アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
2020年も、皆さんがフォースと共にあらんことを
アウターリム・テリトリー。
惑星、ムスタファー。
「やはり思った通りだ」
警備の目を掻い潜って、溶岩の合間に着陸させていたジェダイ用の偽装貨物船に戻ってきたマスタークワイ=ガンは、船で待機していたマスターキットとパダワンであるナダールに記録してきたホログラムを見せた。
貴重な貴金属が溶け込み流れているムスタファーは、300年近くテクノ・ユニオンが鋼鉄事業を牛耳っているアウターリム屈指の資源惑星だ。
テクノ・ユニオンとは、テクノロジー企業によって構成されている商業ギルドであり、近年活発化している分離主義運動にて、ドゥークー伯爵が宣言した独立星系連合に加わった組織だ。
マスタークワイ=ガンたちが、この死の星に訪れたのは、ある極秘任務のため。そこで手に入れてきたものは、テクノ・ユニオンの生産計画のリストだった。
「この鋼材の輸出量は尋常じゃない。6年前から爆発的に資材の輸出量が増えている」
「ドゥーランの勘は当たったということか」
ホログラムの一部をなぞる様に指を走らせるマスタークワイ=ガンに、マスターキットも想像していた嫌な予感が当たってしまったことに憂いるよう腕を組んで唸る。
「どういうことですか?マスター」
高温を発する惑星での隠密活動に不慣れなナダールを残して任務を遂行したマスターたちに、パダワンは抱えていた疑問をぶつけた。
そもそも、なぜこのような場所にジェダイが。それも惑星の監視網に引っかからないように極秘裏に乗り込まなければならなかったのか。
ナダールの疑問に答えたのはマスタークワイ=ガンだった。
「評議会からドゥーランに出された指令は、マスタードゥークーの動向調査だった。しかし」
「元ジェダイマスターであるドゥークーだ。ジェダイとしての矜持もあると評議会の考えもあってな」
マスターキットが続けて言った言葉に、ナダールは思考を整理してまとめていく。マスタードゥークーは立派なジェダイマスターであった。そんな彼は志の違いで自らジェダイオーダーを離れた訳だが、ジェダイを辞した訳ではないとオーダーは認識している。
地位も名誉もある人物に疑いをかけて大々的な捜査を行うにしても、今の情勢やジェダイの在り方に疑問の声が上がっている中で、そんな真似をすれば暗黒面の付け入る隙を与えてしまうことを危惧したのか。
「なるほど…それで彼は」
「そう、ドゥークー伯爵の足取りを追ったのだ。彼自身の足取りではなく、資金源のな」
大した洞察力だ、とマスターキットもパダワンの洞察力へ満足そうに笑みを浮かべた。
人となりとジェダイという功績を見つめるばかりでは見えてこない闇だが、闇に一番通ずる道というものも暗黒面以外に存在すると、この案を提案したログが言っていた。
「たしかに、金銭面に意識を向けないジェダイの盲点だ」
結果は黒。
莫大な遺産とセレノーの伯爵の称号を受け継いだ彼は、表向きは共和国に異を唱える政治家的な側面があるが、その資産運用などアーカイブへの閲覧権を持つジェダイが本気で調べれば簡単にわかることだ。
「評議会に報告を」
「マスタークワイ=ガン、主な出荷先は?」
ジェダイ専用通信の準備を始めるマスターキットたちに、クワイ=ガンは投影されたホログラムを読み解いて答えた。
「ジオノーシスだ」
▼
穏やかな朝日がナブーに昇る。タトゥイーンとは違う優しい光がフォースとの瞑想に耽るアナキンの顔を照らしていく。
今のアナキンとフォースの繋がりは浅かった。深く繋がろうと深層へと潜れば潜るほど跳ね除けられるような感覚。
それはフォースが邪魔をしているのではない。アナキンの心が深層に降りることを妨げていた。
「行かないで」
物陰からこっそりと見つめていたパドメが、アナキンが瞑想するバルコニーから去ろうとしたとき、アナキンは瞳を閉じたまま零れるような言葉を出す。
「君がいてくれると、落ち着くんだ」
アナキン自身、わかっていた。今の自分は穏やかではない。揺れ動いている。それも激しく、動揺するように。顔が強張っているのも分かっていた。
「うなされていたわ。悪い夢を見たのね?」
「――ジェダイは夢を見ない」
「しかし、お前のフォースは揺らめいているぞ?アナキン」
そう言ってバルコニーの横にある木から横へ伸びる太い幹の上で座禅を組むように瞑想していたログがアナキンの側へと降りた。
「ログ」
「話してくれ」
驚いたように言うアナキンに、パドメと共に心配そうな目でログは懇願するように手を差し伸ばす。アナキンは幾らか躊躇うように思考を巡らせてから、観念したように二人に話した。
「…夢で…母さんを見たんだ」
苦しんでいた。
いまの君や、ログを見ているのと同じくらいはっきりと見えた、と。
その言葉を聞いて、パドメは悲しげにアナキンの手を握り、ログはこの時が来たかとアナキンを見つめる。しかし、決断するのはアナキンだとログは何も言わなかった。そもそも、彼から母の夢の話を聞いたのは今が初めてだった。
「母さんが苦しんでいる」
アナキンはさっきまでの迷うような眼差しのまま、パドメとログと地面を彷徨うように目線を走らせて、躊躇いがちに握ってくれるパドメの手を握り締めた。
「パドメ…君を守ることが任務なのは分かっているよ。ジェダイとしても…だけど……僕は行かなければならない。母さんを助けなければならないんだ」
アナキンは、そう言ってパドメもまた彼を労わるように抱擁する手に力を送る。彼はジェダイである前に人間であると言う部分をパドメは深く理解していた。そんな彼の根幹を成すのが、タトゥイーンで出会った優しい母であると言うことも。
〝だからこそ、今回は間に合った〟
「アナキン、覚えているか?お前の母に俺がお守りを渡したことを」
そう言ってアナキンに問いかけるログに、なんで今更それをと言わんばかりの表情になったアナキンは頷いた。
「ああ、はっきりと」
ああ、よかった。ログは心の中でそう息をついてからずっと胸元に提げていた首飾りを取り出す。それはアナキンの母であるシミに送ったものと同じ物だ。布製の袋に包まれていた中身をアナキンへ差し出す。
「これはジェダイのみが使えるホロクロンの一部だ。君の母に渡したものと一対になっている」
それを受け取ったアナキンは、ログとそれを交互に見つめる。ログは真っ直ぐとした目でアナキンを見つめて、ずっと言いたかったことを伝えた。
「君のフォースを流せ。どこにいても、君の母の場所を感じ取ることができる」
ザァっとナブーの湖畔に風が凪ぐ。
アナキンは心を静かにし、自分の母を思う気持ちをフォースに変えて、ログから受け取ったホロクロンの一部へ力を流し込んでいく。
〝あぁ、アナキン…助けて…〟
暗闇の中で聞こえる。
夢の中では朧げだった…助けを呼ぶ母の声が。
「…母さん!!」
今にも駆け出しそうなアナキンを、パドメがしっかりとした手で引き留める。
「私もいくわ」
「パドメ」
「私が共にいればいいのでしょう?」
彼女はログに任せようという考えも出てきたが、ログもすでに身なりを整えてアナキンと共に行くつもりだったようだ。若いジェダイの視線に、ログはしっかりと頷いて応える。
「すまない…行こう!」
そう二人に告げて駆け出すアナキン。
その表情にはもう迷いなんて無かった。