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今回より新章開始という事で、とりあえずプロローグを投稿させていただきます。
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ではではノシ
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予報 曖昧な招待状
「あの……」
雲一つ無い星夜の下、さざなむ水面から明日の海模様を読んでいた男は初めそれを風が聞かせた幻聴と聞き流した。
「すみません」
「!」
しかし、再び耳朶を打った声音に、そうではないことを気付かされる。果たして振り向いた先に佇んでいたのは夜闇そのものと見紛いそうな黒い外套に身を包んだ細長い人影だった。
その姿に一瞬目を見開いた男だったがすぐに軽く咳払いをすると「あー、どうかされましたかい?」と尋ね返す。すると、その影はカサカサと小さく身動ぎを繰り返した末に白い欠片を差し出してきたのだった。
「?」
手に取ってみればそれは一枚の封筒で、綴じ目には緋色の蝋印が捺されている。
「これを
「ふむ……」
続けて影が紡いだ言葉に男は少し考える。見た所、何の変哲もない封書の様で切手も必要十分に貼られているため、男がしなければならないのは精々船の積み荷の端にこれを滑り込ませることくらいだった。逆に言えばその程度のことをなぜコソコソと人目を忍ぶ様に依頼してきたのかということだが……
「ま、いいでしょう」
男はそこで意図的に思考を打ち切った。曲がりなりにも情報を扱う稼業、余計な詮索は命取りになるということを、男は長い経験から嫌というほど熟知していた。
「……」
代わりに封筒をポケットへと滑り込ませた手を影の方へと差し出す。余計な詮索をするつもりは更々無いが、過ぎない程度に欲を見せる方が
「……」
案の定、細い人影は男の行動には何も言わず、すぐさま数枚の硬貨を乗せてくる。大陸に戻れば一杯引掛けられる程度の額、簡単な御遣いの対価としては十分だろう。
それだけ確かめた男が影に背を向けて足早にその場を立ち去ると、取り残された影もまた潮風に吹かれた砂城の様にいつの間にか姿を消していたのだった。
◆
―冒険者とダンジョン閉鎖士に共通する能力はなーんだ?―
(答え、登攀能力)
(何言ってんだお前)
(
暇潰しに思い浮かべたなぞなぞに間髪入れず突っ込んでくるサルバ。そのサルバに肩を竦めると、下に残っていたサルバが肩を竦め返してきたのが分かった。
偽レミュール夫人が引き起こした事件から数か月、平常運転に戻った僕達はいつもの様に涸れたダンジョンの閉鎖にやってきていた。
(……こっちか)
全身の重さを無くし、
実は冒険をしたことが無い人には意外と知られていないことだけど、ダンジョンの内部は必ずしも平坦にはなっていない。何なら上下左右が入り組んで腸捻転みたいになっている方が多数ですらある。だから、冒険の成功には戦闘能力と同等かそれ以上に登攀能力が求められるのが常だった。まあ、僕達ダンジョン閉鎖士の場合は冒険者の人達の様に登攀中に襲われるって事はないんだけど。
(少なくとも
つらつらと埒の無いことを考えながら、悪臭の源と思われる岩片に鼻を近付けて念のためもう一度臭いを嗅いでみる。……うん、間違いない。
最終確認を済ませ、口に咥えていた短刀で少し広く外周をなぞり”ダンジョン・コア”を抉り出す。そうして採掘した“コア”をいつもの様にケースに押し込み、岩肌を蹴りながら両手を放す。
一拍遅れて全身を包む浮遊感。布切れほどに軽くなった身体がゆらゆらと虚空を漂い、それまで追い越した景色がゆっくりと姿を顕す。やがてダンジョンの天井とそこに繋がる内壁が全て視界に納まったところで、下で待っていたサルバに抱き留められたのだった。
「ただいま」
「おかえり……じゃねーよ馬鹿。ビビるからいきなりやんなっつの」
「ま、いいじゃん、こっちの方が早いんだし。それに問題ない事はサルバが一番実感してるでしょ?」
「だとしても心臓にわりーんだよ」
ビシッと僕の額にデコピンをしながら唇を尖らせるサルバ。機嫌が悪いって訳じゃないんだろうけど、本気で心配しているらしく、その威力は少しだけ強めなのだった。
◆
ダンジョンから出ると既に陽は傾いていて、空全体が橙色に染まっていた。
「今回は
射し込んでくる日差しに、少しだけ眩しそうにアーモンド形の両目を細めながら隣のサルバがポツリと呟く。
「解除しないといけない“コア”が二つに増えちゃったしね」
「それな」
僕の言葉にサルバは渋い表情で頷いた。
「つか、ただでさえ男として尊厳を破壊されてんのに、どうして野郎と一蓮托生にまでされにゃなんねーのかと」
「最初の“コア”と違って、メリットもあるにはあるんだけどね」
「それにしたってデメリットが大きすぎるっつの」
「ま、その通り」
ぼやく様に夕焼けを仰いだサルバに頷きながら、僕は僕
先の偽レミュール夫人との戦いで僕とサルバが浴びせられた”ダンジョン・コア”の性質を一言で言い表すのなら“共有”というのが一番しっくりくるだろう。
互いに思考で会話が出来るだけでなく、体重や腕力といったものから五感までもを自由に行き来させられる能力は一定の利便性こそあるものの、プライベートという単語が何処かへ飛んで行ってしまう代物だった。けれど、それもこの能力が持つ最大のデメリットに比べれば些細なものだろう。
この能力が持つ最大のデメリット、それはお互いの命までもが共有財産になってしまうということだった。
確たる証拠がある訳じゃない。けど、”励起”を経て暫く過ごすうちに僕とサルバは互いの呼吸や鼓動が重なり合っている様な妙な違和感を覚える様になっていた。その違和感は次第に強くなり、今では僕達の内のどちらかが落命すれば残されたもう片方もただじゃ済まないだろうという嫌な確信を持っていた。まあ、流石にこれは試してみる気にもならないけど。
「でも、女の人なら一蓮托生でも良いの?」
「美人限定でな」
「現金だね」
「ったりまえだろ。むしろ、それが男のモチベの根源と言っていいくらいだからな」
「でもサルバはその噴出先が無いじゃん」
「コノヤロウ」
キレたサルバが発砲してきた。僕は上体を反らして回避した。僕が避け損なったら自分もあの世逝きっぽいのによくこのやり取りも続けられるよね。
「お前がこの程度避けられねーはずねーだろーがよ」
「無駄な信頼どうもありがとう」
ケッケッケと笑うサルバに、僕はいつもの様に肩を竦めたのだった。ただ、そんなサルバの口数が今日のダンジョン村に近付くにつれ徐々に少なくなり、同時に表情も僅かに硬くなったのが分かった。
「なあ、アルタ」
「なに?」
「やっぱ、行かなきゃなんねーんだよな」
「そりゃ仕事だしね」
「俺、あいつら嫌いだわ」
渋い顔で内心を吐露するサルバ。そのサルバの青色の瞳は村の方から伸びてきている無数の黒い影に向けられている。
「そ」
「おう」
「でもまあ、諦めてもらうしかないんだけどね」
「分かっちゃいるんだけどな……」
「じゃ、行こっか」
溜息を吐いたサルバを促すと、「おう」と頷いたサルバは腰元で揺れるリボルバーに手を伸ばしたのだった。
◆
「どうも、戻りました」
「「「「「っ!」」」」」
「……」
村の前で集まっていた人達に軽く手を挙げると、一瞬ビクッと肩を跳ねさせた彼らは露骨な嫌悪感を浮かべて僕を睨み付けてきた。同時に視線を険しくしたサルバがギュッとリボルバーのグリップを握り締めたのが見える。どうどう。
「ダンジョンの閉鎖は完了しました。後は二三日で入口が閉まるので、それまで誰も入らないように注意していてください。最悪、生き埋めになっちゃいますから」
村の人達の視線は一旦置いておいて、規定の説明を行いポケットからいつもの封筒を取り出す。
「それから、これがハップルカ伯爵からの“見舞金”です」
「「「「「!」」」」」
僕がそう伝えると、“金”という単語に触発されたのか、村の人達が一斉に目の色を変える。先代の頃に制定されたこの慰撫策は今代の伯爵にもそっくりそのまま引き継がれたみたいだった。
「なんだ……このはした金は!!」
それはつまりこういう反応も絶賛継続ということになるんだけど。
僕から引っ手繰った封筒の中身を検めて激発する村の人達。こう毎回同じ反応をされると、この慰撫策自体が逆効果になっている気がしないでもない。まあ、別にいいけど。
「さあ?」
「さ、さあって……」
「僕達は伯爵じゃありませんから。気になるならそちらへどうぞ」
「そんな!?」
当たり前の事を言っただけなのに、手酷く裏切られたみたいな顔をされる。そもそも、僕達はこの村の御用聞きでもなければ伯爵の家臣でもないのにね。
(つか、命令系統考えたら完全に敵対組織の人間だよな)
(そうだね)
(マジどーなってんだよ、この辺の伝達経路)
(所詮は末端構成員の小競り合いで、費用対効果もたかが知れてるからね)
何なら、貴族としては僕達に矛先が向く方が都合が良いだろうし。
(マジでクソだな)
(いつものことでしょ)
頻りに喚き散らす村の人達を置いておいて、サルバと“共有”で軽口を叩き合いながら場が静かになるのを待つ。そして数分後、怒鳴り疲れた村の人達の罵声が途切れたところで、残りの通達を行う。
「説明事項は以上です。他に不明点がありましたら後からやって来る徴税官なりにどうぞ。行こサルバ」
「おう」
「「「「「……」」」」」
頷いたサルバと並んで歩き出すと同時に、背中に無数の視線が突き刺さってきたのが分かった。
(どー見る?)
(んー?)
(このまま大人しく帰すと思うか?)
(まあ、五分くらいの確率でなら)
(それ、九割五分と五分の五分だろ)
(もちろん)
(じゃあ、賭けになんねーな)
(初めから分かってたことでしょ)
(まーな)
「そ、それなら!!」
ほら、案の定だし。
ニヤッとサルバが笑ったのと同時に響いてきた金切り声に足を止めて振り返ると、先頭に居た村長のお爺さんがギラギラと挑みかかる様な目で僕達を睨み付けながら泡を吹いた。
「わ、私達の不服を伯爵様に伝えてもらえませんか!? こんなお金ではやっていけないと!! 窮状を伝えていただきたいのです!!」
「お断りします」
まあ、答えは決まってるんだけど。
「なんだと!?」
「テメェ、俺達のダンジョンを閉じておいて断るってのか!?」
「ふざけんな!!!」
(うっせーな。こいつらなんで俺達に言ってくんだよ……)
(経験上は時間稼ぎ説が濃厚かな。仮に僕達が引き受けたら伯爵に裏取りの時間を割かせられるし、その時にしらばっくれれば自分達が掛けられる税金を全部僕達に圧し被せることも出来るかもしれないって考えてるだろうから)
(悪知恵が働くもんだな)
(人間なんてそんなものだよ)
(違ぇねー)
皮肉気に口元を歪めたサルバを促して、再び歩き出す。背中を押してくる罵声は一段と激しさを増しているけれど、直截的な加害じゃないなら無視しても問題はない、
「気色悪い
「あ……」
そう考えていた僕の目算は、たった一人の何気ない言葉によってあっさりと瓦解したのだった。
その言葉が聞こえた直後、ガガガガガッ!!と間髪入れずに響く五発の銃声。
「な、なああああ!?!?!?」
「ひいいいいいいいいい!?!?!?!?」
「耳が!! 俺の耳がっ!?!?!?」
「ぶ、ぶがっ!?!?」
「かひゅっ!? かひゅっ!?!?」
「やっぱりこうなった……」
そして出来上がる五人の肉体欠損者。その引き千切られた肉片から鮮血が滴り落ちて、青臭い芝生の香りと鉄錆臭が混濁する。
「な、何「おい……」
それでも気丈なのか現状が理解できていないのかはたまたその両方か、無くなった右耳の痕を抑えて噛付こうとしてくる村長さん。
「今、なんつった!? あ゛あ゛!?!?」
「ヒッ!?!?!?」
けれど、その最後の意気は両眼を血走らせたサルバの殺気によってあっさりと擦り潰されたのだった。
「聞いてんのかおい!!!」
「ガブッ!?!?」
(これはしばらく止まらないね)
怨嗟の籠った憤激のまま、分厚い蹄鉄の付いたブーツで村長さんの顔面を蹴り飛ばすサルバ。いくら小柄な女の子の身体とはいえ、一切の躊躇も無く振り切られた一撃はお爺さんの顎骨を容易く粉砕し、飛び散った黄色い歯が鮮血と芝生の上にパラパラと降り注ぐ。同時にそこかしこできついアンモニア臭が立ち昇り始めるけれど、その程度でサルバの激情が治まるはずもなく、口端が耳まで裂けそうなほどに牙を剥いたサルバは双銃を両手に逃げ惑う村の人達に襲い掛かるのだった。
(ホント、どうしてこうなったのかな……)
その様子を眺めながら、僕はつい首を傾げる。
村の誰かが口にした“化物”という単語はまず間違いなく僕に向けられたものだ。黒曜の結膜に白光の様な角膜。白黒が反転したキョトキョトと揺らぐ右眼は人間よりもダンジョンに住まうモンスターに近く、確かにそういう感想も出てくるだろう。ただ、元の持主であるサルバがそれを許容できるかといえば、また別問題みたいだ。
先の偽レミュール夫人の件で、"ダンジョン・コア"の”励起”により右目が僕の方にやってきて以降、幼少期からのトラウマの種となっていた奇眼から解放されたサルバは、代わりになのか僕が化物呼ばわりされることに特に敏感になっていた。実際、これに似たやり取りで暴れ出すこと百回を越え、半殺しにした人数も二百や三百ではきかなくなっている。まあ、別にいいけど。
「はい、その辺でストップ」
「フーッ……!! フーッ……!!!」
小さな肩を怒らせて荒く息を吐くサルバ。その爪牙に掛かった村の人達は全員どこかしらが欠損していて、一部の人達は既に意識が無かった。お陰で後がとても楽になるので、助かってるけど。
「これ以上時間を掛けると遅くなりすぎちゃうし、そろそろ帰ろ」
「……おう」
渋々頷いたサルバを連れて再び村の人達に背中を向けるけど、今度はさっきの様に罵声や怒号を浴びせてくる人はいなかった。けれど、まだ収まりきらないのか、隣のサルバがふと足を止めてキッと背後を睨み付けた。
「おい」
「「「「「!!!!!」」」」」
「次はねーぞ」
窄まった瞳孔の奥から滲み出た殺気に、辛うじて無傷の村の人達が一斉に腰を抜かす。コアのせいで美人になっちゃったせいか、妙に殺気が鋭利なんだよね。
フンッと鼻を鳴らしたサルバと肩が並んだところで、僕も一応抜いていた短刀から手を下す。
「そういえば、今日の夕飯は決めた?」
「あー、どうすっかなー。この時間だとロハグに着く頃にゃギルドの食堂も閉まっちまってるよな……アルタはどーすんだ?」
「僕は“コア”の識別作業があるから、途中で片手間に摘まめるものを買ってきて検査室で食べるつもり」
「なら俺もそうすっか」
そう言って「んーっ!」と軽く伸びをするサルバ。
じわじわと紫がかった空の端、丁度同じくらいの長さになった僕達の影が絡み合って一条の夕闇へと染まるのだった。
◆
「ハズレだね」
「ま、しゃーねーか」
頭がタコの触手みたいになったラットの頸椎を折って息の根を止めると、後ろから覗き込んでいたサルバが軽く肩を竦めた。ダンジョン閉鎖士補佐になってから既に何度となく経ったのもあってか流石に一回一回の作業に一喜一憂することもなくなってきたけど、それでも残念ではあるのか、ビール瓶に付けた口を僅かに尖らせる。
「っていうか、重いんだけど」
「よっ」
「違う、そうじゃない」
“共有”で重さが無くなり、頭の上でダプンダプンと弾むおっぱいの感触に突っ込むと、身体が火照ったせいか真っ裸になったサルバは「なんだ、せっかくサービスしてやってんのに」と笑って上半身を揺すった。
「おっぱいがサービスになるの? サルバなのに」
「ひでーなー。ダンジョン村のクソどもですら二度見するブツだぜ? 男なら泣いて喜ぶだろーよ! いっちょ揉んでみるか?」
「じゃあ試しに」
そこまでかと思いながら、サルバの前で揺れるおっぱいを揉んでみる。流石に巨大なだけあって重さ抜きでも弾力に富んでいて、酔っぱらっているせいかしっとりと汗ばんだ素肌は掌に吸い付いてきて仄かに暖かかった。
「どうよ?」
「んー……よく分からないね」
手触りは良いと思うけど。んー……
「ま、いいや。それより僕にもビール頂戴」
胸を揉むのをやめて、サルバがボロ机の上に広げていたビール瓶を一本指差す。
「ほいっ」
「ん、ありがと」
慣れた手つきで栓を抜いたビール瓶を差し出してくるサルバ。それを受け取ると「かんぱーい!」という合図と共に二つの瓶が打ち付けられてカチンッと耳心地の良い音が狭い部屋の中に響いた。んぐんぐんぐんぐっ!と景気よく喉を鳴らすサルバを見ながら、僕も飴色の気泡が浮かぶ液体を喉に流し込む。よく冷えていて清涼な喉越しの後にカァッと熱くなる口腔。その心地良い熱量に導かれる様に自然と温かい溜息が漏れていた。
「ぷはぁぁぁぁ! もう一本!!」
「相変わらず楽しそうに飲むねえ」
目の前で瞬く間にビールを空にして次の瓶の王冠を抉じ開けるサルバにそんな感想を呟きながら、僕はつまみとして買ってみた毛深い緑色の豆に手を付ける。
「あ、美味しい」
「んぐっ、俺も」
僕に続いて手を伸ばしたサルバも口に含んだ瞬間にアーモンド形の両目を見開いた。ほんのりと効いた塩気と、それに引き立てられた甘み、そして咀嚼すると溢れてくる濃厚な旨味が口いっぱいに広がって、冷たいビールとよく合っていた。
干し肉や塩魚みたいな強烈な旨味があるわけじゃないけれど一口一口が心地よく、僕達は自然とお酒が進んでいた。
「マジで美味いな、これ」
「そうだね。何かお勧めみたいに売られてはいたけど、正直驚いたかも」
豆を肴に更に一本飲み干したサルバに同意しながら、僕も更に手を伸ばす。実際、塩のきつい肉や魚よりもこっちの方が個人的には好みかもしれない。
「「……」」
安売りしてたのもあって山盛りにした緑豆に、二人揃って口数を減らしながら手を伸ばす。まあ、実際は外見ほど静かでもないんだけど。
(すっげ、本当に旨いわ。勧められるだけあんな、これ)
(まあ、そう思うけど……って食べ過ぎじゃない? 一人で半分以上食べちゃって)
(ん? ああ、悪い。俺の頼んだつまみ食うか?)
(いや、僕、魚卵駄目だから)
(そうか、じゃあ仕方ねえええええええ!?)
(そう言いながら、更に手を伸ばすとか、戦争だよ?)
(だからって短剣抜くかこの野郎!?)
(はっはっは。食べ物の恨みは怖いんだよ?)
(身を持って知ったわ! 知りたくもなかったわ!)
“ダンジョン・コア”によって植え付けられた能力をフル活用して、会話をしたままつまみをがっつく僕とサルバ。こうしてみると、食べながら意思疎通が出来るのは地味に大きなメリットかもしれない。
(妙なとこにメリット感じてんなー)
(そうかな?)
(そーだろ)
ククッと可笑しそうに喉を鳴らしてから噛み砕いた緑豆を嚥下し、ビールで後味を流し込みに掛かったサルバは実に美味しそうにこくりこくりと喉を鳴らすのだった。
「ん?」
「んあ?」
と、そんな取り留めもないことを話しながら酒盛りを楽しんでいると、サルバが煙草に火を点けたタイミングで唐突に検査室の薄い木戸がコンコンと鳴った。
「はい?」
狭い室内に響くノックの音に一度顔を見合わせてから、取り敢えず扉の先の誰かに返事をしてみる。すると「ギルド長室へ」というくぐもった声が返ってきて、そのまま誰かの気配は消えてしまったのだった。
「……厄介ごとか?」
「の、公算が強いね」
面倒臭そうに眉を顰めるサルバに、僕も軽く肩を竦めながら首肯する。まあ、態々呼び出された時点で通常の閉鎖業務の範囲外の話だろうし。
「しょうがない……行こっか」
「おう」
頷いたサルバが空っぽのビール瓶に急いで吸いきった煙草を押し込んで立ち上がる。
「待った」
「んあ?」
そして、そのサルバの肩に手を置いて動きを制止する。
「どーしたんだよ?」
本人はきょとんとした様に小首を傾げてる。まあ、酔っ払いだから仕方ない……いや、酔っぱらってなくても平気で出て行こうとしてたか。
「取り敢えず、服を着て」
「!?!?」
何で驚愕してんだよ。
◆
「手紙だよ」
「はあ?」
ギルド長から告げられたその言葉に、僕はまず首を捻った。
「えっと、誰から誰へのです?」
「差出人は不明。そして宛先はお前さんだ、アル坊」
果たして帰って来たギルド長の言葉に益々訳が分からなくなる。
「お前に送り名無しで手紙出してくる知り合いとかいんのか?」
「まさか。そもそも、手紙を出してくる様な知り合いの時点で居ないのに」
「そりゃそーか」
僕の返事に、物珍し気に手元の手紙を眺めていたサルバが納得した様に頷く。
「けど、いたずらの類にしちゃー随分と上等な封筒じゃね?」
「だね」
サルバの指摘通り、確かに紙質はパッと見ただけでも上等で、縁取られた飾りも簡素ながら品の良さを感じさせるものだった。そして蝋印の方も綺麗な紋様が描かれていて、明らかに作成にはそれなりの費用と手間が掛かっているのが見て取れる。
「んー……」
「どうよ?」
「カミソリレターではなさそうかな」
軽く揺すってみた印象だけど、紙以外の気配は感じられない。そして、封筒を表に返してみれば、そこには “近隣一のダンジョン閉鎖士様へ”との細文字が書き記されていた。……えっと、
「これ、僕ですか?」
「他に誰がいるんだい?」
明らかに固有の誰かを指していない一文に思わず首を傾げる。けれど、ギルド長は皮肉気に口元を歪めると当然の様に頷きながらフンと煙を噴く。
「強く、意志がなく、容赦を親の胎に忘れてきた様な人格故に高い対人戦闘力と任務遂行能力……正しくダンジョン閉鎖士の理想像と言ってもいいだろうさ」
「あれ? 褒められてる? それとも貶されてる?」
「一応褒められてんじゃね? 人間としてはぼろくそだけど」
「やっぱり?」
何となくそんな感じはしてたけど。
「でもそれ、大体現役時代のギルド長にも当てはまりません?」
「おう、舐めてんのか小僧」
一応指摘してみると、煙管を噛んだギルド長がダンッと仕事机を踏み締めながら身を乗り出してくる。どうどう。
ちなみに、後ろのサルバはそんな僕達を見ながら「流石師弟」と妙な納得をしていた。後で覚えてろよ。
「取り敢えず、開けてみねーか?」
「それもそうだね」
コテンと首を横に倒したサルバに頷いて、一旦無駄話を打ち切り短刀で封筒の端の一辺を斬り落とす。そして、中の紙片を引っ張り出してみれば、そこには封筒の宛名書きと同じく神経質そうな筆跡で次の文言が書かれていた。
「下記日時、当ジャクー島にてガイアエラ初の人工ダンジョン、“ラビュリントス”のお披露目を行います。どうぞ、当島へお越しください……」
「「は?」」
僕が手紙の中身を読み上げると、サルバとギルド長が同時にポカンとした顔になる。
「いや、ちょっと訳が分かんねーんだけど、人工ダンジョン?」
「うん、ほら」
訝る様に眉を顰めるサルバに開いた招待状らしき物を手渡すと、素早く紙面に視線を走らせたサルバは「マジだな……」と呟く。
「酒でも飲みながら書いた妄想の類か?」
「まあ、そういう反応にもなるよね」
元冒険者ならなおさら。
“人工ダンジョン”というのは多くの人間が夢見て、未だ実現できていない永久機関の様なものだった。仮にこれが現実となり、更に採算ラインに乗せることが出来れば、その国は直ちにガイアエラ全土を支配するに至るだろう……なんてことをSF作家が大真面目に書き記すくらいには空想染みた言葉となっている。けどなあ、
「今となっては一笑に付すことも出来ないよね」
「あー……まあ、だよな」
つい数か月前、僕達は完全に人工ではないものの、人為的に手を加えたダンジョンで帝国の支配を実際に目論んだ事例と対峙している。流石にそう何度もとは思うけど、その可能性を排除しきれないのもまた事実だった。
「それにしてもジャクー島か……仮に真実だとしたら、帝都のイカレたインテリどもを一介の自治領が上回ったってことになるねえ」
どこか遠くを見る様に目を細めながら、皮肉気に呟くギルド長。その言葉の通り、ここに書かれていることが真実だとしたら帝都が結構な騒ぎになる話だ。
「小さな島国で突然とんでもない天才が現れたってんならいいんだがねえ……」
「ま、そうですよね」
帝都と自治領。その人口差は歴然で、それゆえに天才が生まれる可能性は段違いだけど、可能性はあくまで可能性だ。ジャクー島という土地から偶発的にダムツ帝国を上回る天才が世に出る可能性は無くもない。ただ、仮にそうじゃなかったとしたら……
「あんたら、今急ぎの仕事はあるかい?」
「いえ、特には」
「じゃあ、ちょっとそいつを見てきな」
そう言って顎をしゃくるギルド長。その垂れた瞼の下では俄に胡乱なものを見る色が浮かんでいる。
「了解です」
「決まりだな。早速準備しねーと」
頷きながら僕とサルバはギルド長室を出る。
何となく、本当に何となくだけど、微かに次の事件の臭いがしたような気がした。
20/09/09:誤字修正致しました。灰色の空様どうもありがとうございます!
25/11/25:内容修正しました。
25/11/26:再修正しました。
25/12/13:再修正しました。
26/02/03:再修正しました。