ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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どうもこんにちは&こんばんは

UA19,000と総合評価1,300を突破することが出来ました!
皆様本当にありがとうございます!

おかげさまで調子と共に筆が乗ったので、早めに投稿することが出来ました(/・ω・)/
そろそろストーリーも佳境に入れるかなといったところですので
此処から最後まで普通にクソ野郎なアルタと、比較的常識人なサルバのコンビで突き進んでいきたいと思います
どうぞ、お付き合いの程宜しくお願い致しますm(__)m

P.S.ご感想、ご評価など頂けましたら嬉しいです。ではではノシ


第十三報 偽装偽装偽装

 一合、振り下ろした片刃剣の刃が噛付き合ってキリキリと不協和音を奏でた直後、蟀谷辺りから刺すような鋭い殺気を感じる。

 

「ん」

 

咄嗟に踏ん張っていた背筋の力を緩めて相手の反発してくる膂力に身を任せると、丁度目と鼻の先を鋭利な銀閃が駆け抜けた。そのまま飛び退って距離を取ってみれば、そこには細いレイピアを突き出した痩身の冒険者が居た。

 

(レイピア……ね)

 

虚空に突き立てられた鈍く光るそれを見ながら、目の前の装備に思案を巡らせる。

 通常、冒険者は鉈の様な頑丈で小回りの利く武器に習熟する傾向にある。これは泥まみれの狭い空間で強靭な肉体を持つモンスターを相手にしなければならないという物理的な理由に依るもので、その点で見ればレイピアはそういったダンジョン向きの武器とは正反対の特徴を持っていると言っていい。

 そんなレイピアを持つ痩身の冒険者の構えはピタリと腰が据わっていて、一目で相当の訓練を積んでいることが分かる。まあ、つまるところはだ、

 

人殺し(・・・)に心得がある人間って訳だ)

 

トウトウ村で戦った、先頭の彼女と同様に……ね。

 

(となると、突っ込むならそっち(・・・)かな)

 

目の前の四人の内、前衛に展開した三人。その一番右に居る例の村でサルバにナンパした一人に目を向ける。今までの感じ、他の二人に比べて顎髭のこの冒険者は一、二枚ほど劣る印象だ。まあ、最低限突破できなかったとしても、後ろで詠唱を始めたエーテルソーサラーの方は潰しておく必要がある。多少の間隔があるとしても、断続的に飛んでくる砲弾はそれなりに厄介だからね。

 

「××××××××」

 

案の定、後ろの方ではエーテルソーサラーが何事かを呟きだしてるし……うん、

 

「サルバ」

 

「あん?」

 

「射線が通ったら後ろ」

 

「ああ……いけんのか?」

 

「んー、多分?」

 

「適当だなー」

 

後ろのサルバが軽口を叩きながらもガチリと撃鉄を上げたのを感じながら、僕の方も体の前で片刃剣と短刀を交叉させて機会を待つ。向こうも向こうで主砲のエーテルソーサラーの一撃を前提としているから、今の段階で飛び込んでくる気配は見えない。さてさて、

 

(来た)

 

ゴウッ!と音を立てて、草原に再び巨大な光球が膨れ上がる。その一撃が僕達の方に向かって殺到してくるところを横っ飛びになって回避してから、着地と同時に地面を蹴って前衛に立つ冒険者の間合いに飛び込む。狙うのは最右端でやや剣先の高い構えをした顎髭の冒険者。反応してロングソードを振り下ろそうとしてきたところに短刀を合わせる。同時に片刃剣を横薙ぎにして、挟撃を試みてきた中心の女冒険者に一拍分の距離を取らせる。

 

「舌と喉」

 

「おうよ!!」

 

僕の指示にサルバが吠えて、直後二丁の拳銃の銃口が火を噴く。

 

「がぼっ」

 

その鉛弾に舌と喉を食い破られたエーテルソーサラーは水没者の断末魔の様な音を上げて仰向けに倒れる。先の戦斧を持った冒険者のことを考えたら、まだ動き出しそうではあるけれど、詠唱に必要な発声部位を破壊された時点で事実上の機能停止状態と言っていいだろう。

 

(そして、こっちで二人目)

 

僕の片刃剣とサルバの鉛弾の連撃で出来た隙に、鍔迫り合いを捌いて目の前の冒険者の左右の指を切断する。ソーセージの様な肉片がぽろぽろと零れると、最後に留め金を失った長剣が揺らいで、僕が短刀を引いて距離を取ったところでドサリと地面に落ちた。

 

(残り二人……)

 

後衛のエーテルソーサラーと前衛の数合わせを削って、人数の上では二対二。まあ、まだ動くことが出来る肉壁がある分、あっちの方がやや有利ではあるけれど、状況的には大分均衡が取れてきただろう。

 

「どっちからいく?」

 

「んー……そうだね」

 

どっちもどっちで面倒臭そうではあるんだけど……

 のそりのそりと立ち上がった喉の無いエーテルソーサラーと指の無い剣士の横で、じわじわと間合いを詰めてくる冒険団の団長と副団長。立場があるからだろうけど、団長の方がやや前に出ている印象がある。となると、

 

「後ろかな」

 

「あいよ」

 

僕の答えを聞いて、即座に発砲するサルバ。その弾丸が後衛の冒険者の顔面を貫くのと同時に、僕も念のため短刀を投げ付けておく。ドスドスッという音と共に串刺しになった痩身の冒険者がたたらを踏んで、残った二人の冒険者の間に若干の距離が出来上がる。

 

「ん」

 

即座にこっちも追いかけて、孤立させた女冒険者に剣を振るう。大上段から構えた片刃剣に、当然受けようとしてくるけれど、それは少し甘いかな。

 諸手で握って、全力で振り下ろした切っ先がギンッと音を立てて火花を散らす。同時に、突貫の勢いのままに振り下ろした片刃剣は既に浅く相手の肩口へと食い込んでいる。

 

「ふっ」

 

そのまま体重を乗せて刃を押し込みながら引き斬ると、切断した左肩の断面から大量の鮮血が溢れ出た。同時に重心が崩れて傾いたその喉首を切断して斬り飛ばす。最後に、まだ動く気配を見せた右腕を斬り外して武装を完全に解除させた。

 ドバドバと溢れ出る大量の血液に、草原の中に小さな池が出来上がる。未だ動きを見せようとする肉片はあるけれど、追加で手首で切断をしてしまえばこれ以上は何も出来ないはずだ。後は、

 

「よっ」

 

サルバの速射によって足止めされていた蜂の巣になった痩身の冒険者の方も手首を切断して無力化を済ませてしまう。どさりとその長身が崩れ落ちたのを確かめて、この戦闘は幕となったのだった。

 

「終わったのか?」

 

「多分ね。怪我は無い?」

 

「おう。お前の方は?」

 

「んー、多分平気」

 

愛銃のハンマーを上げながら近付いてきたサルバに答えると、サルバは「しかし、まさか生きてたとはな……」とぼやいた。

 

「そうだね」

 

サルバの呟きに同意しつつ、僕も片刃剣の血を拭き取る。

 

「替え玉だったってことか?」

 

「まあ、十中八九ね」

 

流石にこれで、赤の他人っていうことはないはずだ。まあ、どうして死んだふりをしたのか、今になって現れたのか、そもそも何を狙って襲撃してきたのかといった疑問は尽きないけど、差し当ってやることは……

 

「サルバ」

 

「あん?」

 

「死体の身ぐるみ剥いで並べるの手伝ってくれる?」

 

「ああ、そりゃいいが、何かあんのか?」

 

「んー何かあるというか、それを調べるため?」

 

一応ね。

 

「ん、りょーかい」

 

念のため互いに離れすぎないように注意しながら、僕達は作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 で、全員並べてみたわけなんだけど、

 

「どうよ?」

 

「うーん……」

 

隣で首を傾げたサルバに僕も首を捻る。

 衣服を剥ぎ取って置いた五人分の死体。ちょっとパーツが見付らなかったところもあるけれど、大体は掻き集められたはず。で、

 

「正直、あんまり収穫は無かったかな」

 

そう答えながら、リーダーだった女冒険者に目を向けてみる。

 肩から背、腹回りに足回りと肉付きの良い身体に皮の厚い掌、女性らしく幽かに香水の匂いが混ざるものの体臭にはダンジョンの臭いが染みついている。所持品や装備も含めて、特に違和感らしい違和感は見当たらなかったからなあ……

 

(ただ……)

 

同時に、チラッと脳裏を過る光景に僕は若干の違和感を覚える。先の襲撃の折、先頭で食い込んできた戦斧の冒険者の妙に無機質な眼球と、突如奇怪な動きを見せた運転手の妙な反応。この冒険者達もトウトウ村での雰囲気を鑑みればもう少しペラペラと事情を話してきそうな気がしないでもない。まあ、何ら証拠がある話でもないんだけど……。

 現場の物証と、僕自身の心象に乖離を覚えながら、他の死体も検めていく。けどまあ、やっぱりこっちの方にも物証にあたるようなものは特に見受けられなかった。それと同時に、心象の方は逆に違和感を深めていく。

 

「んー……」

 

例えば、持ち上げた冒険者の生首を見れば、その表情はひどく穏やか……いや、虚無と言っていいほど、何の感情も浮かんでいなかった。これまで何人もの首を切断してきた経験から言うと、斬首死体の表情は死の瞬間を写真で撮った様に固定されているもので、その表情は概ね呆然、絶望、苦悶、憎悪が多く、一部信仰者が例外的に矢鱈と穏やかな顔つきをしていたりする。で、その経験から見ると、この死体はどれにも当て嵌まらない。完全に例外の一厘に分類される顔をしている。

 

「まあ、調べてみるしかないか……?」

 

一先ず思案を打ち切って死体の生首を元の所に戻した瞬間、ゴポリと音を立てて搾り出されたどす黒い鮮血に僕は一瞬目を引かれた。いや、正確には目ではなく()が引かれただ。

 その冒険者の血潮から幽かに、本当にほんの僅かにだけど、甘く腐敗した臭い……そう、言うならばダンジョン(・・・・・)の臭いが漂っていたのだった。

 

(ダンジョンの臭いをした血糊ねえ)

 

その事実に僕は首を捻った。

 確かに、ダンジョンに頻繁に出入りする冒険者にはダンジョンの臭いそのものが染み付いていて、ほぼ例外なくその体臭は腐敗したリンゴの様な饐えたものだ。ただ、それはあくまで装備や外皮の話で、体内は普通の人間の死体と特段変わることもない。極論、装備と皮膚を剥ぎ取ってしまえば、冒険者と非冒険者の間にはこれといった差異も見られないはずだった。それが、本来臭いの付かないはずの鮮血までダンジョン臭を帯びている……。と、

 

「! 誰だ!」

 

「……」

 

僕が考え込んでいる中、不意に草原の一部だけがカサリと鳴った音がした。吠えたサルバが即座に銃を抜くけれど、その気配はそれ以上の動きを見せる気配が無い。

 

「ちょっと見てきてもらえる?」

 

「おう」

 

頷いたサルバがガサガサと草原を掻き分けると数秒後「おーい」と声を上げた。見れば、その手には顔がひしゃげた燕尾服の男が持ち上げられている。そういえば居たね……あ、そうだ、

 

「サルバ、それちょっと持ってきてもらえる?」

 

「おう」

 

サルバが運転手の人を引きずって来ると、早速尋問を開始する。

 

「で、どうして彼らに加担したんですか?」

 

「……」

 

「彼らから何かを提示されましたか?」

 

「……」

 

「話、聞こえてますか?」

 

「……」

 

けど、何を尋ねても目の前の人は虚ろな目をしたままで、何一つ答える気配を見せないでいる。ただ、何か反発的な雰囲気があるのかというとそうでもなく、代わりに右の足だけを不自然にピンと伸ばしていた。

 

「これは……」

 

流石にこの異様な姿に違和感を覚えたらしいサルバがチラッとこっちを伺うような雰囲気を見せてくる。同時に僕の()も同じく違和感を捉えていた。

 

「? おい」

 

訝るサルバの横で、目の前の男の人の頬を軽く傷つけてみる。すぐに膨れた赤い水玉。その水玉に鼻を近付けて臭いを嗅いでみれば、果たしてそこからは濃く確かな腐敗したリンゴ臭が漂っていた。

 

「もしかして、何かあったのか?」

 

流石にここまでの付き合いで意図するところを察したサルバがその雰囲気を険しくする。

 

「そうだね……」

 

逃げる気配というか意思を見せない運転手を一旦降ろしてから、ダンジョン感知能を持たないサルバに僕が感じていた違和感を説明する。

 

「ってことは、こいつら全員」

 

「うん、"ダンジョン・コア"にやられてる可能性があるね」

 

結論としてはそういうことになる。

 

「これ、仮に他人を自分の好き勝手に操れるとかだとしたら、とんでもねーコアなんじゃねーのか?」

 

「そうだね」

 

そのサイズ次第じゃ、国一つ落とせる代物と言ってもいいかもしれない。

 

「んで、こっからどーすんだ?」

 

「取り敢えずはロハグに戻って報告かな」

 

「報告して大丈夫なのか?」

 

「まあ、仕方ないというか、それしかないというか」

 

どっちにせよね。

 

「持っていくのは生首全部とこの人かな。サルバ、後ろ持って」

 

「はぁ……りょーかい」

 

生首五個を両手に、ピンと右足を伸ばした運転手を担いで、僕とサルバはえっちらおっちら逆走していたロハグへの道を再び歩き出すのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 僕達が報告を済ませてから、ギルドは上へ下への大騒ぎとなっていた。まあ貴族、それも元老院議員でもある一地方のトップが冒険者に殺されたなんて前代未聞の話だから当然と言えば当然なんだけど。

 

「やってくれたね、クソ坊主ども」

 

報告を終えてやることもなくなった僕達がギルド長室でダラダラしていると、部屋に戻って来た疲れた顔のギルド長から吐き捨てられた。

 

「酷いなあ、僕達は仕事をしただけですよ?」

 

「それ言うなら、俺なんか完全にとばっちりだぜ?」

 

「分かっちゃいるよ、バカタレ」

 

そう言ってフンッと鼻を鳴らしたギルド長がドカッと自分の椅子に腰を落とした。

 

「しかし、トウトウ村の死体はやはり替え玉だったか」

 

「想定していたんすか?」

 

「ギルドの調査を舐めるんじゃないよ」

 

首を傾げたサルバに、ギルド長が煙草に火を点けながら頷く。

 

「あの五つの死体が上がる少し前に、低級の冒険者が五人行方不明になっていてね。その上、ダンジョンで上がった件の冒険者の死体は首から上を食い荒らされていた」

 

「首なし死体を偽装したら、本当に首なしになるとはね」

 

「ケロッとして言うなー」

 

はっはっは。

 ま、良いや。それより、

 

こっち(・・・)の方はどうです?」

 

「お前さんの見立て通りだよ。明らかに”ダンジョン・コア”の干渉の痕跡がある」

 

僕達の報告と同時に、持ってきた生首五つと人形の様になった運転手を舐めたギルド長は納得した様に頷いた。やっぱりか。

 

「となると、どこのどなた様がこれをやったのかって事になるけど……」

 

「ま、臭いのはリーセン。ただし証拠は何も無いって状態だね」

 

「つまりは?」

 

「全部振り出しか……」

 

僕が首を傾げる隣で、サルバがぼやくように肩を竦めた。

 

「まあそれは一旦置いとくよ。アル坊、サル坊、あんたら身支度しな」

 

「「ん?」」

 

「これから、ハップルカ伯爵の葬儀がある。あたしも一応は領民の中の名士として参加することになっててね。付いて来な」

 

「いや、なんでですか?」

 

ギルド長が呼ばれるのは分かるけど、僕達関係ないじゃん。

 

「どうせ、あたしが行きゃハップルカ伯爵の遺族に詰られるのが目に見えてんだ。なら、第一発見者を連れてく方が盾にもなるだろう?」

 

「それ、そこで頭を下げんのがギルド長の仕事じゃないですか」

 

「やることがみみっちいな、ババア」

 

「はん! 何とでも言いな!」

 

プッと煙を吐き出して、ギルド長は傲然と言い放ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 ギルドの車を繰って、先日ぶり二度目の来訪となるハップルカ伯爵邸を見上げる。見た所、既に多くの親族や近隣の領民が人だかりを作っていて、ハップルカ伯爵邸の様子を伺っているみたいだった。

 

「失礼。ロハグのギルドから参りました」

 

先頭をのっしのっしと歩いていたギルド長が使用人らしい男性に声を掛けると、その姿を検めた男性は頷いて僕達を奥へと促した。

 

「随分と人が多いな」

 

「まあ、この辺り一帯の大領主だからね」

 

人が集まるのも無理はない。まあ、良きにつけ悪きにつけね。

 慣れない礼服に、頻りに困った様にもぞもぞと身動ぎをするサルバを連れて奥の部屋に入ると、数人の使用人に囲まれた老婦人と年若い男性が忙しなく周りの使用人に指示を飛ばしている。

 

「あんま、似てねーな」

 

「あー、確かに。多分、母親似ってことなんだろうけど」

 

そんな二人に鼻尖を向けながら、サルバは声を潜めて感想を漏らす。身なりからして多分親子の青年はスラリとした細面な印象で、ずんぐりとして狸を思わせるハップルカ伯爵とはあまり似ていないように思えた。

 と、そんな二人から指示を受けていた使用人の中に一人、見覚えのある顔があった。

 

(たしか、ガザンだっけ?)

 

僕が首を傾げるのと殆ど同時に僕の存在に気が付いた件の使用人が軽く身構える。

 

「やめなさい、ガザン」

 

「は。失礼いたしました」

 

けれど、その使用人を婦人が嗜めると、ガザンさんは折り目正しい一礼をした。

 

(なんか、前に会った時よりもキッチリしてんな)

 

(だね。もしかしたら、伯爵よりも奥さんの方に忠誠が向いてるのかも)

 

その所作から滲み出る空気に、ありそうな可能性を言ってみる。実際、ハップルカ伯爵が入り婿であることを考えると、無い話でもないのかもしれない。

 伯爵夫人と次期当主らしき人達の前で一礼をすると、彼らも一礼を返してくる。そして、割り当てられた部屋の隅に向かうと、ギルド長が出し抜けに「当たりさね」と呟いた。

 

「というと?」

 

「あの使用人のことを話してたんだろう?」

 

「ええ」

 

「ハップルカ家は先代の頃、男児に恵まれなくてね。あの女に流れる血こそが、この辺り一帯を治める証になるのさ」

 

なるほど。

 

「だから、妾に産ませた子が致命傷だったのか」

 

「そうさ。それが寄りにもよって、ダンジョン閉鎖士だった訳だからねえ」

 

賎業であるのもそうだけど、元老院と対立する皇帝直属の組織だし。と、

 

「おっと、ここでしたか!」

 

そんなことを話していると、不意に広間のドアがバンッ!と乱暴に開け放たれて、奥からずらりと多数の使用人を連れた針金細工を思わせるやせ型の男性がキンキンと甲高い声を上げながら妙に誇示する様に胸を張って部屋に入って来たのだった。

 

「この度のこと、お悔やみ申し上げます」

 

「恐れ入ります。主人も「ああ、それではありません」と、いいますと?」

 

礼儀正しく返礼をしようとした言葉を遮られ、訝しむ伯爵夫人。そんな伯爵夫人にニヤニヤと白い歯を見せながら、その男の人はさも当然とばかりに伯爵夫人の顎先に手を伸ばした。

 

「何をするのです!」

 

パッとその手を払う伯爵夫人。けれど、そんな夫人の反駁に気を悪くした様子もなく、むしろ笑みを深めて針金細工は口角を吊り上げた。

 

「私が悔やむと言ったのはあの男のことではなく貴女のことだ」

 

「私のことですか?」

 

「おや、この程度の諧謔も分からないと」

 

クククッと肩を震わせた針金細工は意地の悪い笑みを浮かべて伯爵夫人と隣の青年を舐め付ける様に細い視線を向けた。

 

「もし貴女がこのような死に方をする男を選ばなければ、この家の没落はありませんでした。しかし、今となっては既に灰となった当主と、まだ若い跡取り、そして既に色気も抜けた老女が一人といった有様だ」

 

その露骨な侮辱と喜色に、周りに居た参列客までもが顔を顰めだす。けど、そんな周囲の視線もどこ吹く風とばかりに針金細工はエヘンエヘンと咳払いをする。

 

「あの時、貴女が私を選んでいれば、こんなことにはならなかった。老いたとしても、連れ添った妻を蔑にするほど、私も情の無い人間ではありませんからな」

 

「何が言いたいのですか」

 

「既に、この家の行く末は決まったということですよ!」

 

大仰に言い放ちながら、バッと両手を開く針金細工。

 

「最早ハップルカの奴もいない今、この土地を治められるのは私だけだ! それは一帯の人間も元老院もよく知るところ! 知らぬのは貴女達だけなのですよ!!」

 

そう言って、ハッハッハ!!!と哄笑を上げる針金細工。っていうか、あれがリーセン子爵か。

 そんな、露骨に今後の領地の区分について口にするリーセン子爵だけど、周りも顔を顰めながらも反論する様子は見られない。実際、能力や家柄を見ればリーセン子爵がハップルカ伯爵の次というのは規定事項なのだろう。もちろん、ハップルカ伯爵の実子が選ばれる可能性も無いではないけれど……

 

「……」

 

緊張した面持ちで冷や汗をかく人の良さそうな人物では、少々以上に頼りないというのが周りの正当な評価……かな?

 

「言いたいことはそれだけですか」

 

そんなリーセン子爵のねっとりとした侮辱を振り払うように、ハップルカ伯爵夫人が毅然とした声を上げる。

 

「今は夫の葬儀中です。どうぞお引き取りください」

 

「ええ! ええ! 引き取りましょうとも! どうせ、最後の一花なのです。それを待つくらいの風靡は解しますとも!!」

 

伯爵の死は自分にとっての余興。言外にそうはっきりと上せながら入り口を振り返ったところで、リーセン子爵が僅かに目を見開いた。

 そこには黒いヴェールを被った年若い女性が人目を憚る様に俯き気味に立ち尽くしている。

 

「レミュール夫人……」

 

そんな夫の愛人の姿に、ハップルカ伯爵夫人が呟いた。

 

「おや! おやおやおや!!」

 

同時に、伯爵夫人と対峙していたリーセン子爵がさっきのハップルカ伯爵夫人に向けた侮蔑とはまた違う好色な視線を隠すこともなく、その胸元や臀部を舐める様に見詰めながらすれ違った。

 

「……」

 

 そんなリーセン子爵の視線に気付いているのかいないのか、無言のまま通り過ぎたレミュール夫人は「この度のことは……その、大変申し訳なく……」と言って頭を下げた。そのくすんだ金髪がヴェールの奥で揺れて、白い肌が微かに覗く。

 

「あ、貴女。夫は貴女の所に行くためにっ!」

 

引き攣った夫人の言葉に焦り出す使用人達。そして、遠巻きにその姿を眺めながらひそひそと何かを耳打ちしあう弔問客。そんな歪な空気の中、レミュール夫人はただただ頭を下げ続けたのだった。

 

(ふーん……)

 

まるで腐敗したリンゴの様な、甘ったるい香りを漂わせながら。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「トウトウ村の冒険者なんだけど、レミュール夫人かも」

 

「「は?」」

 

 葬儀の終わった伯爵邸から車を出すのと同時に切り出してみると、サルバとギルド長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

 

「どういうことだよアルタ?」

 

「何か……気付いたのかい?」

 

疑問符を浮かべるサルバと、その後ろで鼻から煙草の煙を噴き出すギルド長。

 

「んー、気付いたというか、一目瞭然というか……いや、この場合は一嗅瞭然?」

 

“見た”訳じゃないしね。

 

「まさか、ダンジョンの臭いがしたのか?」

 

「うん、そのまさか」

 

大正解。

 

「マジか……」

 

呟いたサルバがボフッと助手席のシートに身体を預けて、少し思案する様にグリグリと自分の蟀谷を揉んだ。

 

「それ、臭った時点でもうアウトだよな」

 

「そうだね」

 

臭ったということは冒険者だということと同義だし、仮にそうじゃなかったとしても全身に臭いが染み付くほど長時間ダンジョンに居たということになる。それが自身の主人の葬儀の直前? まずあり得ないだろう。

 

「で、ダンジョンの臭いありきでレミュール夫人?冒険者?を観察してたんだけど、肉付きがかなり良くてさ」

 

「冒険者らしいってことか?」

 

「っていうか、肉体労働者らしい感じかな。ハップルカ伯爵の証言だけだとそれで話が終わっちゃうんだけどね。しかも、昨日の死体覚えてる?」

 

「あん? あー……」

 

「疑う前提で見てたから気付けたんだけど、あの人昨日の死体よりも明らかに肌が白かったんだよね」

 

「そういうことか……」

 

「うん」

 

つまり、肉体労働者でありながら、まず日光に当たる機会の無い人間ということになる。もちろん、貴族の中には彼女くらい肌が白い人もざらではあるだろうけど、それにしては体格にまだ肉体労働者の気配が残り過ぎている。

 

「この辺の違和感に愛人だったハップルカ伯爵の場合は気付きかねなかったって考えれば」

 

「直前まで会いたがらなかった理由と、襲撃した理由にも説明がつくわな」

 

うん。

 

「後はヴェールのせいで確証までは行ってないけど、髪の毛の色もくすんだ金髪だったし」

 

「そりゃ確かに目星も付けるわ」

 

納得した様にサルバは肩を竦めた。

 

「ってことは、その女をフン縛ってギルドか伯爵夫人にでも突き出しゃいいのか?」

 

「んー……そうだね、一月前だったら普通にそうしてたけど……」

 

「なんだ、妙に歯切れわりーな」

 

「それやっちゃうとサルバが困るかなーって」

 

「は? どういうことだよ?」

 

一瞬理解が追い付かなかったのか、きょとんとした顔になるサルバ。

 

「僕の推測が正しかったとしたら、あのレミュール夫人の正体はトウトウ村の冒険者で、更にその正体はダンジョン閉鎖士になる。っていうのも、こんな大胆な成り代わりを成立させるには……」

 

「”ダンジョン・コア”が関わってるって訳か」

 

「そ」

 

まず間違いなくね。

 

「人の入れ替えだけなら双子でも成立するんだろうけど、昨日の夜襲ってきた人達を覚えてるでしょ?」

 

「ああ。あのゾンビみてーな」

 

「あれはどう考えても”ダンジョン・コア”の”励起”で引き起こされた状況以外ありえない。ってなれば、入れ替えの方も”ダンジョン・コア”絡みって考えた方が無理が無い」

 

「ダムツでそんだけ"ダンジョン・コア"の取り回しに長けてるって言やぁ……」

 

「ダンジョン閉鎖士しかいないって訳だ」

 

「なるほどな……」

 

「そもそも、今回の発端もダンジョンでのモンスターの異常増加で、容疑者の中には常にダンジョンで妙な行動を取っていた例の冒険団が居たしね……っていう話をそのまま上げちゃうと、間違いなくダンジョン閉鎖士への締め付けと"ダンジョン・コア"の取り扱いの規定が厳しくなっちゃうよなーって」

 

「あ……」

 

ようやく理解したらしいサルバがツーッと冷や汗を垂らした。ま、そういう反応にもなるよね。

 

「国防の観点からダンジョン閉鎖士っていう職業自体は排除できないだろうけど、それを使って内部から好き勝手しようとした人間が現れたってなると"ダンジョン・コア"の取り扱いはかなり厳重になるはず……少なくとも、今までみたいに採掘時の事情で少量”励起”してしまいましたみたいな雑な報告で事は済まなくなるだろうから」

 

「やべーじゃん、おい!?」

 

「だからどうしようかって思ったんだよ」

 

ワタワタと明らかに慌てだすサルバ。まあ、本人からしたら死活問題だしね。

 

「加えて、皇帝直属の組織の人間が直接的に元老院議員を殺したってなると、皇帝と貴族の縄張り争いに発展しかねない。大きな犯罪に使われたってことはそれだけ強力な武器になるってことでもあるから双方絶対に引かないだろうし、何よりその中心に置かれる”ダンジョン・コア”は絶対に相手には使わせたくないはず……ってなると、サルバが男に戻るために使える可能性は限りなく消滅しちゃうよね」

 

「最悪じゃねーか!!」

 

「はっはっは」

 

だから躊躇ったんじゃん。

 

「じゃあどうすんだよ。このまま隠蔽すんのか?」

 

「却下。それをしちゃうと、バレた時にこっちが悪いみたいになっちゃうし」

 

「じゃあ……」

 

「今回の件、元を辿れば一人の貴族に行き着くでしょ?」

 

「ん? あ……」

 

そう、今回の騒動の元を辿れば、全てはリーセン子爵に行き着く。ハップルカ伯爵との政争を繰り広げ、相当に汚い手も使ったであろうあの性格は、娘を伯爵の愛人にすり替えてハップルカ伯爵の殺害まで企てたとしても大凡疑われることが無い。まして、今回の騒動の折に何重にも偽装して娘と接触した形跡まであるわけだからね。

 

「しかも、リーセン子爵が黒幕って事になれば何が良いって、皇帝と貴族の政争には発展しなさそうだからね」

 

「? そうなのか?」

 

「うん。まず、貴族からしたら貴族同士の内ゲバになるから、対皇帝みたいにリーセン子爵を庇う理由がない」

 

「ま、そりゃそうだな」

 

「次に皇帝だけど、潜在敵である貴族が二人同士討ちしてくれただけだから、表向きはどうあれ内心はまずほくそ笑んでると」

 

「まー貴族なんざ集権化の邪魔でしかねーからな」

 

「そーゆーこと」

 

大正解。

 

「ハップルカ伯爵や債権屋の証言を踏まえれば実際に絵図を引いて焚きつけたのは冒険者の方なんだろうけど、リーセン子爵の立場も当たらずとも遠からずだろうしね」

 

少なくとも言い逃れは出来ないだろう。

 

「じゃあ、あの女をとっ捕まえたらリーセン子爵に押し付けるってことで良いんだな?」

 

「事前に口は封じてね」

 

殺害前提と伝えるとサルバは「よし」と小さく頷いた。

 

「……あんたを雇ってよかったよ、サル坊」

 

そんな僕達を後ろから見ていたギルド長がなぜか妙な事を口にした。

 

「普段のアル坊ならあの場でさっさとレミュールを縊り殺すか、こっからはギルドナイトの仕事だろと全部無視してただろうからね」

 

「碌でもねえなおい!?」

 

「はっはっは」

 

「お前も否定しろよ!?」

 

ギルド長の言葉にサルバがピャーッ!と叫ぶ。だって事実だし……?

 

(言われてみれば、なんでギルドナイトに投げなかったかな)

 

今更だけど、その方が楽なのに……

 

「ま、いっか」

 

別に興味がある訳でもないしね。

 

「? 何か言ったか?」

 

「んー? 別にー」

 

小首を傾げたサルバに肩を竦め返しながら、僕は与那国向けてハンドルを切った。

 

 

 

 

 




7/5 デイリー64位 オリジナル11位
7/6 デイリー90位 オリジナル14位
7/7 オリジナル39位

取る事が出来ました。どうもありがとうございます。

20/7/24 みずーり様誤字報告誠にありがとうございます!
正直、自分でもこんなに取りこぼしがあったとはorz
     恥ずかしいやら有難いやら!兎にも角にも大変助かりました!w
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