もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

97 / 139
こんにちは、白だし茶漬けです。お前2ヶ月音沙汰無しってまじか……?

さて、今回で北方連合編はこれにて終わります。

最近はこの小説の頻度が遅れに遅れ、なかなか思うように進んで無いのが現状……




雪解けの日

 外は相変わらず雪が降り、寒い日が続いていた。小さい頃は雪を見たら外に遊んでは雪だるまを作ったり、山に登ってはスキーをしていたのに、今となっては憂鬱の気分となった。

 別に雪が嫌いという訳でも寒いのが苦手という訳では無い。

 

 ただ、昨日のセイレーンの基地である【王冠】内部で遭った事が多すぎで俺のキャパが超えてしまい、少し疲れてしまっていた。

 

 今日は昨日起こった事を全て話す為の会議があるのにも関わらず、まだ昨日の疲れが抜け切ってないのか客室のベッドの上に俺は寝転がり、頭の中では昨日の出来事を話すべきなのかを悩みに悩んでいた。

 

 今日の昼過ぎに会議が始まり、あと1時間程で始まる事になっていて、未だに考えがまとまっていなかった。

 未来で起きた事や、非道な人体実験。セイレーンとKAN-SENは元を辿れば同じような存在であり、本来は仲間であるという事。そして、人類を滅ぼす存在……【エックス】。これ程の事を喋れば混乱を招く事は間違いない。

 なら、話すべきではないのだろうか。だけど、驚異となる【エックス】について話しておけば、驚異への対処も取れるはずだと考えると、やっぱり話しておくのが正しいのとも取れる。

 

「うう……どうすれば良いんだ 」

 

 決められないモヤモヤをぶつけるように枕に顔をダイブさせ、ベッドの上に寝転がる。

 何度も頭を浮かしては枕に顔をぶつけ、また何かいい考えよ思いつけと願うがそれは叶わず時間は刻一刻と過ぎていく。

 こんな事、誰かに相談する訳にも行かないし、どうすれば良いんだ……

 

「何かお困りのようね〜? 」

 

「はい、今相当悩んでいて……ん? 」

 

 部屋の中から聞きなれた女性の声を聞こえると、すぐさま後ろに振り向いた。振り返った先にはあまりの寒さを防ぐ為に部屋の中にも関わらず少し厚着をしていたオロチさんがいた。

 

「おおおおオロチさん!? なんで部屋に入って……! 」

 

「ん? 貴方がお昼に来ないから呼びに来ただけよ。ノックもしたのよ? それなのにベッドの上で頭を何度も叩きつけて……大丈夫? 」

 

「だ、大丈夫です〜…… 」

 

 あれ見られてたぁぁ!! 自分でも意味不明な行動だって自覚している分、見られている事を知られたからかその恥ずかしさは倍増して顔から火が出そうな勢いだった。

 熱さで枕が燃えそうだ、だけどそんな事は気にせずに俺は枕に顔を埋め、オロチさんはそんな俺を気にせずにベッドの上に腰を掛けた。

 

「何か悩んでいるの? 」

 

「いや……別に何でもn」

 

「何でも無いならそんなに悩まないでしょ。当ててあげようか? ……エックスの事でしょ 」

 

「知ってたんですか……? 」

 

「元々私、エックスを倒す為の存在だもの。貴方が【王冠】から帰った来た時の態度で何となく察したわよ。それに、アンチエックスもね 」

 

 それはそうか。オロチさん……いや、多分これまでもこれからのセイレーンの作戦は全て【エックス】を倒す為の作戦だろう。

 だからオロチさんが【エックス】の事について知っているのもおかしくないだろう。

 

「オロチさん、エックスって何なんですか? 」

 

「正直私にも分からないわ。分かっているのは、エックスは世界を滅ぼす存在という事だけ 」

 

「世界を滅ぼすって……可能なんですか? 」

 

「簡単よ。人を全滅させたり、自然を破壊したり……汚染物質を垂れ流したり……毒を蔓延させたり、色々方法はあるわよ。世界を滅ぼすなんて、人間でも簡単に出来る物よ 」

 

「随分と言いますね 」

 

「だって私元々そういう存在だもの 」

 

「でも今は違うはずです 」

 

「どうして? 」

 

「今こうして一緒にいてくれて、戦ってくれるから 」

 

 するとオロチさんは目を丸くさせ、まるで自分が凍り付いたように動かなくなった。何か変な事言ったのかと心配したがその直後、オロチさんは何故か大きな声で笑った。

 

「あっはは! そう、そうだったわね! 貴方ってそういう人よね! 」

 

「な、なんで笑うんですか 」

 

「ふふ、だって(コネクター)の頃は無表情で、無愛想で、人なんか有象無象のタンパク質の塊だ〜。って思ってそうな感じだったのに。今となっては……うふふ 」

 

「えぇ? そ、そんなんだったんですか? 」

 

 あ〜でも確かにオロチさんと戦った時の感じからしてそういう雰囲気は無いことも無かったけど……

 でも、重桜にいた時のコネクターはそうじゃなかった。人とは関わったは差程無かったけど、KAN-SENを通じて人の可能性をアイツも感じ取れている筈だ。だってそうじゃなければ、コネクターから生まれた俺はこう思っていなんだから。

 

「あ〜お腹痛い。それで? 話が脱線したけど、話す気にはなったのかしら? 」

 

「……エックスの事は話そうと思っています。だけど、それ以外の事は俺の胸に留めておこうと思っています。あと……ちょっと相談したいことがあって…… 」

 

「相談? 」

 

「俺……王冠内部でベルファストじゃないベルファストに会ったんです 」

 

 ぽかんとしているオロチさんに、俺は謎のベルファストの事について話した。髪も目も雰囲気さえもどことなくベルファストだが、どこか違う雰囲気を醸し出し、更には俺の事を躊躇いなく攻撃してきた。

 

 同名の別人……なのは違う。戦い方が少し荒々しくも、俺の知っているベルファストと似ており、俺の事をご主人様と言っていた。だからこそあのベルファストのことが分からなくなってモヤモヤしている。

 

「なるほどね……もしかしたら、いやでも…… 」

 

 オロチさんはなにか心当たりがあるのか、ぶつぶつと小さな声で何かを呟いていた。

 

「ひょっとしたら……【余燼】? いやでも、そうなるとこの子を狙う理由が矛盾する…… 」

 

「よじん? 」

 

「聞こえてたの!? 」

 

 オロチさんの珍しい驚き顔で俺の方もびっくりしてしまい、目を丸くさせて数秒動きをとめた。

 

「え……だってオロチさん声大きかったし…… 」

 

「はぁ? だって、私口元を手で覆いながら喋ってたのよ? それに大きさも考慮していて……まさか、ねぇ貴方、コネクターの力を使って無いでしょうね? 」

 

 コネクターの力というと、【リンク】の事だろうか。KAN-SENのメンタルキューブに入り込む力をそう呼んでおり、オロチさんから多く見積っても3回までの使用が許されている。もしもそれ以上多く使えば、俺の中にあるセイレーンの因子が意識を蝕み、またセイレーンに戻ると警告をうけており、今は長門ちゃんとビスマルクで二回使っており、昨日の戦闘では使用した覚えは無い。

 

 もしもその片鱗が見せたとなれば、俺が艤装を鉄血の艤装に変化させた事だろうか。

 

「いや……使ってませんけど 」

 

「そう……なら良いわ。【余燼】 の事だけど、今は知らなくて良い。多分、私の考えとは違う物だし 」

 

 そう言いながらオロチさんは俺に背中を向け、部屋から出ていこうとした。

 

「それじゃ、そろそろお昼だから行くわよ。北方の料理は中々いけるわよー 」

 

 オロチさんは部屋から出ていくとそのまま食堂に移動し、俺も後を追おうとベッドから起き上がり、ふと夏なのに雪が降っている外を眺めた。

 

(……あのベルファストは何者なんだろう )

 

 俺はふと、2人のベルファストを重ねて数分雪が降る白い空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _現時刻 ???? 

 

 テネリタスが基地として利用している深海の海域の中、寒い土地から帰ってきた2人がいた。

 

「あぁ〜寒かったぁぁ! 早く暖かいお風呂に入りた〜い! 」

 

「そんな寒い格好で出るからでしょ…… 」

 

「ええ〜!? だってこれチョー可愛くない? 」

 

 帰ってきた1人であるマリンがその曾孫にあたるマーレに向けて自分が着ている衣装を見せびらかした。

 

 全体的に白い毛皮に覆われているポンチョだが、何故か腹部は顕になっており、下に履いているスカートの丈は短く、少し激しく動いたら下着まで見えてしまうほどだ。

 

 足には白いストッキングを履いており、靴は上の端が羽毛になっており暖かそうではあるが、やはり顕になっている腹部のせいでマーレは不思議に思い、理解に苦しむと訴えるように顔を顰めた。

 

「あぁ〜! そんな事じゃ女の子にモテないぞ! 」

 

「うるさいですよ。……とにかく、作戦は終わったのであとは好きにして下さい 」

 

 匙を投げるかのようにマーレはマリンに対して冷たく接し、そのまま足を少しふらつかせながらも基地の中にある自室へと帰っていった。

 

「もう! 若いんだからもっとキラりとしないと勿体ないのに 」

 

「まぁまぁ、そう言わないで下さい 」

 

 マリンの背後に遅れてミーアが現れ、これまでの会話を聞いたのかマーレのことを庇うようにしていた。

 

「あれ、帰ってたんだ 」

 

「いえ、今私もここに帰還したばかりです 」

 

「確か、私の孫に会って来たんだっけ? どうだった?」

 

「あはは……残念な結果になってしまいました 」

 

 ミーアは申し訳なさそうに頬を人差し指で掻くように触れると、マリンは全てを察したのか何も言わずにいた。

 

「でも、それがあの子の意思なら私は尊重します 」

 

「もしも対面する事になったら? 」

 

「……その時は、敵として相手するだけです。家族として会うのは、あれで最後にするつもりです 」

 

「そっかー。いや〜私の孫はカッコイイねー! チラッと見たけど髭も似合ってダンディーになってるし〜、曾孫のマーレっちもイケメンだし〜そして、なんと言っても私の可愛い娘もこんなに可愛いくて最高! 」

 

 愛する娘の全盛期の姿を見たマリンはあまりの愛らしさで思わず飛びつきながら抱きしめ、ミーアはその予想外の行動に戸惑いを隠せずにいた。

 

「きゃっ! も、もう〜! お母様辞めてくださいー!」

 

「ほっぺもちもち〜……って、待って待って、え!? やだすごい! お胸も意外と大k」

 

「お母様っ!! 」

 

 自分の身体的な事は他人の口に言われたくない一心でミーアは自身の艤装の一部であるビットを呼び出し、ビットか一粒の氷を何個も生み出してはそのままマリンにぶつけようとした。

 

 それを察知したマリンは降り注ぐ霰を遮る粒子を生み出そうとしたが時すでに遅し、霰はマリンの頭をコツンと叩き、あまりの激しさに耐えきれずにマリンはミーアから離れた。

 

「あいたたたた! うぅ〜痛いよミーア〜私貴方のママだよ? 別にそれぐらいいいじゃない〜 」

 

「お、親でも嫌なものは嫌なのです! 」

 

 触れた胸部を守るかのように腕ごと抱き上げるようにしてマリンから距離を離したが、腕で持ち上げるようにしている行動のせいで豊満の胸部が更に強調され、マリンの目を釘付けするような形になっていた。

 

「む、無自覚行動っ! この子やっぱり出来る子……! 」

 

「な、何を言ってるんですか全く……それよりも、お身体が冷えているんですから、早くお風呂に入ってください。マーレも冷えてる筈だからそれも言わないと 」

 

「あぁ、そのマーレっちなんだけど。……人に手をかけようとしていたよ 」

 

 曇よりも軽い喋りで放った言葉はまるで鉛のように重くミーアにのしかかり、先程までの空気を一変させた。ミーアは嘘だと願うばかりに瞳孔を見開き、自分の母親を睨んだが、嘘では無いと直ぐに判断出来た。

 

「そう……ですか……それで、あの子は人を……? 」

 

「ううん、私が代わりにやっておいたよ。まぁ、メンタルキューブの被検体だから、遅かれ早かれ死んでたけどね 」

 

 代わりにやったという言葉を聞いて、ミーアはほっとしていたと同時に被検体という言葉で悲しんでもいた。

 マーレから未来に起こった事を全て聞いており、その中には当然、メンタルキューブによる実験も入っていた。

 

「良かった……と喜んでいいんでしょうか…… 」

 

「いいんじゃない? だってマーレっちの手を汚したくないんでしょ? 」

 

「手を汚すのは、もう私の代で終わりにしたいのです。あの子だけじゃなく、私はオセアンにもそう思っています 」

 

「それ、私も思ってたんだけどね 」

 

「……ごめんなさい 」

 

「良いのいいの。だって悪いのは貴方を利用した人間だもの。貴方は何にも悪くないよ 」

 

 自分の娘のミーアをマリンは優しく抱きしめ、飄々とした態度ではなく、母親のような優しい声と手でミーアの髪を撫で、ミーアは自負の念をマリンの腕の中にぶつけた。

 

「だけど……私が生み出した化学が大勢の命を失いました……だからっ……! 」

 

「そう……やっぱり、この家系は呪われているのかな…… 」

 

 

 

 

 

 

 

 _数時間後 北方連合基地にて

 

 昼食を終え、先の戦闘での会議の時間が始まった。

 広い部屋会議室の半分ほどの長さをもつ長さに、俺は北方連合のKAN-SEN全員と顔を合わせられる位置に座り、遠くの正面には北方連合の代表であるKAN-SEN、【ソビエスキー・ソユーズ】が凛とした表情で俺を直視し、他の北方連合のKAN-SEN達も昨日の戦闘での事を気になっているように全員俺の目を見ていた。

 

「では指揮官、話してください。昨日あの基地、【王冠】内部にて何が起こったのか 」

 

「と言っても、どこから話せば良いのかな…… 」

 

 話してくへとは言っても本当に色々ありすぎてどこから話すべきか悩みに悩んだ。エックスの事については話すが、それ以外の事……KAN-SENとセイレーンが元々アンチエックスという組織だったということや、メンタルキューブによる人体実験の事……それに……ベルファストの事だ。

 

 あの時のベルファストの事を思い出してしまってふとベルファストのいる所へと目を向けてしまい、ついベルファストと目が合ってしまった。

 

「ご主人様? 私がどうかされましたでしょうか 」

 

「え? あぁ! いや、何でもないよ! じ、じゃあとりあえず、基地での出来事を話すよ 」

 

 俺は話題に気をつけて遭って来たことを話し、唯一ベルファストと人体実験の所以外は全て話した。

 

 マーレさんとの遭遇や、セイレーンの中核を担う者【オブザーバー零】の事や、KAN-SEN達が一瞬だけ見たあの巨大兵器【アビス】の事……そして、【エックス】。話したのはそれだけだ。

 

 するとKAN-SEN達は目の色を変え、今まで不明だったセイレーンの詳細が明るみになった事への驚きを隠せずにいた。

 

「エックス……それを倒すのがセイレーンの目的なのか? 」

 

「基地内にあったデータとマーレさんの話によればそういう事になるね 」

 

「まさかセイレーンが未来から来た侵略者とはな……まぁ、通りで現代の技術では解明しきれない物に溢れてる訳だ 」

 

「という事は……元セイレーンである指揮官も未来から来たとか? 」

 

「あぁ……そうなるのか……な? 」

 

 タリンの何気ない一言に、俺は少し納得を覚えた。確かに……経緯を辿って考えれば俺は未来人という事になる。まぁ、セイレーンの記憶がほぼ無いから未来人と言えるかは微妙だけど。

 

「まぁ、それは良いでしょう。同士指揮官、確か王冠にはあのテネリタスの末裔も侵入していたようですね。あの方の目的は何だったのですか? 」

 

「マーレさんの目的は……【黒箱】だった 」

 

 マーレさんが【黒箱】を施設から奪い、そこからアビスに戦った事を報告し、後は皆が見てきた通りだ。マーレさんは【黒箱】を回収し、そのままマリンさんと共に自分の基地へと帰還した。

 

「【黒箱】……聞いた事が無いですね 」

 

「え? そうなのか? てっきり…… 」

 

「てっきり……なんですか? 」

 

「いや、何でも無い 」

 

 良く考えてみれば、【黒箱】があった場所は王冠基地内部だ。北方連合は内部までは行ったことが無いから【黒箱】なんて見たことすら無い筈だ。

 

「とにかく、マーレさんの目的は【黒箱】の回収だ。今まで2つ取られたから……今度こそはって思ったけど 」

 

「その【黒箱】とはどういうものでしょうか? 」

 

「正直、俺達にも実態は分からない。だけど強いて言うなら…… 」

 

 俺はその時、マーレさんの言葉を思い出した。

 

「あれは……KAN-SEN達の本質を叶える物らしい 」

 

「どういう意味だ? 」

 

「分からない。だけどマーレさんがそう言っていたんだ。意味は知らない。だけど、あれは危険な物だということは確かだ 」

 

 現に【黒箱】を使用してビスマルクが暴走した経緯もある。敵味方見境なく倒していくビスマルクの姿は目も当てられず、姉妹艦であるティルピッツにもその暴走の牙を向けた。

 それに、明らかに自身の許容範囲外の出力を連発するから、止めなければ命に関わるかもしれない。もう、あんな事は二度と起きないようにしなければならない。

 

 だけど、かと言って【黒箱】がどこにあるのかも分からないから難しいし、マーレさんの方は恐らく大体の検討はついているだろう。せめてこっちもどこにあるのかさえ分かれば話は早いけど……

 

「なるほど……大抵の話は理解しました。報告は以上を持って終了しても良いでしょう 」

 

 ソユーズの意見に北方連合のKAN-SEN達は頷き、これにて報告会は終了と言った雰囲気だった。

 

「やはり同志指揮官をお呼びして正解でした。セイレーンの目的や、新たなる敵の存在……これらだけでも大した収穫です 」

 

「こっちとしても、良い収穫だったよ 」

 

 ある意味……ね

 

「では、今日はこのくらいにして私達も準備と致しましょう 」

 

「準備? 」

 

「明日で貴方方は自分たちの基地へと戻ります。何もせずにお見送りするなんて持っての他ですので、あるお祭りに招待しようと思いまして 」

 

「祭り? 」

 

「我が北方領土名物、【ほっぽう雪祭り】です 」

 

 

 

 

 _数時間後

 

 ソユーズが言っていた【ほっぽう雪祭り】という雪祭りに俺達全員は招待を受け、近くの街の広場まで移動した。

 夕日が見え始めた夕刻だが相も変わらず一面は真っ白の雪の野原……では無く、雪で作られただろう雪像が多く展示されていた。

 雪で作られたヒールや、動物、そして目を引くのは建造物のような城までもがあった。しかも城へと続く階段も作られており、もしも中が空洞だったら入れてしまうような程だった。

 

「わぁ〜! 凄いですよ指揮官! あんなに大きなお城がありますよ〜! 」

 

 ジャベリンもあの大きな城を見て興奮しながら階段を駆け上がり、白く輝く雪城に目を輝かせていた。

 

「気に入って頂けたなら何よりだ。あれは私が設計したものだからな。鼻が高い物だ 」

 

 どうやらこの城を作ったのはロシアらしい。……え? 

 これ作ったのロシア? だとしたら少しの心配が込み上げ、俺は美しさと裏腹に不安な雰囲気を醸し出した城を眺めた。

 

「だ……大丈夫? どこかに不備とか無い? 崩れない? 」

 

「し、失礼だぞ! ちゃんと見直しはしたし! 皆にも確認して貰っている! 大丈夫な筈だ! 」

 

 それなら大丈夫かな……現に白は相当頑丈に出来ているのか、ジャベリンや綾波、Z23が階段を乗っても雪が崩れる事は無く、今のところ崩壊の危機は無い。

 いや、あの城が崩壊したらここら一帯雪の海に呑まれるけどね。

 

「ごめんごめん、それにしても雪像か……俺も昔は雪で何か作ったりしたなぁ…… 」

 

「ほう? 同志指揮官がどんな物を作ったのか興味があるな 」

 

「と言ってもそんな大層な物じゃないよ? 兎とか、普通の雪だるまとか作っただけだし 」

 

 昔を思い返しても、雪の中でやった事と言えば大抵は雪だるま作りと雪合戦ぐらいだ。天城母さんは体が弱いから少ししか遊べなかったけど、その代わり赤城姉さんと加賀姉さんには一杯遊んでもらった。

 今では他のKAN-SEN達に付きっきりらしく、向こうでジャベリン達の見てくれていた。

 

 この際、久しぶりに雪で何か作ろうかと思い早速雪を救って雪だるまを作ろうとした。

 重桜の雪と違って柔らかく、滑らかな感触で作ろうとしているものが作れるのか不安だ。それに、流石に素手て雪に触るのはちょっと厳しい。冷たさで手が動かなくなりそうだ……

 

「同志指揮官、良ければこれを 」

 

 するとロシアが赤色の手袋を渡してくれたが……手袋は右手の方しか無く、もう片方がどこにも見当たらなかった。

 

「あれ? 右手だけ……? 」

 

「……あっ、すまない。ついうっかりしていた…… 」

 

「あはは、相変わらずちょっと抜けてるね 」

 

 何も言い返せないロシアは縦に被っている白い帽子を深く被って顔を見えなくさせ、声にならない声で小さく叫びながら膝を曲げ、体を丸めた。

 

「でもありがとう。片手だけでも暖かいのは嬉しいよ 」

 

 手袋をつけたせいなのか少し手のかじかみが和らいぎだし、再度雪だるま作りを再開した。それ程大きい物ではなく、手のひらサイズの小さな雪玉を少し縦長に作り、もう1つも同じように縦長に作ると同時に耳を作るようにして頭を削り、頭は狐の耳が生えたかのような形になり、その辺の石で鼻を作る。

 

 ここまで来ればあと少し、最後は2つの雪玉と合わせた大きさに合わせて作り、それを縦長に伸ばして先端を少し丸めるように尖らせ、毛先を表現するように雪に線を入れると……狐の尻尾の完成だ。これをさっきの雪だるまに付けて、目を表現するために丸い小石を2つ乗せると、昔作った狐の雪だるまが完成だ。

 

「よし、出来た。久しぶりだけど上手くできて良かったよ 」

 

「おぉ、随分と愛くるしい狐だな 」

 

「これは一尾しかないけど、天城母さんは九尾の奴も作れるんだよ。俺が作ると尻尾が崩れて上手く出来ないけどね 」

 

 試しに九尾の雪形を作ろうとするが、どうしてもバランスが悪くなってしまい、雪はそのままボロボロに崩れてしまった。これを完成させるにはそれぞれの形や大きさを絶妙なバランスで保たなくてはならず、その調整が中々に難しい、1つでも間違うと崩壊する、トランプタワーに挑戦しているみたいで、かなり根気がいる。

 

「やっぱり無理か〜難しい! 」

 

「そんなに無理をするな。これだけでも十分いいものを見せて貰った 」

 

 ロシアは俺が作った狐の雪だるまを壊さないようにそっと持ち上げると、気に入ったのかじっと見ていた。

 

「さて、この後は雪祭り名物の【雪合戦】だ。勝者には賞品が授与されるが……どうする? 」

 

「雪合戦か〜! じゃあ、やってみようかな 」

 

「了解した。では、会場に案内しよう 」

 

 ロシアと俺は立ち上がり、雪合戦が行われる会場まで歩いた。

 

 雪合戦の会場にたどり着くと、KAN-SEN達もこの場におり、恐らくだが皆も雪合戦に参加するとの事だろう。

 

「あ! 指揮官! 指揮官も雪合戦に参加するんですか? 」

 

「そういうジャベリンも……というか、全員参加かな 」

 

 と、思っていたがけど、会場の片隅で誰よりも多くの厚着をし、小さく丸まってカタカタと震えている人がいた。

 

「おーい、オロチさん? 」

 

「………… 」

 

 声を掛けようにもオロチさんは振り返ることも反応する事も無く、ただ黙って寒さを凌ぐように体を震わせていた。

 

「……お、オロチさん〜? 」

 

「ご主人様、オロチ様は大変寒さにやられている為、恐らく声は届いていないかと…… 」

 

 あぁ……そういえば最初に北方連合に来た時に寒さにやられていたし、仕方ないと言えば仕方ないと言える。

 というかそんなに寒さに弱いならなんでここに来たんだろ……

 

「あ、あ、あら、優海じゃじゃない……貴方も雪合戦にさささ参加すすするのかしら? 」

 

 いやいや寒さにやられて声が震えまくってるけど大丈夫なのか? 傍にベルファストはいるのが幸いしたのか、ベルファストは見かねて直ぐに暖かいココアを入っている魔法瓶をオロチさんに差し出し、ふぅふぅと息をふきかけて舌が火傷しない程度に冷まし、そのまま体の内側の寒さを取っ払うようにホットココアを1口飲んだ。

 

「あぁ〜生き返る……」

 

「オロチさんは雪合戦には参加しないんですか? 」

 

「あんな物参加したら私本当に死ぬわよ……今回はパスするわ…… 」

 

 震えながらオロチさんは近くの少し狭いかまくらに入り、そこにある七輪でお餅を焼いて体を温めていた。

 

「というか、かまくらの文化って北方にもあるの? 」

 

「あれは綾波達が作った物よ。久しぶりに入りたいってせっせと作って駆逐艦の皆と居たのよ 」

 

 すると後ろから赤城姉さんがやってきた。なるほど、かまくらの中は少し人がいた形跡もあるし、4、5人入っても大丈夫そうな程大きい。

 

 かまくらを作るのは意外と難しいから、あんなふうに大きくて綺麗な物を作れるのは重桜の人達だけだ。

 

「かまくらか〜小さい頃以来だから入ってみたいな〜 」

 

「指揮官様〜! ならば大鳳のかまくらに入って下さい〜! 」

 

 向こうの方から大鳳の声が届き、その方角に振り向くとやけに小さいサイズのかまくらの中に大鳳がまるで敷き詰められているかのようになっていた。

 戦闘の疲れで見間違えたかなと思って目を閉じてこめかみ部分を指で押し、もう一度大鳳を見るとやはり自分より小さいサイズのかまくらの中で敷き詰められているかのようになっていた。そのせいでかまくらにあって欲しい七輪とか暖房器具が無い。

 あるのは何故か息が荒く目がちょっと怖い大鳳だけだ。

 

「さぁ指揮官様! この愛のかまくらで2人一緒に温め合いましょう!」

 

「と言っても俺が入るスペース無いんだけど!? 」

 

「大丈夫ですよ〜なんなら体と体を密着してその熱で温め合えば良いんですよ! さぁ指揮官様〜! 早く私と温め合いm 」

 

 すると興奮して息が荒くなった大鳳が作った手狭なかまくらに炎を纏った矢のようなものが直撃し、かまくら諸共大鳳は爆発に巻き込まれた。

 

 そしてその炎の矢を撃ったのは……すっごく怖い顔をしている赤城姉さんだった。

 

「あらあら〜害鳥がいたからつい撃ってしまったわ 」

 

「ちょ!? 赤城姉さん何やってるの!? あそこには大鳳がいたんだよ!? 」

 

「大丈夫よ、あれは害鳥だから。それに、まだ息はあるらしいわね 」

 

 すると燃えたかまくらの火を消し飛ばすように突風が吹き荒れ、その突風の中心に大鳳が表れた。

 何とか無事だが服が少し焦げており、攻撃してきた赤城姉さんに鬼のような形相で近づいた。

 

「ちょっと赤城さん!? どうして私と指揮官の邪魔をするんですか!? 」

 

「貴方みたいな害鳥に優海を渡す訳ないでしょう? 」

 

「あらあら、金魚のフン見たいに弟に引っ付くのもどうかと思いますけど〜? 」

 

「良く言う小鳥な事 」

 

「「うふふふふ〜…… 」」

 

 笑っているはずなのにめちゃくちゃ怖いしこの辺がすごく熱いような気がする。いや、気の所為ではなく赤城姉さんと、大鳳の周りの雪が溶けている。ここにいては怒りの灼熱があの溶けた雪のようにこっちまで溶けそうだ。恐る恐る気づかれないように2人から離れ、そそくさと別の場所へと逃げていった。

 

「もぅ〜相変わらずなんだから……もう少し仲良くしても良いのに 」

 

「中々個性的な姉な事だな、指揮官 」

 

「うん、だけど良い姉さんだよ。個性的と言えばロシアの姉さんもそうだと思うけど? 」

 

「あの人は賭け事が好きなだけだ。ところで、同志指揮官はどちらのチームに入るつもりだ? 」

 

 おっと、そうだった。ええと……今のところアズールレーン艦隊12人と、北方連合11人が今の所の参加者であり、俺がアズールレーン側に入ると2人分の数的有利になってしまうが、北方連合側に入ればそれも無くなる。

 

「よし、ここは北方連合側に入るよ。それで人数は丁度でしょ? 」

 

「えぇ〜!? 指揮官はこっちに来ないんですか〜!? 」

 

「ごめんよジャベリン。人数を合わせる為には仕方ないんだよ 」

 

「うぅ……なら仕方ないですよね! お相手になったからには全力で行きますよー! 」

 

 最初は落ち込んではいたが、直ぐに気持ちを切り替えてくれた。これならこっちものびのび全力で雪合戦に挑める。

 

「ではルール説明をそろそろ始めよう。同志指揮官、こっちに来てくれ 」

 

 ロシアに呼ばれ、向こう側に雪の壁が作られている所まで移動し、アズールレーン側はそれとは反対方向にまで移動していた。双方が壁の裏に全員集合出来たのを確認すると、改めて雪合戦のルールをロシアが説明した。

 

「ではルールはこうだ。勝利条件は敵チームの全滅か、旗を地面から引き抜くかだ。雪玉の形状をしている物に当たった時点で当たった物はその場で退場だ。そして1つ、この雪合戦は誤射もある。自分の投げた雪玉が自分チームのメンバーに当てるとその時点で当てられた者も退場になる 」

 

 誤射あり!? これはかなり立ち回りを考えないと最悪自滅する恐れもあるなぁ……

 皆も同じことを考えているのか、早速チーム間でどう立ち回るか話し込んでいた。こういう時こそ指揮官である俺の出番だけど、生憎今は北方連合側だからあっち側に助言する訳にはいかない。……ちょっと話し込みたい気持ちはあるけどここは我慢。

 

「というか、ルールに『雪玉の形状にしている物に当たったら退場』って言ってたけどどういう事? 」

 

「あぁ、そういう事か。例えば、このように普通の雪玉の他に、片手に収まるものかつ視認出来るものか、丸いものならどのような形状でも良い。最悪、大玉のような物を作って当たるのもありだ 」

 

 なるほどね、まとめみるとざっとこんな感じだろうか。

 

 ・勝利条件は敵チームの全滅か、旗を引き抜く。

 

 ・視認出来るものかつ片手に投げられる物なら丸い形状では無くても良い。

 

 ・丸い形状なら大きさは問わない

 

 ・味方の雪玉に当てられても退場になる

 

 

「さて、同士指揮官。私達は貴方の指揮に従おう。作戦はあるか? 」

 

「ちょっと待ってね。うーん、どうしようかな…… 」

 

 大部隊での指揮とこのような少数部隊の指揮とは少し勝手が違う。

 大部隊の指揮は全体的な見通しが大事ではあるが、少数の指揮は局地的な見通し、つまり一人一人の動きを理解して細かな指揮をするのが主な感じだ。だけど、昨日の戦闘で北方連合の動きを見たとは言え、まだ皆の動きや癖を把握出来ていない。

 

 遊びなのにそんなに本気で指揮する必要は無いかもしれないが、皆俺の指揮に期待を寄せられてはこっちもその期待に答えるのが指揮官というものだ。

 

 さて、こっちの動きは少し把握してないけど向こうの動きなら把握出来ている。そしてあっちには恐らく指揮するであろう神通さんがいるから……

 

「まぁ適当でいいんじゃない? 」

 

「……ほ、本当にそれで行けるのか?」

 

「なんか指揮っていうより……放任というか 」

 

「ま、相手に神通さんがいるからこれでいいと思う。あの人は結構型にはまった戦法をとるし、これぐらいが丁度いいよ 」

 

「それは頼もしい限りだな。……そろそろ時間だな 」

 

 ベラルーシアがこの広場の大時計を見るとそろそろ雪合戦の時間まで秒読みとなり、全員雪の壁に隠れて開始時間まで身を隠した。

 

『ではこれより、北方連合雪合戦を開始します。カウントダウン後にサイレンがなりますので、一斉に開始してください 』

 

 今回の司会者なのか、ソビエスキーが遠くの司会台のマイクからアナウンスを初め、カウントダウンの秒読みが始まった。

 遊びとは言えこういう試合は緊張するものだ。カウントダウンが0に近づく度に心臓の鼓動が早まり、汗も少し出て雪風で少し体が冷えるが、この冷えで身が引き締まって適度な緊張感を保てる事が出来た。

 

『3……2……1……それでは、雪合戦開始! 』

 

 雪合戦が始まったホイッスルがなった瞬間、いきなり空から大量の雪玉が俺達は北方連合サイドに降り注いだ。

 

「へっ? ちょ……! 」

 

 雪玉の雨を避ける為に各自バラバラに散開し、壁を盾にして攻める戦法から統率が取れない陣形となってしまった。

 

 多分これ神通さんの作戦で間違いないな……いきなり空から奇襲をかけて俺達を散開させ、各個撃破に挑むつもりだろう。

 

 なるほど、よく考えられている。あちらとこちらではホームグラウンドである雪の足場はこちらの方に動きが歩があり、まず1対1ではこっちが勝つ。だがこのようにまず逃げる事しか出来ない状況を作れば……多対一での戦闘にもつれ込むことも出来るという訳だ。

 神通さんらしい戦法だ……! 

 

「ふっふっふ〜指揮官覚悟ですよー! 」

 

「鬼神の力、思い知るのです! 」

 

 逃げた先にはジャベリンと綾波が待ち構えており、まだ雪玉を作ってない俺にはどうする事も出来ない為逃げに回るしか無い。

 

 そんな俺を容赦なく2人は雪玉をこれみよがしに投げつけ、嵐の如く襲いかかる雪玉を躱していく。だけど足が雪に埋もれて少し思うように動けず、いつまで凌げるか分からない。

 

「ほらほら指揮官! 逃げてるだけじゃ勝てませんよー! 」

 

「観念するです! 」

 

「悪いけど、そうはいかないかな! 」

 

「その通りですよ〜 」

 

「あ! ムルマンスク! 来てくれたの……んんっ!? 」

 

 左方向からムルマンスクの声がきこえたけど、ムルマンスクが笑顔で巨大な雪玉を転がしながらこちらに迫っていき、俺達3人は唖然とした。

 

「ちょちょちょ!! あれありなの!? ソユーズ!! 」

 

『ありです 』

 

「なら大丈夫ですね〜指揮官避けてくだいさね〜! 」

 

「そんな急に言われても! 」

 

 ムルマンスクは巨大雪玉を一気に押して加速させ、俺はそれを見て直ぐに方向転換して逃げようとしたけど……雪で足が埋もれて思うようには動けず、同じくジャベリンはそのままずっこけて綾波も片足を雪に埋もれて動けずにいた。

 

「あわわわわ! もうダメです〜! 」

 

「これは無理ゲーです…… 」

 

「ちょ! 指揮官なのに味方にやれるのなんかやだなぁぁあ!! 」

 

 避けられないと悟って諦めたその時、敵陣の雪壁を壊してこちらに襲いかかる影が俺を押し、大雪玉の進行ルートを外してくれた。だが綾波とジャベリンはそのままになってしまい、2人は大雪玉にぶつかってしまった。

 

「はい、ジャベリンさん、綾波さんアウトです 」

 

 遠くにいてもこの事に気づいていたソユーズは2人にアウト宣言し、それと同時に他の場所で雪玉に当たったKAN-SEN達にアウト通告をしていた。

 

「うぅ〜そんなー! 」

 

「やっぱりリアルはクソゲーです……ガクっ 」

 

「わーい、やりました〜では指揮官、私は次の行動に移りますね〜 」

 

 ムンマルクの雪玉に押しつぶされた2人はどうやら無事みたいだ。2人は大雪玉を抜け出すと同時に、俺はその陰から何者かに襲われてしまった。

 

 あまりの出来事に目をつぶっているからゆっくりと目を開けると、目を開けた先には赤い目をしたKAN-SEN、大鳳が光悦した笑みで俺を見ていた。

 

「指揮官様〜やっと捕まえましたわ! 下が雪で寒いでしょう? さぁ、大鳳と一緒に熱い抱擁を…… 」

 

「いや何で!? これ雪合戦だけど!? 」

 

 よく見ると大鳳の手には雪玉らしい物は無く、かと言って雪玉を作る気がないように俺の両肩を力強く両手で抑え付き、何でか知らないけど大鳳の息が荒いような気がする。

 

「はぁはぁ……もう我慢出来ません! 指揮官様〜!!」

 

「ちょっとぉぉぉぉぉぉ!? 」

 

 大鳳の顔が近づく一瞬、炎を纏った矢が俺と大鳳の間を縫うようにして横切り、そのままロシアの作った雪の白に直撃した直後に炎は消え、雪の冷たさよりも低い程の寒気を感じ、すぐ様矢が来た方向に顔を向けると、背後が怒りの炎で燃えている(事実)の赤城姉さんが般若の様なめちゃくちゃ怖い顔をしていた。

 

「あ……赤城姉さん? 」

 

「うふふふふふふ……大丈夫よ優海、悪いのはその害鳥だから。待ってなさい、今すぐその小鳥を燃やすから! 」

 

「あらあらあら〜私と指揮官様の邪魔をするなら……容赦しませんわ! 」

 

 まずい、双方ともとんでもなくまずい方向に事が進んでおり、問答無用で艤装の力を使って今敵である俺を無視して仲間割れをしようとしていた。

 

「丁度良いわ、貴方をここで焼き鳥にしてあげるわ! 」

 

「こちらの方こそその尻尾を切り取ってあげますわ! 」

 

 2人とも艤装を展開していよいよ本気で戦う気満載だ。こんな所で本気で戦ったら大変な事になるどころか大惨事は免れない。

 

 落ち着いてと説得しようにも2人は聞き耳持たずでこっちの声なんて聞いちゃいない。2人が攻撃を行ったその瞬間、2人の頭に雪玉が直撃した。直撃した雪玉はかなり強めに投げられたせいで砕け散り、2人は意識外の衝撃を受けて気絶してしまった。

 

「全く何をしているんだあの2人は…… 」

 

 雪玉が来た方向には加賀姉さんが呆れた顔をしており、どうやら雪玉を投げたのは加賀姉さんで間違い無いだろう。

 

『赤城さん、大鳳さん、加賀さんの誤射の直撃で失格です。……ありがとうございます 』

 

 どうやらソユーズもあの2人の暴走に焦っていたらしく、心做しかほっとした表情を浮かべていた。

 

「いや〜助かったよ加賀姉さん……って危なっ!! 」

 

 お礼を言った矢先に加賀姉さんが俺に向けて全力で雪玉を顔面目掛けて投げつけ、俺は既のところで反応して回避出来たけど、冷や汗が止まらず思わず加賀姉さんに戸惑いの表情を見せた。

 

「ちっ、外したか 」

 

「かかか加賀姉さん!? 何でいきなり狙うの!? 」

 

「たわけ、今の私とお前は敵対関係だ。敵に情けを与える程私は愚かでは無い 」

 

 容赦なく加賀姉さんは雪を纏った式神を使って次々と投げつけるように俺に向けて放ち、たまらず雪壁の向こうに隠れ、体勢を整えた。

 

「というかアレありなの!? 」

 

『ありです 』

 

「嘘ぉ!? 」

 

 まるで一個艦隊の集中砲撃のような雪玉は俺だけじゃなく味方にも当てまくられており、あの砲撃で数人が倒されてしまった。

 

「ちょっと指揮官! あれ結構やばいわよ、どうするの? 」

 

 近くにいたタリンが指示を求めていた。確かにこのままじゃ距離を詰められて負けてしまう。どうにかして加賀姉さんを止めなければならない。だけど止めたとしてもあっちにはまだまだ層は厚い。流石神通さん、良い指揮をする。

 

 だけど指揮なら指揮官である俺が負ける訳には行かない。

 

「ねぇタリン、こういうのってできる? 」

 

 パッとある事を閃いた俺はタリンにひとつ尋ねてみた。

 

「え、出来るけど……」

 

「じゃあOK、やろう 」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんた本当に私が言う通りにするって思ってるわけ!?」

 

「え、してくれないの? 」

 

「いやするわよ! するけど……まだ会って日が浅いのに信じられるのかって 」

 

「信じてるよ、当たり前でしょ?」

 

 タリンは目と口をぽかんと開け、何だか面白い顔をしていた。

 

「は、はぁ!? 貴方……正気なの? 会って日が浅いのにそんなにポンポン信じちゃって…… 」

 

「だけど、一緒に戦場に出たから信じる。じゃあよろしくね 」

 

 俺は加賀姉さんの雪玉の猛攻を掻い潜り、加賀姉さんとの距離を詰め、その隙にタリンは俺の作戦通りに動き、別の所に行った。

 

「1人で私に挑むつもりか、舐められたものだな! 」

 

「まぁ……ね! 」

 

 迫り来る雪玉に対し、俺は雪をかき分けるように地面を抉り、そのまま抉りとった雪を壁の様に俺の前に投げつけた。

 加賀姉さんが出した雪玉は即席の雪壁と接触し、俺に届きはしなかった。

 

「雪玉にさえ当たらなければ失格にならないんでしょ? 」

 

『はい、ですがその雪に当てても相手は失格にはなりません。ちゃんと雪玉、もしくは投げられる形状で当ててください 』

 

「となれば、その雪に当たっても私は失格にはならない。それに距離さえ詰めればその小賢しい真似は出来ないだろ! 」

 

 今度は加賀姉さんが式神を利用した雪玉を投げつけながら俺に接近し、さっきみたいな防御をやる暇を与えられずにいた俺は回避に徹した。

 

 だけどこの状況が続くとこっちがきつい。雪に足が奪われるし動きづらく、いつ体勢が崩れるか分かったもんじゃない。

 

「タリン、上手くやってるかな…… 」

 

「人の心配をしている場合か! 」

 

 一際鋭い速度で雪玉が迫ってくるのを察知し、急いで体勢を低くしてその雪玉を避け、雪玉はそのままロシアが作った雪で作った城に直撃した。

 

 流石は城、ビクともしていないけど対する俺が無理して回避したせいで体勢が崩れてしまい、雪を背にして倒れてしまった。

 

「やばっ! 」

 

「貰ったぞ優海! 」

 

「そうはさせないっての!! 」

 

 向こうからタリンの声が響いた瞬間、加賀姉さんの背後には無数の小さな破片が加賀姉さんに襲いかかり、その雪の破片は加賀姉さんの背中に当たった。

 

 俺はそんな加賀姉さんを盾にするような位置にいるから何とか雪には当たらず、タリンの誤射から免れた。

 

「なっ、この物量をいつの間に用意していた!? 」

 

「さっき手頃な雪玉がそこにあったからね 」

 

 俺は先程ムルマンスクが使っていた巨大雪玉がある場所へと指を指した。

 そう、さっきのあの物量の正体は先程ムルマンスクが綾波とジャベリンに当てていたあの巨大な雪玉をタリンが破壊して出来た物だ。

 

 加賀姉さんの性格上、目の前にいる敵は決して目を離さないのを活かし、タリンをあの雪玉へ静かに向かったが、いくら加賀姉さんでも接近する敵に疎い訳では無い、タリンはよく気付かれずに行ったものだ。

 

「なるほど、やるな…… 」

 

『加賀さん、退場です 』

 

 この光景もソユーズは見逃す事無く見届けており、加賀姉さんはこの場を離れた所に移動して今後を見届けた。

 

「やったねタリン! 」

 

「えぇ、もうどうなる事かと思ったわ…… 」

 

「まぁまぁ良いじゃない。さ、反対側の援護に行こう、ここには相手居ないようだし 」

 

「そうね……っ! 指揮官後ろ!! 」

 

「へ? 」

 

 突然背後から何の気配も無く表れた人影に反応出来ず、振り返った頃には右手で何かを突きつけるように腕を大きく上げていた人影が目に見えただけだった。

 しかし直後タリンが俺を突き放し、そのまま雪に顔からダイブする形になった。

 

「ぶほっ! ……はっ! タリン!? 」

 

 直ぐに体を起き上がらせ、タリンの様子を見た。しかし、時すでに遅し、タリンの両腕には雪の破片がかかっており、これが意味する事はひとつ。雪を当てられた事だった。

 

『タリン、アウトです 』

 

「くそ…… 」

 

 悔しそうに歯ぎしりしたタリンは最後に俺を見た。

 

「ここまでしたんだから、絶対勝ちなさいよ。指揮官 」

 

「うん、分かった 」

 

 遊びとは言え、託された意思は無駄には出来ない。タリンがここから離れると、タリンの後ろに隠れていたKAN-SENが姿を表した。雪のような白髪に、メイド服……間違いない、タリンを倒したのはベルファストだった。

 

「ごきげんようご主人様 」

 

「ここに来てベルファストかぁ……なかなか手強そうだな 」

 

「神通様からご主人様を止めよとの指揮なので、全力で参らせて頂きます 」

 

 ベルファストはスカートの中の太ももにつけいているレッグショルダーの中から雪で作ったナイフを取り出し、すぐ様俺目掛けて投げてきた。

 雪のナイフは雪玉よりも早く鋭くこちらに飛んでいき、しかも細いからかなり見づらい。

 何とか回避に成功するもその隙にベルファストは距離詰めて今度は雪のナイフで直接攻撃を仕掛けてきた。

 

 その行動を見た俺は、ある出来事が脳裏をよぎった。

 

(この行動…… )

 

 そう、王冠内部で俺に襲いかかってきた謎のベルファストだ。あのベルファストもナイフを使って俺を殺そうと静かな殺気で俺と対峙した。同じベルファストと1回戦ったせいか、不思議と目の前にいるベルファストの動きが分かるような気がした。

 

「はぁぁ! 」

 

 まずベルファストの初撃は決まって牽制だ。そこで相手の隙を突きつけ、勝負を決めるから2撃目までは回避に徹する。

 

 ベルファストの初撃を避け、次に流れるようにナイフを右から左へと動かし、それも難なく回避する。次だ、次にベルファストはナイフを引き、突きに出る。

 

「そこですっ! 」

 

 予想通りベルファストはナイフを突き出し、俺はベルファストの手首を使ってそれをとめた。

 ベルファストはそんな俺の反応見て、不可解そうな表情を浮かべた。

 と

「……失礼ですがご主人様、私がナイフを使う技術を見せた事がありましたでしょうか 」

 

「いや……初めてだよ、君のはだけど 」

 

「……? まるで私以外の私がいるような言い分ですね 」

 

 こんな事を聞かされながらもベルファストは冷静にもう片方のレッグショルダーから雪のナイフを取り出し、今度は俺の顔面目掛けて投げつけた。

 

 思わずベルファストの腕から手を離して距離を取り、またスカートの中から雪のナイフを取り出していた。

 それだけならまだしも、まるで手品のように手から何本ものナイフを指と指との間に挟むようにして両手に持ち、合計で8本ものナイフを構えていた。

 

「ちょっ……どれだけ入ってるのそれ? 」

 

「企業秘密でございます。では……参ります! 」

 

 問答無用、弾切れを気にする心配が無いのかベルファストは雪のナイフの弾幕を投げつけてきた。

 これは避けられないと踏んだ俺は咄嗟に雪壁の後ろに回り込んだが、なんと雪のナイフは雪壁を貫通し、そのまま俺の横を通り過ぎた。

 

 いやいやいやおかしいでしょ、何で雪同士なのに細いナイフが厚い雪壁を貫通するの!? この壁も結構硬いよ? 

 

 でも相手がベルファストって聞くと何だか不思議では無いような気がする……いやそんな事思ってる場合じゃない、壁が貫通されるならもはや壁としての機能はしない。壁の一部を拝借して雪玉を作り、とにかく牽制で投げつけようとしてもベルファストの方が数段早い、というか投げる暇も無い。

 

「ご主人様、チェックでございます。後ろをご覧になってください 」

 

「後ろ? 」

 

 恐る恐る後ろに振り返ると、そこには自軍の旗があった。もうここまで押し込まれたのか……

 ここで逃げたら旗は取られ、かといって迎撃できる暇も無ければ壁も機能しない。

 なら仲間を呼ぶ? いや、向こうからこっちに援護に来る余裕は無さそうだ。

 

「うーん……大ピンチ 」

 

「お覚悟を 」

 

『お二人共逃げてください!! 』

 

 ベルファストがこっちに接近を仕掛けた直後、ソユーズのマイクが割れた音が耳に触れた。そしてら何かが崩れたような大きな音と衝撃が聞こえてきた。どうやらベルファストもそれに気づいたのか足を止め、その轟音の正体を確認しようと周りを見渡し、俺も周りを見渡した。

 

 こうしている間に音と衝撃はどんどん大きくなっていき、何か大きな物が近づいているという事実しか分からなったが、正体は雪と共にすぐにやってきた。

 

 音が近づく方向に意識を向けると、どこか来たのか体力の雪が小規模の雪崩の如くこの会場を呑み込まんとしていた。

 

「でぇぇぇぇ!? 雪崩!? どどどどどうして!? 」

 

「ご主人様! とにかく逃げてください! 」

 

「そんな事言われても……! 」

 

 もう雪崩は俺の目の前まで流れ込んでいて逃げる術はなかった。冷た硬い波は俺を呑み込み、息もろくに出来ないまま雪と一緒に流れてしまった。

 

「ウボボボボ!!」

 

 幸いにも雪崩は小規模で済み、雪の進みも大したことはなかったけど……俺は上も下も分からない雪の中でどこにいるのかはもちろん、どの方向に向いているのかも分からなかった。

 

 だがしかし幸いにも雪の流れは直ぐに止まり、それ程深くは無かったおかげなのか雪の僅かな隙間から太陽の光が差し込み、そこから思い切り顔を突き出すとようやく地面に顔を出せた。

 

「ぷはぁぁ! 死ぬかと思った! 」

 

「優海ー!! 大丈夫!? どこか怪我はしてないー!? 」

 

 赤城姉さんと加賀姉さんが他の誰よりも物凄い青く血相を変えてこっちに走り、KAN-SEN達も悲鳴を上げるように俺の名前を呼んでこっちに来ていた。

 

「うん、大丈夫ー! ちょっと首から下が埋もれてるけど…… 」

 

「じゃあ今すぐここら一帯を燃やして雪を溶かすわ! 待っててね優海! 」

 

「いやそんな事別にしなくても……あっつ!! 熱い熱い! 赤城姉さん熱いから! ちょっとやめtあっっっつつうう! 」

 

 赤城姉さんが出した炎がかなりの高熱を持っているのか雪が数秒で溶けてしまい、溶けて水どころか熱湯にもなり、それが体について更に熱さを加速させた。

 止めに入る言葉をかけても俺が危険な目にあったせいで赤城姉さんは混乱して聞く耳を持たなくなり、俺の周りどころか本当にここ一帯を焼き尽くすつもりだ。

 

「落ち着いてください姉様! もう優海の周りの氷は溶けてます! 」

 

 ぐるぐる回転しているような目をしている赤城姉さんを加賀姉さんが腕を抑え、何とか赤城姉さんの暴走は止まった。

 猫が威嚇している声を漏らしている赤城姉さんは徐々に落ち着きを取り戻し、俺は雪の中から脱出した。溶けた雪とかで服も濡れてしまい、外に出た瞬間冷風で濡れた服から体に触れ、更に寒くなってしまい思わずくしゃみをしてしまった。

 

「はっ! 風邪を引いたの優海!? やっぱりこの辺を燃やして暖を…… 」

 

「落ち着いてと言ってるでしょう 」

 

 これ以上抑えらないと判断した加賀姉さんは赤城姉さんの首筋に恐ろしく早い手刀をお見舞いし、赤城姉さんは白目を向いて倒れてしまった。

 

「だ、大丈夫なのこれ? 」

 

「気にするな、少し手加減したから直に目が覚める。それよりもお前は早く暖をとれ。見ているこっちが心配だ 」

 

「そ、そうだね……へ……へくちゅ! あぁ……寒いなぁ 」

 

「仕方ないな……おい、少しこっちに寄れ 」

 

 加賀姉さんがそう言うと俺は1歩加賀姉さんに寄った。

 

「もっと来い 」

 

 そう言われて加賀姉さんに手を引かれると、加賀姉さんの白い尻尾に体を巻き付けられた。

 でも苦しさも無いし、歩きづらくもない。むしろ尻尾が暖かくて安心するし、昔の事を思い出す。

 

 こんなふうに雪が降っていたある日、厚着にも関わらず寒そうにしていた俺を尻尾をマフラー見たいに巻き付けてくれて後、手を繋いでくれたっけ。

 あの時から暖かい手が、凍りついた手を溶かしてくれた。

 

「おい、なんだそのにやけ顔は 」

 

「え? いや、なんか昔のようだなって 」

 

「ほう、なら昔見たいに一緒に風呂に入るか? 」

 

「え"っ 」

 

 勝ち誇った表情の加賀姉さんから思わず手を離して距離をとり、雪の冷たさなんて目じゃない程俺の体は溶岩のように熱く、顔を真っ赤にしているのだろう。今なら顔から火が出そうだし、なんならこの場にある雪だって溶かす事だって出来そうだ。

 

 思わず顔を逸らし、その場で立ち止まると加賀姉さんは珍しく声に出して小さく笑った。

 

「ふっ、何だ? お前はアズールレーンの奴らとは風呂に入ったのに、姉である私とは入りたくないと言うのか? 」

 

「な、何でそれが!? 」

 

「お前の日記と、あのメイドから聞いたぞ。しかし目隠しで入浴とは、中々変わり者だな 」

 

「それは皆のは……はだ……とか見ないようにする為だから…… 」

 

「何だ? 指揮官の癖に女の裸の言葉も出ないのか? 」

 

 呆れた口調だが加賀姉さんは笑いながらそう言い、俺の羞恥心をことことぐ粉砕してきた。ついにはその恥ずかしさも臨界点を突破し、何だかよく分からないけど感情がごちゃごちゃして泣きそうになった。

 

「も、もう良いから! じゃあ俺は先に1人で風呂に入るっ! 心配しなくて良いからねー!!! 」

 

 積もる雪に足を取られるのも気にせずに北方連合の宿舎に走り、宿舎に入った後は一直線に風呂に入った。

 この時にした行動はよく覚えておらず、何なら少し風呂でのぼせたような気がした。

 

 

 

 時は進んで夜となり、明日はようやくアズールレーンの基地に戻る日だ。ここでは色んな事が起きたけど、北方連合のKAN-SEN達とは仲良く出来たし、収穫も大きい。

 だけど、それと同じぐらいの謎も生まれた。

 

 あの王冠内部で起こった事、エックスの事、そして……あの謎のベルファストの事……全てが謎だ。

 

 唯一分かっているのは、エックスは未来で必ず対峙し、倒すべき敵だということだけ。と言っても、正体とか分からないしなぁ……。

 

「あ〜ダメだ。なんか考えてたら目が冴えてしまった 」

 

 明日も早いのに夜更かしだなんて指揮官として良くない。毛布を被って深く目を閉じてもう一度寝ようとしたけど、やっぱり目が冴えまくって寝る事さえ出来なかった。

 

「……ちょっと歩こうかな 」

 

 今は夜。誰も起きてないからバレないからちょっとぐらい散歩してもいいだろう。寝る為に体を動かす訳だから何も悪い事はしていない。そう自分に言い聞かせて上着の指揮官服を着込み、マフラーも巻いて部屋から出ていき、そのまま宿舎を歩き回った。

 

 さて、歩き回るのは良いけどどうしようかな。体を動かそうにも多分娯楽室は閉まっていると思うし、かといって外に出るのも少し危ない。そう考えながら宿舎を歩いていると、遠くの方で隙間から光が漏れている所が見えた。あそこは確か……食堂だったような……? 

 気になって足音を殺して食堂を覗くと、誰かが料理をしているのが見えた。長い銀髪の後ろ髪が特徴的で、こんなに寒いのに薄着のシャツを着ているから北方連合のKAN-SENなのは間違いない。

 

 あの後ろ姿は……ロシアかな? 嫌でも少し違うような気がする。もう少し確かめようと扉の隙間から覗こうとして前のめりになり、その事がきっかけで扉がギィィと音を出してしまった。

 

(やばっ )

 

「誰ですか!? 」

 

 流石KAN-SENと言うべきか、キッチンから直ぐにこの扉の前に飛び込むような動きで直ぐに行き着き、扉を思い切り開けて俺の姿を見た。

 そして俺もキッチンにいたKAN-SENの正体を目にし、そのKAN-SENはクロスした前髪が特徴的で、透き通った氷のように、冷たくも美しい目をしていたKAN-SEN、ソユーズだった。

 

「し、指揮官ですか? な、何故ここに? 」

 

 ソユーズの見た事ないあわあわとした態度に呆然しながらも眠れないから歩き回っていたと話すと、キッチンの方から電子レンジのチーンという音が聞こえ他と同時に、チーズのいい匂いがここらでも届いた。

 

「もしかして、何か食べようとしていた? 」

 

「……指揮官 」

 

「何? 」

 

「これを見たからには貴方にも罪を被って貰います。キッチンに来てください。逃げたら今この場で貴方を氷漬けにします 」

 

 ソユーズは焦りに焦って錯乱しているのか右手に氷の結晶な物を生み出しては本気で氷漬けにするという意思表示を見せ、俺は素早く首を縦に振って共犯者になると伝えると、ソユーズはそのまま氷を閉まってキッチンの方へと向かっていき、俺も恐る恐るキッチンの方へと足を運んだ。

 キッチンに進むとさっきのチーズの匂いの他にもスープの匂いも感じ取り、キッチンの周りを見ると小さな鍋の中には出来たてのボルシチもあった。

 

 ソユーズはレンジの中にある物を取り出し、更に盛り付けた後で別皿にボルシチを取り、そのまま2つの料理を俺には差し出した。

 

 1つはボルシチ、もう1つはたっぷりのチーズの下に分厚いサラミがパンの上に乗っていたガッツリ系のサンドイッチだった。夜中にこれを食べるなんて……中々だな。

 

「さぁ、誰かが来ないうちに食べましょう 」

 

「ねぇもしかしてだけどちょくちょくこんな夜食を食べてるんじゃ」

 

「頂きます 」

 

 有無を言わさずソユーズは夜食を食べ始めた。多分図星なんだろう。とにかく俺も続いてサンドイッチの方を1口食べると、出来たてのチーズが伸び、分厚いサラミとチーズがマッチしてすごく美味しい。

 

「おいひぃ! 」

 

「それは良かったです。このボルシチも私の手作りで……あっつ 」

 

 ボルシチを食べようとしたソユーズはあまりの熱さに舌を冷まそうと舌を出し続け、俺はそんなソユーズの姿を見て小さく笑った。

 

「な、何かおかしいところでも? 」

 

「いや、ちょっとドジなところとか何だかロシアに似てるなぁって 」

 

「ロシアと言えば……ロシアの不注意で貴方に危害を及びましたね……重ね重ねですが申し訳ありません 」

 

「いやいや良いよ。多分、こっちの方にも原因はあるし 」

 

 ロシアが作った雪の城は確かに構造上問題は無かったけど、恐らくもう一方の原因は赤城姉さんが雪合戦中に大鳳に向けて投げたあの弾だ。多分あれが雪の城の柱に当たったせいでバランスが崩れ、崩壊したんだろう。まぁどっちもどっちだし、俺自身もあんまり気にしてない。

 

「それにロシアも謝ってくれたし、大丈夫大丈夫 」

 

「そう言ってくれると幸いです。貴方ような人が指揮官で良かったです 」

 

「これぐらい普通だと思うけど? 」

 

「普通……ですか 」

 

 ソユーズが食べる手を止めて何やら考え込んだ表情し、俺もつられて食べる手を止めた。

 

「指揮官、貴方はどうしてそんなにも無条件に他人を信用しているのですか? 」

 

 ソユーズは真っ直ぐこちらを見てそう質問してきた。

 

「え、何でって……うーん、あんまり意識して無かったしなぁ…… 」

 

 今の今までそうやって来たからって言いたいけど、多分ソユーズはそれでは納得はしてくれない。悩みに悩んで考えをついに引っ張り出し、言葉を出した。

 

「強いて言えば……皆が俺を信じてくれたからかな? 」

 

「と、言いますと? 」

 

「俺、昔KAN-SEN達に武器を向けたり、ちょっと前まで自分の記憶を無くしてたんだ。だけど皆俺の帰りを信じて待ってくれんたんだ。だから俺も皆を信じる。それだけだよ 」

 

 俺がセイレーンに戻ってしまった時も、記憶も無くした時も、KAN-SEN達は必ず俺が帰ってくると信じてくれた。俺が元に戻る為の努力とかだってしてくれた。

 

 KAN-SEN達だけじゃない。ジンさん達も手を貸し、指揮官になる前の俺も支えてくれた。

 

 今の俺があるのは、俺を信じてくれた皆がいてくれたおかげだ。だから今度は俺がそれに応える番だと思ってるから……

 

「まぁこんな感じかな。ごめんね、何だか伝わりづらくて…… 」

 

「いえ、十分理解しました。やはり貴方が指揮官で良かったです。どうでしょう、私達北方連合の指揮官になってはくれませんか? 」

 

「え、もうなってるんじゃないの? 」

 

「……え? 」

 

 的外れの回答を聞いたような顔をしたソユーズは口を小さく開けており、俺は少し焦りながら言葉を継いだ。

 

「え、だって俺アズールレーンの指揮官でしょ? んで北方連合もアズールレーンに加入しているから、実質俺は北方連合の指揮官でもある……んじゃ無いの? 」

 

「……ぷ、ふふふ……何を言うかと思えば、貴方……ふふふふ、失礼 」

 

「な、何だよー! 俺そんな変な事言った!? 」

 

「はい、とっても。ですが……それが貴方なのですね 」

 

 ソユーズは笑う事を止めず、俺は笑われた事に耐えきれずに熱々のサンドイッチをやけ食いした。

 

「あ、すみません。お詫びと言っては何ですが、良いものを見せてあげます。これが食べ終わったら、執務室にあるベランダに行きましょう 」

 

「執務室のベランダ? 」

 

 そんな所に何かあると思わないけど……ソユーズが言うならあるのだろう。ソユーズはサンドイッチとボルシチをペロリと平らげ、俺も熱々のボルシチを急いで食べ終えた。

 

 食べ終えた食器を片付け、ソユーズに続いて執務室に辿り着いた。ソユーズが執務室のベランダに続く窓を開けると、そこから柔らかい冷風が部屋に入り、ソユーズはベランダに足を運んだ。

 

「今日は綺麗に映ってますね。指揮官、どうぞこちらへ」

 

 そう言ってベランダの方に俺は足を運び、窓の外の景色を見渡したが、昼間に見た景色と何ら変わりない。むしろ暗くて白い雪もあんまり見えないし、昼間の方が綺麗な様な気がする。

 

「指揮官、上ですよ上 」

 

「上? 」

 

 ソユーズが空の方に指を指し、言われて空に顔を見上げると……昼間には無かった光景、美しい七色のオーロラが空を覆っていた。

 あまりの光景に言葉を失い、冷たい空気も忘れて空にかかるオーロラをじっと眺めた。

 

「お気に召したか? このオーロラは決まった時間に出てくるので、指揮官にも見てもらいたかったのです 」

 

「凄いね……写真では見た事あるけど、こんなオーロラ初めてだよ 」

 

 写真では味わえない迫力に圧倒され、童心に戻ったようにオーロラを眺め続け、ついつい塀から乗り出しそうになってしまう。

 

「この地は昼と夜とで見せる顔が違います。いかなる時でも極寒が襲いかかり、銀世界は自分の居場所を分からなくします。だから他の陣営ではここを極寒の地と言いますが、その裏にはこのような絶景もあります。ちょっとした自慢ですね 」

 

「ちょっとどころか凄く自慢出来る所だよ。来れて本当に良かった 」

 

「それは良かったです。……さて、もうオーロラも消えてしまいますね 」

 

 何度もこのオーロラを見ているおかげなのか、ソユーズがそう言うとオーロラが同時に消えてしまった。

 もう少し見たかった様な気もするが、時間も時間で俺もちょうど眠気がやってきた。

 

「ふぁ……じゃあ俺は先に寝ておくよ。ありがとう 」

 

「あ、ちょっと待って下さい指揮官 」

 

 部屋に戻ろうとするとソユーズの方から止められ、ソユーズが服からある物を俺に渡した。

 これは……ペンダントだろうか。氷の結晶の形をしており、中央には何かの宝石なのか綺麗な蒼色をしていた。

 

「御守りです。貴方の事ですからまた前線に立つつもりなのでしょう。だからせめてもの贈り物です。受け取って下さい 」

 

「わざわざありがとう。大事にするよ 」

 

 受け取ったペンダントを首にかけ、俺はソユーズに一言言って執務室を後にし、真っ直ぐ自室へと戻って行った。

 

「……真っ直ぐですね。怖い程に 」

 

 

 

 

 

 そして、次の日。アズールレーンへ帰る日がやってきた。忘れ物も無いし、ちょっとした二度寝もしたから体調もばっちりだ。後は船の出港を待つばかりだ。

 

「忘れ物は無いか? 同志指揮官 」

 

「大丈夫だよロシア。それに皆もわざわざ見送りありがとう 」

 

 目の前にいるロシア以外にもこれまで出会った北方連合のKAN-SEN達も俺達のことを見送るためにこの港に集まり、色々なお土産まで貰ってしまった。

 

「向こうでも元気にな 」

 

「風邪とか引いちゃだめだぞ! 」

 

「今度はこっちから来てあげるからね?」

 

「うん、ありがとう皆 」

 

 別れの挨拶を済ませた直後、出港の準備が出来たと合図するように汽笛が鳴った。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

 

 船から伸びる道を進んで船内に行き、真っ直ぐ甲板に出て直ぐに北方連合の皆が見える艦尾まで走り、皆の姿を見る。皆は大きく手を振っていた。

 

 それに答えるように俺も大きく手を振り、船はゆっくりと陸から離れて海を進んでいく。

 

「またね皆ー! また会おうー!! 」

 

 凍てつく銀世界の大地から離れていき、皆も姿も見えなくなってしまった。

 謎が生まれ、まるで吹雪のように激しい北方連合の任務もこれで終わった。

 

 潮風と雪の冷たさを運ぶ冷風を肌で感じ取りながら、俺は見えなくなるまで北方連合を見続けた。




ここまで読んで下さりありがとうございます。
これにてようやく、北方連合編は終わりです。

次は幕間と言いたい所ですが、忘れているかも知れませんが優海達が北方連合に行っている間に、ジンがユニオンの方に任務があったのを覚えていますか?
次の話は、優海よりもジンよりのお話になります。
また更新が長くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。

もしもの話(R-18)を観測しますか?

  • Yes
  • NO

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。