もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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ようやく投稿しました……白だし茶漬けです。
なんだか最近集中力がつかず、しかも小説の書き方がなんだか下手になりつつあります。

少しの見直しもある事から、かなり投稿ペースが不安定になります。申し訳ありません_| ̄|○


出港の時

アズールレーンとレッドアクシズの合同基地に来てから早数週間、俺はまたもや基地から離れる事になる。

 

と言っても、鉄血の指導者ビスマルクとの約束もあるので、基地を離れて鉄血に行かざる負えないけど。

ビスマルクと交わした約束とは、アズールレーンと同盟を結ぶ条件に、俺が鉄血に行く事だ。多分、俺の艤装やらの分析の為だとは思うけど。

 

その約束も明日になり、やり残しが無いように執務室で真面目に書類仕事をしているのだが……

 

「なぁ優海〜今日ぐらい遊ぼうぜ〜?お前ここに来たからずっと仕事ばっかじゃねえかよ〜 」

 

ソファーの上に力が抜けきったような体勢でダラダラとジンさんがくつろいでいた。まるでここを自分の部屋だと思っていると思うけど、ここ執務室だよ?

しかも呑気にお菓子とか持ってしてるし……正直集中出来ない。

 

「ジンさん……貴方も自分の仕事があるでしょう?良いんですかそんなにダラダラして 」

 

全ての陣営の上層部が事実上の壊滅になり、上層部は軍事にまで手を回すことが出来なくなり、その為軍事権を全て指揮権である俺に譲渡した。

その影響で書類仕事がごっそりと増え、そのしわ寄せに後方部隊のトップであるジンさんもかなりの仕事量があるはずだけど……ジンさんの様子を見るとそんな様子は無いように思えた。

 

「ん?あぁ、そんなもん終わらせたよ。なんなら確認してみるか? 」

 

「……いや、多分嘘は言ってないでしょ? 」

 

ジンさんは正解と言うように笑顔を俺にみせた。

そうだった、この人は性格とは裏腹にかなりの切れ者だ。身体能力は勿論の事、知識面もかなり優秀だ。1番近くにいるリアさんの話に聞くと、頭は良いけどアホな奴と言うほどだ。

 

確かに、行動は難ありなんだよなぁ……なんだろうか、欲望のままに行動してる事が多い。この前だって風呂場を覗こうとかどうのこうの言ってたし、精神年齢幼くないか?この人俺よりも年上……だよね?

 

「ふぁ……なぁ、指揮官ってやっぱ大変か? 」

 

暇なのか欠伸をしながらジンさんはそう尋ねてきた。

 

「ジンさんの方はどうなんですか? 」

 

「俺?まぁぼちぼちだな。アズールレーンとレッドアクシズが同盟を組んだから管理する物も多くなって大変にはなったな 」

 

「それなのに……今そうしてだらけきってるんですか? 」

 

「そりゃあ、リアもいるからな 」

 

するとジンさんはソファーから体を起こし、少し真面目なトーンでリアさんの事を語った。

 

「あいつのサポートはヤバいぞ?俺のミスを素早くカバーしてくれるし、俺の体調まで管理してくれる。そうだな、言うなればツンツンしたベルファスト見たいな奴だな。そして有能故に任せている 」

 

リアさん見たいな性格したベルファスト……なんだか想像がつかない。と言うかリアさん見たいにズケズケ言うとなれば、シェフィールドの方が近いような……

いや、考えるのはやめよう。本人に何されるか分からない。

 

「なぁ、そう言えば秘書艦はどうしんたんだ?いつもならいるはずだろ? 」

 

「うぐっ 」

 

「ん?……あぁ、お前……今日は仕事しないって嘘ついたんだな〜? 」

 

そう、いつもなら執務をサポートする秘書艦がいるのだが、今この執務室には俺とジンさんしかいない。

秘書艦がいない……つまり、今日秘書艦は必要ないと言う事だ。

秘書艦が必要ない程俺は仕事が出来るわけでは無い。むしろ今の状況だと絶対に必要だ。それなのに今秘書艦がいないということは……俺が仕事をする必要が無い。いわば休みの日だけだ。

つまり、俺はKAN-SEN達に仕事をしないと嘘をついて仕事をしているということだ。

 

「悪いヤツだな〜んん?KAN-SEN達にチクろうかな〜?

 

弱味を握ったジンさんはこれみよがしにウザったらしい笑顔を浮かべながらこっちを見ていた。

ここでもしジンさんがKAN-SEN達にこの事を言えば……怒られるだけでは済まないだろう。何とかして口外は避けたいが、その方法は一つだけ。ジンさんの言うことを一つ聞くぐらいしか無いだろう。

 

「……何をさせたいんですか 」

 

「分かればいいんだよ 」

 

勝ち誇った様に歯を見せながらジンさんは笑うと、真っ直ぐこちらに向かい、笑顔で顔を近づけた。

 

「うし!遊びに行こうぜ! 」

 

ジンさんからの提案は、俺と一緒に遊ぶ事だった。そう言うと同時に俺の腕を掴み、そのまま勢い良く外へと連れ出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

_数時間にて

 

そして今現在、ジンさんに連れてこられたのはビーチだった。

 

「いやなんでビーチ? 」

 

水着も持っていないから泳ぐ事も出来ないし……出来ることと言えば砂場で出来ることだけだ。

ビーチにはKAN-SEN達が水着で遊んでおり、のびのびと楽しんでいた。KAN-SEN以外にもリアさんやネージュさん、それに日陰の下でだらけているリフォルさんもいた。

 

「ここならKAN-SEN達もいるし、何より気分転換にもなるだろ?ま、仕事の事なんか忘れろってことさ 」

 

そう言えば、ここ最近は海なんか見た事無かったけ……こういう時に限って人を見てると言うか、なんというか、他人の事をよく見ている人だ。

そう言いながら、パラソルの下の椅子に寝転がり、そのまま寝てしまいそうな勢いで静かになった。

 

「お前も寝転がって見ろよ。潮風で清々しくなるぜ

 

「じゃあ……失礼します 」

 

隣に空いていた椅子に寝転がり、目を瞑って感覚を集中させた。

風の心地よい冷たさが肌に程よく刺激させ、確かに清々しい気分になれた。

 

「なんか、こんな時間は久しぶりだな 」

 

「え? 」

 

「お前、いつも何かと忙しいだろ?こんな風に一緒になるのは久しぶりだなって 」

 

確かに……同じ基地にいてもジンさんと一緒いる時間はそんなに多く無かった。俺がいつも執務に時間をかけてるせいでもあるのだが。

後から考えてみると酷く申し訳無い気持ちになり、ジンさん謝ろうとしたが、ジンさんはとっくに寝てしまっていた。

 

これでは謝罪の言葉も届かないので、俺は言葉を飲んで空を見上げた。流れる雲を見つめながら風を感じていると、なんだか無性に眠気が襲いかかってきた。そう言えば最近寝る時間が遅かったから、その分のしわ寄せがここに来たのかも知れない。

俺はそのまま瞼の重さに従い、ゆっくりと瞼を閉じようとした時、砂浜を歩く足音が後ろから聞こえてきた。

 

「あら、指揮官がこんな所でお昼寝かしら? 」

 

凛とした声で静かに語りかけてきたのは、リアさんだった。呆れたようにも仕方ないと言った顔で俺とジンさんを交互に見ていた。

 

「いや、これはサボりとかそんなんじゃ無くてですね……! 」

 

こんな時間に呑気に昼寝としていては、誰だってサボりだと判断する。しかもリアさんの性格からすれば間違いなく怒られる。怒られる事を悟って目を瞑ると、リアさんは怒号も無ければ叱り声も出さず、そのまま笑っていた。

 

あまりの意外な反応に目を丸くさせ、俺はリアさんが他人に思えてきた。いや、目の前にいるのは間違いなくリアさんなのだが。

 

「なに?私が怒鳴り声をあげて仕事しなさいって言おうと思ってた? 」

 

「え、えぇと…… 」

 

「別にいいのよ。ジンにいつもしている事だし、貴方もジンにここまで連れてこられたのでしょ? 」

 

俺はその通りだと言わんばかりに首を縦に振り、やれやらと笑いながらリアさんはそのままジンさんが寝転がっている椅子の空いているスペースに腰をかけ、寝ているジンさんの髪を櫛で通すように優しく撫でた。

 

なんだか……いつものリアさんとは少し違っていた。本人には失礼だが、俺にとってのリアさんのイメージは、いつも(ジンさんのせいで)怒っているイメージだが、今そのイメージが壊されたような感じだ。いつもだったら絶対見れないリアさんの姿に、俺は見つめる事しか出来なかった。

 

「……随分と疲れてたのね。全く、いつも遅くまで1人で執務作業してるからよ 」

 

「え……リアさんに仕事を任せてたって言ってましたけど…… 」

 

ジンさんから聞いた話と全く違う事を聞いた俺はリアさんに問いただした。リアさんは一瞬驚いたように目を見開くと、ため息をつきながらジンさんを見つめた。

 

「そんな事言ってたのね……そんなのは嘘よ。この人は誰よりも仕事して、誰よりも1番体を壊してるんだから 」

 

中々衝撃的すぎて思わず体を起こしてしまい、ジンさんをまじまじと見つめた。自由奔放で、執務なんか一切しないような感じの人だから、リアさんの言うことが信じられずにいた。

だが、リアさんが嘘をついている様子も無い。そもそもここで嘘をつく理由なんて無いし……やっぱり本当の事なんだろう。

 

「信じられないって顔ね 」

 

「そりゃあ……あのジンさんがそんな真面目に仕事やってる姿なんて想像出来ませんよ 」

 

「ふふ、確かにね。でも、本当よ 」

 

そう言ってリアさんは服のポケットから携帯端末を取り出し、端末にある1枚の写真を俺にみせた。

端末に映っていた画像の中には、数々の書類に囲まれながら真剣に執務をこなしているジンさんの姿が写っていた。

 

写真の空は暗く、明らかにかなり遅い時間の筈だ。しかも書類が山のように積まれている事から、明らかに仕事量が多い。俺と良い勝負……いや、それ以上かもしれない。

 

写真に写っているの、別の人じゃないかと疑い、写真のジンさんと目の前のジンさんを交互に見返すと、やはり同じ顔だ。本人で間違いなかった。

 

「言ったでしょ。こういう奴なのよ……他人にはそんな素振り見せないで、ただただ無駄にうるさくて明るい……それがジン・カービスなのよ 」

 

そう言いながらリアさんは携帯端末をポケットに戻し、無理のし過ぎだと怒るように無言でジンさんの頬を人差し指でつついた。

しかしジンさんは起きず、指でつかれた事にも気づいていないようだ。

 

「写真見せてもらってなんですけど……まだ信じられません。一体どうして…… 」

 

「……多分、お父さんと違う事を証明したいんでしょうね 」

 

「お父さんって……ジンさんのですか? 」

 

そう言えば……ジンさんの家族の話は聞いた事が無かった。ジンさんからは何を言ってもはぐらかされたのがほとんどだからあまり気にかけてはいなかったけど。

 

父親と違う事を証明したいって……どういう事だ?

しかも、ジンさんの家族の話を聞こうとした途端、リアさんの表情が暗くなった。

話そうか迷っているのか、リアさんは顔を難しくさせ、ようやく話をしてくれた。

 

「……ジンの家系、カービス家はユニオンの中でもかなりの家系なの。ほとんどの大企業を傘下に収め、政界にも介入してるらしいわ。噂では、アズールレーン上層部にも関係を持っているそうだけど…… 」

 

「……そんな凄い家系の末裔が、ジンさん……? 」

 

「そうよ。ロイヤルで言う所の……テネリタス家みたいなものかしら 」

 

テネリタス家って……それってつまり英雄の家系……いや、どちらかと言えば貴族の方が近いだろう。

そんな凄い家計の末裔って……しかもジンさんには妹や弟、兄や姉はいないはずなので、一人息子という事になる。

 

今までのジンさんの行動を振り返ってみてもそんな凄い人には思えない。ただただ普通の人って思ってたのに……

ん?ちょっと待て……という事はジンさんと昔から一緒にいるリアさんって……もしかして凄い人?

 

そんなに凄い人と昔から一緒にいるとすれば、まず一般人は無理だ。そうなると……限られてくるのは身内かカービス家との繋がりがある者。しかも、かなり地位がある家系に限られる。

 

「あの〜それじゃジンさんと幼なじみのリアさんもかなりの地位の人ですかね……? 」

 

恐る恐る考えを口に出すと、リアさんは冗談じゃないと言うように笑った。

 

「残念だけど私はただの一般人よ。ジンに会ったのは奇跡に等しい偶然よ 」

 

俺の質問がおかしかったのか、リアさんはそのまま小さく笑い続け、ジンさんとの出会いを懐かしんでいたが、すぐ様雲行きが怪しい表情に戻った。

 

「ジンは家からかなり厳しい教育をさせられていたのよ。それこそ血反吐を出すような辛い事を……子供の頃からさせられたらしいわ…… 」

 

「……! 」

 

考えられなくは無かった。ユニオンでも指折りの家系で、尚且つ跡取りがジンさん一人だとすると、跡取りに相応しく育てるのは自明の理だ。

だが、リアさんの表情からして、それは良いものでは無いのだろう。

 

「私からは話を聞いただけだけど……家から抜け出すぐらい酷かったわ……私と初めて会った時なんて、相当酷い外傷があったのもの…… 」

 

「それってほぼ虐待じゃ無いですか! 」

 

「そうね、でもジンがそれでも笑っているのは、ある人のおかげなのよ 」

 

ある人という言葉で何故か俺の方を見ていた。様子からして俺に関係している人なのだろうか……?

 

「ある人っていうのは……ジンの母親よ 」

 

「ジンさんの……お母さん 」

 

「そう、小さい頃のジンにとって拠り所の存在よ。あと一人いるのだけど……それは本人に言って貰おうかしら? 」

 

リアさんはそう言ってジンさんに目を向けると観念したように目をゆっくり開き、この場を乗り切るように笑いながら起きた。

 

「バレてたか…… 」

 

「当然よ。どれだけ貴方と一緒にいると思っているの? 」

 

「へへ、なんか夫婦みたいなセリフだな 」

 

「なっ……!何言ってるの!?バカじゃないの!? 」

 

照れ隠しのつもりの可愛らしい怒りの手がジンさんの横腹に襲いかかり、徐々に暗い空気に明るさを取り戻していた。

 

「大体なんで私が説明するのよっ!起きてるなら貴方が説明しなさいっ!!」

 

「あいててて!言えば良いんだろ?んじゃ、まぁぼちぼち話そうかなと思ってたし、話すか…… 」

 

ジンさんは少し真剣な雰囲気になりながら椅子から体を起こし、少し真剣な目で俺を見つめた。

 

「まぁリアの言った事は本当だ。俺はガキの頃まぁ結構親父にボコられたんだよ。お前はこうしろ〜とか、こうなれ〜とかよく言われたわ 」

 

飄々と面白おかしく話してはいるけど、その実態の暗さは計り知れなかった。思いだしたくもない思い出を話してるジンさんはどこか暗い雰囲気を醸し出し、目元だって少し死んでいた。それに、いつも笑っているジンさんが笑っていなかった。

 

「でもな、それでもお袋やあの人の生き様が支えてくれたんだよ 」

 

「あの人……? 」

 

「6代目テネリタス当主、セイド・テネリタスさ 」

 

 

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痛い……痛いよ父さん……僕、こんなのしたくないよ。毎日毎日こんな地獄のような一日は嫌だよ……

死にたい……いつもいつもこう思ったら、いつしか本当に死にそうだ。

 

足が疲れて動けないのに運動させられるし、勉強で分からない所があれば怒りながら体を叩き尽きられる。

 

腕が、足が、指が、頭が、身体中だけじゃなく、心までも悲鳴を上げてるように痛みが走り続ける。見える世界が灰色に見え初め、食べる物さえも味がしないようにまで無くなりそうだった。

 

何度も何度も地獄のような一日であり、それが親である父親に与えられているのだから、嫌でもそれが付き纏った。

 

でも、そんな時でも母さんはそばにいてくれた。寝る時間の時にいつも隣にいてくれて、僕が寝るまでずっと起きてくれた。そして1日の楽しみのお話を何度も何度も優しい声で聞かせてくれた。

 

_ねぇねぇ!またあのお話を聞かせてよ!

 

_また?これで何回目?全くしかない子ね

 

口ではそう言ってたけど、母さんは笑ってまたお話を聞かせてくれた。僕の夢でもあり、憧れてもある一人の英雄のお話を、母さんは優しく話してくれた。

 

 

 

むかしむかし、ロイヤルの一人の英雄が皆を守り、争いを止めました。英雄は銃を片手に皆に寄り添い、皆の隣に立って戦いました。

争いを止めた英雄は、こう言いました。『人は仲良くし、手を取り合って生きていくべき』だと。

それから英雄は色んな人と手を取り合う為に色んな場所に行こうとしましたが、英雄のお父さんからは反対されます。

 

『お前はここを守らなければならない。ここを放ってどうするつもりだ?』と英雄に言いました。

けれでも英雄は自分の意志を曲げず、父親にこう言いました。

 

 

『僕は、僕のやりたいようにやる。何故なら、僕は僕だから 』と父親を説得し、英雄は新たな世界へと冒険に出発しました。

 

英雄は色んな場所へと歩き、世界を知り、多くの人々と手を取り合いました。そして、いつしか多くの人が手を取り合い、新たな繋がりが生まれ、皆は仲良く過ごせました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「まぁ……こんな感じだ。まぁ、面白くも無かったろ? 」

 

面白いという以前に……壮絶だ。ジンさんの明るさからは全く想像出来ないほどの暗い過去を聞かされた俺は、何も言えなかった。

 

それと同時に、テネリタスの言葉を聞いて驚いた。ロイヤルならまだしも、ユニオンまでその名を届いてるとは……テネリタスの影響力は侮れない。そんな人達が……今は敵対しているし、尚且つかなり強大な力を持っている。しかも目的も分からない。先の課題は山積みだ。

 

「どうした?なんか悩んでそうだが 」

 

ジンさんに心配され、俺は心配かまいと何か話題を変えた。

 

「そ、そうだ!今ジンさんのお母さんって、どうなんですか? 」

そういうとジンさんは少し悲しげな顔を浮かべ、悲しさを紛らわせるように笑いながら人差し指を空に向けた。

 

「重桜で言う所のお天道様の所だ。かなり重い病気で……な 」

 

「あ……す、すみません…… 」

 

とんでもないやらかしをしてしまい、申し訳なさが体にのしかかるように体ど心が重くなった。重すぎてこのまま砂浜に溶けるようだ。

 

「いやいやそんな気にすんなよ〜!もうずっと昔の事だし、今更悲しむ事もねぇよ 」

 

「でも…… 」

 

「でもじゃねえよ。気にしすぎた 」

 

そう言って俺の頭をわしゃわしゃと髪を乱雑に触り、頭をボサボサにさせた。いつもやられている行動で、なんだかいつもより力が無かった。

悲しむことは無いと言っていたけど、子供の頃からの心の拠り所がいなくなったのだから、その悲しさは計り知れない。かける言葉が見つからず、俺は笑うジンさんの顔を見ている事しか出来なかった。

 

「ま、昔は色々あったけど今はすっげぇ幸せだぜ!それに、俺の憧れの人にもしかしたら会えるかもしれねぇからな! 」

 

「憧れの人って……セイド・テネリタスさんですか?でもテネリタスは…… 」

 

「まぁ敵みたいなもんだよな。だけど会ってみたいんだ。血筋に縛られずに自由に生きたあの英雄にな。まぁ……敵だから倒すには倒すけどな 」

 

ジンさんの目付きが銃口のように冷たく、鋭い目付きになり、一瞬その目を見て身震いした。

確かにテネリタスは全ての陣営の上層部を壊滅させ、重桜を、襲撃した敵だ。その筈だけど……どこか行動が謎だ。

上層部を壊滅させる力を持っていながら、KAN-SEN達を戦闘不能にまでは傷つけてない。そしてなにより、この基地に攻めたりもしない。その気になれば世界を支配する事だって容易の筈だ。

 

それをしないと言うことは何か理由があるのだろう。

考えられる理由のひとつとしては、セイレーンの存在だ。重桜での戦闘時に、マーレさんとセイレーンが戦闘していた事を目撃したから、テネリタスとセイレーンは敵対関係にあるのは間違いない。でも、マーレさんは元セイレーンの下にいたはず……一体どうして……

考えれば考えるほど謎が深まるばかりだなぁ……

 

「なに難しい顔してんだ? 」

 

「あ、いや……マーレさんの、テネリタスの目的は何かなって…… 」

 

「ん〜まぁ、考えても仕方ないだろ。そんな事より、お前に用がありそうな奴が来たぜ 」

 

俺と反対方向に目を向けると、そこには母さん1人がいた。

 

「ここにいたのね優海。最近執務室に篭もりっぱなしだから、気分転換にどこか連れていこうとしたけど…… 」

 

「……知ってたんだ 」

 

「当然です。母なんですから 」

 

その言葉だけで納得出来てしまう辺り、母親という存在は偉大だった。一緒に行動したいけどジンさんとリアさんがいる。折角誘ってくれたのにいきなり母さんと一緒に行動しようとするのは気が引けるから、ジンさんも一緒に誘うとしたが、既の所で断るように俺から離れてしまった。

 

「んじゃ俺らは邪魔だからどっか行っとくわ。親子水入らずってな 」

 

「でも折角俺を誘ってくれたのに…… 」

 

「良いんだよ。……母親を、家族を大事にしろよ!じゃあな 」

 

「私もこれで失礼するわ。じゃあね、優海 」

 

先程の話を聞いたからか、ジンさんの言葉がより重く感じた。父親から虐げられ、最愛の母親を失い、家族愛を失ったジンさんの顔は、どこか儚げだった。

そんなジンさんにかける言葉なんて見つからず、俺は遠くに行くジンさん達を見送った。

 

 

「……良いのかしら?一緒に行動しなくて 」

 

「良いんだよ。優海にとっても、家族と過ごした方が有意義な筈だ 」

 

「……そうね、天城が復活して、ようやく家族全員とまた過ごせるようになったものね 」

 

「リア、俺達もあの家族を守る為に、全力でサポートするぞ 」

 

「当然よ。それに……貴方のサポートもね 」

 

「はは、やっぱりお前には適わねぇや 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_数日後

 

鉄血のビスマルクとの約束をついに守るべく、俺は荷物をまとめて鉄血の船へと乗り込む準備をしてるけど……

 

「優海、ちゃんとハンカチは持ちましたか? 」

 

「持ったよ 」

 

「知らない人にはついて行ってはいけませんよ? 」

 

「分かってるよ 」

 

「優海?決して危ない事しては…… 」

 

「もう〜!分かってるよ!母さん!そんなに心配するほど俺は子供じゃ無いんだから! 」

 

昔からの天城母さんの心配性がここぞとばかりに全面に現れ、出発に少し遅れていた。

勿論母さんが心配する気持ちも分かるけど、もう小さな子供でも無いんだ。

少しばかりのプライドが子ども扱いしたことを許せず、俺は母さんにそっぽを向けてしまった。

 

「まぁ、反抗期かしら……よよよ 」

 

わざとらしい演技が俺の心に突き刺さる罪悪感の槍に貫かれたような痛みが走り、俺は無視する事も出来ず、手のひらに転がされるように母さんの方向に体を振り返る。

しかしと言うかやはりと言うか、母さんは涙を流しておらず、むしろからかうように小さく笑っていた。

 

「ふふ、なんだかんだ言ってもそうして心配してくれるのはやはり嬉しいですね 」

 

「もう〜やっぱり嘘泣きじゃないか〜! 」

 

そんな茶番見たKAN-SEN達は微笑ましく笑い、別れの湿っぽい空気は無くなった。多分これを狙っていたな?

 

「指揮官!あんまり無茶はしないでくださいね? これ、愛情たっぷりのお弁当です! 」

 

駆け足で来たジャベリンから愛情たっぷりの言葉が具現化されたかのような大きいお弁当を渡された。

これだけで数十人分はあるんだろう。一体これを作るのに、どれだけの手間と時間をかけたのか分からないが、ジャベリンの献身さが弁当から伝わってくるのは感じられた。

 

「大丈夫よジャベリン。私が指揮官を守ってみせるから!」

 

「うん!お願いね、二ーミちゃん! 」

Z23がどんと胸を張って答えると、ジャベリンの不安な表情が無くなった。ここに来てからZ23は、ジャベリンと綾波、ラフィーとはかなり仲良くなったと聞いている。移動中にちょっと話してみようかな……

 

「優海、私と加賀からはこれをあげるわ 」

 

そうして赤城姉さんと加賀姉さんか渡されたのは、白色の式神だった。そう、赤城姉さんと加賀姉さんが艦載機を出すのに使っているのと全く同じ物だ。

昔、御守り代わりに渡されたこともあるので間違いない。

 

「もし鉄血になにかされそうになった時はそれで血祭りにあげなさい 」

 

「いや怖いよ赤城姉さん 」

 

赤城姉さんの目が本気だ……!本気で鉄血のKAN-SEN達に危害を加えようとしてこれを渡したとなればごめんだけと受け取れないんだけど……

 

「あら?私たちが信用出来ないのかしら?連れないわねぇ……元レッドアクシズの仲間でしょう? 」

 

突然背後からプリンツ・オイゲンが俺の体を絡めとるように手を伸ばすと、そのまま赤城姉さんを煽るような見つめた。その目と行動にカチンと来たのか、赤城姉さんの背後にメラメラと燃えたぎる炎が見えるような迫力が襲いかかった。

 

「貴方ねぇ……毎回毎回優海を誘惑して何なのかしら……? 」

 

「あらあら、怖いわね〜 」

 

(こっわ…… )

 

オイゲンの気が逸れたうちにコソコソとその場から離れると、加賀姉さんから同情の眼差しが送られた。

 

「お前も大変だな…… 」

 

「うん……まぁいつもの事だし 」

 

「そうだな……だが、姉様の言うことも一理ある。未だに鉄血の腹の底は読めない……気をつけろよ 」

 

加賀姉さんの真剣な口調が体を震わせ、俺は変に身構えてしまった。確かに鉄血とはそれほど交流も無いし、目的も分からないけど、俺に危害を加えることはまずしないだろう。そうなれば、ここにいる全員を敵に回すだけなのだから。

 

「指揮官、少し良いか? 」

 

次に来たのはエンタープライズとベルファストだった。2人の目の前に立ち、言葉を聞こうとしたが、一向にエンタープライズの口は動かなった。それどころか帽子を深く下げ、エンタープライズの顔が見えなくなってしまった。

それを見かねたベルファストは呆れたようにため息を小さくついた。

 

「エンタープライズ様……昨晩はあんなに贈る言葉を考えていたのに、決めていなかったのですか? 」

 

「な……何故お前がそれを知っている!? 」

 

「メイドですから 」

 

相変わらずゴリ押しな言い訳だなぁベルファスト……でもベルファスト相手だと妙に納得するだろうなぁ。侮れないメイド長。ベルファストの激励もあってか、ようやくエンタープライズも気持ちを切り替え、帽子を上げて俺と目を合わせた。

 

「指揮官、私はジャベリンのように料理は贈れないし、何かを渡せる程器用では無い。だからせめて……言葉だげでも受け取ってくれないか……? 」

 

ユニオンの英雄が自信なさげな表情でこちらを見つめていた。まぁ、周りが何かしらの贈り物があるのに、自分だけ言葉なのも気が引けるか……でも今の俺には言葉だけでも充分すぎるぐらいの贈り物だった。

 

「言葉だけでも嬉しいよ。それで、何かな? 」

 

安心させるように笑顔で答え、エンタープライズは心の準備を整えるように深呼吸をした。

 

「……必ず、無事に帰ってきてくれ。私にとって、それ以上ない願いだ 」

 

「はは、大袈裟だなぁ。ちょっとビスマルクに協力するだけだから…… 」

 

「いや……どうにも胸騒ぎが止まらないんだ。本当なら私も一緒に連れて行って欲しい……!貴方の傍に立ち、守りたい程だ! 」

 

エンタープライズは胸騒ぎする自分の胸部の服を握りしめながら、傍にいたい気持ちを表すように俺の服を握りしめた。しかし、ビスマルクは俺一人だけの指名であり、アズールレーンや重桜のKAN-SENの同行を認めなかった。

俺はエンタープライズの肩を抱き、そのままエンタープライズから離れた。

 

「大丈夫だ。絶対帰ってくる。約束だ 」

 

「……あぁ、約束だ 」

 

お互いの目を見つめ、時間だと知らせるように鉄血の船の汽笛がなる。急いで船に乗ろうとすると、一人の人物に足を停められた。

「ちょっとちょっと、少し良い? 」

 

「オロチさん? 」

 

妙にコソコソとしているから怪しさ満点だ。

 

「ちょっとこれ、肌身離さず持っていてね 」

 

そう言って渡してきたのは小さな黒い石だった。少し調べて見たけど……何の変哲もないただの石だ。

親指と人差し指でつまめるサイズであり、磨かれてように触り心地がいい丸い石と言えるぐらいだ。

 

「なんですか?これ 」

 

「御守りよ。絶対絶対、肌身離さず持っていてね? 」

 

念を押されてそう言われると、この石の存在が気になるが、教えてくれる様子も無い。不思議に思いながらも、オロチさんから渡された石を大事にポケットにしまい込み、これであとは船に乗るだけだった。

 

甲板に登り、待っていたと言わんばかりにビスマルクがそこに立っていた。

 

「挨拶は済んだかしら 」

 

「うん、もう出発していいよ 」

 

「意外ね……もう少し名残惜しく思ったのけれど 」

 

「もちろんそれはあるけど……必ずここに帰るから 」

 

そう、必ずここにまた帰ってくる。皆が信じて送り出しているのだから、俺はその信用に応えなければならない。だから、名残惜しさで止まるわけには行かない。

 

船が動き出し、新たなる天地、鉄血へと俺は進んだ……

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