アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
「シィイイ!!」
光が激しく昇ってゆくパワー発生装置の中で、ダース・モールは相対するジェダイと剣戟を交わしていく。敵であるジェダイは、ライトセーバーの基本中の基本と言える動作でしか対応していないというのに、こちらが繰り出す攻撃を尽く防ぎ切っているのだ。
それどころか、モールが息をつこうものなら、ライトセーバーの乱舞の合間を縫うように切っ先が飛び込んでくる。
最初はその動きに困惑するばかりであったが、剣舞を重ねていくごとに見えてくるものもあった。敵の動きは基本に忠実が故に、そこから発展したモールの動きにも機敏に対応できているのだ。
剣尖を突き合いながら、モールの変則的だった動きも、繰り出される基本的な動きに倣うように基本的な動きへと変化し、ジェダイの動きに対応していくようになる。
戦いの様相は、感情的な力の押し付け合いから、互いの力量を見定めながら対等の力でぶつかり、相手の隙を突くという心理戦へとシフトしていく。
パワー発生装置のエネルギー放射区域へと二人は剣舞を競い合いながら突入していく。他のジェダイマスタークラスも後に続いているが、モールとジェダイの戦いに手を挟む様子はない。
放射区域がレーザーで遮断される。
真下へと伸びる巨大な排気ダクトがある部屋で、モールとジェダイは距離をとって互いを見つめた。
レーザーの向こう側には、こちらと隔てられたジェダイマスターたちが、モールたちを見つめている。
野獣のような獰猛な目を向けて、モールは駆け出す。構えを堅牢にするジェダイは、モールが繰り出した乱舞の全てを切り払い、柄で顔を突き上げようとしてきたモールのライトセーバーを、一閃のもと真っ二つに切り落とした。
一対であった光刃の片割れが途切れ、モールは顔色を変えたまま再び距離を取る。対するジェダイは、ライトセーバーを叩き切った姿勢のまま、ゆっくりと刃を捻り、モールを見据える。
「怒りだけでは、俺には勝てないぞ」
そう言葉を切り出したのはジェダイだった。いくつもの刃を交え、その交えた以上のことをジェダイは理解していた。
モールの心には、怒りと憎しみがある。しかし、その原点が定まってないのだ。
ジェダイに家族を殺されたか?またはジェダイに何か悲惨な目に遭わされたのか?答えは否だ。モールの心にある怒りには、決定的にジェダイに対する想いが欠けている。
なら、その怒りと憎しみの源泉は何なのか。
答えはすでに、モールの心の中で出ていた。
「貴様には分かるまい…俺の身から湧き出る怒りが…!!」
「それしか知らないから力に頼るんだ!もっと周りを見ろ!!お前の憎しみは、怒りは、悲しみは!!どこからきているか分かるはずだ!」
「黙れ!!」
彼は再び走る。
憎しみに顔を歪ませて飛び上がると、ライトセーバーを構えるジェダイへと切り掛かった。しかし、そこには先ほどまでの剣の冴えや、型に準じた美しさも品性もない。怒りに任せた力に頼る、荒削りな暴力だけで振るわれる刃だけがあった。
レーザーの向こう側で戦いを見つめるマスタークワイ=ガンにも、暗黒卿が見せる決定的な隙があるのはわかっていた。オビ=ワンですらも。
しかし、相対するジェダイはその隙を見逃して、暴力だけで振るわれるライトセーバーを受け流しているのだ。決定的な場面でも、彼は動じることなくライトセーバーをただ防御のみに使う。
いくつもの光の中。
モールの剣を受けるジェダイ、ログ・ドゥーランは、フォースの感覚を研ぎ澄ます。フォースは常に共にある。誰とでも。誰にでも。分け隔てなく存在し、その流れは深く意識を研ぎ澄ますことによって読み解くことができる。
たとえそれが、暗黒面に身を任せた戦士の精神であったとしても―――。
〝怒りにのまれるな〟
暗闇の中で声が聞こえる。
荒れ果てた地。
小さく燃える焚き火が見える。
太陽が二つある情景。
〝貴様に何がわかる!!〟
年老いた彼は怒りの目を見つめて慟哭する。
彼には何もない。
何も持っていない。
〝その怒りはお前を壊してしまう!!〟
〝故郷も、家族も、自分の名前すら分からない……俺の何が、貴様に分かる!!〟
手に持っていたライトセーバーで、砂を巻き上げ、わずかに灯っていた火を消した。
空には星が広がっている。
稲妻が轟き、誰かの叫び声が聞こえる。
〝だが、俺とお前はここで出会えた。これもまた、フォースの導きだ〟
フォースは共にある。
いつ、いかなる時でも。
分け隔てなく、誰にでもあり。
誰とでも繋がることができる。
〝黙れ!〟
〝孤独は恐怖だ。だが、それで周りを見えなくしていることは、お前の弱さだ〟
〝黙れ…黙れ黙れ黙れ!!〟
聞きたくない!!
見たくない!!
俺は強い!!
強者なのだ!!
あの地獄のような日々を生き延びた…唯一無二の…!!
〝恐怖に呑まれて、怒りに身を任せるな。落ち着いて周りを見ろ。世界はこんなにも―――〟
〝黙れえぇええ!!!!〟
ダースモールは、自身の首筋に青い光が突きつけられていることに、ようやく気がついた。
目の前にいるログ・ドゥーランは、ライトセーバーを返して、彼の無防備な首へ刃を振るったのだ。
だが、ダースモールは生きている。
彼の首は、まだ焼き切れていない。
一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ふと、そばを見ると、レーザー遮断装置から出てきたジェダイマスターたちが、ライトセーバーを起動したまま自分たちを見つめている。
〝殺せ〟
モールは力のない目で、ログへそう訴えかけた。
だが、彼はライトセーバーを振ることなく、そっと下ろして、改めてモールと対峙するように構えを作った。
――そうか。そういうことだったのか。
モールは歪に歪んだ顔ではなく、穏やかな表情のまま笑みを浮かべる。
「貴様、名は何という」
「ログ。ログ・ドゥーランだ」
「俺はモール。〝ただのモール〟だ」
それだけ言葉を交わすと、彼は息を小さく吐き、赤い色の意味をなくしたライトセーバーを悠々しく構えた。
ここにいるのは、怒りや憎しみを植え付けられた操り人形のダースモールではない。
名も知らない。
故郷も知らない。
愛も、家族も知らない。
持っているものは、培ってきた戦士としての才覚だけ。
それを持って挑む戦士、モールが居た。
彼は駆ける。
それほどの大口を叩き、自身の道をこじ開けた相手の存在を確かめるため。
ただ、それだけのためにライトセーバーを振るった。