アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
アレは嘘だ。
これが今年最後です。では皆さん良いお年を
フォースと共にあらんことを
ナブーの湖水地方へと身を隠すことになったパドメは、護衛のアナキンと共に湖水地方にある別荘から雄大なナブーの自然を見渡していた。
「ここには学校が休みのときによく来たわ。毎日あの島まで泳いだの。水は大好き。砂の上に寝そべって、太陽の光で乾かすのよ。そして、鳴いている鳥の名前を当てっこしたわ」
バルコニーに手をかけながら、パドメは美しい風景と一体になるように、燦々と煌く木漏れ日の中でアナキンにそう言葉を渡す。
そんな彼女に見惚れていたアナキンは、ひと拍子遅れてパドメの目を見つめた。
「僕は砂は嫌いだな。ザラザラしていて邪魔で不快で、どこにでも入ってくる。ここのとは違うよ。ここではすべてが柔らかくて滑らかだ」
アナキンは熱のある瞳をパドメに注ぎ、なでやかな彼女の髪の毛に指を通し、その香りを楽しむ。
全てが愛おしい。
全てが眩しい。
その時のアナキンの情熱の全てはパドメだった。
どこまでも穏やかだった。どこまでも静かで、どこまでも安らぎがある。永遠とも思える中で、パドメもアナキンを見つめる。
二人の熱は火となり、お互いの火が絡まり合って、激しく胸を締め付け、気持ちを火照らしてゆく。このまま何もかもの縛りから解き放たれて―――。
「んんっ」
そんな時の中に、咳払いが差し込まれた。ハッと止まったパドメとアナキンが向けた視線の先には、二人分の荷物を両手に持ったログが、困ったような顔をして二人を見つめていた。
「あー失礼、パドメ。荷物はどちらに?」
「え…ええ、使用人を呼んできます」
アナキンの肩に指を走らせ、名残惜しそうに彼のそばを離れるパドメ。議員である毅然とした理性が彼女にそうさせているのだろう。ログは両手いっぱいに抱えた荷物を置くと、不満そうに景色を眺めるアナキンの下へと向かう。
「スカイウォーカー」
「なんです?貴方も言いますか?…ジェダイで恋愛はいけないと」
苛立った眼差しを向けられていたが、ログは怒りも何もない目線…というより、若干戸惑ったような目をして改めてアナキンを見つめる。
「あー、なんだ。つまり、彼女のことを?」
ログに言われて、アナキンは自分が墓穴を掘ったことにようやく気がついた。何を言ってるんだ僕は!わざわざ自分から彼女のことを好きだと暴露するような真似をするなんて!!
羞恥心と自身の未熟さに感情が揺さぶられるアナキンに、ログは微笑みかけ、パドメがさっきまでいたアナキンの横に着いた。
「そういうところだ、スカイウォーカー。もう少し考えて動くことだ」
ザァっと風に木々の葉が躍る音が響く。湖畔の水は降り注ぐ太陽の光を反射させて色鮮やかにその芸術のような姿を刻々と変えていく。
穏やかなフォースだ。
大自然が持つエネルギーを体いっぱいで感じているログの隣で、アナキンのフォースはやや激しめに揺らめいていた。
「…評議会にいうんですね、僕のことを」
「何をだ?」
分かってる癖にと言わんばかりの目がアナキンから向けられるが、ログはとぼけるように肩をすくめる。アナキンは観念したように言葉を吐いた。
「僕がパドメのことを愛してしまっていることだ!貴方の立場は悪い。だから僕のことを言えば…」
「そんなことはしない」
アナキンの吐き出すような強い言葉を、ログは湖畔を見つめる視線を変えずにバッサリと切り返した。
「スカイウォーカー、君にとってのジェダイはなんだ?」
豆鉄砲を喰らったような驚いた顔をするアナキンを気にせず、ログは身なりを整えてアナキンに問いかけた。
君にとってのジェダイとはなんだ?と。
「ジェダイとは…規律を重んじて…世界の平和を…」
「そうじゃないぞ、スカイウォーカー。初めてマスタークワイ=ガンと出会ったときに思ったジェダイへの憧れを言うんだ」
真っ直ぐとアナキンを見つめて言うログに、彼は言葉を探したが上手く出てこなかった。
ジェダイは、アナキンにとっては夢のヒーローだった。いつしか、ジェダイがやってきては、奴隷に苦しむ人々を解放して世界に平和をもたらしてくれると信じていた。
だが、ジェダイはそんなものじゃなかった。限りなく不干渉で、限りなく平等なのだ。どちらかに肩入れなんてしない。その世界の在り方を個々に受け入れてしまう。だから、どちらが悪でどちらが正しいかなんて、明確な答えを考えない。
ジェダイにとっての悪は暗黒面だけだ。
アナキンにとってのジェダイとは、憧れのヒーローから自らを縛る牢獄のように思えるよう変わってしまっていた。
そんなアナキンの憂いる顔に、ログは笑みを作って彼の肩に手を置いた。温かな何かがアナキンへと伝わり、彼もログを見た。
「俺にとってのジェダイは、フォースが示す物を見通す存在だ」
たしかに、世界の秩序と平和を守るためにジェダイの規律や、掟も時には必要だ。しかし、それがフォースが示すものを陰らせるなら、そんなものに意味なんてない。
そして純粋にログは感じ取っていた。
この物語の先を知る存在としても、そして実在する二人のフォースの共鳴を見つめて、確信した。
「君と彼女のフォースは感じあっている。それがわかるか?スカイウォーカー」
そう断言するログに、アナキンは驚きを隠せないような顔で彼を見つめていたが、ログは続けて言った。
「君たちは正しい道に進んでいる。だから、それを信じろ。フォースは君たちと共にあるのだからな」
これは運命だ。
アナキンとパドメ自身の辿るべき運命の道。
アナキンが暗黒面に堕ちてまでも頑なに信じた愛の形であり、彼の心の拠り所になるモノだ。二人を引き剥がすことなど、何人たりとも出来やしない。それほどまでにログから見ても二人の運命は深く重なり合っている。
ジェダイの誰もが目を背ける深い場所で。故に彼はこの運命の中でも孤独を感じていたのかもしれない。パドメに理解してもらっても、ジェダイの誰もが見ようとしない、否定するばかりの繋がり。それこそがアナキンの力の源の一つであると言うのに、彼はその源を信じられずにいる。
だから、ログは後押しすることを決めていた。アナキンにとって、それは必要なことだから。
「…意外だ」
そう言ったアナキンの顔を見て、ログはギョッとする。彼の顔はいつも不満と苛立ちに満ちていたと言うのに、今の彼は泣き出しそうな、そんな顔をしていた。
「貴方はもっと…そういうことに無頓着な人だと思っていた」
アナキンから見たログ・ドゥーランは、どこまでもジェダイだった。掟や規律にがんじがらめなジェダイという組織の中で、彼はどこまでも真摯にフォースと向き合う存在だった。
彼の剣戟の冴えや、フォースへの感応力は、500回近く剣を交えているアナキンが一番よく理解できている。彼の感覚は、自分とは違う領域のものだとも。
だからこそ、ログ・ドゥーランはこう言った話には特に無頓着と思っていた。こういった想いがフォースとの共鳴の邪魔になると言って切って捨てるとも思っていた。
アナキンに、ログは笑みを作って肩に置いていた手でアナキンを優しく叩いた。
「俺はお前がそういうことに敏感だと知ってたよ。行こう、スカイウォーカー。彼女が待っている」
湖畔のバルコニーからパドメと使用人がやってきたのを見たログが、アナキンの横から入り口に向かって歩き出した時。
「アナキン」
そういって、アナキンはログを呼び止めた。振り返ったログに、アナキンは穏やかな笑みを作って彼に改めて礼をした。
「アナキンでいいよ」
心を許したアナキンに、ログも同じように親愛の笑みを向ける。踏み出したアナキンはログと隣り合わせになるように歩き、彼もアナキンと肩を並べて歩く。
「けど、次の勝負には僕が勝つよ」
「ほう?言ったな?なら後でパドメに見せるとしよう」
そう言い合いながら、二人はパドメが待っているコテージへと入って行くのだった。
▼
〝カミーノ…知らない星だが、共和国のメンバーか?〟
〝いや、アウター・リムの向こう側にある〟
水と雨の惑星カミーノ。
外銀河のカミーノ星系に属す海洋惑星であるその星は、銀河の南のはずれに位置し、知覚種族カミーノアンが暮らしていた。
惑星の表面は海で覆われ、軌道からでも確認できるほど激しい落雷と大嵐が絶え間なく続いている。政府である統治評議会は首相によって統括され、首都はティポカ・シティに置かれていた。
ジェダイの広大なアーカイブの中から〝何者かによって〟削除された惑星カミーノは、辺境の孤立した惑星だった。
「ボバ、お父さんはいらっしゃる?」
ティポカ・シティのアパルトメントに訪れたカミーノアンのトーン・ウィは出迎えてくれた幼い少年に和かな挨拶を交わして部屋に入ってゆく。そのトーン・ウィの後ろには、カミーノでクローン軍団を見たばかりのオビ=ワンが注意深く意識を張り巡らせながら続く。
部屋の奥では、トーン・ウィと年齢を重ねた体格の良い男性が言葉を交わしているのが見えた。
「ジャンゴ、おかえりなさい。実りある旅でしたか?」
彼女からの問いに頷く男性。トーン・ウィはある程度のところで会話を切り上げると、オビ=ワンを手招いて男性へ紹介する。
「こちらはジェダイ・マスターのオビ=ワン・ケノービ殿です。作業の進捗を確認に来られたのです」
「君がクローンの素体提供を?」
一礼すると、オビ=ワンは男性―――ジャンゴ・フェットへ単刀直入に言葉を切り出す。
「俺はただ宇宙に足跡を残そうとしているだけの単純な男だ」
フォースを纏ったオビ=ワンの言葉を軽い笑みを浮かべて受け流すジャンゴに、オビ=ワンはさらに意識を鋭くして問いを増やしていく。
「コルサントのような、はるか内縁の地にも足跡を残したことはあるのかな?」
「まぁ1、2回はな」
「最近か?」
そうだなと頷くジャンゴに、オビ=ワンは一呼吸置くと、姿勢を正し、ジャンゴを見つめながら核心を突く言葉を投げる。
「では、マスター・サイフォ=ディアスのことも知っているわけだ」
その質問を受けてから、ジャンゴも何かを感じ取ったのか、まだ幼い子へ認識できない言語で声をかけてから、さっきと変わらない笑みを浮かべたまま首を横へ振った。
「さてな、聞いたことがない。俺は今回の件は、ボグデンの月の1つでタイラナスという男に雇われたんだ」
「ほぅ、それは興味深いな」
ジャンゴは嘘を言っていない。彼にとってジェダイとは生半可な嘘が通じない相手であることを充分に承知しているからだ。
ジェダイとはフォースなどという不可思議で不明瞭な力を使って簡単に心の中へ土足で踏み込んでくる。嘘などというハリボテで壁を作っても、そこにできた隙間へするりと入り込んできては、隠そうとする思いを暴くのだ。
故にジャンゴは嘘をつかなかった。自分がクローンの遺伝子提供者であることには間違い無いし、ボグデンの月の一つでタイラナスという男にその話を持ち寄られたのも事実だ。
彼は聞かれたことを正直に話しただけだ。あくまで〝聞かれたこと〟だけであるが。
「軍隊は気にいったかい?」
ジャンゴは切り替えるようにオビ=ワンにそう切り返す。オビ=ワンも目つきを鋭くしたまま、ジャンゴの言葉に頷く。
「ああ、戦ってるところを見てみたいよ」
「やつらはよく働いてくれるだろうよ。俺が保証する」
そこから幾秒か、ジャンゴとオビ=ワンが睨み合ったが、彼から読み取れるものはないと判断したのか、オビ=ワンは研ぎ澄ましていた意識を戻して、ジャンゴへ手を差し出した。
「時間を割いてくれて感謝するよ、ジャンゴ」
「あぁ、ジェダイならいつでも歓迎さ」
笑顔でオビ=ワンの握手に応じるジャンゴ。トーン・ウィに連れられてアパルトメントから出て行くジェダイを見送り、二人の気配が完全に消え去ったのを確かめてから、ジャンゴは急いで荷造りを始めた。
「どうしたの、パパ?」
「ボバ、荷物をまとめろ。ずらかるぞ。それと、暗号通信で連絡を。電文はケースC560。宛先は―――ジェダイ、ログ・ドゥーランだ」