ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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おっそくなりましたああああああああああ!!orz
早く書くと言っておきながらゴメンナサイ!!

言い訳をしますとね!書いてはいたんです!
けど、自分で納得が行かず、何度も書き直しておりました!!(イイワケナサケナイ

今回で最終話となります。此処までのお付き合い、感想、ご評価、お気に入り登録誠に有り難う御座いました。何時も励みにさせていただきました!

今回も楽しんで頂けると幸いです。

また、次回からの新章の参考に、ご感想など頂けますと有り難いです。ヨロシクオネガイイタシマスm(__)m

P.S.UA23,000、総合評価1,500、お気に入り760突破致しました。誠に有り難う御座いました!







第十五報 完全閉鎖

「っと」

 

 偽レミュール夫人の言葉に首を縦に振りながら引き抜いた片刃剣に、彼女の見開かれた両目が映ったのが見えた。その見開かれた両目に浮かぶ感情からすると、僕の反応は予想だにしていなかったということらしい。随分と甘い見立てな気がするんだけど、自分のカリスマに自信があったってことなのか、或いはダンジョン閉鎖士な時点で現在の国家体制に不満を持っているに決まってると思ったのか、はたまたその両方か。

 

「くっ!?」

 

取り留めのない思考と共に差し向けた剣先は、けれど、彼女の白い頬を浅く斬るだけに留まってしまった。ふむ、

 

「サルバ」

 

「おう!」

 

「っ!!」

 

直ぐにサルバに合図を出すけど、追撃の乱射は倒れる様にして割って入って来た人形の体によって阻まれてしまう。

 

「よっ」

 

射線を阻んだ使用人の身体を両断するけど、今度は武器を持った人形数体が突っ込んできたせいで、僕の方が逃げに回ることになる。

 

「チッ、もう少しで()れたのにな」

 

「……」

 

「? どうかしたのか?」

 

「ん、なんか大分染まったなって」

 

「完全にお前のせいだっつの」

 

「そう?」

 

ケッと吐き捨てながらも油断なく銃口を向けたままのサルバの隣で、僕も改めて片刃剣を構え直す。そんな僕達から距離を取った偽レミュール夫人は近くの使用人人形から一振りのレイピアを受け取ると、不快そうに目を細めながらその切っ先を向けてきたのだった。

 

「これがあなたの“答え”ね」

 

「俺“達”の答えだ」

 

「ということらしいです」

 

「随分と補佐官を手懐けるのが上手いのね」

 

「?」

 

妙に引っかかる言い回しをしながら、偽レミュール夫人がヒュンッとレイピアを横薙ぎに振るう。一見、何の意味も無さそうなその軌道の直後、ガシャンッ!と音を立てて部屋のガラスが一枚残らず破砕した。

 

「おー……」

 

「んなっ!?」

 

同時に雪崩れ込んでくる無数の人間。その表情と手に携えた無数の農具や調理器具を見るに、この近隣の村人といったところだろうか。

 

「領民も根こそぎとはね」

 

「驚いたかしら?」

 

「んー、まあそこまでは? やるかやらないかで言ったらやりそうだし」

 

「そうやって余裕を見せていられるのも今の内よ。どうせ、この肉の壁は越えられないんだから」

 

「ふむ」

 

せせら笑う偽レミュール夫人の言葉を裏付ける様に肉の壁は何重にも張り巡らされていて、確かに突破にはかなり難儀しそうだ。

 

「頭は狙えそう?」

 

「流石にこの状況だときついな。榴弾はどうなんだ?」

 

「多分使った瞬間巻き込まれるね」

 

「ま、だわな」

 

一応サルバとも相談してみたけど、まあ結論は変わらないよね。しかも、更に悪いことにだ、

 

「お、おい、アルタ」

 

「ん。分かってる」

 

チョイチョイと袖を引っ張って来たサルバの方を見ずに頷く。じわじわと距離を詰めてくる臭いの感じ、僕達の背後に広がる光景も大体似たようなものだろう。

 

「チェックメイトとでも言うべきかしら?」

 

そして向けられるその宣言は、まあ薄暗い優越感の滲む表情には相応しい風刺染みた言い方だった。

 

「私を捕えるつもりで乗り込んできた割りには案外呆気なかったわね」

 

「あ、捕えるつもりはありませんよ? 普通に殺すつもりだったので」

 

「私を殺す……ね」

 

僕が訂正を入れた瞬間、フッとそれまで浮かんでいた嘲りの色が消える偽レミュール夫人の表情。けど、それは敵対心が抜けた結果という訳じゃなく、むしろ輝きを失った双眸からは強い呪詛の念がドロドロと溢れ出ていた。

 

「じゃあ、今の状況をどう感じてるのかしら?」

 

「特には?」

 

思うこともないけど。

 

「その余裕がいつまで続くかしらね」

 

「はあ」

 

特に余裕を見せたつもりはないんだけどな。

 

「そうね、そんなあなたに良いことを教えてあげるわ」

 

「良いこと?」

 

「ええ。私の命を狙った人間や私に逆らった人間がどうなったのかを……ね」

 

「はあ」

 

興味ないなあ……いやまあ、話されてたら自然と耳に入ってきちゃうんだけどさ。突っ込みようもないし。

 

「私が初めて殺したのはあの男、リーセンが差し向けてきた刺客だったわ」

 

「ああ、貴女の父親の」

 

「あんな奴は父親でも何でもないわ!」

 

「あれ?」

 

事実を言ったらなぜか発狂された。んー?

 

「いや、お前呼吸する様に煽んなよ」

 

「別に煽ったつもりはないんだけどな」

 

そもそもがどうでもいいし。

 

「はぁ……あの男はダンジョン閉鎖士だったというだけで、娘の私を殺しに来たわ。平民に産ませた庶子とはいえ、自らの出世のためだけにね」

 

「……」

 

なんか、凄い悲壮な表情で全てを嘲笑する様な卑屈な笑みを浮かべる偽レミュール夫人。

 

「そいつらは何の感慨も無く母を殺してからしつこく追い回してきたわ。捕まえた後のこと(・・・・・・・・)も含めて、実に楽しそうにね。私が逃げ込んだ閉鎖予定の小ダンジョンにも勇ましく突っ込んできたけど……まあ、目の前で”ダンジョン・コア”を抜いてやった瞬間泡を食ってたわ」

 

そう言って、偽レミュール夫人はベロリと自分の唇を舐める。ふむ、

 

「なぜ、生き残ったんですか?」

 

そこで浮かんだ疑問を口にしてみる。今の話の流れだと、”ダンジョン・コア”を”励起”させたってことなんだろうけど、

 

「……あの日は酷い豪雨だったのもあって、私があいつら諸共生き埋めになった瞬間に小さな土砂崩れがあったらしいわ」

 

「ああ、そういう」

 

つまり、その偶然のお陰で一人だけ助かったと。

 

「一人だけ生き残った私を最初に見つけたのが、母の世話をしていたキリコだったわ」

 

「キリコ……ああ、貴女の仲間の?」

 

「仲間? 笑わせないで」

 

トウトウ村で彼女に付き従っていた副団長の名前だったなと思ったんだけど、なぜか吐き捨てる様に斬り捨てられた。んー?

 

「あいつが母の面倒を見てたのは主人だったリーセンからの指示だからでしかないわ。妊娠が発覚して暇を出した癖に、何が良かったのか母を情婦として手元に留めておきたかったあの男は多少の飴のつもりで体のいい小間使いを装った監視役としてキリコを派遣してきたのよ」

 

虫唾が走る。丁度そんな表現が当て嵌まる感じだろうか。あの副団長のことをそう話した彼女はガリガリと苛立たし気に頭を掻いた。

 

「キリコは何を思ったのか私を縁もゆかりもない土地に連れて行くと、あの男には私が死んだという嘘を吐いて、そのまま暇を貰ったわ。そして、更に意味不明なことに私に付き従うと言い出した……初めは意味が分からなかったわ。あいつが私達の身の回りの世話をしてたのはあくまでそれがあの男の命令だったからに過ぎなかったもの」

 

「つまり、そのキリコ?さんが自分の意志で言い出したと」

 

「それは……分からないわ」

 

一瞬口籠った彼女は、けれど突然ギリッと白い歯を剥く。

 

「けどあいつは結局私を裏切った。この女と入れ替わろうとした時に、手に掛けるのを躊躇った上に私に命乞いまでしてきたのよ。それどころか『リーセン子爵への復讐とは関係のない人間まで巻き込んではいけない』なんて!!!」

 

「はあ……」

 

つまり、彼女達の世話をしているうちに情が移ったものの、他人を巻き込む事には消極的だったと。

 

「だから、全員まとめて人形にしてやったのよ! この復讐を果たすために邪魔になる奴なんかいらない!!」

 

「なるほど」

 

だから、あの妙なタイミングでパーティー全滅を偽装することになったのか。納得。

 

「一応復讐の延長でしか殺さなねーあたり、お前より節度あるよな」

 

「なんなら僕に染まって来たサルバよりも節度あるんじゃない?」

 

「それもそうだな」

 

「でしょ」

 

彼女の事情が氷解したことで、自分を顧みる僕とサルバ。まあ、だから何を改めるって訳じゃないんだけどさ。

 

「そして私は気付いたのよ。しょせん、ダンジョン閉鎖士の苦悩はダンジョン閉鎖士同士でしか分かり合えない。ダンジョン感知能があるというだけで何の能力も無い村人や役人に汚点の様に扱われる私達の境遇は! だから私は考えた! 同じダンジョン閉鎖士だけでダンジョン閉鎖士のための理想郷を創り上げる! その崇高な目的の第一歩なのに……なぜそれが分からないの!? なんでこんな国に従ってるの!? “ダンジョン・コア”があれば、私達の国を作ることだって夢じゃないのよ!?」

 

吠える偽レミュール夫人。その朗々とした宣言と崇高らしい演説に対する答えはまあ概ね決まってる。

 

「惰性」

 

僕にとってダンジョンを閉鎖する理由も、帝国やギルドに従う理由も、全部諸々ひっくるめてね。

 

「そ、そんな理由で……?」

 

「うん」

 

当然。

 

「僕が命を賭けるのに、それ以上の理由は特に必要ないかなって」

 

「……」

 

絶句する偽レミュール夫人。一方のサルバは何となく予想がついていたのか「いや、何か良いこと言ってる風だけど、普通にイカレてっからな?」と小突いてきた。ま、いっか。

 

「この、ギルドの飼い犬ううううううううううううううう!!!」

 

一拍置いて、思考が再度起動したらしい偽レミュール夫人が怨念の様な絶叫を上げる。

 

「青筋凄いね」

 

「いや、あの顔前にして出る感想がそれでいいのか?」

 

「他に思いつかなかったから」

 

別にどうでもいいといえばどうでもいいし。

 

「!! 行け!!!!」

 

そんな僕達の会話の何かが琴線に触れたのかサッと蒼白になった偽レミュール夫人が号令を発する。そして、手に携えた得物を構え一斉に突撃してくる無数の人形。前後から圧搾する様な感情を失った元人間達の一斉突撃。蠢く大群による挟撃が僕達二人に差し向けられた。そして、

 

 

 

 

「やっと隙見せた」

 

 

 

 

それが僕の待っていた機会だった。

 最初の襲撃から推測すると、この肉人形達は彼女の命令をある程度自動で遂行する様になっている。そして、初手で自分の身体を犠牲に偽レミュール夫人を庇ったことを考えれば、彼女に手を届かせるには犇めき合った肉盾を引っぺがすのが必須だった。そしてこの一斉挟撃はその条件を完全に満たせている。まだ多少は距離も近いけど、贅沢は言ったらきりが無いしね。

 

「逃げるよ」

 

「逃げるってどっ!?」

 

サルバの襟首を掴んで、そのまま横っ飛びになる。そして事前に紐を抜いておいた(・・・・・・・・・・・)ポテトマッシャーを肉壁の剥がれた偽レミュール夫人に投げ付ける。

 

「なっ!?」

 

多分、選択肢から外してたであろう偽レミュール夫人は僕の投擲に対し、完全に思考が停止しているようだった。

 

「ここ、ダンジョンと勘違いしてない?」

 

包囲網を敷いて、”ダンジョン・コア”を使って、ダンジョン攻略用の手榴弾を持つ人間と対峙する。つい最近まで冒険者をしていたせいもあってか錯覚しやすいけど、ダンジョンと違って人造の家屋は抜け道だらけだ。

 引っ掴んだサルバを連れて窓から飛び降りた直後、背後からボンッ!という破裂音と共に熱気と光明が上がる。一瞬濃くなった影と共に背中が軽く焼かれる様な感覚もあったけど、爆発というのは横と上に向かい下方へは威力が下がるものだ。

 

「って……」

 

そのままダンジョンの臭いが無くなった屋敷外を転がって勢いを殺すと、割れた窓の奥から薄く立ち込める煙とパチパチと鳴る火の音だけが残ったのだった。

 

「よし」

 

「いや、よしじゃねーだろ!?」

 

僕が立ち上がると、なぜかサルバが噛付いてきた。

 

「どうかした?」

 

「いや、どうかした?じゃなくてな!?」

 

んー?

 

「お前、榴弾は使わねーはずじゃなかったのか?」

 

「単にさっきの状況だと使えなかっただけだよ。手榴弾の類が人体で防げることは既に証明済みの話だし」

 

「だからってなー……」

 

サルバが呻きながらバリバリと頭を掻いた。

 

「取り敢えず、怪我は無い?」

 

「ん、ああ。擦り傷くらいだ」

 

「なら良かった。後はさっきの部屋に戻って死亡の確認を済ませれば終わりだね」

 

「おう」

 

立ち上がったサルバが一瞬後ろを向いて前髪を直す仕草を見せる。

 

 

 

 

そしてその瞬間、艶のあるサルバの髪の上で不自然に踊る影が映った。

 

 

 

 

振り返る。破砕され窓枠まで吹き飛んだ伽藍洞。その中心で蠢く焼け焦げた人間らしき何か。それが崩れる様に前のめりになって、そのまま窓外へと転がり落ちてくる。同時に臭う悪臭(・・・・)。嗅ぎ慣れた異臭。それは、

 

「やばっ」

 

「ちょ、アッ!?」

 

一瞬呆気に取られかけたサルバを抱えて倒れ込む。直後膨れ上がった膨大な量の光明に焼かれながら、僕達は腐ったリンゴの臭いに包まれる。

 

―あははっ!―

 

最後に聞こえたのは何かをせせら笑う様な女の人の声だった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

(……ここは?)

 

 意識を取り戻した僕が居たのは人気のない野山の中だった。

 鬱蒼とした木々に囲まれて人気の無いそこは、どう見てもレミュール夫人の邸宅周りではありえない。僅かに木々の隙間から零れ落ちた木漏れ日が折重なった枯葉の上に白い斑模様を創り上げている。

 

―あ、おい見ろよ。化物だ―

 

不意に聞こえてきた声の方を見ると、数人の子供達がよく分からないことを耳打ちしあっていた。ただ、その声音には分かりやすい悪意が色濃く乗っていた。

 その子供達が向いた先を何となく追いかけると、光の先にまた別の子供がふらっと姿を現す。ぱっと見だと分かり辛いけど、小柄で中性的な印象の男の子。そして、黒髪で、色白で、前髪が長くて……ん?

 最近よく見る気がする特徴に首を傾げていると、駆け出した子供達がその小柄な男の子を数人でぐるっと取り囲んでいた。

 

―よう化物、どこ行くんだよ!?―

 

―あ、えっ……―

 

一際体格の良い男の子に気圧されたのか、どもりながら後退りをする小柄な男の子。けれど、その退路は既になく、すぐに後ろに回った別の男の子に掴まってしまう。

 

―あっ!?―

 

トスッと背中に伝わった感触に焦ったかの様に悲鳴を上げる小柄な男の子。そしてそんな男の子を背後に回った子供が羽交い絞めにすると、その子の手に持っていた物を前に立った男の子が毟り取ったのだった。

 

―んだこれ、花とか化物はこんなもんを食うのか?―

 

白い花弁をした瑞々しい野花。その花房を揉み潰しながら、男の子はせせら笑う様に小柄な男の子の顔を覗き込んだ。

 

―ち、違っ―

 

―何が違うんだよ。化物のお前が態々こんなもん持ってる時点でそれしかねーだろーが。なあ?―

 

―や、やめっ!?―

 

“化物”

 繰り返されるその言葉の意味を考えていると、リーダー格と思われる男の子が前髪の長い男の子の顔に手を伸ばして伸ばしっぱなしのそれを持ち上げる。対する男の子の方はギュッと瞼を固く瞑って最後の抵抗を見せているけれど、対峙した男の子の方はそんなものお構いなしに自分より背の低い男の子の眼球を抉る様な勢いで力任せにその子の瞼を抉じ開ける。

 果たして男の子の瞼の奥から姿を現したのは青い色をした左目と、本来白いはずの部分が黒曜石の様に黒く逆に色付いているはずの部分が異様に白い奇眼だった。

 

―うわ、気色ワリ。触っちまった―

 

―やっぱ化物じゃねーか―

 

―や、やめてよ!―

 

わざとらしく仲間内で手を擦り付け合う子供達に、捕えられていた男の子は必死にそれを振り払う様に頭を振る。けれど、そんな必死な姿が面白かったのか、子供達は口々にげらげらとした嘲笑を向けた。

 

―そうだ、折角だしこいつに餌を食わせてやろうぜ―

 

―お、良いな―

 

誰かが言い出したその悪乗りに子供達は口々に同意し、地面に散乱した前髪の男の子から奪った花々を持ち上げてから手で丸めていく。そして出来上がった大きな野草のボールを羽交い絞めにした男の子の口元に押し付けた。

 

―ん、んんっ!―

 

―さっさと口開けろよ化物―

 

―ぐぶっ!?―

 

ドスッと音がして男の子が咳き込んだ直後、押し付けていた雑草の塊を力任せにその奥へと押し込む。

 

―げほっ!? げほっ!?―

 

倒れ込んでむせる男の子に、取り囲んでいたげらげらと心底楽しそうに笑い声を上げたのだった。

 

 

―何やってるの!?―

 

 

と、直後に甲高い女の子の声が響き、男の子を私刑に掛けて遊んでいた子供達が面倒臭そうに顔を見合わせる。

 

―やべっ、ダリアだ―

 

―ちぇっ、せっかくいいところだったのに―

 

口々にそんな悪態を吐きながら、一応のひと段落が済んで満足もしたのかパタパタと走り出す子供達。後には俯いたままゲホゲホと咳き込み続ける小さな男の子だけが一人取り残されたのだった。

 

―大丈夫?―

 

入れ替わる様にやって来たのは長い髪をした女の子で、胸に分厚い本を抱きおっとりとした雰囲気を漂わせながらも心配そうに咳き込む男の子の顔を自分の服で拭ったのだった。

 

―う、うん……―

 

―良かった……―

 

頷きながらも長い前髪の奥から彼女を伺う男の子。そんな男の子にダリアと呼ばれた女の子の方がにこりと微笑んだところでカシャリと映画の場面が移り変わる様に風景が一変した。

 

―はっ!!―

 

目の前に広がるのは薄暗く肌寒そうなダンジョンの奥底。そして、その中心で掛け声と共に剣を振り下ろしたのは少し大人びた印象の先の女の子だった。

 その剣筋は結構鋭く、刃を向けられたモンスターは金切声を上げながらその場に崩れ落ちたのだった。

 

―ダリアッ!!―

 

直後、少し低い男性の声と一緒にパパパンッ!!という軽い発砲音が響く。

 

―GIUUUUU―

 

同時に墜落する数羽のインプ。ドサドサッと堕ちたモンスターをバックに、振り返った女の子が僅かに表情を緩めた。

 

―サルバくん―

 

近寄って来たのは前髪の長い男の子。この子も少し成長の跡が見られ、女の子の身長を少しだけ抜かしていた。

 

―大丈夫か?―

 

―うん。ありがとう―

 

―お、おう……―

 

そう言って礼儀正しく感謝の言葉を口にする女の子に、男の子の方は照れたように頬を掻いた。分かりやすい男の子の反応にクスリと漏らして長剣を両手に歩き出す女の子。そんな女の子を追いかけながら、前髪の男の子は素早く弾丸を入れ替えたのだった。

 そして、再び場面が切り替わる。

 次に映し出されたのは最初の森林や二つ目のダンジョンといった自然物とは違う、分かりやすい人工物内の光景だった。

 何の変哲もない、ごく一般的な冒険者宿といった風体の木造の廊下。そこに並ぶ一枚のドアの前でじっと立ち尽くす小さな人影。見覚えのある黒髪と背後からでも分かる大きな胸は案の定と言うべきかサルバのものだった。

 

―……―

 

そのサルバの顔色が明らかに悪い。照明も無く、長い前髪に半分以上覆われていてもはっきりと分かるくらいサルバは色を失っていた。

 

―クスクス、もー―

 

―はははっ―

 

何となくサルバの後ろからドアに近付いてみると、部屋の奥からは妙に楽し気な男女の声が漏れ出てきている。

 

―何をしてるのかしら?―

 

立ち尽くすサルバの小さな肩がビクンと跳ねる。振り返ってみれば、そこにはエーテルソーサラーらしき杖を持った女の子が怪訝な顔でサルバとサルバが立つドアを見比べていた。

 

―あ、えっと……だな……―

 

―……特に何もないなら退いてほしいんだけど。明日も早いんだし―

 

―あ、おいっ―

 

歯切れの悪いサルバの反応に訝りながらも、部屋のドアに手を伸ばすエーテルソーサラーの彼女。そんな彼女の行動に焦りを見せつつも止めるとも止めないともつかない中途半端な反応になるサルバ。

 

 

―あんっ♥ もう、アランたら♥―

 

―仕方ないだろ。ダリアのまんこが気持ち良すぎるんだから―

 

 

果たして、部屋の中に居たのは安っぽいベッドの上で、裸で絡み合う二人の男女。一人は先の場面でサルバの前に立っていたおっとりとした雰囲気の女性で、もう一人はがっしりとした体格ながらスタイリッシュな印象の風貌をした青年といった年恰好の男性だった。

 

―あんた達何をやってんの!?―

 

 火照った身体と汗が滲んでランプの灯にてらてらと艶めく肌。そして立ち込める性行為の臭いについ鼻を抑えていると、エーテルソーサラーの女の子が怒号を上げた。

 

―あ、えっと、早いなシュマル……―

 

―見ての通りですよ?―

 

一瞬停止した後、気まずそうな愛想笑いを浮かべて頭を掻くファイターの男の子に対し、ダリアちゃん?の方は特に表情を変えることもなく、タンッタンッとリズミカルに腰を跳ねさせた。それに合わせてサルバほどじゃないものの大ぶりなおっぱいが弾んでたぷったぷっと二人の間で躍動した。

 

―んっ♥ あっ♥ アランはっ、私の方が良いそうです♥―

 

―な、なななななっ!?―

 

ダリアさん?の宣言にシュマルと呼ばれたエーテルソーサラーの女の子が顔を真っ赤にする。

 

―なんですって!? ダリアあんた!? アランもそんなこと言ったの!?!?―

 

―あ、いや、そのな、なんつーか流れでつい―

 

―この!!!―

 

エーテルソーサラーの女の子が杖をかなぐり捨ててベッドの上の二人に躍りかかると、きゃっという悲鳴が上がって三人がもみ合いながら床板へと墜落した。

 

―大体、ダリアはサルバのことどうすんのよ!? あんた、つい今朝付き合い始めたんでしょ!?―

 

―そんな話、ありません―

 

キーッ!!と指摘するシュマルちゃんの言葉に、けれどダリア嬢は気の無い様子で全否定をする。

 

―なっ、俺達付き合い始めただろ!? 今日の朝、この宿の裏で!!―

 

流石にこの言い方にはサルバが抗議の声を上げるけど、それに対してダリアと呼ばれた彼女はフッとサルバの言葉を鼻で笑ってみせた。

 

―たかが半日の話で偉そうに言わないでください。それに、私が悪いみたいに言ってますが先に約束を破ったのはサルバの方でしょう?―

 

―な、俺はちゃんと―

 

―昔、私言いましたよね? 物語に出てくる英雄みたいな冒険者になりたいって。その相棒になってくれるって―

 

―あ、ああ。だから俺はお前を―

 

―”ダンジョン・コア”から庇った……ですか? そんなの別に頼んでもないし、そもそも女になるだけなら庇われる必要もなかったじゃない―

 

―なっ……―

 

結果論にも拘わらず、中々にあんまりな言い草に絶句するサルバ。そしてそんな二人を他所にファイターの顔面を掻き毟るエーテルソーサラー……

 

(っと……)

 

再び盤面が切り替わって視界が一変する。

 

「戻って来たか」

 

焼け焦げた家屋の臭いと鉄錆に似た血潮の臭い、そしてダンジョンから滲む異臭。意識が途切れる直前に居たレミュール夫人邸前。隣ではぐったりとしたサルバが悪夢でも見ているのか顔を顰めながら苦悶の声を上げている。邸宅の方を見れば火はある程度おさまっていて、その麓には半焼けの爆殺死体が落ちていた。

 

「ふむ」

 

取りあえず、半焼した偽レミュール夫人の頸を斬り落として、サルバの隣に置いておく。サルバの方は起きる気配も無いし、”ダンジョン・コア”の力なら暫くは置いておかないと駄目にも思える。

 

「しょーがないか」

 

一先ず本命の頸は落とした以上、屋敷の方はそうそうトラブルにもならないだろう。後は先に証拠になりそうな物品を抑えて帰るだけだ。まあ、何はともあれ、こうして周辺貴族数名とギルドを巻き込んだ今回の騒動は、何事もなく(・・・・・)終息したのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「まさか、こんなことを企ててたとはねえ……」

 

 ロハグの街に着いてギルド長に事の顛末を報告すると、ギルド長がため息混じりにそんな感想を漏らした。

 ギルド長の目の前には数枚のレポートがあり、その中には今回の件で暗躍した偽レミュール夫人の日記が置かれている。その中には事の発端から進めている計画、そして何よりも”ダンジョン・コア”の肥育方法(・・・・)が記載されていたのだった。

 

「モンスターはダンジョンという腸に溜まった雑菌で、”ダンジョン・コア”はそれが集積した糞の塊か」

 

「しかも、モンスターは嫌気性菌の様にダンジョン外に出すと死滅するけど、ダンジョンの内壁で密封すると生命を維持できると……」

 

事の是非は分からないけれど、少なくとも偽レミュール夫人がこの二点を指針に今回の行動を取っていたのは間違いないだろう。そして、その肥育拠点に選ばれたのがトウトウ村と。

 

「よくやってくれたアル坊。おかげで今回の件も落着といきそうだ」

 

「ですか」

 

頷いて煙草をもみ消しながら、ギルド長がチラッとこっちを見上げてきた。

 

「何か?」

 

「いや、また随分と大仰な“目”になったと思ってねえ」

 

「ああ」

 

ギルド長の言葉に、僕も頷き返す。

 僕の右目、何の変哲もない単なる青目だったはずのそれは今、白い部分が黒曜の様に黒く青かった部分が真珠の様に真白になっていた。そう、まるであの光景の中で見たサルバの右目(・・・・・・)みたいに。

 

「まあ、"ダンジョン・コア"の事故として見たら軽い方ですけどね」

 

「街やギルドの連中に顔を背けられただろう?」

 

「それは今も変わりません」

 

「それもそうだね」

 

僕が肩を竦めると、ギルド長がシニカルに笑いながらもう一本の煙草に火を点けた。

 

「ま、何はともあれだ。ご苦労さんアル坊」

 

「恐れ入ります」

 

「で、物のついでなんだがね……トウトウ村の方、あれも今晩中に片付けときな(・・・・・・)

 

「ん、了解です」

 

ま、そっちもあるよね。

 

「サルバも気絶してるから丁度いいですしね」

 

あの性格じゃ、分かりやすい悪人や敵相手は兎も角、こっから先はちょっと厳しいだろうし。

 ギルド長室から出ると纏わり付く煙草の臭いを掻き分けながら夜のロハグの街に出る。時間としてはあと少しで空が白くなってくるだろうか。

 

「ま、急ぎますか」

 

少なくとも、事を済ませるには十分な時間だろう。

 そんなことを考えながら、僕は最後の仕事(・・・・・)を終わらせるためにトウトウ村(・・・・・)へと急ぐのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 トウトウ村に着くと、少し肌寒かった天気が崩れたらしくポツポツと小ぶりながらも雨粒が落ち始めた。

 

(好都合だね)

 

文字通り、漆黒に呑まれた小さな村でダンジョンの臭いに揺られながら、村の地図を確かめて、一番外れの一軒家の鍵を外す。

 

「……」

 

出しなにギルド職員から渡された家族構成では若い夫婦に、最近小さな娘が産まれたと書かれている。なら、最低でも三人、或いはもう少し多いくらいだろうか……

 思案しながら一室一室を確かめていく。幸い、ダンジョン以外の悪臭の元は無い家だった事もあり直ぐに寝室以外の探索を完了できた。

 

(ここだね)

 

そして、ここが最後の一室。他の部屋と違って、明らかに人の臭いがある。

 

(数は三つ……)

 

真新しいドアの隙間から漏れ出てくる隙間風を嗅いであたりをつけると、音を立てない様に、慎重にドアを開ける。中に滑り込むと、そこでは大きなベッドの上に若い夫婦が、小さな柵の付いたベッドで一人の赤ん坊がすやすやと寝息を立てていた。

 

(先に赤ん坊の方だね)

 

手前にある小さなベッドに近付き、中を覗き込む。まだ、目も開かないその子は夜泣きした様子もなかった。

 

(まあ、此れからしないとも限らないし、急がないとね)

 

懐から取り出した、大振りの"針"を鞘から抜くと、その赤ん坊の眉間を狙い、一息に突き刺した。

 

「……」

 

根元まで挿し込み、ゆっくりと引き抜くと、僅かに身動ぎしたその子は、やがて顔を土気色にし、小さくしていた呼吸をゆっくりと止めたのだった。

 

「……」

 

小さな命が、確かに閉じたのを確かめると、大きなベッドに寝ている両親に向き直る。夜は長いとはいえ、限りもある。地図の中心にある村長の屋敷まで、あと、十軒以上が残っていた。

 

 

 

 

 

一軒忍び込んで皆殺し

 

また一軒忍び込んで皆殺し……

 

男も

 

女も

 

子供も

 

大人も

 

老人も

 

そうして繰り返すうちに残りはとうとう村長の邸宅だけになる。

 邸宅。正しく、そう呼ぶに相応しい大型の一軒家は、C級ダンジョン村の村長が持つには明らかに分不相応で、普通のダンジョン村であれば負債からの債権屋一直線だっただろう。まあ、

 

(そっちの方が、まだマシだったかもしれないけどね……)

 

先程までの家と同じ様に鍵の一つをナイフと針で外して中に入ると、それまでとは違いまだ覚醒している人の気配があった。

 

「……」

 

幸い、他の人の臭いから大分遠い様だ。なら、先に既に寝てしまっている方からでも大丈夫だろう。

 数は五人。村長の息子夫婦と孫娘が一人、使用人が一人に、今日たまたまこの家を訪れた親類が一人。それらを全部片付けると、寝室から離れた村長の書斎にたどり着いた。

 

「……」

 

どうやら、まだ仕事をしているらしく、部屋の外からでもカリカリとペンを動かす音が聞こえてくる。既に支えるべき住民の居ないこの村では、夜を通して執務に励む村長の声も生者の耳に届くことはない。

 

(それよりも、サルバが起きる前に終わらせないとね)

 

そんな算段をしながら、村長の執務室の扉を開けると、眼鏡を掛けた禿頭の小柄な老人のポカンとした表情とかち合った。

 

「あ……え?」

 

混乱した様子の村長の喉頸を掴み上げると、「くけっ!?」と小さく悲鳴を漏らした痩せ雄鶏はその目にはっきりと怯えの色を浮かべていた。まあ、自業自得だけどさ。

 

「トウトウ村住民四十二名及び滞在中の冒険者、商人、その他知的生物全てを大逆罪により、存在を抹消するよう命令が出ています」

 

「!?」

 

伝えた罪状に、手の内の老人は更に混乱を深める。けど、少し想像すれば、理解も出来ると思うんだけどね。

 "ダンジョン・コア"の不法採掘だけなら此処まで罪は重くはならなかった。決して軽くも無いだろうし、村一つが吹き飛ぶ程度の民事訴訟は発生していただろう。けれど、それでも罪人扱いされるのは村長や村の重役数人が精々で、一家離散したとしても他の住民達は特に罪には問われなかった。

 問題は移植だ。

 唯でさえ利権と権益の塊であるダンジョンが移し変え、言い換えれば"略奪"すら可能だと公になってしまえば、帝国の経済は崩壊してしまう。そうなれば、後に待っているのは帝国そのものの滅亡と、後の長い戦乱に決まっている訳で。"ダンジョン・コア"の移植は公になってはいけない話だ。

 目の前の老人や他の村人が何処まで何を知っているかは分からない。けれど、あのリーセン子爵の妾の娘と何かしらの取引をした形跡がある以上、少なくとも目の前の老人が無関係という事は有り得ない。で、あれば最低でも村人と在住している人間は全て連座の対象になり得るわけで。だからこそ、元老院はこの村の"抹消"を決めたのだった。まあ、

 

「や、やめ」

 

 

 

 

 

 

「ダンジョン、閉鎖致します」

 

 

 

 

 

 

全部、今更だけどさ。

 

「……」

 

眉間に針を突き立てて、トウトウ村の最後の一人の心肺停止を確かめる。開け放たれた窓から漂う雨の香りが一段と強くなった気がした。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 枯渇したダンジョンは残したままにしておくと、野性動物の侵入や、犯罪者の滞在、密輸品や禁止物質の保管など様々な犯罪や問題を引き起こす危険がある。そしてそれは、何も取り締まられる側(・・・・・・・・)だけが引き起こすとは限らない。

 特に、今回の件の元となったリーセン子爵による私生児の殺害のように、都合の悪い事実の隠蔽では、むしろ、帝国そのものが積極的に枯渇したダンジョンを利用している事すらある。

 

「まあ、やってるのは僕達(ダンジョン閉鎖士)なんだけどさ」

 

 先の村長以下、トウトウ村に居た人間全員の死体を枯渇したダンジョンに放り込み、"ダンジョン・コア"を回収して閉鎖を完了させる。後はダンジョンの存在をギルドの記録から削除すれば、公的にはこの村の人間は一人残らず行方不明(・・・・)になる。その後の政治的な隠蔽はギルドに引き継がれるから、まあ、上手くやるだろう。

 そんな事を考えながら、踵を返し掛けたところで、不意にここ数日で嗅ぎ慣れた硝煙の臭いが僕の鼻腔を擽った。

 

「……サルバ」

 

顔を上げて臭いの先を見れば、そこにあったのはロハグに置いてきた筈のサルバの姿だった。……、

 

「起きたんだね」

 

「ついさっき……な」

 

荒く苦し気に肩で息をしながら、サルバは瞳の青い双眸で(・・・・・・・)僕を睨みつけながらそう言った。

 

「凄いぜーぜーいってるけど、大丈夫?」

 

「腹が滅茶苦茶痛いが、それ以外は大丈夫だ」

 

「つまり、全く問題ないって事だね」

 

安心安心。

 

「腹の真ん中にお前の拳の形した痣が出来てるんだが」

 

「腹筋鍛えないとだめだよ? 身体の軸を安定させるんだから」

 

「この野郎……」

 

はっはっは。

 

「で?」

 

「あ?」

 

「妙な胸騒ぎがして、僕を追ってきたのは分かったけど、どうしてこの村にいるって気付いたの?

 

「……恐らくだが、昨日くらった"ダンジョン・コア"のせいだ」

 

「ふうん?」

 

"ダンジョン・コア"のせいねえ。

 

「多分、お前が最初の一人目を殺した瞬間……誰かの赤ん坊に針を刺したタイミングで、目が覚めたんだ」

 

じゃあ、本当に最初の方から見てたんだね。

 

「最初は訳が分からなかったが、十人目くらいのタイミングで、周りの光景でこの村だって気付いたんだ」

 

成る程ね。でも、それだけじゃ、僕がトウトウ村に居るかどうかの判断材料にはならないよね?

 

「まあ……な」

 

? 何で言いにくそうなの?

 

「……」

 

「……サルバ?」

 

「……言っても怒らないか?」

 

「つまり、拷問をしろってこと?」

 

「短絡的に暴力で解決しようとすんな! お前の悪い癖だぞ!」

 

「そう?」

 

「その、"仕事で困らないし、むしろ、役に立つんだから別に問題ないね"って思考もな! ダンジョン閉鎖士としては兎も角、人としては駄目だろ!」

 

「あ、じゃあ、人間じゃなくて良いや」

 

「何でそっちを放棄した!?」

 

「特に理由はないけど」

 

割りと本気で。強いて言うなら惰性?

 

「惰性で貴族の邸宅一つと村一つ皆殺しにする奴の惰性は怖すぎるっつの!」

 

「邸宅の半分はサルバが()ったんだけどね」

 

「そうだったよチクショウ!」

 

頭を抱えて暫く唸っていたサルバがノロノロと立ち上がり、何かを諦めたように溜め息を吐きながら「俺に見せなくて良かったって思ってただろ?」と言ってきた。

 

「……」

 

「無言は肯定と受けとるぜ?」

 

「今日の晩御飯は奢るね?」

 

「何か言えば否定になる訳じゃないからな? 次いでに奢りは却下しねえからな?」

 

それは残念。

 

「茶化すなよ。俺にしては真剣な話を振ってるつもりなんだぜ?」

 

そう言って、サルバは小さく肩を竦めた。

 

「初めは訳が分からなかったが、直ぐにレミュール夫人の家で見たお前の記憶を見たことを思い出して、見ているのがお前の視界で、流れ込んできたのがお前の感情だって気付いたんだ」

 

「ふーん」

 

「……怒らないのか?」

 

「怒って欲しかったの?」

 

怒らないで欲しそうにしてたのに。

 

「いや。だが、拳の一つくらいは覚悟していたな」

 

「別に僕の記憶とか感情とか覗かれても何ともないし」

 

というか、見られて困るほど記憶に起伏がないし。

 

「そうか……」

 

「うん」

 

「……」

 

「あと、代わりにサルバが恋人にフラれたシーンも見たから」

 

「それは知らなかったぞ!?」

 

言ってなかったしね。

 再度頭を抱えて唸りだしたサルバが、たっぷりと苦悩した末に「互いに記憶を見たって事でチャラで良いな?」と言ってきた。まあ、僕はどっちでも良いけど。

 

「続けるぞ」

 

「どうぞ」

 

 溜め息と共に、サルバが再び口を開く。

 

「兎に角、映った光景と、お前の感情で、お前が俺に無理をさせないために、一人でトウトウ村で……殺しをやってたのに気付いたんだよ」

 

だから、急いで追い掛けてきたと……んー、そうだね、

 

「その男気は買うし、来てくれたことは有り難く受け取らせてもらうけど、今後は僕が待機を指示したら、きちんと身体を休めてね?」

 

一応、サルバ(ダンジョン閉鎖士補佐)を監督するのも(ダンジョン閉鎖士)の役目だからさ。

 

「……俺は頼りないか?」

 

「まさか」

 

それはないない。

 

「むしろ、銃の腕はかなり信頼出来ると思ってるし、レミュール夫人の家での戦いで、殺人もちゃんと出来るって分かったから、その辺も高得点だし」

 

むしろ、元々が冒険者の割りにはかなりダンジョン閉鎖士適性が高かったから、素直に助かったし。

 

「なら」

 

「けど、僕の記憶をもろに受けちゃったせいで、昨日はもう完全にやられちゃってたでしょ?」

 

「う……」

 

それはもう、無理とかじゃなくて不可能の範疇だったからねえ。

 

「もし、それがなかったら、多分、連れてきてただろうけど、あの時点では最終試験もパスしてたし、これからも僕の仕事に付き合ってもらわなきゃいけない以上、過剰に無茶はさせないのとに決めたの」

 

「……」

 

少なくとも、変にサルバをダンジョン閉鎖士の仕事から遠ざける意図はなかったしね。

 

「だから、これもどうぞっと」

 

「うおっ!? ……これは」

 

「この村の"ダンジョン・コア"」

 

「うおい!?」

 

はっはっは。

 

「それ、使って良いよ」

 

どんな効果があるかは未知数だけどね。

 

「……」

 

「サルバ?」

 

受け取ったサルバは、何故か"ダンジョン・コア"に刺激を与えることなく、そのくすんだ表面をためつすがめつしている。っと、

 

「サルバ?」

 

何故か、サルバはそのまま"ダンジョン・コア"を投げ返してきた。んー?

 

「どうしたの?」

 

使わないと、身体元に戻らないよ? まあ、使っても戻るとは限らないんだけど。

 

「いや……今は止めとくよ」

 

「?」

 

ふぅと溜め息を吐いたサルバは困ったように、頬を掻いた。

 

「ほら、今回、殆どお前におんぶに抱っこだっただろ?」

 

「別にそんなこと無いけど?」

 

襲撃の時なんかは普通に助かったし。

 

「だとしても、そいつを受け取れる程じゃ無いからな」

 

「んー、少なくとも、僕個人としては使ってくれても問題ないけど」

 

「だとしても、俺が納得出来ねえからな」

 

そう?

 

「ああ」

 

頷いたサルバが「だからまあ……」と頭を掻きながら、にかっと笑みを浮かべた。

 

「俺がお前の役に立てたって思った時に、改めて使わせてくれないか?」

 

それは、何処か悪戯っぽく、からっとした表情で、"ダンジョン・コア"を使うまでもなくサルバの本来の性別()を思い起こさせる笑顔だった。まあ、

 

「良いよ」

 

答えは特に変わらないけどね。

 

「あっさりしてるな」

 

「長い方が良かった?」

 

なら、文章考えるから、歩きながらで良い?

 

「いや、その方がお前らしい」

 

「そ」

 

じゃあ、問題ないね。

 

「そうだグゥゥゥゥ……

 

「……」

 

「……走ってきたせいで、腹減ったな」

 

自分のお腹の音に、サルバが弱った様に頭を掻いた。そろそろ朝食の時間だしねえ。

 

「じゃあ、何処か入ろうか?」

 

「奢りか?」

 

あ、さっきの覚えてた。

 

「忘れいでか」

 

「まあ、別に良いけど」

 

別に僕がお金を出す訳じゃないし。

 

「ん?」

 

「今ならトウトウ村で適当に食料貰っても文句は言われないからね」

 

生物なんかは、僕達が食べないと悪くなっちゃうし。

 

「酒場辺りになら、今日のために仕込みを済ませた食材もあるだろうから、適当に摘まんで行こ」

 

お酒の類いとか、発酵食品みたいなのは横領になっちゃうから駄目だけど、魚介類なら大丈夫でしょ。

 

「サルバ?」

 

来ないの?

 

「いや……」

 

肩を竦めたサルバが、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、隣に並んでくる。どうしたの?

 

「お前、本当に何の柵も躊躇いもなく行動すると思ってな」

 

そう?

 

「おう」

 

……ま、いっか。

 

「希望はある?」

 

あれば、それにしようかと思うけど。

 僕の確認に、「んー」とお腹と相談していたサルバがポンと手を打つ。決まった?

 

「ああ」

 

頷いたサルバが満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

「肉だな。普段食えないくらいでかいのな!」

 

 

 

「……」

 

「? どうかしたか?」

 

うーん、この、

 

(やっぱり、叩き起こして連れてきても問題なかったかな)

 

小首を傾げるサルバには答えず、僕はそんな事を思ったのだった。

 

 

 

 

 




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20/09/09:誤字修正致しました。灰色の空様どうもありがとうございます!
20/10/05:誤字修正致しました。ささきもり様どうもありがとうございます!
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