ダンジョン、閉鎖致します   作:小名掘 天牙

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総合評価1000pt越え致しました。これも皆さまのお陰です。どうもありがとうございます!!!
今回でGWブーストはラストになります。次回は、なるべくガンバル!!

今回は悪乗り回です。
TSヒロインの醍醐味は主食の雌堕ち以外にも、男友達同士の悪乗りが共有出来て
ちょっと、女性には聞かせられない女性の好みをぶっちゃけあえて
男のつまらないプライドを共感しあえるところにあると勝手に思っていたりします。

そんな、TSヒロインの持ち味の一つを出せてたらいいななんて思って書きました。
楽しんで&ご感想いただけると幸いです!


第九報 命の洗濯らしい

「わーお……」

 

 それが案内された部屋でサルバが漏らした第一声だった。

 鼻尖の先には緻密で秀麗な刺繍が施された分厚い寝具に同一の柄を用いた絢爛な壁紙。更には繊細な薔薇の柄が彫り込まれた化粧台とは別に大ぶりの騎士をあしらった姿見までが備え付けられている。

 知っている人間が見れば一発で大都市にある高級宿で目にする代物と分かる調度品が惜しげもなく散りばめられたのがこのC級ダンジョン村の一等客室なのだった。

 

「こりゃ、お前の説明にも納得しかねーわ」

 

「そ」

 

ま、そっか。

 端的に言って分不相応の高級ベッドに向かって「よっ」と飛び乗るサルバ。その柔らかな羽毛布団はサルバの身体を小さな音すら上げずにやんわりと受け止める。

 

「あ゛ー柔らけー……」

 

「楽しそうで何より……かな?」

 

モゾモゾと身動ぎしながら感触を楽しんでいるサルバに近付くと、ムクリと顔を上げたサルバが「そーいや」と小首を傾げた。

 

「一先ず今日はここで休むって言ってたけど、この後はどうするんだ?」

 

「取り敢えず、明日になったら役場の人達が順路を書いた地図を返却してくるからそれに沿って閉鎖をしていって、最後にあの冒険団が出入りしてたダンジョンが近くにあるからそこを軽く見て帰還だね」

 

「出発は?」

 

「多分、明日の昼頃になると思うから、そのつもりでね」

 

「りょーかい」

 

サルバが頷いたのを確かめて、僕は備え付けられた棚からタオルを一枚取る。

 

「? どこか行くのか?」

 

「お風呂」

 

ベッドの上でぐだぐだしていたサルバに答えると、再びむくりと起き上がったサルバが「風呂?」と呟いた。

 

「うん。案内してもらってる時に大浴場がまだ使えるって聞いてさ」

 

「温泉か!?」

 

「いや、沸かしているみたい」

 

サルバが興味をそそられた様に声を上げるけど、残念。温泉じゃないよ。というか、こんな平地に温泉があったら、この村はダンジョンが無くてもやっていけたし。

 

「……それ、水と燃料を態々使ってるってことだよな?」

 

「だね。魔法か燃料かは分からないけど」

 

「つまり?」

 

「推定・借金」

 

「それもかよ」

 

「まあね」

 

こういうことをしちゃうから借金漬けになっちゃうとも言えるけど。

 

「なんつーか」

 

「うん」

 

「「本当にやりすぎ」」

 

「だよね」

 

「ああ」

 

頷いたサルバがため息交じりに立ち上がり、同じく棚に置いてあったタオルを取る。

 

「俺も行くわ」

 

「そ」

 

じゃあ、行こうか。

 

「無駄の贅沢を楽しむのも、たまには良いだろうしね」

 

僕がそう言うと、サルバはニヤッと白い歯を見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐ……」

 

 そんな話をしながら部屋を出たのが少し前の事。目的の大浴場を前に一つの唸り声をあげる置物が出来上がっていた。っていうかサルバだった。

 

「うぐぐ……」

 

歯軋りまでしながらサルバが睨みつけている(と、思われる)のは大浴場の二つに分かれた入口(・・・・・・・・)。より正確に言えば、二つに分かれた入口に掛けられた布に描かれた、“男湯”と“女湯”という大きな文字だった。

 

「まさか男女を分けられるほどお金を突っ込んでたなんて、人間の感覚の麻痺って怖いよね」

 

「そこじゃねーよ畜生!!」

 

「はっはっは」

 

廊下に響き渡るサルバの絶叫。ま、だよね。

 

「でも、いい加減腹を括らないと、いつまで経ってもお風呂に入れないよ?」

 

サルバが風呂場の前で葛藤と懊悩を始めて早数か月。

 

「そこまで経ってねえからな!?」

 

「じゃあ、そこまで経つ前に結論は出るの?」

 

「うぐぐぐ……」

 

 当たり前のことを言えば、またも歯を食いしばって懊悩を再開するサルバ。まあ、多少は分からないでもないけれど。

 男湯に入れば他の男の人が入って来た時にトラブルの元になりそうだけど、女湯に入れば男の尊厳的な意味で死が待っている訳だし。僕もサルバみたいに体が女性になったら、流石に迷うかもね。

 

「そもそも、男のまま女湯に入るのと、女になって女湯に入るのとじゃ大分意味合いが変わるもんね」

 

「うぐぐぐぐ……」

 

分かってるなら突っ込むなと言わんばかりの恨めしそうな気配が飛んでくる。一応、第三の選択肢として入浴を諦めるっていうのもあるにはあるけど、一日歩き通しだったところにタダで入れる大浴場という魅力には熟練の冒険者であるサルバでも抗いがたいらしかった。……しょうがない。

 

「もう腹括って男湯に入ろ?」

 

いい加減、面倒臭いし。

 

「いや、でも「どうせ、他の男の人達は絶対に男湯には入ってこないし」……は?」

 

ぽかんと間抜けなお顔になるサルバ。うん、予想通りの反応。

 

「ど、どういう事だよ?」

 

「さっき、ここの人にお風呂のことを聞いたって話をしたでしょ?」

 

「おう」

 

「その時に意味ありげな顔してたから、多分問題無いんじゃないかなーって」

 

「……俺とお前が風呂場でおっぱじめるつもりだろうと思われてるって事か。おい」

 

「半分はね」

 

「あん?」

 

唸ったサルバが不服そうに口を尖らせるけど、多分それだけじゃない。

 

「今、この村じゃ男湯に入る人自体がまず居ないだろうからね」

 

「んん?」

 

「ほら、村の男の人達は実質単なる奴隷に近い状態で、債権屋の人達が態々お風呂に入れる義理は無いでしょ?」

 

「ああ」

 

「だから、入浴するのはセックスが仕事である程度身綺麗にしておかないといけない女の人と、その女の人を抱きに来る債権屋の男の人達くらいなんだよね。で、そういう人達が態々別々にお風呂に入るはずがないから」

 

「そういう事か……」

 

「うん」

 

自分達が使う方が決まっている状況で、外から来た僕達に入浴を許可する時点で自分達とは分けて入浴できるように手配くらいはしてくれているだろう。ま、混ざりに行ったら混ざりに行ったでお金さえ払えば特に気にもしないとも思うけど。

 

「……ん?」

 

あ、サルバが首を傾げた。

 

「なあ、アルタ」

 

「何?」

 

「お前、そこまで詳細に説明できるって事はだ」

 

「うん」

 

「……分かってて黙ってたって事だな?」

 

そして前髪の奥から漏れ出す殺気。

 

「もちろん」

 

まあ、答えは変わらないんだけどさ。

 

「……何でだよ?」

 

(サルバ)をエッチな事目的でお風呂に連れ込んだって思われたくなかったから」

 

勝手に自爆して女湯に行ってくれないかなーって。

 

「おい」

 

「僕の慈悲深さに感謝して咽び泣いても良いよ?」

 

許可してあげる。

 

「……」

 

「……」

 

「お前……やっぱりイイ(・・)性格しているわ」

 

そう?

 

「まあ、どうでも良いや、僕は行くね」

 

「お前に少しでも気兼ねした俺が馬鹿だったわ」

 

男湯の入り口に掛けられた布を潜ると、げしげしとサルバにお尻を蹴られた。仕返しにサルバの頭を握ると「ギャース!?」とサルバの悲鳴が木霊した。汚い悲鳴だね。

 

 

 

 

 “男湯”と書かれた布を潜った先にある脱衣所は予想通り人の気配が皆無で、手入れこそ行き届いているものの、あまり使われていないのが雰囲気で分かった。

 

「お前の言ってた通りっぽいな」

 

「でしょ」

 

脱いだ羽織を適当に丸めて籠に放り込んでると、ダンジョンコートを脱ぎ捨てたサルバがサスペンダーを外してシャツを脱いでいた。

 

「あ、その下着着てたんだ」

 

「一応、ダンジョンに潜るかもしれないと思ったからな」

 

そう言ったサルバのシャツの下から現れたのは、この前のロハグでチラッと見た補正下着みたいだった。

 胸の下に穴が開けられた特徴的なデザインのそれは大分タイトな生地を使っているらしく、あれだけ凹凸の激しかったサルバの身体が見違えるくらいすっきりとした流線形になっている。そして、サルバが首元から股下まで伸びた光沢質の下着の後ろ腰に手を回してパチッと留め金を外すと、下着自体の伸縮性のせいか或いはサルバのおっぱいの弾力のせいかヒュンッと股下を抜けたサルバの下着が前掛けみたいに縮んで、代わりにタメ(・・)から解放されたサルバの胸が大きく弾んで、拘留前よりも数回り大きな本来の姿を取り戻した。それはそれとして、

 

「随分とあっさり脱ぐね」

 

「あん?」

 

全裸になって男らしくバサッと肩にタオルを担いだサルバを見て、僕は今更ながらにそんなことを思った。いや、まあ、しょせんは男同士ではあるんだけど、普通はもう少し警戒する気がしないでもない。一応どっちも裸な訳だし。

 

「なんだ、もっとしおらしく恥じらいながら脱ぐ方が好みだったか?」

 

「いや、別に」

 

サルバ相手にそういう(エロい)のは求めてないし。

 けれど、僕の否定をどう曲解したのか、サルバは妙に口元をニヤニヤさせながら下から覗き込むようにして首を傾げてきた。

 

「ま、その辺はお前なら大丈夫だろうと思ってるぜ?」

 

そう? 随分と信用して「だって男として枯れてそうだしな。ダンジョンみてーに」る訳じゃないね。うん。

 

「その辺は安心してくれていいよ。僕はサルバと違ってちゃんと男の象徴付いているから……ぷっ」

 

「お? という事は、()の乳に興味があんのか?」

 

そう言いながら「うりうり~♪」と見せ付ける様におっぱいを揺らしてきた。やるじゃないか。うん、その挑戦買ってあげようか。

 

「ひんっ!?」

 

脱衣所の中に、サルバの甲高い悲鳴が響いた。

 

「な、ななな!?」

 

次いで、顔を真っ赤にしながらおっぱいを両腕で庇って後退るサルバ。うん、予想通り。

 

「何しやがる!?」

 

はっはっは。

 

「おっぱい揉んだだけだけど?」

 

見ての通り。

 

「て、てめ、まさかそっちの(・・・・)気が!?」

 

「は? ある訳ないでしょ野郎相手に」

 

あったら()ってるからね?

 

「で、どうだった?」

 

「……何がだよ」

 

「おっぱい揉まれて感じちゃった感想は?」

 

「がはっ!?」

 

精神的ダメージを受けたサルバはお腹を抱えて突っ伏した。ざまぁ。

 

「俺が悪かった。すっげー精神的にきついから勘弁してくれ」

 

「良いよ」

 

仕返ししたらすっきりしたし。

 

「それよりさっさと入ろうよ」

 

「後で覚えとけよ」

 

「残念、もう忘れちゃった」

 

「さよか」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

サルバがハイキックをした。

 

僕はしゃがんで回避した。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 脱衣所の木戸を引いた先には、ごく当然に村の規模に不相応な大浴場が広がっていた。

 

「もう驚かねーけど、ここまでくるといっそ見事だな」

 

「だね」

 

ぼやく隣のサルバに僕も同意する。何度も見てきたけどやっぱり馬鹿なのかな?

 

「取り合えず、さっさと入ろうぜ」

 

「うん」

 

促すサルバの言う通り、さっさと体を洗って浴槽に向かうことにする。昨日の夜から歩き通しだったせいで体中が割と汗でべとべとだしね。

 

「「あ゛~……」」

 

 体を洗い終えて湯船に浸かると、僕とサルバの口から同時に親父臭い声が漏れた。

 

「昼間っからこういうのはやっぱ贅沢だな……」

 

まだ日が高い青空を向きながら呟いたサルバが、顔を洗うためにお湯を手ですくおうとしたところで、胸元でぷかぷかと浮かぶおっぱいが邪魔になっている事に気付いて渋い顔をする。

 

こいつ()さえ無けりゃ、最高なんだがな」

 

「でも、サルバが女の身体になっていなかったら、そもそもここには来ていないけどね」

 

「それもそうだ」

 

肩を竦めたサルバがおっぱい越しに掬ったお湯でバシャバシャと顔を洗い、ザバッと濡れた前髪を乱暴に掻き上げた。

 

「……」

 

「ん? どうした?」

 

「いや、やっぱり顔の造形は美人だなって。これじゃあ男の冒険者もやたらと声を掛けてくるよね」

 

「悍ましいことを言うなよ、おい」

 

「はっはっは」

 

目を瞑ったままブルッと身震いをしたサルバが心底嫌そうに前髪の水気を切って長い黒髪で顔を隠す。そして、手を離すとすぐにぷかぷかと浮いてきてしまう自分の胸を力任せに湯船に沈めてから、もう一度「あ゛~……」と漏らした。

 

「「……」」

 

 そうやって、暫く二人揃ってぼんやりとお風呂に浸かって空を見上げていると、ふと隣のサルバが何かを思い出したように「そういやアルタ」と口を開いた。

 

「なに?」

 

「さっきから気になってたんだが、この村じゃ随分と丁重にっつーか真っ当に扱われてるよな」

 

「ああ、それ?」

 

「おう。拠点にしてたロハグですらあの様だろ? 却って不気味なんだが」

 

まあ、事情を知らないと、そう思っちゃうよね。そうだな……、

 

「債権屋が僕や僕に限らずダンジョン閉鎖士を丁重に扱うのはダンジョンの閉鎖のタイミングをコントロールしたいからなんだよ」

 

「閉鎖のタイミング?」

 

「そ」

 

僕が頷くと興味がそそられたのか、サルバがおっぱい越しに少し身を乗り出してきた。

 

「元来、債権屋っていうのは借金を盾に貴族の財布に手を突っ込む稼業なんだけどね」

 

「お前ですら貴族領の人間の命までは取らねーのに凄い話だよな」

 

「そうかな?」

 

「そうだろ」

 

「そうかもね」

 

自分では特に考えたこともなかったけど。

 

「ただ、いくら借金()があるとはいえ、真っ向から喧嘩を売れば分が悪いのも事実でさ」

 

「流石に正規兵用意されちゃどうにもならねーのか?」

 

「そうそう」

 

いくら荒くれ者とはいえね。

 

「だから、基本は気付かれないように裏でこっそりなんだよ」

 

「ふむ」

 

「で、そのトリガーになるのが僕達がやるダンジョンの閉鎖なんだ」

 

「ダンジョンの閉鎖がトリガー?」

 

「うん」

 

僕の言葉にコテンと首を横に倒すサルバ。その水気で纏った前髪が少しずれて青い左目が覗く。

 

「ダンジョン閉鎖士がダンジョンを閉鎖すると、そこの領主のところから徴税官が派遣されてくるんだ。ダンジョンが無くなると、大抵の村は税収や内訳が大きく変わるからね」

 

「つまり、検地がされるってことか」

 

「そうそう。で、それをされちゃうと翌年の税収の見込みが領主に報告されることになるから」

 

「上前跳ねたのが一発でバレる訳だな」

 

「そーゆーこと」

 

つまり、債権を購入してから検地までが彼ら(債権屋)の稼ぎ時な訳だ。で、貴族の部下である徴税官をコントロールするのは不可能だから……

 

「俺達閉鎖士の閉鎖を出来るだけ遅らせて、検地までの時間を稼ぎたい訳だな」

 

「ご名答」

 

軽く拍手をすると、ずぶぶーと顎下までお湯に浸かったサルバが「なるほどな」と呟いた。

 

「ちなみに、僕達ダンジョン閉鎖士というかギルドの方も結構債権屋とは仲良くしたい事情があってさ、彼らは貴族に目を付けられないように頻繁に違う領主の土地に移動するおかげで複数の貴族の関係性なんかに精通してるから結構貴重な情報が聞けたりするんだよね。実際、さっきの話は結構面白かったでしょ?」

 

「確かにな」

 

頷いたサルバだったが、次に訝る様にまた小さく首を傾げる。

 

「けど、いいのか?」

 

「なにが?」

 

「確かに便利なのかもしれねーけど、国にとっては明確に敵性組織だろ?」

 

「あ、そこ? それなら全然問題ないよ」

 

「マジでか?」

 

「うん。だってギルドは皇帝直属組織だもん」

 

結論、貴族とは仲間じゃない。

 

「……」

 

「……」

 

「……碌でもねーな」

 

「あれ? 今知ったの?」

 

「そーいや元からか」

 

ケッと吐き捨てたサルバだけど、口元は愉しそうに笑っている。

 

「ま、そういう訳で僕達と彼らは持ちつ持たれつな関係って訳」

 

お陰で今回も面白い話が聞けたしね。リーセン子爵の本心とか。

 

「うーん、俺は別に関係ねーから納得も出来るんだが……」

 

「うん」

 

「ダンジョン閉鎖士が嫌われてんのって、そーゆー奴らと(つる)んでんのも原因じゃねーの?」

 

「それはあるかもね」

 

「あっさり認めるな、おい」

 

「だってどうでもいいし」

 

認めたからと言って、僕の仕事内容が変わる訳でもなし。

 僕がそう答えると、サルバは苦笑しながら軽く両肩を竦める。すると、腕の拘束が外れたせいでぷかりと浮かび上がった大きなおっぱいが水面に揺れて、湯船全体に広い波紋を作ったのだった。

 

 

 

 

「……しっかし」

 

「んー?」

 

 湯船に浸かりながらぼんやりと空を見上げていると、またサルバが思い出したように口を開いた。

 

「なにがどう育ったら、お前みたいな身も蓋もない生物が出来上がるんだ?」

 

「どうしたのさ、藪から棒に」

 

「いや、ここ数日お前と連んでみて、改めて俺が会った中でも指折りの変人だなって思ってな」

 

「……」

 

失礼な。

 僕が軽く肩を竦めて返すと、少し体が火照ったのかサルバがザバーッとお湯を滴らせながら立ち上がって浴槽の縁にどっかりと座り込んだ。そして、外から流れてくる微風に晒されると気持ち良さそうに「あ゛~……」と溜息を吐くその姿は実におじさん臭かった。身長や目の前でだぷんと揺れるおっぱいなんかは完全に普通の……普通の?まあ、女の子なのにね。

 

「良いんだよ。どうせ十年もすれば俺もお前もおっさんだろ」

 

「今のままだと僕と違って、サルバはおっさんじゃなくておばさんだけどね。ぷっ」

 

「ぶっ殺すぞこの野郎」

 

はっはっは。

 

「んで?」

 

「ん?」

 

僕も少し暑くなってきたので湯船から出てその縁に座ると、隣のサルバが改めて身を乗り出してきた。ちょ、近い近い。主にばかでかいおっぱいが近い。

 

「実際どういう生い立ちしてんだ?」

 

「どうって言われてもなあ……」

 

「なんなら、どういう経緯でダンジョン閉鎖士になったんだよ」

 

「別に特別なことは何も無いよ?」

 

何かを期待してるみたいだけど、まず間違いなく拍子抜けするだろうし。

 

「良いんだよ、俺が個人的に興味あるだけだし。それに一時のとはいえ相棒であるお前のことを知らねーってのも味気ねーだろ?」

 

「本音は?」

 

「俺の人生最大の黒歴史を一方的に握られてるのが純粋にムカつく」

 

「だろうと思ったよ」

 

むしろ、それ以外の理由だったら一体どうしようかと。でもまあ、

 

「それくらいなら別に良いけどさ」

 

普段思い出すこともないから、ちょっと時間はかかると思うけどね。

 

 

 

 

「僕はロハグの西にあった普通の農村の生まれで、家も特になんてこともない農家だったんだけど」

 

「マジで普通だな。もっとこう、お前主観で普通なだけのキワモノっぽい家かと思ってたわ」

 

「だから言ったじゃん」

 

特別なものは何もないって。

 

「で、六歳の頃だったかな。村にダンジョンが出来て、一時的に暮らし振りはかなり贅沢になったね」

 

何なら、今よりも遥かに贅沢だったかも。

 

「お前、ダンジョン村の出身だったのか?」

 

「そうだよ? よくあるダンジョン村」

 

「ほーん……」

 

「?」

 

なんかサルバの琴線に触れるものがあったらしく、前髪の奥から覗かせた青い左目で妙にしげしげとこっちを見上げてくる。

 

「まあ、当時は何も分かってなかったんだけど、分かってないなりにダンジョン村生活は甘受してたかな。家の手伝いとかしなくても良くなったし、代わりに結構美味しい物も食べられたし」

 

「絵に描いたような成金だな」

 

「ほんとにね」

 

散財とは言っても、村を街に改造するほどじゃなかったから、小さなダンジョンだったんだとは思うけど、この辺は今の稼業に入ってからの経験則だ。

 

「で、ダンジョンが開口して三年くらい経ったころかな、ダンジョンから何となく甘ったるい臭いがする様な気がしてさ」

 

「それって」

 

「うん、ダンジョンの臭い」

 

その時は気付かなかったけどね。

 

「最初に気付いたのがダンジョンの前で、そのことを親に言っても首を傾げられるだけでさ。けど、低級なりに歴の長い冒険者の人達なんかが急に旅支度を始めてね、狼狽する村の大人の人達にダンジョンの寿命のことを教えたんだよ」

 

「それ……村の反応は?」

 

「まあ、サルバの想像している通り?」

 

殆ど集団発狂に近い状態だったよね。

 

「周りで聞いてた冒険者の人達も釣られた様に荷造りを始めちゃって、蜘蛛の子を散らすようだったね。で、一瞬で無人になったダンジョン前で村の人達がキレるキレる」

 

「想像がつくな……」

 

「ちなみに、一番キレてたのは両親でさ、それまでに見たこともない顔で僕に取り消せって怒鳴り散らしてたね」

 

「それは、あのダンジョン村の奴らみたいなか?」

 

「そうそう」

 

サルバと会った時に追って来たダンジョン村の人間みたいな感じ。

 

「で、そのまま村の人達に袋叩きにされそうになって」

 

「そこでもかよ。お前、しょっちゅう袋叩きにされ過ぎじゃね?」

 

「そうかな?」

 

「そうだろ」

 

「じゃ、そうか」

 

自分ではあんまりそういう感覚無いけど。

 

「で、ここでも真っ先に僕を殴りつけようとしたのが父親だったんだけど、それを止めた人がいてさ、このまま殴り殺すつもりなら僕を売ってくれって」

 

「なんだ、残った中にも一応まともな奴がいたんだな」

 

「んー……たぶん、そういうんじゃないんじゃないかな」

 

「そうか?」

 

「うん。だってそれ言ったのってギルド長だし」

 

「あのババアかよ」

 

「じゃあ、ありえねーじゃん」と言い切るあたり、サルバが普段ギルド長をどう見てるのかがよく分かるよね。まあ、概ね適切ではあるけれど。

 

「つか、あのババアは何でお前の村になんか来てたんだよ?」

 

「覆面調査だったみたいだよ? ほら、僕達がトウトウ村でやったような」

 

「あー……。ってことは、ギルドの方でもお前の村のダンジョンが枯れ始めてることは何となく察してたって訳か」

 

「だね」

 

何なら、本格的に閉鎖の段取りまで考えていたまであると思うけど。

 

「で、最終的にギルド長と元両親とがやいのやいのと値段交渉を進めて」

 

「おう」

 

「金貨三枚で売られた」

 

「安いな。娼婦用の子供でももう少しするだろ」

 

「男の子供だからね。貴族が好きそうな美少年って訳でもなかったし」

 

「……」

 

「っていうていで実際には村の大人が知らないのを良いことに、ギルド長が足元見ただけなんだけどさ」

 

「おい」

 

はっはっは。

 

「ま、そんなこんなでダンジョン閉鎖士補佐になって、十歳の頃に独り立ち。後はダンジョンの閉鎖をし続けてたらいつの間にか四桁のダンジョンを閉鎖して今に至るってところかな」

 

「そうか……」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

「……なんつーか」

 

「うん?」

 

「お前がそういう性格になったのも分かる気がするわ。そんな生い立ちじゃ、感情も乾くに決まってるよな」

 

……ん?

 

「何か勘違いしてないサルバ?」

 

「あん? 何がだよ」

 

「サルバが何かしら思う過去は事実だけど、そういうのは特に関係なく元からこういう性格だよって話だからね?」

 

「おい」

 

サルバがズビシッと手刀を立ててきた。

 

「じゃあなんだよ、今のは盛大な前振りか?」

 

「前振りも何も、特別なことは何もないって先に言っておいたじゃん」

 

「そりゃそーだけどよー」

 

「あ、でも今考えたら、即リンチされそうになったのって、元から嫌われてたせいだったりするのかな?」

 

「遅いなオイ!?」

 

「はっはっは」

 

だって、サルバに言われるまで完全に忘れてた話だし。

 もう一度ズビシッと立てたサルバの手刀を受けながら、少し体も冷えてきたので湯船にもう一度浸かることにする。と、

 

―でさ……だから―

 

―あはは、うそ……―

 

「「ん?」」

 

 難しい顔をしたサルバが腕組みをするのを横目に湯船に戻ったところで、僕とサルバしかいなかった風呂場に甲高い女の人の声が混ざってきた。

 

―ほんっと、金払いが良くてもあんな客は願い下げよ―

 

―そんなこと言っちゃだめよ。おかげでダンジョンがあった時よりもいい生活してるんだから―

 

「娼婦の人達、お風呂みたいだね」

 

「だな」

 

「そろそろ、寝る頃なのかな?」

 

「かもな」

 

男湯と女湯を仕切る柵の反対側から聞こえてきたその会話はこの村にまだ残されている娼婦の人達のものみたいだった。こんな時間から入浴に来たということは少し前まで客の相手をしてたのかもしれない。

 

―あら、早いじゃない―

 

―あー疲れた。もう腰もあそこもギシギシよ―

 

と、そうこうしているうちに徐々に増えてくる声の数。それに合わせて時折笑い声が混じる中、不意にガンッと響く何かがぶつかる音。多分、脱衣場から続く木戸だろうけど、乱暴に鳴ったそれの後に、今度は「お、集まってやがる集まってやがる」という酒に焼けた男の人のがらっぱちが聞こえてきた。

 

「きゃっ!?」

 

「もう、嫌ですよ旦那様。んっ♥ こんなところで始められちゃったら、あっ♥ せっかく身体を洗ったのんんっ!!」

 

「へっへっへ。そう言うなよっと!」

 

「ああん♥」

 

そして間を置かずに響き出す甘ったるい嬌声と媚びたような喘ぎ声。同時にパンッパンッと人が肉と肉を合わせる音が上がり始めた。

 

「ほら、言った通りでしょ?」

 

案の定始まった()。これがこの村の日常なんだろうね。……ん?

 

「サルバ?」

 

「んっ!? あ、お、おう」

 

反応が無いサルバを見ると、なぜかジッと固まっていたサルバがビクッと肩を跳ねさせてしどろもどろになりながらこっちを振り向いた。なんか妙にソワソワしてるし、心なしかさっきよりも顔が赤い様な……ああ。

 

「サルバ」

 

「お、おう、何だよ?」

 

「覗く? 女湯」

 

「……」

 

「……」

 

「………………………………は?」

 

なぜか鳩が豆鉄砲を食らったような反応をされた。

 

「な、なななな、何を言ってるんだ!?」

 

「ちょ、うるさ」

 

「うるさくもなるわっ!!」

 

ガバッと飛び掛かってきたサルバがヘッドロックをしながらベシベシとこっちの頭を叩いてくる。いや、全然痛くないんだけど、おっぱいのせいで苦しい苦しい。

 

「頭おかしいんじゃねーの!?」

 

「産まれてこの方、正常だよ?」

 

「正常な奴は隣の湯でおっぱじめたのを『覗く?』なんて言わねーんだよっ!」

 

「でも、さっきから興味津々でしょ? 大分ムラムラ来てるみたいだし」

 

「な、ば、馬鹿言ってんな!」

 

「それ、器用だよね。小声なのに叫んでるって」

 

動揺のせいか変に力んだサルバの腕から抜けて相対してみれば、案の定言葉の割に女湯から意識を外せないでいるのが分かる。それ、誤魔化しているつもりだろうけど、前髪が揺れっぱなしだからバレバレだよ? まあ、別に良いけど。

 

「で、本当にどうする?」

 

「ど、どうするって」

 

「女になっちゃってから、色々と溜まってるんでしょ? しかも今はダンジョン閉鎖士補佐だし」

 

「うぐ……」

 

「ここの娼婦の人達なら覗いても塩撒いたりもしてこないだろうし、何なら上に話せば相手もしてもらえると思うけど? この村じゃ債権屋の言うことが絶対だし」

 

「ぐぎぎぎぎ……」

 

「折角だし、村の幸せを壊したダンジョン閉鎖士プレイでもしてくれば?」

 

「お前は俺をどうしたいんだよ!?」

 

「はっはっは」

 

ま、最後のは適当に思い付きを言ってみただけだけどさ。

 

「ま、これも福利厚生の一貫だから」

 

「とんでもねえ福利厚生もあったもんだな!?」

 

「そうかな? 三大欲求に沿うのは生物相手ならむしろ正しい気がするけれど」

 

「だとしてもなあ!?」

 

「あ、それとも一人で覗くのが嫌だとか? それなら僕も付き合うよ? それくらいならそんなに時間も取られないし」

 

「付き合おうとすんな! 止めろよ! むしろよぉ!」

 

「そう言ってるけど、また目が泳いでたよ?」

 

というか、最早ガン見なんだけどね。

 

「イ、クウゥゥゥゥゥッッッ!!!!♥」

 

「あ、イッた」

 

「解説せんでいいわ!」

 

僕達が騒いでいる間にも柵の反対側ではどんどん盛り上がっているのか、始めは多少押し殺していた嬌声は完全に開放されて、今や風呂場どころか村の広場にまで響く大合唱になっている。

 

「で、どうする?」

 

「さ、流石に不味いし」

 

「どうする?」

 

「お、お前だって世間体とかあるだろ?」

 

「ダンジョン閉鎖士にそんなものある訳ないでしょ。で、どうする?」

 

「ぐ……」

 

「本当にどうする? 正直、僕としては別に見ても見なくてもどっちでも良いし、サルバがもう一度首を横に振ったらお風呂上がろうかなって思ってるんだけど」

 

「っ~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

頭を抱えて沈んじゃった。

 

……

 

…………

 

………………

 

「ぷはぁっ!!」

 

「あ、出てきた」

 

「ふんっ!!」

 

「ちょ、またヘッドロックしないでよ。苦しい苦しい」

 

しかも、長い髪が全身にへばり付いてて怪談に出でくる幽霊みたいなんだけど。

 

「うっせぇ!俺がこんな事してんのも何もかも全部お前のせいだっ!!」

 

「うわ、酷い濡れ衣」

 

悶々と悩む部下に建設的な解消案を提示しただけなのに。

 

「別にいいけど結局決まったの?」

 

「……」

 

「……サル「いいじゃねえか」うん?」

 

「やってやるよ、やってやろうじゃねーかっ!!!」

 

「気合入ってるね。そんなにムラムラしてた?」

 

「お前のせいだよ!!!!」

 

「そう?」

 

ま、いっか。

 

「そうと決まれば足場を作ろっか。サルバ、桶を取りに行くよ」

 

「おう!」

 

頷いたサルバと風呂場の端に置いてある桶を重ねて女湯前に三角形の形で並べる。そして、また桶置き場に戻るともう一度……

 

「よし」

 

そして積み上がった風呂桶の階段に腕組みしながら向き合うサルバ。その前髪から覗く左目が妙に据わっている。……、

 

「どうした? アルタ」

 

「ん? んー」

 

何て言うかさ、

 

「全裸なのに欠片も色気がないってある意味凄いなって思ってさ」

 

「中身が男なのに色気もくそもある訳ねーだろ」

 

そりゃそーだ。

 

「アホな事言ってねーで、早速覗こうぜ」

 

「お、やる気だね?」

 

今の今までと違って。

 

「けっ、もう腹括ったっつの」

 

「そ」

 

「それに、確かに興味あるからな」

 

「抱けねーし、触れねーしで、せめて見れる時くらい見まくってやる」とサルバは鼻息を荒く噴き出した。

 

「じゃ、行くぜ?」

 

「はいはい。何時でもどうぞ」

 

サルバに頷き返すと、そっと音を立てない様にサルバが一歩目を踏み出す。それに合わせて、バランスを取りながら、一段、また一段と風呂桶の階段を登っていくと、少しずつ柵の天辺が近付き、それに合わせているのか、どんどんととなりの女湯から聞こえる嬌声が大きくなっていく。風呂桶の階段の一番上の段まで上り詰めて、柵のへりに手を掛けると、僕とサルバはどちらともなしにもう一度顔を見合わせた。

 

(いくぞ、準備は良いな?)

 

(オッケーだけど、やっぱり随分ノリノリだね)

 

(当たり前だろ。あんだけ焚き付けられたら、誰だってこうもなるっつの。それにな)

 

(?)

 

(前のパーティーじゃ、絶対に出来なかったから、女湯の光景は素直に興味がある!)

 

(あ、はい)

 

どうやら、心底ノリノリだったみたいだ。

 

(じゃあ、今から三つで行くぜ?)

 

(うん。分かった)

 

(よし、……一)

 

(二の)

 

((三))

 

三の合図と同時に柵の上に顔を出すと、

 

「おう、どうだ、今日一日でお前の旦那の腹と背の皮を鞭で剥いだ男の"へのこ"は?」

 

「あん♥ ああ、ごめんなさい貴方!! ごめんなさいぃっ!!♥」

 

真正面に湯船で交わる男女。一人はさっきの広場でちらりとみた債権屋の男性。抱かれているのは確か、

 

「さっき、ガキ抱いて男に買われてた女だよな、あれ」

 

「そうだね」

 

期待に満ちた顔で覗き込んだのに、顔引き攣ってるよ?

 

「え? つか、旦那?」

 

「赤ちゃん居るんだし、既婚者なのは変じゃないんじゃない?」

 

むしろ、そっちの方が可能性があると思うけど。

 

「……旦那居るのに、ああいう事してんのか」

 

「あの人達も稼がないといけないしね」

 

自分の分なり、子供の分なり。

 

「債権屋の男の人に気に入られれば、それだけ扱いも良くなるからね。特に偉い人の情婦になれれば、売られる時にも多少なりとも割の良いところに割り振ってもらえるし」

 

経済力はそれだけで男の魅力そのものと言っても良いしね。

 

「だからほら、債権屋の男の人に選ばれた女の人達は良い笑顔しているし、美人が多いよね。周りも頑張って債権屋の人達に媚び売ってるけど、やっぱり見て楽しむなら実際に抱かれている人達がおすすめかな」

 

実際、お風呂に入っている女の人の中でも、今抱かれている人達は特に美人だし。

 

「いや、確かに美人だが、その背景を聞くとすっげー気が重くなるんだけどな」

 

「そう?」

 

「つか、お前はそういうの無いのかよ?」

 

「別に見て楽しむだけだし、その人の背景とかどうでもよくない? それよりも、どうせなら美人の方が良いと思うんだけど」

 

「半分は否定しねーけどよー」

 

何故かサルバは眉間を抑えながら天を仰いだ。うーん?

 

「……まあ、性欲は解消出来たみたいだし、別に良いか」

 

「これは解消出来たんじゃなくて萎えたんだよ、くそったれ」

 

「おや、ダンジョン閉鎖士様じゃねーですか!」

 

「あんっ♥」

 

と、話し声が大きすぎたのか、話題の人妻からずるりと性器を引き抜いた債権屋の人がこっちの方に歩いてきた。

 

「どうも、お邪魔しています」

 

壁の上から手を振ると、にっと愛想笑いを浮かべた債権屋の人はくいっと親指で後ろの女の人達を指す。

 

「どうです、もし宜しければ混ざって行きませんか?」

 

セックスのお誘いか。うーん……

 隣を見ると、既にサルバの目からは情欲の色は消えていて、最近感じていたムラムラもなくなっている。……うん、じゃあ、別に良いね。

 

「いえ、そろそろ、部屋に戻るつもりだったのでお気遣いなくー」

 

「そうでしたか。じゃあ、あっしらもこれで!」

 

仕切りの上から答えると、手を振ってきた債権屋の人はまたばちゃばちゃと湯船の方に戻って行った。

 

「サルバ」

 

「んおっ!? あ、おう」

 

「帰るよ」

 

「ああ」

 

頷いたサルバと風呂桶の階段を下りる。女湯の光景が見えなくなるのとほぼ同時に、再び嬌声が辺りに響き始めた。

 

「……なあ、アルタ」

 

「? 何?」

 

「さっきの女の人達、すっげー幸せそうだったな」

 

「そうだね」

 

「でも、旦那もガキも居るんだよな」

 

「全員かは分からないけどね」

 

「それなのに……口では旦那の事を呼んでたよな?」

 

うーん、そうだね……。

 

「別に良いんじゃない? 実際、本心は幸せだろうし」

 

確実に、今のこの村で一番裕福な暮らしをしているだろうからね。人間、周りの人間より少しだけ贅沢出来ると幸せを感じるって言うしね。全員、既に味見(・・)はされてるだろうけど、美人ならそれだけで売られた後も食べるのにはそこまで困らないだろうしね。

 

「そういうもんか」

 

「そういうものだと思うよ?」

 

詳しくは知らないけど、債権屋に売られた女の人達は割とそんな感じだったかな。

 

「……なあ、アルタ」

 

「? 何?」

 

「やっぱ、女ってわかんねーな」

 

「そう?」

 

「おう」

 

頷いたサルバが深々と嘆息した。……ふむ。

 

「次は男の人が居ないときにする?」

 

「もう当分いいっつの」

 

苦笑交じりのサルバに、ぺしっと脹脛(ふくらはぎ)を蹴られたのだった。

 

 

 

 

 




女性はとても優秀で賢い存在なので、許容や妥協は出来るのですが、それ故に男のつまらないプライドに対する共感だけは難しい。感情の構造は理解できても共感はない。
そして、その辺を共感できるのがTSヒロインと女性のヒロインの最大の差別化点かなと思っていたりします。

なので、いずれはそういう話も描けたらな、なんて思っております。

アルタってあまりプライド無いけどね!


20/06/15:誤字修正致しました。白よもぎ様どうもありがとうございます
20/7/24 みずーり様誤字報告誠にありがとうございます!修正いたしましたー
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