アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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シリアスばっかりだったから息抜きでつい。
パルパルはログとあるからこそ輝くのだ。


番外編 パルパルとログの愛の逃避行 その2

 

 

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。今ならそれ、よく分かるよ」

 

夜を迎えた街の中で、美樹さやかは正気を失った目つきで心配してくれる杏子を見つめた。

 

自身の願いに間違いはなかった。心から慕う相手の体を癒した。それに間違いはない。正しいことをしたと言い聞かせてきた。周りの声など聞きもしないで、ただそう信じ切って駆け抜けてきた道の果てがこのザマだ。

 

「確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって。一番大切な友達さえ傷付けて」

 

魔女を手にかけて、道ゆく人の戯言にも手をかけて、自身の心すらも理解できなくて、挙げ句の果てに大切な友達であるまどかを傷つけた。そんな自分に、もう憧れの先輩のような正義の魔法少女を名乗る資格も、何もない。

 

何もない。何もなくなってしまった。

 

空虚で、無知で、虚無で。

 

怒りと悲しみと苦しみしかない。

 

それしか、無くなってしまったから。

 

「さやか、アンタまさか」

 

「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。私達魔法少女って、そう言う仕組みだったんだね」

 

杏子の声も遠くなってゆく。目の前が暗闇に覆われる。ああ、これが、心から絶望するっていうことなんだ。まったく、こんなことになるなるまで自分でも気がつかないなんて…。

 

 

 

 

 

 

「あたしって、ほんとバカ」

 

 

 

 

 

 

 

「さやかぁぁっ!!」

 

彼女のソウルジェムが真っ黒に染まり上がったと同時に、世界ははじけ、新たなる産声が上がった。絶望と悲しみと虚無の海に、闇が落ちる。杏子の叫びも虚しく、魔女と化したさやかは、その力を制御することなく解き放った。

 

彼女が魔女化した様子を少し離れた場所から観察していたキュウべぇは、満足そうにその誕生を見守った。

 

「この国では、成長途中の女性のことを、少女って呼ぶんだろう?」

 

 

 

——だったら、やがて魔女になる君たちのことは、魔法少女と呼ぶべきだよね。

 

 

 

その綴られるはずの声は、キュウべえから発せられることは叶わなかった。

 

生体器官も何もかもが地球人とは違うインキュベーターである彼は、呼吸というものすらしないのかもしれない。酸素を求める必要もない体だったら、息苦しさも、痛みも感じないはずなのに。

 

そのとき、キュウべえは確かに〝自身の首が壮絶な力で締め上げられる〟という感覚を実感させれられていた。脳裏に焼けつくような苦しみが、その小さな体に襲い掛かったのだ。

 

「素晴らしい…素晴らしいぞ、魔法少女とは」

 

キュウべえの背後に、影が浮き上がった。真っ黒な外套に身を包む影。そのフードの下からは黄金の眼が二つ、まるで闇世に浮かぶ月のような美しさすら孕んだ光が浮かび上がっていた。

 

暗黒卿、ダース・シディアスは生まれ落ちた美樹さやかの魔女を見つめながら頬を吊り上げ、その誕生を祝う。

 

「ある一つのダークサイドの体現という物だ。恐れや妬み、怒り、悲しみ、絶望と虚無、そのすべてはダークサイドへと通ずる道となる」

 

「か、か…ら…だ…が…うご…か…」

 

シディアスから放たれるフォースは、キュウべえの自慢の生体器官の全てを完膚なきまでに押さえつけていた。まるでドラゴンの足によって押さえつけられているような…圧倒的なまでの力の差だ。不老不死…というよりも、意思を統合した集合生命体など、シディアスの知る銀河ではごまんといる。そんなもの、分離主義者のドロイド兵となんら差はない。

 

シディアスは目を爛々と光らせたまま、体の自由が奪われているキュウべえの横へと佇んだ。

 

「だが、あれはダークサイドそのものであり、知性も理もない存在。単に自身の中の暗黒面を制御できずに垂れ流す赤子と変わらん」

 

そもそも、ダークサイドそのものはフォースの一つの側面に過ぎない。光があるところに影ができるように、それは特別なものではなく、常に存在しているものだ。水と空気があるように、火と風があるように、土と緑があるように、それは当然の如く存在している。

 

その力を使役する者にシディアスは惹かれはするが、あれはあまりにお粗末だ。言うなれば火が制御できずに燃え広がっているに過ぎない。

 

差し詰め、ため込んだガスを爆発させていると言えよう。だが、その光景を目の当たりにした当人にしたら、その事実はあまりにも大きいものだっただろう。

 

「じゃあ…じゃあ!!魔法少女はいずれ、魔女になる宿命だと言うの…?私が行ってきたことも…全部、全部、魔法少女だった彼女たちを殺して…」

 

シディアスの後ろにいた少女、巴マミの叫びに、シディアスは簡潔な考察と推論を告げた。

 

「力とは循環する物だ。息を吸い、吐くように循環して成り立つ。魔法少女が魔女に、そして魔女となった者を狩るために魔法少女が生まれる。これもまた、力の循環の理に適った構造と言えよう」

 

「そんな…そんなこと…だったら…私は…」

 

私たちは…もともと魔法少女だった少女たちが絶望した姿を殺して、その骸から生まれた結晶を求めていたというのか。

 

そんな、負の連鎖にまみれたサイクルに囚われるというなら…だったら、もう私たちは。

 

「前を見ろ、パダワンよ」

 

絶望感に打ちひしがれることを、彼女の隣にいる師は〝許さなかった〟。その程度で絶望するほど、この道は平坦なものでは無い。そう言い聞かせるように、マミの師となったログ・ドゥーランは真っ黒なジェダイローブを下げて、マミの目線に合わせて言葉を紡いだ。

 

「まだお前は、フォースを知ったばかりだ。世界にはフォースが満ち溢れている。今、俺たちがいるこの場にも、空にも、空間にも、そして魔女と化した美樹さやかの身の回りにも」

 

「マスター…」

 

「シディアス卿が仰られたように、今の美樹さやかは陥ったダークサイドの力を垂れ流すことしか知らない赤子だ。人は誰しも、その側面を抱えて生きている。俺も、シディアス卿も、そして巴マミ、お前自身もだ」

 

立て。そう言う師に従ってマミは立ち上がった。魔法少女となって、一人でずっと戦ってきた。それが正しいと思っていたし、それが自分の正義だとも思っていた。魔女の脅威から人々を守るための存在としてあり続けることが。

 

そして、彼らと出会った。はからずしも、魔法少女として生まれ変わった故に感じることができたフォースを身につける修行を続けてきた。

 

ライトサイドも、ダークサイドも見た。

 

マミは乱れた息をゆっくりと整えて、感覚を研ぎ澄ます。大丈夫、マスターの言った通り、フォースはある。自分のすぐそばに、感じることができる。

 

「ライトセーバーを手にしろ、パダワン。フォースを感じろ、魔女となってしまった少女のフォースをだ」

 

ログに導かれるまま、彼女は自身の手で作ったライトセーバーを手に取った。青白い光が天へと伸び、そのプラズマの刃を感じながら、マミはフォースを研ぎ澄ます。

 

「む、無理だ…よ…魔女と…化した…魔法少女を…元に…なんて」

 

キュウべえの得意の交渉術を、今度はログが封じ込んだ。すでに原型が止めないレベルで地に押さえつけられるインキュベーターを見下げて、ログは冷たい目を向けたまま浅はかな彼らに言葉を告げる。

 

「貴様はフォースの全てを知らん。その一部を曲解し、それこそが自分たちの役割だと自負して驕る、愚か者だ。宇宙の延命?そんなものが、単なる種族に過ぎない貴様たちが為せるものか。フォースの全てを理解すらしていない稚拙な者たちが、図に乗ったことをほざくな」

 

そのまま、インキュベーターは生きたままコンクリートの床を突き破り、深い地へと押し込まれてゆく。きっと息絶えれば別の個体が来るであろうが、その身に刻まれたフォースの感覚があれば少しの間は大人しくしているだろう。

 

「パダワンよ。お前の生き方を決めるのはお前だ。フォースを感じろ。全てがそこにあり、知と星の声を紡いでくれる。それを受け取るのも、それを読み解くことも、すべては受け取るお前次第だ」

 

「…はい、マスター」

 

絶望感が漂うフォースは微塵も感じられない。さやかの微かなフォースを感じ取ったマミに迷いはない。ならば、やることは決まった。

 

3人はキュウべえがいた場所からフォースの力に身を委ねて飛び降りると、魔女の結界の前で途方に暮れている杏子の前へと降り立った。

 

「さて、ログよ。パダワンの修行にはこれとない試練となろう。余も学ばさせてもらうとしよう。フォースの暗黒面、その一つの体現がどれほどのものか」

 

両の手にフォースの稲妻を滾らせながら、シディアスは地獄から響くような笑い声を上げて嬉々としてさやかの魔女の結界へと進んでゆく。

 

頼むから試練的な部分を残しておいてくれよ、とログが顔をしかめるが、探求者モード全開となったシディアスを止める術など、この銀河には存在しないだろう。

 

「この素晴らしき暗黒面を持つ彼女を鍛えるのも、また一つの探究だろう」

 

結界に入った途端に襲いかかってくる彼女の使い魔たちを一閃の稲妻で灰へと還元しながら、シディアスはこちらを威圧的に見下げる魔女を見上げて声を高らかにあげた。

 

「インキュベーターよ、そして美樹さやかよ!!真なるダークサイドの…無限のパワーを知るがいい!!」

 

後日、さやかは語る。

 

自身の絶望など、暗黒面に比べれば砂粒にも満たなかった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら「なにこれぇ」

 

 

 


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