もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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アズレンが4周年かぁ……もう4年ですか……
放送で私が気になったのは新コンシュマーのゲームですかね。

何やら端っこの方にセイレーンのマークがあるので
もしかしたらセイレーンサイドのお話?と予想しております。早く発売しないかな〜


気だるげな科学者

一時の平和なアズールレーンの基地の中、突如として爆発が起きた。何事かとKAN-SEN達は爆発が起きた基地の研究室に雪崩のように走る中、セイレーンかと警戒体勢に入っていた。

 

研究室から黒い煙が出る中、1人サイズの合っていないダボダボな白衣を来ていた女性が表れた。

白衣は煙の煤で所々黒く汚れており、彼女が装着しているゴーグルも黒く汚れていた。KAN-SEN達は息を緊張の息を飲む中、出てきた女性リフォルはゴーグルを外して気だるげな態度で口を開いた。

 

「あ〜ごめん、なんかやらかしちゃった 」

 

KAN-SEN達は、その態度に唖然した。

 

 

 

時が経って数時間後、事態を耳にしたロイヤルメイド隊達の協力を持ち、元凶の元なった私と明石と一緒に研究室の掃除を始めた。

 

「いや〜ごめんね〜ベルファスト、仕事増やしちゃって 」

 

「いえいえ、ところで何をされたのでしょうか?」

 

「うーんとね、ある兵装の調整を失敗しちゃった。ちょっと主砲の出力強化をミスっちゃって…… 」

 

「まぁ、お怪我の方はありませんか? 」

 

「大丈夫大丈夫〜いつもの事だから〜 」

 

私はしょっちゅう実験に失敗している。昔からそうだ、失敗して、原因を探り、そしていつか成功させる。この繰り返しが私は好きだ。分からない事が結ばれた紐のように解けていくような瞬間の達成感が、何よりも私を満たしてくれた。だから怪我なんて慣れっこなのだ。

 

「ああ!ベルファストそれ捨てちゃダメだよ!後で使うから! 」

 

「それは申し訳ありません。ではこちらの部品を…… 」

 

「それも使うの〜! 」

 

爆発で吹き飛ばされたパーツを捨てられる前に拾い、机の上に綺麗に並べて置く。こういうパーツはしっかりと並べないとあとから大変なんだよね〜

 

「さて、掃除を再開……と…… 」

 

あれ……何でだろう、急に目眩が来た。疲れたのかな……目の前の景色が歪み、脳がブンブン振り回されているような感覚に陥る。あ、これヤバいかも……

 

「リフォル様! 」

 

目眩で倒れた私をベルファストはすぐ様察知して私が地面に倒れる前に抱えてくれた。

しかし、私の目の前の世界は相変わらず回っており、視界も真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

_あの子気味悪いよね

 

_そうそう、何考えてるか分からないって言うか……

 

_というかアイツいつも全ての科目満点だろ?絶対なんかしてるだろ

 

_噂では裏で家族とか学校の実権握ってるらしいよ

 

_ホントかよ、根暗かつクソとか最低女じゃん

 

根も葉もない噂は私の耳に届いてはいたが、内には届かなかった。私の家庭が学校の実権を握ってる?何を根拠にそんな事言ってるのかよく分からない。

私は自分の知りうる全てを紙の上に書き、正解を当てただけに過ぎない。

それを全て解き明かし、ずっとやっていただけだ。

 

最初は皆憧れの目を持って私を見ていた。尊敬、注目、憧れを持った目が多くあり、いつしかそれは異端者を見る目に変わっていった。

 

私に対しての疑念や畏怖が強くなり、いつの間にかクラスの全員は私から離れていった。

 

何を考えているか分からない。

 

いつもどこか遠くを見ている目しかしない。

 

反応が機械みたいで不気味。

 

 

 

こうして私の周りには誰もいなくなった。誰も私を理解してくれない。理解しようともしない。

 

ただ1人、私を理解してくれた人でさえ置いていかれたのに……

 

 

 

 

 

 

「ん……なんか……ちょっと嫌な夢見たかな 」

 

目が覚めると私はベットの上にいた。少し眩みながらも体を起こし、さっき見た夢を忘れるようにした。

だけど、こびりつくように私の嫌な夢は中々消えなかった。

夢に見たクラスメイトの顔は黒く塗りつぶされた分からなかったけど、私を見ていた目は酷く鮮明に見えた。

私を恐れ、離れていったあの目を……

 

(結構昔の事なんだよねぇ……ま、別にいいけど )

 

気持ちを切り替えてベットから立ち上がり、近くの椅子にかけてあった自分の白衣を着替え、研究室に戻ろうとドアを開けると、一体何時からだろうか待ち構えていた笑顔のベルファストがいた。

 

ベルファストの笑顔はとても優しいものではなく、全身の寒気が生まれるほど怖いものであった。

 

「何をされてるんですか?リフォル様 」

 

「うわぁ……なんでいるの? 」

 

「そんな事はどうでもいいです。一体 何を されようとしてるのですか? 」

 

言葉を1句1句区切って威圧感を増したベルファストには逆らえず、私はダボダボの白衣の袖を上げて降参した。

 

「うぅ〜早く戻って研究したいのに〜!! 」

 

しかし私の悲痛な叫びはベルファストおろか他のKAN-SENにも届かなかった。

 

「……リフォル様、実は前々から貴方様を少し気にかけておりました 」

 

「へ、へぇ〜どうして? 」

 

ベルファストは私の問いに1歩前に出て私の目の前に立つと、私のゴワゴワの髪に触れた。

 

「大半は身なりです。この髪触りと肌の汚れ……そして、貴方の机には大量のエナジードリンクとエネルギーバー……食事もまともにとられてませんね? 」

 

「ちゃ、ちゃんと栄養面では充分だよ〜? 」

 

「論外です 」

 

「はいすみません…… 」

 

ベルファストの言葉の圧が怖すぎる。優海もこんな風に怒られると考えると今は同情する。

 

「ではリフォル様、まずはその汚れた体を洗いましょうね 」

 

「えー……でも私はお風呂はあんまり 」

 

「ね? 」

 

「……はーい 」

 

ベルファストに腕を掴まれ、引きずられるように笑顔のベルファストに浴場へと連行された。

 

脱衣場に着いた私とベルファストは近場のロッカーの鍵を開け、服を脱いでいく。着替えの途中なら逃げれるかもしれないが、私はそんなに足早くないし、KAN-SENにかてるわけもない。ここは大人しくした方が良いよね……

 

白衣や服を脱ぎ、首にかけたIDカードも全てロッカーに置き、流石の私でも裸体で歩き回るのは少し恥ずかしいから体にタオルを巻き、ベルファストを待った。

 

メイド服を脱ぎさり、裸体になったベルファストをまじまじと見てしまった。恵まれた容姿に恵まれた体……世の中の女性が羨み、男性が釘付けになる事間違い無いだろう。

 

「……?どうされましたかリフォル様 」

 

「いや〜ベルファストの体つきは良いなぁ〜って思っただけ 」

 

「お褒めいただきありがとうございます。では入りましょう 」

 

ブレないなぁ〜流石メイド長と言うべきなのかね〜。ベルファストが先に浴場に入ったけど、ここで逃げたら後が怖い。仕方なく私は広い浴場へと入る。

 

浴場は時間が時間なのか私とベルファスト以外誰もおらず、貸し切りの状態だった。

 

「リフォル様、まずはこちらで体を洗いましょう 」

 

「ほーい 」

 

ベルファストがいるシャワーの所まで歩き、椅子に座ると急にベルファストが背後を取った。

 

「ではリフォル様、今回は私が髪のケアをさせていただきます 」

 

「えぇ〜?いらないいらない!そんなのに時間かけるより私早く戻りたいよ〜! 」

 

「お言葉ですが、貴方様の状態は酷く不衛生でござまいす。そのような状態ではいつか病気になります。ですからそうなる前に私が衛生状態を良くさせてもらいます 」

 

「むぅ〜もう勝手にしてよ 」

 

「はい、では……失礼します 」

 

ベルファストは私のゴワゴワな髪に触れ、まずはゆっくりと髪をお湯に馴染ませた。指通りも悪く、少し埃が被って機械油の匂いが染み付いた汚い髪を、美しく完璧なメイド長に触られている。

 

そんな事実に私は劣等感を抱くことは無かった。寧ろ早くして欲しい、終わって欲しいと願っていた。

 

「ねぇねぇ〜なんで私なんかに構うの? 」

 

「それは貴方と似ている人が昔いたからです。彼女は勇敢でしたが、それと同じように自身に対しては無関心でした 」

 

鏡越しで私の目を見つめたベルファストにそっぽを向いたけど、ベルファストに優しく頭を掴まされて顔の向きは正面に戻った。

 

「動かないでください。まだ髪の手入れが終わっておりません 」

 

「はーい…… 」

 

「……話を戻しますと、その方は特に食生活が酷い有様でした。食事はエナジーバーにレーションと缶詰……食堂があるというのにそこに行かない……恐ろしくストイックな方でした 」

 

「ふ〜ん…… 」

 

食生活の辺りがまるで私みたいに思えた。私も食生活が良いとは言えないと自負はしている。だけど人間は栄養面さえどうにか出来れば大抵は何とかなる。

無駄に時間を食事に費やすぐらいなら、手軽に栄養が取れる方が効率的だ。

 

ベルファストが自前のシャンプーを手に馴染ませ、ゆっくりと私の髪に塗りつけてきた。髪の一本一本を丁寧に浸透させるように丁寧にゆっくりと私の髪に触れ、手入れをしていく。

まるで髪に神経でも入っているかのように、髪からベルファストの滑らかな手触りが髪から頭に伝わり、変な気分になって落ち着かない。

 

「ねぇ、そのストイックな人は結局どうなったの? 」

 

あまりに落ち着かないのでここは会話で気分を逸らすことにする。

 

「そうですね、ある方によって今はとても良く変わられました。今は恐らく、その方の為に料理をされている所でしょう 」

 

「へぇ……そのある人ってどんな手品を使ったのかな? 」

 

「手品ではありません。その方は何度も何度も声をかけ、手を差し伸べただけです 」

 

「……あぁ、なるほどね〜 」

 

その言葉である人が誰なのかはわかった。十中八九……優海の事だ。思えば昔からいつもそうだった、いつも誰かに手を差し伸べて助けていた。

 

……自分の事は助けないくせに

 

「相変わらずだね〜…… 」

 

「えぇ、相変わらずです。さて、それではシャワーをさせてもらいますね 」

 

髪全体にシャンプーを浸透させた後、ベルファストはゆっくりと髪についたシャンプーをお湯で洗い流した。

先程よりはまともになったけど、私の髪はまだまだ指通りが悪く。ゴワゴワからガサガサになった程度だった。

 

「ふはは〜私の髪をそう簡単にキューティクルには出来ないよ〜 」

 

「誇る物ではありません。ではお次はトリートメントを使いましょう。まだまだこれからですよ? 」

 

「ほーい 」

 

今度はトリートメントを使い、さっきより髪に艶がはいり指通りは良くはなったから早めに終わるだろう。

 

「そう言えば……気になることと言えばもう1つあります 」

 

「ん?何なに? 」

 

「リフォル様、貴方が何故指揮官を目指した理由が分からないのです。お言葉ですが、貴方は指揮官を目指すタイプではないと勝手ながら思っていますが…… 」

 

「……あぁ〜それはね〜 」

 

私は少し考えて口に出した。

 

「……親がちょっとうるさかったから仕方なくだよ〜でも、そのおかげでアズールレーンの研究機関に入れたから入って良かったと思ってる 」

 

「左様でございますか 」

 

……ちょっとわざとらしかったかな。鏡越しのベルファストの顔つきが少し怪しんでいるようにも見えてちょっと心臓に悪い。

だけどそれでこっちの表情を硬くしからもっと怪しまれて問い詰められるかもしれない。ここは平静を装おう……

 

「そうだよ〜。そうだ、こっちから聞いてもいい? 」

 

「はい、何でしょうか? 」

 

「優海についてはどう思ってるの? 」

 

次の瞬間、一瞬だけどベルファストの手が止まった。本当に一瞬だけど、確かにベルファストは動揺していた。これはいじりがいがあると踏んだ私は口角を上げてニヤニヤと鏡越しでベルファストの顔を見た。

 

「あれ〜?意識しちゃった? 」

 

「とんでもありません。私とご主人様は主従関係に過ぎないので 」

 

「本当はもっとイチャイチャしたいでしょ〜?あんな事やこんな事もしたいでしょ? 」

 

「私はご主人様に御奉仕するメイドでございます。そのような事は、考えるだけでも恐れ多い始末です 」

 

う〜ん、硬い。かなりガードが硬い。だけどベルファストは無意識に焦っているはず。現にトリートメントを付けてる手つきが若干ぎこちなくなっている。

だけどこれ以上揺さぶっても無駄だろうな〜

よし、諦めよう!

 

「……さて、全体に付けたのですすぎますね 」

 

「了解〜 」

 

お湯ですすがれたトリートメントは髪から離れ、ゴワゴワな髪が劇的ビフォーアフターでサラサラになった。

 

「やはり思った通り、綺麗ですね 」

 

「え〜私なんかよりもネージュとかの方が綺麗だと思うよ〜? 」

 

「ですがリフォル様も化粧すれば宝石のように綺麗になると思いますが 」

 

「私はいいよめんどくさいし 」

 

まぁ……悪くは無いかなとは思うけど……どうも乗り気にはなれない。髪を綺麗にしただけで、こんなにも変わるのだから、本気で化粧した自分を見たい気持ちはあるにはある。だけどそれはほんの一欠片であり、顕微鏡でようやく見えるぐらい小さいのだ。

やっぱり私はどこまで行っても研究一筋なのだ。

 

「さてと、流石に自分の体は自分で洗うよ。ベルファストも自分の髪とか手入れしたら? 」

 

「ではそうさせてもらいます 」

 

ベルファストは隣の椅子に座って自身の髪と体を清めた。彼女の体を隠していたタオルが取られ、横目でちらりと見てもやはり凄まじい体だ。

豊満な胸にキュッとしたくびれに白い肌……いや〜凄いねぇ〜

 

体を洗い、私はベルファストよりも先に湯船に浸かる。

久しぶりの湯船が私の体に染み付いた。……そう言えば、私がお風呂に入る時はずっと誰かと一緒だった。この前は……リアとネージュと一緒だった。

今はベルファストがシャワーを浴びているけど、今こうして私が1人で入っている時間は無かった。

 

大きさは全く同じな筈なのに、何だか浴場が広く寂しく感じられた。何だか心にぽっかり穴が空いたようだ。

その穴をお湯で満たすように私は口元まで湯船に浸かり、ぶくぶくと泡を立てた。

 

(……ううん、寂しくは無い。何時だって私は1人。これまでだってずっと…… )

 

「行儀が悪いですよ? 」

 

シャワーを終えたベルファストがタオルを脱ぎさり、ゆっくりと湯船に浸かって私の隣に来た。

湯気越しのベルファストは水分を弾く柔らかな唇がどこか艶やかな色気を出していた。

 

「あの……私の顔に何かついているのでしょうか?そんなに私の顔をまじまじと見て…… 」

「ん、ああごめんね。ただ本当に綺麗な顔立ちだなーって思っただけ〜 」

 

KAN-SENは人によって作られたヒトの形をした兵器だ。そしてそこには、人の願望がある。例えば人の容姿は最初から選べず、恵まれた容姿を持てばそれだけで人生にアドバンテージが生まれる。だからこそ人は容姿に関しては凄まじい願望がある。

 

KAN-SENはある意味、人類の願いなのだろう。敵であるセイレーンを倒して平和を取り戻してくれという願いと、人類がこうなりたいという願望。その両方が備わっている。でも願望は時として嫉妬等の憎悪となる。

そして私は時々こう考えてしまう。

 

もしも、セイレーンを倒してテネリタスも倒し、敵もいない平和な世界が取り戻したら……KAN-SENはどうなるのだろうかと。

驚異になりえるかもしれないから廃棄するのか、それとも武器を捨てて第2の人生を歩むのか、私には分からない。だけど、良いイメージには持ちにくいと私は考える。

 

確かにKAN-SENの基本身体能力は一般の人と差程変わらない。しかし、最前線をくぐり抜けたその能力は健在だから、人々は少なからず不安を持つ者がいる筈だ。

そして間違いなく矛先は優海に向けられる。KAN-SENを指揮する指揮官は、敵がいなくなればこの世の武力は今や指揮官である優海の手にある。

その気になれば、世界の支配なんて簡単だろう。皆それを恐れ、弾圧する事だっていとわないだろう。

何も知らない無知な人々はきっと手のひらを返し、優海達を敵視する。だから無知程愚かで怖いものは無いんだよ……

 

「リフォル様? 」

 

「……ねぇ、もしも優海がいなくなったら……どうする? 」

 

さっきの考えで私はわけも分からない質問をしていしまい、流石のベルファストは言葉を詰まらせた。

 

「……その言葉を聞いた瞬間、私の胸はキュッと痛くなりました。そのような事を考えるだけでも、嫌という物です 」

 

ベルファストは胸を少し苦しそうな笑顔のまま手を添え、話を続けた。

 

「ご主人様はいわば道を照らす(しるべ)です。困難な闇に立ち向かい、私達の可能性を示してくれる大切なご主人様でございます 」

 

(しるべ)…… 」

 

「左様でございます。今は私達よりよ遥かに強く、私達を守るように行動していますが……本来、そのような役目は私達方にございます。たとえご主人様が強くなろうとも、私達がご主人様を守ります。それがメイドとして……KAN-SENの本懐……義務でございます 」

 

ベルファストの目から強い意思の光が感じられた。いつも冷静で中々自分をベルファストの本音が少し見れたような気がした。

 

「なーんだ、やっぱり優海の事大好きじゃん〜 」

 

「えぇ、とてもお慕いしております 」

 

ベルファストは今日一番の微笑みを浮かべた。

 

分かんないなぁ……私には

 

「何かおっしゃいましたか? 」

 

「ううん、何でもない 」

 

不意にあの人の事を思い出してしまった。今日はいつになくあの人の顔が脳裏りにちらついてしまう。

開発実験の失敗で爆発した時の煙で真っ黒な笑顔に、頭を撫でてくれたあの大きな手の感触が蘇りそうだ。

 

「んっ……ん〜じゃあそろそろ上がろかな〜のぼせてきちゃったし 」

 

「では私も御一緒します 」

 

「ま、ここまで来たら最後まで面倒を頼むよ〜完璧でお節介なメイドさん 」

 

「かしこまりました 」

 

私とベルファストは浴場から脱衣場へと移動し、結局最後までベルファストの世話になってしまった。ドライヤーからトリートメントもされてしまい、入浴前のゴワゴワな髪が一変してサラサラな髪になってしまった。

 

「うへ〜誰この人…… 」

 

鏡に映っている自分が他人のようにも見え始め、あまりの変わりように苦笑いした。というか髪を綺麗にしただけでここまで変わるの凄いなぁ……

 

「とてもお綺麗ですよ 」

 

「それはありがとうね〜 」

 

私はこの髪には似合わない少し汚れたダボダボな白衣に着替えた。繊維から臭う機械油と薬品が混じった臭いがどことなく落ち着く。

 

「うん、やっぱりこれが落ち着く 」

 

「では、次は食事と致しましょう。丁度お昼時ですので 」

 

「やっぱりついて行く感じ? 」

 

「当然でございます 」

 

「こんな女に世話を焼いても、何も良いことなんて無いよ? 」

 

何も出ないと言うよに私は白衣の袖をクルクルと回し、皮肉じみた笑顔をうかべた。しかしそれでもベルファストは後には引かず、逆にグイグイこっちに来た。

 

「世話焼き……それがメイドとしての責務でございます。ご主人様やお客様に最高の奉仕を提供し、良い一日を提供するのが私達です 」

 

「私にとっての良い一日は研究の日々なんだけど〜? 」

 

「それで体調不良になって倒れてしまっては本末転倒なのでは?」

 

痛い所をつかれてしかも論破されてしまった……まぁ……確かに食事とか一切してなかった日とか普通に徹夜続きとかあったし……ううん、ダメだ。

なんとも言えない。思わず口を尖らせて、私は観念してベルファストと一緒に食堂に向かった。

 

お昼時だからか食堂はかなりの盛況だった。しかし人数が多くても食堂が混んでるということは無かった。

基地が変わってから設備も変わり、かなりの広くなった。この食堂もその1つであり、メイド隊や進んで料理をしてくれる人や饅頭達だっている。手が回らないなんて事は無いだろう。

 

「ねぇ、今日のメニューとかあるの? 」

 

「今日は鮭のムニエルがございます。重桜からとても上等な鮭が入ったので大変お口に合うかと 」

 

「ふぅん……じゃあそれで 」

 

「かしこまりました。それでは空いてる席へとお待ちください 」

 

言われた通り空いてる席に座ってベルファストを待ち、私は暇だからじっと他のKAN-SEN達を眺めていた。

料理を頬張るKAN-SENもいれば、軽食で済ませてだべっているKAN-SENも多くいた。艤装が無ければ本当に普通の人間と変わらない生活を送っている。

 

(何でヒトの形にしてかなり可愛い子にしたんだろうね〜 )

 

きっとKAN-SENを作った人は相当なおじさんでエロい人なのだろう。さもなければこんな可愛い子達が戦闘に行かせる神経を疑う。

いや……もしかしたらその容姿で戦うことで人類の士気を上げる目的?いや無いかな〜うん、無い無い。

 

「隣空いてるかにゃ? 」

 

「ん?あ〜明石じゃん〜どうぞどうぞ〜 」

 

隣に先程研究室で私と一緒に爆発に巻き込まれた明石が食事を持って隣に座ってきた。

 

「いや〜さっきはごめんね。急に爆発とか起こしてしまって 」

 

「明石もしょっちゅうやるから気にしないにゃ〜化学に犠牲は付き物にゃ! 」

 

そう言って明石は袖の中から小さなアームを出して箸を操作し、メニューである刺身を今日に挟んで食べていた。

 

「ん〜やっぱり魚は生に限るにゃ! 」

 

「重桜の人って魚を生で食べるって本当だったんだ……私はなんか抵抗あるなぁ…… 」

 

「食べてみると美味しいものにゃ。1つあげるにゃ 」

 

そう言って明石は刺身の一切れを醤油につけて私に差し出した。調理されているからか魚の生臭さは無いけどま、箸から伝わる筋肉のブニョブニョとした感触が食欲を失せさせる。

 

「えぇ……これ食べれるの? 」

 

「良いから良いからにゃ!前進してチャレンジするのも化学の醍醐味にゃ! 」

 

「これと化学はあんまり関係な」

 

「隙ありにゃ! 」

 

言葉を発した口に明石は猛スピードで箸を突っ込んで刺身を無理やり私の口の中に放り込んだ。

吐き出す事なんて出来ず、反射私は刺身をモグモグと口の中で噛んでいく。すると、何故か魚がまるで口の中で溶けていくように舌に絡みつき、口の中で風味が広がって行った。するりと魚を飲み込み、後味も悪くは無かった。

 

「あ……美味しい 」

 

「そりゃあ良かったにゃ〜大トロを上げたかいがあったにゃ〜 」

 

「大トロ……? 」

 

「刺身では一番美味しい部位にゃ〜ここではそれがふんだんに使われてるから美味しいにゃ 」

 

「はい、皆様に最高のおもてなしをするのがメイドですから 」

 

「おぉベルファスト、びっくりした! 」

 

後ろでベルファストが料理を待ちながら姿を現し、メニューの鮭のムニエルが私の前に出された。

鮭のムニエルから僅かながらレモンの爽やかな匂いが鼻についた。

 

「ねぇベルファスト、これレモン使ってる? 」

 

「はい、ソースにレモンとバター等を加えたソースになっていますが……苦手でしたか? 」

 

「ううん、全然大丈夫。じゃ、いただきます〜 」

 

ナイフとフォークで鮭を1口サイズに切り、ソースに絡めて1口食べる。鮭の切り身はふっくらと食べ応えがあり、こんな鮭を食べたのは初めてだ。ソースもレモンとか使ってるからサッパリしててどんどん食べられる。

 

「いかがですか? 」

 

「うん、美味しいよベルファスト。ありがとう〜 」

 

「明石も1つ分けて欲しいにゃ〜 」

 

「良いよ〜 」

 

先程のお礼も兼ねて私はムニエルを一口明石に差し出した。明石の口にムニエルを入れると、明石は頬が落ちないように両手で頬を抑え、ほっぺが落ちるほどの美味しさに浸っていた。

 

「ん〜鮭もやっぱり美味しいにゃ〜!これは白米が進むにゃ! 」

 

「それでは、私はこれにて失礼致します。ごゆっくりお召し上がりください 」

 

ベルファストはそのまま別の仕事へと言ってしまい、私と明石の2人きりになった。

明石は白米を頬張り、私はパンを一口頬張った。パンも良い焼き加減で固くも無い。ふっくらとしていてこれもいける。本当に完璧すぎて怖いぐらいだ。

 

「そうにゃ、リフォルにちょっと話があるにゃ 」

 

「ん?どうしたの? 」

 

「ちょっとメンタルキューブに関する機械を作ってるにゃけど……どうしても人手が足りないから手伝って欲しいにゃ 」

 

「それくらい良いよ。じゃあこの後行こうか 」

 

「助かるにゃ 」

 

メンタルキューブ関連か……上手く行けばメンタルキューブの事について触れられるかもしれない。

メンタルキューブにはブラックボックスが多く、謎が多い。唯一分かってることと言えば、KAN-SENを生み出せること……これだけ。もしもメンタルキューブの解析が進めば、KAN-SEN達の強化にも繋げるからこっちとしても願ってもいないチャンスだ。

 

無意識に食事をスピードを早め、早くその開発に携わりたいとどんどん皿にある鮭や副菜、更にはパンまで頬張る。

 

「ふぅ、ご馳走様 」

 

「早っ!?もう食べ終わったのかにゃ? 」

 

「いや〜早くその開発がしたくてね〜ねぇねぇ早く行こうよ〜 」

 

「明石はまだ食べ終わってないにゃ!そんなにしたいなら先に研究室に戻っておくにゃ。設計図や仕様書は明石の机に置いてあるから勝手に見ていいにゃよ 」

 

「ほーい、じゃ行ってくるね〜 」

 

私は遊園地に行く子供みたいにウキウキしながら研究室へと戻った。やはり、私は研究が大好きだ。

1から100まで作れるあの積み重なりや、未知の物が分かっていくあの達成感がたまらなく好きだ。

 

それに、機械は決して裏切らない。間違った事があれば結果でそれを示してくれるし、キチンと正解を導けば思った通りに動いてくれる。何より、正解があるのがいい。

 

それに比べて人間は分からない。間違った事や分からないことは平然として無視するし、正解も不正解も無い答えが多い。しかも、裏切りや差別が絶えないのが何度言えない。人を否定的に捉えてはいるけど、そこまで嫌ってはいない。

唯一、人は進歩ができる。これまでの化学の積み重ねが技術を発展させ、人も進化し続けてきた。だからこその今があるし、KAN-SENも生み出せた。

 

知恵を絞り、トライアンドエラーを繰り返し、また新たな1歩を踏み出せる。そう私に教えてくれた人がいた。

それは私にとって大事な人だった者であり、この白衣の持ち主だ。

 

「……お父さん 」

 

私は父の形見である白衣を纏いながら、今日も研究に取り組んでいく。

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