夜霧灯夏《よぎりとうか》はまるで扱いの難しい洋蘭のような人物だ。
成績優秀、容姿端麗、才色兼備、古今東西ありとあらゆる褒め言葉(性格面以外)を組み合わせた性格の持ち主それが夜霧灯夏という人間なのだ。
私立常盤台中学校に所属する超能力者《レベル5》の第六位である彼女は現在ミラノと日本を結ぶ国際便の中に居た。
常盤台中学がある学園都市は能力者を学園都市の外へ出すことを好まない、理由は簡単だ。学園都市の監視外へ出た生徒が鹵獲などされたら学園都市のテクノロジーが『外』の世界へと漏れ出してしまうからだ。
学園都市のテクノロジーは軽く『外』の科学力のニ、三十年先を行っている。『外』の科学者達はきっと学園都市ではオワコンとされている技術にでも全身全霊を賭けて喰らいついてくるだろう。そんな訳で学園都市のメーン技術とされている(外の世界での話であるが)能力者はとどつまり禁断の果実のようなものなのだ、そして『外』に居る人間に自分達のテクノロジーが漏れないように学園都市は能力者を外へ出したくないのだ。
超能力者である灯夏は座席に座りながら窓の外に広がる学園都市の外側の景色を眺めながら小さな溜め息をついた、足元まで伸ばした髪を腰の辺りでツインテールにした灯夏は学園都市でも七人しか居ない希少な存在であるレベル5なのだが今回はとある事情で学園都市の外側に出ているのだ。
それは―――――
「いやー、それにしても学園都市の外の景色なんて中々見れるもんじゃなかったし。そこそこ楽しかったわよね灯夏?」
「そうですわね美琴。でも、アナタの場合景色……ではなくミラノ限定ゲコ太が入手できて良かったですわね。本当に貴重な自由時間を潰してアナタについて行った甲斐がありましたよ、ええ、本当に楽しかったですわ常盤台中学団体旅行のお土産がミラノ限定ゲコ太なんて本当にヨカッタですわ」
「ご、ごめんって灯夏!いやね、一人異国の地でゲコ太もらうために美術館に並ぶのも寂しいなぁ~なんて思っちゃってさ」
灯夏は隣の座席に座っている同じく超能力者である御坂美琴に向けて後ろから黒いオーラを出しながら壮絶な笑顔のまま顔を向けた。
美琴と灯夏はなんだかんだで入学前からの付き合いがある、小学校一年生から絶大なレベル5の力を有していた灯夏と違い美琴はレベル1からのスタートだった。そんな彼女達は偶然同じクラスになり、偶然校舎裏で美琴が必死に電撃の練習をしている所を見かけ、なんだかんだ言いながらもお互いを尊重し合える仲に必然的になって行った。
御坂はいまだに黒いオーラを背後から噴出し続ける灯夏をなだめながらふと思い出したように言った、
「そういえば灯夏、アンタって確かミラノでなんかやることがあるって言ってたじゃない。それはどうなったの?」
「うっ……じ、実は。ですね」
さっきまで阿修羅なご乱心モードだった灯夏は御坂にそのことを言われるとしゅんと縮こまり借りてきた猫モードになりおずおずと御坂へ話始めた。
「ミラノで私のお兄ちゃんが居るって噂を耳にしまして。自由時間と睡眠時間を削ってホテルから抜け出しつつ辺りに居た裏家業的なお兄さん達に話し掛け、ついにはお兄ちゃんを雇っていた修道女にたどり着いたのですが…………」
「ちょっ!ちょっとストップ!!ストップ!!」
「何ですか美琴?人に話せ話せ話せないとアンタがいつも寝る時に使っているファンシーな人形の存在を世間一般にバラすぞと脅迫しておいて自ら止めるとは、アレですか新手のボケか新手のセールスですか。ああ、そういえば寝るときにファンシーな人形を使っているのは美琴の方でしたね失礼しましたそういえばあの人形の名前はなんでしたっけ?……ああ、そういえばキグルマーとかそんな感じでしたね」
「うぅうう…………一言言ったら百倍になって返ってきた、アンタいい加減その性格なんとかしなさいよね。そろそろ人間関係にヒビが入ってくるわよ」
ふは~、と灯夏に見えない角度で深い溜め息をつく美琴だったが実はバリバリ灯夏にも見えていて影の深い灯夏の笑顔がより一層深くなったのを美琴はまだ知らない。一瞬灯夏の美琴に関する暴露話で会話が脱線したが、今聞かなければいけないのは灯夏の兄がなぜミラノの裏社会のお兄さん方に知られているのかということだ。場合によっては若干のビリビリ混じりで灯夏から丁寧に話を聞きださなくてはいけなくなるが。
もう一度言っておくと、灯夏と美琴は親友だ。美琴が灯夏へビリビリしてもそれは俗に言う愛情のムチなのだ……多分。
「そ、それで。どうしてアンタの兄がミラノの裏社会と密接な関係を持っているわけ?もしかして、実は灯夏はミラノにあるとあるマフィア一家の娘でマフィアなんか嫌よこんなお家出て行ってやる!!的な過去を持っているとか!?」
「うふふ、中々素敵な妄想ですけど残念ながら私は生まれも育ちもおコメのおいしい日本っ子ですわ。まぁ、私のお兄ちゃんはいうなれば傭兵……みたいなものなのです、世界各国を渡り歩き風の向くまま気の向くまま。まるで飼い慣らせない猫のような人なんですよ」
美琴はとりあえず黙って灯夏の話を聞くことにした、というよりはどうコメントしていいか分からないのだ。一人っ子の美琴にとって兄なんてどのようななのか想像もつかない、それになにより灯夏の口から傭兵なんて物騒な単語が飛び出したのが驚きだった。
灯夏は美琴を見ずにただ横に設置された窓の外に広がる彼女の兄が居るだろう世界を見つめ、
「あの人はいつのまにか私の前からいなくなっていた、パパやママに聞いても何も答えてくれない。私はあの人に会いたい。私はもう一度話しをしたいなんで私の前から消えてしまったのか、どうして傭兵になってしまったのか。どうして……」
魔術なんてものに触れてしまったのか、最後に灯夏は美琴にも自分にも聞こえないような大きさの声でぽつりと呟くと座席のリクライニングを倒しそのまま眠ってしまった。美琴は自分に背を向けそのまま眠ってしまった幼い親友を一人静かに見つめると、優しく彼女の背中に手を置いてもう誰にも聞こえないだろう言葉を目の前の親友へ送った。
「大丈夫よ灯夏、なんとかなるってかなりいい加減で投げやりな言葉だけどさアンタみたいにイイ奴の兄さんがアンタ程イイ奴を何の理由もなくほったらかしにしとくはずないじゃない。きっとさ何か理由があったのよ、アンタが言った……魔術ってのがどんなものか知らないけどさ。私も手伝うよアンタが今まで背負ってきたものがどんなに重いものなのか分からないけど、アンタは一人じゃないんだからね」
彼女は音も無く座席から立ち上げりどこかへと歩いていった、誰だって自分の泣き顔を見られたら思いっきり泣けないだろうから。
そして美琴は最後に思い出したように呟いた。
「ていうかなんで修道女が傭兵を雇ってたのよ?」
灯夏の様子では兄には会えなかったようだがどうやらその雇い主である修道女には会ったようだ、とりあえず帰ったら灯夏からその話を聞きだそうと胸の中で誓いつつ美琴はあてのない散歩を始めたのだった。
いろんな要素が欲しくてこんな妹になりました。