もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

99 / 159
もう少しでこの小説も100話に突入しますね〜
そこで、100話に向かう際に記念として少しこの章を中断し、100話記念の幕間の章を執筆しようと考えてます。
一応構想は練っていますので、それ程時間はかからない……と思います 

それでは、本編をどうぞ




前回のあらすじ

アズールレーン上層部の任務により、優海の変わりにジンがバミューダ海域の調査へと向かった。

バミューダ海域に向かう際に念入りの準備を進める為に近くの島に補給に向かったジン達は、その島で一時の休息を行き、ジンはその島で自分の父親と出会い、埋めようのない溝を痛感したジンは、その気持ちを押し殺しながらバミューダ海域へと進んだ……



霧払う刀と弾丸

 

 酷く懐かしい夢を見た。

 

 ガキの頃の夢だ。

 

 暗く、辛く、冷たい部屋の中で誰にも会えず、アイツに言われたことしか何も出来なかったあの時の光景が目の前に広がっていた。

 

 目に映る部屋は鉄で出来、陽の光が最低限さか差し込まれない薄暗い部屋。そしてその部屋の中にはたったひとつの机があった。

 

 何の変哲もないただの椅子と机だが、俺にとっては自分を縛り上げる拷問器具でもあった。

 

 _やめてよお父さん! なんでこんな事するの!?

 

 甲高い叫び声を上げる銀髪の子供……紛うことなき俺だった。必死に涙を流し、喉が潰れる程叫んでも誰も来ず、俺はある男に髪を引っ張られ、そのまま机の上に顔を押し付けられてしまう。

 

 理不尽な行動に俺の心はボロボロになり、あの時の俺はアイツの血に染ったような赤い目を睨んだ事を覚えている。

 

 何も言わずに俺に帝王学を学ばせ、体術を学ばせ、やりたく無い事を強要するアイツは親では無い。血の繋がりを持った悪魔そのものだった。

 

 何でと言っても答えてくれず、泣き叫んでも誰も助けてくれないあの時から、俺の涙は枯れてしまった。

 

 

 

 

 

 

「_官! ……代理指揮官! 」

 

「ん、んぁ? 」

 

 潮風が香るエンタープライズの船の甲板の上で目が覚めると、その当の本人であるエンタープライズが銀髪をなびかせながら俺の事を見下ろすようにしていた。

 

「起きてくれ代理指揮官! まもなくバミューダ海域だ。作戦内容の確認を頼む 」

 

「ん? ふぁぁ……あぁ、俺寝てたんか 」

 

 1つ大きな欠伸をしながら俺は起き上がり、硬い甲板の上で寝てたせいかバキバキになった体を解すように上半身を拗らせる。ポキポキと音を鳴らし、十分眠気は覚めた時、ようやくエンタープライズの起こった顔がハッキリと目に映った。

 

「……代理指揮官、貴方は一応指揮官だ。ちゃんと節度を持った態度をとってくれ 」

 

「あーはいはい、すまねぇな 」

 

「……反省の色が見られないな。こういう時リアが言っていたな。少し頭を叩くのが丁度いいと 」

 

 エンタープライズが目を光らせながらバキバキと指を鳴らしており、本気で俺の事を頭に1発ぶん殴る様子だ。

 

「待て待て待て!! 俺代理だけど指揮官だぞ! 本気でやるのか? やるのか!? 」

 

「心配するな、少しお灸を据えるぐらいなら指揮官でもやっている 」

 

「え"? 」

 

 やばい、まるでカエルが轢かれたようなすげぇ音が出た。自分でもびっくり。

 

 というか優海のやつKAN-SEN達にこんな事されているのかよ。指揮官の立場はどうなってるんだ! 立場は! 

 

 いやいやそんな事言ってる場合じゃない。このままじゃエンタープライズに1発頭にゲンコツをいられてしまう。退路は無く、エンタープライズが無言でこっちに近づき始め、いよいよ万事休すだ。や……やられる! 

 

 思わず目をつぶり、衝撃に備えて体を強ばらせた瞬間、額に小さな衝撃、デコピンみたいな物が来ただけだった。それ程痛くなく、ほとんど力のないデコピンに呆気に取られた俺は目を開き、エンタープライズの笑った顔が目に映った。

 

「冗談だ。私はKAN-SENだ。人である貴方に危害を加えない。ましてや傷なんかつける訳にはいかない 」

 

「そ、そうか〜! いやーマジ怖かった…… 」

 

 まじでユニオンの英雄の恐ろしさを感じた……もし敵ならあの威圧に押しつぶされたままにも出来ずにやられてしまうのだから同情しか湧かない。

 

 と言っても、量産型のセイレーンは情報によると差程自我を持っていないらしく、明白な自我を持っているのは交戦したことある【ピュリファイヤー】や【テスター】、【オブザーバー】の3人だけだとされている。

 

 ホントセイレーンていうのは何者だ? 自我を持っているという事は、自分達の意思で世界を敵に回しているという事になる。何か目的があるかもしれないが、世界を敵に回すってとんでもない事だぞ……んで、それをしている組織がもう1人いる。それが【テネリタス】。昔、ロイヤル英雄と呼ばれた家系だった者達……

 

 こいつらも目的も分からず闇雲に俺たちと敵対するかと思いきや、優海によるとセイレーンにも敵対しているらしい。つまり、今世界は【アズールレーン】、【セイレーン】、そして【テネリタス】よって別れている。しかもテネリタスも何が目的で俺達を相手にしているかもすら謎だ。元は人間なのにこっちに攻めて来たりしてマジで意味不明。正直セイレーンより不気味だ。

 

「……テネリタスか 」

 

「どうした? 何かあったのか? 」

 

「いや……何でもねぇ 」

 

 英雄の家系と聞くと、ふとある人物を思い浮かべる。その人とは会ったことは無く、お話で聞いた人物だが、俺の憧れの人だ。

 

 その人物の名は、セイド・テネリタス。6代目の当主であり、今のアズールレーンの基礎を作ったとも言われている人物だ。

 

 基礎と言っても、ユニオンとロイヤルとの同盟関係を築いただけであり、それが重桜と鉄血まで発展してアズールレーンになっただけだが……ユニオンとロイヤルの関係を築かなければ、恐らくアズールレーンという組織は生まれなかっただろうと言われている。

 そんな訳で、セイド・テネリタスの名はユニオンでも有名と言えば有名な人だ。

 

 俺の中で、会ってみたいと言う気持ちと、会っても敵としての気持ちがグチャグチャになってるから何とも言えない気分だ。

 

 正直今後やるブリーフィングのやる気が起きないが、代理でも今は俺が指揮官だ。やるしかない。

 

 そんな事考えていると作戦室の前まで来てしまい、エンタープライズが扉を開けるともう中には残りのKAN-SEN達が揃っていた。

 

「あ、きたきた! もう遅いよー? 」

 

 ホーネットが机に手を置いて前かがみになり、たわわな胸をゆっさゆっさと揺らしていた。

 しかももはや水着だろとしか言わんばかりの服装の上に黒コートを羽織っているだけだから誘ってんのかと言わざる負えないが、ここは俺の胸にしまっておこう。

 

(……優海の奴、いつもこんな誘惑の中にいるのか? 羨ましいけど、あいつの性格上苦労しそうだな )

 

「ん? どうして笑ってるの? 」

 

「いや? ただちょっと優海は苦労人だなって 」

 

「?? 」

 

「はいはい、それよりも作戦内容の確認ですよ 」

 

 ホーネットは首を傾げて頭に? マークを量産させたが、ヨークタウンが2回手を叩いて場の空気を変え、そのまま俺にアイコンタクトを送った。流石、ホーネットとエンタープライズの姉、ヨークタウン級のネームシップと言うべきか、しっかりしている。

 

 なら、ふざけるのは良くないよな。1つ咳払いし、全員が聞く姿勢なのを確認し、俺は作戦の内容を伝える。

 

「うし、じゃあブリーフィングするか。まずは今回の作戦の内容の確認だ。今回俺たちが向かうのは魔の海域と呼ばれているバミューダ海域だ 」

 

「ユニオンでも有名な海域ですね。入った者は帰って来れないと言う魔の海域…… 」

 

「そこにセイレーンの基地があるって話だよね? 」

 

「確証は無いけどな。だから今回はその調査だ。本作戦の目標は、基地の発見だ 」

 

 だから今回は、索敵中心の編成をした訳だが……なーんか引っかかっるんだよなぁ、この作戦。

 

 そもそもどっからその情報を仕入れたんだ? 慎重に慎重を重ねないと自殺行為にもなりかねない海域に入るのは相当難しいし、何よりそんな情報は俺の所にも回ってくるはずだ。

 

 今まで見た資料の中では特にそんな記述と補給物資の要請と数は無かったしな……なんかこの作戦、裏がありそうだな。

 

「……代理指揮官、どうしたんだ? 」

 

「……ん、悪ぃエンタープライズ 」

 

 今この場で言うとコイツらを混乱させるだけだ、ここは俺の中にしまい、今は作戦の遂行が第一だ。

 

「とにかく、今回はなるべく戦闘は避け、密集隊形をとる。ヘレナを中心に索敵をとる。頼んだぜ、ヘレナ 」

 

「はい! 任せて下さい 」

 

 今回のキーマンはヘレナだ。ヘレナの索敵能力で基地を発見し、発見したらこんな魔の海域はおさらばなのが今回の作戦だ。

 

 そしてそんな海域に入るまでの時間は残り30分程だ。そろそろ準備しても良いだろう。

 

「うし、じゃあなんか質問とかあるか? 無ければ作戦準備に取り掛かるぞ 」

 

 どうやら皆質問は無いようで首を横に振り、後は準備だけだな。

 

「んじゃ、各自持ち場についてくれ。持ち場についたらその場を維持! ……よろしくな 」

 

「「了解! 」」

 

 KAN-SEN達は作戦室を後にし、この船の甲板から飛び降りると同時に艤装を展開し、各自持ち場に着いた。

 作戦室に映るモニターで位置を把握し、後はバミューダ海域に入るだけ……誰も帰って来れない魔の海域で、帰ることが出来るのは……神のみぞ知る。

 

『これより、バミューダ海域に入ります! 各自、艦載機の発艦をお願いします 』

 

 ヘレナの通信で一斉に艦載機を飛ばし、極度の緊張感がそれぞれの体に走り出した。

 

 一見なんの変哲もない海域だが、空模様が少し暗くなり、もう俺たちはバミューダ海域に入っている。今の所レーダーには異常は無く、鏡面海域特有のノイズも見当たらない。

 

『今の所こっちには何も異常無し! 』

 

『こちらもです。もう少し索敵範囲を広げますか? 』

 

「いや、このままを維持で頼む 」

 

 ここで索敵範囲を広げて分断したらたまったもんじゃないし、何より優海に悪い。全員無事で帰還する。それが何よりの作戦の成功だ。1度のミスが、全てが崩れるのが有り得るこの中で、静かに額から汗が流れる。

 

(……優海はずっと、こんな中で指揮していたのか )

 

 俺よりも歳が一回り違う癖に、ずっとこんなプレッシャーにいた優海を、俺は恐ろしくも思い、凄まじくも思った。並の精神じゃゲロ吐きそうなこの中で良く前線にも行けるな……ほんと、凄い奴だわ……

 

『っ! 生体反応確認しました!! エセックスさんの艦載機の方角からです! 』

 

「はぁ!? 生体反応!? セイレーンじゃ無くてか!? 」

 

『間違いなく生体反応です! 数は2つ! 』

 

 て事はつまり……生身の人間がこの海域にいることになる。どういう事だ……? こんな所に人間がいること自体有り得ない状況に俺と皆は戸惑っているが、指揮官の俺があわあわしている暇は無い。

 

「直ぐに確認してくれ、エセックスとイントレピッドはその反応を追い、他は周辺警戒を続けろ 」

 

『了解! これより捜索に入ります 』

 

 エセックスとイントレピッドの艦載機は生体反応があった場所まで飛行した。この隙にヘレナが拾った生体反応を確認すると、報告通り数は2つあり、固まって行動していた。

 

 要救助者……なのか? だとしたらなんでこんな所にいるのか聞かないとな。

 

 レーダーで生体反応とエセックスとイントレピッドの艦載機が近づき、あと数秒で接触するその瞬間……エセックスとイントレピッドの艦載機の反応が消失した。

 

『艦載機が破壊されました! 』

 

「何っ!? 」

 

『反応がこちらに接近します! 早い……接敵まで100いえ、1つは3倍の速度で接近し、残りあと30秒ほどで接敵します! 』

 

『代理指揮官! まさかこの反応は……! 』

 

 異常なまでの速度と生体反応……まさかこいつらって……! 

 

「作戦は中止だ! 全員今すぐ撤退するぞ! 」

 

 俺の予想が正しければ、来るのは間違いなくアイツらだ。しかもそれが2人もいるのは最悪な状況だ。

 1人でも圧倒的な力を持っているのにも関わず2人って……自分の予想がこれ程までに外れて欲しいとは思わず、俺の願いなんて届かないように次々と空中にいる艦載機が上空で走っている赤黒い軌跡に触れた瞬間爆発し、赤黒い閃光が海上に降り立ち、水柱と共に1人の男が降り立った。

 

 黒い髪に真紅の目に腰につけてある刀……間違いない、優海が出会ったとされるテネリタスの1人、5代目テネリタス当主、ロドン・テネリタスが俺達の前に現れた。

 

「……貴殿達、何故この様な所にいる 」

 

「それはこっちの台詞だ 」

 

 エンタープライズが弓を構え、皆も戦闘態勢に入った。人数はこちらが圧倒的有利にも関わらず、何故か勝てる気がしない。

 それほどまでの圧がモニター越しにでも感じられ、今すぐにでも撤退したいと思える迫力だ。

 

「……悪い事は言わない。今すぐここから引き返せ、さもなくばこの海域から抜け出せなくなるぞ 」

 

「どういう事だ。お前はこの海域の事を知ってるのか? 」

 

「……その事に関しては、マーレに口止めされている 」

 

「だったら……吐かせて貰うぞ 」

 

「やめと方が良いぜ? うちの親父相当強いからな 」

 

 また違う男の声がはっきりと聞こえ、陽気なトーンがこの戦場には似つかわしく無く、声がした方向白に青いラインが描かれたコートをなびかせ、黒いカウボーイハットで顔を隠しながら口笛を拭きながらこちらに歩いていき、まるで西部劇のワンシーンの様な登場の仕方だ。

 暗くなった空を照らす太陽を背に男は口笛を止めると同時に立ち尽くし、カウボーイハットを人差し指で持ち上げ、雲一つない空のような色をした瞳を露わにして笑った。

 

「な、何こいつ……こいつもテネリタスなの……? 」

 

「まぁな、俺は6代目当主セイド・テネリタス。血筋的には、この仏頂面の親父の息子って訳だな 」

 

「セイド……!? 」

 

 物語でしか知らなかった人物が今まさにそこにいる。その事実を理解した瞬間、今にも外に出て会ってみたい気持ちを押し殺し、俺椅子から飛び上がる程立つだけにした。

 

「さてと、お前ら一体何の用だ? KAN-SENだけ……って訳じゃないよな。という事はあの指揮官と一緒か? そいつに何かしら言えばお前らも言うこと聞くだろ 」

 

「指揮官に手を出させる訳には…… 」

 

 ホーネットが得意の早撃ちでセイドに攻撃を仕掛けようとしたが、それよりも早くセイドが銃を放ち、ホーネットのカウボーイハットを撃ち抜いた。

 

「えっ…… 」

 

 ホーネットは撃たれた事にさえ気づかず、撃ち抜かれたカウボーイハットを見つめ、何が何だか分からなくなっており、それは他の奴らもそうだった。

 

 セイドの早撃ちは異次元に早く、まるで早送りしたコマ送りのように素早かった。

 

「女を撃つことは趣味じゃねぇんだよ。さっさと指揮官と会わせてくれよ〜な? 別に指揮官を撃つ何て事はしないからさ 」

 

「信用出来ると思っているんですか! 」

 

「信用も何も、貴殿達は従うしかない。貴殿達は当方達に武器を構えるのなら……それなりの対応はするが 」

 

 隣のロドンも戦闘態勢に移り、腰を落として刀の柄に手を添えた。

 

 まずい……1人でも勝てないのに2人いたら絶対に勝てないのは明白だ。圧倒的な力の前にKAN-SEN達は手も足も出せず、しぶしぶ武器を下ろした。

 

「……お前ら、手を出すな。甲板にロドンとセイドを迎えてくれ 」

 

『でも指揮官! 』

 

「良いから聞け! 今のおまえらじゃあいつらには勝てねぇだろ! 」

 

 非情で残酷な事実を突きつけ、無理矢理にでも言う事を聞かせるしかない。KAN-SEN達はそう言われて歯を噛み締め、止むを得ずロドンとセイドを俺の船の甲板に案内した。

 

「……俺も行くか 」

 

 一応念の為に銃を確認し、ちゃんと作動するか確認する。……よし、ちゃんと動く。まぁ動いてもあんな人間離れした早撃ちに勝てるかと言われれば絶対に勝てない。

 

 身を守れる為の道具がある。それだけで安心感が違うから、無駄だと分かっていても持ち、俺は甲板まで足を運んだ。

 

 甲板に続く扉の前に立つと、一気に心臓の音が跳ね上がってしまう。この扉を開けた先には、俺が会いたかった伝説の人がいる。だが、場面が最悪だ。

 もし回答を間違えたらもしかしたら全滅という中で、扉に触れる手が無意識に震えてしまう。

 

 正直逃げ出したい、だが逃げる訳には行かない。今は俺が指揮官で、ここで逃げたら俺が俺じゃ無くなりそうだからだ。ありったけの男気を手に込めて扉を押し、扉を開けた先にはロドンとセイドがこちらに気づき、顔を向けた。

 

「……!! お前っ……! 」

 

 俺の顔を見た瞬間セイドが驚いた様な顔をさせ、ここ一番の動揺を見せた。

 

「……カービスっ!? 」

 

「は? 何で俺の性を知ってるんだ? 」

 

「性……あぁ、お前アイツの…… 」

 

 何故か納得したような顔をしてるセイドは一度帽子を深く被り、タバコを吸うような呼吸をすると直ぐに俺に顔を向けた。

 

「いやすまない。それよりも、本物の指揮官はどこだ?」

 

「あいつなら別の任務に行ってるよ、一時的だが、この任務の指揮官は俺だ」

 

「なるほどな……それよりもカービスって確か……ユニオンで超有名な資産家だろ? そんな奴が指揮官て」

 

「家は関係ねぇ! それに……俺は家とは縁を切った。俺は自分の意思で、今ここにいるんだ 」

 

 英雄に噛み付くような目で空色の眼を持ったセイドを睨むと、セイドは何故か小さく笑った。

 

「そうか……済まないな。んで……今すぐこの海域から出ろ。でないとマジでヤバいことになるぞ 」

 

「今現在進行形でまずい事が起きてるんだけどな 」

 

 目の前に2人のテネリタス……これ以上のやばい事なんて想像出来ねぇ。

 

「いやいやこれ以上よりもやばい事が…… 」

 

「待て、どうやら時間切れのようだ 」

 

 いきなり俺達の周りを包むように白い霧が辺りに立ちこもり、すぐ近くにいるKAN-SEN達が見えないほど濃い霧はまるで手で掴めるような雲のようでもあった。

 

 セイド達のせいかと思われたが、どうやら反応からして違うようだ。となれば……この霧を出した奴は……

 

「各包囲からセイレーン反応多数! で、でも多すぎます! この海域全体にセイレーンの反応があります! 」

 

「え!? という事は私達、囲まれたって事ですか!? 」

 

「あー多分それこの霧だな、もうレーダーとかあんまし意味無いぜ 」

 

「どうやら、この霧を出してるのはセイレーンって訳か…… 」

 

 やっぱこの海域はセイレーンが絡んでいたか……となれば

 

「そ、そんでお前らはもうこの海域から出られないって訳だ。俺らもだけどな 」

 

 どうしようかなと陽気に頭をかいて霧だらけの風景を見渡し、笑っていた。

 

 な、なんか緊張感の無い人だなこの人……俺やKAN-SEN達も呆気に取られ、ロドンに至っては手を顔につけてダメだこいつと思っているように顔を上げ、無心で曇り空を見上げていた。と言っても、空も霧に包まれて見えない訳だが。

 

「はぁ……お前は何故そうも楽観的なんだ…… 」

 

「うるせぇな、別に抜け出せない訳じゃ無いから良いだろ? 」

 

「この霧……というか、このバミューダ海域から抜け出せるのか!? 」

 

 噛み付くようにセイドが言った事を聞き逃さず、俺はついセイドとの距離を近づけた。

 

「ダメです指揮官! 危険です! 」

 

 制止しようとするヨークタウンを跳ね除け、俺はセイドに頭を下げて頼み込んだ。

 

「頼む! その方法を教えてくれ! 」

 

「おお、随分と素直に頭を下げるな。家柄的にプライドが高いものかと…… 」

 

「……そんなもんいらねぇよ。俺は、俺が守りてぇもん全部守れるなら泥水だって啜るし、何だってする。それだけだ 」

 

「……似てるな、やっぱり 」

 

「似てる……? 誰に…… 」

 

「昔の奴にさ、……うし、その行動に免じて、ここから抜け出すのを協力してやる! 」

 

「本当か! ……ありがとう……ございます! 」

 

「よーし、じゃあまずは…… 」

 

「待て、どうやらそう簡単には行かぬようだ 」

 

 ロドンがいきなりまた刀を構えて戦闘態勢を取ったその瞬間、ヘレナの反応が変わった。

 

「熱源反応確認! これは……魚雷と艦載機!? さっきまで反応は無かったのに…… 」

 

「言ったろ、レーダーとかあんまし意味無いって。この霧全体がジャミング機能のある物でな、俺も苦労するんだが親父の殺気を読む感覚がバケモンだからな、だから親父をレーダー代わりにしていいぜ 」

 

「黙れ、それに当方は道具になるつもりは無い。セイドの言う通り協力はするが、己の身は己自身で守れ 」

 

 そう言ってロドンは霧の向こうから現れたセイレーンの艦載機の一群に向けて横一閃の斬撃を振り、目視出来る斬撃は艦載機に触れた瞬間、艦載機を真っ二つになって爆散した。

 

「相変わらずだなぁ……という訳だ。サポートはするけど自分面倒ぐらい自分で見ろよ! 」

 

 次にセイドも力を見せつけるように両手に先程とは違う長銃を二丁構え、同時にセイドの艤装が展開された。

 艤装と言うよりかは、まるで巨大なホルスターの様な形をしており、その中には様々な種類の銃が格納されているようにも思えた。

 

「多数のセイレーンが来ます! 」

 

「よっしゃあ! 暴れ撃つぜ!! 」

 

 艦載機だけではなく量産型のセイレーンの艦も次々に現れた。物量的に1対30程ではあるが、セイドはその物量を目の当たりにしても動じず、寧ろ気分が高揚しているように笑い、二丁の引き金を引き、二丁の銃から大量のビームがセイレーンに襲いかかった。

 

 早撃ち所じゃ無い。まるでフルオートの銃を撃っているかのような連射は次々とセイレーンに命中し、恐ろしい事に1つもビームを外していない。

 1発1発が飛んでもない精度で狙い撃たれ、量産型のセイレーンの艦も、艤装を装備したセイレーンも平等に一撃で沈めていた。

 

「お前らもさっさと戦え! 流石にこの数相手じゃ面倒みねぇぞ!! 」

 

「そうだな……うし、お前ら! 陣形を崩さず一定の距離で戦え! セイドとロドンがいる方角はそいつらに任せろ! 」

 

「まさかテネリタスと協力するとはな…… 」

 

 KAN-SEN達は何か思う所があるのか、自分の気持ちを押し殺してセイレーンの撃退に移った。

 

 こっちもこっちで凄まじい戦闘が繰り出され、セイレーンの猛攻を次々と掻い潜っていた。エンタープライズは自分が出した艦載機に飛び移り、艦載機の機動力を活かして艦載機とのドッグファイトを制しており、ホーネットも得意の早打ちでその名の通り、蜂の針のような弾を連射してセイレーンの艦を串刺しにしていた。

 

「ヒュー! やるねそこの金髪ツインテール! 後でゆっくり飲みに行かないかい? 」

 

「残念だけどノーサンキュー! 」

 

「ガーン! そうはっきり断られると傷つくぜ…… 」

 

「セイド……! ふざけた事はするな。次やったら貴様を斬るぞ 」

 

「あぁ!? そっちこそ俺の射線に入るなよクソ親父! アンタはいつも俺の射線に入るから戦いづらいんだよ! 」

 

「貴様が当方の敵を狙うからだ! 」

 

 何でこの親子は喧嘩してるんだ……しかも喧嘩してもロドンは別格をさらに超えた身体能力を活かして甲板から僅か数秒で数百メートル以上離れているセイレーンの大群を切り裂き、セイドも1発も外さず艦載機を撃ち落としている。ほんとバケモンかこの家系は……。

 

「しかしまぁこう受け身だとジリ貧だな。カービス! 艦を進めろ! 」

 

「はぁ!? どうする気だ! 」

 

「今からちょっくら道開くわ! KAN-SEN達も集めとけ! 船を前進させろ!」

 

『前進!? この状況でどこに行くって言うんですか! 』

 

 通信からエセックスの反発した意見もあるが、今はそんな事言ってる場合じゃ無い。今現在無尽蔵のセイレーンが波のように押し寄せる今、これを切り抜けるのは……テネリタス達しかいない。だが信用しきれないのも事実……どうする……? 

 

「まぁそう言われるよな! ……頼む、信じてくれ 」

 

 さっきまでのチャラけた雰囲気は消え、英雄らしい強い目で俺を見ていた。敵対関係の筈だが、その曇り無き眼はまさしく俺が物語で聞いた英雄そのものだった。

 

 だから俺は、それを信じてみる。今の俺を作ってくれたと言ってもいいその英雄に。

 

「……各自、船に戻れ。信じるぞ! 英雄を! 」

 

『……了解した! 』

 

 エンタープライズを筆頭にKAN-SEN達は靄がかかったかのような表情を浮かべながら艦に戻った。そりゃそうだ。今あったばかりで敵、しかも今手を出しても勝てない奴の言う事を聞くなんて、屈辱とかその辺の気持ちになる。俺だってそうだ、だがこうでもしないと道は切り開けない。それが今の俺達の限界であり、英雄の力でもあるんだからな……。

 

 艦に全員が乗ったことを確認したセイドとロドンは立ち位置を変え、ロドンが艦首の先端に立ち、ロドンは艤装を解除してその場で寛ぐように腰を下ろした。

 

「な、何してんだ!? 」

 

「まぁ見てろって、今からとんでもない事起こるからさ 」

 

 先頭に立ったロドンは攻撃を止め、その隙を付くようにセイレーンは怒涛の反撃をお見舞いする。ロドンに向かってミサイルや機関銃の弾丸が無数の様に押し寄せてきてもロドンは体1つ動かさずにじっと待っていた。

 

「貴方達、やっぱり私達を……! 」

 

 エセックスが問答無用でロドンとセイドに攻撃を仕掛けるが、セイドは笑ってそれを見過ごし、話を続けた。

 

「心配すんな、それよりも頭に気をつけろよ 」

 

 圧倒的な弾幕の前にKAN-SENも俺も立ち尽くす事しか出来ず、誰しもが終わりを悟った。

 

 だが、この2人だけは違う。この攻撃をまるで攻撃でも思っていない様な態度で、まるでこの攻撃の先まで見通すような……

 

「……参るっ! 」

 

 ロドンの目が開き、制止を貫いていた体が今一瞬の刹那の時を使って刀を振り、世界は横に真っ二つに斬られた。

 

 霧が、空が、空間が、この目で見えるものが全て左右にズレていく。そのズレが徐々に戻っていくと霧とセイレーンだけがそのズレが戻らず、そのまま斬られて爆散し、霧は道を開く様に横に開いた。

 

「我が明鏡止水……斬れぬもの無し…… 」

 

「これが……英雄の力……なんて力なの…… 」

 

「無茶苦茶だよこれ…… 」

 

 完全にさっきのでこの2人に対する戦意も切り裂かられ、その心境は落ちていくセイレーンの艦載機の様に墜落するほどだ。

 

「早く艦を前へ進ませろ、早くしないと霧がまたくっ付いてしまう 」

 

 霧がくっ付くという訳わかんねぇ言葉だが現に斬られた霧は徐々にくっ付いて行き、折角作った道も閉ざされてしまう勢いだ。常軌を脱した光景にとまどいながらも饅頭に艦の操作を支持し、急速で艦を動かした。

 

「おー! 良い艦じゃねえか! どのKAN-SENの艦だ? 」

 

「KAN-SENのものじゃねぇよ。これは人類が作った艦、シーホースだ。まだ試作品だけどな 」

 

「すごいよねーこの艦。しかも開発をスタートさせたのはジン……じゃなかった。指揮官だよね? 」

 

「一応な 」

 

 KAN-SENというセイレーンに対抗出来る奴が出来たとしても、人類自体はセイレーンから見れば赤子……いや、蟻みたいな物だ。KAN-SENの護衛無しじゃ貿易に使う海路は危険だが、KAN-SEN達も無限ではない。そこで、KAN-SEN達が居なくても多少の自衛を出来る艦を作ろうと開発されたのがこの【シーホース】だ。

 

 KAN-SENの戦闘データを元に開発された艦で、戦闘力なら量産型のセイレーンにも引けは取らない優れものだ。まだプロトタイプの段階だが、これが量産されれば人々は安心して貿易が再開できる。貿易や取引が盛んになれば、それだけ物資が周りに周り、経済が潤う。経済が潤えばそれだけ色んな人に生活必需品も届けられる。

 

 その為、人類は今この艦の完成に必死になっている。

 

「へぇ……俺が死んでる間に人の技術はここまで進んでるんだなー 」

 

「たりめぇだ、人類舐めんなよ。日に日に進化するのが人間のすげえ所なんだからよ! 」

 

「だが、日に日に過ちを犯すのもまた人だ。そして、同族どうしで不毛で、愚かで、救いがたいのも人だ 」

 

 ロドンが発した言葉に俺達は黙り込み、あぐらをかいていたロドンは立ち上がった。

 

「……だからあんたらはアズールレーン……いや、各陣営の上層部の奴らを殺ったのか 」

 

「そうだ。……だが、まだその事は世間には知られていないようだな 」

 

「当たり前だ。そんな大事件報道してみろ、大混乱するわ 」

 

 陣営の上層部は、所謂大統領とかその辺に類と変わらない立場の奴らだ。政権も上層部が握っており、かなりの権力がある事から誰が上層部なのかもこっちには1部しか知られていない。

 

 それでも上層部が指先一つで何かをすれば、街全体が活性化したり、街が一つ地図から無くなるなんて事も出来る。ある意味謎で恐ろしい所だが……その上層部が目の前にいる奴らに1部を除いて殺害された。

 

 それが死んだ英雄達テネリタス、こんなもの知られてみろ、世界はパニックになり、セイレーンに次ぐ第3勢力の介入で人類の精神状態もどうなるか。

 それこそ暴動になっては困るから報道は禁じている。

 

「あんたら……なんで上層部の奴らを殺った 」

 

「おぉ、グイグイいくねぇ。でもそれ聞いてどうするんだよ。誰かに話すのか? 意味ねぇのに? 」

 

 確かに今ここで聞いて誰かに話しても無意味だ。それどころかそれが噂となって流れて逆に人々を不安に襲われる可能性だってある。

 

 好奇心にくすぐられたのもあるがそれ以上に、今俺達が最も必要としているのは目の前にいる奴らの情報だ。向こうが喋らなくても、今こうして会話出来るチャンスは少ない。だったら掴むしかないだろ、チャンスはよ。

 

「あんたらの事を知る。そして、あんたらに勝つ為だ 」

 

 恐れず、怯まず、真っ直ぐに2人の英雄のを目を見つめ、その1人であるセイドは何かを思い出し家のような顔を一瞬だが浮かべた。

 

「……! ははっ、良いねそれ。でも、教える義理はねぇかな〜 」

 

「敵を知り、己を知る事は評価しよう。だがそう簡単に当方達の目的を話すつもりは無い 」

 

「そう……だよな 」

 

「でもまぁ、お前達がある条件を満たせば教えてやってもいいぜ 」

 

 セイドのとある一言に俺達全員は反応し、魚が食いついたと思わせるような顔をセイドは浮かべた。

 

「お、話をすれば見えてきたぞ。俺らが向かうのはあそこだ 」

 

 霧を抜け出すと、そこには大きな嵐がその場で渦巻きいており、セイドの指はその嵐に向いていた。嵐の周りの海は勿論大時化のような激しく波が荒ぶり、雷だって凄まじい程鳴り響いている。

 

「……まさか 」

 

「そう! 俺らはあの嵐に向かう! あの中にはお宝があるんだよ。へへ、俺ワクワクすっぞ! 」

 

 まるで宝物を探しに行く子供のように、セイドは明るく、自信に満ちた笑顔を向けた。

 

もしもの話(R-18)を観測しますか?

  • Yes
  • NO
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。