もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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皆さんお久しぶりです。
約3ヶ月ぶりの投稿となってしまい申し訳ないです……

さて、この北方連合編ですが、次の話で完結となり、またまた新たな陣営のお話となります。

またゆっくりなペースになってしまうと思いますが、何卒最後までよろしくお願いします。


命の意味

紫色の空の下に、2人の男が巨大な龍に挑んでいた。しかし龍は強大な力を持って兎を狩る獅子の如く男達を襲い、男達はその圧倒的な力に押しつぶされそうになっていた。

 

「こんなのどうすれば良いんだ!? 」

 

全く持って攻略法を見いだせず、とにかく防御択しか無い俺達はジリ貧な消耗戦を強いられていた。

 

あのアビスと言われる龍の形をした兵器はとんでもないエネルギーを有しており、壊れないバリアや直撃すれば間違いなく致命傷をおわせるであろう攻撃を無尽蔵に仕掛けてくる。

 

マーレさんとの協力があったとしてもこればかりはキツく、そろそろ限界が近かった。アビスは攻撃を止め、次の攻撃に備える為にまた全身にバリアを張った。

 

「……おい、レールガンであいつの頭部を狙っていろ。その艤装でも使えるだろ 」

 

マーレさんの言う通り、この鉄血の艤装を模したような物でもレールガンは確かに残っていた。使用は問題無いが……

 

「何をする気ですか 」

 

「お前は黙って俺の言うことに従ってろ 」

 

マーレさんは剣を構え、接近戦の体勢を整えていた。ボロボロの体の悲鳴を無視するかのようによろけながら立ち上がり、何とか立ち上がった後も少しふらついている。そんな状態で接近戦を仕掛けるなんて無謀を通り越して死にに行く様なものだ。マーレさんを止めるように右肩を掴んだが、直ぐに振りほどかれてしまう。

 

「無茶ですよ!ここは一旦下がって体制を整えましょう! 」

 

これでも一応指揮官をやっている身だ。これ以上やっても無謀だし、俺もマーレさんも満身創痍だ。引くなら今だし、ここで引き際を見失ったら本当に後がなくなる。丁度この場所には身を隠せる氷山がいくつもある。多少の回復は可能だ。それはマーレさんも分かってると思うが、何故かマーレはそうしない。

それ所か焦っているようにも思えてならなかった。

 

そうこうしている間にアビスはエネルギーのチャージを完了したのかバリアを消し、攻撃態勢に移行した。今からお前らを始末すると言うようにアビスは機械音声の混じった咆哮をあげると、突然紫色の空に亀裂が走り、亀裂部分には元の青い空色が滲み出ていた。

 

「空が!?これは一体……? 」

 

「時間が無い。さっさと始末するぞ 」

 

「ちょっと待っ…… 」

 

有無を言わさずマーレさんは先行してアビスに近づき、アビスは近づいた物から処理する思考でもされているのか、俺には一切攻撃せずにマーレさんだけに集中砲撃を開始した。

 

無数の砲撃やミサイルの中にビームも織り交ぜながら次々と躊躇いなく弾幕を形成し、獅子は兎を狩るのにも全力と言う言葉を体現……いや、あれではまるで蟻と象だ。大きさからも能力からも、そう言って差し支え無い。

 

「マーレさん! 」

 

「良いから早くアイツに攻撃しろっ! 」

 

必死なマーレさんの声を聞き、やるしかないのかと心の中で呟きながらも俺は久しぶりに使うレールガンを使用した。右肩にマウントされ砲身が折り畳まれたレールガンを元の砲身に戻し、俺の全長を大きく超える砲身を支える為膝を曲げ、半ば固定砲台のような体勢をとる。

 

やはりというか、この艤装になって違和感を感じた正体がようやく分かった。それが俺の武器であるレールガンだ。

この武器……俺がいつも使っているレールガンとは性質が違っていた。いつも使っている物もそこそこ大きかったが、移動しながらも攻撃は可能になっているが、この黒いレールガンは大きさも合わせて性質も違っている。いかにも威力重視と言わんばかりの重厚感にこの重さだ。どれ程の威力があるか分からない。

使ったことも無い武器をこの土壇場で使う事になるが、今はなりふり構っている暇は無い。

マーレさんに攻撃が集中している今、俺はアビスの頭部に狙いを定め、息を潜めて照準を合わせる。外す訳には行かないプレッシャーの中で、俺の意識はこの狙いに全ての精神を使って集中しているせいなのか、妙に全ての動きがスローに見え始めた。

ゆっくりと動く世界の中、アビスの頭部が照準に入ると同時に俺はレールガンを起動させた。

 

レールガンの2本のレールの間に赤色の電流が漏れ、長い砲塔を突き破るか如く弾は音速を超えて打ち出された。だがそれと同時に俺はその反動で後ろに押し出され、そのまま後ろにある氷山の所に吹き飛ばされて激突してしまう。

 

「なんて威力と反動だ……! 」

 

思わぬ反動と衝撃でダメージは受けたが、音を置き去りにするかのような弾は真っ直ぐアビスの頭部に直撃し、そのままアビスの頭部を貫通させて風穴を開けさせた。

しかし、アビスには何も変化が無い。いや、僅かだが弾幕の照準精度が低くなっている。

これで少しはマシになるとは考えたいが……アビスに反応が無いからして決定打では無い。

 

しかし弱点らしい弱点が見つからず、手詰まりなのは変わらなかった。

アビスは攻撃を止めてまたバリアを展開して閉じこもると、俺が破壊した頭部も同時に自己再生を初めて行った。切れたコードがまるで自我でも持っているかのように蠢き、断線されたコードがまた繋がり、装甲もまた新たな装甲が生み出されて修復されてしまった。

 

「自己再生付き……! 」

 

「クソが……! 」

 

あれがある限りアビスは倒れず、アビスを倒すには一撃で勝負を決めに行かなければならないと刹那に理解した。

 

空に走る亀裂も増え始め、紫色の空の半分は青い空に覆われていた。

 

「ちっ……時間が無い。次が最後のチャンスだ 」

 

「最後って……? 」

 

上空から降り立ったマーレさんが俺の隣に立ち、今度は自分も攻撃に参加するのか艤装から出たコードを自身の両武器に接続し、出力を溜めていた。

 

「アビスは今この鏡面海域を破壊している。もしこの海域が破壊され、通常海域に戻ったら……そこにいるKAN-SEN達も何もかもがこいつにやられるぞ 」

 

「何だって……!? 」

 

今通常海域にいるKAN-SEN達がどうなっているかは分からないが、こんな奴がこの海域から飛び出してKAN-SEN達に襲いかかったらひとたまりもない。いや、それ所か北方領土に住んでいる人達もどうなるか分からない。

ざっと考えただけでもかなりの被害……いや、被害どころか災害にも等しいものが襲いかかる事は間違いない。それを止めるためには、マーレさんと一緒に今この場で倒すしか方法が無かった。

 

だけど倒す方法が見つからない。バリアは破れず、バリアが展開されていない状態で攻撃を当てても自動修復でダメージが無かった事にされてしまう。

アビスを倒すには、その修復機能を超えるダメージを一気に与える必要があるが……俺とマーレさんとで行けるのか……?

 

……いや、やるしか無いんだ。今ここで倒さないと皆がもっと大変な事になる。だが、どうしても勝ち筋が見つからない。

今どうしても必要な物は2つ。アビスの修復機能すら超える圧倒的な火力とアビスの攻撃を防ぐ何かだ。俺とマーレさんの2人の全力砲撃なら可能だが、アビスの弾幕がそれを許さず、防御を強いられてしまう。

逆にバリアを張っている状態で攻撃しても恐らくバリアで攻撃が減衰されて決定打にならず、無駄に消耗するだけだ。

 

つまり、アビスが攻撃している最中に火力を一点に集中する他無い。だが周りの遮蔽物では防げず、対して時間稼ぎにはならない。

どうしても、手数が足りないのだ。

 

(何か……無いのかっ……? )

 

攻撃を避けながら、安全に火力を出せる方法……そう言えば、誰かがそれをやっていたような気がする。マーレさんでも、テネリタスの誰かでは無く、KAN-SENの誰かが……

 

記憶を遡り、たどり着いた記憶に映ったのは、長い金髪をなびかせ、黒い軍服を身にまとったKAN-SEN、ビスマルクの姿だった。

 

「そうだ……アレさえ使えれば! 」

 

だが俺がアレを使える保証は無い。だが、今俺の艤装がもしも鉄血の力を持った艤装なら可能性はある。全ては……この一手にかかっていた。

 

「力を貸してくれ……! 」

 

ここでは無い何処かにいる、鉄血の皆に願いを届かせるように艤装に手を当て、アレを打ち出せるように祈る。

艤装の両側の獣を模した物が大きく方向を上げ、その鋭い牙の奥の内部から赤い血管のような物が浮かび上がった黒い砲塔が表れた。

 

「これで……! 」

 

砲塔の先が黒いエネルギーをチャージし、限界までエネルギーが溜まるとアビスに向かって2本の黒い光が交じりながら螺旋状に向かっていく。

 

やがて螺旋状に連なった黒い光がアビスにたどり着く前に黒い円型のものが空中で漂い、アビスはその事を気にも止めずに全身を使い、俺達に向けて流星群の如く砲弾やビームの嵐を打ち出した。

 

打ち出された攻撃は全て俺が打ち出した黒い円に向かっていき、まるで吸い込まれているようだった。

いや、事実そうなのだろう。この光景は間違いなく、あの時ビスマルクと戦ったブラックホールそのものだった。

 

ビームの光すらも黒い光に吸い込まれて消えてしまい、流星の攻撃は全て闇へと葬られてしまう。

 

「今だマーレさんっ! 」

 

「分かってるっ! 」

 

準備が完了したマーレさんは右腕に武器と艤装を組み合わせた巨大なビームライフルの銃口をアビスに向け、銃口を大きく超える赤い光がアビスに向かって一直線に向かっていく。向かう途中で俺が放ったブラックホール弾に直撃すると、赤い光はブラックホールを突き抜けて赤い光が黒い光を纏って光の大きさが2倍、3倍と大きくなり、赤黒くなったビームはアビスの上半身を覆うほどとなり、バリアを貼っていないアビスはそのビームに直撃し、壊れた機械の咆哮を上げながらビームの光の中へと包まれていった。

 

ビームの熱量でアビス装甲が氷のように融解し、アビス内部が顕になった。幻想的な見た目とは裏腹に、数え切れない機械と管や精密機械の集合体となっていた。

 

人が作ったと言っていたが、あれだけの物を作るとすれば一体どれほどの年月を犠牲すれば出来るのだろうか。

そして、敵味方問わず全てを破壊し尽くすこの龍を、どれだけ追い詰めれば人はこんな兵器を作り出すのか……今の俺には理解が出来なかった。

 

「これで最後だ…… 」

 

最大出力のビームを打ち終えたマーレさんは右腕の装備と艤装を外し、身軽になると海を蹴って空高く飛んだ。

 

空を飛んでいる途中で左腕の剣を艤装に接続し、実体験が巨大な赤いビームサーベルへと変貌した。

赤い光の剣は血のように真っ赤になり、空と海を一変に真っ二つに割れるほど大きかった。

空突き刺すように剣を上げ、上半身が脆くなったオロチに向かって最後の一撃を振りかざそうとしていた。

 

「失せろ未来の遺物がぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

体全体を使って剣を振りかざし、空を切り裂きながら光の剣はアビスの装甲を貫通し、衝撃で内部を爆発させながらそのまま真っ二つに割っていた。

やがて全身を切り終えるとその勢いは留まることを知らずでいるように光は海まで届き、その光熱によって海はまるで溶けるかのように蒸発し、海を二つに裂けた。

 

アビスが破壊された爆発とマーレさんの攻撃による衝撃が相まって海がまるで嵐のように荒れ狂い、この鏡面海域の空が崩れ去り、崩れ去った先には青い晴天の空が差し込んだ。

 

「……終わったのか? 」

 

いや、終わりであって欲しい……アビスはマーレさんによって完全に破壊され、この鏡面海域も無くなるだろう。疲れが一気に体に襲い掛かり、海の上にも関わらず俺は体を仰向けに倒れた。

疲れのせいなのか、俺の艤装が元の艤装に戻ってしまっていた。

 

「呑気な……奴だ……奴を倒してもまだ敵である俺が……いるん……だぞ…… 」

 

俺の背後にマーレさんが足を引きずりながらこっちに向かってきた。マーレさんも相当消耗しているのか、艤装にもたれかかって喋るのも限界の様子だ。

 

「こうなったら……敵味方も関係……無い……ですよ 」

 

「……そうだな 」

 

流石のマーレさんもこれ以上は戦えないのだろう。戦意が失せたのか艤装に腰掛け、俺に背中を向けては俺に対する敵意は一切示してこなかった。

 

「……あの子、どうなったんだろう 」

 

あの子とは、この基地で出会った少女だ。確か……メンタルキューブ適正実験の被検体になった子で……多分だけど無理やり戦闘マシーンにされた人間だ。

アビスとの戦闘前に、セイレーンである何者かに保護されたまでしか、あの子を見ておらず、今となっても姿が見えずにいた。

 

「お前、まだアイツの事気にかけてるのか 」

 

「当然です 」

「あいつなら恐らく……零が見ている 」

 

「れい……?」

 

「オブザーバー零。それがアイツの名前であり……セイレーンのリーダー的存在だ 」

 

「セイレーンの……!? 」

 

ここに来てセイレーンのリーダーである存在が口に出され、俺は思わず体を起き上がらせた。

 

「お前も元はセイレーンだろう……なんで覚えて無いんだ 」

 

「ええと……俺、セイレーンだった頃の記憶が無くて…… 」

 

「そうか……じゃあエックスの存在も知らない訳だな 」

 

「エックス……? 」

 

そう言えば、基地にあった資料の中にエックスという単語があった筈だが、全て読む前にマーレさんとあの子の戦闘が始まったせいでデータが潰され、ほとんど見ることが出来なくなっていた。

今から探そうにも、マーレさんが基地ごとアビスを破壊したから恐らくデータはもう二度と手に入らないだろう。だが、今目の前にはマーレさんがいる。何とかマーレさんから情報を聞けば良いんだけど……

 

「あの……エックスって何ですか?それに、アンチエックスって言うものもあったと思うんですけど…… 」

 

「……エックスか。そうだな、簡単に言えば……セイレーンが倒そうとしている存在だ 」

 

「セイレーンが……? 」

 

行動目的が謎であったセイレーンの目的がいまハッキリとなったが、まだエックスの存在が謎のままだ。それについて聞こうとする前に、マーレさんは続けてくれた。

 

「そもそもセイレーンは、エックスを倒す為に作られた組織だ。そして、セイレーンという名前も元々はアンチエックスという組織名だ 」

 

「ちょちょ、ちょっと待ってください!セイレーンが……作られた? 」

 

俺はある考えが頭の中で思い浮かんだが、それでは可笑しい。だってそれは……

 

「それって……人が人を……人類が人類を脅かしているって事になりますよ!? 」

 

「そうなるな 」

 

「じゃあ……KAN-SEN達は!?KAN-SENも元々アンチエックスという事はセイレーンの仲間……!?じゃあKAN-SENも人類を襲うために生まれた訳なのか!? 」

 

「そうじゃない。KAN-SEN達もエックスを倒す為に作られた存在なだけだ。そもそも、エックス自体が人類を脅かしている根本になっている 」

 

「根本……? 」

 

「……ちょっと長くなるぞ 」

 

マーレさんは長くなる話の前に一呼吸おくと、ガラスみたいに割れた空を見上げながら話してくれた。

 

 

 

 

 

人類の未来は……とある存在によって侵略され、破滅した。その名はエックス。危険という意味合いを兼ねてそう呼ばれ、エックスは全てを蹂躙し尽くした。

 

青い空は黒い塵に覆われ、海は荒れ、街は瓦礫と化し、人は地上には住めずにいた。やがて人は地下へと逃げ、ただ残酷に過ぎていく時間の中で細々と暮らしていた。

 

人類は衰退し、絶望に押しつぶされていた。命を自ら投げ出す人も少なくは無かったらしい。

 

だが、諦めていない人類もいた。1人は希望を生み出すために他を犠牲にし、1人はその希望を心を生み出した。

 

やがて似て非なる存在、セイレーンとKAN-SENが生まれ、エックスへと立ち向かわせた。

人々は希望を持ったが、その希望は脆く崩れ去った。

 

エックスの力は際限なく大きく、今のままでは間違いなく勝てなかった。だから人は過去へと希望を託した。

 

残された希望を過去へと託し、エックスを倒す為に、試練を与えるセイレーンと、その試練に打ち勝ち、新たな力を手に入れる可能性を持つKAN-SENを分け、戦わせた。戦いによって人は進化したのは歴史が証明していたから、人類を進化をさせるのは戦いというプロセスが最適だった。

 

そのプロセスに従い、セイレーンは並行世界へと侵入し、エックスを倒せる可能性を作り出す為に世界を戦火に包んだ。

 

後はお前が知っている通りだ。セイレーンが人類に襲い掛かり、9割の海が支配され後にKAN-SEN達が表れ、人類が託した願いと共にセイレーンへと立ち向かっている。

全てはエックスを倒す為に……な

 

 

「まぁこんな感じだ 」

 

「もしかして……オロチ計画もエックスを倒す為に……? 」

 

「あぁ。当初は俺達をサポートに使っての計画だが、俺達が予想以上の能力を発揮したから、計画は変更だ。今となっては、恐らくだが俺達がエックスを倒す鍵になっている筈だ 」

 

マーレさんの話を聞いた俺は、どんな反応をすればいいか分からなかった。驚くべきところだとは思うが、話のスケールが大きくて反応できないのが現状だった。

だけど、話を聞いた俺の中には微かな怒りが燃え上がっていた。

 

「その進化のせいでどれだけの人が犠牲になったと思ってるんですか……! 」

 

「未来の為には仕方がない犠牲だ 」

 

「貴方……仮にも英雄だろう!?なんでそんな事言えるんだ! 」

 

「英雄だからだっ! 」

 

マーレさんの枯れた叫びに俺は勢いに負けて言葉を失った。

 

「結局人は何かを犠牲にしないと前には進めないんだよっ!医療も、化学も、戦争においてもだ!俺だって……人間という自分自身の存在を犠牲にしてここまで来た!テネリタスだって……したくもない犠牲を払って英雄になれてるんだ。失った事が無いお前がとやかく言うな!! 」

 

あまり見ない感情的なマーレさんは息を荒らげ、俺に決して姿を見せなかった。マーレさんの言うことを少しは納得してしまった。だけど、これまでのマーレさんの行動を見ると、何だか言っていることに違和感を感じられた。

 

「貴方の言うことに納得出来る部分もある。だけど……それを1番許してないのは貴方なんじゃないですか? 」

 

「何を根拠にそんな戯言を……! 」

 

「だって……貴方、この前の鉄血での戦闘で鉄血の街を守ろうとしていたじゃないですか。それに、戦い方だって、KAN-SEN達の命を奪っていない。だから…… 」

 

「勝手にほざいていろ。俺達とお前達は敵、それ以上でもそれ以下でも無い 」

 

喋っている間に海域の空が割れ、少しだけだが空間が歪み始めた。嫌悪感等は感じられないが、見ていてそう気分が良くなるわけでは無い。まるで世界全体が回っているかのように思えて少し気持ちが悪いぐらいだ。

 

歪みが更に強くなると、海上にはぼんやりとだが、元の海域にいるKAN-SEN達の姿が見え始め、空も紫から青へと変わっていく。

 

「そろそろか…… 」

 

「ちょっと待ってください。あの子がまだ…… 」

 

あの子が無事が確認出来ていない。オブザーバー零という者が見ていると言っいても、その子もまだ姿を表していない。歪みの中の世界を見渡すと、東方向に何か人影が浮かんでいた。遠くからでも見える白いシルエットは、何か人のような形をしたものを抱いていた。

 

「あの子は……! 」

 

間違いない、オブザーバー零とその子だった。痛む体も無理して立ち上がらせ、零の所まで移動した。艤装が悲鳴を上げてるかのように火花を散らせ、潮風が傷に沁みても俺は構わず真っ直ぐと零の所に艤装を走らせ、ようやくたどり着いた。

 

「よかった……2人とも無事だったんだ! 」

 

「無事……?何故私の安否を気に止めるの?私は貴方のことを知っているけど、今の貴方は私の事を知らないはず 」

 

「何でって……他人を心配するのは当然だよ。それよりもその子は大丈夫なのか? 」

 

「生命活動は限界に近い。持ってあの数分だが、この時代の医学でも治療は可能と判断する 」

 

「じゃあ今すぐに治療を……! 」

 

急いで治療をできる場所に運ぼうと零から彼女を取り上げようとしたその時、彼女が俺の手を掴んだ。

衰弱している状態で掴んでいるのかどうか分からない弱々しい力で、もう時間が無いことを目に見えようだった。

 

「大丈夫!絶対に助け……」

 

「ろ…………て 」

 

掠れた小さな声でよく聞き取れず、彼女の口元に耳を近づかせ、繰り返す言葉を聞いた。

 

「わ……たしを……ころ……し……て 」

 

「え……? 」

 

俺は初めて自分の耳を疑った。

 

私を殺して。確かに彼女はそう言っていた。胸が掴まれたような心臓が一瞬止まり、あまりの動揺で目の前の景色が一瞬歪んだかのようにも見え始めた。

 

「おね……が……い、まま……と、ぱぱに……あ……いたい……よ 」

 

「お母さんと……お父さんに? 」

 

少女はこくりと頷いた。

 

「だ……だったら一緒に探しに……」

 

「無駄だ、そいつの家族はエックスにやられてる 」

 

足を引きずりながらマーレさんは左腕の剣を構え、今にも彼女の命を取ろうとしていた。

 

「それにこいつは未来で生きていた奴だ。この時代にいる訳が無いだろ 」

 

「でももしかしたら…… 」

 

「居ないんだよっ! 」

 

迫真のマーレさんの叫びは、まるで海を揺るがすかのような勢いだった。あまりの威圧さに俺は無意識に体を震わせ、動向が開いて血走っているマーレさんの目を見ると、その目に俺は恐怖すら抱き、怯えている俺を見てマーレさんは何を思ったのか、俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「お前の救いはただの自己満足だ……!世の中には死ぬことよりも辛いことが起こっているんだ。今がそうだ!この子を救いたいと思っているのなら……今この場で終わらせるべきだ……! 」

 

胸ぐらを掴まれながら、俺はマーレさんの言葉に反論出来なかった。この時、俺の頭の中では何が正しいのか分からなくなった。

 

俺がやっている事は間違いなのか?人の命を救う事は……過ちなのか?だが、死にたがっているこの子を見たら……俺は……

 

「良いか、救いは同時に呪いにでもなる。もしこの子を保護してその後どうする?何も知らず、何をすれば良いか分からず、自分を愛した家族がいないこの世界で、この子は本当に幸せになれるのか? 」

 

「っ…… 」

 

「だから……終わらせるんだ 」

 

マーレさんは俺を振りほどき、左腕の剣の先を彼女に突きつけた。

 

「今見た通りだ。その子は俺がトドメを刺す。さっさと傍観者に戻るんだな 」

 

「分かった。だけど、私は傍観者じゃない。私は管理者。可能性を見つける存在よ 」

 

「何もしてないから傍観者と同じだ。さっさと消えろ 」

 

零は彼女をそっと氷山の壁に背中を持たれさせながら置いていき、そのまま海の中へと溶けていくように消えてしまった。

 

マーレさんはゆっくりと彼女の元へ歩き、止める力も動ける余力も無い俺は、ただ見ているだけしか出来なかった。

 

喉元に剣先を突きつけ、遠くて後ろ姿だけしか見えないが、きっと……マーレさんは冷たい目をしているのだろう。

 

「最後に何か言い残す事は無いか? 」

 

「……無い、早く……ぱ……ぱとま……マに会いたい 」

 

「……分かった 」

 

マーレさんが剣を大きく振り上げた瞬間、目の前の景色がスローモーションに見え始めた。振り上げられた剣はゆっくりと弧を描きがらゆっくりと着実に彼女の体へと向かっていき、このままでは彼女の体は一太刀で切り裂かれてしまうだろう。

 

待てと俺の心が叫びながら、俺は届きもしない手を必死に伸ばした。今救える命がそこにあるのに、だけど救えない。いや、救う事自体が間違っているのかという考えが過ぎると、手は伸び切る前に止まり、まるでそれは迷っている今の俺の状態でもあるようだった。

 

今目の前で1つの命が終わるところを傍観していたその時、周りに無数の青色の粒子が飛び回り、マーレさんの背後に粒子の嵐の中から人影が現れていた。

 

長い金髪に、今この場に相応しくない派手で露出が目立っている服に、まるでトビウオのように羽が広がっている艤装が目立つ女性が、マーレさんの目を覆うようにしていた。あの人は……7代目テネリタスの当主、マリン・テネリタスだった。血縁的には、マーレさんの祖祖母に当たる人だ。

 

「ダメだよマーレっち、そんな気持ちで人を殺めちゃ絶対に後悔するよ 」

 

「……だったらどうするんですか 」

 

「じゃあ……こうしてあ・げ・る 」

 

マリンさんが右手の人差し指と中指を彼女に指し、小さく右に動かした。すると、一部の粒子が突如彼女の首を通過し、通過したされた首筋が一気に大量の血を吹き出させた。

 

吹きだれた血しぶきはマリンさんの手を赤く汚し、マーレさんの黒い服をさらに赤く黒く汚していった。

「あ……あぁ……! 」

 

消えていく命が目の前にあり、俺はあまりの光景に呆然としていた。

 

目の前いる彼女は、あんなに血が溢れているというのに苦しさなんて感じないのか、まるで寝る時間になり、いつも通りに寝る子供のようにゆっくりと安らかに目を閉じていき、朦朧とする意識の中で彼女はマリンさんなのか、それともマーレさんなのか分からないが、彼らに対して口を動かしていた。

 

「あ……りが…… 」

 

吹き出された血はまるで彼女に残された時間を示していたかのように血は勢いを止め、同時に彼女は安らかな表情で……この世を去った。

 

「……これで良い? 」

 

「……はい 」

 

マリンさんはマーレさんの目を覆っていた手をどけ、マーレさんは剣を下げ、ただじっと動かない彼女を見下げていた。

 

「じゃ、帰ろっか 」

 

「……待って下さいよ……! 」

 

「ん? 」

 

マリンさんのあまりの淡々……というより、いつも通りの態度に俺は怒りを感じ、その怒りを力に変えて立ち上がった。

 

「どうして……そんな簡単に人を殺すんですか!まだ小さな子供なんですよ!?それを簡単に……そしてこんなあっさりに……! 」

 

「優しいね。君も、マーレっちも 」

 

「え……? 」

 

「……私ね、生きている間いっぱいい〜っぱい、他人の命を奪って来たんだ。だからね……そういうの、割り切っちゃったの。奪う事に対して、仕方ないって言い聞かせて……ね 」

 

「仕方ない……?人の命を……未来を奪う事が仕方ない!? 」

 

「怒るのも無理は無いと思うよ。だけどね、人の命ってそういうものなの 」

 

「そんな訳無い! 仕方ないって割り切れるほど、命は軽くも、安くもない! 」

 

ありったけの気持ちをぶつける俺に対し、さっき見たいな飄々しい所はあれど、マリンさんはどこか悲しそうな表情を一瞬浮かべた。

 

「……じゃあ、私はどうすれば良かったの? 」

 

瞬間、彼女の背後に無数の青色の粒子がマーレさんとマリンさんを包みこんだ。粒子の光の眩さで目を閉じ、光の集まりの筈なのに何故か風圧のような物が発生して近寄るに近寄れなかった。

 

「じゃあね指揮官君。1つ忠告ね、その優しさ……仇になるよ 」

 

そう言って、2人は粒子と共に消え、それと同時に粒子は嵐のように消え去ってしまった。いつの間にか空は青くなっており、アビスも基地も存在していなかった。

いつの間にか元の所に戻って行ったのか……いや、マリンさんが登場した時点で通常海域に戻ったと気づくべきだった。

 

太陽があれど、北方の地域は寒い。その寒い海風が傷に染み込み、全身に痛みを走らせ、思わず片膝をついてしまう。

だけどそれ以上に、俺の心が疲れていた。

 

「俺は…… 」

 

「指揮官っ!! 」

 

俺を呼ぶ声が聞こえ、後ろに振り向くと北方連合のKAN-SEN達と、アズールレーンのKAN-SEN達がボロボロになりながらも俺の所に駆け寄ってきた。

皆ボロボロだけど、1人も欠けていないし、動けない事はなかった。多分、俺よりもダメージは少なく済んでいるのだろう。

そして、その中で真っ先に俺の所に来たのは……赤城姉さんと大鳳だ。

 

「優海!?貴方……ボロボロじゃない!一体何があったの!? 」

 

「指揮官様、とにかく治療を受けてください!さぁ、大鳳の腕に抱いてください! 」

 

「ちょっと何しているの?ここは私が船を出せばいい話でしょう! 」

 

「そんな状態で出せるのですか〜? 」

 

「優海の為なら出せるわよ! 」

 

いつも通りの喧嘩が勃発し、喧嘩する余力もあれば多分皆大丈夫だろう。少し安心した。

 

「俺は大丈夫だよ。基地に帰れるぐらいの余力はあるから 」

 

逆に言えば、基地に帰れるぐらいしかもう力が残っていない。無事に基地に帰れたとしても、基地についた瞬間、倒れてしまう自信がある。

あまり心配させるのも悪いし、このまま黙っていよう……

 

「ご主人様、お身体の方が傷だらけです。早くお戻りになられた方がよろしいでしょう 」

 

「……! 」

 

白い長髪の俺の知っているベルファストが目に映ると、咄嗟に俺はそれを確かめるかのようにベルファストに近づき、じっと見つめた。

 

「ご……ご主人様?私の顔に何かついているのでしょうか? 」

 

「……いや、やっぱり俺の知っているベルファストなんだなって…… 」

 

あの基地にいたベルファストと、今目の前にいるベルファストがたとえ同じ存在だとしても、俺にとってのベルファストは目の前にいるベルファストだ。

それが目の前にいるから安心し、肩の荷が降りたかのようにも感じた。

 

「じゃ、戻ろっか…… 」

 

傷が染み込む寒風の中、痛みさえ忘れた俺は重い足取りで基地へと戻って行った。

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