アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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たった二人だけの戦争 1

 

 

ナブーに帰還したアミダラ女王は、ジャージャーと同じ種族であり、長年互いの種族間の干渉を避けてきたグンガンと和平交渉を成功させた。

 

今まで護衛対象であったアミダラ女王が実は影武者であり、彼女の従者として働き、タトゥイーンなどではマスタークワイ=ガンと行動を共にしていたパドメという少女が本当のアミダラ女王と知った時は、アナキンはひどく驚いた様子だった。

 

そんな波乱の中で進められるナブー首都の奪還計画。

 

同盟を結んだグンガンの軍勢がドロイドの大軍を引き付けている間に、少数精鋭で首都へ進行。パイロットたちによる司令船の撃破と、首都の中枢部にいるはずの敵の大将を抑える二面作戦となった。

 

ジャージャーを含めたグンガンがドロイドとの苛烈な戦いを繰り広げる中、首都網を突破したパドメやマスタークワイ=ガンたちは、ナブー・スターファイターが格納されている場所へと辿り着く。

 

パイロットたちがドロイドの攻撃を潜り抜けて出撃する中、アナキンは身を守るために咄嗟にスターファイターのコクピットへと乗り込んだ。

 

「クワイ=ガンさん!僕も一緒に行くよ!」

 

「だめだ、アナキン。君はそこでジッとしておくんだ」

 

先に進む皆と共について行こうとするアナキンを、マスタークワイ=ガンが凛とした声で静止させた。若干のフォースの流れも加わっており、もとより頑固だったアナキンは渋々とスターファイターのコクピットへと着席する。

 

格納庫から首都の中枢部には、大きなブラスタードアを通るのが最短ルートだ。パドメやナブーの護衛隊長を先頭に進む集団が、ブラスタードアの前にたどり着いた瞬間、まだ操作をしていないドアが緩やかに開いた。

 

その先にいるのは、漆黒のローブに身を包んだ一人の影だ。

 

その異様な出で立ちに、パドメやナブーの護衛隊長は思わず一歩後ずさる。

 

 

 

暗黒卿の一人、ダース・モール。

 

 

 

彼はついに、ジェダイの前に公にその姿を見せつける。フードを外して、十数本生える特徴的なツノと、般若のようなメイクが施された顔があらわになり、その真っ赤な眼光はすべての者の感覚を凍りつかせた。

 

「ここは我々が」

 

そんな張り付く空気の中、マスタークワイ=ガンとオビ=ワンが、パドメたちの前へと歩み出る。モール卿は何も言わないまま、現れた二人に関心がない眼差しを向ける。

 

別の道を探すために別れたパドメたち。

 

二人のジェダイは臨戦態勢を整えるように着流していたローブを脱いだ。だが、モール卿は何も言わず、何もせずに臨戦態勢となったマスタークワイ=ガンたちを黙って見据えている。

 

なんだ?何もしてこないのか?

 

「マスタークワイ=ガン」

 

動かないモール卿に警戒しながら、ライトセーバーに手をかけようとしていた二人の間から、一人の少年が更にモール卿に向かって歩み出た。

 

驚愕する二人を他所に、モール卿は先ほどまでの無関心な顔つきから、一気に激情に満ちた表情へと変貌する。

 

「この男の相手は、俺がします」

 

 

ジェダイナイト、ログ・ドゥーラン。

 

 

俺は、変貌したモール卿を真っ直ぐ見据えたままジェダイローブを脱いで、はっきりとマスタークワイ=ガンに伝える。

 

〝手を出すな〟と。

 

「無茶だ!一人で戦うのは危険すぎる!」

 

マスタークワイ=ガンの隣にいたオビ=ワンが声を上げるが、その動きを師が止めた。

 

手で制されたオビ=ワンは何も言うことができず、無謀とも思える戦いに挑もうとする俺の姿をジッと見つめる。

 

「待っていたぞ…貴様たちに思い知らせる…この瞬間を!!」

 

しゃがれた声を発し、真っ赤な光刃を両端に出現させながら、本来なら感情の起伏を見せなかったはずのモール卿が、シィイイと刃を漲らせてライトセーバーを構える。

 

「俺は答えを見つける。俺自身が目指す在り方を…信じるために」

 

腰にぶら下がっていたライトセーバーをフォースの力で手元に手繰り寄せて、青白い閃光を奔らせた。選んだ型は、守りでも、攻めに特化したヴァーパッドでもない。

 

この心を気付かせてくれた友が教えてくれた第一の型、シャイ=チョーだ。

 

二人の気配が明らかに変質する。クワイ=ガンとオビ=ワンは、それぞれライトセーバーを起動させるが、二人の間に立ち入る隙は全くなかった。

 

 

 

「行くぞ…殺してやる…ジェダイ!!」

 

「来い!!その暗黒を断ち切ってやる!!」

 

 

 

空気を切り裂くような音を振りかざしながら、モール卿は飛び上がると、背後へと回り込み、首を落とす一閃を放ってくるが、シャイ=チョーはそんな甘くはない。背面へ構えたライトセーバーを捻りながら、モール卿から放たれた閃光を切り払う。

 

青白と赤。

 

二つの閃光が煌めき、閃き、互いの思いを礎にナブーの格納庫でぶつかり合ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その戦いは、クワイ=ガンの想像を遥かに超えるものだった。

 

青と赤の光が目まぐるしい速さで交錯し、一方は怒りと憎悪に身を任せた暗黒面の力、もう一方はフォースとの繋がりを確固たるものとした基本に誠実かつ、忠実な戦いを繰り広げている。

 

その戦いは実に1000年ぶりとなるシスとジェダイの戦いだった。

 

両刀のセーバーを振り回すシスの戦士は、相対するジェダイナイトであるログの戦い方に決定的な攻めを見出せずにいるようで、その表情は険しいものとなっていた。

 

セーバーを扱う上で誰もが通る通過点として存在する基礎の型、シャイ=チョー。

 

7つのライトセーバー戦闘型のうち最も古いフォームであるシャイ=チョーは、ライトセーバーを使った基本的な動作でありながら、その実は実験的な戦闘型であり、ライトセーバー対ライトセーバーの決闘を想定しておらず、すぐに他の6つのフォームが戦闘体系の主流となった。

 

しかし、それでもなおシャイ=チョーは基礎的な訓練用フォームという地位にあった。

 

ほぼあらゆるジェダイの決闘者が、この戦闘型から何らかの教訓を得ており、各々の戦闘スタイルに要素を取り入れている。

 

粗野かつ荒削りで、ジェダイの哲学どおり、敵を傷つけるよりも武装解除することを目的とした思慮深い戦術。

 

ログ・ドゥーランはそんな基礎的な型と卓越した手腕とを合わせ、訓練されたシスの戦士と互角に戦いを繰り広げていた。

 

隣にいるオビ=ワンも、その戦い方に目を剥き、ライトセーバーを構えることも忘れてしまいそうになるほど、芸術的と言える剣舞に魅了されていた。

 

マスタークワイ=ガンも、実戦レベルまでシャイ=チョーを極めたジェダイは、共にマスターの地位にあるマスターキット・フィストーくらいしか知らない。

 

変則的な動きをするシスの戦士に対して、ログは無作為な剣舞を繰り出し、不規則に放たれるセーバーの一閃を尽く打ち落とし、弾き返していく。

 

熱と熱がぶつかり合う音が格納庫にしばらく響き渡ると、痺れを切らしたシスの戦士が格納庫からパワー発生装置へ続く通路の扉を無理やりこじ開けて、その場へログを誘っていく。

 

刃を交えながら通路を進む二人の戦いに、マスタークワイ=ガンも、そしてオビ=ワンも、加勢はおろか加わることすら出来なかった。

 

これが互いに初見ならば形は違っていたかもしれないが、モールはタトゥイーンで事実上の敗北を味わっている。今の彼に慢心も油断もない。一撃一撃が決殺の閃光であり、その乱舞を潜り抜けるログもまた、マスタークワイ=ガンたちとは別次元の戦いを繰り広げている。

 

パワー発生装置から立ち昇る光の中で、怒りに燃えるモールとログはライトセーバーをつばぜり合わせながら、互いが持つ全てを証明するように競い合った。

 

その戦い。マスタークワイ=ガンにとってそれは、二人が言葉を交わさずに会話しているようにも思えた。

 

どこかの星で聞いたことがある。

 

「剣舞の中で、戦士は一閃の中で幾億の言葉を交わす」と。

 

ライトセーバー同士の戦いの中で、彼らは会話をしているのだろうか。

 

誰も間に立ち入れない凄まじい戦いを繰り広げるモールとログの戦いを見つめながら、マスタークワイ=ガンとオビ=ワンは、ジェダイとして…一人の賢者として、新しい「何か」を目撃していたのだった。

 

 

 

 


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