もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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天城ちゃぁぁぁぁぁんんん!?
勿論入隊させました。これは妄想が捗りますね〜^^*


第2部鉄血篇
ようこそ鉄血要塞へ


海の上を進み早数日が経過した。船の中の生活もまぁまぁ飽きてきた頃合、もう少しで鉄血へと到着するはずだ。幸いセイレーンにもテネリタスにも遭遇しておらず、安全に鉄血にたどり着きそうだ。

 

しかしそれゆえに暇を持て余している為、寝起きの俺は大きな欠伸を出してしまう。このまま甲板で寝るのも悪くないと思ったその時、背後からの足音が聞こえた。

 

「大きな欠伸ね。指揮官なのに情けないわね 」

 

背後に来たビスマルクからの言葉に反論も出来ず、俺は欠伸を無理やり止めて何とか指揮官としての威厳を保とうとしたが、ビスマルクから呆れたような目で見られてしまい、威厳も何も無かった。

 

あたかもよくそれで指揮官になれたなと言う無言の圧が更に俺を卑屈にさせ、あまりの自分の情けなさで涙が流れてくる程だ。

 

「しかも寝癖もついている……だらしなさすぎるわね。指揮官なんだからもう少し身なりにも身振りにも気をつけなさい 」

 

「なんだか……母さん見たいな事言うね 」

 

ビスマルクからの口からは、どこか天城母さんと同じような雰囲気が感じられた。何だろう……叱ってくれる辺りが間違いなくそうだ。小さい頃よく怒られたから変に懐かしさを感じていた。

 

「母さん……天城の事かしら?」

 

「うん、そうだけど? 」

 

ビスマルクは何か思うような所でもあるのか、少し難しい顔をしていた。

 

「姉妹のKAN-SENは多いけど、母と子の関係というのは……どんな感じなのかしら 」

 

「どうって言われてもな〜 」

 

今更深く考えて何か言えるものでは無い。普通の人間の家族と同じ感じだと言っても多分納得は行かないと思うし……でもそんな深く考えている訳でも無ければ理論的に考えている訳でも無い。これ以上考えても答えは出ないので、吹っ切れるようにありのままの答えを口に出した。

 

「ん〜温かい……かな。なんか春の柔らかな陽射し見たいなっていうか……コタツみたいな温もりというか…… 」

 

「例えが独特ね 」

 

それは自分でも思った。なんだよコタツって、例えが下手くそか?でも感覚的にはそれに近いんだよなぁ……暖かさの中に絶対的な安心感がある。それが母親の温もりという物なのかは分からないが、俺にとって母さんや姉さん達には、絶対的な安心感がある。それだけは間違いない。

 

「というより、どうしてそんな質問を? 」

 

俺にとってのビスマルクのイメージは、一言で言えば冷徹だ。表情を一切変えず、まるで鉄のように冷たく硬い仮面を被っているような感じだ。そんなビスマルクが家族のことを質問するなんて意外だと思った。

 

「別に……気になっただけよ 」

 

そう言ってビスマルクは帽子を深く被って表情を見せないようにした。何か……家族、いや姉妹に思う所があるのだろうか?

ビスマルクの姉妹艦と言えば……確か膨大な執務作業の中での資料で見た気がする。確か名前は……ティルピッツ。

 

鉄血所属の戦艦であり、ビスマルク級戦艦の2番型。資料で見た写真の姿は少し短めの銀髪の銀色の目をしており、どこか容姿がエンタープライズに似ていたと覚えている。流石に実はアイツらが姉妹でしたなんてある訳も無いし、多分たまたまだろう。

 

写真でパッと見た感じビスマルクの同じ雰囲気が出ていたので、姉妹みたいにきっと性格も同じ様な感じなのだろう。まぁ、会ってみたい気もするが。

 

「それよりもそろそろ鉄血に着くわ。降りる準備をして 」

 

「ん……あれが鉄血? 」

 

目視できる距離まで鉄血陣営にたどり着くと、黒光する建物が建ち並んでいいるのが目立っており、一言で言うと要塞だ。その圧倒的な重量感と圧がここからでもビリビリ伝わり、鉄血の技術力が全面に出されていた。

 

「ようこそ鉄血へ、短い日数だけど歓迎するわ 」

 

鉄のように冷たく、何人も通さない圧を肌にひりつかせながら俺は鉄血の地に足をつけた。

 

 

 

 

 

鉄血の街並みは意外にもそれほど高圧的では無かった。外から見た時には要塞みたいだと言ったけど、そんな事も無いほど綺麗な街並みであり、どこかロイヤルに似ていた。

石畳と木組みの家、そして分かれ道とその先にあるトンネルという、なんとも絵のような風景な所もあれば、近代的な街並みの所もあった。

 

「凄いなぁ……まるで国が2つあるみたいだ 」

 

送迎の車の中から変わりゆく街並みに興奮してしまい、小さい子供のように俺は窓から街を眺めていた。この時完全に俺の他にKAN-SENがいた事を忘れてしまい、クスリと笑うKAN-SENがいた。

 

「あら、随分とお子様な所もあるのね 」

 

「指揮官なんですからもう少しシャキっとして欲しい所ですね 」

 

揶揄うように喋るオイゲンの言葉と二ーミの正論の言葉が槍のように体に突き刺さるような柔い痛みが走り、俺は羞恥心で顔を赤くさせて、席に座り直して縮こまった。

 

「縮こまっている所悪いけど、これからの事について説明するわ。二ーミ、アレを渡して 」

 

ビスマルクの指示で二ーミはひとつの紙束を俺に渡してきた。ざっと見た所、これからのスケジュールと言った所か

 

「貴方がここに来させた理由としては、貴方の艤装や能力を調べる為よ 」

 

まぁ予想はできていた事ではあった。本来ならセイレーンである"コネクター"の事について調べたいと思っていたはずだ。しかしその"コネクター"の因子は無いに等しい為、望んだ結果を提供出来るかどうか分からないけど……

 

「その為に……少しある事をして貰うわよ 」

 

「ある事……? 」

 

「私たちとの戦闘よ 」

 

その言葉の終わりと共に車も止まり、ついた場所は鉄血の演習場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ビスマルクから言われた通り、検査の他に鉄血のKAN-SEN達と戦闘……というより演習を行った。弾は全て模擬弾に換装し、直撃しても痛いと思う程度だ。

しかし俺の場合はそうではない。KAN-SEN達と同じような艤装だが、性質が全く違う俺の艤装はまだまだブラックボックスな所が多い為、模擬弾に変えることは出来なかった。よって、俺は攻撃は出来ないがあっちはバンバン俺に向かって攻撃する事が出来る。

 

「いやいやいやいや!俺1人なんて聞いてないよぉぉぉ!! 」

 

演習と言うから同数対同数と思ったのに、まさかの俺1人と向こう多数と言った、最早いじめと言えるような演習が初日から始まった。

初っ端から情けなく半べそをかきながらも何とか艦砲射撃を避け続けているが、そろそろキツイ。本当にキツイ。

 

「仕方ないじゃない。貴方の艤装はスペックでは圧倒的に他を凌駕しているもの。これくらいのハンデは良いでしょ?指揮官 」

 

「それでも多対一は酷いと思うけdあっぶな!! 」

 

オイゲンが小悪魔のように唇に指先を当てて油断を誘うとしているのか、問答無用でそのまま俺に攻撃してきた。向かってきた砲撃をギリギリ避けるが、完全に包囲された俺はまたもや次の砲撃の餌食になってしまう。

 

(これ止まったら負ける……! )

 

とにかく逃げに全神経を研ぎ澄ませたけど……これ無理だよね?俺の周り包囲されてるし逃げ場無いしかと言って反撃も無理だし……まぁ、空母がいないからそこはマシだと思った……俺が馬鹿でした。

 

砲撃をかいくぐると、上空から戦闘機のエンジン音が聞こえ、上空には空母のグラーフ・ツェッペリンが見下していた。

 

「ふっ……まるで手のひらで踊るマリオネットのようだな 」

 

(あ……これ終わったぁ…… )

 

空母で上空から攻撃されてはもうどうしようも出来ないと悟った俺は無心でツェッペリンを見つめながら覚悟を決めた。

グラーフ・ツェッペリンの爆撃と周りのKAN-SEN達の包囲攻撃により、俺は呆気なく撃墜された。

 

 

 

 

 

 

 

「酷い……酷すぎる…… 」

 

「だ……大丈夫ですか?指揮官 」

 

模擬弾とはいえ集中砲火を食らった俺の体には多少の怪我が生まれてしまった。二ーミの手によって治療は済んだけど、ボコボコにされた心の傷はまだ癒えてなかった。

 

「でもお陰で良いデータが取れたわ。お疲れ様 」

 

冷たい!冷たすぎるっ!まぁ、性格は知っていから仕方ないと思いながらも、クタクタになった体は指先もピクリと動けず、そのまま椅子と同化するようにだらしなく座り込んだ。

 

「それにしても、あんな大多数で2時間54分29秒も耐えられるなんて……正直言って脅威ですね。間違いなく、全人類の中でも、KAN-SENの中でも最強の部類に入ります 」

 

二ーミの言葉でようやく戦闘時間が分かったけど、約3時間も耐えていたのか……自分でも驚きの戦闘時間に内心驚きはしたが、やはり疲労のせいでそれほど驚きは出来なかった。

 

確かに、鉄血のほとんどのKAN-SEN達に単騎でこの戦闘時間は異常と言っても過言ではない。もしも俺が攻撃可能である状態なら、自惚れだけど多分俺が勝っている確率が高いと思う。

 

でもそれは逆に言えば、俺は皆を守れる力があるという事だ。もっともっと力をつければ皆と戦える。

 

「じゃあ……もっともっと強くなって、皆を守らないとね 」

 

そう意気込んだら心無しか体に力が湧いてきた。指先まで動かなった体が動くようになり、鉛の重さから解き放たれたようだった。

 

「よーし、頑張るぞ! 」

 

「意気込んでる所申し訳ないけど、今日の貴方の役目は終わりよ 」

 

ビスマルクの言葉にずっこけてしまい、その弾みで今までのやる気が全て落としてしまったようにも感じられた。

 

「え〜じゃあ、今日俺がする事って…… 」

 

「ないわ。あとは鉄血を観光するなに好きにして 」

 

弾丸のような即答に胸を貫かれたような感じになりながらも、何か手伝える事は無いかと尋ねてみても、ビスマルクは何も無いと言い続けた。これ以上しつこく言ってもビスマルクに迷惑がかかる為、俺はお言葉に甘えて鉄血を観光する事にした。

 

「じゃあ……二ーミ、案内頼むかな? 」

 

「任せて下さい。私がしっかりと案内致しますので! 」

 

しっかり者の二ーミが案内役になれば心強い。しかし、二ーミはまだビスマルクの補佐が残っていると言うので、俺はこの鉄血基地で少し待つことにした。

 

「じゃあ二ーミ、俺は部屋に戻っているね 」

 

まだ知らない鉄血の地を観光する事に少し楽しみを感じながら、俺は高鳴る胸と共に部屋に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官ね……あの指揮官は自分の立場を分かっているのかしら 」

 

「それは……どういう事ですか? 」

 

「彼は……指揮官には相応しく無いってことよ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄血基地はアズールレーンの基地とあまり内装面は変わらなかった。やはりレッドアクシズになる前に元アズールレーンだった為だろうか?

まぁそれはそれとして、少し気になる所を見つけてしまった。いかにもと言った雰囲気を醸し出している部屋……いや、店が基地内にあったのだ。レトロにレンガ造りになっている店は……バーと書かれていた。

中からはKAN-SEN達の喋り声で賑わっていた。

 

しかし俺自身まだ未成年であり、中に入ったとしても酒が飲めないならつまらない場所となる。ちょっぴり残念な気持ちになりながらもその場を立ち去ろうとすると、回り角の所で他の人とぶつかってしまった。

 

「あ……ごめんなさい! 」

 

「ううん、こっちこそごめんね!」

 

ぶつかった人は白髪のポニーテールに、胸部の下部が露出している服装が特徴的なKAN-SENだった。

目の前にいるKAN-SENは興味津々に俺の周りを回りながら俺を見ていた。

 

「あれ?君ってここにいた人だっけ? 」

 

「いや……俺はアズールレーンの指揮官で、今は訳あってここにいるんだ 」

 

俺が指揮官だと名乗ると彼女は更に目を満天の星空のように輝かせ、俺の両手を握っては強く上下に振った。

 

「わぁ!貴方が指揮官君か〜!へぇ〜思ったより小さいんだね! 」

 

悪意の無い俺へのちょっとばかしのコンプレックスが胸に突き刺さり、雷が落ちたかのようなショックを受けながらフラフラと壁の隅っこでいじけてしまう。

 

「あぁごめんね?お詫びに一杯奢らせて?ね? 」

 

「まだ未成年だから飲めないよ…… 」

 

「え!?未成年なの!?」

 

彼女が驚くのも無理はない。自分で言ってはなんだが未成年、つまり20歳以下で軍事関係に着任するのは極わずがだ。現に指揮官を決める【アズールレーン指揮官選別学校】の平均年齢は30代後半だった。

 

まぁあれは俺を指揮官に育てる為の上層部絡みの出来レースなんだけど……

 

「でもでも、バーにはジュースとかあるし!行こうよ! 」

 

「い、いやこれからちょっと用事が 」

 

「ちょっとくらいなら大丈夫だって! 」

 

そう言って無理やり腕を引っ張られた俺は為す術なくバーに入ってしまった。

初めて入ったバーの感想に至っては、別世界という一言に尽きた。殺風景だった廊下から一気にアンティークな雰囲気とジャズの音楽が微かに耳に入る感覚は、今まで味わった事無かった。

俺がここに来て良いのかと心配になり、挙動不審に辺りを見渡していた。

「そんなに緊張しなくても良いよ。ほら、リラックスリラックス〜 」

 

彼女に肩を揉まれながらも、近くに空いていたカウンター席に座り、メニューを開いたけど……

 

「これ全部お酒だよね…… 」

 

飲める物なんてなかった。メニューに書いてあるのは聞いた事無い名前の酒だけであり、俺が飲める物があるとすれば最初に出てくる水くらいだろう。

 

「あれ〜?おかしいな……この前はソフトドリンクとかあったのに 」

 

隣に座った彼女がよく目を凝らしてメニューのページを進んだり戻ったりしたが、やはりソフトドリンクの類は無かった。

 

「あら、それはもう無くなったわ。誰も飲まないから、あっても無くても同じだから 」

 

カウンターの奥からゆったりとした口調で出てきたのは恐らくKAN-SENであろう女性だった。腰まで届いている黒髪と右目が長い黒髪で隠れていた。俺を見つけると直ぐに微笑みかけた。

 

「あら、そちらの可愛らしいボウヤは誰かしら? 」

 

「ボ……!? 」

 

ボウヤって……いや、まぁ確かに未成年だからボウヤかもしれないけど、一応指揮官なんだけどな……

 

「この人が指揮官だよ!フリードリヒ 」

 

「あら、そうなのね。それじゃあ……自己紹介でもしましょうか。私は鉄血のフリードリヒ・デア・クローゼよ。長いからフリードリヒと呼んでね 」

 

そう言って目を細めて何かを見つめるような目で俺に微笑みかけた。何だろう……この人からは底知れぬ【何か】を本能的に感じていた。まぁ、気にし過ぎだとは思うけど。

 

「そう言えば自己紹介してなかったね。私はプリンツ・ハインリヒ!改めてよろしくね指揮官! 」

 

「……ん?プリンツって事は……オイゲン達の姉妹艦? 」

 

「ううん違うよ。プリンツってあるけど私は厳密には改ドイッチュラント級だから姉妹関係じゃないよ 」

 

「へぇ…… 」

 

プリンツに銀髪のところとか似てる所があったからてっきり姉妹関係にあると思ったけど……どうやら違ったようだ。

 

「ねぇねぇ、次は指揮官の事教えてよ! 」

 

「それならそれを肴にして何か飲み物を持ってくるわ。ボウヤには……そうね、ミルクで良いかしら 」

 

フリードリヒからの扱いに少しばかり不満があるが、確かに飲めるものはミルクぐらいしか無いだろう。若干不服さで頬を膨らませている所をフリードリヒに見られると、フリードリヒは何がおかしいのかクスリと小さく笑った。

 

「む……なんで笑ってるの? 」

 

「いいえ、随分と可愛らしいくて……愛おしいから 」

 

「えぇ? 」

 

そう言ってフリードリヒはそのままカウンターでお酒を作り、ミルクをコップ1杯に注いでいた。その間、俺はフリードリヒのあの表情が一瞬だけ脳裏に焼きつかれていた。あの表情……まるで母親のようでもあった。

鉄血のKAN-SENだからか、底が読めないKAN-SENだ。

 

(そうだ、待っている間に二ー三に連絡しよ )

 

部屋で待っている筈がバーに来てしまったから、俺は艦船通信でニーミにバーにいるとメッセージを残した。

 

「お待たせ、ハインリヒはカクテルで良かったかしら 」

 

「良いよ〜ありがとうね 」

 

「ボウヤにはミルクよ。丁度残っていて良かったわ 」

 

「ありがとう…… 」

 

こうして俺たち2人に飲み物が行き渡り、ハインリヒとグラスを小さくぶつけて乾杯した。1口渡されたミルクを飲むと、とても甘い口当たりながらも飲みやすいミルクに思わず驚いてしまった。コクのある甘みとそれでいて飲みやすいのどごしは、今まで飲んだ事無かった。

 

「美味しい……! 」

 

「ふふ……それは良かったわ 」

 

満足そうな笑みを浮かべたフリードリヒは恐らくはこのバーの店員なのにそのまま自分の分の酒を飲んでいた。

良いのかと言おうと思ったけど、多分笑って誤魔化してくるから言わずにいた。

 

「ねぇねぇ、早く指揮官の事教えてよ〜 」

 

ハインリヒが興味津々な目つきで俺に自己紹介を求めてきた。

 

「と言っても、何も紹介する事なんて無いよ? 」

 

今までまぁまぁ暗めな人生を歩んできたから趣味とかそんな物は無いし話せる事は少ない。

 

「良いの良いの!私が質問攻めするから! 」

 

ハインリヒの怒涛の攻めに後ろ向きな態度が崩れ去り、とりあえずは名前から自己紹介を始めた。

 

「じゃあ改めて……指揮官の天城優海だ 」

 

「ゆう?友達の友って書くの? 」

 

「ううん、優しい海って書いて優海 」

 

「へぇ〜良い名前だね! 」

 

今まで何度も同じ名前の書き方を説明したが、ここまで素直に喜ばれたのは初めてだ。今まで自分の名前を名乗る事も出来ずにいたり、KAN-SEN達に名前を公開したのは結構くらい雰囲気だったから、かなり新鮮だった。

 

(名前……そう言えばこの【優海】って名前、天城母さんが付けた訳では無いんだよな…… )

 

そう、この名前は母さんでは無く俺自身が無意識に名乗った名前だ。自分がセイレーンである事を知らなかった小さい頃、初めて母さん達とあったあの日、俺は名前を【優海】と名乗った。恐らく名前を名乗けたのは……コネクターだ。どうしてこの名前にしたのだろうか……

 

名前は自分の存在の証明やこうなって欲しいと言う願いの象徴でもある。コネクターにとって、優海(この名前)にどんな願いを込めたんだろうか。

 

「指揮官くん、どうしたの? 」

 

「え?あ、いや……なんでもないよ 」

 

ハインリヒの声で考えを止め、一旦考えを水に流すようにテーブルにあるミルクを飲み干した。

 

「まぁいいや!じゃあ指揮官くんに質問! 」

 

突然ハインリヒがまるで学校の先生に質問するように大きく手を上げると、俺の髪に指を指した。

 

「その髪……なんだか重桜の獣耳見たいな感じだけど、それって生まれつき?それとも重桜出身だから本物の獣耳? 」

 

「髪……あぁ、ここら辺の髪についてね 」

 

俺の髪は全体的に黒色で毛先が少し青ががっているけど、やはりそれよりも目立っているのはこの特徴的な横髪だろう。まるで獣耳のような形をしており、高雄さんや土佐姉さんと同じような髪型だ。勿論俺は正確には重桜出身では無いので本物の獣耳は無い。

 

「う〜ん、ちょっと恥ずかしいけど……これは結構前から姉さん達がやってくれたんだ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_数十年前 重桜にて

 

ある日の俺は鏡と睨めっこをしていた。しかし見ていたのは自分の顔では無く、自分の髪の毛だった。

別に寝癖やそういった物を直そうとしていた訳では無い。むしろ髪を弄ってはまた弄り、自分の望んだ髪型……というか、耳がある母さんの写真を見ながら何度も何度も弄っていた。

 

「こう……かな……ううん違う。何か変かも……うぅ 」

 

でも中々上手くいかず、思い通りにいかない焦りや自分の不器用さ、不甲斐なさで嫌になりならがも何度も何度も理想の髪型にしようとしていた。そんな時、母さんがたまたまやってきた。

 

「あら、どうしたの優海?そんなに頭を乱してだらしないですよ 」

「いや、これはその…… 」

 

母さんや姉さん達と同じ耳が欲しいとは言えず、そのまま誤魔化すように母さんから目を背けた。

母さん達を驚かせたいという事もあったけど、それ以上に多分自分の力で何とかしたいと思っていた。

そんな子供の小さなプライドに突き動かされるように俺は何も言わずに母さんから離れるように洗面所から出ていった。

 

しかし出ていった先には赤城姉さんがいて、そのまま鉢合わせとなってしまった。

 

「あら優海、走ったら危ないわよ?それに、その髪はどうしたの? 」

 

「な……何でもない! 」

 

赤城姉さんからも逃げるようにしたけど、更に奥に加賀姉さんと土佐姉さんもいた。その事に気づかなった俺はそのままぶつかってしまったが、加賀姉さんはビクともせずにそのままたち続け、対する俺はそのまま尻もちをついてしまった。

 

その弾みによってか、俺が持っていたある写真を加賀姉さんの足元に落ちてしまったんだ。

 

「ん……これは……天城さんの写真か? 」

 

「わわ!返してよ! 」

 

加賀姉さんに写真を返してとせびてる間に、母さんと赤城姉さんがこっちに来てしまい、四方八方囲まれてしまった。

 

「優海、一体どうしたの?」

 

心配そうに赤城姉さんが膝を曲げて俺と同じ目線で話しかけるけど、別に何もそんな深刻な事態があった訳じゃない。だから話す事を躊躇ったんだ。自分の些細な我儘で迷惑はかけられない。そう考えて必死に加賀姉さんから写真を取り返そうとしたけど、それを変に思った加賀姉さんは返そうとはしなかった。

 

「あら?加賀の持っているそれ……天城姉様の写真かしら? 」

 

「あぁ、こいつが持っていたんだ 」

 

「私の写真に……洗面所……優海の髪の乱れ……成程、そういう事でしたか 」

 

何かを悟った母さんは小さく笑って俺の方に歩き、膝を曲げて俺と目線を合わせた。

 

「優海、何をしたのか自分の言葉で言って下さい 」

 

「……やだ 」

 

「大丈夫ですよ。誰も迷惑と思いません。寧ろ微笑ましいぐらいです 」

 

何もかもお見通しという顔はとても優しかった。踏み出せないように何度も口ごもったけど、結局最後は母さんに負けて恥ずかしながらも真意を話した。

 

「あのね……耳が……欲しかったんだ。お母さんとお姉ちゃん達と同じ耳が 」

 

「耳って……この耳の事? 」

 

赤城姉さんは自分の頭の上にある獣耳をピクピクと動かすと、俺はそれに応えるように頷いた。

 

「なるほどな。その髪の乱れは、髪で獣耳を作ろうとしたという訳か 」

 

土佐姉さんの言うことは正しかった。でもそれで他の皆にもバレてしまったので思わず髪を隠すように頭を抱え、恥ずかしさで皆の目を見ないようにしていた。

 

「だがどうして獣耳が欲しいんだ? 」

 

「……家族だから 」

 

「……? 」

 

「家族なのにっ、僕だけ耳が無いのが嫌だった。僕だけ違うみたいで嫌だった! 」

 

この時の俺は、確かな繋がりが欲しかった。勿論、血の繋がりが無くても俺たちは家族だ。それは間違いなけど、目には見えない。それが不安で心配だった。

確かな繋がりが、目に見える繋がりが、俺は天城母さんの息子や、赤城姉さん達の弟と示すものが欲しかった。

 

それを無意識に思ってか俺は声を出さずに泣いてしまった。今思うと、泣く必要なんて無いのにね。

 

「そうだったのね……よく言ってくれました 」

 

泣き出した俺を母さんは優しく抱きとめ、泣き止ませるように背中をポンポンと叩いてくれた。

母さんの腕の中で徐々に泣きやみ、母さんはある事を提案してくれた。

 

「優海、私の耳じゃなくて……土佐の耳を真似したらどうかしら? 」

 

「なっ……私ですか!?しかし私は…… 」

 

いきなりの名指しで土佐姉さんは一歩引いて驚いていた。無理もない。土佐姉さんは任務で家にいる事が少なく、小さい頃の面識は少ししか無い。

土佐姉さんも関わりが少ないと自負している為か、耳を真似させられる事に躊躇していた。

 

「ですが、優海の髪質的に貴方の耳を真似るのが1番です。貴方も優海のお姉さんなのですから、少しぐらい関わっても良いのでは? 」

 

「うぐっ……分かりました…… 」

 

痛い所をつかれた土佐姉さんは、俺の手を取って洗面所に移動した。

 

洗面所に移動したら、土佐姉さんは俺の乱れた髪を元に戻した後、早速自分の耳の形になるように髪を弄ってくれた。

 

「どうだ?痛くはないか? 」

 

「ううん、全然平気! 」

 

こうして気遣ってくれたり、傷まないように丁寧に扱ってくれたりしていたから、痛くも何とも無かった。

乱れた髪が綺麗に纏まり、いよいよ髪型を変えるその時、土佐姉さんの手が止まった。

 

「なぁ……本当に私ので良いのか?天城さんの方が良いんじゃ無いのか? 」

 

確かに、出来れば母さんに似た耳が欲しいとは思ったけど、髪質的にそれは難しいと悟っていたし、別に問題は無かった。

 

「ううん、別に良いよ!だって、土佐お姉ちゃんも大好きだから! 」

 

「そ……そうか……なら、別に良いんだが…… 」

 

当たり前の事を言ったのに、土佐姉さんは顔を赤くしながら髪をセットしてくれた。所々なんだかたどたどしい手つきになっていたけど、今でもなんでああなったのかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_時は戻り現在

 

「まぁ、これがこの髪の誕生って訳。今はクセになったり、今でも崩れないようにしているんだ 」

 

「へ〜いい話じゃん! 」

 

「そうね、じゃあ……次は私の質問だけど……」

 

どうやら楽しんで頂けたようでホッとしながら、間髪入れずにフリードリヒが次の質問を放った。

しかし、その時間はどうやら来ないようだった。後ろから足音が聞こえ、こちらに近づいたので後ろに振り返ると、そこにはニーミがいた。

 

「指揮官、迎えに来ましたよ。未成年がこんな所に来てはダメなんですよ? 」

 

「うぐっ……返す言葉が無い…… 」

 

ハインリヒが無理矢理ここに来させたから……と言うのはなんだかハインリヒが悪いという事になるので言い出せず、俺はニーミから説教を受けた。

 

「あ……まさか未成年飲酒をしたりは…… 」

 

「い……いやいやいや!してないよ! 」

 

目を細めて俺を睨んだニーミに対して、俺は飲んでいないと否定しながら大きく首を振ったが、テーブルにあるグラスを見たニーミは中々信用してはくれなかった。

 

「それはしてないわ。ボウヤに渡したのはミルクだけよ 」

 

「そうそう、お酒なんて一口も飲ませてないよ 」

 

「2人が言うなら……してはいないようですね。失礼しました 」

 

「あ、ちょっと待って、ミルクのお代を払うから…… 」

 

「それは私が払うよ〜!言ったでしょ?奢るって! 」

 

そう言ってハインリヒはミルク代を自分のカクテル代をフリードリヒに渡してくれた。これは何か後で返さなければならないな……

 

とりあえず2人の説得によりニーミはようやく分かってくれ、ニーミの説教を終えた俺とニーミはバーを出て、そのまま街中に足を運んだ。

 

 

 

 

「ねぇねぇフリードリヒ、指揮官になんて質問しようとしたの? 」

 

「ん?それはね…… 」

 

 

 

 

 

 

「どうして指揮官なのに、前に出て戦おうとしてるか聞きたかっただけよ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツの街並みを歩いていくと、本当にここが全ての陣営の中で一番セイレーンの技術を扱っている事が信じられないぐらい中世的な街並みだった。

石造りの道や木造のオレンジ色の家、街を賑やかせる人々の声は、明るかった。

数々の発見で心が踊り、目に映るものはどれも新鮮だった。

 

「わぁ……!まるで絵本のような街だね! 」

 

自分が本の中の住人のようにも思える街に興奮し、俺はガラス越しに飾られたぬいぐるみを見たり、美味しそうな屋台の匂いにつられてしまう。

 

「指揮官!子供じゃないんですから、少し落ち着いてください! 」

 

「あ、あはは……ごめんなさい 」

 

ニーミに服を引っ張られ、呆れたようにニーミはため息をついていた。確かに子供っぽかったな……少し恥ずかしい……

 

「……それが指揮官の素という事ですか? 」

 

「え?どういう事? 」

 

「重桜に出会った最初の時と今の貴方の性格は全く違いますからね。最初の方は大人びた性格でしたけど、今はかなり……コホン、少し幼稚な性格ですね 」

 

なんかバカにされたような気がするけど……幼稚なのは確かにそうだと思う。

ニーミと最初に出会ったのは……赤城姉さんに拉致されて重桜に戻ってきた頃だ。その頃の俺はマーレと名乗って自分の正体を隠していたし、性格も昔のマーレさんと同じようにしたから、違うと言えば当然だ。

 

「……幻滅した……かな 」

 

指揮官には相応しくない行動や性格で、ニーミは幻滅したかもしれない。そうなれば指揮官としての信頼は絶望的であり、このやうな行動は控える……いや、直さなないといけない。心が沈むことを表すように肩をすぼめてニーミから視線を逸らした。

 

「幻滅はしてませんよ、ただ少し驚いただけです。ほら、顔をあげてください 」

 

恐る恐る顔を上げると、ニーミの顔は幻滅した顔ではなく、どちらかと言えば仕方ない子だと言っているように、少し呆れたような笑顔を浮かばせていた。

 

「さて、そんな指揮官には美味しいバームクーヘンがあるお店に連れて行ってあげます。さ、行きましょう 」

 

「あ……うん 」

 

ニーミに腕を捕まれ、そのまま美味しいバームクーヘンがある店へと歩いた。

しばらく歩くとニーミがひとつのカフェの前に止まり、目的の場所らしきへと辿り着いた。これと言って目立った装飾は無く、如何にも普通の店の雰囲気だけど……

 

「ここのカフェのバームクーヘンは知る人ぞ知る絶品なんです。それ故に、数量限定なので急がないと! 」

 

急かすようにニーミが店の扉を開き、店員の挨拶と共に店に入ると、クラッシクな雰囲気の店の中には、客がほとんどいなかった。隠れ家的なカフェなのかな?

 

「すみません、バームクーヘンはありますか? 」

 

「申し訳ございません……たった今本日の分のバームクーヘンはあちらの方で最後になりまして…… 」

 

ニーミがそう店員に尋ねると、店員は申し訳なさそうな態度で窓際にいる客の方に手を指した。

その人は薄い桃色の髪を持ち、眼鏡をかけていた。

優雅に本を片手に紅茶を飲んでおり、テーブルの所には大きなバームクーヘンがあり、まだ手はつけていないようだった。

 

「そ……そうですか……それなら仕方ないですね。ごめんなさい、無駄足を踏ませてしまって…… 」

 

「いや、大丈夫だよ。そんなに落ち込まなくてもいいよ 」

 

そうは言っても責任を感じているニーミの顔は暗く、どうした物かと悩んでいた所に、先程の客が声をかけた。

 

「あの、良ければ一緒に食べませんか?私のせいで食べられなかったならそのお詫びという事で…… 」

 

「い、いえいえとんでもないですよ!私達が遅いのが悪いわけで…… 」

 

これに関してはニーミと同意見だ。勝ち取ったというのは少し変だけど、数量限定の物を貰うのは少し気が引ける。

 

「大丈夫ですよ。私、カットしているものとおもったら、まさか丸ごとでこんなに大きいとは知らずに……私1人では食べられないので良ければ……」

 

確かに、テーブルに置かれているバームクーヘンは普通のよりかは1回りも2回りも大きかった。

 

「では……せめて食べる分のお代は払います。それで良いですか?」

 

「うん、あの人が良ければだけど…… 」

 

「私は構いませんよ。さぁ、空いてる席へどうぞ 」

 

彼女の言葉に甘えに甘えてしまい、俺とニーミは彼女の前にある空いている席へと座った。近くで見ると本当に大きなバームクーヘンであり、まさに木の幹と思わせるような厚さであった。

 

「では、切っていきましょう 」

 

彼女がナイフと取り出すと、縦に切るのではなく、ナイフを少し寝かせて削ぐようにして切っていった。

 

「あれ……そぎ切り……ですか?」

 

本来は肉とかを切るような切り方だけど……なんでバームクーヘンでそう切るんだろう?気になってまじまじと見ていると、彼女がそれに気づいて訳を話してくれた。

 

「あぁ、これですか?バームクーヘンをそぎ切りにしたら、軽い口当たりとなってとても美味しくいただけるんですよ。試しに、普通の縦切りも差し出しますね 」

 

そうして彼女は縦切りのバームクーヘンとそぎ切りをしたバームクーヘンを皿に盛り付け、俺とニーミにひとつずつ渡してくれた。

 

「それと……紅茶もどうぞ。私はコップ1杯で大丈夫だったので 」

 

「あ……すみません、わざわざ 」

 

まさかの紅茶まで差出してくれて本当に頭が上がらない。初対面の人にここまでするのは中々出来ないのに、この人は当たり前のように振舞っている。器の大きい人だな……

 

「さて、それでは食べましょう。いただきます 」

 

「……いただきます 」

 

まずは縦に切ったバームクーヘンをフォークで突き刺し、口の中に頬張る。卵の風味とバターのコク、外側にはコーティングとシュガーグレーズの甘みがマッチしててとても美味しい。生地の一枚一枚が丁寧に焼かれており、数量限定に相応しい美味しさだった。

「美味しい……! 」

 

「あぁ、そんなに食べると口の中の水分が無くなりますし、喉に詰まりますよ! 」

 

あまりの美味しさでがっつくように食べてしまい、ニーミの言う通り口の中の水分が奪われてパサパサになり、一瞬だけ喉を詰まりかけた。急いでテーブルにある紅茶を取り出して飲んだが、あまりの熱さで口の中が火事になったような熱さで思わず吐き出してしまうにも、何とかして飲み込んだ。

 

「ぷはぁ……死ぬかと思った…… 」

 

「もう、しっかりして下さい! 」

 

「ふふ、随分と賑やかな人ですね 」

 

彼女は小さく笑い、恥ずかしい所を見られて俺は顔を赤くして手で顔を隠した。

 

「では、次はそぎ切りしたバームクーヘンをどうぞ。味は変わりませんが、先程よりかは食べやすいと思いますよ 」

 

手を退けて、次にそぎ切りされたバームクーヘンをフォークに突き刺すが、少し味気なさそうな感じだった。

そぎ切りのバームクーヘンは先程よりもかなり薄くなっており、食べ応えがなさそうだった。まぁ、薄いから食べやすいとは思うけど……

少しの不安を胸に、そぎ切りバームクーヘンを口に入れると、先程の不安が解消されるような感覚に襲われた。

 

味こそ変わらないが、食感が段違いに変わっていた。食べ応えが無いと言ったがそんな事ない。雲のようなふわふわした食感で、更に薄いから口の中の水分も奪われる事もなく食べやすい。どっちの切り方が美味しいといわれれば、間違いなくこっちの方だ。

 

「どうですか? 」

 

「いや……こっちの方が食べやすいし、美味しいです!切り方だけでこんなにも変わるんですね! 」

 

「私も知りませんでした……奥深いですね……! 」

 

俺とニーミは環境混じりに驚き、自分の事のように彼女は喜んでいるかのように笑っていた。

 

「それは良かったです……本当に、昔のあの子みたい…… 」

 

「……?あの子って……? 」

 

「いいえ……何でも無いですよ 」

どこか寂しげな表情を一瞬見てしまい、俺はこれ以上踏み込む事は無礼だと思い、何も言わなかった。

 

「さて、私はこれで失礼します。あとの1切れは貰いますね 」

 

「それは勿論 」

 

彼女は店員を呼び、バームクーヘンを袋に入れて貰うように頼むと、店員が1切れのバームクーヘンを持ち出して奥で袋詰めをしていた。

 

戻ってくる間に彼女は紅茶を1杯飲み干し、俺とニーミはそれぞれのお代を彼女に渡そうとしたが、彼女はそれを断った。

 

「大丈夫ですよ。お代は代わりにもらいましたから 」

 

「え?それはどういう…… 」

 

理由を聞こうとしたが直ぐに店員が来てしまい、話を途中で切られてしまった。彼女は残ったバームクーヘンが入った袋を手に持ち、そのまま何も言わずにテーブルから立ち上がった。

 

「では、さようなら。アズールレーンの指揮官さん 」

 

「…………え? 」

 

そう言って笑顔で手を振りながら店から出ていった。最後に放った言葉に、俺は驚きで何も言えず、動くことが出来なかった。

 

「……指揮官?どうしたんですか? 」

 

「なぁ……ニーミ。俺、あの人に()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え……? 」

 

俺の記憶が確かなら、俺もニーミもこの店の中では俺が指揮官という会話はしていない。なのにあの人は……なんで俺が指揮官だって知っているんだ……?

俺が指揮官だって知っている人物と言えば、KAN-SENや上層部、そして後方支援隊の人……それから……テネリタスの人達だ。

 

「まさかあの人…… 」

 

あの人が俺の考えてる人なら……鉄血には……マーレさんがいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜と言っても、ただの休憩スペースなんだけど…… 」

 

「……英雄って人達は、皆単独行動が好きなんですか? 」

 

この人もロドンさんもそうだが……どうして俺の先祖はこうも1人で行動するのが大好きなんだ……身勝手すぎて頭が痛い……

 

「それは貴方も同じでしょ?何でもかんでも1人で背負い込むのは……単独行動とは変わりと思うよ? 」

 

痛い所をつかれ、俺は何も言えずにミーアさんから目を逸らした。勝ち誇っているのか、それとも楽しんでいるのかは知らないが、ミーアさんは少し笑っていた。

 

「……あいつに、優海に会ったんですか? 」

 

「あ、話を変えた…… 」

 

「良いから!どうでした?敵と真正面から出会って 」

 

「……昔の貴方に似ていた。もしも、貴方が健やかで、真っ当に生きていたらあんな風に…… 」

 

ミーアさんが悲しげにこちらを見つめ、あぁなって欲しかったという叶わない願いが伝わってきた。……まぁ、確かに普通に生きていたら、俺はあんな風な感じの性格になっていただろう。

能天気で、どこか抜けていて、自分よりも他人を優先するそんな奴に……

 

「ねぇ、マーレ……バームクーヘン買ってきたから……食べない? 」

 

「……俺は甘いものは好きでも無いですよ 」

 

「あれ?ネージュちゃんと食べてる時はあんなに笑顔だったのに…… 」

 

「なっ……あいつは関係無いでしょ!あっ…… 」

 

明らかな動揺を見せてしまい、頭の良いミーアさんは何か納得したようにニヤニヤを笑っていた。

 

「あぁ〜なるほど。おばぁちゃん嬉しいな〜いつか曾孫を見せてね? 」

 

「ひ……曾孫って……俺とネージュはそんな関係じゃ……! 」

 

いつの間にかこの人のペースに乗せられてしまい、俺はこれ以上乗せられまいと頑固に体ごとミーアさんから後ろに向いた。

背中越しでも彼女の笑い姿が目に浮かぶのが少し腹立たしくも、何故か少し嬉しくも感じた。この人とは血縁関係なのに、あまり関わりが無かったからなのか……それとも、久しぶりに家族らしい話をしたからなのか……

 

(いや……何やってるんだ俺は……こんなんじゃ…… )

 

全人類の敵に、絶対的な悪になろうとしているのに、こんなほのぼのな心を持っては……俺の目的が達成出来ない。そんな心を握り潰したいように、俺は胸を掴み、そのまま頭を冷やすように黙り込んだ。

 

(マーレ……せめて人の心を……人である事は忘れないでね……貴方がどうなっても、それだけは私が守るからね…… )

 

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