ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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結局遅くなったな、この人間の屑が!
はい、ごめんなさい、遅くなりましたorz
筆の進みも話の展開も遅いなこの野郎!
次回は頑張りますので許してください何でもしますから!

そういえば、今更なのですが、主人公のアルタは所謂気持ち悪い系の主人公を目指してデザインをしていたりしております。
具体的にはいーちゃん+瀬田宗次郎+ガッツ+カマドウマ+トカゲ+おっぱい星人。
初めの頃はそこまででもありませんでした?が、今回の仕事が進むのに合わせて、少しずつ思考回路の気持ち悪さをサルバに見せる様にしていこうと思っておりますので、よろしければ楽しんでいただけると幸いです。




第十報 刺客と邸宅訪問

 ……不意に鼻腔を擽った臭いに、意識を覚醒の水面へと引きずり上げられた。

 

 夕飯を済ませて床に就いた客室は悪臭漂う街並みと完全に遮断されていて、設えの良い木製の家具と洗濯の行き届いた寝具、そして仄かに差された香油の匂いが上品な調和を保っていたはずだった。

 そんな客室内に幽かに漂い入ってきたのは、香か何かで無理に燻そうとした様な汗の臭いと酒精の混ざる口臭、そしてそれらでも隠し切れない鉄錆を思わせる異臭だった。

 

「……」

 

いつもの様に抱いて寝ていた短剣の鍔を押し上げて刀身から鞘を引き剥がすと、後ろの方で寝ているはずのサルバの気配を探「ぐごごごごごっ! ぐごごごごごっ!!」……る必要もないね。

 どうやら裸にさえなれば完全に寝入ることが出来る性質(たち)らしく、振り向くまでもなく完全に夢の中なのが分かった。

 

(っていうか、うるさ……)

 

今まで気付かないでいたうえでなんだけど、結構確り鼾が五月蠅い。

 

(……来たか)

 

そんなことを考えていると、それまで朧気だった異臭が不意に何の前触れもなく一段と濃くなる。どうやら、音と気配を押し殺してこの部屋(客室)の中に入り込んできたんだろう。

 入って来たのはそういう訓練を受けた人間らしく、物音や肌感覚で気配を探ることは出来ない。ただ、さっきから鬱陶しいくらいに鼻腔を引っ掻いてくる異臭だけが雄弁に彼()の位置を物語っていた。そして、

 

「ふっ」

 

その位置が丁度僕の真横で踏み止まった瞬間、狙いを定めて短剣を摺り上げると、丁度何かを振り下ろした全身黒ずくめの人影と視線が重なったのだった。

 

「!?」

 

一瞬驚愕に見開かれた黒い頭巾を被った襲撃者の目。そしてその目の前で艶止めの塗られた刃物が僕の短剣に弾かれ、鈍い火花を散らした。

 

「っと」

 

弾き上げた刃物が宙を彷徨う間にベッドを蹴って、黒い影法師の腹に体当たりを入れると逆撃の重ね掛けに不意を討たれたのか頭上から「ぐふっ!?」という絶息音だけが降って来た。

 肩口から伝わる無防備な鳩尾の感触と宙を彷徨う爪先の間隔に挟まれながら「サルバッ!!!」と叫ぶと隣のベッドで寝ていたサルバが「んあっ?」と間抜けが声を漏らしたのが聞こえた。

 

(これで起きてくれればいいんだけどね)

 

そんなことを考えながら、まずは目の前の敵へと意識を向ける。床に押し倒した衝撃で苦悶に身を竦ませるその両手首を狙って短剣の刃先を走らせる。

 

「ぎっ!?!?」

 

両手の腱を切断して握力を奪って簡易の武装解除を施してから、保持力の緩んだ黒塗りの短剣を毟り取って立ち上がると、丁度起き上がったサルバが「誰だてめぇら!?」と吠えた所だった。

 

「「「!?」」」

 

 飛び起きたサルバの裸に、一瞬襲撃者達の目が奪われたのが分かった。

 

(ま、そうもなるか)

 

こういうこと(暗殺)をしている人間がそういう場(濡れ場)への襲撃を経験していないって訳じゃないんだろうけど、それでもなお目立つくらいにはサルバのおっぱいは大きいからね。

 お陰でばるんっ!!と弾む眼前の一抱えもありそうなおっぱいに気を取られた影法師達はサルバの右手に握られた拳銃に気付くこともなく、漏れなくその肩口に風穴を開けられる。うん、こっちは大丈夫そうかな……。

 

「っと」

 

そんなことを考えながら振り向き様に短剣を振り下ろすと、新たな影法師が僅かに身を仰け反らせて刀身を回避したのが映った。

 

「ちっ……」

 

ギリギリ一杯まで引き付けたつもりだったんだけどな。

 

(ま、体勢が崩れただけでもよしとしとくべきかな)

 

 白銀の軌跡から逃れた影法師に踏み込みつつ刃を返した短剣で脇腹を突きに行くと、今度は素早く爪先を引いて体を折り切っ先が内臓に届くのを回避してくる。けど、これで詰みだ。

 

「よっ」

 

「!?」

 

突き出した短剣を追いかける様にして影奉仕の懐に潜り込むと、先の一人と同じ様に艶消しの塗られた刃物を握る右腕を取って、そのまま担ぐように持ち上げてから円の軌跡で固い床板へと叩き付ける。

 

「ぎっ!?」

 

ドスッという音と共に苦悶の声を漏らした影法師の肘を捻り上げて、そのまま腕をへし折る。すると上手いことコロンと刃物が取り落とされたので、反対の手に軽く突き刺してこっちも無力化しておく。さて、

 

「……」

 

「……」

 

立ち上がって開け放たれたドア越しに部屋の外を見ると黒い、そして僕の鼻腔が嗅ぎ取っていた最後の襲撃者の姿があった。多分、立ち位置的にはこの襲撃者達の上役か監視役といったところだろう。この最後の一人がどういう判断をするかな。逃げるか、向かってくるか……

 そんなことを考えながら短剣を構えると、それに合わせる様に向こうも黒塗りの刃物を引き抜いてくる。どうやら、最後まで向かってくるつもりということらしい。……よし。

 ドア枠によって狭まった空間で対峙しながら黒い頭巾から覗く双眸と視線を重ねる。小回りを重視したのか逆手に刃物を構えてゆらゆらと全身を弛緩させる姿からは、こっちに飛び込んでくるような攻め気は見受けられない。

 

(んー、どうしよっか……)

 

正直、こっちから踏み込む意味は薄いといえば薄い。既に無力化した襲撃者数人は確保しているし、最悪、最後の一人を取り逃がしたとしても致命的とはならないだろう。そもそも、ここじゃあ時間は僕達の味方な訳だし……

 

(あ、でもそうでもないか)

 

 こっちもこっちで後ろに構えるべきかと思案を始めた直後、背後から近づいて来た気配にその考えを取り下げる。そして、代わりに僕が半身になっていたところから腰を沈めると対峙する影法師の両眼が頭巾の裂け目の中で少しだけ細められたのが見えた。

 

「……」

 

「……」

 

その眉間に穂先を向けたまま、少し間合いを詰めに向かうと、僅かに影法師の揺動が小さくなる。そして、僕の送り足に調子を合わせる様にピクッピクッと脈打つ様な律動へと間隔が狭まっていく。

 影法師の意識が徐々に張り詰めていくのを感じながら、僕は想定していた間合いに入った瞬間、思いっきり地面を蹴って天井へと向かうように短刀を突き上げる。

 

するとその瞬間、廊下に立っていたはずの影法師の姿が一瞬で掻き消えたのだった。

 

その気配の居所は部屋のドア枠のすぐ隣。僕が突貫したその瞬間、身を翻して回避に移ったのだった。当然、空を斬る僕の短剣。同時に攻守を入れ替えた件の影法師が好機とばかりに躍りかかって来たのが分かった。

 

「うん、想定通り」

 

背後の殺気に頷きながら、僕は更に足を送って絨毯を蹴った。

 うなじの辺りをヒュンッと風切り音が駆け抜けたのを感じながら、吹き抜けのロビーとを仕切る廊下の欄干を飛び越えて宙を泳いでいると、驚いたように見開かれた影法師の双眸と目が合った。直後、パパンッ!という乾いた発砲音が響いて、最後の影法師が「ぐっ!?」と眉間に皺を寄せながら右肩を抑えた。

 そんな影法師を横目に、僕は後ろ手で手摺を掴むと壁板に足を掛けて再び廊下の方へと身体を引き戻しに掛かる。そして、

 

「しっ」

 

その勢いのままに短剣を握った拳で体勢を崩した影法師の左頬を殴りつける。

 

「あ、が?」

 

ボキリという音が鳴って、ぐりんと影法師の眼球が反転する。そしてそのままどさりと崩れ落ちると、ドア越しに発砲したサルバと顔を合わせて襲撃はケリとなったのだった。

 

 

 

 

「大丈夫か、アルタ」

 

「ん、へーき」

 

 手摺を乗り越えて廊下に戻ると、真っ裸のサルバが油断なく拳銃を構えたまま部屋から出てきたところだった。

 

「なら良かったが……こいつら何なんだ?」

 

「んー……襲撃者?」

 

「そりゃそうなんだろうが……」

 

「正直、いつものこと過ぎて理由とかその辺は割り出せないんだよね」

 

「うん、なんとなく知ってた」

 

呆れ混じりにサルバが頷くと、同時に下の階の方から「何かあったんですかい!!」と昼間に聞いた債権屋の人の声が聞こえてきた。うん、

 

「丁度いいし、このままこの人達の情報も引き出しちゃおっか」

 

「情報を引き出すってのにゃ賛成だが、丁度いいってのはどういうことだ?」

 

「それはね」

 

サルバが小首を傾げていると、上に登って来た債権屋の人達が全裸のサルバと足元で気絶している襲撃者の一人を見比べてギョッとしたように目を剥きながら「こいつらは……」と呟いた。

 

「ちょっと寝込みを襲われまして」

 

「それはちょっとで済ませていいのか?」

 

「拷問したいので『仕置き部屋』を借りられますか?」

 

「拷問っておい……つか、『仕置き部屋』?」

 

「うん『仕置き部屋』」

 

耳慣れない言葉だったらしく、もう一度サルバが小首を傾げた。

 

「娼館にある設備で、娼婦に契約外の乱暴を働いた客とか、逆に客と仲が深まり過ぎて脱走を考えた娼婦を折檻するための部屋があるんだよ」

 

「マジか……」

 

呻いたサルバを置いて債権屋の人の方を向くと、ナイフを片手に先頭に立っていた一人が「ええ。問題ありやせん」と頷いてくれた。その視線がちらちらとサルバの方に行ってるけど……ま、仕方ないか。こんなにバカでかいおっぱいってあんまり見ないもんね。

 

「ちなみに、この人に見覚えはありますか?」

 

拷問の前にまず影法師の一人の頭巾を取ってみる。すると、何人かの債権屋の人が記憶していたらしく「こいつぁ……」と呟いた。

 

「確か、少し前からここの賭場に出入りしていたギャンブラーでさぁ」

 

「つまり、十中八九偽証ってことですか」

 

「でしょうなあ」

 

単なる流しのギャンブラーが全身を覆う黒服に艶止めを施した刃物類なんてものを常備している訳もないしね。これらの装備は明らかに常日頃から殺しを生業としている人間の物だ。

 

「ちなみに、中にも五人ほど居るんですけど、そっちの方も検めてもらっていいですか?」

 

「分かりやした」

 

「っと」

 

頷いた債権屋の人を先導して部屋に戻ろうとしたところで、サルバが少し手持無沙汰そうにしているのに気付く。

 

「サルバはそうだね」

 

「お、おう」

 

「先に寝ててもらえる?」

 

「おう……?」

 

サルバにそう伝えると、なぜか「何言ってんだこいつは?」とでも言いたげな雰囲気と共に首を傾げられた。んー?

 

「いや、なんでお前が不思議そうな顔してんだよ」

 

「だって、心当たりが無いし」

 

なんかしたっけ?

 僕が首を捻ってると、やれやれとでも言いたげにサルバが溜息を吐いた。

 

「あのな、俺はお前の何だ?」

 

「どうしたのさ、藪から棒に」

 

何かの哲学?

 

「俺はお前の補佐だろ?」

 

「うん、そうだね」

 

言わずもがな。

 

「ならな、俺も連れてくべきだろ。つか、連れてけ」

 

「んー、連れてけって言うなら別に来てもいいけど、別に面白いものじゃないよ?」

 

何なら無駄に根気がいるし。

 

「良いんだよ。それでお前の役に立つなら」

 

「随分と殊勝、っていうか献身的だね」

 

「そんなんじゃねーよ。けど、俺だって一応気にしてんだぜ? "ダンジョン・コア"の採取じゃ助けになれねーこととか、そもそもの護衛自体も不要なこととかな」

 

「なんだ、そんなこと気にしてたの?」

 

別に気にしなくてもいいのに。

 

「せいでか」

 

けど、そう言ってサルバはムスッと唇を尖らせたのだった。

 

「さっきの言い方だと、結構やる機会も多いんだろ?」

 

「まあ、そこそこには?」

 

「なら、なおさら俺がサボる訳にはいかねーっての」

 

「お前のダンジョン閉鎖士補佐としてな」と締めくくって、どうだとでも言うようにムニッと腕を組んだサルバがこっちを向く。

 

「んー、まあそこまで言うなら別に止めないけどさ」

 

手が増える分には時間短縮になって有難いのも事実だし。

 

「じゃ、手伝ってもらおうかな」

 

「おう、任せろ」

 

 待たせていた債権屋の人達にサルバを加えて、部屋に戻って頭巾を剥いでいくと次々とその仮初の身元が明らかになっていく。

 行商人、古い情報を掴まされた駆け出しの冒険者、債権漬けとなった素人を抱きに来た好色家などなど……。

 

「見事に口からでまかせばっかだな……」

 

「ま、身分の偽称だからね」

 

 バスローブを羽織って、砂時計みたいな見た目になったサルバが呆れ混じりに腰に手を当てる。そんな僕達の横で、債権屋の人が比較的軽傷で意識のはっきりしている襲撃者の頬を叩いた。

 

「やい、てめぇ! 一体何もんだ! 何でこの宿に入りやがった!!」

 

「ふん……」

 

強面の債権屋の人を前にしても太々しくそっぽを向く姿に、債権屋の人が「こんにゃろぉ……!!」と青筋を浮かべる。とはいえ、相手も本業っぽいから、それじゃあダメそうかな。

 

「ちょっと、変わってもらっていいですか?」

 

「っと、ええ。構いませんが……」

 

戸惑ったような強面の債権屋の人に替わって襲撃者の一人の前に立つと、チラッとこっちを見た自称・行商人のその人はチッと舌打ちをした。

 

「えい」

 

「!?!?!?!?!?」

 

その右耳を摘まんで、一息で引っ張って千切り取ってみる。すると、目の前の襲撃者の一人は目を剥いてビクッと身体を痙攣させた。

 

「……これでも悲鳴一つ上げないか」

 

少し待ってみたものの、パクパクと喘ぐように口を開け閉めするだけで、何かを言う気配はない。となると、やっぱりきちんとした拷問部屋じゃないと口を割らせることは出来なさそうだ。

 

「すみませんが、他の人達を仕置き部屋に運ぶのを手伝ってもらえますか?」

 

「え、ええ!」

 

頷いた債権屋の人が打ち捨てておいた襲撃者の人数人を拘束しにかかるのを置いて、僕も目の前の一人を縛り上げながら止血を行う。

 

「じゃ、行こっか」

 

「お、おう……」

 

そして、隣のサルバに声を掛けると、服を着替えたサルバがコクコクと頷いて立ち上がる。

 

「あ、そうだ。一つ注意しておくけど、きつくなったらちゃんと退室してね?」

 

「あ、ああ……」

 

そんなサルバを横目に、僕の方も少し拷問の手順を思案する。できれば肉体的なダメージが少な目で苦痛が大きいものが望ましいからなあ……

 

「取り敢えず、塩水にでも漬け込んでみよっか?」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「あれ?」

 

なぜか、サルバを含む周りの全員が息を呑んだ気がした……、

 

「ま、いっか」

 

別にどうでも。

 

 

 

 

で、

 

 

 

 

「うぷっ……」

 

「やっぱりこうなっちゃったか」

 

 数時間後、都合六人分の真っ赤になった人体を前にサルバが胸に込み上げてくる酸っぱいものに耐え切れず不快そうに口元を抑えていた。

 

「だから無理しちゃダメだって言ったのに」

 

「……」

 

あの後、債権屋の人達が一人また一人と脱落していく中で、最後まで頑張っていたサルバだったけど、とうとう限界がきたらしい。まあ、心意気みないなものは感じないでもないけどね。

 

「取り敢えず、水でも飲んでくる? このまま朝ごはんは辛いでしょ?」

 

「……」

 

確認すると、暫しの俊巡の末に、サルバは小さく頷いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 サルバが回復するのを待って宿にある食堂に行ってみると、債権屋の人達が朝食を用意してくれていた。

 村にやって来た他所の人間向けの値札に書かれた金額ではなく、適正価格で用意された果物を摘まむサルバと向かいながら、少し遅れて運ばれてきた自分の分の食事にナイフとフォークを立てる。うん、美味しい。

 

「……」

 

「どうかした?」

 

「いや、お前よくあんなことした直後に肉なんて食えんな。しかもレア」

 

「?」

 

「いや、なんで『何言ってんだこいつ?』みたいな顔してんだよ」

 

「何言ってんだこいつ?」

 

「直接口に出すなよ」

 

「だって、何が言いたいのかよく分からないし」

 

「ごっつい神経してんなー……知っちゃいたけど」

 

「そう?」

 

なんかよく分からないけど、納得したらしい。……ま、いっか。

 

「んで、こっからどうすんだ?」

 

「取り敢えず、さっき聞き出せた情報を整理すると、あの刺客達はハップルカ伯爵のところに人間だった訳で」

 

「ああ」

 

「けど、なぜ僕達を襲撃することになったのかは分からなかったよね」

 

「元の任務は債権屋の監視だったからな」

 

先の拷問の際に、襲撃者全員が異口同音に語った情報を反芻する様にサルバが頷く。

 

「だから、直接乗り込もうと思うんだ」

 

「いきなりだな、おい」

 

サルバが呆れ混じりに口を尖らせた。

 

「結局、命令を出した本人に話を聞かないと真意は確定できないっぽかったからね」

 

「ま、そりゃそうだけどな……けど、しらを切られたらどうにもならねーんじゃねーのか?」

 

「そのためにさっきの人達を全員生かした訳だから多分大丈夫。最悪、ギルドに引き渡しちゃえば、伯爵は最低限釈明が必要になるからね」

 

そこはちゃんとしないと、リーセン子爵が息を吹き返しかねないし。

 

「それでも拒否されたら、押し通ればいいだけだし」

 

「結局最後は力技かよ」

 

「嫌?」

 

「んにゃ、ごく好みだ」

 

ニヤッと白い歯を見せて頷いたサルバが出されたスープをこくこくと飲み干す。カランとスープ皿に置かれたスプーンの音を合図に、僕とサルバはどちらともなしに席を立った。

 

「じゃあ、行くか?」

 

「そうだね」

 

鬼が出るか蛇が出るか。

 

「ま、どっちでもいいんだけど」

 

やる事は変わらないし……ね。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「よし、到着」

 

 ブレーキペダルを踏んで“自動車”を止めると、隣のサルバがお尻を摩りながら「あ゛~……やっと着いたか」とぼやいた。債権屋の親分さんが貸してくれた自動車のお陰で当初の目算より大分早くハップルカ伯爵の邸宅まで着くことが出来たけど、正直慣れていないのもあってサルバはちょいちょい大変そうだった。

 

「さてと……」

 

おっかなびっくりにお尻を触っているサルバを置いて、一旦後部座席の方を覗き込む。先の拷問の際に比較的事情を知ってそうな襲撃者を二人ほど選んで詰め込んでおいたんだけど、こっちも地面からの振動で、積載前よりぐったりして見えた。

 

「じゃ、行こっか」

 

「あいよ」

 

ドアを開けて虫の息の二人を引き摺り出すと、隣の席から降りたサルバがコクリと頷いた。

 

「それにしてもデカいな……」

 

「流石に伯爵邸ってところかな」

 

「だな」

 

もう一度頷いたサルバの鼻尖の先には白い煉瓦造りの豪邸。僕達の様に初めてここを訪れた人間でも一瞬でそうと気付くそれは、主であるハップルカ伯爵の権勢の強大さを分かりやすく顕示しているように思えた。

 

「じゃ、のんびりしてても仕方ないし、早速入ろっか」

 

「おう」

 

サルバを連れて正門前に立つと、門の脇に置かれた小屋から穏やかそうな雰囲気をした小柄なお爺さんがヒョコッと顔を出す。

 

「どうもこんばんは」

 

「おお、どうもこんばんは」

 

そして、会釈を返してきたお爺さんが「何か当家に御用でしょうか?」と小首を傾げた。

 

「僕達はロハグの街のダンジョン閉鎖士なのですが、伯爵と面談をしたいので開門をお願いします」

 

「伯爵様と……ダンジョン閉鎖士が?」

 

あまり馴染みのない身分を聞いたからだろう、お爺さんが訝る様に眉を顰めた。

 

「失礼ですが、どういった御用向きで?」

 

「んー……そうですね」

 

「? ……っ!?!?」

 

お爺さんに持ってきた刺客(御用向き)を見せると、声にならない悲鳴を上げて後退りをした。

 

「な、なななぁ!?」

 

「その反応だと知らないみたいですね」

 

「し、し、し、知らっ!?」

 

「これ、御宅の伯爵様が僕達に差し向けてきた暗殺者なんです。まあ、取立てて珍しい話でもないですし、同僚のあなたからしたら見慣れた仲間かもしれませんが」

 

「いや、んな顔面ズタズタに引き裂かれてちゃ、流石に判別できねーだろ」

 

「だから右半分だけで済ませたんだけど、ダメだったかな?」

 

呆れた様にぺしっと肩を叩いてくるサルバ。んー……ま、いっか。

 

「そういう訳で、開門をお願いします。こうしてる間にも、この人達が息絶えちゃうかもしれないので」

 

そうなると、尋問にもちょっと支障が出ちゃうしね。

 

「……どうぞ」

 

大分迷う様な素振りを見せたお爺さんだったけど、今のやり取りの何かが琴線に触れたのか、終始慌ててた割には素直にドアを正門を開けてくれた。

 

「単純に自分の手に余ると思っただけだろ」

 

「そうかな?」

 

「それしかねえだろ」

 

「ま、いいや」

 

開けてくれるならなんでも。

 

「ありがとうございますね」

 

「礼は言うのな」

 

「礼儀ってものがあるしね」

 

変に突っかかられる機会を減らすためにも、礼儀は大事にしないと。例え、相手がこっちを殺そうとしてきてたとしてもね。

 

「……」

 

「? どうかした?」

 

「むしろ逆効果だと思うぞ。それ」

 

「そう?」

 

何か変な所あったかな?

 

「どう見ても恫喝にしか見えねーもん」

 

「そうかな?」

 

うーん………………

 

「まあ、別にいっか。どうせ動いてくれることには変わりないんだし」

 

「お前のその即物的な思考は一体何処から出て来てるんだろうな」

 

「さあ?」

 

自分の性格の変遷とか、自分じゃ自覚も無いしね。多分、ギルドの教育のせいじゃない?

 

「だったら、ギルドの職員全員お前みたいな性格って事だろ」

 

「はっはっは」

 

そうなっちゃうね。じゃあ、違うか。

 と、そんな事を話しているうちに、僕達はハップルカ伯爵邸の正面の玄関に辿り着いていた。

 

「わ、私は此処までしか進めないもので」

 

「あ、じゃあ中の人を呼んでくれます?」

 

「う……分かりました」

 

見るからに門の隣の小屋に戻りたいといった素振りのお爺さんにお願いすると物凄く嫌そうな顔をされたけど、やっぱり反駁は無かった。うん、順調順調。

 

「どこがだ」

 

「お爺さんが疑問もなく言う事を聞いている所」

 

「あれは言う事を聞いているんじゃなくて、聞かされてるんだろ」

 

「結果が同じなら何でも良いかなって」

 

喜んでようが泣いてようが。

 

「正直、此処までくるとお前に感心すればいいのか呆れればいいのか悩ましくなってくるな」

 

「別にどっちでもいいけど、そろそろ人が出てくるみたいだよ」

 

「だから、話の流れをな「どうしました、ミト」ああ、もう」

 

はっはっは。

 玄関の大ドアから顔を出した銀縁メガネのお爺さんの姿に、サルバがガシガシと頭を掻いて話を中断する。

 

「そちらのお二人は……?」

 

ドアの覗き窓から顔を出した、家令か執事といった風体のお爺さんは、ミトと呼ばれた門のお爺さんと僕達を品定めするように見比べる。

 

「すみません、執事長様。この人達は……」

 

「夜分に失礼致します。僕達はロハグのダンジョン閉鎖士です。ハップルカ伯爵様にお取り次ぎをお願い致します」

 

「!?」

 

僕がそう告げると、執事さんはやや驚いたように、レンズの奥で鋭い目を僅かに見開き、そして一瞬でその動揺を引っ込めて見せた。ふーん……。

 

(これ、知ってるやつか?)

 

(多分ね)

 

訝るサルバに僕は気付かれないように首肯を返す。うん、どうやら最初から当たり(・・・)だったみたいだね。

 

「……旦那様は既にお休みになられております。申し訳ございませんが日を改めていただきたい」

 

だけど、相手も慣れたものかな。咳払いをひとつする頃には動揺はすっかり消えていて、代わりに冷厳な視線でこちらを静かに威嚇してきた。うん、これはいくら言っても無駄そうだね。

 

「しょーがない」

 

「?」

 

「そっちがそういう対応なら、こっちも力尽くでいきますね」

 

「!」

 

持ってきていた刺客二人を一旦投げ捨てると、小窓の奥で瞠目したお爺さんが咄嗟にドアから距離を取ろうとする。けど、流石に僕の方が早いかな。

 小窓から手を入れて家令風のお爺さんの襟首を捕まえると、お爺さんが「ぐがっ!?」と呻いた。

 

「ダ、ダンジョン閉鎖士風情が! この屋敷が誰のものか理解し!!」

 

それでも恫喝を続けようとするお爺さんの襟首を掴んだ手をそのまま思いっ切り引っ張る。

 

「ぶべっ!?!?」

 

白い髭のお爺さんの顔面が分厚い木戸にぶつかって、ガンッという音を立てる。

 

「あ、あぁ……???」

 

一瞬、何が起きたのか分からないといった表情になるお爺さん。けれど、すぐに状況を理解すると鼻からダラダラと流れ落ちる鮮血と同じくらい顔を真っ赤にして目を剥く。

 

「き、貴様ら! なんと無礼な!! ダンジョン閉鎖士の分際でこのような狼藉を!! 今すぐにでも旦那様に貴様らの凶行を申し伝え、すぐにでも罷免してくれる!!!」

 

「おい、アルタ」

 

「なに?」

 

「これ大丈夫なのか? おっさんキレ散らかしてんぞ」

 

「?」

 

「いや、そこで『だからなに?』みたいな顔してんじゃねーよ」

 

「んー、まあ正直どうでもいいし」

 

普通に。

 

「ま、でも基本的には大丈夫だよ。だって、貴族にダンジョン閉鎖士を罷免する権限は無いし」

 

「そうなのか?」

 

「前にも言ったけど、ダンジョン閉鎖士は皇帝直属だからね」

 

指揮系統が完全に別物。

 

「ま、それでも貴族から罷免の要求が入れば、両者を天秤に掛けて罷免っていう可能性は全然あるんだけど」

 

「ならダメじゃねーか!? 何で平然としてんだよ!?」

 

だって、別にどうでも良いし(・・・・・・・・・・・・・)

 

正直、興味もなし。

 

「なっ!?」

 

「あ、今度はこっち?」

 

今日は妙に大袈裟な反応をされる日だね。

 

「いや、そういう反応にもなるわ」

 

「そう?」

 

「当たり前だろ」

 

そう言って、サルバは頭を抱えた。

 

「何? お前、割りと権力とか筋とかそういうのに従順な奴だと思ってたんたけどこれ違うのか? 無政府主義者か何かなのか?」

 

「別に、どっちでもないけど?」

 

というか、そういう主義主張を持ったことは無いなあ。

 

「じゃあ、何か、自殺志願者か何かなのか?」

 

「それこそまさかだよ」

 

特に死にたいと思ったことは無いし。うーん、まあ、終わったら処分されるかも知れないけどさ、昔から言うでしょ?

 

「それはそれ、これはこれって」

 

「」

 

今度こそ、本当に絶句された気がする。というか、門のお爺さんも、執事さんも同じ顔してるんだけど。

 

「ま、いっか」

 

それより、中に入らせてもらいますね。

 

「アルタ」

 

「? 何?」

 

いつの間にか大人しくなっていた家令のお爺さんを持ち上げて、案の定持っていたマスターキーを内ポケットから引っ張り出すと、隣のサルバが難しい顔でグリグリと自分の蟀谷を揉んだ。

 

「お前、本当に何の躊躇いもなく前進だけを続けられる奴なのな?」

 

「そう?」

 

特に考えたことは無かったけど、そうなのかな?

 

「そこまで行くと、ある意味尊敬できるわ……」

 

そう言いながら、サルバは右腰に下げたホルスターから愛銃を引き抜いて、ガチリと撃鉄を引き起こす。

 

「サルバ?」

 

「俺もマジでこいつらに殺されかかったからな。……一発かましてやりたいって気持ちはあるんだよ」

 

「そう?」

 

「おう」

 

頷いたサルバが銃口を小窓越しにお爺さんの眉間に向ける。

 

「や、やめっ!」

 

「ん、開いた」

 

無駄に制止しようとしてくるお爺さんの下でドアの鍵がカチリと鳴って、重い扉がゆっくりと開く。そして、家令のお爺さんの全貌が現れると、パパンッ!と軽い音が鳴って両耳が吹き飛ぶ。その発砲音で数人の騎士らしき人達がドタドタと奥の部屋からやってくると、僕達とお爺さんを見比べて呆然とした様に立ち尽くしているのだった。……うん、

 

「奥、失礼しますね」

 

「おいっ!」

 

取り敢えず断って二階へと続く螺旋階段に向かうと、後ろのサルバがクイックイッと僕の袖口を引っ張ってきた。

 

「ん?」

 

「あれ!」

 

振り返ると、麻痺から回復した騎士さん達が邸宅内の仲間を呼び集めているみたいだった。……うん、

 

「少し、急ごうか」

 

持ってきた刺客二人を肩に担ぎ上げて一段抜かしに階段を登ると、後ろのサルバが「つか、伯爵がどこにいるのか分かってるのか!?」と叫んできた。

 

「時間的に執務室か寝室だろうから、二階の奥の部屋のはずかな」

 

ま、最悪全部の部屋を開ければ見つかるでしょ。

 

「一つ一つかよ!? 時間かかるな!?」

 

「ま、しょーがないって。僕が後ろの人達の相手をしておくから、中の確認はサルバがお願い」

 

人を一人担いでる状態だから、素早く探索ってのには限界があるし。

 

「ちっ、抑えられるんだな!?」

 

「多分大丈夫じゃない?」

 

何事にも絶対はないけどさ。

 

「くそ、信じるぞ!」

 

「うん、泥舟に乗ったつもりで頼りにしてくれて良いよ」

 

「ダメじゃねーか!」

 

はっはっは。

 

「っと、来たね。サルバ」

 

「っ!!」

 

走りながら目にした、精緻な獅子の彫刻が施されたドアの奥に人の気配を感じて指差すと、先に飛び出したサルバが毟り取る様にしてドアを開けた。

 

「む?」

 

果たして、そのドアの中に居たのは、見事な顎髭にでっぷりとした体型をした、少しとぼけた表情のおじさんだった。

 

「あ、一つ目であたりだ」

 

幸先良いね。

 一目で、貴族、それもかなり偉い人物と分かる服装に、そう断定しながら僕は担いでいた刺客を床に降ろす。

 

「突然の来訪失礼致します。僕はアルタ。ロハグの街でダンジョン閉鎖士をしております。伯爵様が僕達に差し向けてきたこの刺客の事でお尋ねしたいことがあってお邪魔いたしました。少し、お時間をいただきますね」

 

そう告げると、一瞬びっくりしたように目を見開いていたハップルカ伯爵は「そうか、うん」と頷くと、後ろからやって来た騎士らしき人達を掌を向けて押し留める。

 

「聞こう。話せ」

 

丸い眼鏡を掛けてぬっと実を乗り出した伯爵様は、風貌通り、とぼけた口調でそう言ってきた。隣のサルバが小さく「たぬき……」と呟いたけど、確かに見た目はそっくりだった。

 

 

 

 

 




読了、どうもありがとうございます!

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ではではノシ


ぽるたー様
誤字報告ありがとうございます。訂正いたしました!

20/7/24 みずーり様誤字報告誠にありがとうございます!修正いたしましたー

2020/6/6:デイリー95位、オリジナル41位取れました。ありがとうございました!
ヒロイン(サルバ)をもっと可愛くメス堕ち書きたいけど、其れにはアルタとの仲が深まる必要がある……うごごごごorz
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