「……アイリスか 」

 

その言葉と共に、不意にネージュの姿が頭に浮かんだ。

ネージュがアイリス出身だからなのかは知らないが、突然頭の中に現れたネージュを払いながら、俺は目的の無いままアイリスの地へと足を運んだ。

 

昔はよくアイリスに行ってネージュと遊んだものだ。

立場を忘れて泥だらけになったり、ずっと家にいたネージュには俺の旅日記をいつも渡していた。

ネージュは俺の話を目を輝かせながら聞き、旅のお守りにを幾つも作っては渡してくれた。

 

……何を言ってるんだ俺は、いくらアイリスに来たからってどうして今更ネージュとの思い出を思い出しているんだ。

あいつと俺は今は敵……いや、あいつはそうは思っていは居ないのだろう。もしかしたら俺も……俺はネージュが昔くれたペンダントを2つ手に取った。

 

エンタープライズの攻撃で表面がひび割れているのが俺の、もう1つはネージュのだ。

訳あって今はネージュのペンダントを持っているが、いずれは返すつもりだ。どう返すかはまだ決まってないが……

 

「返せる日が来るかどうか怪しいがな…… 」

 

俺はペンダントを大事にしまい、アイリスの街並みを歩いた。

 

「きゃぁぁ!誰か助けてぇぇ! 」

 

無心で歩いていると、突然誰かの叫び声が聞こえた。声の大きさからしてかなり近く、方向的には路地裏の方だった。無視することも出来ず、俺は表情を変えずに路地裏に向かった。

路地裏に辿り着くと、男3人が女1人を壁際に追い込んでいた。

男達はとても体が付きが良く、3人組の辺りからしていつも行動している奴らだろう。

 

「さぁ追い詰めたぞぉ? 」

 

「誰か……誰か……! 」

 

男達は楽しそうに女にじりじりと近づくことはせず、一定の距離を保って女の叫びを聞いていた。女は甲高い声で助けを呼び続けると、ようやく俺の方に目を向けた。

 

「あぁ!そこの人!どうか助けて下さい! 」

 

女が俺に助けを求めると、男達も俺の存在に気づき、こちらに振り向いた。いかにも悪という顔つきの奴らが、余裕があるように俺を笑いながら見ていた。

 

「おうおう、怖い目をした兄ちゃんだねぇ?カッコつけて人助けってか? 」

 

怖い目か……確かに優海(アイツ)に比べたら相当怖い目だろうな。優海(アイツ)の目はとても優しく、それに比べて俺は冷徹な目だ。……同じ顔で、俺を元に生まれたのにも関わらずにな……

 

「無視してんじゃねえよ!さっさと金目の物置いて逃げなぁ!その身なりだとボンボンそうだからよぉ! 」

 

考え事をしていると、相手は無視してると思われた……と言うか半ば無視していたが、その事が気に入らずに逆上し、二人が銃を向けてきた。構え的にそこそこは撃ち慣れている様子だった。恐らくだが、何度もこのような手口を繰り返しているのだろう。

俺はあまりのねちっこさに溜息をついた。それを見た男達は、舐められていると思ったのか更に逆上した。

 

「なんだその態度は!状況分かってんのか!? 」

 

「うるさいぞゴミが 」

 

静かに放った俺の言葉に1人の男は遂に沸点の低い怒りを超え、そのまま銃の引き金を引いた。サプレッサー付きで静音化された銃声と共に弾丸は真っ直ぐこちらに向かった。

……だが俺はKAN-SEN達と何度も何度も戦っている。普通の武装では俺は傷つかないし、なんなら弾丸が目に見えていた。

弾道は俺に向かっておらず、動かなくても交わせた。弾丸は俺の横を通ると、そのまま後ろの壁に突き刺さり、銃痕を残した。

 

「どうだ、本物の銃だぞ?これに懲りたらさっさと」

 

「黙れ屑が。もうこんな茶番は飽き飽きだ、この場にいる全員潰してやるよ 」

 

出会わせた以上、こいつらを放っておく訳には行かず、丁度気分も少しイラついていた。ここで発散させておくのも悪くは無いな。

と言っても、相手はただの人間、こっちはセイレーンだ。サンドバッグになるといいがな。

 

「この野郎……! 」

 

男が怒りの臨界点を超えて引き金を引き、続いてもう1人の男も発砲した。しかし、弾丸がスローモーションに見える俺にとっては驚異にもならず、スライディングして弾丸を回避した。

 

「なに!? 」

 

弾丸を避けた事に驚いた男達の隙をつき、体勢をしゃがみ状態まで戻し、そのままナイフを持った真ん中の男に向けてアッパーを繰り出した。真ん中の男の首が折れた音が微かに聞こえるが躊躇はしない。そのままナイフを持った手事蹴りあげ、ナイフを上空にほおり蹴った。

仲間がやられた姿を見ている隙に、俺は左にいる男の顔を左手で掴み、そのまま壁にめり込ませた。

コンクリート創りの壁がヒビが入り、俺の力に負けて男の体を象るように穴が空いた。恐らく複数の骨が砕けただろうが気にしない。

 

「ひぃ! 」

 

それを見た最後の男が情けない悲鳴を上げて銃を向けるかが、手が震えて引き金を引けなかった。

慈悲も無く俺は男の腹に蹴りを入れると、男は吹っ飛び、壁に激突した。あまりの衝撃で壁にめり込んだ男はそのまま気絶した。

そしてようやく最初に倒した男が重力に引っ張られて地面に落下した。

 

「こんなものか…… 」

 

当然と言えば当然の結果だ。さて……後は……

 

「ひ、ひぃ!来るな! 」

 

この女だ。女はバックから銃を取り出し、銃をこちらに向けた。口調も変わり、女はとうとう正体を現した。

そう、これは男3人による強盗では無く、女含む4人によっての強盗だったのだ。

 

「やはりか 」

 

「やはりって……あんた、いつから!? 」

 

「ほぼ最初からだ。こいつらが強盗してるのにも関わらず、あんたと一定距離を保っていた。強盗だったらその場に留まらずに直ぐに物を盗って去るべきなのに、それをしなかった。この時点で直ぐにお前らがグルだって事に気づいた 」

 

最初から見透かされていた事実をようやく呑み込んだ女は俺に怯え始めた。その怯えからには、焦りや俺を相手にした事の後悔が入り交じっていた。

 

「く、来るな!この至近距離なら絶対に当たるわ!さっさと金目の物を…… 」

 

ここまで追い詰めても尚金目の物を求めるのはある意味凄い。だが、それが彼女が自分自身の首を絞めることになった。

 

「それよりも上に注意した方が良いぞ 」

 

「は? 」

 

女は上を見上げると、上空には俺が最初蹴りあげたナイフが回転しながら彼女の腕に向かって落下した。

ナイフは彼女の右腕に突き刺さり、彼女はこの日初めて本当の悲鳴を上げた。

 

「きやぁぁぁ!う……腕が……私の腕がぁぁぁ!! 」

 

腕を突き刺したナイフを取ろうとせず、女は痛みに耐えきれずに悶絶した。ナイフを取り出せば痛みは抑えられるだろうに、女はそれをする余裕は無かった。

泣き叫び、誰かの助けを求めるが、もう周りには誰もいない。どれだけ助けを呼んでも、叫んでも、願っても、誰も助ける事は無かった。

 

「言っただろ、『この場にいる全員を潰す』って。勿論その中にはお前も含まれるぞ 」

 

「い……いや……助けて下さい……お願いしますっ!!」

 

「……嘘だな。いつでも俺を撃てるように左手に銃の引き構えている。意図的にな…… 」

 

女は最後の望みが崩れたように絶望した表情を浮かべながら、そのまま恐怖と痛みで気絶した。

 

「はぁ……屑に会ったせいであまり気分転換にはならなかったな 」

 

取り敢えず全員はまだ息があるので携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。警察にも通報し、これでこいつらは終わりだ。

最も、多分女は男達だけを強盗だとでっち上げ、また悪事を働くと思うがな……そう考えると、こいつだけは始末しておくべきだと考えたのだが……

どうしても、その事に抵抗を感じる自分がいた。命を奪いたくないそんな弱い自分がいた。

 

「なんでだ……?なんで……! 」

 

そんな自分を消し去りたい筈なのに、ずっとこびりつく汚れのように俺の中から離れなかった。

結局、俺はこいつらを見逃し、この場を後にした

 

 

 

 

いつの間にか昼頃になり、俺は無心に街を歩いた。相変わらずロイヤルに負けず劣らずの街並みであり、菓子の良い匂いが町中に広がっていた。

「そう言えば、ネージュもここら辺の菓子が好きだったっけ…… 」

 

頼めば何時でも食べられるというのに、ネージュはわざわざ自分の足で店に歩いて並んでいた。

本人曰く『こうして苦労した方が美味しいのです! 』なんて豪語してたっけ……、それが使用人にバレて怒られたりしてたっけな……相変わらず行動が早いと言うかなんと言うか……

 

丁度人気の菓子店なのか、朝からかなりの女性客の列を目撃した。それ程美味いのかと興味が惹かれるが、俺の目は別の人に移った。

金髪の長髪であり、澄んだ青色の瞳を持ったあの人は……間違いない、4代目テネリタス当主の【シーア・テネリタス】さんだった。

拠点に居ないと思ったら……アイリスにいたのか、偶然だが会えて良かったと言うべきなのか……?

 

シーアさんは菓子を待ち遠しくしており、かつ楽しみにしてそうだった。

視線を感じでなのか、俺の方向に顔を向き、俺と目が合った瞬間、びっくりしたような表情と肩をビグッと跳ね上がらせた。

 

「ま……ママママーレ君!?どどどどうしてこんな所に!? 」

 

「いや……気分転換と言うか、あまりのショックで出ていったと言うか…… 」

自分で言ってはなんだが、後者の方が正しい。何だろうか、例えるなら、推しのアイドルの裏の顔を見た感じだ。まぁ、最初に会って何となくは感じていたから、それ程ダメージは無い。……無いと言ったら無い。

 

「よ……よく分からないけど、良かったら一緒にケーキでも……食べない?こ、ここの限定ケーキが凄く美味しいから、きっとマーレ君も元気になる筈だから! 」

 

「申し訳ありません!本日の限定ケーキは完売致しました! 」

 

申し訳無さそうにエプロン姿の店員が大声を上げ、限定ケーキが買えなかった人達は落胆して言った。その中には勿論、この人もいた。

 

「そ……そんなぁ〜 」

 

シーアさんは肩を落とし、泣きそうな目付きで落ち込んでいた。英雄の姿が見えない状況で見るに耐えなかったのか、俺はその場から離れようした。

 

だが、シーアさんを放っておく訳には行かず、俺は何か代わりになる菓子が無いかと周りを見た。

しかし限定ケーキだ、そう簡単に代わりになる物は無い。強いていえば、この近くで限定物の菓子が良いのだが、生憎菓子には疎い為そんな知識は無い。俺が行ったことあるかつ上手い菓子を扱っている店があるとしたら……一つだけだ。

 

「……シーアさん、着いてきて下さい。限定……ではありませんが、美味しいケーキが食べられる場所なら知ってます 」

 

最も、その店が今もあるかどうかなのだが。

 

「は、はい!分かりました。……けど、その前に…… 」

 

シーアさんがお腹をさすると、突然腹の虫が大きく鳴った。これは俺では無い。つまり、シーアさんの腹の虫だ。

腹の虫の鳴き声を抑えるように必死に腹部を押しているが、腹の虫は鳴り止まず、シーアさんは赤面した。

 

「あうぅ……す、すみません……凄くお腹が空いていて…… 」

 

「……じゃあ、ご飯でも食べに行きましょうか 」

 

丁度時間的に昼飯時な為、俺とシーアさんは近くの飲食店を探した。

丁度良く空いているレストランがあった為、俺達はその店に入った。店員の案内に従い、窓際のテーブルに座り、メニュー表を眺めた。

 

「どれにしましょうか……う〜ん、迷いますね〜! 」

 

メニュー表に飾られている料理の写真に目を輝かせながら、シーアさんはどれを食べようか迷っていた。

対する俺は、【タルトフランベ】と言う、アイリスの郷土料理に決めていた。

 

【タルトフランベ】とは、見た目的にはピザと同じだが、決定的な違いはトマトソースを使わないのと、薄い生地で作られている事だ。

 

ピザの厚い生地のもちもちした食感とは違い、タルトフランベは薄い生地のサクサク感が特徴だ。郷土料理な為、アレンジがしやすく、食べやすい。

 

朝食が量が多い重桜食だった為、少しの量で十分だった。しかし、シーアさんはそうはいかなった。

 

「よ〜し決めました!マーレ君も決めましたか? 」

 

「はい、じゃあ店員さんを呼びますね 」

 

テーブルにあるボタンで店員さんを呼び出し、それぞれの注文を口に出した。

 

「……タルトフランベで 」

 

「え?マーレ君、それだけで良いんですか?男の子なんですからもっと食べたないと大きくなりませんよ?もしかしてどこか調子が悪いんですか?そ、それなら早く病院に行かないと!! 」

 

いや別にどこも悪くないし、俺の体はセイレーンによって改造されてるからもう成長は出来ない。

と言うかなんでこの人は俺の注文にケチをつけるんだ……いや、本人に悪気は無いし、かえって心配しているのだろう。

それは分かるのだが、過保護すぎる。シーアさんの心配舌は止まることを知らず、俺は呆れて追加の注文をした。

 

「ああもう分かりましたよ!じゃあこの【トマトファルシ】も頼みます!これで良いですか!? 」

 

「はい!沢山食べないとダメですからね! 」

 

乗せられたのか知らないが、俺はトマトファルシも頼んでしまった。

トマトファルシもアイリスの郷土料理のひとつであり、トマトを丸ごと調理した物だ。トマトの青臭さも無く、独特な風味も味付けで抑えられているので、苦手な人でも食べられる料理だ。

 

「じゃあ私の注文ですね。え〜と…… 」

 

ようやくシーアさんの注文が口に出すと、俺と店員の耳を疑う出来事が起きた。

 

「まずガレット5人前とミートパスタ10人前、あとモッツァレラピザチーズ増量を2人前にスフレオムレツ10人前にプレロティ5人前を下さい! 」

 

物凄いメニュー量を舌を噛まずにシーアさんは言い終えると、食べ切れるのかと不安に思ったのか、それとも単に聴き逃しただけなのか知らないが、店員は不安な表情を浮かべてもう一度メニューの繰り返しを要求した。

 

シーアさんは今度はゆっくりと店員にメニューを繰り返し言ったが、前と同じメニューだった。ざっと10人前以上ある量を、店員はぎこちない笑顔で了承し、オーダーを通した。

 

「……本当にそんな量食べられるんですか 」

 

「食べられますよ〜マーレ君も、私の食事はいつも見ているはずですよね? 」

 

確かに何度も一緒に食事は取っている姿を見ていて思ったのが、この人はとにかく何でも食べる人だ。

好き嫌いも無く、常任の数十倍の胃袋を持っているのか知らないが、かなり食べる人だ。それなのに体の質量は変わっていない。一体食べ物の質量はどこに消えているのだろうか。

そんなことを考えている内に料理が届いた。しかし忘れてはならない。この料理はほんの序の口だということを……

 

「わーい!美味しそう〜いっただきま〜す! 」

 

最初に頼んだパスタ10人前を元気よく食べ続け、かなり早いペースでどんどん食べていく。まるで山のように盛られたパスタはどんどん崩れて行き、いつしか普通の並盛パスタの量に変わっていた。

 

いや早すぎだろ。こっちの料理まだ来てないんだぞ?それなのに見てるだけで腹が脹れそうだ。

しかしまだまだ止まらない。ようやく俺の料理も届き、シーアさんが頼んだ料理も次々とテーブルに並んだ。

 

1週間……いや1人1ヶ月分の量をシーアさんはペロリと平らげ、満足そうな笑顔を浮かべていた。

 

「んん〜美味しい!やっぱり美味しい物を食べると幸せな気分になれますね! 」

 

「そ……そうですか…… 」

 

正直言ってそんな気はしない。しかし本人はこれ以上無く幸せな表情でまた一つ料理を完食していった……

 

 

 

「ふぅ……ケーキもありますので、腹八分で良いでしょう 」

 

あれで腹八分!?どんだけ食べるつもりだこの人は……テーブルには完食された皿が何枚も積み重なり、最早前のシーアさんが見えない状況になっていた。

何とか会計を済ませ、早速目的の菓子店にシーアさんと一緒に向かった。

 

表通りでは無く、裏通りにある知る人ぞ知る菓子店……【silane】の看板を見つけた。長い間やっている為、外装は古びており、老舗の雰囲気を帯びていた。

 

「あった……ここです 」

 

古びたドアノブに触れ、カランカランと鈴が音を立てながらドアを開く。客は入っておらず、静かで暗い雰囲気が寂しく滲み出ていた。

 

「おお、いらっしゃい……おや、君はまさか……マーレ君じゃないか? 」

 

「……!覚えていたんですね… 」

 

俺に声をかけたのはここの店主だ。何年も前からずっとこの店を持ち、小さい頃の俺とネージュにいつもお菓子を作ってくれていた。もう何年も会ってないのに、覚えているとは思わなかった。

 

「おや……そこの人は誰かな……? 」

 

店主はシーアさんに目を向けると、シーアさんは頭を下げて挨拶をした。

 

「あ、私はシーアと申します。マーレ君の……友達?……いえ、仲間……見たいな物ですね 」

 

「おお、これはこれはご丁寧に……最後の客がマーレ君とは、これまた神様が縁を繋いでくれたのかねぇ…… 」

 

「最後……? 」

 

最後と言うと……店を畳むのだろうか。たしかにそんな感じはしなくも無いが、経営が傾いている様子は無い。

ここの菓子は俺でも分かるぐらい完成度が高く、雑誌でも取り扱われてた事がある。理由を聞くと、店主は少し暗い顔をして質問に答えてくれた。

 

「……実は、ここら一帯の土地を買収されてね、大型のショッピングモールが出来るんだ。その為、退去命令が出ているんだ。もう、どうしようも無いのさ……ははっ 」

 

頬をかきながら笑った店主さんの姿はどこか弱々しかった。笑っているのにも関わらず、手を力強く握っていた。その手からは、悔しさが伝わってきた。

 

この人は本当はもっと続けたいんだ。でも、現実がそれを許してはくれない。非情で、残酷で、思い通りにならないのが現実だ。

 

……そんな現実は果たして必要なのだろうか

 

「はは、湿っぽい話をしてしまったね。久しぶりに会ったんだ。お代はいいから、好きなだけ食べてくれ。……お茶を後で持っていくから、待っててくれ 」

 

悔し交じりの笑顔を見た後だと、嬉しくも何ともなく、俺は結局、1つのケーキしか手を出さなかった。対するシーアさんは、いくつもの菓子を皿に盛り付けていた。

窓際のテーブルに座り、店主から紅茶を渡されるものの、食べる気が起きずにじっと外を見ていた。裏通りでそれ程景色が良い訳では無いのだが、今はじっと外を見ていたい雰囲気だった。

 

「……形あるものは、いずれは無くなるものですよ 」

 

「それが誰かの手によって無理やり無くなる物でもですか? 」

 

確かに不変な物なんて無い。形あるものはいずれ無くなる事は俺だってよく分かってる。でも、これは納得いかない。いや、俺はこんな現実自体納得言ってない。

自分は何も悪くないのに、誰かの手によって望んでない現実を押し付けるこの世界に……俺は納得していない。

俺は皮肉交じりにシーアさんに反論した。シーアさんは真剣な表情でケーキを食べ続けるものの、話を進めた。

 

「……ええ。この世は誰かの手によって無くなる物が多いのです。物も、場所も、記憶も、命も、未来も……全部全部……形がない物でも、人の手によって無くなるものばかりです 」

 

そう言って、シーアさんは1つのケーキを食べ終えた。

 

「私だって、沢山の物を無くし続けました。仲間達の命も、相手の未来も……私が全部、無くしました 」

 

話しながら、ケーキを一切れ一切れ細かく、丁寧に1口サイズに切り、糧にするようにそのケーキを食べた。

 

「そのせいで責められた事だって沢山あります。仲間の家族に泣きながら恨またりしましたね……『私の大切な人を返して』って 」

 

いつしか暗い雰囲気で食欲が失せたのか、シーアさんはフォークをテーブルに置き、食べる手を止めた。

 

「もう、何かを無くすのは嫌なんです。……だから、貴方の掲げる世界を私は肯定します。貴方の目的の為に、私は貴方の盾になります 」

 

先程の雰囲気が嘘のように、真剣な眼差しでこちらを見ていた。あぁ……やっぱりこの人、いや、この人達は英雄なんだなと思えた一面だった。敵わないと思えたのか、諦めたように俺はケーキを一口、口に入れる。

 

「……まぁ、頼りにしてますよ 」

 

「はい、末の孫である貴方を必ず守りますからね 」

 

徐々に明るい雰囲気を取り戻し、シーアさんは次のケーキを取りに席を外した。本当によく食うな……見てるこっちが甘さで胸焼けしそうだった。

それを微笑ましそうに遠くから店主が笑ってこちらに近づいた。

 

「はは、ああして見ると、まるで昔のマーレ君ネージュちゃんを思い出すねぇ 」

 

言われて見れば、シーアさんのあの幸せそうにケーキをほうばっている所や、どれを食べようか楽しみながら迷っている姿は、ネージュにそっくりだ。顔立ちは違う筈なのに、雰囲気はそれに似ていた。

 

『マーレ君!これなんかどうですか? とっても美味しそうですよ! 』

 

「……ネージュ? 」

 

そのせいかシーアさんの姿がネージュの姿に見えてしまい、俺はネージュの名前を呼んでしまう。

違うやつの名前を言われたせいでシーアさんは困惑し、戸惑っていた。

 

「ま、マーレ君!?急にどうしたんです? 」

 

「っ……すみません、なんでもないです 」

 

疲れているのか、それとも懐かしい場所に来たせいなのか、ネージュの姿が頭にちらつき、目に浮かんでしまう。少し心が乱れてしまい、一口紅茶を飲んで落ち着く。後味の良い風味が、疲労した心をいやしてくれるようだった。

 

「ネージュ……って、もしかしてマーレ君の彼女ですか? 」

 

「ブフォ!?!? 」

 

折角の紅茶を霧吹き状に吹き出してしまい、咳き込んでしまう。予想が当たったと思っているのか、シーアさんは期待の眼差しの目でこっちを見ていた。

 

「その反応はまさか……!? 」

 

「違う!俺とネージュはそんなんじゃ…… 」

 

だが、ムキになって否定したら返って逆効果な気がしてきた。現に店主さんもクスリと小さく笑っていた。

 

「おや?違うのかい? 」

 

「ちがいます!! 」

 

結局、俺は最後の最後までシーアさんのペースに呑まれてしまい、日は暮れて行った。食べきれなかった残りの菓子を箱一杯に入れて貰い、遂に店を畳む準備を店主はしていた。改めて終わりの瞬間を目の当たりにすると、どこか寂しさを感じてしまう。

 

「いやぁ、今日は最後の日に君が来てくれて良かったよ。ありがとうね 」

 

「別に……たまたまですよ 」

 

「たまたまでも、こうして来てくれたからねぇ……つい最近までネージュちゃんも来たから、運命なのかもしれないねぇ…… 」

 

「ネージュが? 」

 

意外だ。あいつは今アズールレーンの後方支援で忙しい筈なのに……それに、あいつは自分の故郷であるこのアイリスを少し嫌っている。原因は恐らく……家系にあると思うが……今の俺には関係無かった。

 

「ネージュちゃんもこの店が終わると聞いてショックを受けていたよ。何とかしようと頑張っていたけど、やっぱりダメだったよ 」

 

「そうですか……アイツらしいな 」

 

必死にこの店を助ける為に動いたあいつの姿が目に浮かぶ。それ程、ここが大事だったんだろうな。

俺とは数える程しか来たことが無いって言うのに、ネージュもこの人も俺の事を覚えていてくれた。それが少し、嬉しく思えた。

 

世間にとってのマーレ・テネリタスは、今や天城優海(アイツ)の名前だ。俺という存在はもうとっくにいないものとして扱われている。でも、ネージュやこの人……そして、俺の父であるあの人も、俺を俺として見ていた。

だから、今俺は【ここにいる】という事を実感出来た。

 

だが、俺はそんな自己承認を満たしたいが為にアズールレーンに喧嘩を売ってる訳じゃない。

俺は俺の目的の為に、俺は世界の敵になる。自分の決意をもう一度改め、この場を去ろうとした。

 

「……もう行くのかい? 」

 

「俺にはやる事があるので 」

 

「……また会えるかい?その時はネージュちゃんと一緒に来て、美味しいケーキをご馳走しよう 」

 

その答えに俺は答える事が出来なかった。もししたらこれからもう二度と会えないかもしれない。その可能性の方が大きかったからだ。

 

良い答えが浮かばず、俺は一礼してこの場を去った。

 

「もう良いんですか……? 」

 

「俺は人類の敵になるんです。その敵の人類と馴れ合う必要なんてないですよ 」

 

強がるように俺は冷徹な態度をとり、拠点へと戻った。

だが、そんな強がりな態度をシーアさんは見据えているのだろう。だがあの人はあえて何も言わず、ただ俺の後についてきてくれた。

茜色の夕日が、何故か少し眩しく見えた。

 

 

 

 

 

この日の夜は眠れなかった。冷たい潮風が体温を奪い、体を冷やさせた。だがこの冷ややかな風がどこか心地よく、俺をこの場にとどまらせた。

 

「おや?君が夜更かしだなんて意外だね 」

 

後ろから陽気な声が聞こえてきた。振り向かなくとも分かるその声の主はアトラトさんだった。

 

「貴方こそ夜更かししてるじゃないですか 」

 

「いや〜?なんか夜中に10代目君が見たから気になっただけだよ〜 」

 

相変わらずと言うかなんというか……最早かける言葉は見つからなかった。

 

「なんだか元気が無いけど、今日は何かあったのかな?」

 

なんで気づくんだこの人は……こういう1面もあるし、しかも俺はこの人に勝ててもないから侮れない。

 

「……悪い奴らってどうやったら居なくなるんですかね 」

 

俺は不意に今日の事……いや、これまで出くわした全部の出来事を思い返した。今日みたいな小さな強盗や、子供を紛争に駆り出す奴まで見た。その時はまだ生きていたので、なんの力も持っていなかった。

紛争で手足が無くなり、痛みで泣き叫ぶ子供を俺は見る事しか出来なかった。

 

その光景を見た時から、俺は人が人から何かを奪うこの世界を呪い、憎んだ。だから今、ここにいる。

だが、今でも世界の歪みは消えていなかった。どうしたら良いか、何が正解なのか分からず、俺はこの人に尋ねてみた。

 

「へぇ……その悪い人になろうとしてる君がそんな事を言うのかい? 」

 

「……まぁ、そうですね 」

 

「……悪は無くならないよ。だって、その人自身が悪とは認識してないのもあるけど、その悪がその人にとっては正義なんだから 」

 

揚げ足を取ろうとするアトラトさんであったが、俺の質問にはちゃんと答えてくれた。いつものほほんとしていた雰囲気は消え、どこか寂しそうな表情を浮かべながら海を眺めていた。

 

「……僕は英雄だなんて呼ばれているけど、僕は守りたい人の為に他の人を傷つけたんだ。命は奪わないで、手足とか切り落としたんだけど……それは死ぬことよりもツラいことだったんだ…… 」

 

アトラトさんは、記録では敵の命を奪っていない不殺主義を貫いていたが、アトラトさん自身はそれを後悔しているようだった。

 

「僕は誰も殺したく無かったんだ……でも武器を壊してもまた何度も何度も敵は襲いかかり、仲間を殺す……だから手や足、時には目や口を斬った。……結果、敵は死よりも辛い現実に直面した。目も見えず、口も聞けず、辛い現実に耐えきれなくて自殺した敵だっていたらしいよ……味方からは英雄と呼ばれても、敵にとっては僕は残虐な狂人って言われたらしいよ 」

 

気にしていない素振りをしていたが、声が震えていた。当時のこの人はどんな気持ちで戦っていたのかは知らないが、その苦悩は想像を絶する……いや、想像すらおこがましい事だろう。

「君はどう考えているんだい?正義とは、悪とは何か? 」

 

「……俺は 」

 

俺は見てきた、人の愚かさを

 

俺は見てきた、人の弱さを

 

俺は見てきた、人から人に全てを奪う傲慢さを

 

生前も、今までも俺は人の悪意や闇を見てきた。人が人に危害を加え、分かり合おうともせずに自分の得や悦だけを考え、結局人は自分が良ければそれでいい奴らばかりだった。

 

だから格差が生まれる。だから争いが生まれる。だから人は……愚かであり続ける。だから……悪が生まれる。

 

「立場で正義にも悪にも変わるなんて、そんなのは無いと同じだ。そんな曖昧な物を掲げるから戦いが生まれる。だから…… 」

 

俺は立ち上がり、夜に浮かぶ満月を握りしめるように拳を作った。

 

「だから俺はこの世の全ての悪になる。圧倒的な力を手に入れ、全てを俺の手にする。そうすれば…… 」

 

アトラトさんは何も言わずに、ただ黙って俺の話を聞いてくれた。俺もこれ以上何も言わず、そのまま立ち去った。

 

 

「……分かっているのかい10代目君。それは君が…… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君じゃ無くなるって意味だよ 」

 

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