出発地点
「そうだ、第六学区に行こう」
「なんですか、その京都に行きましょうのようなノリは。ついに美琴ちゃんの頭のネジが数百本飛んでしまったのでしょうか、嗚呼、今思えば異常なまでに可愛いものが好きという常人ならばありえない嗜好があったのはその傾向だったのかしら……不覚です、美琴の異常な異常を見抜けなかったのは私の失態ですわ」
「うん、あれよ。本当に灯夏って一言ったら百倍になって返ってくるわよね…………まぁ、それはもういいわ。これ見てちょうだい」
春麗らかな四月の昼下がり、常盤台中学所属のとんでもお嬢様お二方はオープンテラスでだべりながら午後はどこへ行くかを話し合っていた。タイミング的に言えば今は丁度腹ごしらえを済ませた学生たちが思い思いの場所へ出発している時刻であり、二人がいるオープンテラスも通りに面しているためその様子がよく分かる。
オープンテラスに居る二人のとんでもお嬢様―――御坂美琴と夜霧灯夏は、軽い昼食を取りながら他の学生の例に漏れずこの後の予定について話し合っていた。話し合いと言っても、一方的に美琴が灯夏へと提案しそれを灯夏が一方的に却下しているだけなのだが、長年の付き合いがある彼女達にとってはそれがあたりまえのようで一方的に却下し続けられている美琴の顔に怒りの表情はなくむしろ楽しげに見える。
灯夏の方も嫌がる素振りはまったくないが、諸手を上げて賛成する様子もまったくない。そして、二人は午前中から長々と居座り続けていたオープンテラスから支払いを済ませ(きっちり割り勘)私服の学生であふれる第七学区を歩いていた。その間も二人の話し合いは続いており、
「だーかーらーさー!!いいじゃない、第六学区の『ゲコゲコ・アイランド』今なら期間限定のゲコ太まで付いてくるのよ、こりゃもう行くっきゃないでしょ!!」
「美琴。私はあなたのファンシーな趣味までやめろとは言いませんわ、ただ、周りの人間まで被害を拡大しないでくださいな。実際に私はミラノで一度あなたのワガママのために尊い青春の自由行動を浪費してまで付き合ったのですから、今回は私のワガママに付き合うのが道理ではないかしら?……それに、そのなんとかアイランド私の直感ですけど対象年齢は確実に小学生までじゃありませんかしら」
「ッ!?……ち、違うわよ、別に小学生しかほとんど居ないとか一人で行くのは流石にマズイとかそ、そんなんじゃないわよ!?」
あーハイハイ美琴は相変わらず夢見る乙女ですねー、極めて投げやりに美琴へ返答した灯夏は右手でニーチェの哲学書をぶら下げたまま反対の手で携帯電話を操作すると適当なレジャー施設を検索すると検索画面を顔を赤くして俯く美琴へと突きつけた。
検索にヒットしたのは第六学区に新しくオープンした『ディストル・パーク』という娯楽施設だった、なんとなくで検索した灯夏だったが美琴へと検索画面を突きつけた数秒後その行いを痛烈に後悔するはめになった。
「なによコレ~…………私はゲコゲコなアイランドに行きたいのにぃ……?…………」
検索画面に呻いていた美琴が突然黙った、灯夏の本能が警鐘をガンガン鳴らしまくっている携帯電話の画面に隠れて美琴の表情はうかがえないが灯夏は長年の美琴との付き合いそしてお嬢様学校を生き抜く本能が悟った。
「(アレ、私……詰んだ?)」
慌てて携帯電話の画面を自分の方へと向けると、灯夏の顔色がさっと変わった。
灯夏の持つ携帯電話の液晶画面にはこう表示されている。
『ディストル・アイランド開店セレモニー!!入場者には百組限定でここでしか手に入らないゲコ太ストラップをプレゼント!善は急げ行動だ!!(はぁと)』
「…………行く!!……行くわよ灯夏ッ!!待ってなさい限定ゲコ太、美琴センセーがすぐにもらいにいってやるからね!!」
灯夏は自身の不運を呪いながら検索画面に表示された、出資者『アイビス・エルフィン』の文字を睨み付けながらも嬉々乱舞する美琴をが視界へと入ってくると自然とため息を吐き出した。
「ディストル・パーク?…………なんだよ男二人で虚しくレジャースポットに行って何すんだよ、できれば俺は女の子つけて欲しいな巨乳希望ね。貧乳は見ていて虚しくなるだけだからな中身が詰まってない胸などただのまな板だからな」
「遊びに行くんじゃないにゃー、これもれっきとしたお仕事だにゃ。あとな夜霧、貧乳を馬鹿にするってことは学園都市の半分を敵に回すってことだぞ」
「分かってる、冗談だ。あとな土御門、いきなりシリアス口調になるなそれとな巨乳を馬鹿にするってことは世界の半数以下を敵に回すってことだぜ」
夜霧アズマはなんとも思春期らしい討論を対面に座る土御門と交わしながら銃の手入れをしていた。
第七学区でスキルアウトの殺し屋気取りを始末した夜霧は回収へとやって来た土御門と共に大型のバンへと乗り込み、次の仕事のブリーフィング兼昼食兼銃の手入れを行っていた。運転は土御門が呼んだらしい下部組織の男がハンドルを握っていた。
乗り込む直前、夜霧が観察した限りでは防弾仕様の装甲を外側に分かりにくく設置してあるおそらくタイヤも同じく防弾仕様だろう。フロントと運転席と助手席の両サイドに窓がありそこ以外に窓はない、運転席と後部座席の間には仕切りがありお互いの声は届くが顔は確認できないようになっている。
二人がいる後部座席にも改造が施されておりボルトで設置された備え付けのテーブルと同じく備え付けのソファーが二つ用意されていた、小さなキャンピングカーのような状態だ。
夜霧と土御門は会話を交わしながらも各自違う行動を取っており、夜霧は昼食など取らずに土御門から渡された今回の仕事用の拳銃の手入れをしていたテーブルの半分が夜霧が分解した拳銃のパーツで埋まっている。土御門はどこからか調達したファーストフード店の巨大なハンバーガーに喰らいついていた、銃のパーツに埋め尽くされたテーブルの中で彼が買ってきたコーラが異彩を放っている。
「つーか、夜霧は喰わねーのかにゃ。空腹でぶっ倒れてもこっちは責任取らないぞ」
「多少空腹の方が良いパフォーマンスが出来るんだ、まぁ仕事終わりの一杯のために腹空かせておく意味もあるけどな」
適当な返事を土御門へ返した夜霧は一旦銃の手入れを止めると銃のパーツに埋もれていた自分の携帯電話を取りだしこれから向かう仕事先の見取り図を手に入れた、もちろん一般公開されているサイトから持ってきたのではない第六学区担当のアンチスキルの詰所へとクラッキングを仕掛け見取り図を手に入れた。
アンチスキルというのは学園都市が独自に設置した外でいう警察のような機関だ。
学園都市は日本にありながら日本政府の介入を良しとしない、それもそうだろう学園都市の内と外では技術力の差がありすぎる軽く見積もっても二、三十年の空きがある。外とのおおっぴらなパイプを持ってしまってはどこから情報が漏れるか分かったものではない。
アレイスターに捕獲された後土御門に連れられ初めて学園都市の街並みを見た時にもあまりに進んだ科学力に夜霧は素直に感心した。それ以来、使い捨て用の銃火器は学園都市が生産し外に流通していないモデルを使用している。
ちなみにこのクラッキング技術は夜霧の反対側で巨大なハンバーガーに喰らいついている土御門に教わった、正直魔術師という肩書のせいで機械系は苦手なんだろうと勝手に思い込んでいた夜霧は大いに驚かされた。
携帯電話の液晶画面にディストル・パークの見取り図……というか建設時に使用したであろう設計図のデータが表示された、どうやら巨大なドーム状の施設のようだ。
「今から行くディストル・パークっていうのはなどっかの酔狂なお嬢様が資産運用のために作った娯楽施設らしい」
画面へと視線を向けていた夜霧の視線が上へと上がり土御門を捕らえた、五分もしないうちに成人男性の顔くらいの大きさがあったハンバーガーは土御門の胃袋の中に納まったようだ
食事の時油が付いてしまった手をウェットティッシュで拭きながら土御門は淡々と説明を続ける。
「資産運用……?なんともふとましいお嬢様だな」
「まったくだ、常盤台のお嬢様でも現実を見つめているとは驚きだ。もっとも、魔術師がそこに狙いをつけたのだからこっちとしては仕事がやりづらくなる一方だがな」
「常盤台…………」
「うん?どうかしたか」
「なんでもない、続けてくれ」
夜霧は何か言いかけたが首を振って仕切りなおした、その様子になんとなく疑問をもった土御門だったがとりあえず食事の際邪魔になるので足元へ置いていた薄型のノートパソコンを机の上へと置いた。幾つかの銃のパーツが床へ落ちそうになったがその直前で夜霧がキャッチし黙々と銃を組み立てていく。
机の上のパソコンに電源が入り画面が明るくなる、そして指紋認証とパスワードの入力を終えるとパソコンの画面に三人の顔画像が表示された。横一列に表示されたそれは全て外国人のものだった。
「誰だ、そのロリコンそうな黒人とメンヘラ風なフランス人に今にも絶望で悶え死にそうなイギリス人は?」
「こいつらは三日前に侵入してきた魔術師共だ、全員が決まった宗派に所属していない……いわばお前のような傭兵だ」
「まぁ、俺は一応元イギリス清教だがな」
どうでもよさそうに呟いた夜霧だったが土御門と目が合うと猫のような笑みを浮かべた、どこか人を馬鹿にしながらもなんとなく知的なその表情へ土御門は無視で返事をした。
「それで?その三銃士がどんなバカをやらかそうとしてるんだ」
「アイビス・エルフィンの誘拐だ」
「あ……?…………アイビス?エルフィン?…………どっかで聞いたような」
そこで夜霧は思い出した、パソコンの画面に表示された今にも絶望で悶え死にそうな表情をした女は以前彼の妹―――夜霧灯夏を使って学園都市と交渉をしようとしていた馬鹿女クリス・エルフィンであることに。
確かに夜霧は飛行機の機内で対峙した時トドメを刺さなかった、なんとなく刺さなかったのではなくもし着陸した後にクリスが機内で発見されればちょっとした騒ぎになるそうなれば現場レベルではあるがある程度の混乱が予想できる、その混乱を利用して脱出するサブプラン的な期待を持ちつつ生かしておいたのだが今の今まで忘れていた。
「なるほどな、やはりこの女を仕留めたのはお前だったか」
「……どーゆうことだ、なんでお前が知ってる?」
「お前がアレイスターの部下に捕獲された後、俺がアレイスターの野郎に指示されてお前が乗った飛行機を調べていたんだよ。もっとも、お前に繋がるような物品はなかったが。代わりにその女を見つけた、ヒドイ状態だったぜ?鼻は折れていたし体のあちこちがボロボロだった」
「俺は殺しはしないさ、普段はな。……それが仕事ならば従うがな」
夜霧は渋柿をかじったような渋いを顔をしていたが手元で銃を組み立てるのを止めはしない、五分前にはただの黒い部品の集まりだったものが夜霧の手によって銃へと組み替えられていく。土御門はキーボードを叩きながら仕事の説明を続ける、
「どうやらその女、妹を学園都市から連れ出そうとしているようでな。他の二人と共にディストル・パークで行われるイベントに参加する妹を強襲して誘拐するようだ」
「……つまり今回の仕事はイベントに参加するアイツの妹さんの誘拐を阻止するのが目的か?」
「ああ、こっちの仕事じゃめずらしく人助け……だとよ」
「ったくよぉ、こんな二度手間掛けられるようならあそこで潰しておくべきだったな」
「そう言うな、今から潰しに行くから問題無いだろう。……正直、男二人で行くのはツライけどな」
「同感だ、さっさと終わらせようぜ……まったくこっちは銃弾も馬鹿にならないんだからな。諸経費はそっちが払えよ土御門?」
「俺じゃなくてアレイスターの野郎と交渉しな、あとな酒は経費じゃ落ちんぞ」
「え、マジで」
誰かいい罵り方知りませんかね~、……キャラ作りのためですから灯夏のためですから!!
他意はありませんよ!!…………多分。