ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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一万人突破ああああああああああああああ!!
いつも読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます!!
とても嬉しいです!!!

今回はちょっと短め&繋ぎの話になります。
次回はなるべく早く投稿できるよう頑張りますので、
読んで&ご感想いただけると嬉しいです(/・ω・)/


第七報 疑惑

 不意に鼻腔を擽った臭いに、ふっと意識をと現実まで引き上げられる。瞼を突き抜けてくる光の余波から察するに、外はもう懐の温まった酔っ払いを平らげ終えてただ無音の闇夜に街灯だけがぼんやりと浮かんでいる頃だろうか?

 こんな時間にも拘わらず、ギルドの公営宿で唐突に浮かんだインクと焦げた蝋の香り。

 

「ん……」

 

何かあったかな?と思いながら、いつも通り枕元に置いている片刃剣をすぐに抜けるようにしながら起き上がると、仄暗く閉ざされた木戸の端を漂う白く小さな花弁が一片。ベッドから出て近付いてみると、それは小さな紙切れだった。

 ドアの隙間に無理矢理押し込まれたせいか皺の寄ったそれを引き抜いて封を開いてみると、中には神経質そうな文字で短く

 

―ギルドへ―

 

とだけ書き記されていた。

 

「んー……」

 

どうやら、いつもの命令書だったみたいだ。取り敢えず出かける準備をして……

 

(そうだ、サルバも連れて行かなきゃ)

 

適当に身繕いをしたところで、ふと隣室で寝ているサルバ(補佐)のことを思い出す。つい数日前まで一人だったから忘れてたけど、曲がりなりにもパーティーになった以上は連れて行く必要があるだろう。

 

「しょーがないか」

 

廊下を出て隣の部屋のドアをノックする……正直、出会って以降のサルバの寝起きって、主にお酒のせいであんまり良いイメージが無いんだけど、大丈夫かな?

 ドアを鳴らしてから一分、二分……そして五分が経過したところで不意に目の前にあったドアがキィと音を立てて姿を消す。

 

「んだよ……」

 

やっと出てきたサルバは案の定不機嫌そうで、

 

 

 

 

なぜか丸腰かつ全裸なのだった。

 

 

 

 

 眠気眼を擦る度に長い前髪を巻き込んじゃってるせいで痒みが一向に治まらないらしく、次第に荒っぽくなる手付き。結果、無駄に大きなおっぱいがさっきからだぷんだぷんと揺れている。

 

「……なんで?」

 

「あ゛?」

 

僕の確認に一瞬首を傾げたサルバは僕の視線の先(自分のおっぱい)を追いかけたところで面倒臭そうにチッと舌打ちをしたのだった。

 

「別にどんな格好で寝てようが俺の勝手だろ。裸じゃないと寝られねーんだよ、俺は」

 

そう言って、ムスッと唇を尖らせるサルバ。トウトウ村で同じ部屋に寝泊まりしてた時はそんな素振り全然見せなかったんだけど、どうやらサルバなりに気を使ってくれてたってことらしい。まあ、それは置いておいてだ、

 

「僕が聞きたかったのは、裸の理由じゃなくて武器も持たずに出てきたことの方なんだけど」

 

「……ん?」

 

僕がサルバの勘違いを訂正すると、なぜか妙な顔をされた。

 

「待て、そっちなのか?」

 

「そっちも何も、それ以外にある?」

 

「いやこう、世間体とかエチケットとか、もっとこう毒にも薬にもならねえ注文を付けられんのかと」

 

「?????」

 

「なんでそこで『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をされ、いや、お前ならそうか?」

 

「よく分かんないけど、取り敢えず人前に出るならきちんと武器を持つようにした方が良いよ。相手次第じゃ不意を突ける訳だしさ」

 

「お、おう……」

 

「何ならサルバは普通の女の人よりも明らかにおっぱいが大きいから目を引きやすいだろうし、待ち伏せに対しても良いカウンターになる可能性があるからさ」

 

「……やっぱ、お前はもう少し世間体に気を遣え」

 

なぜか、頭を抱えたサルバの方から諭された。……んー、

 

「どうかしたの? もしかして、下痢でもした?」

 

「なんで頭抱えてんのに下痢なんだよ!?」

 

「全裸だから体が冷えたのかなーって」

 

「それでも! 腹より先に抑えてる頭心配するだろうが普通!!」

 

「それもそっか。サルバ、頭大丈夫?」

 

「言い方ぁ!! わざとか? わざとなのか!?」

 

「???」

 

「ちくしょう! 素だった!!」

 

「んー、なんかよく分かんないけど、取り敢えず身支度して。すぐに出掛けるからさ」

 

「このや……って、出かける?」

 

「そ」

 

さっきの紙片を渡すと、受け取ったサルバは不思議そうに首を傾げた。

 

「こいつは?」

 

「ギルドからの命令書。封は切っちゃったから分かり辛いけどね」

 

「命令書……」

 

僕の説明を聞いたサルバは、その言葉を反芻しながら、少し唇を尖らせた。

 

「こんな時間なのに命令されんだな」

 

「別にギルドだけじゃないだろうけどね。上が必要と判断したら一構成員の扱いなんてどこもみんな大体こんなものでしょ」

 

だから、自由業(冒険者)から転職した以上は諦めてね。

 サルバの言葉に軽く肩を竦めると、なんとなく僕の思ったことを察したのかサルバ(元冒険者)も苦笑交じりに頷いた。

 

「と、いうわけで、準備してね」

 

「はぁ、りょーかいボス」

 

シニカルに口元を歪めたサルバが軽く敬礼する様にしてからペタペタと足音を立てて部屋の奥に引っ込む。華奢な背中が長い黒髪に隠されて、ぷかぷかと浮かんで見える細く白い腕と背中越しにも見えるおっぱいに「下で待ってるから」と伝えると、後ろ手にサルバがひらひらと片手を振ったのが見えたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 夜は人ならざるものの時間なんて言うけれど、もしかしたらそれはダンジョン閉鎖士にも適用される理屈なのかもしれない。竈の火が落ちた街並みは人気も皆無で、往来を歩いていても一々誰かに絡まれて無駄に時間を取られることもないからね。

 

「ま、人でなしなのは事実だろうな」

 

「はっはっは」

 

 

僕は片刃剣で薙いだ。

サルバは仰け反って回避した。

 

 

で、そんな埒も無い会話をしながらギルドに着くと、こっちは昼夜で変わることなく退廃的な空気を纏ったギルド長が僕達を出迎えた。

 

「うわ……」

 

「いきなり挨拶だね、サル坊」

 

「ま、初見だとそういう反応にもなるか」

 

「その初見でピクリとも反応しなかったお前が言っても説得力皆無だよ。アル坊」

 

絶句するサルバとなぜか僕を交互に見て、手元の書類に視線を落とすギルド長。そんなギルド長の両隣には天井高くにまで積まれた書類の塔が二棟聳え立っている。

 

「これ……もしかして全部例のパーティーの奴らの調査結果なのか?」

 

「そうだね。一人頭は五分の一くらいだけど」

 

「だとしても十二分に多いだろ……」

 

高々と詰まれた書類の山を群青色の左目で見上げながら呆れたように溜息を漏らすサルバ。

 

「まさか、この短時間でこんな量の情報が出てくるなんてな……」

 

「腐っても皇帝直属の巨大組織だからね。ま、大部分は普段から溜め込んだ記録を引っ張り出してきただけだろうけど」

 

「それでも大概だっつの。木っ端冒険者の立ちションの回数まで丸裸ってのはふかしやはったりじゃねぇってか……ん?」

 

そう言って肩を竦めかけたところで、はたと動きを止めたサルバがギギギギッと油の切れたブリキ人形みたいにこっちを向いた。

 

「待て。ってことはまさか」

 

「うん? ……ああ」

 

そういえば、そういう意味にもなるか。

 

「サルバの推測通り、サルバ達の修羅場もしっかりまとめられてるはずだよ。原因や経緯だけじゃなく、細かなやり取り含めて」

 

「知りたくなかったわ、くそったれが!!!!!!!!」

 

はっはっは。

 

「ま、ギルドに関わった以上は逃れようのないカルマだから、スパッと諦めて?」

 

「知っちまった時点で、諦められるかボケェ!?」

 

「因みに僕は見てないし見る予定も無いから安心してね」

 

「それはそれで……いや、まあ、その方がありがた「どうせ、資料をひっくり返さなくても、酔っぱらったサルバが自分でペラペラ語り尽くすだけだしさ」オチを付けんな! オチを付けんな!! せめてそこは黙って俺の中でのお前の株価を上げさせてくれよ!!!!」

 

「ダンジョン閉鎖士な時点で、未来永劫最低値更新中が決まってるからね」

 

「ちくしょう! こいつ、完全に無敵の人間だ!!」

 

「ちなみに、それは僕だけじゃなくてサルバにも当てはまるよ?」

 

「そういやそうだったあああああああああ!!!!」

 

「はっはっは」

 

「仲良いねぇ……」

 

絶望と共に頭を抱えて絶叫するサルバを見ながら笑っていると、なぜか間で見ていたギルド長から妙な感想を貰った。何をどう考えたらそんな感想になるんだろ。もしかして痴呆かな?

 

「で、結果はどうだったんです?」

 

「ああ、中々にきな臭い内容だったよ。あまりのきな臭さに、思わず鼻を摘まんじまいそうになるくらにはねえ」

 

そう言って、ギルド長は手に持っていた紙束を差し出してきた。

 

「…………、」

 

「その名前は予想していなかっただろう?」

 

「まあ、確かに」

 

「? 誰が書かれてたんだ?」

 

「ん」

 

横から覗き込んできたサルバにも見える様にギルド長から渡された紙束を広げると、「うわ、マジで細けぇのな」とサルバは口を尖らせる。

 

「まあね。で、今言ってたのはここ」

 

「ん……」

 

一枚の紙片に小さな文字でこれでもかと言わんばかりに詰め込まれた件の冒険者の情報。その中のある部分を指差すと、そこに顔を向けたサルバが小さく息を呑んだのが分かった。

 

「……リーセン子爵だと?」

 

「そ」

 

サルバの口から洩れた言葉に、僕も頷く。

 それは、トウトウ村でリンチを仕掛けてきた女冒険者と、そのパーティーメンバーの中で一人出来る(・・・)雰囲気を漂わせていた痩身の冒険者が、ここ最近コンタクトを取った人物の一覧表だった。流石にB級冒険者かつ村の名士的な扱いをされていただけあって、面談相手も村の上役からロハグの豪商とそこそこ豪華なんだけど、そんな面子の中にあっても頭一つ抜けた権力者――この地域一帯で実質第二位の扱いを受けている貴族、それがリーセン子爵だった。

 

「B級以上の高位冒険者が貴族と会談すること自体は珍しくもないんだけど」

 

「明らかにタイミングが良すぎるわな。しかも、間に使用人を挟んでコンタクトしてる上に、面談した場所もリーセン子爵の別荘ってか……」

 

「内緒話をしてますって言ってるようなものだよね」

 

「それな。こういうのってバレなきゃ良いんだろうが、バレると一気に胡散臭くなるよな」

 

「確かに」

 

「で、仮に今回の話にリーセン子爵が一枚噛んでるってなると、あいつらがやってたこともいよいよもって裏に意図があるのは確定だろ。いや、ダンジョンでやってたこともセット考えりゃ、裏が無い訳がねーんだけどな」

 

「それもまあ、その通り」

 

バリバリとサルバが頭を掻く手に合わせて、天井にぶら下がった電球がキィキィと鳴った。

 一応ギルドは皇帝直属の組織ではあるけれど、本人達は一自由業者でしかない冒険者が貴族の依頼を個別で受けること自体はそう珍しいことでもない。何なら、ダンジョンが豊富なダムツ帝国では金貨を積んで高位冒険者に望みのアイテムを取ってこさせる事を貴族や豪商、教会のステータスとして見る向きすらあるんだけど、その原則に沿うならわざわざコソコソとやり取りをしてる理由の説明がつかない。そういうのは周りに見せ付けて初めて意味を成す訳だしね。で、サルバの言う通り“獲ってくる”どころか“置いていく”冒険者となれば全てがバラバラだ。逆に言えば“他人に見せびらかして”“獲ってこさせる”よりも大きな利益を手に入れる仕掛け(・・・)があるってことにもなるんだけど……

 

(ま、十中八九まともな方法じゃないよね)

 

隠してる時点で当然なんだけどさ。

 

「ま、今出てる情報だけじゃ、どう踏み込んでも邪推にしかならないだろうしね。そもそも、例の冒険者が塒にしてるトウトウ村はリーセン子爵じゃなくてハップルカ伯爵の領地だからねえ」

 

「それもそうですね。確か代官はレミュール夫人でしたっけ?」

 

「ああ、そうさね。爵位も騎士爵で、リーセン子爵とは赤の他人だったはずさ」

 

ギルド長の言う通り、正規の貴族なら回り回って遠縁の親戚なんてこともあるだろうけど、一代限りの騎士爵じゃその線は限りなく薄いだろう。と、

 

「ハップルカ……ハップルカ……ん?」

 

ハップルカ伯爵の名前が出た途端、サルバが唐突に首を捻り始めた。

 

「? どうかした、サルバ?」

 

「ああ、いや。大したことじゃねーんだけどな」

 

「うん」

 

「俺の記憶だとハップルカ伯爵とリーセン子爵って、なんかクッソ仲が悪かったとかそんな話があったような気がするんだが……記憶違いだったか?」

 

「いや、僕も聞いたことがあるね。なんだっけ?」

 

サルバの言葉に同意しながらこの場で一番その辺の事情に詳しそうなギルド長の方を見ると、ギルド長はモクモクと煙を吐き出しながら「そうだねぇ……」と頷いたところだった。

 

「サル坊の言う通り、あの二人は死ぬほど仲が悪いはずさ。というのも、今でこそ明確に上下が出来ちゃいるが、そこに至るまでの間に幾度となく骨肉の争いを繰り広げた怨敵同士だったからねえ」

 

「あー……確か、今の爵位に両者が落ち着いたことで、ようやく二人の権力争いも収まったんですよね」

 

僕の確認に、ギルド長が神妙な顔で頷いた。

 元々、この辺り一帯は国境でこそあるものの、その多くを海岸線に面しているせいで帝国としては前線とは言えない土地だった。そのため、大分前に皇帝と元老院による話し合いがあり、軍権を持つ侯爵を設置しないことで合意。以降、伯爵位が最高爵位で下に子爵が数名というのがロハグ近郊の貴族の分布図となっている。

 そして、そんな土地柄であれば自然、ここらへん一帯で生まれた貴族はその生涯を掛けて一つしかない伯爵位のために骨肉の争いを繰り広げるようになる訳で、この現ハップルカ伯爵とリーセン子爵もその例に洩れず、共に領地を持たない法衣貴族だった頃から常に互いを最大の仮想敵として陰惨な権力闘争に及んだという因縁の関係だったはずだ。

 ちなみに、二人の権力争いは子爵位への陞爵こそリーセン子爵が一歩先んじたものの、肝心の伯爵位への陞爵ではハップルカ伯爵が巻き返して、以降は完全に決着となったらしく現在に至るまでその体制でロハグを含む一帯は治められていると聞いたことがある。で、

 

「そんな目の上のたん瘤(ハップルカ伯爵)の領地で、リーセン子爵の息が掛かった可能性のある冒険者が奇妙な行動に走っている……って事だよね」

 

「仮に何も無かったとしても、胡散臭いと言わざるを得んわな」

 

「そうだね」

 

腰に手を当ててぼやいたサルバの言葉に僕も同意を込めて頷いた。

 

「後はあれだ、レミュール夫人ってのも個人的にはちょっと怪しいな」

 

「あ、そっちも疑うんだ」

 

「当たり前だろ。女がただ男の良いように使われてるだけなんてぜってーにありえねぇからな」

 

「そうかな?」

 

「女ってのは男なんかよりも遥かに賢くて、何よりもシビアな生き物だぜ?」

 

「実感籠ってるね」

 

流石は身を挺して庇った恋人に即日切り捨てられた男。

 

「……なんか、今クッソ失礼なこと考えなかったか?」

 

「特には?」

 

「……」

 

「……」

 

 

サルバは発砲した

僕はしゃがんで回避した

 

 

 自分の放った弾丸が部屋に掛けられた安物の絵画に着弾して肖像画の中の皇帝陛下の眉間に風穴を開けたのを尻目にリボルバーをホルスターに仕舞いながら「俺の事情はどうでもいいだろ」とサルバが唇を尖らせる。

 

「それより、お前の方はどう見てんだよ」

 

「特に面白い推測があるわけじゃないよ? この瞬間なら普通にリーセン子爵が一番怪しいし、共犯か従犯かは分からないけどあの冒険者達はまず仲間。実力的に大穴でハップルカ伯爵が何かしてたりするのかなーってくらいで。あ、でも、サルバと違ってレミュール夫人の事は特に考えなかったかな」

 

つらつらと自分の考えを口にしながら、何となく一応この場では辛うじて唯一の女にカウント出来なくもないギルド長の方を見てみる。

 

「あんた、今何か凄い失礼な事を考えなかったかい?」

 

「いえ、特には?」

 

「……」

 

「……」

 

「ふー……」

 

何か、物凄い疲れた顔で蟀谷をグリグリと揉むギルド長。どうしたんだろ。もしかして痴呆?

 

「言うに事欠いて、ふざけんじゃないよクソガキゃあ!!」

 

なんか、凄いキレられた。んー……?

 

「はぁ……多少極端じゃあるが、これに関しちゃサル坊の方が正しいね。少なくとも人でなしのアル坊よりゃ遥かに妥当な感性をしてるよ」

 

「あれ? なんか唐突に馬鹿にされてます?」

 

まるで僕が異常者みたいな言い草だ。

 

「みたいっつーか、まんまそれそのものだろ」

 

「少なくとも、お前さんがまともならこの世の九割九分の人間はまともに分類されるだろうさ」

 

「あ、ひど」

 

なんか、ボロクソに言われてしまった。……ま、いいや。

 

「ま、そうは言いつつもアル坊の言ったことも事実ではあるけれどね。ただでさえ算盤が合わないのに、その首魁が木っ端貴族ごときってんじゃ不自然どころか異常の域だ」

 

「んじゃどうすんだ? いっそあのパーティーを拷問でもするのか?」

 

「悪くない案だけど、それはもう少し後でだね。一度始めちゃったら後始末までがセットになるから、後で新しい疑問が出て来ちゃったときに困ることになるし」

 

「マジでやんのかよ。冗談だったのに」

 

「あ、そうだったの?」

 

案としては全然ありだったんだけどな。

 

「ま、その辺は折を見て私が指示を出すさ」

 

僕の言葉を引き継いで、ギルド長がプカリと煙を吐き出した。

 

「“詰め”で躊躇う理由もないが、闇雲に絞り上げても効果は薄いからね。向こうさんの尻尾を掴むまではギルドが継続して調査を行うよ」

 

呟いたギルド長が煙管の先を灰盆に打つと、カンッという良い音が狭い室内に反響した。

 

「具体的にはどうするんだ?」

 

「特別な事は何も無いよ。普通に聞き込みしたりとか、過去の記録を突き合わせたりとか。あ、でも、リーセン子爵の方には手を伸ばすかもね。まあ、その辺は僕達には関係ないけど」

 

「本当に案外普通なんだな」

 

「そういつもいつも銀の弾丸みたいな解決策がある訳じゃないからね」

 

「そういうもんか」

 

「そーゆーもんだよ」

 

首を傾げるサルバに首肯を返す。

 

「じゃあ、俺達は一旦お払い箱か」

 

「ところがどっこい、もう少しだけ続くんだよね」

 

「ん? そうなのか?」

 

僕の答えが意外だったのか、軽く首を傾げるサルバ。まあ、“ダンジョン閉鎖士”っていう名称を考えたら、そういう反応にもなるよね。

 

「基本的にはサルバの想像通り他の職員の仕事なんだけど、一部僕達ダンジョン閉鎖士にしか集められない情報の筋があるんだよ」

 

だから、ここだけは僕達(閉鎖士)が直接聞きに行く必要がある。

 

「それはダンジョンとも関係があるのか?」

 

「あるといえばあるし、無いといえばないかな」

 

「んん???」

 

「ま、この辺は追々教えるよ。配置は決まってるんですよね?」

 

「ああ」

 

「? これは?」

 

頷いたギルド長が差し出してきた数枚の書類に、サルバが不思議そうに首を傾げる。

 

「ハップルカ伯爵領の閉鎖予定ダンジョンの一覧。一部はまだギリギリ閉鎖前だけど、五、六個は今すぐに閉じちゃってもよさそうだね。丁度良く彼ら(・・)も居るみたいだし……このまま出発しちゃいますね?」

 

「ああ、頼むよ」

 

一瞬、「彼ら?」と小首を傾げるサルバの前で、新しい煙管に火を点けたギルド長が煙混じりに頷く。そんなギルド長に軽く頭を下げてから、訝しむ様に僕達を見?比べているサルバを促してギルド長室を出る。さて……

 

「っていう感じなんだけど、サルバは何か昼間に準備しておきたい事とかある? それなら出発は明日のお昼ぐらいにずらすけど」

 

「特に無いな。何なら今すぐにでも出れるぜ?」

 

「ならすぐに出よ「それよりも、だ」なに?」

 

「お前、何か引っ掛かってるんだろ」

 

「ん?」

 

「さっき一瞬止まってただろ。ギルド長に書類を渡された時」

 

「……あー」

 

そういえばそんな事もあったか。

 

「目敏いね。前髪で見えてなさそうなのに」

 

「おい」

 

「けどまあ一応正解かな? 引っ掛かってるってほどじゃないんだけど、予想が外れたなって」

 

「予想?」

 

「うん。あの冒険団の団長と副団長の経歴」

 

「確か騎士だったんだよな? 南の方の寒村から金稼ぐために中央に出て、冒険者になったのはその後だったか」

 

「そうそう」

 

「だよな……ん?」

 

そこまで言ったところで、サルバがピタリと動きを止めた。

 

「……ダンジョン閉鎖士じゃなかったな。そういや」

 

「ね?」

 

ムッと唇を尖らせたサルバ。

 

「ってなると、あの冒険者達の経歴はまるっと嘘ってことか……」

 

「僕の見立てが丸っ切り的外れの可能性もあるよ? そもそもが当てずっぽうだし」

 

「ハンッ!」

 

極めて妥当な推測をしたはずなのに、なぜか鼻で笑われた。

 

「お前がこういう推測を外すタマかよ。確かに俺は付き合いが短いけどな、それでもお前の見立ての方を信じるぜ」

 

「随分高く買ってくれるねぇ」

 

「買わいでか」

 

けっとイタズラっぽく悪態を吐いたサルバは「んで?」と首を傾げてくる。

 

「ん?」

 

「その紙面上の経歴を踏まえて、お前はどう考えてんだ?」

 

「特に何も?」

 

「おい」

 

「だって、どうでもいいし」

 

予想は所詮、予想でしかない。

 

「じゃあ質問を変えるわ。紙面上がまっさらなのは事実だとした上で、お前が正しいとしたらどういう状況だと思う?」

 

「仮定に仮定だね。うーん……」

 

サルバの言葉に少し考えてみる。

 

「大前提として、あの二人の経歴は全部デタラメってことになるよね。まあ、冒険者自体が一度ドロップアウトした人間が社会復帰するための最後の砦みたいな所もあるし、前歴関係もうるさくないから誤魔化すのは簡単として、その先はちょっと無理があるかな」

 

「トウトウ村でも言ってたな」

 

「うん」

 

サルバの相槌に頷きながら、指を二本立ててサルバに向ける。

 

「まず、ダンジョン閉鎖士だったとしたら、どうやって脚を洗ったのか?」

 

「あー……」

 

「僕も前に二、三回サルバを斬り殺そうとしたでしょ?」

 

「記憶にゃあるが、それを斬り殺そうとした相手本人に聞こうとすんな」

 

はっはっは。

 

「あの時点じゃまだ補佐どころか新入りの成り立てでしかなかったサルバですら規定上は十分に斬殺対象だったからね。そう考えたら頭の天辺から足の先までどっぷりとギルドに浸かった閉鎖士が生きたまま足抜けなんてまず無理だよね」

 

「そりゃまあ、確かに」

 

難しい顔をしながらも同意する様にコクリと頷くサルバ。

 

「んで、もう一つは?」

 

「仮に足抜け出来たとして、今度は経歴を残さずに冒険者になれるのかって話。いくら冒険者の前歴がほぼ不問とはいえ、この人手不足の折に元ダンジョン閉鎖士を見逃すなんてことはありえないから」

 

「じゃあいっそ、この前の俺らみたいに閉鎖士がギルドの命令で冒険者のフリをしてたってパターンは?」

 

「そうなると、元々ダンジョン閉鎖士が居ないからっていう理由で態々僕達を指名してきた隣町のギルド長の意図が訳分からないことになるし、仮にバッティングするなら申し送りの一つくらいするでしょ」

 

「それもそうだな」

 

むぅと唇を尖らせたサルバが自分の顎先に指をあてながら頷いた。まあ、そもそもの話としてダンジョン閉鎖士云々関係なく、土塗れのピクシーを無駄に運搬てばら撒いてる時点で意味不明なんだけどさ。

 

「という訳で、僕の予想は当然の様に穴だらけで的外れだったってわけ」

 

「あっさりしてんなあ」

 

「らしいっちゃらしいんだが……」と頭を掻きながらサルバがぼやいた。んー?

 

「まあ、お前の予想抜きに、オレの方も一つ腑に落ちてねーんだけどな」

 

「そうなんだ?」

 

「おう」

 

頷いたサルバが軽くコキリと首を鳴らす。ふーん……

 

「ちなみにそれは?」

 

「リーセン子爵がなんであの女を指名したのかってとこだな」

 

「別に、あの資料に書かれてたことを疑う訳じゃねえんだけどな?」と続けて軽く肩を竦めるサルバ。

 

「けど、そうなるとなんで態々あいつらだったのかが分からねえんだよ。だってそうだろ? ダンジョン内でピクシーを移動させるだけなんて、態々B級冒険者なんかにやらせる仕事じゃねえぜ。しかも妙にコソコソしてやがったし。隠し立てしなきゃならねえなら、B級なんて目立つ奴ら選ぶ方がおかしいからな」

 

「確かにねー」

 

サルバの言うことは前提を踏まえれば筋が通っている。

 

「だけど、リーセン子爵はギルドのばーさんが情報を集められる程度には密にあの目立つB級冒険者連中と連絡を取り合ってたって訳だ。つまり、どう見ても作為的に、あの冒険者を選んでた、選ぶ必要があったってことになる」

 

「ふむ」

 

「その理由が……」

 

言葉を切ったサルバはクルクルと前髪を弄りながら僕の前で立ち止まる。

 

「お前が言うように、"元ダンジョン閉鎖士だから"ってんなら、俺は納得がいく」

 

「……」

 

「だから、お前の見立ては外れてねーと思う。そんなとこだ」

 

「……そ」

 

つまり、僕の予想に賛成してたのもサルバなりに考えての事だったということか。

 

「ま、どちらにせよ全ては暴いた後の話だろ?」

 

「そうだね」

 

今の段階じゃ、どれもこれも結局は推測でしかないし、

 

「一先ず、出来ることを出来るところまでやろうか」

 

案外、途中であっさり解決する可能性もあるしね。

 

「だな」

 

頷いたサルバを伴ってギルドを出る。

 

「「ふぁ……」」

 

まだ暗い夜道で、二人揃って欠伸を漏らしてから、渡された指示書に従って、僕達はハップルカ伯爵領内の閉鎖予定ダンジョンを目指すのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「そーいやアルタ」

 

 朝。じわじわと白み始めた空を欠伸混じりに見上げながら、不意に無言だったサルバが口を開く。指示書で指定されたダンジョンとダンジョン街はもう目と鼻の先だ。

 

「ん? 何?」

 

「今日はダンジョン閉鎖士じゃないとダメな情報筋を当たるんだよな?」

 

「うん、そうだけど。それがどうかした?」

 

「いや、ダンジョン閉鎖士じゃないといけねー理由ってのが今一ピンと来なくてな」

 

「あー。まあ“彼ら”はあんまり人前に立つ仕事じゃないからね」

 

「“ら”ってことは、組織なのか?」

 

「そうだね。その辺も追々説明しよっか」

 

不思議そうに小首を傾げるサルバに頷き返しながら、これから会う“彼ら”の立場や稼業を思い起こす。

 

「んー、取り敢えず真っ当な奴らじゃないのは間違いねーみてぇだな」

 

「ま、僕が(閉鎖士が)派遣される時点でそこはね」

 

真っ当な人達なら真っ当な立場の人間が赴くはずだし。

 

「けど、役に立つことも多いのは事実だし、これから閉鎖士の仕事をする以上はサルバも否応なしに関わることになるから、今のうちに顔合わせを済ませておくのは悪いことじゃないよ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「ならいいか」

 

頷いたサルバはそれで納得したらしく、それ以上何かを言う事もなく前を向く。と、

 

「あ、見えてきたね」

 

丁度、道が峠を越えてなだらか下り坂になる。すると一気に広くなった見晴らしの先に、一目でそれと分かる住居の塊、これから閉じる予定のダンジョン村があった。

 

「さて、まともな情報得られるかな?」

 

「さっきの"役に立つ"は何処に行ったんだよ」

 

「"ことが多い"とも付け足したよ?」

 

逆に言えば、聞けない時もあります。

 

「おい」

 

はっはっは。

 

「ま、裏目なんてあるあるだし、そこら辺は気にせず数撃てば当たるの精神が正解だと思うよ?」

 

「タフだなあ、お前」

 

「そう?」

 

自分では特に自覚無いけど……ま、いっか。

 

「っと、そろそろ村の入り口だね。サルバ、何時でも銃を抜ける様にしておいて」

 

「? 何かあるのか?」

 

「特別な何かは無いよ? ただ単に油断してると腕ごと持って行かれるだけで」

 

「いや、それは“だけ”で済む話か!? おい!?」

 

「じゃ、行くよ」

 

「いや、ちょ、待てよ!? なあ!?」

 

叫ぶサルバを引っ張りながら、僕達は潰れたダンジョンと村……いや、それよりももっと致命的な(・・・・・・・)村に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 




20/7/9 レアメタル様誤字報告誠にありがとうございます。修正いたしましたー
20/7/24 みずーり様誤字報告誠にありがとうございます!修正いたしましたー

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