もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
この小説がついに評価バーが赤を保ったまま4本になり、少しは有名になったのかな?と思っています。
まさか赤を保ってここまで来るとは……感激です!
さて、ここで1つかんがえてるというか、1つの小説を構想中という事をお知らせします。
内容はこのアズレンの二次創作ですが、物語の内容がガラッと変わり、この小説がシリアス系統なら、考えている小説はほのぼの日常系の作品になります。
勿論この小説も続けるので、最後まで皆さんよろしくお願いいたします!
起点
久しぶりの執務室の椅子は懐かしさを感じられた。
というよりかは、まともにこの椅子に座るのは初めてのような気がする。
記憶喪失になって、戻った後重桜で戦って……そしてその後鉄血でビスマルクの約束を果たす為に鉄血に行って来て……結構波乱万丈なことしてるなぁ……
さて、振り返るのはここまでだ。今俺がいる執務室には、ジンさん、リアさん、リフォルさん、ネージュさん達4人とオセアンさん、そしてビスマルクがおり、鉄血で何が起こったのかを待っていた。
「じゃあ、鉄血が何が起こったのか報告してもらうわよ 。そうね……まずは、何故鉄血で戦闘が起こったのか、そこを話してもらうわ 」
リアさんが進行役を務めてもらい、随分とスムーズに話せそうだ。こいうときのリアさんは頼りになる。
「戦闘になったきっかけは、テネリタスとセイレーンの衝突です。鉄血の海域内で戦闘が起こった為、防衛の為に戦闘に参加した訳です 」
「あれ……?どうしてセイレーンが鉄血にいたのでしょうか……? 」
「それは…… 」
「そこは私が説明するわ 」
事の発端となった原因をビスマルクが話そうとしていた。だが、事によってはこれは鉄血が全ての陣営の敵になってしまう恐れがある。
結論から言えば、鉄血とセイレーン……いや、ビスマルクとセイレーンは繋がっていた。何かしらの取引を目撃した俺はそれを知り、しかもその関係がレッドアクシズが設立した時から続いていた。
勿論この事は誰にも知らないし、知られたらどうなるか分からない。稲妻のような緊張感が俺の体をひりつかせ、ついにビスマルクが口をわろうとした。
「……全て私の責任よ。私は……ずっと前からセイレーンと取引していたわ 」
その言葉は、ここにいる全員を戦慄させた。無意識にビスマルクに対する警戒心が生まれ、全員ビスマルクに対して距離をとるように体を傾けた。
「貴方……ずっと私達……いえ、人類を裏切ったって訳かしら? 」
「有り体に言えばそうね。セイレーンの技術を提供して貰い、私達は他とは一線を超える技術を手に入れたわね 」
「なるほどね〜通りで艤装もどことなくセイレーンに似てると思ってたけど、それなら納得だね〜 」
確かに、鉄血の艤装は多少なりとも意志を持っている物が多い。それもセイレーンの技術故のものなのか……
「ビスマルク、貴方がセイレーンと取引しているということはレッドアクシズ……いや、鉄血の上層部もそれに一枚噛んでるということですか? 」
「いいえ、そもそも鉄血の上層部は私達にとってはスポンサーみたいな物よ。資金や場所、資材を貰う代わりに、私は人類に技術を提供する。そんな関係よ。そもそもレッドアクシズには上層部らしいものは存在しないわ 」
「あ……そういえば、赤城姉さんが言っていたな。レッドアクシズには指揮官もいなければ、上層部も存在しないって…… 」
「そう、もちろん重桜と鉄血には上層部がいるが、私達レッドアクシズは一枚岩では無かった。その認識で構わないわ 」
なるほど、同盟は組んでいても鉄血と重桜の関係はそこまで良くは無かったのか。いや、そう言えば鉄血に対する重桜の人達の態度も良くはなかったな。
「つまり、セイレーンとの取引はあなた個人の判断という事で構いませんね? 」
「そうだ。……それで、英雄様は私をどうするのかしら? 」
「いや、それを判断する必要は無いでしょう。優海君、君はどう思いますか? 」
オセアンさんは俺の方に笑って顔を向けた。なるほど、この人は何でもお見通しということか……
「確かに、セイレーンと手を組んでいた事は許されないと思うし、人類への裏切りだ。でも、ビスマルクは誰よりも鉄血の為を思ってやって来たんだ。誰もその事を咎めることも、その思いを否定するものじゃないと思う 」
ビスマルクがやった事は、間違いなのかもしれない。けど、1人で悩み、英断した結果があれなのだろう。
ビスマルクの全てを知った訳では無いが、少なくとも俺は鉄血でビスマルクの本心は知れた。許す許さない以前に、これからはビスマルクの力になろうと思って俺は答えた。
「だから……これからは一緒に歩もう。ビスマルク 」
「分かったわよ。清々しい笑顔でよく言えるわね 」
「ぶっはっはっは!!それがこいつなんだよ! 」
「な、なんで笑うんですかジンさん! 」
ジンさんは腹を抱えて椅子の手すりを叩きながら笑った。それにつられるようにか、ほかの皆も大笑いでは無いが小さく笑った。
「な、なんですか皆まで! 」
「いや〜すまんすまん!ま、俺もその意見に賛成だぜ。現に、セイレーンと取引しても、俺達には危害やら何やら目立ってないしな 」
「確かにそれは妙ね……ビスマルク、セイレーンとはどんな取引をしたのかしら 」
確かにそこは気になる所だ。取引というのは、双方の利害が一致して初めて成立するものだ。ビスマルクはセイレーンの技術が得られたが、セイレーン側が何を得たのかは知りたい所だ。もしかしたら、セイレーンの目的を知る手がかりになるかもしれない。
「取引とは言ったけど、あちらからの要求は無かったわ。あっちから話をもちかけて、技術や黒箱を無条件で渡してきたのよ 」
「はぁ?じゃあ……セイレーンはタダでお前たちを強くさせた訳か? 」
「いや、下手したら自分達の手の内を晒しているような物です。どういうつもりだセイレーンは…… 」
ジンさんとオセアンさんの言う通りだ。無条件に自分達の技術を提供するなんて、ポーカーで言ったら手札を見せているような物だ。
下手すれば自分達の手の内を明かすことになるし、その対抗策の武器や戦術だって練られてしまう。余程の自信があるのか、それとも何か別の意図があるのか……?
「セイレーンがどう思ってるかは、元セイレーンである指揮官が知ってるのでは無いのかしら? 」
「……いや、それは無理なんだ。もう俺の中にコネクターはいない。あるのはアイツの残滓だけだ。もう俺の中にセイレーンの力はほとんど無いし、記憶だって無いんだ…… 」
今までもセイレーンの事について思い出そうとしても、まるでその時の事が無かったかのように全く思い出せずにいた。どう遡っても、俺が覚えている昔の記憶は、小さい頃母さんと姉さん達と一緒に過ごしたあの日々だけだ。
「じゃあ、今の所セイレーンの目的は……分からないと言うことでしょうか……? 」
「そうなるね〜。んで、気になっていたんだけど……黒箱って何?私はそこは聞き逃さかなかったよ 」
リフォルさんの指摘がビスマルクに刺さり、ビスマルクは抵抗もなく黒箱について話してくれた。
「黒箱というのは、セイレーンのオブザーバーから手渡された物よ。『これさえあれば、貴方の願いは叶えられる。【カミ】をも超える力が得られる』と彼女は言っていた 」
「【カミ】……? 」
神……という事で良いのか?多分皆同じ認識だろうが、どこかピンと来ない表情をしていた。そもそも黒箱っていうのは……多分ビスマルクが使っていたあの黒色のメンタルキューブの事だろう。
「オロチのブラックキューブとは違うのかしら? 」
「根本的から違う。オロチのブラックキューブは、あくまでもオロチを起動する為に使う物であって、私の使った黒箱は、単純に使用者を強くする為の物だ 」
「つまり、ブラックキューブとは違うと? 」
ビスマルクは静かにうなずいた。
「正直、私はあれがなんだったのか良く分からなかった。解析してもブラックボックスがほとんどだった。結局最後にはマーレによって奪われた 」
「そういえばマーレさんが最後に取ってたな…なにをするつもりなんだ? 」
「単純に自分が強くなるために使うんじゃねぇのか?俺ならそうするぜ 」
「そうなると、早めにマーレを… 」
「オセアンさん!それは… 」
ネージュさんが切羽詰まった表情と大声でオセアンさんの言葉を遮った。多分、その後の言葉を聞きたくもオセアンさんに言わせたくないのだろう。オセアンさんもそのことを察したのかその後の事は言わなかった。
「オセアンさん、逆にこっちがマーレさんより先に黒箱を回収する手もあります。これなら被害も最小限…いや、被害もゼロで済むはずです 」
「ですが、黒箱がある場所どころか、数だって分からないままです。一体どれでどうマーレより回収する気ですか? 」
「それは… 」
痛い所を突かれてしまった。確かに数も位置も俺たちは把握していない。それに比べて恐らくだがマーレさんは大まかな位置や数、最悪完全に把握してる可能性だってある。
どう動いても後手に回ってしまい、戦闘になれば黒箱を回収することは困難を極めるだろう。被害もなくマーレさんを止める為には、まず黒箱がどこにあるのか把握できる事が絶対条件だ。
「ビスマルク、オブザーバーが他に黒箱を渡した事とか言ってなかったか? 」
「残念だけど、その話は聞いたことが無いわ。ただ、おそらくレッドアクシズに所属した陣営はあると考えてもいいわね 」
「レッドアクシズに所属していた陣営…?それはどうして? 」
「レッドアクシズはセイレーンの力をもってセイレーンを制すを基に結成した陣営だ。そしてその影にはセイレーンが潜んでいる。重桜のオロチ計画、私の取引がそれを物語ってる 」
「じゃあ、レッドアクシズに所属していた陣営を調べれば…! 」
「黒箱が見つかるかもしれないと言う事になるわね 」
確かに、先にレッドアクシズから調べるのはありかもしれない。候補も絞れるかつ、陣営にテネリタスに狙われるとも言えば、注意喚起にも黒箱があるかどうかの牽制にもなるはずだ。
「えーと、レッドアクシズに所属した陣営は重桜と鉄血の他には… 」
「サディアとヴィシアね 」
俺の代わりにリアさんが先に答えてもらい、今後の方針が決まりそうだ。
「よし、じゃあその2陣営のどちらかに向かい、もし黒箱があるならそれを回収もしくは破壊しましょう」
「重桜は良いのか? 」
「多分、重桜の黒箱はとっくにマーレさんが回収してると思います。もし、マーレさんの目的が黒箱の回収なら、重桜の黒箱はもう無いはずです 」
勿論これは俺の推測だ。あとで長門…いや、ここは一番セイレーンに接触していたであろう赤城姉さんや加賀姉さんに聞くのが良いだろう。
(でも、マーレさんはワタツミまで奪った……その理由がまだ分かっていないな…… )
そもそもワタツミがどんな物なのかも分からないが、今は黒箱のことに集中しよう。
「さて、黒箱について決まったのは良いけど。これはあくまでも鉄血に何が起こったのかの報告よ。脱線したけどここで話を元に戻すわよ 」
「あ……そういえばそうだった…… 」
「別に良いわよ。じゃあ今度こそ鉄血で起こった戦闘について報告してもらうわ。じゃあ……戦闘に介入したテネリタスは誰だった? 」
「戦闘に介入したテネリタスはマーレさんと、8代目の当主のミーア・テネリタスでした 」
「ミーア……!? 」
自分の母親の名前を聞いたオセアンさんは椅子から飛び出す勢いで驚き、俺の顔を見た。そして、その驚きはネージュさんも同じようなものだった。
「ミーア・テネリタス、8代目のテネリタス当主でオセアンさんのお母さん……ですよね。私も顔を見た事があります 」
「その人なら私も知ってるよ〜確か科学技術での発展に大きく貢献した1人だよね?彼女が生み出した化学と理論は、今の暮らしの基礎を作った……らしいよ 」
「そんな凄い人なのか……というか英雄というより……化学者見たいだな 」
「ジンくんの言うことはもっともです。何しろ、6代目の協力によってアズールレーンが作られたので、7代目以降は直接的な戦いに介入していません。そもそも、紛争らしい紛争が無かったですし、セイレーンの活動も活発になって人同士が争うことがほぼ無くなりましたからね 」
確かに、セイレーンが介入してから人類同士の争いは無い。大昔は結構あったらしいけど、今は共通の敵がいることからそれをする暇もないという事だ。
まぁ、共通の敵がいるのにも関わらずアズールレーンとレッドアクシズに別れたのがなんとも皮肉だけどね……
「そうだ、そういえばミーアさんからオセアンさんに伝言を渡されたんです 」
「母さ……いや、ミーアからですか? 」
自分の母親の事を名前で言い直し、あくまでも今は敵同士という態度を断固として貫く様子のオセアンさんは、その伝言に興味を持っていた。
それはそうだ、死んだはずの母からの伝言なんてそうあるものでもない。
「内容はこうです。『星の川が浮かぶあの丘で待ってる』って行ってました 」
「……なるほど、分かりました。ありがとう、優海君 」
「オセアンさん、もしかして会うつもりですか? 」
「……まぁ、そうだね 」
「そんな!危険です!」
「あぁ、これは罠かもしれないですよ! 」
リアさんとジンさんは声を上げてそう言った。確かにこれは罠かも知れない。その可能性は否定はできないが、それは無いと俺の中の直感がそう言っていた。
「いえ、それはないと思います。ミーアさんがそんな事する事はないです 」
「へぇ〜ネージュがそんなに確信的に言うのって珍しいね。そんなに信用する人? 」
「1度お会いしたことがありますから。あの人は心優しく、人を陥れるような人ではありません 」
「ふぅん…… 」
「……? 」
何故かリフォルさんの様子がおかしいような気がするのは気のせいだろうか……?リフォルさんがかけているメガネの奥の瞳は、どこか嫌悪してるような薄暗さを感じさせた。
「まぁ、その辺は心配しなくてもいいはず。ミーアは戦闘した際、KAN-SEN達には少し被害しか与えなかったと聞いた。待ち構える事はまずしないと判断はするわ 」
「でも、やっぱり護衛はつけた方が…… 」
「いえ、大丈夫ですよリアさん。あの人は私をどうこうする気はありません 」
「ですが……! 」
「大丈夫です 」
リアさんの言い分にオセアンさんは断固としての態度で跳ね除けた。
「……さて、では私はこれで失礼します。後でそれらをまとめた報告書を上層部に提出してください 」
そう言ってオセアンは心配させないように笑顔でこの執務室から出ていった。
場所こそ言ってなかったが、きっとオセアンさんはミーアさんが言っていた『星の川が浮かぶあの丘』という所に行ったのだろう。
「……ねぇ、やっぱり流石に危険よ 」
「まぁ、こればっかりは俺もそう思うな。どうすんだ優海 」
「……いや、恐らく大丈夫だとは思います 」
「へぇ〜どうして? 」
「今更オセアンさんを狙う理由が無いからです。現にテネリタスはわざと上層部の人達を少し残していて、今更1人狙うところでなにか意味があるのは思えない。それに、テネリタスはオセアンさんを見逃している。あの傷がその証拠です 」
今のオセアンさんには左目を隠すように包帯が巻かれていた。恐らく、左目をやられたんだろう。誰かを庇って守ったと性格的に自然に考えられることだろう。
そして追撃を入れることなくオセアンさんを逃がすように見逃してるので、今更危害を加える事も無いだろう。
「そう?確実にやる為に1人にさせるって考えられるかも知れないよ 」
「だとしたら、なんで今のタイミングなんですか。どう考えたって今更すぎますよ 」
「気が変わったから今やるのかもしれないよ!? 」
「だからそれは無いって……! 」
「おいおいお前ら落ち着けよ。少し熱くなりすぎだ 」
俺とリフォルさんの討論に割り込み用にジンさんは間に立ち、なだめるように俺とリフォルさんに両手を出した。
「リフォル、お前ちょっと変だぞ。そんな声を荒らげてどうしたんだ 」
確かに今のリフォルさんは明らかに様子が変だ。大声をあげるなんて滅多にないし、主張も感情的だ。いつものリフォルさんらしくない。
「……別に、ちょっと実験が失敗続きでイラついただけ……。ごめん、ちょっと私、出ていく…… 」
いつもの気だるげな口調がなくなり、足が重くなったかのようにリフォルさんは足を引きずるようにこの部屋から出ていった。
「り、リフォルさん!すみません、私ちょっとリフォルさんを探してきます! 」
ネージュさんはリフォルさんを追って執務室から出ていってしまった。
荒らげた討論を出したせいか気まずい空気が流れ、俺達はただひたすら黙った。
「どうしたんだアイツ。なんか様子が変だったよな 」
「えぇそうね……一体何があったのかしら 」
「ところで、結局あの人の護衛はどうするのかしら?指揮官 」
「……俺の意見は変わらないよ 」
さっきのリフォルさんの表情……見た事ない顔だった。 まるで誰かを目の敵にしているような怒りさえ感じられた。
リフォルさんはミーアさんの話を聞いた時に少し様子が変わっていた。という事は、リフォルさんはミーアさんに対して何かしらの事情を持っているという事になる。ロイヤル出身であるリフォルさんとミーアさんの繋がりがなくはないと思うけど……そんな話聞いた事も無い。
「ま、いざこざにはなったがとりあえずどうすんだ?これで報告会は終わりか? 」
「確かに、大まかな事は把握出来たし……これで終わってもいいわね 」
「じゃあ、今度はこっちの話をするが良いか? 」
「え、はい。どうぞ 」
「うし、じゃあリア。アレ出してくれ 」
そう言うとリアさんは手持ちのカバンから数枚にまとめられた紙束を2つ取り出し、テーブルの上へと置いた。
「これは? 」
「1つはある作戦の内容と、もうひとつは合同大演習ってやつの資料だ。どっちから聞きたい? 」
合同大演習……!確か昨日ヨークタウンが言っていた言葉だ。4大陣営が共同する大規模な演習という事しか聞いて無いのでちょうどいい。
「じゃあ……合同大演習からお願いします 」
「よっしゃ、じゃあこっちの資料を読みながらで良いから聞いてくれ 」
そう言って、ジンさんは重要と書かれた書類を渡してくれた。
「合同大演習はユニオン、ロイヤル、鉄血、重桜の4大陣営と共同してやる大型演習だ。勿論、規模が大きい分場所も時間もかなり割くことになる 」
「場所はどうするんですか? 」
「重桜海域にある、お前が最初にマーレと戦って、オロチの攻撃によって崩壊した島があっただろ?覚えてるか? 」
マーレさんと最初に戦った……あぁ、あの島か。俺が重桜から逃げて、セイレーンによって滅ぼされた島が確かにあった。あそこを再開発するのか……
「でもあそこはかなり崩壊してますよ?大丈夫なんですか……? 」
「まぁ、それなりの時間はかかる。でもよ〜空いてる所そこしか無かったんだよ。ま、その分すっげぇ所になるから楽しみにしてくれ! 」
資料に書かれていた演習場の完成図を見ると、確かに凄いところになりそうだ。宿泊施設に娯楽施設……そして、演習が終わった後にも基地として利用出来るように軍事施設も盛り込まれており、抜かりは無さそうだ。
ジンさんの自信通りの凄いところになりそうだ……故郷にこんな凄い物が出来るなんて……何だか嬉しく思う。
「そうだ、演習ってどんな感じにするんですか?流石にこの規模でもKAN-SEN全員は無理だと思いますけど…… 」
「そりゃあ当然だな。だから、各陣営は6人1チームを2つ作ってその代表として出てもらうつもりだ 」
なるほど、代表戦見たいな物か。資料を見た感じ、選出基準はこれまでの戦闘データの他に、組み合わせの相性や、伸びしろが著しいKAN-SENが候補に選ばれるとの事だ。
「それに……この合同大演習はちょっと特殊なんだよな 」
「特殊? 」
「優海、お前にもこの演習に参加させるってよ 」
「は、はぁ!?俺がKAN-SEN達の演習に参加って……俺確かに艤装とか持ってますけど指揮官ですよ!? 」
「それは分かってるけどよぉ、上層部の命令なんだよ。壊滅状態でお前に軍事権を譲渡しても、命令権までは無くなってないからな。ま、多分たけどお前をテネリタスに見立てて練度をあげるのが目的なんだろうけどよ 」
確かに練度をあげるために大演習を行うのが目的なら、俺を参加させるのも納得は出来るけど……
「その場合って、俺のチームはどうするんですか? 」
「お前の場合は、対戦する陣営以外のKAN-SENなら誰でも良い。例えば、次の対戦相手がユニオンだった場合、ユニオン以外のKAN-SENなら誰でも組んでいいって事だ 」
「なるほど…… 」
「んで、参加するか? 」
「……いえ、遠慮しときます…… 」
いくら演習と言っても、俺は指揮官だ。KAN-SEN達を傷つけるようなマネは……もうしたくない。
KAN-SEN達に武器を向けると、俺は無意識にKAN-SEN達に銃を向けたあの時の事を思い出してしまう。
自分がセイレーンとして戻ってしまったあの惨劇がずっと頭にこびりついていた。
KAN-SEN達の声も届かず、向けられた目からは何も感じられず、ただ俺の中にあったとは命令の遂行という機械仕掛けの思考だけだった。
ビスマルクの時は、ビスマルクの助ける為に躍起になって少しばかりの攻撃はしたが、殆どは牽制だ。そんな俺が演習に参加しても無意味だろう。
「確かに、指揮官は私たちの演習でも一切攻撃をしてこなかった。演習に参加しても、動く的にぐらいにしかならなそうね 」
「……うん、俺もそう思う…… 」
「大丈夫だって、使用する弾は全部模擬弾だし、お前の武装だって明石が研究して演習用に調整するって! 」
「それでも!俺はもう……KAN-SEN達に武器を向けたくないです…… 」
俺は目を合わせずジンさん達に俺の意思を吐き出すように答えた。流石にこれ以上は無理だと思われたのか、ジンさんは頭をかいて少し息を吐いた。
「……ふぅ、分かったよ。なら無理強いはしない。俺から何とか言っとくよ 」
「大丈夫なの?それ 」
「上手く言っとくさ。無理に演習に出てもらっても意味ねぇだろ? 」
「ごめんなさい…… 」
「良いんだよ別に。お前の気持ちは分からなくも無いしな…… 」
気にするなと言わんばかりに笑顔で俺の肩をポンと叩き、そのせいなのか罪悪感が肩にのしかかってきた。
俺はジンさんに目を合わせることが出来ず、ただ目を逸らすことしか出来なかった。
「じゃ、この話は終わりだ。次はちょいとある作戦についてだ。と言っても、実は作戦はふたつある 」
「ふたつ……? 」
「あぁ、1つはお前。もうひとつは俺が担当することになった 」
わざわざジンさんを担当にするほどの作戦……?余程重要な作戦なのか、あるいはジンさんではないとダメな作戦なのかな?
「あの、ジンさんは後方支援隊の総司令ですよね?持ち場を離れて……大丈夫なんですか?」
「いやお前が言うのかよ。お前だって記憶喪失やら鉄血に行って持ち場を離れまくってるじゃねえか 」
「た……確かに…… 」
確かによく考えてみれば俺結構この基地から離れてる事多いんだよなぁ……昔も霧島達に拉致されて重桜に連れ去られた事もあるし……
離れているのにも関わらず、こうしてここが運営出来てるので間違いなくKAN-SEN達のおかげだ。恐らく、ベルファストやヨークタウン、この辺りのKAN-SENが事務処理をこなしてる筈だ。感謝してもしきれない。
「ま、当分はリア達に任せるさ。そんで作戦内容だが、まず相談がある 」
「相談……? 」
「俺に、ユニオンのKAN-SEN達を預からせてくれないか? 」
「え、それはどうして……? 」
「ユニオン海域にある、バミューダ海域って知ってるか? 」
「バミューダ海域……?確か、ユニオンにあるFR諸島、PRシティ、バミューダ諸島を結んだ海域ですよね?そして、その海域内では謎の沈没事故等の謎の事故が相次いでるって…… 」
そして今になってもその原因が分からず、セイレーンの巣窟出ないかと噂されてるが、その謎が解明されていない。しかも、不定期に霧も発生するとのことなので、誰もその海域に入らない魔の海域と言われている。
「そ、そんでバミューダ海域にはセイレーンの前哨基地があるって報告を受けてな。……そこで、俺の指揮下でその基地に攻撃を仕掛けるってさ 」
「な……それ大丈夫なんですか!? 」
「まぁ、何とかなるんじゃね?KAN-SENもいるし、俺は後方で指揮するだけだから心配すんな!と言っても、なんでバミューダ海域に行かせるかね〜全く 」
ジンさんは愚痴を言うように笑いながらそう言った。だけど、その笑顔とは裏腹にジンさんの手のひらは少し汗で湿っていた。愚痴を言ってるようだが、行きたくないのは本心なのだろう。
「だったら俺が代わりに行きます。ジンさんが危険な目に逢う必要なんて無いです! 」
前線で戦える俺ならどんな事があっても多少は大丈夫だ。たとてバミューダ海域がセイレーンに関連する場所だとしても、何とかして生還が出来る可能性は高い。
ジンさんよりも、俺の方が適任な筈だ。
「いや、お前には別の任務がある。今更替えはきかねぇよ 」
「でも! 」
「でもじゃねぇよ。それに俺は大丈夫だ。子供がいっちょ前に心配すんなよ 」
ジンさんはいきなり立ち上がり、俺の頭を雑にわしゃわしゃと撫でた。髪はぼさつき始め、それでもジンさんはやめなかった。
「お前はまだ18、普通ならまだ学生なんだ。出来れば、お前には前線に立たせたくないと思ってる。セイレーンとかどうこうとかそれ以前にな 」
「ジンさん…… 」
「たまには大人を信用しろよ……な? 」
怖がってるはずなのに、それでもジンさんは笑っていた。頭から少し震えている手が恐怖を感じてるのがよく伝わり、今でも代わりたいという意思は変わらない。
でも、それはジンさんも同じだった。
「お前にばかり苦労はかける訳にはいかない。俺は俺の役目を果たす。そして、お前はお前の役割を果たせ。その為の組織であり……仲間だろ? 」
「……わかりました。ユニオンのKAN-SENをジンさんに渡します。でもその代わり……ぜったいに生き延びて下さい 」
「あいよ。サンキュ、優海。お前の次の作戦はこの資料に記載されてる。後で目を通してくれ 」
そう言ってジンさんは1つの書類を渡した。
「じゃ、俺は今後があるからこれで帰るわ。行くぞ、リア 」
「そう……ね、じゃあこれで報告会は終わりよ。失礼するわ 」
普段冷静なリアさんもこればかりは動揺を隠せずにいた。それはそうだ、ジンさんとリアさんは一緒にいたんだ。こんな危険な作戦、成功するかどうかも分からないのだから……もしもの時を覚悟しているのかもしれない。そんな心情は計り知れず、2人は執務室から出ていってしまった。
「……ビスマルク、バミューダ海域について何か知ってるか? 」
「いいえ、私も詳しい事は分からないわ……セイレーンの基地があるのかも、一切不明よ 」
「そう……か 」
「しかし妙ね……あのバミューダ海域の調査をどうして貴方では無く、人間であるジンなのかしら 」
確かにそれは謎だ。バミューダ海域の危険性は上層部だって分かってる筈だ。
それならば、俺の正体を知っている上層部が選ぶべきは俺のはずだ。だがわざわざジンさんを選んだのは、もうひとつの任務が俺の方が適任という事なのか?
俺はジンさんから渡された書類を手に持ち、綺麗にまとめられた字に目を通した。
作戦内容は……北方連合の支援という事らしい。
「北方連合か…… 」
北方連合とは、アズールレーンに所属している陣営の1つだが、今まで表立っての作戦に参加していない。
というより、出来ない状況にあった。その理由としては、北方連合の近くには、セイレーンの設備と思わしきものがあった為、迂闊に戦力を削ぐ訳にはいかなかったらしい。
今回、その北方連合から支援の要請があった為、その作戦に抜擢されたのが俺というわけか……
「えーと、ここから北方連合からかなりの距離があるなぁ……編成も考えないと行けないし、大変だ 」
「何か手伝いましょうか? 」
「へ? 」
まさかビスマルクからそんな言葉が出るとは思わず、変な声を出してしまった。きっと鑑があれば俺の顔は鳩が豆鉄砲食らったかのような顔をしてるのだろう。
「……そんなに驚くこと? 」
「いや……ビスマルクなら、このくらい出来て当然でしょ?みたいな事言うと思ったから…… 」
「確かに任務もこなせない者が戦場に立つ資格は無いわ。でも、流石にこの量を1人でこなせるのは無理があるとは思うけど 」
ビスマルクの視線の先には、大量に積まれた書類に向けられた。少しでもつついたら崩れそうな程積み重ねられた紙の書類はいつ見ても億劫な気分にさせる。
「じ、じゃあ……お願いしようかな? 」
「えぇ、私はこっちをやるから、貴方は残りを頼む 」
ビスマルクは上から書類を半分持ち、そのまま作業を開始した。鉄血の指導者ということもあってか、凄まじい手際の良さで書類を捌いていた。
(負けちゃいられないな )
微かな対抗心を胸に、俺はいつものように執務を開始した。
_基地内にて
「ま、待って下さいリフォルさん! 」
雪のような白髪をなびかせながら、彼女は息を切らしながら廊下を走っていき、それに気づいたリフォルは息を荒らげたネージュに向けて顔を振り返った。
「あぁ、ネージュ……どうしたのそんなに息を荒らげて 」
「り、リフォルさんが出ていったからじゃないですか!」
「わざわざ追いかけてきたんだ。別にいいのに〜 」
「よくありません! 」
いつも通りの会話とはいかず、リフォルのいつもの態度に対してネージュはかなり真剣な様子だ。
「リフォルさん、一体どうしたんですか?何だか様子が変でしたけど…… 」
「ん〜?そうだった? 」
「そうですよ……まるでテネリタス……いえ、ミーアさんのことに対して怒ってるような…… 」
「ネージュ 」
ネージュはその先のことを言えなかった。メガネのレンズ越しから見えたリフォルの目は、それ以上言うなと警告の意志を表しているかのような目だった。
いつもの気だるげな目ではなく、瞳の奥から憎悪や恨みをネージュは僅かながら感じていた。
「……私がテネリタスの事なんて知る訳無いじゃん〜!もう〜ネージュったら変な事言うんだから〜 」
すぐにリフォルは瞳を閉じて笑顔でそう言ったが、ネージュはその笑顔さえも怒りを感じられた。
だが、これ以上は追求出来ず、ネージュはただ黙ることしか出来なかった。
「じゃあ私はまだやりたい研究とかあるから。またね 」
「え……あ…… 」
引き止めようにも、上間を伸ばすことしか出来なかったネージュは、そのまま廊下の奥へと消えていった。
誰もいない廊下の中で、彼女の足音と身丈よりも大きい白衣の裾と廊下の絨毯が擦れ合う音が虚しく響いた。
音が耳に入る度に無意識にリフォルは自身の過去を思い出してしまった。
「……ミーア・テネリタス 」
彼女はふと、自分の
しかし、そんな彼女がこの世に蘇ったと知ったその時から、彼女の怒りは空気を貰った火のように再点火した。
彼女の瞳からは、いつものような気だるさは無く、あるひとりの物しか映らない虚ろな目しか無かった。
「ふぅん……貴方もそんな目もするのね〜。いや……それが本性なのかしら? 」
「盗み見のつもり〜?オロチ 」
廊下の窓際からオロチがまるで待っていたかのように待ち構えており、興味深そうにリフォルを見ていた。
「ふふ、実は貴方の事結構気になったのよね〜。気だるそうな態度の中にふつふつと煮えたぎっているその悪意……憎悪がね 」
「なんの事? 」
「とぼけなくても良いのよ。私はオロチ、人の悪意を元にして生まれたKAN-SEN……じゃないわね。ん〜この場合は兵器って言った方が正しいかしら 」
「悪意ね〜じゃあ、1つ教えてあげるよ 」
瞬間、リフォルの顔から笑顔が消え、人の悪意から生まれた物に対して、悪意に満ち溢れた醜く恐ろしい目をした笑顔で言葉を吐き捨てた。
「人間って……悪意につきまとわれるんだよ。振り払っても、振りほどいても、悪意っていう物は人間と最後まで隣り合わせなんだよ? 」
「ふふ……あははは!!やっぱり貴方って最高よ! 」
「なーんか悪者みたいだね〜 」
「悪者って……私は人とは何なのか見たいだけよ。全く失礼しちゃうわね! 」
オロチは嘘を言ってはいない。先の大戦での影響で『人』に対して大きく興味を持っていたオロチは、人とは何なのかを知ることこそが行動原理なのだから。
「……結局人ってそんなものだから 」
まるで人に対して全てを諦めたかのように、リフォルは気だるげに歩いた。
_数日後……
北方連合への遠征の準備が整った。物資も弾薬も抜かりなく、そしてKAN-SENの編成も決まった。後は出発の時間まで待つだけだ。基地の港には俺を出迎える為の多くのKAN-SENが集まり、その中にも当然母さんもいた。
「優海、風邪は引かないようにしてくだいね?北方は物凄く寒いのでちゃんと厚着をしてお腹を出さないように寝るのですよ?荷物に沢山の服と携帯暖房器具が沢山あるのでそれを使って体を温めてるのですよ? 」
「だぁぁ暑い!母さんまだここ基地だからすごく暑い!! 」
まだ北方連合に着いた訳でも近くにいる訳でも無いのに母さんは俺に厚着を着させ、汗も止まらず体温も上がる。モコモコな羽毛を使った服やマフラーをこれみよがしに使ってるので一旦それを全部脱ぎ捨て、いつもの白い軍服に着替えた。
服の上からも汗のシミが出来てしまい、この軍服を脱いでしまいたい程だ。
「はぁ、鉄血に行ったばかりなのに今度は北方に行くことになるなんて……やはり私も一緒に行きます 」
「体が弱い母さんにそんな事させられないよ。それに心配はいらないよ。だって…… 」
「私と加賀がいるんですもの。心配しないでください天城姉様 」
いきなり背後から俺を守るように赤城姉さんが抱きついてきた。
そう、今回の編成には赤城姉さんと加賀姉さんがいる。北方連合の海域には氷山が浮かんでることから、火力よりも機動力を重視にしている為、戦艦は入れず火力不足は空母によって補う作戦だ。
勿論この事には天城母さんも理解はしてくれた……だが、母さんからはどこか歯がゆい表情を今も浮かべている。無理をしてでも俺について行きたいというのが目に見えて伝わってきたが、それでも俺の意思は曲げない。
「そうですか……では、頼みましたよ。赤城、加賀 」
「任せてください 」
「姉上、優海を頼みました 」
「心配するな。昔からこいつの世話をしてるからな 」
そう言って加賀姉さんは俺の頭にポンと手を置いた。
「むぅ……また子供扱いして…… 」
「私から見ればお前はまだまだという事だ。それに、姉が弟を守るのは当然の事だ 」
「もう、無理はしないでよ? 」
「お前に言われたくは無いな 」
そろそろ出発の時間が近づき、北方に行くKAN-SEN達はそれぞれの船に乗り込んだ。俺もその船に乗り込み、後は船が出発するのを待つだけだった。
(……ジンさんはもう出発したのかな )
おそらく別の港では、バミューダ海域にいくユニオンのKAN-SENとジンさん達で出港準備をしている筈だ。
今日この日はジンさんを見かけておらず、そのせいか気がかりになっていた。
エンタープライズを初めとしたKAN-SEN達がバミューダ海域に行くから、恐らくは大丈夫だとは思うけど、やはり心配だ。魔の海域と言われるバミューダ海域……その海域で生き延びた者は居ないと言われ、その海域にジンさんは行ってしまう。最早おれに出来ることと言えば、無事を祈る事だけだった。
「あら?こんな廊下に突っ立ってどうしたのかしら? 」
先に船内にいたオロチさんに声をかけられ、俺は振り返る。オロチさんも北方連合にいくメンバーの1人であり、彼女の方から希望してきた為、編成に加えた。
「いや……ジンさん大丈夫かなって…… 」
「エンタープライズ達がいるから大丈夫なんじゃない?それに、ジンはあくまでも後方での指揮なんでしょ? 」
「それはそうかも知れませけど、嫌な予感がするんです 」
どうもに胸騒ぎが止まらない。何か嫌な予感がするとか言いようが無いこの感覚が、考えすぎで済めばいいんだけど……
「バミューダ海域ぃ?俺がそこに行けば良いのか? 」
「はい、ユニオン海域にあるあそこなら、貴方が適任だと思いますけどね 」
相も変わらず暇そうにだらけている俺の先祖にあたる人、6代目のセイド・テネリタスに任務を伝える。
「しかしまぁバミューダ海域ねぇ……あそこに良い噂は聞かねぇけど、どうしてそこに行くんだ? 」
「あそこがセイレーンの前哨基地があると言ったら? 」
「……へぇ? 」
「それにあそこには黒箱がある。セイドさんにはそれを回収してもらいたい 」
俺がセイレーンでいた頃の記憶が正しければ、バミューダ海域にある前哨基地には確かに黒箱があったはずだ。オブザーバーはアレを一体誰に渡すのかは知らないが、それを回収すれば、目的の達成に繋がる。
「んで、お前も一緒なのか? 」
「いや、俺は北方連合に行きます。セイレーンが何かを企んでるようなので、邪魔のついでにそこにある黒箱を回収しようと思ってます 」
北方連合にあるセイレーンの基地が急に活動を始めたと聞き、何かあるに違いない。面倒事が起こる前に潰すのが最適だろう。
「てことは、俺は1人で行動か?それならそれで頑張りますかね 」
そう言ってだらけた体を刺激するように、セイドさんは身体を伸ばしたが、別に1人とは言っていない。
「いえ、貴方はロドンさんと行ってもらいます 」
するとセイドさんが急に体の動き止め、その後ゆっくりと壊れかけのロボットのようにゆっくりと上半身をこちらに振り返り、眉間にしわを寄せていかにも嫌そうな顔を浮かべた。
「……そんなに嫌なのですか? 」
「いやぁ、嫌って訳じゃねぇんだけどよ〜なんかな〜うん……あぁ〜気まずいんだよなぁ〜 」
「気まずい?それはどうして…… 」
「親父と俺、生前ではそんなに関わらなかったんだよ。親父は俺の事居ないもの扱いしてたし、俺も親父とは関わらなかった。親子というより、他人みたいな感じだったよ 」
そういえば、この人とロドンさんが絡んでる所はほとんど見られ無かった。ロドンさんが敬遠してるのか、それともこの人が無意識にロドンさんとの接触を避けているのか分からないが、今度の任務はこの2人が最適な筈だ。ここは是が非でも行かせるしかない。そう思って何とか話をしようとしたが、その心配は無かったようだ。
「ま、お前の命令なら俺は付き合うぜ。そっちも北方っていう寒い所で風邪ひくなよ 」
「そちらこそヘマはしないで下さい 」
「言うようになったな 」
ヘマなんかする筈が無い。そんな自信に満ち溢れた顔を見せながらセイドさんは部屋から出ていった。
「……頼みましたよ 」
「それは当方に言っているのか? 」
部屋の隅にいきなりロドンさんが姿を表し、壁にもたれかかった体勢でいた。
「今の話聞いてたんですか? 」
「いや、今来たばかりだ 」
「それならそれで良いです。貴方にはセイドさんと一緒にバミューダ海域に行ってもらいますよ 」
「日時は? 」
「2日後です 」
「分かった 」
淡々とした業務会話で会話が終わり、俺は北方連合での作戦の為の準備を行う為、この場を離れようとしたが、ロドンさんの隣で足を止めてしまい、好奇心なのかある事を聞いた。
「ロドンさん、セイドさんのことはどう思ってますか? 」
「……それは息子としてか? 」
「何でもいいですよ 」
ロドンさんはなおも腕組みをしながら息を吐き、しばらく考え込んだ後に答えてくれた。
「よくぞあそこまで育ってくれた。それだけだ 」
「はぁ…… 」
そう言ってロドンさんはセイドさんの後ろ姿を見て満足そうにこの場から離れていった。
質問を投げたこっちが言うのも何だが、よく分からなかった。ただ、あの一瞬ロドンさんが、まるでオセアンと同じような顔をしていた事は確かだった。息子の成長を喜ぶ父親の顔をしていた……
「……父親か 」
月明かりも届かない海底に建てたこの基地からは星空は見えないが、今のこの時期ならもう少しで夜空には星の川が浮かぶことになるだろう。
暗く冷たい海底の中で、俺はふとネージュと一緒に見たあの明るい星空を思い出した。
もしもの話(R-18)を観測しますか?
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Yes
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NO