ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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こんにちはこんばんは。小名掘天牙でございます。

今回も読んでくださり誠にありがとうございます!
おかげさまで、UA17,000を突破することが出来ました!!

また、作品のご評価、ご感想下さった皆様も大変ありがとうございます。
改めて御礼申し上げますm(__)m

一章に関しては主人公であるアルタのキャラ付けがメインになりますが、
二章からはサルバの苦悩などを書く予定です。
そこから、こう、メス堕ち迄の筋道を立てたいなと思っております。

自分で書いていて長い道のりになりそうですが、お付き合いいただけましたら幸いです。

また、今回も例に漏れずご感想、ご評価などお待ちしておりますので、宜しければぜひ宜しくお願い致します。
ではではノシ


P.S.今回からなろうでもマルチ投稿開始いたします。
  正直、これまで自信が無かったのですが、皆様より頂きましたご評価に勇気を頂けたので行ってみようと思います。
  誠に勝手ですが、ありがとうと言わせてくださいませませノシ


第十二報 襲撃

 ギルド長室に駆け込んできた職員の報告を聞いて、判で押した様な間抜けな声を上げた僕達は殆ど同時に互いの顔を見合わせた。直後、歪んだサルバの口元に、急いで両耳を塞ぐ。

 

「はああああああああああああああああああああ!?!?」

 

案の定響いた絶叫。それをもろに受けたギルド長が煩そうに顔を顰めた……あー、はい、止めろと。どうしよっかな……よし。

 

「なななっ!?」

 

「てい」

 

絶叫が終わった後もあうあうと口をわなつかせるサルバの前でパンッと手を打つ。

 ふぁさりと揺れた前髪の隙間から覗く、大きく見開かれた左目の青と視線が重なった。

 

「……落ち着いた?」

 

「お、おう」

 

 コクコクと頷いたサルバの雰囲気が平静に戻ったのを確かめて、僕も手を下す。

 

「サルバって前髪で半分隠れちゃってるけど、口元だけでも大概表情豊かだよね」

 

「なんだよ、分かりやすいってか?」

 

「うん」

 

そうとも言うね。

 

「……」

 

僕が全肯定すると、若干不服そうに唇と尖らせるサルバ。あれ、もしかしてクールキャラでも目指してた?

 

「別に、そういうんじゃねーけどよ」

 

バツが悪そうに頭を掻いたサルバは、それを誤魔化すように「んで?」と首を傾げる。

 

「お前が落ち着き払ってるっつーことは、予想出来てたって事なのか?」

 

「いや、流石に予想は出来てなかったよ?」

 

というか、もし予想出来てたら先にサルバに言ってるし。

 

「の、割りには随分と落ち着いてるじゃねーか」

 

「別に冒険者が突然野垂れ死ぬのなんて、今に始まったことじゃないしね」

 

「そりゃそーだ」

 

僕の言葉に、サルバも得心がいったようにケラケラと笑った。

 

「ま、それはそれとして、随分とタイミングが良いなとは思うけどね」

 

「だな」

 

頷いたサルバが僅かに口角を持ち上げる。

 

「さっきサルバが言ってたように、例のパーティが元ダンジョン閉鎖士だったとしたら、ギルドのやり口もよくよく心得ているはずだからね」

 

「後ろに手が回ったって感付いてケツまくった可能性があるか」

 

「断定はできないけどね」

 

僕が首肯すると、サルバも同意する様に頷いた。

 

「じゃあこっからどうすんだ? 奴らを追っかけて、また情報収集か?」

 

「いや、特に何もしないけど」

 

「は?」

 

ポカーンとして「何言ってんだこいつ?」みたいな顔をしてるけど、ほぼ確実に忘れてるよね。

 

「え? 何もしねえの?」

 

「うん」

 

当然。

 

 

 

「何でだ?」

 

「だって僕達、ギルドナイトじゃなくてダンジョン閉鎖士だし」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……そういやそうだったな」

 

「やっぱり忘れてた」

 

案の定だね。

 

「この前も言ったけど、僕達の本業はあくまでダンジョンの閉鎖だからね。情報収集も殆ど例外的にやっただけだし、今回の件もこれで一段落って言えば一段落だろうし」

 

もし、債権屋に追加で聞くことが見つかったら、出掛ける事にはなるかもしれないけどね。

 

「……」

 

「納得いかない?」

 

「いや……そうじゃねえけど」

 

少し首を傾げたサルバの仕草に、何となく「真面目だね」と揶揄うと「そんなんじゃねえよ」と不機嫌そうに口を尖らせた。

 

「じゃあ、もう本当に良いんだな?」

 

「良いというか、僕個人としては拘る理由が無いからね」

 

僕の担当部分は完全に終わったし。これ以上頭を悩ませるのはギルド長だけで良いでしょ?

 

「おいこのクソガキ」

 

「ね?」

 

「言われてみりゃ確かにそうだな」

 

青筋を浮かべているギルド長に「じゃあ、そういう事で」と断ってギルド長室を出る。後ろでギルド長の深い深い溜息が聞こえたけど……ま、別にいっか。

 

「それで流す奴を初めて見たけどな」

 

「そう?」

 

「いや……お前がそうする(あっさりと流す)のは今に始まった事じゃないか」

 

「むしろ、三歳頃にはもうこんな感じだったんじゃない?」

 

「いやな三つ子の魂だな」

 

「時々言われるね」

 

よく(・・)じゃなくて、時々(・・)なのが無駄に本当くさいな」

 

「でしょ?」

 

そもそも、僕って人と話す機会自体が殆ど無いしね。

 

「んで?」

 

隣で肩を竦めたサルバが、こてんと首を横に倒す。

 

「ん?」

 

「それじゃあ、もう通常業務に戻るってことで良いのか?」

 

「うん……多分ね」

 

他にすることもないしね。

 

「多分なのか?」

 

「僕達下っ端の仕事なんて、状況とギルド長の指示次第でコロコロ変わるから」

 

特権染みた部分はあるとはいえ、所詮は末端構成員だし。断定は難しいよね。でも、まあ、

 

「どちらにせよ、その時には指示が来るだろうから、それまでは通常業務(ダンジョンの閉鎖)に勤しみましょってね」

 

ま、気になるなら気になるで大丈夫だと思うけどね。

 

「? つーと?」

 

「さっきの話だけど、サルバも釈然としていなかったように、まだ一波二波、事態は転がりそうだったでしょ?」

 

どう考えても、あれで一件落着なんて有り得ないしさ。

 

「そりゃ……確かにな」

 

「でしょ? そうなったら、多分、またダンジョンの話になるからね」

 

むしろ、トウトウ村が最後の手掛かりになるだろうから……、

 

「ギルド長が焦れるにせよ、どっしりと構えるにせよ……何処かのタイミングであの村のダンジョンは閉じることになると思うしさ」

 

「……」

 

「それまでは、気長に待つくらいの気持ちで良いと思うよ?」

 

「……」

 

じっと前髪越しにこっちを見ていたサルバが「ふぅ……」と溜息を吐いた。

 

「じゃあ、今から次のダンジョンに行くのか?」

 

「そのつもり」

 

「そうか」

 

頷いたサルバが、すたすたとギルドの外に足を向ける。その小さな背中とゆらゆら揺れる後ろ髪を見ながら、逆に「良いの?」と確かめると無言のまま肩を竦められた。「消化不良なのは事実だけどな」と付け足して、サルバは「それより」と首を傾げる。

 

「お前がもう一波来るって見てるって事の方が心配ではあるな」

 

「そう?」

 

「おう」

 

何か、凄く力強く頷かれた。

 

「だって、お前の捻くれた見立てって、悪い方向にやたらと当たりそうだし」

 

「はっはっは」

 

この野郎。

 

「それより、次は何処に行くんだ?」

 

「トウトウ村から少し北に離れたリーセン子爵領との領境」

 

振り返ったサルバに、閉鎖予定ダンジョンのリストを渡す。

 

「ダンジョン開通前は果樹の栽培なんかしてたみたいだけど、ダンジョンが出来てからはお土産用にちょっとしか作らなくなったみたいだね」

 

「あからさまにダメな臭いしかしねえ村だな」

 

「僕もそう思う」

 

割と本気で。

 

「よし、んじゃあ行くか」

 

「ん」

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 トウトウ村の件が一段落して最初の閉鎖は、ここ最近の目まぐるしさが嘘のようにあっさりと完了した。それこそ、サルバが「なんか拍子抜けだな」なんて呟くくらいには。でもまあ、普段は大体こんな感じだよ?

 

「そうなのか」

 

「うん」

 

所詮、無機物相手の仕事だし。むしろ、この後の方が面倒なくらいだ。

 

「という訳で此方が見舞金です。お納めください」

 

「ど、どうも……」

 

ダンジョン村に戻っていつも通りハップルカ伯爵からの見舞金を差し出すと、これまたいつも通り引き攣った表情で受け取る村長さん。こっち(ギルド)からすれば、妥当どころか手厚すぎて涙が出るくらいなんだけどね。

 

「お前はこの程度じゃ泣かないだろうけどな」

 

「それはまあ、その通り」

 

というか、泣ける要素とかあるの? ……なんてね。

 

「……」

 

 どうやら、今日の村長さんは割と理性的な性質(タチ)だったらしく、少しの間何か物思いに耽るように空を見上げてから、やがて「ふぅ……」と諦念混じりの溜息を吐くと、見舞金をポケットに入れて、静かに頷いたのだった。

 

「我らのダンジョンも、終わってみれば、この程度ですか……」

 

「……」

 

ひょろりと痩せた鶴のような村長さんは、潤んだ瞼の隙間から郷愁ともつかない色を乗せてポツリと呟いた。

 

「夢の終わりは、いつも儚いものですなあ……」

 

「夢があっただけ、マシかもしれないですけどね」

 

ダムツ帝国はダンジョンの発生率がとても高い土地柄ではあるけれど、全ての村がダンジョンを保有できる訳じゃない。その有無は完全に運に左右され、終生その機会に恵まれない人達も少なくはない。そういう意味じゃ、この村長さんの言う“夢”もまたある種の贅沢ではあるのだ。

 

「……」

 

けど、村長さんはまだ御不満なのか、物凄く複雑そうな顔で此方を見返してきた。んー、そうだなあ……、

 

「それに、目覚めも悪くないじゃないですか。見舞金どころか閉鎖に掛かる費用をダンジョン村から徴収する貴族の方が多数ですし」

 

「そう……ですか……」

 

僕の言葉に、今度は村長さんも考え込む様な表情になる。これも別に嘘じゃない。まあ、その根底にあるのが平民への慈悲なのか、所有物の責任は持主の責任というバリバリの貴族思想の産物なのかは置いておいてだけど、少なくとも額面上はハップルカ伯爵の持ち出しになっている。

 

(ま、だから喜べって言う気もないけどね)

 

(ほんと適当だな、その辺)

 

そう言うけど、別に真剣になる話でもなくない? 所詮はハップルカ伯爵の領民慰撫政策でしかないし、何ならなぜそれをこっち(閉鎖士)に代行させてるのかと。

 

(そういや、なんで閉鎖士がやってんだ?)

 

(慣例)

 

けど、現場の僕達としてはやるメリット無いし、何なら無くなってくれた方がありがたいまである話だ。村の人達に襲われるのって、大体が見舞金を渡した直後くらいだからね。

 

(それはもう、お前の出し方が悪いんじゃねえの?)

 

(そもそも、こんな慣例が無ければその機会も無いし)

 

(そりゃそーだ)

 

そう囁いて、サルバはヒョイッと肩を竦めた。

 それに、僕の出し方が良かろうが悪かろうが、逆上する人間は逆上してくるしね。そういう意味でも、債権屋さんが食い込んでる村は面倒が無くていいよ、実際。

 

(ま、その辺は分からんでもないけどな)

 

(でしょ)

 

そりゃ、こっちも心情的に少しはサービスしようかって気にもなるよね。

 

「まあでも、今回はその辺の心配は不要かな」

 

「ん? ……ああ」

 

一瞬首を傾げたサルバはすぐに納得した様にコクコクと頷く。

 僕の話を聞いてから、当初の諦念混じりの空気を薄れさせ多少なりとも納得の表情を浮かべる村長さん。その瞳に滲むのは他領のダンジョン村に対する微かな優越感……かな? ま、どっちでもいいけど。

 

「じゃ、僕達はこれで」

 

一応最後に声を掛けると、僕より先に立ち上がったサルバがすたすたと部屋を出ていく。その背中で揺れる黒髪を追いかけていると、後ろの方から「あ、ええ……」という力の無い生返事だけが聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

 閉鎖を終えたダンジョン村から出て街道を歩いていると、隣のサルバが小さな溜息を洩らした。

 

「サルバ?」

 

「んあ?」

 

「どうかしたの?」

 

声を掛けてみると、妙に緩慢な反応と一緒にムニムニと額を揉んだサルバが「ん~……」と首を傾げた。

 

「いや、大したことじゃねーよ」

 

「なら丁度いいね。鬱屈は大したことじゃないうちに吐き出しとくに限るし」

 

「……」

 

「? どうかした?」

 

「お前が上司っぽいというか常識っぽい事を言うなんて思わなかったから素直に驚いた」

 

「はっはっは」

 

この野郎。

 

 

僕は剣を抜いた

サルバは走って逃げだした

 

 

甘いね。

 

「どぅおおおおおおおおおおおお!?!?!?」

 

「ざまぁ」

 

逃走を決めたサルバの足元を狙って片刃剣の鞘を投げ付けると、それに足を取られたサルバは草原の上にずっこけたのだった。

 

「よっと」

 

「ぐえ」

 

ついでに仰向けに倒れたサルバの胸に足を乗せると、カエルが潰れたような呻き声と共にむにむにとした感触がブーツ越しに足へと伝わってきた……ああ、おっぱいのせいか。

 

「ほらほら」

 

「ぐえっぐえっ、ぐえぇ……」

 

はっはっは。……、

 

「ねえ、サルバ」

 

「あん? なんだ?」

 

「なんか、おっぱい大きくなってない?」

 

「……」

 

何となく勘で聞いてみると、サッと顔を背けられた。……え、本当に? ……、

 

「まあ、別にどうでもいっか」

 

「俺にとっては男としての尊厳に関わる話なんだけどな!」

 

「僕がそうなった訳じゃないし」

 

「前言撤回! やっぱお前はデリカシー無しの糞野郎だ!!」

 

「何を今更」

 

「それもそうだな」

 

「「……」」

 

僕が剣を振りかぶるのと同時に、踏み潰されたままのサルバが拳銃を引き抜いた。

 

「で、実際どうなの?」

 

「それは乳の話か?」

 

「もちろん落ち込んでいる理由の方だよ?」

 

それ以外にある訳ないじゃん。

 

「……この体勢で言うなよ」

 

呆れ半分に口を緩めたサルバが銃を下ろして小さく肩を竦めた。別に体勢はどうでも良いんじゃないかな?

 

「いや、まあそうか?」

 

「少なくとも僕はどうでも良いかな」

 

「この常識無し」

 

「失礼な」

 

別にどうでも良いけど。

 

「いや、本当に悩みって程じゃないんだけどな……」

 

 それでも話す気になったらしいサルバは「ふぅ……」と小さく溜息を漏らす。

 

「こう、お前にくっついてダンジョン閉鎖士の手伝い始めてから、多少なりとも村を回っただろ?」

 

「そうだね」

 

期間的にはまだ駆け出しの範疇だけど、数だけなら結構なペースでもあるだろう。

 

「んで、その度にああいうやり取りを繰り返してると、気が滅入るって程じゃねーけど、何となく嫌な気分になるなって思ってな」

 

「ああ、そういうね」

 

はいはい。

 僕自身は正直経験も無いから共感もあんまり出来ないけど、そう感じる人はいるよね。まして、サルバみたいに既に倫理観が出来上がった後にこういう仕事(ダンジョン閉鎖士)をするようになったのなら猶更。うーん……、

 

「こういうのって特効薬とかは無いし、僕も正直共感することは難しいんだけどさ、一応話を聞くくらいならするから……まあ、強いて言えることがあるとしたら、本当に限界を迎える前にちゃんとギブアップしてねってくらいかな」

 

「んにゃ、サンキューな。自分で捻じ込んでおきながら無茶言ったのに」

 

「別に気にしなくて良いよ。普通そういう物らしいし」

 

「他人事だな」

 

「実際他人事だからね。僕の場合は子供のころからこれが日常だったから」

 

「嫌な日常だな」

 

そこでようやく、ふっと表情を緩ませたサルバが二度三度と頷く。おっぱいから足を退けると、立ち上がってパンパンとお尻を叩いていたサルバが思いついたように「お前って、女衒とかやったら大成したんじゃねーの?」と褒めてるのか褒めてないのか分からないことを言ってきた。

 

「んー、多分無理じゃない?」

 

「ほーん?」

 

「何を指してそう思ったのかは分からないけど、今の僕はダンジョン閉鎖士として育てられたから出来上がった部分が多いだろうから」

 

「それじゃ、確かに無理だ」

 

「でしょ」

 

ま、正直興味も無いから、逆に流れでそういう仕事に就いていた可能性は無きにしも非ずだけどね。

 

「適当だなー」

 

「かもね」

 

サルバはけらけらと笑った。

僕は軽く肩を竦めた。

 

「ん?」

 

と、しょうもない話をしながらダラダラと歩いていると、不意にダンジョンの物とも冒険者の物とも違う、鼻の奥にツンと突き刺さる様な悪臭が漂ってきた。

 

「どうした?」

 

サルバはまだ気付いていないみたいだけど、なんか嗅いだことがあるような……あ、

 

「これ、車?」

 

「あん?」

 

何の気なしに呟いた僕の隣で、小首を傾げたサルバだったけど突然何かに気が付いたように「おい、あれ」と街道の先を指差した。

 サルバの指の先を見れば、そこには薄暗くなった黄昏時の街道上で弾むように揺れる一対の光の玉があった。

 

「……」

 

まさか、ウィルオウィスプでもあるまいよなと思ってその光の玉を見ていると、次第にそれはブロロロロッという音を巻き上げながら大きくなっていく。近付いてきてみれば何のことはない、車体全体が黒で塗られた大きな自動車のヘッドライトだった。そして、道を開けるために街道横に出た僕とサルバだったけど、

 

「あれ?」

 

「あん?」

 

僕達を通り過ぎたはずの自動車は、なぜかほんの少し進んだところでキキッ!とブレーキ音を上げて停止してしまったのだった。

 どうしたんだろ?と思って見ていると、カチャリと音を立てて開くドア。そしてその奥からムワッと上物の香水の臭いが強く漂ってくる。

 

「そこの。もしや過日のダンジョン閉鎖士か?」

 

そして、開かれたドアの奥からヒョコッと顔を出したのは瓶底眼鏡の狸おやじ。その言葉の通りつい先日対面したハップルカ伯爵の姿があった。

 

「お久しぶり……ってほどじゃないか。こんばんは、ハップルカ伯爵」

 

仮に車の中で僕達のことに気が付いたとしても、態々声を掛ける理由も無さそうな近隣最大の権力者に、僕は疑問を抱きながらも一応の礼を返してみた。

 

 

 

 

「……なあ、アルタ」

 

「なに?」

 

「どうしてこうなったんだ?」

 

「さあ?」

 

「おい」

 

「しょうがないじゃん。この状況引き起こした張本人じゃないんだし」

 

「まあ、そりゃそうなんだが……」

 

ポリポリと頭を掻くサルバを前にしながら、奥にゆったりと腰掛けるその張本人(ハップルカ伯爵)へと目を向ける。

 

「で、何でですか?」

 

「って、直接聞くのかよ」

 

「? だって、聞かないと分かんないじゃん」

 

「それもそうなんだが……」

 

「相変わらずだな。ロハグのダンジョン閉鎖士」

 

むにゃむにゃと口籠るサルバと僕を見比べながら、妙に感心したような口振りで呟くハップルカ伯爵。

 

「はあ……」

 

何が相変わらずなのかはよく分からないけど。それよりもだ、

 

「もう会わないことを願ってるとまで言ってたのに、あっさりと心変わりした理由くらいは聞いてもいいと思うんですけど?」

 

少なくとも、相応に時間を取られる訳だし。

 

「あー……そうだな」

 

「……」

 

「お前達はレミュールに手を突っ込んでいるのか?」

 

……あれ?

 ハップルカ伯爵の口から出た少し意外な名前に僕はサルバの方を向く。サルバの方も同じことを思ったのか、怪訝そうな雰囲気を漂わせながらこっちに顔を向けてきている。

 

(何でレミュール夫人なんだ?)

 

(さあ?)

 

一応、トウトウ村の代官に名前が載ってはいるものの、その上がハップルカ伯爵本人であることも相まって、レミュール夫人が捜査線上の本命に上ったことは一度も無かった。まあ、その辺抜きにして、答えは決まり切ってるけど。

 

「僕達の手を離れた話なので、その質問には回答出来ないですね」

 

「おい」

 

なぜか伯爵じゃなくて目の前のサルバから突っ込まれた。どうやら、サルバ的に間違った回答だったらしい。ふむ……

 

「もう降ろしてください」

 

「だから言い方ぁ!!」

 

「いふぁいいふぁい」

 

「……本当に相変わらずみたいだな」

 

こっちもハズレだったらしく、思いっきり両頬を抓られる。そして、なぜか僕達を見比べていた伯爵からは訳の分からない感想を言われた。ま、別にいいけど。

 

「お前達なら何か知っているかもしれんと思ったが、手を離れたということはギルド預かりか……となると、ギルドは長期的な話になると見た訳だな」

 

「単に職域外の話だから抜けただけですけど?」

 

「それでも容易に片が付くのであれば、態々引き継がせる手間を省くだろう」

 

ま、それはその通り。

 

「手詰まっているのか?」

 

「手詰まっていてほしいんですか?」

 

「……」

 

僕が聞き返すと、何かを思案する様に口を噤んでしまう伯爵。さっきから、分かりやすいくらいに探る様な事を尋ねてくる。

 

「僕達を乗せた理由がそれだけなら降りますね」

 

ロハグへの帰り道と真逆の方向に走行している自動車にいつまでも乗っている理由もないし。

 

「ドア開けて、サルバ」

 

「あ、ああ「待て待て」

 

「良いのか?」という顔をしたサルバに「良いから」と促すと、伯爵が少し合わせた様に割って入って来た。

 

「何ですか? まだ何かあるんですか?」

 

「いや、訳分かんねーって顔してっけど、訳分かんねーことしてんのはお前の方だぞ」

 

「そうかな?」

 

「そうだろ」

 

んー……

 

「まあいいや」

 

「いや、よくねーから」

 

なぜかサルバからペシリと頭を叩かれた。

 

「そうは言うけど、現状は単純に時間の無駄だよ?」

 

まして、何も話す気が無いなら猶更。

 

「お前は……」

 

「?」

 

「お前はダンジョンの何かしらを解決したくて、屋敷に踏み込んできたのではないのか?」

 

「いえ、別に?」

 

「……」

 

「ギルドからの指示でやっただけで、僕個人としては特に何とも思ってません」

 

「……」

 

なぜだろ、正直に答えただけなのに目の前にあるハップルカ伯爵の顔が明らかに硬直しているし、隣のサルバも隣のサルバで絶句した様にあんぐりと口を開けている。なに? 何か言いたいことがあるなら聞くけど?

 

「まさか……」

 

「?」

 

「まさか、そんな程度の覚悟で私の屋敷に踏み込んできていたとはな……いくらそれほどの腕があるとはいえ、私の屋敷に踏み入って来るのであれば激発する火薬の様に厄介な正義感を内に秘めているのかもしれんと思ったのだが」

 

「はあ……」

 

よく分かんないけど、

 

「特段現状に価値を見出してなければ、行動に覚悟みたいなものは必要ないと思いますよ」

 

多分ね。

 

「の……ようだな」

 

深々と溜息を吐くハップルカ伯爵。なんか、この前に会った時よりも大分老けた気がしないでもない。

 

「ていうか、サルバもそう思ってたんだ?」

 

「いや、お前が殊勝なことを考えてるとまでは思っちゃいなかったぜ? けど、逆にそこまで何も考えてねーとも思わなかった」

 

「そうかな?」

 

「だって、お前割と貴族の資産辺りには気を使ってただろ?」

 

「あー……」

 

まあ、サルバからしたらそう思えなくもないか。

 

「それはほら、手を出す方が面倒になるし」

 

逆に言えば、面倒が無くなるなら全然手を突っ込むし、同じく貴族に配慮もするだろう。

 

「割り切るなあ……」

 

「自分では特別意識もしてないんだけどね」

 

「それもそれでどうなんだ」

 

僕が正直な感想を伝えると、サルバはふーっと長い長い溜息を吐いた。

 

「これで、あんだけの腕を持つっていうんだから、世の中分かんねーよな」

 

「少々頭の螺旋が外れているくらいの方が特定分野に秀でるのもまた世の常よ」

 

なぜかサルバとハップルカ伯爵が妙な意気投合をしている。んー……ま、いいや。

 

「で、続きやります?」

 

「いや、結構だ。これ以上は不毛な事にしかなるまい」

 

「でしょうね」

 

ご賢察痛み入ります。

 

「それに、変な色気を出さずとも、私の方に利がありそうだからな」

 

(じゃあ、最初からそうしとけよ)

 

(しょうがないよ。この辺の回りくどさは貴族同士なら潤滑油にもなったりするらしいし)

 

「聞こえているぞ」

 

「「あ、はい」」

 

「それよりも、どこから話したものかな……」

 

フンと鼻を鳴らして腕を組んだハップルカ伯爵が少し思案する様に顎を撫でる。

 

「まあ、結論から言うとだ、レミュールの奴が私と会いたがらん」

 

「レミュール……レミュール夫人のことですよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

頷いたハップルカ伯爵がぎょろっと視線を向けてくる。

 

「……そんなこともあるだろうとは言わんのか?」

 

「まあ、ハップルカ伯爵の呼び出しなら、この辺りの貴族は誰でもすぐに顔を出すのが普通でしょうから」

 

「私の屋敷に抜身の刀を握って押し入ってきておきながらよく言うな」

 

「それはそれ、これはこれです」

 

そもそも、僕は区分が違う(貴族の配下じゃない)し。

 正直に答えると、ハップルカ伯爵はもう一度鼻を鳴らした。

 

「まあ、お前達のことは置いておくとしてだ、あれが私の呼び出しに応じんのはもう一つの意味でもあり得んのだ」

 

「と、言うと?」

 

「分からんか?」

 

「……あー、もしかして」

 

「あれか……」

 

少し考えた僕とサルバは、揶揄う様にニタリとした粘っこい笑みを浮かべた伯爵に、少し前に二人で推測半分に話していた可能性へと行き着いた。

 

「レミュール夫人って伯爵の」

 

「ああ。愛妾だ」

 

「やっぱりそうだったんですか」

 

伯爵の家に踏み込んだ帰りにサルバと話していた予想はどうやら大当たりだったということらしい。

 

「あれは帝都で見初めた村娘でな、聞けばこの辺の出だというから騎士爵を与えて私の領地の代官に仕立ててやったのよ」

 

(うーん、この言い草)

 

(愛妾って言っておきながら、愛の欠片も無さそうだな)

 

(ペットとかそういう感覚なのかもよ。ほら、“愛犬”とか言うし)

 

(あー……)

 

納得した様に頷くサルバ。ま、人間関係としてはそんなものだよね。けど、そうなると猶更分からないことがある。ハップルカ伯爵の話が全て真なら、レミュール夫人は伯爵への反抗どころか伯爵が白と言えば黒も白と答える様な立場だということだ。もちろん、ベッドで主導権を握られてる可能性は無いでもないけど、この様子だと、その可能性も大分低そうに見える。となれば、伯爵に対して音信不通っていうのはありえない話なんだけど……、

 

「レミュール夫人の所に突っ込んでないか聞いたのは、レミュール夫人の裏を取る物差しのためでしたか」

 

「……」

 

伯爵から返って来たのは沈黙だったけど、その沈黙は何よりも雄弁だった。……うん、

 

「帰るよ、サルバ」

 

「い、良いのか?」

 

「結局、これ以上は伯爵とレミュール夫人の下半身の問題でしかないからね」

 

仕事でもないのに、馬に蹴られる趣味もないし。

 

「やはり、貴族を屁とも思ってないな。ダンジョン閉鎖士」

 

「いえ?」

 

苦虫を嚙み潰したような表情のハップルカ伯爵の言葉を、僕は本心から否定する。

 

「僕は貴族(・・)貴族(・・)だと思っています」

 

「……」

 

それを言うと、なぜか伯爵が噛み潰した苦虫が百倍に増えたような顔をする。

 

「それって、つまりどうでもいいって事じゃねぇか」

 

「うん、そうだよ」

 

 呆れたように苦笑するサルバに肩を竦め返して、そろそろ本当に車を止めてもらうために前方座席の間から運転席を覗き込む。

 

「すみません、降りたいので止めてもらえますか?」

 

上級貴族の運転手らしく、乗車してから一言も口を開くことなく運転に従事していたドライバーの人に声を掛けてみる。

 

「……」

 

「……ん?」

 

けど、僕が声を掛けた後も反応は無く、それどころか一切ハンドルを止める様子もない。

 

「あのー」

 

「……」

 

「もしもーし」

 

「……」

 

車体全体に響く走行音のせいで聞こえないのかと思って何度か呼び掛けてみるものの、やっぱり反応が見られない。そうしているうちに、後ろのサルバも妙に思ったのか「おい、どうしたんだ?」と言いながら運転席の方に身を乗り出してきた。と、

 

「うおっ!?」

 

「わぷっ……」

 

不意に車体全体がガタンッと大きく揺れて、バランスを崩したサルバが抱き着いてくる。幸い体格のお陰もあって運転席の方に投げ出される様な事はなかったけど、近場に居たせいで僕の頭を抱きかかえる様な体勢でしがみついてきてしまった。おかげでサルバの大きなおっぱいに顔が埋まってちょっと苦しい。で、それはそれとしてだ、

 

(流石におかしいでしょ)

 

僕達の会話の最中、常に気配を消していたのは分かる。けど、今みたいに路肩の石を踏ん付けておいて、謝罪の言葉も無いのは明らかに変だ。

 

「アルタ」

 

「……」

 

流石に異変を感じて声を潜めるサルバを軽く押し留めて、運転席の方に目一杯身体を乗り出す。

 

 

 

果たしてそこに居たのは、道なりに揺れるハンドルに手を置いただけの虚ろな目をした運転手だった。

 

「シッ」

 

即座にその側頭部を殴り付けて運転席から退かす。ガラス窓を突き破っていった人形がドサッと草原に落ちたのを遠くで聞きながら代わりに運転席に滑り込んで、そのまま急すぎない範囲でブレーキを踏む。

 

「「……ふぅ」」

 

一拍置いて車が停車すると、僕とサルバはどちらともなしに溜息を吐く。

 

「今のは一体?」

 

「さ!?」

 

顔を向かい合わせて同時に首を傾げた瞬間、微かに鼻尖に触れた鉄と饐えた甘いリンゴの臭い(・・・・・・・・・・・)に、僕は咄嗟にサルバを突き飛ばす。すると今度は僕達顔前を銀色の閃光が(はし)ったのだった。

 

(槍?)

 

その銀閃の正体を経験則的に感じながら、短刀でその伸びきった柄を斬り落とす。

 獲物を仕留め損ねて巣に逃げ帰る黒蛇(・・)を見送りながら、一先ず呆気に取られてるサルバに「降りるよ」と声を掛ける。状況は掴めないけれど、少なくともこの狭い()の中に居るのは良くはないだろう。

 頷いたサルバと同時に、反対側面のドアから外に飛び出す。すると案の定と言うべきか、整わない体勢を狙って腐ったリンゴの臭いが押し寄せてきた。

 

「とっ」

 

まあ、流石に読めてるけど。

 まだ慣れてない目の代わりに、聴覚に任せて大まかな軌道を想定する。運の良いことに、それは上段からの振り下ろし。そして、僕の前には開きかけの高級車のドアがある。

 即座に両脚の力を抜いて体重を落とすと、半開きになったドアにガンッと音を立てて大きな斧が食い込む。

 

(お、流石高級車)

 

伯爵の財力調達された自動車は流石に頑丈な鉄板が使われているらしく、戦斧は両断までいかない。そして、扉の半ば頃まで切裂いて停止した斧が抜かれないうちにドア下から抜け出すと、ようやく見えた人間の脚を斬り上げながら走って距離を取る。

 ガサガサと纏わり付いてくる雑草を掻き分けてからある程度饐えた臭いと離れたところで振り返ると、大きな背中の人影が振り下ろした戦斧を車のドアから引き抜いたところだった。

 

(……あれ?)

 

ゆっくりと振り返った大きな人影。その姿に幽かな違和感を覚える。

 自動車の灯りを背負っているせいではっきりとは判らない。けど、その体格に見覚えがある様な……

 

「まあ、どっちでもいっか」

 

どうせ、敵であるという事実は何にも変わんないんだしね。

 再び相対した影の前で、見せ付ける様に片刃剣を引き抜く。なるべく所作と切っ先が広く目立つようにと気を付けながら。

 

「……」

 

すると、戦斧を胸前で斜めに構えた人影はガサッ……ガサッ……と雑草を掻き分けながら、ゆっくりとこっちに近付いて来る。

 

(間合いまで、後三……二……)

 

その瞬間、パパンッ!!と軽い破裂音が響いて、影の頭部から熱い粘液が噴き出す。そして、夜風の中にムワッと鉄錆の臭いを帯びた湯気を立たせて、戦斧を持ったそれはどうと前のめりに倒れ伏したのだった。

 

「アルタ!」

 

「ん、ありがとサルバ」

 

伯爵の自動車の裏から駆け出してきたサルバの白い肌に向かって軽く短刀を振って合図をする。

 

「よく気付いてくれたね」

 

「お前にしちゃありえねーくれー緩慢な動きだったからな」

 

そう言って、サルバは軽く肩を竦める。うん、それは重畳重畳……かな?

 

「それにしても、一体どこの何様だ?」

 

「んー、取り敢えずそれを確認する感じかな」

 

 訝るサルバに伝えながら、殺したばかりの死体に向かう。

 

「おっと」

 

けどその瞬間、眉間を穿たれたはずのその死体がガサガサッ!!と音を立てて、その場に再び立ち上がったのだった。

 

「なっ!? 死んで!?」

 

「あ、それは今いいから」

 

後ろで驚愕した声を上げるサルバの意識を訂正しつつ、すぐに片刃剣に手を伸ばす。

 

「膝」

 

そして、破壊部位を指示すると、僕の方も僕の方で影が掲げた戦斧を支える手首へと抜き打ちの切っ先を叩き付ける。

 

(人間の生死はもう通じなさそうだけど、重量比を考えれば手首まで刻めば戦斧は振るえないはず……)

 

そんな思案をしながら柄の頭に近い側の手首を斬り飛ばすと、刃先に近い側握っていた手首を軸に戦斧がぐるんと回って、根元を斬り離したばかりの手首がスポーンと草原の仲へと飛んでいく。

 

「よっ」

 

次いで、戦斧を握ったままの捩れた手首の方も斬り捨てると、ゆっくりと地面に落ちた戦斧の刃が草の間にサクリとめり込んで、最後にその膝先がサルバの弾丸によって砕かれた。

 再び、緩慢な動きで崩れ落ちる男の死体。その死体の肘と肩、そして鼠径部を念のためすぐに切断していく。仮にまだ動けたとしても、これで最悪即座の致命的な攻撃は出来なくなったはずだ。後は、

 

「これが最初の槍の持主と同一人物なら楽なんだけどね」

 

「流石にそんな都合のいい展開はねーよな!?!?」

 

口調は砕けながらも油断なく拳銃を抜いたサルバが頷きかけた瞬間、何も無い夜の草原に突然ポウッと大きな光球が膨れ上がった。

 その光球は一度収縮すると丁度僕達が走っていた砂利道を逆走して、まだハップルカ伯爵が乗っているはずの自動車に真正面から着弾する。瞬間、そのエンジンに引火したのか、黒塗りの高級車は巨大な炎を巻き上げて爆発したのだった。

 

「あ、死んだ」

 

「おい!?」

 

「構えてサルバ。次はこっちに来るよ」

 

「む……」

 

一瞬突っ込みそうになったけど、すぐに気を引き締めて臨戦態勢に入るサルバ。

 

「何人くらいだった?」

 

「んー、一、二、三……四かな?」

 

煌々と燃え上がる火柱の輝きに照らされた人影の数はざっくりそれくらいに見えた。

 

「まあ、他にも隠れてる可能性は無きにしも非ずだから、油断はしないで」

 

「おうよ……四人か」

 

「そうだね」

 

「こいつを入れて?」

 

「五人」

 

顎を引いたサルバがチョンと蹴ったこいつ(・・・)を含めた人数を答える。それを聞いた瞬間、微かに揺れた前髪の隙間から覗いた青色の左目がキュッと引き絞られたのが見えた。

 

「まさか、生き返ったとは言わねーよな?」

 

「さっきの様子だと無くもなさそうだけど、基本的には偽装だったってことじゃないかな」

 

その人数から導き出された、とある可能性。僕達含むギルドの捜査を振り切るための工作の正体。

 

「どうする? 生け捕りにすんのか?」

 

「無理のない範囲でね」

 

こっちを殺そうとしにきている相手に不殺を標榜して怪我をする方がつまんないし。

 

「了解」

 

頷いたサルバを背にするように、まずは前進を開始する。

 

(さてと、相手の位置は……)

 

草原を漂う臭いを頼りに敵の居場所を確かめる。幸い、風も疎らなお陰で常に位置関係を気にする必要も無い。

 暗闇に紛れて草原に潜り込んだみたいだけど、鉄の臭いと香水の臭い、そして嗅ぎ慣れたダンジョンの悪臭が何よりも雄弁にその位置を伝えてくる。

 

(少しずつ、旋回してるね)

 

その姿が燃え立つ自動車を挟んで反対側まで行ったところで、後ろのサルバに合図を送り自動車の後部座席側を回って大きく迂回をする。なるべく自動車の燃焼音に紛れる様に注意して。

 やがて見えてきた四つの影の先頭で、長物を持った一人がブツブツと何かを唱える。同時に最初に自動車を襲った光球と同じものが再び現れ、高級車の上部を削り取りつつ少し前まで僕達が居た側へと消えていく。

 

「……」

 

その一撃を合図に、一番手近な位置に居た四人の内の一人へと背後から剣を振り下ろす。

 

「っと」

 

若干その反応は遅かったけど、ギリギリのところで僕の奇襲も受け止められてしまった。そして、間近で見た顔は

 

「お久しぶりです。生きてたんですね」

 

案の定と言うべきか、虚ろな表情でこっちを見上げるトウトウ村のB級冒険者(・・・・・・・・・・・)なのだった。

 

 

 

 

 

 




25/11/24 初崎 楪様、誤字報告ありがとうございます!修正いたしましたー
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