アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…
アナキン・スカイウォーカーは孤独だった。
彼には愛する人も、尊敬できる兄のような師匠も、信頼できる弟子も、家族や相棒とも言えるドロイドも居た。
だが、それでも彼は孤独だった。
彼の心の奥底にある自尊心や、怒り、力を求める衝動、そして純粋すぎる心のあり方を、本当に理解できる者は居なかった。
彼が暗黒面に堕ちるきっかけになったのも、彼が本質的にジェダイの中で孤独であったことを、シス卿であるダース・シディアスに付け込まれたことが大きな理由とも言える。
もしも。
もしも彼に、心の内の全てを晒け出せる友がいたとしたら?親友と呼べる相手が居たとしたら?彼のたどる悲しい物語はどうなったのだろうか?
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「まぁ、そんなことを考えてもしょうがないけどな」
深夜の時間に慣れ親しんだコンビ二へ向かう道中でそんなことを呟いた。
スターウォーズ。
俺の青春のバイブル。
子供の頃から好きな作品であり、俺が剣道やフェンシングなどに興味を待つきっかけになったもの。
俺は翌月に公開されるスターウォーズの新作に備えて、過去作品を再び視聴していた。手堅くエピソード1から3を見終えて、備蓄していた食料がなくなったことに気づき、エピソード4から6に向けて小休憩を兼ねて、俺はコンビ二へ買い出しに出ていた。
アナキンがダークサイドへ堕ちる過程を描いた三部作、エピソード1から3。
それを見て、俺が痛烈に感じたのは「アナキンの孤独さ」だった。
選ばれた者と祭り上げられ、ジェダイ評議会からも警戒され、まるで腫れ物を扱うかのように。そんな環境に子供から成熟するまでの間置かれていたら、そりゃあ暗黒面にも堕ちますよ。
オビ=ワンも、弟子であるアソーカも、最強のジェダイであるヨーダも、そして妻であったパドメですら、彼の心の奥底にある孤独を理解してあげられなかった。
彼は自分の中にある大きな力を、ジェダイだとか、選ばれた者だとか、そういったもので押しとどめて、封印していた。パルパティーンこと、ダース・シディアスはその封印を解いたに過ぎない。
もし、彼がそんな抑圧を感じずに、その全てを曝け出していたら、どうなっていたのだろうか。
そんなことを考えてしまう。
「まぁ、それがあってこそのスターウォーズなんだけどなぁ」
コンビニを出て、俺は帰り道を急ぐ。
家に帰れば、エピソード4からまたスターウォーズの世界が始まるのだ。いつ見ても、何度見ても、その興奮は冷めることはない。
我が家まであと少しというところで、俺は背後にある違和感を感じた。俺が歩いてきたのは一本道。それも狭い路地だ。車が通ればすぐにわかるし、至る所にカーブミラーもある。
しかし、俺は背後に大きな存在感を感じた。
勘違いではない。背中にビシバシと明確な感覚が突き刺さっているのが分かる。
え、なにこれこわい。
俺はコンビニ袋をぶら下げたまま、恐る恐る背後へ振り返った。
そこには、黒いケープに覆われた一人の人間が立っていた。その眼光はフードに隠れているはずなのに、黄色く輝いているように見える。
その姿はまるで、シスの暗黒卿そのものだ。
「あ、あの…どちら様でしょうか…」
俺は静かにそう聞いた。
不審者?それともコスプレ?
それにしても時間は遅い。
そんなことを考えていると、相手は何も言わずに懐から二つの筒を取り出す。それを両手に携えた瞬間、二本の青く光る刃が姿を現した。
「は…?」
空気が焼けるような音を轟かせて現れたそれは、あきらかに、間違いなく…
黒装束の人物は、その二本の刃を翻して、まっすぐ俺に向かって駆けだした。
「いや…ちょっ…とぉおお!!?」
10メートル以上は離れていたはずだったのに、その人物は信じられない速さで俺の眼前に迫り、俺の胴に刃を突き立て、
刺した。
「はっ……!」
信じられないものを見てる気分だった。
黒装束の人物のフードが落ちる。
そこにあった人物の顔は———。
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ムスタファーの溶岩が赤く、その場にいる者を照らす。
オーダー66、クローン兵の反乱、そしてシスの復活と銀河帝国の樹立。
多くの事が起こり、ジェダイ寺院は破壊し尽くされ、ジェダイマスターの多くが戦死した。ナイト——、そしてパダワンである子供たちも。
子を身籠るパドメ、師であるオビ=ワンと共にムスタファーに降りたアナキンは、三人を出迎えた…変わり果てた親友の姿を見て、言葉をなくした。
「そんな…本当に…貴方が…あんな酷いことを…」
パドメが信じられないといった風に言葉を発する。
ジェダイ評議会の建物内で行われた虐殺。
子供すらも容赦なく殺した所業の指揮を取っていたのは、目の前にいる自分たちの親友だった。
「君は僕にとって、親友だった。親友だったんだ…!!なのに、なぜ裏切ったんだ!!」
悲しみと裏切られた怒りが合わさり、激情に囚われるアナキンが、声を荒らげて親友へ叫んだ。
オビ=ワンと共にグリーヴァス将軍の討伐に向かった後に、アナキンたちはオーダー66の罠に嵌った。クローン兵たちの反乱の中、命からがら生き残った二人は、激変したコルサントとジェダイ聖堂の姿に愕然とする。
アナキン・スカイウォーカーは、信じたくなかった。
パダワンの時代から共に研鑽を積み、パドメとの関係を後押してくれただけではなく、命令を無視し、ジェダイの掟を破ってまでも自身の母を共に救ってくれた親友。
アナキンにとって最高のジェダイであったはずの彼が、暗黒面に堕ちてしまった事実を、その事実を目の前にしてもアナキンは信じたくなかった。
だが、親友だった彼はアナキンの思いを踏みにじるように笑みを浮かべた。
「ジェダイは本質を見誤ったんだ、アナキン。フォースとの絆は汚され、今やジェダイは暴力装置へと成り下がった。世界に秩序と平和をもたらす存在では無くなったんだ」
「違う!すべてはシスが画策した計画で——」
「それでも、刃を振るい、この世界に災いと争いを呼んだのは紛れもない我々だ!!我々が殺した!!」
オビ=ワンの論する言葉を、彼は切って捨てた。
クローン戦争で多くの血が流れた。流れすぎたのだ。
そして、その一端を担ったのは間違い無くジェダイであり、戦いを深刻化させたのもジェダイだ。終わりのない闘争の中で、ジェダイの在り方は大きく歪められたのかもしれない。
黄金色となった目をギラギラと迸らせながら、彼は激情に染まった顔を落ち着かせて、アナキンとオビ=ワンへ再び語りかける。
「パルパティーン議長が帝国を築いた今、ジェダイという暴力装置は滅さなければならない」
「そのために殺したのか!!師も、仲間も、友も…あまつさえ、子供さえも…!!」
オビ=ワンの怒りにも似た声に、彼は動じる事はなかった。
そのために師であるマスターウィンドゥを殺した。
友であったキット・フィストーも手にかけた。
パルパティーンがほくそ笑む中で、数々のジェダイの首をはねた。
さも、それが当然であるかのように。
パドメは変わってしまった親友の姿に思わず涙を流して口元を覆った。映像の中にあった子供の胸をライトセーバーで貫いた時の彼の顔が、今目の前にするものと全く一緒だったからだ。
アナキンは震える手を握りしめて、届かないとわかりながらも抑えられない慟哭を放つ。
「僕は君が救世主だと信じていた!!僕なんかが救世主じゃない!!君がバランスをもたらす存在だったんだ!!君のおかげで僕は救われたんだ!!パドメも!!オビ=ワンも!!なのに!!」
そう叫ぶアナキンへ、彼はそっと手を差し伸ばす。それを見てアナキンはハッと顔を上げた。パドメとの結婚の後見人になると言ってくれた、あの時と同じような穏やかな笑みを持って。
「アナキン、オビ=ワン。なすべき事はわかっているはずだ。そう思うなら、俺と共に来い。共に今度こそ、ジェダイとして——いや、フォースと共に銀河に秩序と平和をもたらすんだ」
そして絶望の言葉をアナキンへ送る。
アナキンは頭を強く殴られたような感覚を味わい、しばらく立ち尽くしてから、小さく息を吐いて親友だった存在を見据えた。その瞳には、もう悲しみは無かった。
「アナキン…」
「パドメは船に。僕らは…なすべき事を為す」
「行くぞ、アナキン。友として、彼を終わらせるために」
そうパドメに伝えて、アナキンとオビ=ワンは自らのライトセーバーを起動させて構える。遠くでムスタファーの溶岩が天高く舞い上がったのが見える。
その溶岩の光を背に受けて、逆光の中で黄金の目を煌めかせながら親友だった男は、自らの青と、師の手を切り落として奪った紫のライトセーバーを両手に持って、起動させていた。
「終わらせられるか?この俺を…!!」
刃をギラつかせて、暗黒面に堕ちた彼は、英雄であり、親友であったアナキンたちに向かって走り出した。
スターウォーズ
アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件
気が向いたら続きます。
というかスターウォーズはセーフなのだろうか…
暗黒面と英国面の力は素晴らしいぞ