アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
皆さん、来年もフォースと共にあらんことを
惑星コルサント。
ギャラクティック・シティにそびえ立っていたジェダイ・オーダーの寺院。
この建物はジェダイ・テンプル(聖堂)と呼ばれ、銀河系各地に築かれたジェダイ寺院の中で最も機能しているジェダイの本拠地だ。
ジェダイ・テンプルは5本の尖塔から成り立っている。
中央にある最大の塔は、ジェダイにとって最も神聖な場所であるテンプル・スパイア。
残りの4本は“評議会の塔”と呼ばれる塔だ。
テンプルが果たした主な役割は3つ。
ジェダイがフォースの意思を汲み取るための修道院。
ジェダイ・イニシエイトやパダワンがジェダイ・ナイトになるための学舎。
そしてオーダーの意思決定機関であるジェダイ最高評議会の本部として機能していた。
またテンプルには銀河系最大規模の情報保管施設であるアーカイブがあり、貴重なホロクロンもここに保管されている。
「随分と荒れているな?フォースの揺らめきが見えるぞ?」
塔から下へ降りる昇降機の中に居た俺は、目的の階の間で乗り込んできた人物に声をかけられた。
「マスタークワイ=ガン、マスターキット…」
振り返った先にいたのは、別の任務から帰還したばかりのマスタークワイ=ガンとマスターキット・フィストーだ。そしてマスターキットの傍には彼と同じ人間とは違う種族のパダワンがいる。
「ドゥーラン、紹介しよう。私のパダワンであるナダールだ」
「はじめまして、ジェダイナイト・ドゥーラン。噂は予々」
動き出した昇降機の中で、パダワンであるナダールが俺に視線を向けてくる。その目には明らかな嫌悪感…敵意にも似た眼差しがあった。
慣れたものだ。全く。
シスの暗黒卿とフォースの感覚を共有しただけでまるで異端者扱いだ。この10年間、俺はこの視線に晒され続けた。唯一しなかったのは、あの現場にいたマスタークワイ=ガンと、オビ=ワン、そして今でも話を聞いてくれるマスターキットくらいだ。
師であるマスターウィンドゥからは、ぶっちゃけて言えばほぼ見放されていると言ってもいいだろう。彼にとってシスとは絶対悪であり、シスとの交流を図った俺にも少なからずの暗黒面へ通ずる扉があると解釈されてしまっているようだ。
「君の立ち位置は、私も理解しているつもりだ。だが今は耐える時だ、友よ」
「わかってますよ、マスタークワイ=ガン」
「私は君が正しいと思っている。君のフォースに対する感覚は、私たちのそれと一線を画しているからな」
そう言って肩に手を置いて微笑んでくれるマスタークワイ=ガンに、俺は何度も心を救われている。四六時中、針の筵のような視線に晒され、しかも任務も振られずにただテンプルにいるだけなんて、拷問より酷いものだ。
おかげでこの十年間のほとんどをライトセーバーの鍛錬とフォースとの共感の瞑想に費やした。一歩間違えればフォースと一体化できるまである。
ささくれた心を優しく癒してくるクワイ=ガンの言葉に、正義感の塊のようなパダワン、ナダールが食ってかかった。
「マスタークワイ=ガン、お言葉ですが、ジェダイとしてシスを見逃した彼の感覚を、私は正しいとは思えません」
「よさないか、ナダール」
「彼は間違ってる!故にマスターたちは今のような立場に」
「確かに、俺は間違ってるのかもしれません」
ナダールの捲し立てるような言葉を遮って、俺はマスタークワイ=ガンと、マスターキットに向かってそう言った。
確かに、ジェダイとしての在り方の中で、俺は異端だ。そんなもの、はっきりと分かっている。俺自身が、一番よく思い知らされている。
シスの暗黒面と心を交流させ、フォースを通じて意識を通わせた。それが如何に危険な行為なのか。それが如何に無謀なのかも分かっている。一歩間違えれば、俺が〝モール〟になっていたのかもしれない。
けれど…。
「間違ってるからと…フォースとの対話をやめてしまったら、俺の今までを裏切ることになる」
俺はずっと、それを信じてきた。初めてライトセーバーを握ったあの時から。初めてフォースを感じたあの瞬間から。ずっとずっと、フォースを信じてきた。
フォースを疑ってはならない。
フォースは全てにあり、全てにフォースがある。
ならば、そこに〝差別〟は介在しないのだ。ジェダイとシス。二つの極地に共通しているのは〝フォース〟だ。それを通じて力を受けるか、支配するかの違いであるが、フォースに触れる以上、そこに共鳴を要求されるのは避けれない事実だ。
「ナダール、君はシスを悪と言ったな?」
「はい、滅するべき忌むべき存在です」
俺の質問に、彼は真っ直ぐとした目で答える。ジェダイの正義感や、倫理観に従った優秀なパダワンだ。だからこそ、俺はあえて聞いた。
「なら、仮にだ。君のマスターや他のジェダイが暗黒面に堕ちたら、君はどうする?」
「えっ…」
フォースが揺らめいた。その空間には、俺とナダールしか居ないように思えるほど、あたりは静まり返っている。俺は無意識に、意識を鋭くしていた。
「勝てるか?戦えるか?」
自身が師事する相手、自身が大事だと思える相手、自身の知る誰かが…暗黒面に堕ちた時、君はその相手を〝殺せる〟か?
ジェダイはその迷いすら断ち切るために、家族から素質あるものを切り離し、ジェダイとして訓練させる。だが、その教えをする者が暗黒面に堕ちた場合なら?
「私は…」
ナダールは初めて言葉に詰まった。
そしてイメージする。
自身の師であるマスターが、真っ赤なライトセーバーを持って自分の前に立ちふさがるイメージを。
ナダールは手が震えていることに気付いた。足も、呼吸も。まともに機能していない。まるで、どこか寒い場所へと押し込められたような息苦しさを感じる…。
恐怖だ。
恐怖がナダールを包み込んでいる。
ダメだ…そんなこと…ダメだ…ダメだダメだ!!
「その揺らめきに、目を向けることを躊躇うな、ナダール」
その恐怖による寒さの中で、ナダールの肩に俺は手を置いた。冷え切っていたナダールのフォースが、俺の手を中心に暖かさを取り戻していく。
その躊躇いに、迷いに、目を向けることをやめれば、そんなものジェダイなど…ましてや平和の守護者などと言える存在ではない。
「自分の想いに目を背けること…そんなもの、機械やドロイドと同じだ」
そう伝えると、ナダールは震える手を握りしめて視線を落とす。ナダールが感じた感覚こそが、フォースの暗黒面に通ずるものだ。それから目をそらせば、いつしか大きな痛みを…大きな損失をもたらすことを、自分たちは分かっていないといけない。
それを受け止めて、共に歩くことが、俺の信じるジェダイの道だった。
「俺はそれを辞めたくないんです、マスター」
真っ直ぐとマスタークワイ=ガンと、マスターキットを見つめる俺に、二人はしばらく考えたあとに、俺の両肩に手を置いた。
「ドゥーラン。私は君に伝えた。君の心を信じろ、君自身の在り方を信じろとね」
「君は君の信じる道を行くことだ。フォースは君を導いてくれるはずだ」
微笑んでくれる二人のマスターに、俺は心からの礼を込めて頭を下げた。昇降機の扉が開くと、そこにはジェダイ専用の港が広がっている。
「我々はコルサントを離れる。君の無事を祈っているよ」
ナダールを連れて降りていく二人のマスターに、俺は祝福と無事を祈る。マスターたちも、その心に気づいたのか、ジェダイらしい笑みを持って言葉を投げる。
「フォースが共にあらんことを」
「フォースと共に、マスター」
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「我々がここにいるのはあなたをお守りするためです、議員。捜査のためではありません」
コルサントのアミダラ議員が滞在する建物で合流したジェダイナイト、オビ=ワン・ケノービは、事件の真相を求めるアミダラ議員にそう回答する。だが、彼のパダワンであるアナキン・スカイウォーカーの思いは違っていた。
「君を殺そうとしているやつは見つけ出すよ、パドメ。約束する」
そう言って熱のこもった目をするアナキンを諫めるように、オビ=ワンはパダワンへ視線を向けた。
「命令を逸脱してはならんぞ、若きパダワン見習い」
「もちろん彼女を守る過程で、という意味ですよ、マスター」
「口答えは許さんぞ、アナキン。私の教えに注意を払うんだ」
「なぜです?」
当然のように言うアナキンに、オビ=ワンは呆気に取られたような表情をしたまま固まった。そんな師に、アナキンは自身の思っていることを簡潔に述べた。
「犯人を捜さないのなら、なぜ我々ジェダイが彼女のもとにいるんですか?守るのはジェダイではなく警備隊の仕事です。やり過ぎです、マスター。捜査も我々の任務の一環です」
確かに、議員に危機が迫っていると言うなら警備員を増やし、セキュリティを何重にも強化すればいいだけの話。もっと言えば、アミダラ議員を元老院専用の宿舎に入れてしまえばいいものを、彼女はいつも利用しているナブーの宿舎で寝泊りすると言う。
ジェダイを出すにはあまりも短絡的であるとは思うが…。
「…我々は評議会の指示通りに動くだけだ。自分の立場をわきまえろ」
アナキンとは違って、余計なことを考えないオビ=ワンはそう言うだけだった。
感情に直線的な思考をするアナキンと、普段は理性と論理をもとに行動するオビ=ワンとの決定的な違いであり、アナキンが不満に思う点でもあった。
まぁ二人でガンダークの巣に落ちたときは、さすがのオビ=ワンも本能的に行動して危機を乗り越える時もあったが。
「まぁまぁ…。おそらく、あなた方がいてくださることで、この脅威を取り巻く謎も解明されることでしょう。ではよろしければ、休ませていただきます」
そう断って、パドメは寝室がある場所へと向かってゆく。警備隊長らも持ち場に着き、アナキンとオビ=ワンは大きなホールにポツンと佇むことになった。
「ミーはまた会えて幸せね、アニー」
ナブーの要人となったジャージャーも、目に見えて顔色が悪いアナキンを励ますように声をかけて、昇降機があるホールの奥へと消えていった。
「彼女は僕のことが分からなかったよ、ジャー・ジャー。別れて以来、僕は毎日彼女のことを考えていたのに、彼女は僕のことを完全に忘れていた」
小さく、けれど悲壮感に満ちた声でそういうアナキンに、オビ=ワンは優しい目を向けて語りかける。
「お前は否定的に考えすぎだ、アナキン。心配するな。彼女は再会を喜んでいたぞ?」
「でも僕は―――」
「相変わらず女々しいことを言うな?スカイウォーカー」
悲壮感が突き抜けそうだったアナキンと、オビ=ワンの後ろから声がかかった。二人が振り返ると、数週間ぶりに顔を見たジェダイナイトが、悠然とこちらに歩いてきているのが見える。
「ドゥーラン」
げぇっ!と言いたげなアナキンの声に苦笑しながら、オビ=ワンは友との再会に握手で応えながら問いかける。
「どうしてここに?」
「アミダラ議員の囮役をやっていた女性を助けてね。警備隊長から感謝の言葉を伝えたいと連絡があったからさ。ああ、入場確認はジャージャーがやってくれたよ」
といっても、昇降機のホールで〝やぁ、ロニィ!アニーとオビーなら、この通路の先にいるね!ミーは疲れたから寝るよバァイ〟と言ってすれ違った程度だけど、とログが伝えると、オビ=ワンはなんとも言えない風に、顔を手で覆った。
「僕がなにを言おうが、あんたには関係がないだろ?ドゥーラン」
明らかに不機嫌さが増したアナキンに、ログは意地悪な笑みを浮かべてアナキンに視線を向ける。
「ほほう?すでにジェダイとしては俺より上だと?ライトセーバー戦では500戦500敗中の君が?」
「489戦中489敗だっ!!」
「オビ=ワン、彼のライトセーバーの腕は上がったのかい?」
テンプルで会うたびに突っ掛かっては訓練の模擬戦をして、ボコボコにやられるパダワンの成長ぶりを聞かれると、オビ=ワンは肩をすくめながらとぼけた。
「才能に見合った時間をスピーダーやポッドの操縦に向けているからな。その時間をセーバーテクニックに掛けていれば、マスターヨーダ並みの使い手になれたものを」
「もうなってますよ」
自尊心と慢心の塊のような顔をしながらオビ=ワンの言葉に反発するアナキンに、ログはため息を吐いた。
「なら、俺に勝ってから言うんだな。若きジェダイ」
「お前より身長は勝ってる」
「身長のことを引き合いに出すか?お?死ぬ覚悟は出来てるんだよな?」
今にもライトセーバーを抜いてバトルしそうな雰囲気に、さすがのオビ=ワンも仲裁するように間に入り込む。
「久々の再会なんだ。そういうことは…」
その時だった。
何か、嫌な揺らめきを感じる。
気がついたらログは走り出していた。
「マスター!」
「私も感じた」
そのあとにアナキンとオビ=ワンも続く。
パドメに断りなく部屋に突入したログとアナキンが、彼女のベッドにいた猛毒の生命体をライトセーバーで切り刻むと、二人の側にいたオビ=ワンが、窓の外にいる浮遊ドロイドに向かって飛びついた。
「おいいい!!命令を逸脱するなって言ったの誰だよ!?」
パドメを護衛するはずなのに、真っ先に真相と関わりありそうなドロイドに飛びつき、コルサントの夜景の中に消えていくオビ=ワンへ叫ぶログと、呆れた様子でスピーダーを取りに向かうアナキン。
ログもすぐにアナキンの後を追う。
その後、夜のコルサントの交通網に混乱を引き起こした上に、命令違反を犯したログとオビ=ワンとアナキンは、評議会にこってり絞られたあと、新たな任務を言い渡されるのだった。