もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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お久しぶりですm(*_ _)m白だし茶漬けです!

ええと……前話投稿したのが1ヶ月前という事に驚きを隠せません。最近バイトやら課題とかでかなり忙しくなっており、昔は感想に全て答えてましたが今は全然返信出来てませんが、感想は全てしっかりと読んでいます!

やっぱり感想があると励みになりますし、(あ、まだ読んでくれてるんだ!)と嬉しい気持ちになるのでこれからもよろしくお願いいたします



守るべきもの

マーレさんとセイレーンが鉄血陣営の海域内で戦闘を始めた事により、鉄血のKAN-SEN達は全員スクランブル出撃を余儀なくされた。

いきなりの戦場に戸惑いつつも空気の変わりように順応し、こっちもいい加減気持ちを切り替えないといけないが、ビスマルクとセイレーンが繋がっていた事を目の当たりしたせいか、上手く気持ちを切り替えられずにいた。

 

しかも俺の目の前にそのビスマルクがいるから尚更だ。緊迫した緊張感の中で、何か違う空気で押し殺されそうだ。とにかく、速くこの研究室から出て出撃したKAN-SEN達の援護に行かなければ。

 

「ちょっと、貴方まで出撃するつもりかしら 」

 

出撃しようとしたらビスマルクに止められてしまい、俺はその場で止まったしまった。

 

「何するんだ! 」

 

「それはこっちのセリフよ。貴方が出撃したら、誰がKAN-SEN達の指揮をするのかしら 」

 

「それは…… 」

 

ビスマルクの言葉に何も言えず、俺は無言を貫いてしまった。

 

「でも……俺が出なきゃ誰がマーレさんを止められ」

 

「私達はそんなにヤワじゃないわ。それとも……アズールレーンの指揮官さんは、私達のことを信用してないのかしら 」

 

「そんなの信用してるに…… 」

 

信用している。それは確かだ。確かな筈だが……どうしてもはっきりと言えなかった。心のどこかで、俺はもしかしたらKAN-SEN達を信用してはいないのではと考えが出てしまい、否定しようにも否定しきれなかった。

 

「もし信用してるならここで指揮をとって。それに……奥の手はあるから 」

 

「奥の手……? 」

 

「何でも無いわ。それじゃあ……行ってくるわ。貴方は指揮官としての責務を全うして 」

 

ビスマルクの意味深で何処か覚悟を決めた横顔を俺はただ見ている事しか出来なかった。

 

「指揮官としての責務……か 」

 

 

 

 

 

 

 

_鉄血海域内

 

「ちっ……まさかセイレーンがいるとはな…… 」

 

鉄血の陣営外の海域で待機していたマーレは不幸にもセイレーンと出くわしてしまい、止むを得ずミーアと共にセイレーンと戦っていた。

物量的にはセイレーンが圧倒的だが、それを上回るマーレとミーアの戦闘力は数など無意味と言うように凌駕していた。

 

マーレの撃つビームは一撃で量産型セイレーンの装甲を貫き、一撃で撃沈していった。マーレの振る剣は海を切り裂く斬撃を生み出し、船を真っ二つにしていった。

目に見える物を全て呑み込むように破壊する姿はまさに天変地異の嵐であった。

 

「マーレ、そろそろ鉄血のKAN-SEN達も来る。無理はしないでね 」

 

「この程度は無理の範疇じゃ無いですよ 」

 

「でも…… 」

 

「貴方の方こそ無理はするな。戦闘の方は得意のではないでしょう 」

 

何気ない一言だとマーレ自身は思っていたが、ミーアは少し違う受け取り方をした。そんな何気ない一言にミーアは何かを思い出したかのようにクスリと小さく笑った。

 

「何が可笑しいんですか 」

 

「いや……心配してくれるんだなって思って。貴方のそんな優しい所は変わってなくて、おばぁちゃん嬉しいな 」

 

「……ふん 」

 

マーレはミーアの顔を見ず、すぐ様新たな敵に向かって海を駆け出して行った。その行動は言わずもがな照れ隠しであった。

 

「……さて、そろそろ気持ちを切り替えなきゃ 」

 

今は戦闘中であり、急速に接近する物体に気づいたミーアはスイッチのON/OFFを切り替えるように顔つきが一変した。

 

このタイミングで接近する物体と言えばKAN-SEN達でしか有り得ない。現に鉄血から反応があり、統率の取れた陣形で来るのだから間違いなかった。

 

(この統率力……多分優海君が指揮を執っているわね。温存なのかそれとも…… )

 

ミーアの思考には数通りの考えが頭に浮かんだが、その考えはKAN-SEN達が目の前に来たと同時に捨て去った。

数十規模の艦隊戦力がミーアの前に立ちはだかり、KAN-SEN達の砲塔は全てミーアに向けられていた。

 

「あれ……貴方もしかして昨日の……? 」

 

ミーアとは前日面識があったZ23は動揺し、恐る恐る昨日と同一人物か確認するように尋ねた。

 

「はい、そうですよZ23さん。私は8代目テネリタス当主【ミーア・テネリタス】です。以後お見知り置きを 」

 

戦闘中にも関わらずミーアは丁寧なお辞儀をし、KAN-SEN達に優雅な振る舞いを見せた。

 

「戦闘中だっていうのに随分と余裕があるわね? 」

 

「いえいえ、こう見えても内心私は焦っていますよプリンツ・オイゲンさん。私の頭の中には、この状況をどう乗り越えるべきか考えていますので 」

 

ミーアの言っていることは事実であった。外見は笑顔だが、彼女の内心は事実少し焦っており、マーレやロドンのようにミーアは戦闘が不得意の為、いくら艤装のスペックで勝っていようとも圧倒的な数の波では流石に勝てなかった。

 

「ですから……少し貴方達に手荒な真似をします。足元にはご注意を。特に、海中にいる潜水艦達は早く海上に上がった方が良いです 」

 

ミーアはKAN-SEN達に注意を告げると突然ミーアの足元から氷の波が生まれた。海水は勢いよく氷始め、真っ直ぐとKAN-SEN達がいる方向へと進んで行った。

いきなり来た現象にKAN-SEN達のほとんどは反応出来ず、足元の海水を凍らされたせいで身動きが取れなかった。

 

「なにこれ……!? 」

 

「動けない!あと冷たい! 」

 

「しかもこれ艤装にくっついて取れない! 」

 

「申し訳ありませんが、貴方方と話している間に私の周りの海水にある細工をしました。"ブレイニクル"……死の氷柱と言われるアレに近いものを再現しました。それでは私はこれにて失礼します 」

 

そう言ってミーアはKAN-SEN達から離れ、マーレに合流する為に離脱した。動けるKAN-SEN達は少なく、追おうにも氷による被害が大きいので追跡は不可能だった。

 

「まさか海を凍らすなんて……これ、私たちの天敵ですよ 」

 

Z23の言う事は最もだった。海は言わばKAN-SEN達が戦闘を行う為の重要な足場であり、その足場をミーアは今のように凍らせる事が出来るのだから天敵以外の何者でも無い。

 

「いえ……自在に操れる訳では無いと思うわ 」

「確かに……私達の会話中に"細工"したって言っていましたからね 」

 

(それに"ブレイニクル"は本来下向きに凍る現象の筈……何かあるわね )

 

ビスマルクはミーアのカラクリを模索していたがその余裕はとてもじゃないが無かった。海中が凍った為特に損傷が酷い潜水艦達はほぼ全滅状態であり、戦闘には参加出来なかった。

 

「寒い……しかも艤装も凍ってこれ以上は無理…… 」

 

「無理はしないで。指揮官、状況の方はどうなってる? 」

 

『潜水艦は全員無事だが殆どは損傷が酷い。唯一無事なのは……U-551だ 』

 

「はいアネキ!あの敵の攻撃前の注意よって避けられました 」

 

潜水艦の中で唯一ミーアの攻撃に反応して攻撃を避けたのはU-551だった。ミーアの攻撃前の注意喚起によってギリギリだが避けられた。

しかし同時にU-551はその事について不思議に思っていた。

 

「なんであの人、攻撃前にあんな事言ったんでしょうか?何も言わずに攻撃すれば良かったのに 」

 

U-551の意見は最もだった。ミーアが行った注意はKAN-SEN達を意識を集中させ、攻撃を回避してくれと言わんばかりの行動だ。もし何も言わずに不意打ち気味にあの氷を生み出せれば、その場で全滅も有り得た筈だ。

 

「それについては威力もそうね。艤装に当たれば致命的だけど、それ以外の所なら差程問題無いもの 」

 

現にKAN-SEN達の足元の氷は力を入れれば難なく直ぐに壊せるものであった。例外として潜水艦は損傷は大きいが、それでも致命的と言うものでは無かった。

 

「相変わらず行動に謎が多いわね……倒すつもりが無いのかしら 」

 

『それについては後だ。とにかく損傷が激しいKAN-SENは軽傷のKAN-SENの力を借りて撤退してくれ 』

 

優海の指示により、損傷の激しいKAN-SENと軽傷のKAN-SENは撤退し、先程までいた戦力の約4割を失ってしまった。勿論軽傷なKAN-SENを含めてなので修理が終わり次第復帰は可能だが、それでも大幅なタイムロスは間違いない。

 

「戦力が減ったわね、指揮官はどう考える? 」

 

『そもそもマーレさんとセイレーンの目的が分からない。迂闊に戦闘に参加するよりも、まずは相手の目的を探ろう 』

 

「探ると言ってもどちらも敵です。どうすればいいのですか? 」

 

『いや……どちらも敵とは限らない 』

 

Z23の問に優海は少し悩みながらもある結論を出していた。

 

『敵の敵は味方さ 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ……倒しても倒しても蛆虫のように出てきやがる…… 」

どのくらい倒したかも忘れてしまうほど量産型を撃沈させたが……一向に数が減らない。いや寧ろ1隻倒したら2隻増える一方だ。

しかもKAN-SENとの三つ巴ともなればこの先流石にキツい。

 

(せめてアレだけでも回収しないと来た意味がないしな…… )

 

赤城から奪ったあの黒箱と同じものが鉄血から感知出来た為この鉄血に来たのだからアレを回収しないと次からの回収が難しくなる。

 

KAN-SEN達の位置を気にしつつ、複数の量産型が主砲であるビーム砲をチャージしている光が見え、止める事が不可能だと悟った俺は回避行動を取ろうとしたが……

 

(俺の背後には鉄血陣営……ちっ )

 

背後の鉄血の街に目が映った俺は突然気が変わり、ビーム砲の射線上にて剣を構えた。

 

「見境無しとは余程自信が無いと見えるな 」

 

複数のビームが合わさり、一つの巨大なビームへと代わり、俺は真っ向から剣の斬撃でビームを斬る。

斬撃とぶつかったビームは真っ二つに割れ、後方の鉄血陣営の端にギリギリ掠めたおかげで鉄血陣営には被害が出なかった。

 

「……ロドンさんなら斬撃で量産型を倒すと思うけど、そう上手くはいかないな 」

 

そんな思考の中一隻の量産型に狙いを定め、破壊しようとその瞬間、側面から砲弾が放たれ、量産型の装甲が爆発した。爆破の影響で量産型は機能を停止し、力尽きるように装甲に浮かぶ赤いラインが消えた。

威力からして戦艦か、攻撃の出処を確認する為に砲弾が飛んできた方向に顔を向けるとビスマルクが主砲を構えていた。

 

「どういうつもりだ 」

 

ビスマルクが攻撃したのだと判断した俺はどういうつもりだと尋ねた。こちらに協力するメリットなど無いのに協力する意味が分からなかった。

 

「それについては指揮官に聞いて 」

 

ビスマルクは装着していた通信機を俺に投げつけ、優海と会話した

 

「どういうつもりだ優海。俺達とお前たちは対立関係の筈だがな 」

 

『それ以前にセイレーンは人類の敵であり、貴方方もセイレーンには対立している筈だ 』

 

筋が通っている見せかけの理由だ。通信機越しから見える優海の意思は、俺達を敵として見ていないと言う顔をしているだろう。

 

「人類の敵なら俺達だってそうだ。しかもセイレーンとは違い俺達は全陣営の上層部の大半を殺戮した。これが敵じゃないと何故言いきれる! 」

 

敵を敵として見ようとしない優海にいつしか怒りを感じ、俺は通信機越しで怒鳴り散らかした。しかしあいつは1歩も引かなった。

 

『……じゃあどうしてさっき鉄血を守ったんですか 』

 

「……たまたま背後に鉄血があっただけだ 」

 

『貴方なら簡単に回避出来た筈だ 』

 

『…… 』

 

バツが悪くなり、逃げるように俺は通信機をビスマルクに返しこれ以上何も言わなかった。

 

「俺とお前達とは敵対関係だ。それだけでいい 」

 

「そうだよなぁ!そっちの方がシンプルで良いよなぁ! 」

 

突然テンションの高い声が俺の耳に入ったと同時に紫のビームの嵐がが俺に目掛けて撃たれたが、問題なく最小の動きで回避出来た。

 

「ちぃ!これでも当たんないのか! 」

 

「相変わらず大雑把な攻撃だな、ピュリファイヤー 」

 

薄い色素の肌、紫の髪に黄色い瞳……そして海洋生物を用いた艤装とあの高揚的な性格は間違いなくピュリファイヤーだった。

 

「戦い方なんてどうでもいいんだよ。あんたさえぶちのめせればそれで良いからね! 」

 

ピュリファイヤーはまた大雑把な攻撃を仕掛けようとしたが、今度は少し考えていた。俺の周りを攻撃し、逃げ道を塞いだ所で1点攻撃……アイツにしては考えてるな。だが攻撃の手が分かっていれば対応は簡単だ。防御の体制を取ろうとするが、横からビスマルクと後に来たKAN-SEN達がピュリファイヤーを攻撃した。

 

その事に気づいたピュリファイヤーは攻撃の手を中断して咄嗟に回避した。体を捻じるように空中から海上に着地し、邪魔をしたKAN-SEN達を睨みつけた。

 

「あ……?なんでアンタ達がこいつの援護をするんだよ。こいつはアンタ達の上層部を壊滅させた極悪人だよ? 」

 

「そうは言っても、指揮官はそんな極悪人だとは思って無いらしいわ 」

 

「コネクターが?何考えてんだアイツ 」

 

「強いて言うならただのお人好しだアイツは 」

 

会話の隙にピュリファイヤーの背後から攻撃し、一撃で仕留めようとしたがギリギリの所で跳躍され躱されてしまう。

 

「残念当たらないよ〜 」

 

「残念ですが当たりますよ 」

 

俺を煽ったピュリファイヤーは突然なにかに衝突したように爆発してしまい、呆気なく倒されてしまった。爆風の先にミーアさんがいることから恐らくミーアさんのせいだろう。

 

「え……今セイレーンは何の攻撃に当たったんですか? 」

 

「敵に教えるつもりはありません。まだ敵はいますよ 」

 

ミーアさんの攻撃を気にしているKAN-SEN達に注意を促し、戦闘に備えさせた。爆破したピュリファイヤーにダメージを与えたのは確かだが、しぶとくもアイツは生き延びていた。

 

「ちぃ……英雄様が背後から不意打ちとは恐れ入ったよ!騎士道精神とやらが無いのかねぇ? 」

 

「そんなものとうに捨てて犬にでも食わせてるよ。きっとそれを食べた犬は尻尾を振って正々堂々ご主人様を守っているだろうさ 」

 

フランクな言葉と裏腹に俺はダメージを受けたピュリファイヤーに真っ直ぐ懐に潜りこんだ。

 

「……っ、速 」

 

「遅いな 」

 

一瞬で距離を詰められたピュリファイヤーは迎撃する間もなく剣で体を切り裂かれ、念には念と俺は最後にビームでやつの体を消し飛ばした。あまりの一瞬の出来事にはKAN-SEN達も棒立ちで見ているしか無かった。

 

「これが……英雄の力…… 」

 

「違う 」

 

先程の戦闘を見ていたKAN-SENの誰かがそう呟くと、俺は即座にその言葉を否定した。英雄の力では無く、【英雄】というか言葉そのものを俺は否定したかった。

 

「俺は英雄でも何でも無いし、名乗った覚えもない。俺はお前達人類の敵、マーレ・テネリタスだ 」

 

俺はKAN-SEN達に……いや、これを聞いているであろう優海に対して強く言い放ち、それを示すようにKAN-SEN達に剣先を向けた。KAN-SEN達は俺とミーアさんから距離を取り神経を研ぎ澄ませていた。

 

まぁ、こういってもあいつは納得しないような顔をしているのだろう。そんな顔が目に浮かび、自分勝手ながら腹が立つ。

セイレーンの艦隊はKAN-SEN達のおかげで片付いた為、次はKAN-SENとの戦闘を始めようとしたが、横入りが入るように水柱が勢いよく3時方向に勢い良く立った。

 

「おいおい!まだ遊びは終わってないよ! 」

 

水柱から飛び出したのは倒したはずのピュリファイヤーだった。別に驚きはしていない、セイレーンは本体を倒さない限り何度でも復活し、いくらでも戦闘に参加出来る。

 

大袈裟に言えば100人同時に戦闘に介入できるし、その100人が何度でも復活出来るような物だ。だが、100人同時に戦闘に参加出来るとしても、セイレーンには言わばリソースというものが存在する。

 

例えば100人同時に戦闘に参加させると、復活する為の余力、つまりはリソースが無くなる為、再度の復活は困難となる。まぁ復活出来ないだけで消滅する訳では無いが。

 

「死に損ないが……お前じゃ俺には勝てない 」

 

「あぁ!?あまり調子に乗るなよ……今日は面白いものを持ってきたんだ、そいつも混ぜてやるよ 」

 

まんまと挑発に乗ったピュリファイヤーは鋭い目付きで俺を睨みながら指を鳴らすと、ピュリファイヤーの遠い後方に巨大なワープホールが出現した。

 

量産型が出現するよりも数倍の大きさであり、明らかに何か違うものが来ると肌を通じて本能で伝わってきた。

 

量産型の数倍の大きさの船は禍々しい黒鉄で覆われ、巨大な主砲がその禍々しさを強調していた。

 

「試しに1発……撃っちゃうか 」

 

ピュリファイヤーが合図と共に主砲がエネルギーをチャージされていき、狙いが明らかに鉄血陣営に向けられていた。

 

「あいつまさか……くそっ! 」

 

KAN-SEN達を斬撃の風圧で吹き飛ばし、あの主砲の射線上には俺しかいない。

 

「マーレ!? 」

 

ミーアさんの声は聞かずに俺は艤装と右腕の銃を直結させ、今俺が撃てる最大出力をあの船が放つビームと俺のビームをぶつけようとした。

アレを回避する事は簡単だ。だが避ければ……

 

「やるしかないな…… 」

 

セイレーンの船がチャージを終え、通常の紫色のビームでは無く赤黒い禍々しいビームを放つと同時に、俺は最大出力のビーム砲を放った。

 

2つのビームがぶつかり合い、双方のビームが枝分かれするようにビームは所々に曲がり離れていたKAN-SEN達も巻き込む程だった。

 

幸いKAN-SEN達とミーアさんはそのビームを躱し、ビームの撃ち合いは終わりを迎えた。

 

「出力が俺と同等……? 」

 

「お前やコネクターの戦闘データを元に作った奴さ、名前は何だっけな……あぁ、そうそう【リュウマ】ってオブザーバーが言ってたな 」

 

リュウマ……重桜にあるチェス……いや将棋の駒である角の成駒の名前だったな。なるほど、量産型の強化版か……戦闘データを元にと言うと取ったタイミングはさしずめ優海が暴走した辺りか……量産型の強化版ということは……

 

「お前の考え通り、こいつはこの一隻だけじゃ無い! 」

 

俺の周りに【リュウマ】が次々と現れ、巨大な黒鉄の船によって俺の逃げ場は失った。

 

「んん〜どうした〜?何か言ってみろよ!鳥籠の鳥のように!! 」

 

「これが鳥籠と言うのならお笑いだな 」

 

上空にいるピュリファイヤーを嘲笑うと一隻のリュウマは爆発し、俺はその隙に破壊されたリュウマを足場にして包囲網を脱出した。

 

「俺にこだわりすぎたな 」

 

土産を残すように両隣りのリュウマを破壊し、これで少しは楽になる筈だ。

 

(一隻のリュウマを破壊したのは……KAN-SEN達か )

 

上空から見るKAN-SEN達の立ち位置や構え的に間違いない。……優海の指揮だな。

 

KAN-SEN達の前に着水し、KAN-SEN達は俺への警戒を緩めておらずこちらに砲を構えた。

 

「……余計な事をするな 」

 

KAN-SENだけでは無く、優海に対して俺は冷たく言い放った。事実あの程度の包囲なら問題なく俺だけでも脱出出来た。

 

「指揮官言わく放っておけなかったそうよ 」

 

「……余計なお世話だと伝えておけ 」

 

本当に……ムカつくぐらいお人好しな奴だ。俺を助けても後々自分達の首を絞めるだけというのに……

 

「おいおい、お祭りの途中だってのに私を無視するなんて悲しいなぁ 」

 

戦いの最中だと言うようにピュリファイヤーはまたもやリュウマを呼び出し、全ての主砲を鉄血陣営に向けていた。

 

「まずいよ!アレを全部撃たれたら鉄血は……! 」

 

ハインリヒの言う通りあの主砲を撃たれたら間違いなく鉄血陣営は崩壊し、最悪鉄血の土地が地図から消える事になる。状況は最悪に等しかった。だが、乗り越えられないことはない。

 

「なら撃たれる前に全て片付けるぞ 」

 

「……それは協力するって解釈してもいいのかしら 」

 

「勝手にしろ。俺とミーアさんは半分のリュウマとピュリファイヤーをやる。残りは任せる 」

 

『……分かりました! 』

 

通信機越しから優海の声が聞こえ、俺とミーアさんは前進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーレさん…… 」

 

言葉してはいないがマーレさんとは協力関係となった今、ここで倒すべき敵は決まった。

 

「各自目標を全リュウマの撃墜に切り替えてくれ。戦艦の火力を前面に出して一点に狙ってくれ 」

 

『『了解 』』

 

ミーアさんの攻撃で軽傷を受けたKAN-SEN達ももうすぐで戦線に復帰する。その間に何とかしてリュウマを少しでも倒さなければ、鉄血陣営はあのビームによって滅ぼされる。

 

『指揮官!目標の周囲に人型のセイレーンが! 』

 

「人型!? 」

 

二ーミから送られたデータを確認すると、ピュリファイヤーのような個体では無く度々確認されている量産型人型セイレーン【エクセキューターシリーズ】だろう。

 

エクセキューターシリーズはピュリファイヤーのような下層端末よりは弱いが、量産型の船より強力である事は間違いない。それがリュウマを護衛しているとなるとリュウマの撃沈は困難となる……

かと言って護衛に戦力を注いではリュウマへの攻撃が薄くなり、リュウマに集中しては護衛に攻められて被害が増す……かと言って俺が今出ても間に合わない……!

 

(考えろ……今この場で最善な戦術は何だ……考えろ! )

KAN-SEN達の状況、敵味方の位置……洪水のように押し寄せる無数の戦術から最適な戦術を掻き分けるように探すとふと思い出したことがある。それは、母さんと昔指した将棋の事だ。

 

 

 

_よーし、もう少しで母さんの王を取れるぞ〜!

 

昔にやったいつも通りの将棋をやっているある日だった。母さんの教え通りに"王は包むように取る"を徹底し、王の逃げ道を塞ぐように駒を動かし、もう少しで王手を取れるまであった。

 

_うーん、確かに言う通りにはしていますが……焦りすぎですね

 

そう言って母さんが動かした駒は王の近くにあった金だった。

 

_ふふん、でも今更遅いよ。えーと次は……

 

俺はその時動かした金を無視するように王の逃げ道を塞ぐように指したが……それを起点に俺の盤面は狂い始めた。金によって竜馬がとられ、挙句の果てには攻めの駒が徐々に取られてしまって王手はとる事が困難になった。

 

_はい王手、詰みです

 

_あれぇ!?何で何で!?

 

いつの間にか逆転されてしまい、訳も分からず盤面を見ても全く分からなかった。いつの間にか飛車角は取られてるしわけも分からず頭を抱えていた事を覚えている。

 

_優海、貴方は先程私の金を無視しましたね?"玉の守りの金を攻めよ"。目先の勝ちや目標に惑わされては勝てませんよ?全体を見通し、今1番の脅威が何であるか見極めないとダメです

 

 

 

 

 

 

 

「王の守りの金を攻めよ、目先の勝ちや目標にとらわれるな…… 」

 

リュウマを目標……つまり王と捉えるとなると、護衛はさしずめ金駒だ。変わっているところがあるとすれば、取るべき王が複数いる事とその王を全て取らないと勝てないという事だ。

 

(リュウマと護衛の位置関係……確かアイツらの行動パターンは…… )

 

微かなセイレーンの情報を思い出し、ようやくまとまった戦術が一筋の光の如く思いついた。

 

「これしかない……皆リュウマの護衛を包囲し、護衛セイレーンを攻撃! 」

 

『それではあの主砲が撃たれてしまいます! 』

 

「大丈夫だ二ーミ、信じてくれ 」

 

二ーミの反論に俺は論理的に話す事はせず感情的に心に訴えかけた。目を見ずとも声色で想像したのか、二ーミを初めとした全てのKAN-SEN達は俺の指揮に従ってくれた。

 

心底感謝を述べながら俺はKAN-SEN達に細かな指揮を与えた。

 

「まずは戦力を分散させる、ビスマルク、ティルピッツ、クローゼを中心に3つの部隊に分ける。他のKAN-SENはさっき行った3人の中から1番近い部隊と合流しろ 」

 

1隻1隻相手にしていては必ず残った1隻が主砲を撃ち、鉄血に被害が出てしまう。そこで戦力を分散させ、各個撃破に移行した。しかしその分1隻を撃破する時間が延びてしまい、もたもたしていたら主砲を撃たれてしまうリスクが大きい戦術だ。かと言って1隻に集中すると他のリュウマがフリーになる。だから今取れる戦法はこれが最善であると俺は考える。

 

「ビスマルクは15次方向に移動、ティルピッツの部隊は少し後退し、フリードリヒは前進しろ 」

 

KAN-SENと敵の位置関係が示されたモニターを見つめ、KAN-SEN達一人一人に細かく指揮を与える。さて、そろそろ相手は仕掛けてくるはずだ……

 

『指揮官!護衛セイレーンが攻撃態勢に! 』

 

「よし、3秒後に全員散開! 」

 

KAN-SEN達が3秒後に散開すると、通信機越しからおそらくは護衛セイレーンのビーム音が聞こえた。KAN-SEN達の悲鳴がない所からおそらくは俺の考え通りの筈だ……

 

『し……指揮官!護衛セイレーンの攻撃がリュウマに直撃しました! 』

 

「よし、読み通り!この隙にリュウマを撃破し護衛セイレーンを撃退してくれ 」

 

時間が無いのなら敵の力を借りればいい、強引だが何とか上手くいって俺はホッとした。

いや、まだまだリュウマは残っている。気を引き締めて行かなくては……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるな……あいつ 」

 

KAN-SENもそうだが何より優海の指揮はやはり目を見張る物がある。こちらとしては加勢に行こうと思ったがあの様子だと必要ないようだ。

 

「さて……と……ミーアさん、残りのリュウマを頼みます 」

 

「うん、そっちも気をつけてね 」

 

ミーアさんは残りのリュウマの撃沈させるのに集中させ、俺は高みの見物としゃれているピュリファイヤーに向かい剣を突きつける。

 

「お?やるっての? 」

 

「いつまでもそこにいては目障りだからな 」

 

「ふ〜ん……私がKAN-SEN達に手出しできないように立ち回っていた癖に……お前、あいつらのこと守って何になるんだ? 」

 

気づいていたのかこいつ……

 

「それに鉄血も守るようにしてさ……お前、何がしたいんだ? 」

 

「そんなの決まってるだろ 」

 

守る?何を馬鹿な事を言っている。俺は人類の敵だ。

 

そうでなければならない。

 

セイレーンとしてこの世に蘇り、人でも何でもない【何か】に生まれたのであれば俺がやる事はただ1つ。

 

「あいつらは俺の目的の為の必要な奴らだ 」

 

そういいつけ、俺はピュリファイヤーに斬りかかった。復活させることも失せるように、徹底的に潰すように俺は殺意を込めて剣を振りかざす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優海の指揮によりリュウマは全て撃墜し、残りは全てマーレとミーアが撃墜した。一先ずの脅威が去った今、優海とKAN-SEN達は安堵を漏らした……が、その安堵はまるで紙のように吹き飛ばされた。

 

しかし全滅させた矢先にリュウマが次々と出現し、数は先程の倍以上の数であった。

 

「嘘でしょ……まだ出てくるの? 」

 

流石のKAN-SEN達も疲弊している今、倍以上のリュウマを全滅させる戦力はもうない。いや、それ以前に今のKAN-SEN達の戦力では先程の数がギリギリだったのにも関わらず、倍以上の数であってはどう足掻いても全滅は不可能であり、主砲を撃たれてしまう。

 

『……俺も前線に出る。それまでに耐えてくれ』

 

この事を受け止めた優海は急いで出撃の準備をしたが、ある1人のKAN-SENがそれを止めた。

 

「待って、大丈夫よ。私が何とかするから 」

 

そのKAN-SENとはビスマルクだった。ビスマルクは誰よりも前に立ち、後ろに振り返ってこの場いる鉄血のKAN-SEN達の目を見ていた。

まるでこれが最後の景色だと言わんばかりに……

 

「……ここまで私に付き合ってくれて感謝するわ。ありがとう。……ティルピッツ、貴方とはもう少し話すべきだったかもしれないわね 」

 

「姉……さん? 」

 

意味深な言葉を放ったビスマルクにティルピッツの他にKAN-SENも優海も困惑し、ビスマルクの行動を見守る事しか出来なかった。

 

ビスマルクは服の内からある物を取り出した。そのあるものとは……黒く輝くブラックキューブであった。

 

「……ありがとう 」

 

 

ビスマルクがブラックキューブを取り込むと同時に、ビスマルクの艤装が黒く染まり、艤装の周囲が黒い霧に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら 」

 

彼女は顔を見せず、悲しげにそう言った

もしもの話(R-18)を観測しますか?

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