ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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皆様の閲覧とご評価、お気に入り登録、そしてご感想がとても嬉しかったので、つい調子に乗っちゃいました!!

UA15,000突破ありがとうございます!!!

展開も遅く、遅筆でしたが、漸く佳境に入る事が出来ました!
多分、次の次くらいで一章は終われるかな?

書きたいシーンも沢山あるので、頑張るぞー

ご感想、ご評価など頂けると嬉しいです。
ではではノシ


第十一報 ハップルカ伯爵とリーセン子爵

「取り敢えず、人払いをお願いします」

 

「うん。そうしよう」

 

 手始めに人払いを要求してみると、思いの外あっさりと頷いたハップルカ伯爵はシッシッと藪蚊を払うように部屋の入口に立ち尽くした使用人の人達に下がる様に指示を出す。

 

「旦那様!?」

 

「あ、来てたんだ」

 

いつの間にか復活して僕達を追いかけてきたらしい家令?執事?のお爺さんが、鼻血で真っ赤になった髭ごと鼻尖を抑えながら抗議の声を上げた。けど、当のハップルカ伯爵は特に頓着した様子もなく「良いから出ていろ」と、にべもない言い方で話を打ち切ってしまう。

 

「お前と似てるな、このにべもない言い方」

 

「酷いな。例え事実だとしても、人は傷つくんだよ?」

 

「え、お前傷ついてんのか?」

 

「なんで僕が傷つかないといけないの?」

 

「この野郎」

 

「おっと」

 

サルバが発砲して、僕が回避する。流れ弾が室内に置かれた甲冑に跳弾して、伯爵の後ろの窓ガラスを破砕した。

 

「それで、何の用だ?」

 

真後ろでガラス片が飛び散ったにもかかわらず、伯爵は特に気にした様子もなくぎょろりとした目をこっちに向けながら首を傾げてきた。

 

これ(・・)を僕達に差し向けてきた理由を聞きたくてお邪魔しました」

 

「ふむ……」

 

拷問済みの刺客を持ち上げて見せてみると、伯爵は微かに鼻を鳴らした。

 

「何のことだか分からんと言ったらどうする?」

 

「拷問時に取った調書を、()と近隣貴族にばら撒きます」

 

当然。というかそれ以外ないんだけど。

 

「うん?」

 

けれど、ハップルカ伯爵は瓶底の様な丸眼鏡の奥で不思議そうに目を瞬かせた。

 

「リーセンにとは言わんのか?」

 

「含めてのつもりですが、特に限定する気はありませんでしたね。リーセン子爵がお好みでしたか?」

 

「であれば、叩き潰すのは容易だったからな」

 

「手間が省けたのだが」と、事も無げにぼやくハップルカ伯爵。

 

「まあ、あれ以外にも無差別にばら撒かれるというのは少々具合が悪いか……」

 

「それは良い事ですね」

 

主に僕達にとって、"都合が"良い。

 

「言うな、アルタ……」

 

「そうだな」

 

「あんたも同意するのかよ……」

 

平然と同意をするハップルカ伯爵に、間に入っているサルバが顔を顰めた。

 

「しかし、成程。態々会いに来たということは、こっちの早とちりか……」

 

「……」

 

頻りに頷いたハップルカ伯爵。何と言うか、とぼけている上に自己完結が激しい人な様だった。けど、僕達の本来の(まと)がハップルカ伯爵ではないということまで直ぐに理解したあたり、飲み込みそのものも早いらしい。

 

「それで、何を聞きたいのだ?」

 

「あんたが送り込んできた刺きゃ「そっちではない」

 

サルバが不快そうに口を尖らせるのを見た伯爵は、ひらひらと手を振ってその言葉を遮る。

 

「単に私を括りたいだけならば、態々こっちに知らせずに直接調書をばら撒いただろう。リーセンに渡せばあれが息を吹き返すのは必定。例えリーセンが選択肢に入らずとも、この領地と私の地位を狙う奴はごまんと居るからな」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

この慣れた対応を見ると、敵は多そうだよね。

 

「お前に似てるからな」

 

「はっはっは、この野郎」

 

 

僕は短刀を薙いだ

サルバはしゃがんで回避した

 

 

「本命は、その証拠を梃子にして、私から何かを聞き出すことだろう?」

 

「ええ、その通りです」

 

むしろ、他に無いよね。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「聞いてねーんだが?」

 

「言ってないからね」

 

「おい」

 

「初めは普通に暗殺者差し向けられた件への反撃とか考えてたんだけどさ、この感じだと詫び料込みで追加の弱みを握らせない範囲でなら何でも話してくれそうだし」

 

だから、予定変更です。

 

「はぁ……ちょっと釈然としねーけど、本命はあくまでそっちだもんな」

 

「そーゆーこと」

 

ぼやくように頭を掻くサルバ。付け加えるなら、ハップルカ伯爵の政敵はリーセン子爵だからね。もしかしたら、なにかしらの手がかりを掴んでる可能性もある訳で。

 

「じゃあ、早速なのですが」

 

「うむ」

 

「最近、リーセン子爵の方で変わった動きは見られませんでしたか?」

 

「見当もつか「サルバ、調書を周辺貴族にばら撒くよ。あとギルドにも。準備して」「よし、任せろ!」待て待て」

 

何です? 役に立たない貴族には用は無いですよ?

 

「そうではない」

 

「?」

 

ここに来て、初めてハップルカ伯爵が顔を顰めた。

 

「お前の性格の悪さが貴族を上回ったみたいだな」

 

「いやー」

 

「褒めてねえからな?」

 

「知ってるけど?」

 

サルバの足払い。僕はジャンプして回避した。

 

「私とリーセンの奴の関係は知っているだろうな?」

 

「ええ」

 

それが前提の交渉だし。

 

「なら分かるだろう? 小競り合いなんて日常茶飯事で、“囮”まで含めれば数え上げようにもキリが無い」

 

「なるほど」

 

つまり、心当たりがあり過ぎて分からないと。

 

「何よりもだ」

 

「?」

 

「私が伯爵位を得て暫く、とうにあれの野心は潰えたと思っていたからな」

 

「実際、それ以降"本命"の仕掛けは一つも無かったからな」と伯爵は結んだ。

 

「つまり、そこに俺達が来たと」

 

「ああ」

 

頷いたハップルカ伯爵が僕、そしてサルバへと順に視線を走らせる。

 

「元々、債権屋には奴らが調子に乗り過ぎんか見張りを立てていたんだが、その見張りからダンジョン閉鎖士が現れたという報告を受けた。しかも、そのダンジョン閉鎖士が債権屋どもとリーセンの奴のことを話し込んでたという……それを聞いて、リーセンの奴の意気がまだ潰えておらん可能性を考えた訳だ」

 

「それで、この人達ですか」

 

「警告としての意味が強かったがな」

 

「んなすぐ疑うんなら、さっさと帝都にでも言って転封させりゃいいんじゃねーの?」

 

「そっちは皇帝が良い顔をせんからな。仲の悪い貴族同士を隣り合わせて力を削ぐのは皇室の常套手段だ。それに、腹に一物を抱える程度で働くのなら、こちらとしては言うこともない」

 

「器がでかいんだか小さいんだか……」

 

呆れたようにぼやくサルバ。けどまあ、優秀な施政者って感じなのかもね。

 

「しかし、そうなると、僕達の存在が一番の出来事まであるのか」

 

「そうさな……」

 

僕の確認に、伯爵は大きく頷いた。ふむ……、

 

「ダンジョン閉鎖士といえば……」

 

「「?」」

 

「リーセンの領地でダンジョン閉鎖士が失踪したのも、丁度リーセンとわしが陞爵争いをしてた頃の話だったな」

 

僕とサルバが考え込んでいると、不意にハップルカ伯爵が思い出したようにぽつりと呟いた。その言葉に、顔を向け合う僕達。この話は間違いなく先の債権村で耳にしたものとぴたりと符合していた。

 

「ご存知だったんですか?」

 

「今の今まで忘れておったがな」

 

そう言って、ハップルカ伯爵はでっぷりとした顎をつるりと撫でる。

 

「あの頃のわし達は何としてでも相手を蹴落とすために、小さな醜聞であろうと逃すまいと互いに内偵を放ち合っていた。兎に角相手を蹴落とせれば何でも良いと躍起になっていたのだが、両者どうにも決定打に欠けていてな。そんな折だった、あいつの領内に居るダンジョン閉鎖士があいつとよく似た風貌をしていると耳にしたのは」

 

「……」

 

「当初、わしは取るに足らん話だと思った。いくら未婚とはいえ、まだまだ若い時分であったからな。愛妾の一人や二人、珍しくもなんともなかったし、私生児も無い話ではない」

 

そう言って、伯爵はニタニタと目尻を緩めながら分厚い唇をぺろりと舐めた。

 

「念のためと思い内偵の者達に情報を集めさせたところ、妾が平民生まれの元使用人というところまでは掴めたのだが、それ以上は何も出て来ずな。が、その情報がある時からふつりと出て来なくなった」

 

「それ、もしかしなくても」

 

「ああ。わしに尻尾を掴まれることを恐れたリーセンの奴が秘密裏に始末したということだろうな……もっとも、完全に悪手だったがな」

 

事も無さげにそう続けた伯爵は当時のことを思い出したのかニィと口端を吊り上げた。

 

「たとえ子息であろうと、登録の済んだダンジョン閉鎖士は皇帝の持物だ。下手にちょっかいを掛ければ自家に回収する口実を皇帝に与えることになりかねん。まして、わしらの陞爵はハップルカ家への婿入りと一括りであったからな。全ては先代の胸先三寸次第であった」

 

「つまり、それを梃子にしてリーセン子爵を追い落としたと」

 

「ま、そうなるな。わしが『皇帝に付け入れられる隙を抱えた者を取り込むのは家のためになりません』と告げれば、一瞬で事は済んだわ。一応先代も流石にそんな危ない橋を渡るかと疑っておったが、すぐに裏も取れたゆえな。当時は切羽詰まると、こんな間抜けな手を打つものかとも思っとったが、どちらにせよわしは笑いが止まらんかった」

 

「ま、でしょうねえ」

 

頷いた伯爵は白いマグカップに口を付けたのだった。

 

(アルタ)

 

(ん?)

 

(これ、どう見る?)

 

(そうだね……)

 

関係がある様な無い様な……ちょっと判断が難しいけど。

 

(殺されたダンジョン閉鎖士が死ぬ直前に例の冒険者どもに復讐を託したとかねーかな?)

 

(絶対に無いとは言い切れない……かな?)

 

それはそれで、遺言を順守する理由が必要だけど。

 

「取り敢えず、そのダンジョン閉鎖士がリーセン子爵の私生児だったという話から失踪に至るまでの資料を頂けますか?」

 

「ふむ……」

 

頷いた伯爵がパンパンと手を打つと部屋の入口が音もなく開いて、さっきの家令さんぽいお爺さんとは別の、怜悧な風貌をした男の人が入室してきた。

 

「お待たせいたしました」

 

そう言って一礼した男の人に、ハップルカ伯爵は「ガザン、リーセンの奴のダンジョン閉鎖士失踪に関する調査書をこいつらに渡せ」と手短に指示する。

 

「承知致しました」

 

一礼をして退室した執事さんを見送ると、「ふむ」と頷き伯爵様は僕達の方を向き直る。

 

「他に、聞きたいことは?」

 

「そうですね……」

 

水を向けられたこともあって、少し考える……あ、

 

「レミュール夫人」

 

思い付きで口にした名前に、隣のサルバが小首を傾げた気配がする。

 

「レミュール夫人って美人なんですか?」

 

「アルタ?」

 

サルバが不思議そうに呟く中、目の前のハップルカ伯爵は心底愉快そうにニヤッと笑みを浮かべた。

 

「ああ、美人だ。癖のある金髪がよく似合う……私が知る限り一番の美女だとも」

 

そう言って、ニタニタと笑った伯爵様は、しかし、直ぐにその下品な笑顔を引っ込めた。

 

「ああ、言い忘れていたが、調書は資料と引き換えだ」

 

そして、そう言ってきた頃には、いつの間にか部屋に戻ってきていた執事さんが手に分厚い紙束を抱えていたのだった。

 

「お待たせ致しました」

 

そう言って一礼と共に差し出された紙束を受け取ると、ざっと中身を改める。

 

「……」

 

隣のサルバにも見せて凡そブラフではない事を確かめると、ここに引っ張って来た刺客の人達と彼らから吐かせた調書を差し出す。

 それを受け取った執事さんが中身を検めて頷くと、ハップルカ伯爵に書類の方を渡して刺客三人を引きずりながら退出する。すると、分厚い扉越しに「ぎゃっ!?」という短い断末魔が響いて、再び辺りはしんと静まり返ったのだった。

 

「それじゃ、僕達はこれで」

 

「ああ。もう会わないことを願っておるぞ」

 

「それはお互い様ですね」

 

僕がそう言う頃にはもう興味を失っていたのか、黙々と読書に戻るハップルカ伯爵。一先ず退散しようかとサルバの袖を引っ張ると、少しだけ驚いたように見開かれた青い左目と視線が重なったのだった。

 

 

 

 

「良かったのか?」

 

 屋敷の正門から外に出たサルバの第一声はそれだった。

 

「? 何が?」

 

「あの調書。渡しちまってもよ」

 

「ああ、あれ?」

 

「ああ」

 

「それなら大丈夫だよ。どうせ、写しは債権屋さんの手元にあるし」

 

「おい」

 

それって大丈夫なのか? って顔でサルバが突っ込んでくるけど。まあ、大丈夫だよ。

 

「調書を債権屋さんが持っているっていうのがミソで、いくら貴族と敵対しているとはいえ無法者でしかない彼らが単独で提出した証拠じゃ皇帝陛下も動くわけにはいかないんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。けど、僕達の身柄に関して疑義が発生した場合はギルドに持ち込むことで高値で売り付けることが出来るから、そうなってくると主がギルドに替わって効力を発揮する様になる」

 

「なるほど。結構色々と考えてんだな」

 

「ま、常套手段だからね。実際、その辺は伯爵も心得てるはずだよ?」

 

後ろの方、今出てきたばかりの豪邸を振り返れば、丁度二階の書斎の窓から伯爵様とさっきの若い執事さんがこっちを見下ろしているのと目が合った。

 

「!」

 

若干、サルバが驚いたように身動ぎしたのを感じる。まあ、無理も無いか。執事さんは兎も角、伯爵様の視線はさっきのとぼけた感じとはまるで正反対の、底冷えするかのような無機質で情を感じさせないものだからね。

 

「……」

 

きな臭い伯爵の視線に生理的な嫌悪感を覚えたのか、サルバはぶるりと身震いをすると心なしか速足になる。

 

「あ」

 

そうだ、忘れる前にこれを聞いておかないと。

 

「ねえ、サルバ」

 

「あん?」

 

振り返ったサルバの髪が湿った夜風の中でゆらりとしなやかに揺れた。

 

「僕は女の人の事とか良く分からない……というか、他人っていうのが良く分からない性質(たち)なんだけどさ」

 

「どうした、急に自虐始めやがって?」

 

やかましいわ。

 

「美人ってどういう人が多い?」

 

「んん? どうって?」

 

「こう、性格とか、自分の風貌への考え方とか、周りの反応とかそういうの」

 

「……」

 

僕の質問に、自分の胸に四苦八苦しながら腕を組んだサルバは少し考え込む。無理に腕組みなんてしなきゃいいのに。

 

「俺も、そこまで詳しい訳じゃないぞ?」

 

「それでも良いから聞かせて。少なくとも、僕よりははるかにマシだろうし」

 

「ふむ……」

 

頷いたサルバは、思案するように顎を撫でながら徐に口を開いた。

 

「まず、大抵だけど、自分が"美人"って事はよく理解している奴が多いな」

 

「というと?」

 

「んー、なんつーかな」

 

サルバは少し首を傾げる。

 

「別に、自分の美貌を鼻に掛けるとかそういうんじゃねーけど、美人だと何もしなくてもそれなりに融通は利くだろ? だから、自分の見た目ならどの程度の無理が通るかってのは、何年もその(つら)で生きてきたわけだから経験的によく知っている奴が多かったと思う」

 

「成程ね」

 

「中には信じられないアホも居て、男ってのが全部自分の思い通りになると思っている奴も居るし、逆に一切鼻に掛けない奴も居たけど……総じて、自分の顔の良さを理解していないってのは皆無だったな」

 

「理解してない風を装っているのは何人か居たけど」とサルバは付け足した。

 

「ふむ……」

 

そうなると……そうだね、

 

「さっきのハップルカ伯爵の話をサルバも覚えている?」

 

「最後にお前がした質問か?」

 

「うん、それ」

 

「ああ。当然」

 

「それと、債権村で聞いたリーセン子爵の話を繋げてみると……どうかな?」

 

「あ……」

 

やっぱり、サルバもそう思う?

 

「今回の件……もしかして、権力争いとかそっちじゃなくて、滅茶苦茶下世話な事情だったりするのか?」

 

「もしかしたらだけどね」

 

いや、割とさ。

 

「代官なんてやってる時点で貴族としては零細で、普通に考えたらそんな人間を伯爵家の当主であるハップルカ伯爵が知ってるはずがない」

 

「けど、あのじーさんは当然の様にレミュール夫人の容姿を口にした……」

 

「と、いうことは」

 

「ハップルカ伯爵とレミュール夫人がそういう(愛人)関係ってことか」

 

「うん。で、これにリーセン子爵も気付いているとしたら」

 

「食指を伸ばさない訳が無いわな」

 

「で、さっきの質問か」納得がいったように、サルバが小さく頷く。

 

「既にこの辺り一帯を取り仕切るハップルカ伯爵を誑し込んでる夫人が、自分の利益を拡大するためにリーセン子爵を手玉に取ろうとするのはそんなにおかしなことかな?」

 

「いや、全然おかしくねーな」

 

ま、だよね。リーセン子爵からいくら金銭を搾り取ったとしても、ハップルカ伯爵にとっては利にしかならないし。損をするのはリーセン子爵だけだ。

 

「って事はあれか? 全部伯爵の仕込みだったのか?」

 

「んー、それは無いと思うよ。だとしたら、もっと直接的にリーセン子爵を失脚させるためのヒントを口にしただろうし」

 

閉鎖士の件も、こんな旬が過ぎた情報を渡してはこなかったんじゃないかな。

 

「なんてね」

 

「お?」

 

「流石に、今のは推測や妄想混じりだとは思うってこと」

 

全部が全部当たりって事はまず無いと思うから。

 

「だが、いくらかは当たってるんじゃないか?」

 

「かもね」

 

今回の件の原因がいわゆる権力争いとかそっちじゃなくて、割と下世話な事情に端を発しているっていう可能性は案外捨てきれないとは思うし、そっちの方が説得力はあるからね。

 

「ま、その辺は今後とギルド長の調査に期待ってところかな?」

 

「じゃあ、戻るのか?」

 

「いや、まだだよ」

 

むしろ、ここからが本番です。

 

「? まだ何かするのか?」

 

「ダンジョンの閉鎖」

 

「……」

 

債権屋から借りた車の助手席に乗り込んだサルバが「あっ」という顔をする。

 

「完全に忘れてたでしょ? サルバ」

 

「い、いや、忘れてはいないぜ? うん」

 

「忘れてたでしょ?」

 

「あ、あ~」

 

「……」

 

「すまん」

 

「ん。宜しい」

 

トウトウ村の件のせいで、妙な業務ばっかりやっているけど、僕達(閉鎖士)の本業はあくまでこっち(閉鎖業務)だからね。

 

「債権屋さんからもらった、記入済みの地図もあるし、一番近い村で宿を取ろっか」

 

「おう」

 

頷いたサルバがベルトを締めたのを確かめて、車のエンジンを掛ける。アクセルペダルを踏み込むと車が一瞬でスピードに乗って、外の景色が流れては消えていくのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 数日後、予定していた分のダンジョンの閉鎖を完了させてロハグの街に戻って来た僕達は、旅の汚れもそのままに真っ直ぐギルドに続く裏道を歩いていた。

 

「なんつーか……」

 

「うん?」

 

「ああやって不快そうに顔を背けられると、帰って来たって感じがするな」

 

「酷い実感だね」

 

けどまあ分からないでもないか。

 

「閉鎖間際のダンジョン村の人間なんて、そもそもが村に居ないか、自分の置かれている状況に絶望しちゃってるか、逆恨みからダンジョン閉鎖士を殺す事しか考えていないかの三択だからね」

 

そういう意味じゃ、普通に嫌って普通に敵意を向けてくるっていうのはまだ理性と人格が残っている証左とも言えるかな。

 

「で、大丈夫? 久しぶりのロハグに気が滅入ってない? 何なら、普通のギルドナイトにでもなる?」

 

「バカ言うな。俺は絶対に男に戻るんだ。絶対に男に戻って、もう一度ちゃんとエロい店に行くためにな」

 

「前向きだね」

 

「ったりめーだ」

 

ふんっ!と鼻を鳴らしたサルバがキッと青色の左目で空を睨み上げた。

 

射精()すもんも射精()せねーで、何が娼館通いだってんだ!」

 

「溜まってるねえ」

 

「溜まらいでか!」

 

ふーっ!ふーっ!!と発情期の獣みたいに鼻息荒く、しなやかな黒髪を振り乱して殺気を飛ばしてくるサルバ。まあ、事情は知ってるけどさ。

 

「長旅の疲れも相まって我慢の限界だったから、この際女の身体のままでもいいやって恥を忍んでダンジョン村の娼館に入ったっつーのに……

 

 

 

 イッてもイッても、射精()すもん射精()せねーせいで全然イッた気がしーねんだよ!!!!」

 

 

 

「真昼間から往来で叫ぶ台詞じゃないけどね」

 

「!!」

 

「おっと」

 

つい漏らしたら、代わりに殺気が飛んできた。危ない危ない。

 

「ま、それでも娼館に入ったお陰で多少は性欲の方も誤魔化せたでしょ?」

 

「そりゃそーだけどよー……」

 

「それに、その欲求不満は解消できちゃう方がまずくない?」

 

「なんでだよ……」

 

「だって、女の身体でのセックスで満足できちゃうったら、今後一生女の身体のままでも我慢できるようになっちゃいそうじゃん」

 

「怖い事言うなよ!?」

 

悲鳴を上げたサルバは身も心も完全に女になっちゃった自分を想像したらしく、口元を引きつらせながらぶるりと身震いをした。ふむ。

 

「ま、その反応が出てくるってことは、まだ暫く大丈夫そうだけどね」

 

「なら何で言った!? 何で言った!?!?」

 

「気分」

 

それ以外あると思う?

 

「はっはっは」

 

「はっはっは」

 

「せいっ!」

 

「おっと」

 

サルバの膝蹴りをしゃがんで回避すると、僕の肩に手を突いたサルバは綺麗に宙返りをして着地した。

 

「……」

 

「……」

 

「……そろそろお金取れそうになって来てない?」

 

「……慣れって怖ぇわ」

 

そんな事を言いながら肩を竦め合っていると、いつの間にかギルドの前に到着していたのだった。

 

 

 

 

「戻りました、ギルド長」

 

 ギルド長室のドアをノックして中に入ると、丁度手紙を読んでいたらしいギルド長が「ああ」と呟いて顔を上げてきた。

 

「遅かったね」

 

「色々と道中ありましたので」

 

「そっちじゃなく、ロハグの町に入ってから、ギルドに着くのがね」

 

「サルバとふざけてたので」

 

「だろうね」

 

頷いたギルド長が「んで」と手を差し出してくる。

 

「何か分かった事はあったかい?」

 

「んー、まあぼちぼちですかね」

 

そのギルド長の手にロハグに戻って来るまでに用意しておいた記録を乗せる。

 債権屋の持っていたリーセン子爵に関する情報と、それを裏付けるハップルカ伯爵が陞爵活動中に集めた情報、ついでにそれらを基にした僕達の所感を束にしたそれをざっと確認したギルド長が「ふむ……」と呟く。

 

「アル坊」

 

「はい」

 

「お前さんは今回のモンスター増加の旗振り役はどこだと見てる?」

 

「んー、分からないですね」

 

結論としてはだけど。

 

「今回の件、そもそもあの村の冒険者がしてたことの意図や意味も不明ですし、因果関係も明らかじゃないので……。状況を考えればリーセン子爵が比較的臭そうではありますけど、それもまあ当てずっぽうですし」

 

「ま、そうなるだろうねえ……」

 

むふーっと鼻から煙を噴き出しながら、ギルド長がむっつりと頷く。

 

「いっそ、例の冒険者を直接締め上げるのもいいかもしれませんね」

 

「結局は例のピクシーの移送が何を意味しているのか。そこに行き着くからねえ。ま、その場合は騒ぐだろうトウトウ村の連中の口を塞ぐ手立てを先に用意するのが絶対だけどね」

 

そう言って、ギルド長は軽く肩を竦めた。と、

 

「なあ、アルタ」

 

不意に先程から何かを考え込んでいたサルバがポツリと呟くように僕を呼んだ。

 

「なに?」

 

「実は帰り道でずっと考えてたんだがな、例の失踪したっつーダンジョン閉鎖士がトウトウ村の冒険者と同一人物って可能性はねーのか?」

 

「ん?」

 

サルバの疑問に虚を突かれた気がした。見れば、ギルド長の方もまじまじとサルバの顔を覗き込んでいる。

 

「いや、流石に「その可能性、始めから排除しちゃってたけど、むしろよく検討すべきだったかもね」んお?」

 

わたわたと手を振ったサルバだったけど、むしろ大金星かもしれない。考えてみたら、そっち(・・・)の可能性はまだあったよね。

 

「件のダンジョン閉鎖士と、トウトウ村の冒険者なんだけど、明らかに年齢が一致していないし見た目も違うから別人って認識だったんだけどさ」

 

「お、おう」

 

サルバ(性別変わっちゃった元男)に比べれば、年齢とか外見が変わるくらいは全然あり得るかもなって」

 

「はっはっは、この野郎」

 

おっと、危ない危ない。サルバの弾丸が顔の脇を掠めて行った。

 

「だが、今のは良いヒントだったね」

 

僕の言葉を引き継いだギルド長がそう呟く。

 

「改めて、件の冒険者とダンジョン閉鎖士の素性を洗うよ。徹底的にね。最悪、とんでもないもんが飛び出してくるかもしれないが、そんときゃそんときだ」

 

「もしかしたら、大きな政変に繋がったりしてね」

 

「マジかよ……」

 

と、

 

「た、大変ですっ!!!!!!」

 

そんな事を話しながら、細かいところを詰めようとしていると、急に廊下からどたどたと慌しい音が聞こえてきて、ギルドの職員が部屋の中に転がり込んできた。

 

「何だい、慌しいね」

 

立ち上がったギルド長が顔を顰めるが、どうやらギルドの職員はそれどころじゃないらしい。

 

「あ、あの」

 

「落ち着きな。ゆっくりで良いから」

 

そう言って、ギルド長が職員を宥めると「すみません」と息を整えたその職員は立ち上がりふぅと溜息を吐いて険しい顔を向けてきた。

 

「先日、御指示を受けた、トウトウ村の冒険者の件です」

 

「何かあったのかい?」

 

丁度話題に出していた話だけに、ギルド長の顔の皺が深くなる。

 

「件の冒険者に貼り付かせていた職員二名と、監視対象の冒険者五名……

 

 

 

 

 昨晩未明、ダンジョン内での全滅が確認されました」

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「「「……は?」」」

 

 

 

 

 




9/7のデイリー85位とオリジナル23位取れました。どうもありがとうございます!!

20/7/24 みずーり様誤字報告誠にありがとうございます!修正いたしましたー

20/10/30 ノノノーン様誤記報告誠にありがとうございます!修正いたしましたー

25/11/24 初崎 楪様、誤字報告ありがとうございます!修正いたしましたー
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