アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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クローン大戦
ドゥークー伯爵がオーダーを抜けたのってナブーの事件の2年後なんだって


 

「共和国の崩壊は、もはや時間の問題なのだよ。ドゥーラン」

 

真っ白な部屋の中で、ゆったりとした椅子に腰掛ける白髪の男性が、そう語りかけてくる。俺は意識を研ぎ澄ましながら、語りかけてくる男をじっと見つめた。

 

「私は、君より遥か昔からジェダイとなり、マスターヨーダから教えを受け、クワイ=ガンを育てた。そして同時に、共和国とジェダイの腐敗を目の当たりにしてきたのだよ」

 

彼の名はドゥークー。

 

ヨーダのパダワンとして修行を積み、一人前のジェダイになった彼は、マスターであるクワイ=ガン・ジンを弟子にとった。

 

しかし彼は銀河共和国政府にはびこる汚職に幻滅し、ジェダイ・オーダーを脱退していた。

 

「政治家の腐敗は、たしかに安定的な共和国の運営があったからこそです。マスタードゥークー」

 

俺はそんな彼と会話を重ねていた。

 

おそらく、〝なるべくしてなった道〟に彼は立っているだろうが、共和国の濁った目を憂いる気持ちは本物だったからだ。

 

俺の言葉にドゥークーは頷く。

 

「いかにもだ。だからこそ、変革が必要なのだよ。もはや共和国もジェダイも、腐敗や慢心を生み出す発生装置にすぎん」

 

「しかし、貴方が行おうとすることは世界を急変させます!急ぎすぎた変化は人々を置き去りにし、不安と、混乱、争いを呼びます!」

 

〝彼ら〟が起こそうとするのは大規模な争いだ。それも銀河全体を巻き込んだ途方もない戦い。

 

たしかにジェダイの思考停止な流れや、汚職にまみれ腐敗の苗所となってしまっている現状を打破する必要はある。だが、急ぎすぎた変化に人は付いてこれない。

 

共和国が今の繁栄を築くまで1000年以上も掛かったのだ。それを再構成するというなら、もっと時間をかけなければならないはずだ。

 

「故に、争いが必要なのだよ」

 

ドゥークーははっきりとした声でそう言った。

 

「わかるか?ドゥーラン。そうしなければ、変化の前譚にもならんのだ。そこまで世界は腐り果てている」

 

たしかに緩やかな変化で良い方向に変われるならいい。しかし、それにどれだけの月日がかかる?それで味を占めた者たちの目が本当に覚まされるのか?

 

ドゥークーはその答えを見つめ続けてきた。故に、ジェダイオーダーを離れたのだ。

 

「フォースのバランスを保つ時、ジェダイも人々も多くの血を流したのだ。その時がもう来ようとしている」

 

「しかし、変えられるはずです。未来は」

 

「予知として最善な未来を望むからこそ、それが腐敗の発生源になるのだ。マスターヨーダや、マスターウィンドゥは、この腐敗を断ち切らんと立ち上がろうとしているのかね?」

 

その言葉に、俺は何も言えなかった。

 

ただ、マスターたちは言うだけだ。

 

〝争いになってもジェダイにはどうすることはできない。我々は兵士ではないのだから〟と。

 

ジェダイは兵士ではない。フォースを通じて、秩序と平和をもたらすものだと。

 

しかし、そんなもの、とうの昔に破綻している。自分たちジェダイが真に秩序と平和をもたらすと言うならば、汚職も、分離主義者による争いも起きないはずだ。我々は兵士ではないと言葉に出している段階で、多くのジェダイは不変という諦めを抱えていることに違いはないのだ。

 

「君の無言が答えだよ、ドゥーラン。すべてはバランスを保つための手段だ」

 

「ですが!そのために多くの…多すぎる血が流れます!!」

 

俺は座っていた椅子から立ち上がり、瞑想するように座禅を組むドゥークーに向かって叫んだ。俺たちが傷つくのはいい。それは覚悟の上だ。しかし、何も関係のない人たちはどうなる?何も知らない無垢な人を平然と巻き込むことこそ、真に邪悪なことではないか?

 

「それを防ぎたいのなら、一刻も早く世界を変えることだ。私と共に来るのだ、ドゥーラン」

 

彼はそう言って、俺に向かって手を差し伸べる。

 

「君のような賢者は、ジェダイにいるべきではないのだ。クワイ=ガンや、オビ=ワンと共に、私のもとへ来い」

 

俺はしばし言葉を探った。たしかにそれが一つの道かもしれない。〝遠からずジェダイは滅ぶ〟。外界から来て、その未来を知っている以上、ドゥークーの言葉こそが痛烈に胸に刺さり、真実に近い言葉に震える。

 

しかし、だ。

 

「――マスタードゥークー。俺はジェダイです。俺の役目は、世界の秩序とフォースを通してそれを伝え、平和を守ることにあります」

 

俺は確固たる意志のもと、座るドゥークーへ、そう告げた。ほんのわずかな静寂が俺とドゥークーの合間に横たわる。

 

「それが、偽りで塗り固められた平和であったとしても?」

 

「その偽りを、本物に変える力がフォースにはあると、俺はまだ信じてます」

 

彼は真っ直ぐとした目で問いかけ、俺もまたドゥークーを真っ直ぐに見据えたままその問いに答えた。

 

俺が信じるのはジェダイでも、ジェダイマスターや評議会でも、ましてや元老院でもない。

 

フォースは語りかけてくる。

 

いついかなる時も。

 

モールの心の壁を開いてくれたように、どんな時でもフォースは流れ、その意思は読み解くことができるのだ。

 

―――たとえそれが、どんな相手であったとしても。

 

ドゥークーはしばし考えるように瞑目してから、心底残念そうに息をついて座禅を解いた。

 

「よかろう。ならば、君は君の納得いくまで自分の道を行くがいい」

 

彼は立ち上がると、白い霧の中へと消えてゆく。俺の視界の外へとゆっくりと歩いていく彼の背中は、霧によって閉ざされていく。

 

「だが、覚えておきたまえ。君は必ず、〝私の側へ〟来る。よく、覚えておきたまえ。ログ・ドゥーラン」

 

その言葉だけが脳内に響き渡る。

 

俺はジェダイ寺院の中でフォースとの共感を高めるために瞑想していた目を開いた。

 

 

 

 

 

 

瞑想室から出た俺はため息を吐く。

 

ナブーでの戦いから10年。

 

1000年ぶりとなったシスとの戦いで、ジェダイオーダーは浮き足立っていた。

 

警備網は強化され、ジェダイのパダワンたちへの教えも一層厳しくなり、ジェダイが担う任務も外交や交渉よりも、最も危険なネゴシエーションや、内情調査などが増え、任務に殉じて死亡する者も増える一方だ。

 

そんな中。

 

共和国とジェダイの腐敗を憂いて、ジェダイオーダーを脱退し、歴史の表舞台から姿を消したドゥークーが、銀河系各地の宙域で政治不安を煽っているという噂が流れた。

 

亡命したドゥークーがジェダイ・オーダーの下部組織を創っているのではないかという噂も流れる中、彼はオーダー脱退から8年間の間に、ラクサス星系のホロネット基地を乗っ取り、劇的に銀河社会に復帰したのだ。

 

その際、彼は政治腐敗の温床となっている共和国を非難し、分離主義者の活動を後押しする扇動的なスピーチをホロネットに発信した。

 

共和国を苦しめていた政情不安は激しい分離主義運動に発展し、何百という宙域が共和国が主体である銀河政府から離脱した。

 

ドゥークーはヤグデュルやスルイス・ヴァンも味方につけ、銀河系の南部に分離主義者支配の土台を築き上げた。

 

分離主義勢力に組した星系や企業は、ドゥークー伯爵のもとで独立星系連合を形成したのだ。

 

そんな相手の内情調査を言い渡された俺は、フォースの瞑想によるドゥークーとのコンタクトを幾度も試みていたが、結果は芳しいものでは無かった。

 

彼は本気だ。

 

劇中では利益と理想を求める悪役として登場した彼だが、接してみて本当に分かる。

 

彼は本気で、この腐り切った共和国と、堕落したジェダイオーダーを滅ぼし、新たなる秩序を作り上げようとしている。

 

「精が出るな、マスターログ」

 

瞑想でドゥークーと会話し、疲れ果てていた俺の後ろから、すっと影が差し込んできた。咄嗟に昂りそうになるフォースの感覚を何とか抑えながら、俺は振り返って声をかけてきた相手に目を向ける。

 

「パルパティーン…議長…」

 

惑星ナブー代表のパルパティーン元老院議員。

 

それは表向きの顔であり、本来の彼はダース・シディアス。

 

銀河元老院最高議長の座を手に入れるためにナブー危機を引き起こし、ジェダイ・オーダーを離れたドゥークー伯爵をシス卿“ダース・ティラナス”として弟子に取った。

 

表向きの姿である「パルパティーン最高議長」の権力を増大するために、今はドゥークーが主導で行なっている分離主義運動も、彼とドゥークーによる茶番劇に過ぎないのだ。

 

「また瞑想室に篭っていたのかね?」

 

白々しく語りかけてくるパルパティーンに、俺は一切の感情を殺した上で、笑みを作り上げて答えた。

 

「自分は、マスターではありませんよ。ジェダイナイトです」

 

「そうかね?私から見れば、君は立派なマスターだ。しかし、ふむ。実におかしいことだ。なぜ評議会は君をマスターにしない?」

 

まるで精神を直接撫で回すような言葉だ。アナキンにパルパティーンが接している時、アナキンは本当の家族と触れ合うような無防備さでパルパティーンの言葉を聞いてるが、その気持ちがよくわかる。

 

彼の言葉は甘く、優しく、そしてどこまでも入り込んでくる危険さを持っているのだ。

 

怖えよ。何平然とラスボスと話す機会がポンポンポンポン出てくるんだよ。

 

俺は内情で震える自身をため息と共に追い出しながら、そう言ってきたパルパティーンへ自分なりの答えを出した。

 

「俺を恐れているからです」

 

「ほほう。そういう割には冷静な声だな?」

 

「わかってます。自分のことですから」

 

「ナブーでシスの暗黒卿を助けようとしたことか?」

 

その言葉を聞いて、俺はパルパティーンの目を見た。フォースを研ぎ澄ましても彼に揺らめきはない。

 

弟子であったモールをシスから切り離した上に倒したのだ。怒り心頭で俺のことを見つめているかと思っていたが、パルパティーンには怒りなどなかった。どこまでも平坦なフォースが彼から感じられる。

 

いや、揺らめいているのは自分か。

 

俺はあの一件から、ジェダイオーダーから危険視されるようになった。予言の子だとマスタークワイ=ガンが連れてきたアナキンよりも、だ。

 

ジェダイにとってシスは宿命の敵だ。そんな相手に情けをかけるどころか、対話を試みるなど、ジェダイの騎士としてあってはならない行動だと、俺は激しく責められたのだ。

 

マスタークワイ=ガンや、ナイトに昇格したオビ=ワンからも、励ましの言葉は受けているが、上がそう考えている事実は変えられない。

 

「マスターたちが恐れているのは君ではない。君がもたらす変化だ。ジェダイとは特に保守的な存在だからな」

 

そう笑みを浮かべて言ったパルパティーンに、俺はジトっとした目を向ける。

 

「…貴方がそれを言いますか」

 

「ああ、そうだとも。マスターログ。故に変化は必要なのだ」

 

さすがは元老院最高議長だ。言うことはハキハキとしてらっしゃる。内部からも外部からも、自分の都合の良い方向へ物事を持っていこうとする彼だ。

 

ならば、聞こうではないか。

 

「…シーヴ・パルパティーン議長。ならば教えて頂きたい。貴方はどうやって世界を変えるのですか」

 

声に真剣味を帯びさせ、俺はパルパティーンにそう問いかける。言葉を聞いた途端、彼は浮かべていた張り付いたような笑みをやめて、ゆっくりと俺の下へと近づいてくる。

 

そして耳元へ口を近づけて、俺にしか聞こえない小さな声で呟く。

 

「―――それを知りたければ、君も踏み込むことだ。心の奥底で感じている、君自身の言葉にな」

 

背筋を冷たい何かで撫でられるような感覚が俺に走った。ハッと俺は彼の顔を見ると、パルパティーンの表情はさっきまでと同じく張り付いた笑みが戻っていた。

 

「さて、独立星系連合の脅威から、今は軍隊創設法案に関する話し合いが行われようとしている。君と私の友人であるアミダラ議員は、この法案に声高に反対した議員のひとりだ」

 

淡々と語るパルパティーンは俺の横を歩いていく。

 

「そんな彼女に危機が迫っているという。投票日当日になって彼女の命を狙う暗殺が行われるかも知れんな。連絡は追ってくることになるだろう。君の未来に期待しているよ。マスターログ。フォースが君と共にあらんことを」

 

そう言って去って行くパルパティーンに、俺は何も言い返せなかった。

 

「…ハァっ!!ハァっ…ハァ…」

 

彼の気配が完全に途切れるまで意識が張り詰め、彼が居なくなってから思い出したように呼吸を再開する。

 

あの感覚。

 

タトゥイーンで初めて味わった強大な〝何か〟。

 

その何かに心臓を鷲掴みにされたような…そんな嫌なプレッシャーが、いまだに俺の中に残っている。

 

俺は咄嗟に伸びたライトセーバーに掛かる手の力を解いて、パルパティーンが去っていった通路の先を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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