アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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ダークサイド

 

 

えっ、何これ怖っ…。

 

ホロクロンの反応を辿ってタトゥイーンへやってきた俺たちは、パドメを残してアナキンの母、シミ・スカイウォーカーが捕らえられている場所へ向かった。

 

そこはタスケン・レイダー、通称サンド・ピープルと呼ばれるタトゥイーンに住む原始的な知覚生物の集落だった。

 

タスケン・レイダーの部族が、水分農夫クリーグ・ラーズと結婚し奴隷から解放されたシミを誘拐。彼女はタスケンの拷問を受けており、アナキンと共に発見した時はかなり危険な状態であった。

 

拘束具を外したアナキンの腕の中で力なく笑うシミへ、俺は持ってきていた緊急用救急キットで応急手当てを施していくが、彼女の生命力を示すフォースが極端に弱まっていたことを知った。

 

くそっ、ここで死なせてたまるものか!

 

俺はこうなったときのために、この空白の10年をフォースの共感と触れ合いのために修行をしてきた。彼女の傷ついた腹部に手を滑らして、俺は意識を深く、鋭くシミのフォースへと集中させ、繋げていく。

 

俺の手を見て、アナキンはギョッとしたようにしていたが、それどころではない。俺はさらに意識を研ぎ澄まして自身のフォースを繋がったシミへと受け渡していくと、彼女の深傷は癒えていき、血は止まり、色艶を失っていた肌にも若干の血の気を取り戻させていった。

 

シミの生命力を示すフォースが穏やかになるのを確認してから、俺は彼女との繋がりを解いて、大きく息を吐いた。

 

ヒーリングフォース。

 

他者へ自身の生命力を内包したフォースを送り、傷を癒す術だ。クワイ=ガンに見せた時は「使いすぎると己の命すら相手に渡してしまう危険がある」と忠告された危険な技だ。力加減を間違えればこちらも動けなくなるし、なによりエネルギーの消費が激しすぎる。

 

シミの呼吸がひと段落したのに安堵して、俺はようやく気がついた。後ろから立ち上がる怒りに。

 

振り返ると、母を傷つけたタスケンに怒りを露わにするアナキンが立っていた。

 

え、なにこれ知らん…怖…

 

そう思えるほど、強烈で鋭いフォースがアナキンから放出されている。あ、これはアカン。怒りで周りが見えなくなってるやつやん。俺はシミから手を離して、フォースの導きに従って―――アナキンの頬をぶん殴った。それもグーで。

 

「ロ、ログ?」

 

唐突にぶん殴られたことに驚くアナキンの胸ぐらを掴んで、俺はそのままアナキンを自分の眼前へと引き寄せた。

 

「アナキン、お前の考えていることはわかる。しかし、今優先するべきことは何かを見失ったとき、何を失うか本当にわかっているのか?」

 

タスケン達にバレないように声を小さく言って、アナキンは渋々と言った様子でシミを抱き上げると、切って突入してきたテントから出ていく。俺も後に続こうと出たが、足元にあった薪が火を吹いた。

 

「―――ッ!!――ッ!!ッ!!」

 

言葉にならないタスケンの雄叫びが響き、闇夜の中で休んでいた戦士達が煙のように立ち上がる。手に持った型落ちのブラスターの火がこちらに向かって飛んできた。

 

「ログ!」

 

「行け!アナキン!目の前の優先するべきものを忘れるな!!行け!!行くんだ!!」

 

シミを抱えたアナキンではどうにもできない。俺はライトセーバーを起動させて、タスケン達が放つブラスターをことごとく跳ね返していく。

 

アナキンは躊躇いがちに俺を見てから、自分の母を抱えるとパドメが待つシャトルへと一気に走り出した。

 

そうだ、それでいい。

 

俺はアナキンの後ろ姿を見送ってから、彼を追おうと向かってくるタスケン達へ目を向けた。

 

なに。アナキンが怒っているのもわかる。あんな優しい人を良いように拷問されたのだ。怒りももっともだ。

 

だが――。

 

「俺の方がもっと怒ってる」

 

俺はブラスターもどきを振り上げて突撃してきたタスケンの腕を切り落とし、周りを囲もうとする蛮族達に鋭い視線を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてだった。

 

アナキンは母を抱えながらシャトルに乗り込み、ログから感じたものに背筋を冷たくさせていた。

 

母の無残な姿を見て我を忘れていたのは確かだった。ログが手を母に重ねた途端、弱っていた母の息が安定したことには驚いたが、それでも最愛の母をこんな目に遭わせた野蛮なタスケン達を許す気持ちは起きなかった。

 

ログは母から手を離すと、なにも言わずにアナキンの頬を殴りつけた。その行為にアナキンの怒りがどこかへ飛んでいった。

 

戸惑うアナキンを手繰り寄せるログ。

 

その言葉には迫力があったが、同時にアナキンが感じたことがない深い恐怖があった。

 

怒りだ。

 

アナキンの何十倍も、ログは怒っていた。その怒りを、彼は熱することなく、冷たい極寒の感覚を保持したまま維持していたのだ。

 

アナキンは言葉をなくした。

 

自分の怒りなど、ただの子供の癇癪だと納得してしまえるくらい、本質的な怒りと恐怖を目の当たりにした。

 

まるで巨大な漆黒の龍に睨み付けられているような悪寒が、背筋に走る。

 

気がつくと、アナキンの中で立ち上ろうとしていた怒りはすっかり無くなっていた。母を抱き上げて集落を後にしようとした時、一人のタスケンに見つかった。

 

ブラスターの雨が降り注ぐ中、彼は怒りとは程遠い毅然としたライトセーバー捌きでブラスターを四方へと飛散させていく。

 

〝行け!アナキン!〟

 

〝早く行け!行くんだ!!〟

 

両手が塞がっている自分では何もできない。アナキンは自分の未熟さを噛みしめながら大切な母を抱えてシャトルへと走る。

 

待っていたパドメに母を託して、アナキンは自身が走ってきた道を必死に戻った。フォースの力を借りて猛スピードでタスケンの集落へと戻る。

 

そして、アナキンがログの下へたどり着いた時。

 

腕や足を切り飛ばされ、地面に伏せるタスケン達の中に、ログはライトセーバーを地面に下げながら、砂漠の夜空の中に佇んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝よぉ、クライアント。時は近いぞ?〟

 

〝ああ、では、契約通りに事を進めるとしよう〟

 

 

 

 

 

 


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