もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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雪解けの海

満月と星空が夜空の上に浮かぶ夜の中、基地にある丘の上で海を見ているとあの人の事を思い出す。あの人と初めて会った時の事や、一緒に笑って遊んでいたあの幼い頃が瞼の裏で鮮明に思い出す事が出来る。

 

だけど、その思い出はあの人が覚えているかどうか分からない。そう思うと……少し寂しい気持ちになる。

胸が締め付けられる苦しさで胸を押え、未練がましく私はまた海を眺めた。

 

「マーレ君…… 」

 

彼の顔を思い浮かべながら、私は彼の名前を呼ぶ。瞼の裏に思い浮かべた顔は昔のような顔ではなく、氷柱のように冷たく鋭い目を持った顔だった。

 

マーレ君、今貴方は何をしていますか?

 

何を思って戦っていますか?

 

貴方はどうして……変わったのですか?

 

届きもしない心の問いかけに私は呟き、無意識に胸の間を触る。

 

「あ……そういえば私、ペンダントを落としてましたね…… 」

 

ペンダントと言ってもロケットペンダントですが、私とマーレ君が子供の時、しばらく会えないからと言われて落ち込んでた私の為に、わざわざマーレ君が頼んで作って貰ったペアのロケットペンダントだ。

私とマーレ君それぞれの写真を入れ、私の写真を持っているのをマーレ君、そしてマーレ君の写真が入っている物を私が持っていて、あの時までは大事に持っていました。

 

1年前のオロチさんとの決戦時、マーレ君に会いたいと私は戦場に出て言ってしまい、その時ペンダントを落としてしまった。しかし、記憶が確かならマーレ君が受け止めたはず……持っててくれると嬉しいな……

 

「……でも、もう捨ててるんでしょうね。私になんかまるで忘れているみたいでしたし…… 」

 

まだ確定ではありませんが、勝手にそう考えると悲しくて涙が溢れそうだった。貴方にとってはそんな物でも、私にとっては暖かい太陽の光のようなものでした。

 

「……会いたい。会いたいです……マーレ君…… 」

 

会ってはいけない関係だと分かってはいる。だけど、あってもう一度話したい。どうして変わったのか、今何をしているのか、話したい事はいくつもある。

会いたい気持ちが体から飛び出すような煩わしさと焦りを抑えるため、私は近くの木陰に座って気持ちを落ち着かせる。

 

何故か息が苦しい。胸も切なく痛くなり、抑える所か会いたい気持ちがどうしても湧いてしまう。

もしも願いが叶うというのなら、私は真っ先にマーレ君と話したいと願うでしょう。

 

「願い事…… 」

 

夜空に浮かぶ満点な星を見上げ、私は小さい頃マーレ君が言っていたことを思い出した。

 

_ねぇねぇ、流れ星が流れ落ちる前に3回願い事を言うと願いが叶うんだって!

 

「流れ星…… 」

 

綺麗に煌めく星々の中で流れ星を探していると、やはり流れ星は見当たらない。

 

「……まぁ、そんなに都合よく流れる訳無いですよね 」

 

「あら、こんな所で何してるのかしら? 」

 

芝生が踏まれる音を出す足音に振り返ると、夜の暗さを照らすような白い髪を持った人……オロチさんがいた。

 

「オロチさん……?えっと……ちょっと眠れなくて。オロチさんこそ……どうしたのですか? 」

 

「私もちょっと眠れなくてね。隣、座るわよ? 」

 

オロチさんは私の隣に座り、私と同じように星空を眺めた。

 

「へぇ〜随分と綺麗な景色ね。マーレがいつも星空を眺める理由が分かるわ 」

 

「え……マーレ君の事知ってるんですか? 」

 

「知ってるも何も、元々私はブラックキューブから作られたのよ?そのうちの1つはマーレが持っていたから、それを介してマーレの事を見ていたのよ? 」

 

「あ……そ、そうでした…… 」

 

そうか……元々オロチさんはセイレーンの兵器ですもんね。なら納得です……

……ん?なら……もしかしたらマーレ君の事を知れるチャンスなのでは……?

 

「あの、マーレ君どうでしたか? 」

 

「どうって? 」

 

「その……元気なのかなって思ったり…… 」

 

「ん〜私が知ってるのはマーレがセイレーンから出る前の事しか分からないわよ?今の事なんて知らないけどそれでも良いなら…… 」

 

「し、知りたいです!是非教えてください! 」

 

夜の静けさを壊すように私の叫びはこだまして周囲に響いてしまった。周りに人は居ないと思いますが、変に周りを見渡し、はしたない行動したと自負して顔が熱くなってしまいます……

 

「ふふ、本当にマーレの事大好きなのね〜 」

 

「そ、そそそそんな事……な、無い……です…… 」

 

「本当に〜?あ、そうか。大好き何じゃなくて愛しているだからか〜! 」

 

「あ、ああ……愛して……そんな…… 」

 

間違ってはいない……いえむしろ合ってます……何とか隠そうにも私の行動でオロチさんは確信したような顔をしてにやけていた。

 

「ふーん〜? 」

 

「も、……もう!早くマーレ君の事話してください〜! 」

 

八つ当たりするように私はポコポコとオロチさんの胸を叩き、オロチさんは笑いながらそれを受け止めた。

 

「はいはい、じゃあ話すからポコポコ叩くのはやめてね? 」

 

私はオロチさんに心を落ち着かされるように頭を撫でられ、深呼吸もしてようやく心を落ち着かせた。

 

「落ち着いた?じゃあ、話すわよ?と言っても私の主観よ? 」

 

「構いません 」

 

「即答!?じゃあどこから話そうかしら…… 」

 

__

 

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____

 

 

第一印象は心を閉ざした人間だと思った。死んだような目をしており、更にその目は氷柱のように冷たく鋭かった。

他のセイレーン個体とはかかわらず、マーレは基本的に単独で行動していた。今思えばこの時点でマーレの計画は始まっていたんだろう。

 

1人で己の力を高める為KAN-SENの駒と何度も戦い、死して生まれ変わった体を使いこなそうとしていた。何度も戦い、何度も傷つき、そして得た力が今のマーレだ。誰にも負けず、相手をねじ伏せる力を持った英雄となって行った。

 

そういえばそんな彼には、肌身離さずに持っていたものがあった。確か少し古びていた金のロケットペンダントだったような気がする。

 

他のセイレーン個体がそれについて話そうとしても彼は無視し、そのペンダントに触れよう物なら左腕の剣を振って、倒して触れせずにいた。私は、これを見て初めてマーレが人間らしさを見たような気がした。

彼はかかさず一日に1度はペンダントの中身を見つめ、彼はどこか切なさを持った目をしていた。

 

 

そ、ネージュ……貴方の写真よ。どうやら生前、力強く貴方のペンダントを握っていたらしいわ。セイレーンに変えられた時も離さず持っていたらしいわね。

死んでも離さないとはまさにこの事ね。

 

本人に……貴方の事を思ってるのね。マーレは……

 

__

 

___

 

____

 

「……本当……ですか?マーレ、まだあのペンダントを持ってるんですか?」

 

「えぇ。持ってたわよ。今は分からないけど……多分今でも持ってるわ 」

 

「そう……ですか……! 」

 

緩んだ口元を両手で隠し、不思議と涙が溢れた。まだペンダントを持っていたと知れた喜びが涙に変わっているかのように溢れ出し、温かい涙が頬を伝わっていつまでも流れた。

 

「そのペンダント……一体何なの?結構大事な物だとは分かるけど…… 」

 

「っ……はい。あのペンダントは、私とマーレ君が別れた時に私が送った物なんです。私の方は落としてしまいましたけど……」

 

「あら、でもそれって確かマーレが拾ってたような気がするけど 」

 

「でも、マーレ君がまだ持っていたという事を知れただけでも良いんです 」

 

「そういえば、あなたとマーレってどういう関係?幼なじみというのは分かるんだけど、貴方確かアイリス出身でしょ? 」

 

「えーと、主に家柄……お父様方との縁ですね。私のお父様とマーレ君のお父上、オセアンさんは、共にアズールレーン上層部にいます。あ、勿論襲撃の際は無事でしたよ!私とマーレ君が出会ったのは、お父様方との会談の時でした 」

 

 

 

 

 

 

_数十年前 アイリス トケル家にて

 

広くて綺麗な豪邸の中、私は雪の中にいるような冷ややかさをここに来た時から感じていた。皆が私を認めず、お姉様達も冷ややかな目で私を見下ろしていた。

 

言葉も交わそうともせず、むしろ同じ空気を吸いたくないかのように私を避けていた。母親が違うだけでどうしてこんな扱いをするのか、私には理解出来ませんでした。

 

 

私はアイリスのトケル家の三女として生まれた……訳ではありません。私は、トケル家の当主のお父様が庶民である私のお母様との間に出来た子供です。

 

お母様はトケル家の使用人であり、同時に愛人でもありました。そんなある日、お母様の妊娠が発覚し豪邸に居られなくなったお母様はそのままお父様から姿を消し、私を産んで育ててくれました。

 

女手1つでここまで育て、私に無償の愛を差し出してくれました。そんなお母様が大好きでした。

 

だけど……そんなお母様は私がまだ物心着く前に亡くなりました。買って貰ったクマのぬいぐるみの首がちぎれるほど強く握りながら私は泣きじゃくり、この世の終わりと思うような絶望を感じました。

 

たった1人の家族を失い、世界で私が1人だけになったような孤独になったような気がした。いえ、そうなったんです。泣いて、泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣き続けて、最後に私は、まるで空っぽの氷のように何も感じられなくなりました。

 

親がいなくなった私は孤児院に連れていかれ、新しい親を探すことになりました。他の子に馴染めなかった私は、お母様が買ってくれたぬいぐるみとずっと抱いていました。

このぬいぐるみが私にとっての全てでした。このぬいぐるみを抱いている時は、お母様がここにいると錯覚するように思い出に浸れるからです。

 

そんなある日、突然孤児院にある人が来ました。シルクハットを被り、とても綺麗なスーツを着た紳士が他に目もくれず私の所に来ました。

 

_お前は私の娘だ。一緒に行こう

 

紳士はそう言いい、私はお父さんなんて居ない。彼を否定した。しかし紳士は場お母様の名前を言い当て、お母様の好きな物、好きな場所、生まれ故郷さえも当て、ついには会ったこともないのに私の名前も言い当てた。

 

_おいで、ネージュ

 

紳士の目は陽向のような穏やかで暖かった。私は、その目を見て紳士の手を取った。

 

それから私はネージュ・トケルとなり、今までと比べて裕福な生活は送れました。しかし、私の生まれを知っているお姉様や周りの人達は私の事を快く思ってはいなかった。

 

母親が違うだけでこんなにも私を腫れ物扱いされる理不尽さが私にのしかかりました。なんで自分がここにいるのか、生きているのかさえ分からなくなった事だって何度もあります。

 

結局私はあの時から1人のままです。孤独で冷たい氷の中にいるようで、もうこのまま私自身も凍って終わらせようと思ったその時、彼が手を差し伸べてくれました。

 

ある日、上層部繋がりでお父様と相手方の会談が設けられ、私もその会談に呼び出されました。この時ばかりはお姉様達の虐めは無いだろうと考えていましたが、そんな事は決してありませんでした。

 

お姉様方は一体何を思ったのか、私の大事にしていたぬいぐるみを近くの木の上にほおり投げてしまった。ぬいぐるみは木の枝に引っかかり、まだ幼かった私は木登りもろくに出来ず、どうしようも出来ませんでした。

 

それでも必死に手を伸ばすもののやはり届かず、それを滑稽に見ていたお姉様は私の涙を見て笑っていたお姉様達はそのまま笑いながら私を置いて会談に行ってしまい、私はどうにもできずただ泣くだけでした。

 

涙が枯れそうな程泣き続けていた時、ある1人の男の子がこちらを見ていた。

白いスーツに金色の髪……そして、海のような青い瞳。これが私と彼との……マーレ君初めての出会いでした。

 

_そんなに泣いて……どうしたの?

 

私は無言で木の枝に引っかかったぬいぐるみに指を指し、マーレ君はそれだけで察してくれました。

 

_あのぬいぐるみ……大事な物なんだ。分かった!待っててね

 

マーレ君は木にしがみつき、ゆっくりと木の上へと登っていきました。枝に足を引っかけてどんどん上へと登っていき、上等なスーツが枝に引っかかって汚れてしまっても気にせず登り続け、ついにはぬいぐるみを手に取りました。

 

_おーい!これ?

 

マーレ君は腕をのばして私にぬいぐるみを見せてくれた。それですと大きな声で喜び、マーレ君はゆっくりと降りようとしたその時、マーレ君の左足を支えていた枝がポッキリと折れてしまい、バランスを失ったマーレ君はそのまま木の上からおちてしまったのです。

 

_うわっ!

 

頭を下にさせてしまって落下してしまい、このままだと頭にぶつかって大怪我……いえ、命に別状があるかもしれない。でも私は動けなかった。私が動くより先に落下速度の方が速かった。

 

それでもマーレ君はぬいぐるみを汚させないように強くぬいぐるみを抱き、何とか姿勢を丸めて頭から落ちないようにし、落下の衝撃を抑えていた。

マーレ君の背中と地面がぶつかり合い、鈍い音落下音が私の鼓膜を通った。思わず目を閉じながら手で目を隠し、少し肌寒い風が私の体をすり抜けた。

 

そっと手をどかし、ゆっくりと目を開けると目の先にはうずくまりながらも立ち上がろうとしているマーレ君がいました。

 

_いてて……ぬいぐるみは……よし!どこも破けて無い!はいこれ、取ってきたよ

 

何事も無かったかのような笑顔のまま、痛みがまだ残っているのか震えた手で渡してきた。

 

_あの……え……と……大……丈夫ですか?

 

_ん?大丈夫大丈夫!英雄は人々に不安をさせてはいけない!いつも凛々しく堂々と立って安心させる!これが英雄の基本だよ!

 

_そ、そう……なの?

 

_うん!

 

その基本を守るように仁王立ちのまま満面の笑顔を向けた。だけど……腕から出ている血のせいで私は安心なんか出来ませんでした。

 

_あの、お名前は?

 

_ん?僕はマーレ・テネリタス!いつか10代目当主になるんだ〜!

 

_え……?テネリタスって今日来る人の家じゃ……!ご、ごめんなさい!

 

私は目の前のマーレ君に危害と手間を与えてしまった事に血の気が引くような申し訳なさで謝った。もしこの事がお父様方にバレてしまったら……本当に捨てられるからと思ったからだ。

 

_本当にごめんなさい……!

 

_ううん、良いんだよ。

 

_でも貴方に傷を……

 

するとマーレ君は急に膝を曲げて、顔を下げていた私の顔を見つめ、優しく笑った。

 

_傷は誇りと栄光って、5代目が言ってたらしいんだ。だから、この傷は俺にとっての誇りだよ。それに、君の大事な物を届けられて、笑ってくれたら俺はどんな傷を負ってもいい。

 

そう言ってマーレ君は私の手を握ってくれた。

 

まるで太陽のような温かさと、海のような優しさが合わさったその手は、今でも決して忘れません。

 

_だから……笑って欲しい。もしも、辛いことがあれば必ず助けに行く。俺は、皆が笑える世界にしたいから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 某海域にて

 

「オラオラオラァ!!どうしたマーレ!言っておくが夜戦じゃ俺の方が不利だぜ!?何なら的があまんし見えねぇからよ! 」

 

「そう言って当ててくるのはなんなんだ……! 」

 

いつもの手合わせの時間、今の相手は6代目テネリタス当主のセイド・テネリタスさんだ。彼の戦法は銃撃戦を得意としており、生前もガンマンとしての腕も知られていた。

その腕は蘇っても健在であり、彼の艤装も相まってかなりかなりの驚異と化している。彼の艤装はロドンさんと同じく少々特殊だ。

 

刀の鞘が艤装のロドンさんに対して、セイドさんは2丁の銃が艤装だ。

連結してスナイパーに変形したり、更には自立兵装のビットまであるから四方八方から攻撃が来るのが厄介すぎる。そしてこの夜空の暗闇の中正確に射撃するセイドさんも十分に化け物だ。

 

暗闇からいきなり弾丸が襲いかかり、ギリギリで躱すか剣で防御するかで精一杯だ。

 

「クソっ……!攻めに転じれない……! 」

 

徐々に弾丸が来る感覚が狭まってしまい、実弾だけではなく恐らくビットの物であろうビームも四方八方に襲いかかって来る。ビットの形は見えないが間違いない、囲まれてしまった。四方にあるビットを吹き飛ばそうと剣と艤装を繋げて大出力のビームサーベルを形成しようとしたが、その瞬間俺の後頭部に鉄の冷たさと硬いものが突きつけるように当たった。

 

「チェックメイトだなマーレ。ニシシ 」

 

「……クソっ 」

 

いつの間にか背後に回られた俺は銃を突きつけられてしまい、勝負は俺の敗北に終わってしまった。

 

戦闘が終わった疲れが俺を押しつぶすようにどっと重くのしかかる。たまらず俺は仰向けで海の上に浮くと、目線は満点な星空に覆い尽くされた。

 

そこから覗き込むようにセイドさんは煽るようにわざとらしく笑い声を出しながらこちらを見ており、悔しいから俺は最後の抵抗としてセイドさんの顔を見ないようにした。

 

「いやーでもこれは経験の差だな。ま、ドンマイドンマイ! 」

 

そう言ってロドンさんは俺に手を差し伸べてきた。俺はその手を取り、仰向けから海の上に立ち上がった。

 

「……いや、それは言い訳です。こんなんじゃ俺の目的が果たされない 」

 

自身の弱さに苛立ちと焦りを感じ、頭の中でさっきの戦いの反省をさせていた。そんな中、セイドさんは俺の肩をポンと叩いた。

 

「ま、そう気負うなよ 」

 

「そんな悠長な事言ってられない!俺はアイツを倒さないといけないんだっ! 」

 

「落ち着け。焦るのはナンセンスだぜ 」

 

言葉とは裏腹に帽子越しのセイドさんの目は弾丸の鉄みたいに冷たかった。

 

「……1人で背負うと後悔するぜ。俺や親父みたいにな…… 」

 

後悔してる声を出し、そんな情けない姿を見せたくないのか、セイドさんは帽子を深く被った。

 

「アイツを倒す為に俺らを蘇らせたんだろ?だったら協力してやる。だから周りを頼れ。お前はまだまだだからよ 」

 

からかっているのでは無い、セイドさんは本気で俺の事をまだまだと言った。実際俺自身もそう自負しているし、その証拠に俺は未だにこの人達に勝てていないのだから。

 

「……くしゅん! 」

 

「ん?風邪か? 」

 

「いや……そんな事は…… 」

 

言葉にする前に2回目のくしゃみが出てしまった。外はそれほど寒くは無いし、体温も正常だ。寒い思った事も無ければ、何かこじらせた覚えもない。そんな事をすれば過保護であるミーアさんから小言を言われる。

 

「もしかして誰かがお前の噂をしたりしてな。何だっけ……あの白くて可愛い子 」

 

「……ネージュですか? 」

 

「そーそそそ!その子その子!お前がいつも首にかけてるペンダントの中に入ってる写真、その子だろ? 」

 

「……ちょっと待ってください。なんで貴方が知ってるんですか! 」

 

「ん?ミーアに聞いた 」

 

あぁ……うん、何となく予想はしていた。一応ミーアさんとネージュは面識がある。俺が小さい頃に会わせたからだ。なんか嬉々としてセイドさんにネージュの事を教えているミーアさんの顔が目に浮かぶ……

 

「その子に噂されたりしてな 」

 

「だとしたら悪い噂ですね……くしゅん!」

 

「くしゃみ3回なら惚れ話だってさ。あの子お前の事大好きなんだな 」

 

「そんな訳無いですよ 」

 

そう、ある筈がない。

 

あってはならないし、もしそれが事実なら突き放さなければならない。それが俺の為でもあり、ネージュの為でもある。

 

(……ネージュ、お前は今何をしてる?……なんてな )

 

心ばかりの思いを心の中で呟き、夜の闇の中俺は消えるように拠点へと戻った。

 

背中から通る風が、どこか寂しげに冷たかった。

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