とあるフリーの科学術式   作:ジャックフロスト

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リドヴィアさんって本編よりもSS2の方が輝いて見える。



原作開始前・とある夜霧の国際便 Aパート

「日本か……仕事抜きであそこに行くなんて、何年ぶりかな」 

 

 

 夜霧はイタリア・ミラノから日本・成田行きの便の中でしんみりとした声色の呟きを漏らして、窓に映る自分の顔を眺めていた。

 リドヴィアへちょっくら日本まで行って来るぜ発言をした夜霧は今まで生活拠点としていたホテルから日本に行くのに必要な道具や資金などを使い古したキャリーケースに押し込むと、夜霧はその日のうちにイタリアを発った。

 

 実を言うとそこまで急ぐ必要は無いのだが、日本へ行き学園都市への侵入ルートやそれによって必要になるだろう霊装の確保やとある人物の身辺調査などやるべきことは山積みで今日出来ることは今日のうちに片付ける人間の夜霧はとっととイタリアから飛び立って現在は空の旅を堪能しているのである。

 

 「(あ~、日本に着いたらとりあえずどっかのホテルにチェックインして学園都市の警備体制を調べつつ必要な霊装は今のウチに作っておくか)」

 

 金髪ナイスバディのフライアテンダントさんが夜霧のすぐ横にある通路を歩いていくのを見ながら、そんなことを考えつつ夜霧は飛行機のフリードリンクコーナーから持ってきた気の抜けた炭酸で喉を潤し、後は飛行機が日本に着くまでぼーとすることに決めたらしい。

 

 夜霧が大して乗り心地や座席数などを気にせず乗ったこの飛行機は二座席一組の座席が左右と中央、つまり三つ縦に並べられていた。

 

 どれでもいいからとりあえず日本に直接到着する便を選ぼうと思って夜霧が乗ったこの便は、エコノミーやファーストやビジネスクラスと言ったサービスの違いはないらしく最前列から最後尾の座席まで同一のサービスらしい。

 もっとも飛行機なんて仮眠室だ!と考えている夜霧はそんな細かいことなど気にせず、後ろの座席の人に断ってからリクライニングを倒しさっそく眠りに着こうとしたのだが。

 

 

 「(このニオイ…………北欧系の魔術のニオイがするな。誰だ?飛行機の中で術式を組み上げているアホは)」

 

 

 

 座席に座り目を閉じた瞬間、夜霧の魔術的に強化された『嗅覚』が何者かの魔力を嗅ぎつけた。

 夜霧は心の中で舌打ちをしながらさっき倒したリクライニングを元の位置まで戻すと、座席に座ったまま少しだけ背伸びをし周りの乗客を見渡した。

 

 なんで魔術師がこんな所で魔力を練り始めているんだよ?夜霧はまっとうな疑問を抱きながらこの飛行機に乗っている乗客を忌々しく見渡し一応の保険としてジーンズに七分シャツの服の上に羽織っていたジャージの中へ手を突っ込み、他の乗客には見られない角度でジャージの内ポケットに忍ばせておいたとある霊装をジーンズとそのジーンズに巻いたベルトとの間へ挟んだ。

 

 「(さて……と、タネも仕掛けも個人秘密な魔術師探し《犯人探し》を始めるか)」

 

 夜霧は小さく溜め息を吐くと今自分がやるべきことを開始した。

   

 

 クリフ・エルフィンはまるで定規で測ったかのような英国人だった。

 肩まで伸ばした金髪の髪にエメラルド色の碧眼、スラリとワンピースから伸びる足はまるでルネサンスの絵画に登場する王妃のように美しく大きな胸とくびれた腰は日本人が想像する英国美女そのものだ。見た目二十代前半の彼女は白いワンピースの上に紺色カーディガンを羽織っておりミラノから日本行きの国際便に乗って今はその中央部分にある『スタッフオンリー』と書かれた用具室の中で一人佇んでいた。

 

 一辺が四メートル程ある正方形の部屋の中で彼女は一人、これから行う行為に対するシュミレーションを頭の中で計算していた。

 彼女が居る部屋は緊急着陸時に使用するような使用頻度が低い備品が押し込まれた部屋で普段は鍵が掛けられておりフライアテンダントや操縦士などは滅多な事がない限り訪れることはないはずの部屋なのだが、彼女はその鍵を物理的にブチ破りここへ侵入した。

 

 もちろん爆弾や鈍器などで破壊したのではない、緊張による汗が滴り落ちる彼女の右手には小さな木で作られたナイフが握られていた。

 

 

 「(レーヴァテイン……数少ないこの武器に関して書かれた北欧神話の文献をあさって創り出した女巨人シンモラによって創り出されたとされる剣、この剣があれば簡単にこの機体をハイジャックできる!)」

 

 レーヴァテイン、北欧神話の女巨人アシモラによって創り出され同じく北欧の神であるロキによって鍛えられた雄鶏ヴィゾーヴニルを殺す事が出来るとされている剣で解釈の仕方によっては巨人スルトルがラグナロクの際に振るった炎剣だとも言われているが今の彼女にはそんな小さなことはどうでもいい。

 彼女が握る木のナイフは赤い絵の具を使って朱色にコーティングされており、さらには同じ色の絵の具を使ってルーン文字で『炎剣』と描かれておりそのすぐ隣には青色の絵の具を使ったルーン文字で『秘匿』と描かれていた。

 

 

 「(この剣を使って、まずはメインパイロット以外の人間を蒸発させる。その後は私とメインパイロット以外の人間を操縦室の中に入れないようにする、そして学園都市に向かって交渉を行う…………大丈夫よクリフ。ここには『第六位』が居る、学園都市の上層部は私の要求を無視できないはず)」

 

 

 彼女は学園都市に居る年の離れた妹のことを思い浮かべる、彼女は自分に魔術の素質があることに気がつかず学園都市という魔術側からすれば敵の本拠地の中でモルモットにされている。学園都市に大能力者と順位付けされている彼女の能力が本当は魔術であることを学園都市の愚かな科学者達は知らない、クリフは彼女のことを思い浮かべながら瞳を閉じ大きく深呼吸し体内の魔力を安定させた。

 

 行ける、彼女は心の底からそう信じ瞳を開けた。

 学園都市外部の外壁周辺に居る仲間の魔術師へ作戦開始の連絡を入れようとカーディガンのポケットから通信用の護符を取り出そうとすると―――

 

 

 「オーニさん、見っけぇ。そんな暗がりでどんなイケナイ事してんのかにゃぁ?」

 

 

 ―――通路側からの爆発と共に用具室の分厚い扉が吹き飛ばされ、ナニかを口に銜えた男がそこに立っていた。

 

 年は十代後半に見えるどこかあどけなさが残る少年はさっきまで分厚い鉄の扉があった場所に立っており、口に単語帳のページを銜え黒光りするマフィアが使っていそうな拳銃を右手に下げて、ニヤリと不吉の前兆である黒猫を思わせる笑みを浮かべてクリフを見つめていた。

 

 

 ザァァ、と全身の血がまるで逆流するような感覚に襲われたクリフは思わず通信用の護符を手からすべり落としその事に気がつかないまま慌てて自身の武器であるレーヴァテインを少年に向かって構えた。

 

 「ア、アンタ。何者よ!?」

 

 クリフはお手製のレーヴァテインに魔力を流し込みいつでも炎剣として使用できる状態にしながら少年へ言葉を投げ掛けるが、少年は口に銜えていた単語帳のページを機内の廊下へと放り投げ。そんな些細な事など気にしないと言った感じでクリフの質問を無視した。

 

 「ふ~むふむふむ、レーヴァテインの剣をモチーフにしたお手製の霊装ねぇ。炎の意味する赤色を木のナイフに塗ってさらにその上からルーン文字で補強をして威力を上乗せしているのか、元々定義の曖昧なレーヴァテインを炎剣として使用するために媒介として木を選び剣とするため木の形をナイフにしているのか。安い霊装だな、そんなんじゃ俺は満足できないぜ」

 

 

 クリフの霊装の仕組みを看破した少年は猫のような笑みを浮かべ目の前の少女を見つめた。

 怒りで頭の中が真っ白になった、それが今のクリフを表すのに最も合った表現だった。事実、彼女は反射的にレーヴァテインへ炎を宿し少年へと突撃していたからだ。

 

 

 「ふざけてんじゃねぇぞ!!クソ餓鬼がぁぁあああ!!」

 

 

 瞬間的に摂氏二千度にたっした灼熱の炎剣は轟!と辺りの酸素を消費し勢い良く燃え上がるとクリフはそれを一瞬にして少年の懐へと飛び込み真上から真下へと体全体を使って倒れこむようにして振り下ろした。

 少年はまるで駄々をこねる子供を見るような目つきでクリフを見ると、溜め息を吐くようにしてそっと呟いた。

 

 『赤は青へと変わる』

 

 

 少年が呟いた瞬間、木のナイフから噴出していた炎剣がまるで水をかけられたように消滅した。クリフがその現象を理解するよりも先に美しく整ったクリフの顔面へと少年の膝が突き刺さり、グルンとまるで竹とんぼのように一回転してクリフは先程まで立っていた場所へと吹き飛ばされた。

 熱を持った激痛に歯を食いしばり耐えるクリフは少年の顔を睨み付け、

 

 

 「この機体をハイジャックすればすぐに妹をあのクソッタレな学園都市から救い出せるの!なんでアンタは邪魔すんの!?ていうか、アンタは何なのよ。どうして魔術の事知ってるのよ、私のレーヴァテインに何したのよ!!」

 

 

 矢継ぎ早に吐き出されたクリフの質問に少年は少しだけ黙り込む。

 その間にもクリフの心の中は激情でぐちゃぐちゃに掻き乱されていく、どうしてあの男は私の邪魔をするのか。どうしてあの男は私がこんな場所に居ることが分かったのか。そして、なぜクリフのレーヴァテインが突如炎剣としての役割を失ってしまったのか。

 

 だが、クリフの頭の中を掻き乱す疑問の嵐はやがて一つの答えに集約されていく。

 

 妹を早く助けるには、目の前の男を蒸発させればいい。

 クリフはだらだらと流れる鼻血を強引にカーディガンで拭き取ると、もう一度己の武器であるレーヴァテインへと魔力を流し込み炎剣を出現させた。

 

 炎剣の出現により生じた熱風が少年の頬を撫でると、少年は猫のような瞳で無言のまま炎剣を構えるクリフを見た。そして、どこか人を小馬鹿にするような見下すような視線でクリフを見ると。

 

 

 「ふふ………そうか、そうか。妹の為に魔術を振るうか三流」

 

 

 「私の魔術はあの子のためにある、私はあの子であの子は私なのだから。私は必ず救い出す、忌々しきあの科学の街からたった一人の肉親を」

 

 

 「そうかい。でも、案外妹の方はアンタのこと忘れていたり嫌っていたりするかもにゃ」

 

 

 「黙れッ!!貴様に何が分かると言うのよ、あの子は私と居た方が幸せなのよ、そうに決まっているそうしかありえないのよ!!」

 

 

 クリフは少年に自身の信じるものと守らねばいけないものを、自分の気持ちを叩きつけるとダン!!と鋼鉄の床を蹴った。もし、この一撃が外れたり威力が強すぎれば炎剣はバターナイフのように航空機の壁や床を切り裂きこの航空機は確実に空中分解してしまうだろう。

 そうなれば学園都市との交渉に使うはずだった『第六位』の命やクリフ自身の命も危険にさらされさてしまう、しかしもはや彼女はそんな小さい事など目を向けていない。

 少年はコンマ数秒ずつ迫り来る妹思いの姉を見て、小さく小さく溜め息を吐きポツリと呟いた。 

 

 「『respondere《レスポンデレ》005』」

 

 

 少年は激情をむき出しにして襲い掛かるクリフを前にしてラテン語の単語と数字をポツリと呟いた。

 

 

 それは彼が魔術師であることを証明し魔術を行使するための名であり。

 

 

 それは彼が胸に刻んだ幼き頃の自分が犯した罪への免罪を求める叫びであり妹へ対する贖罪と意志の名であり。

 

 

 それは夜霧アズマが『責任』を持って事態を収拾するという意志表示だった。

 

 

 

 ガシャン!夜霧はジーンズのポケットに忍ばせていた拳銃のマガジンを装入し、安全装置を降ろした。

しかしクリフは夜霧が拳銃を構えても対して驚きもせずにそのまま夜霧にむかって突進する。

 

 確かに夜霧が持つ拳銃は強力だ、しかし対峙するクリフが構えているのは炎剣だ。拳銃は金属で出来ている最近の拳銃は三十分泥水の中に入れてあっても取り出してすぐに発砲できるほどに気密性に優れているが、摂氏何千度の炎をぶつけられたら飴細工のようにドロリと溶け蒸発してしまうだろう。

 銃弾に関しても同じことが言えてしまう。

 

 

 「魔術師が科学に頼ってんじゃないのよ!!アンタの方が三流よ!!」

 

 轟!!と炎剣が酸素を吸い込み一気に何倍にも膨張し形無き炎が拳銃を構える夜霧へ襲い掛かる。 

 夜霧は目の前へと迫り来る炎剣に対してどこか嘲笑うような猫のような笑みを浮かべると、その引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 最後まで拳銃を握っていた夜霧に引き金を引いた直後、炎剣が直撃した。

 

 

 




次回、夜霧(妹)の登場。
皆さんはツンとヤン、どちらがお好みですか?
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