アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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規律とは破るためにある。これ鉄則です

 

 

 

カミーノから逃亡したジャンゴ・フェットを追っていたオビ=ワンは、ジャンゴが逃げ込んだ惑星ジオノーシスで、元ジェダイマスターであるドゥークー伯爵が、分離主義連合と手を組んでいるのを目撃した。

 

ジェダイ評議会にその真実を伝えようとしたが、突如として現れたバトルドロイドたちによって、彼はジオノーシスの牢獄へと閉じ込められることになったのだった。

 

「裏切り者め」

 

「まさか、友よ。すまないな、これは間違いだ。とんでもない間違いだよ。いやはや…やりすぎだな。困ったものだ」

 

牢獄へ入ってきたのは、オビ=ワンが目撃したドゥークー伯爵本人であった。彼は睨み付けるオビ=ワンに対して、穏やかな口調で謝罪する。

 

「ここではおまえがリーダーだろう、ドゥークー!」

 

あくまでシラを切るドゥークーに、オビ=ワンは苛立った口調でそう吐いて捨てた。目撃した分離主義者達との会話から推測すれば、この惑星で秘密裏に進められている計画の全てや、ここに逃げこんだジャンゴにも少なからず関わりを持っているに違いはない。

 

だが、ドゥークーのフォースは乱れなかった。

 

「私は何も知らなかったのだよ、本当だ。すぐに解放するよう申し立てるとしよう」

 

「ああ、はやくお願いしたいね。やることが残ってるんだ」

 

動じないドゥークーに、オビ=ワンも言葉を交わす事を諦めた。彼が言葉通りすぐに解放してくれるならそれでもいい。だが、事はジェダイの思想の中にいるオビ=ワンが思うよりも、もっと深刻だった。

 

「ああ。―――だが、聞かせてもらいたいのだが、ジェダイ・ナイトが…一体なぜこのジオノーシスにいるのだね?」

 

ドゥークーの問いかけに、オビ=ワンは感覚を研ぎ澄ます。だが、彼の思考やフォースは堅牢な守りによって閉ざされている。オビ=ワンは視線の凄みを消さないまま、ドゥークーへ問いかけた。

 

「ジャンゴ・フェットという賞金稼ぎを追っていたんだ。知っているか?」

 

「私の知る限り、ここには賞金稼ぎなどおらんよ。ジオノーシアンは利口だ。彼らは賞金稼ぎなどと言う連中を信用しないんだ」

 

「誰だって同じさ。でも奴は確かにここにいるんだ」

 

ジャンゴの船に取り付けたビーコンは間違いなくここを指し示している。おびただしい数の分離主義者達の船が停泊するジオノーシスに、ジャンゴは逃げ込んでいるのだ。

 

ドゥークーはしばらく捕われているオビ=ワンの周りを歩き回りながら、ゆっくりとした口調で口を開いた。

 

「これまで、君と顔を合わせる機会がなかったことが残念でならないよ、オビ=ワン」

 

君と私となら、良き友になれたはずだ。そう切り出したドゥークーに、オビ=ワンは底知れない何かを感じ取った。

 

彼との会話はまさに深い沼に足を取られるような感覚だ。ねっとりとした何かが、オビ=ワンの背後で生温い吐息を吐き、ゆっくりと体を包み込んでいくような……そんな感触がオビ=ワンの意識に入り込んできた。

 

「君のマスターであり、私のパダワンでもあったクワイ=ガンは、いつも君のことを高く評価していたからね。私は彼と共に歩んで行きたかった。彼ならば、今まさに助けになってくれただろうに」

 

「マスタークワイ=ガンが貴様なんぞと手を組むはずがない」

 

「決め付けはよくないぞ、若きジェダイよ。ジェダイの悪い癖だ」

 

頑なにジェダイであろうとするオビ=ワンに、ドゥークーは心からの忠告を送った。そう言った決め付けでジェダイがどれだけのものを取りこぼしてきたのか…。当人達は、取りこぼしているという事実にすら気付こうとしないのがドゥークーにとって憂いる事態だった。

 

「忘れたか?君が彼の弟子であるように、かつて彼は私の弟子だったのだ。彼は元老院の腐敗についてすべてを知っていたよ。私のもつ真実を知れば、それに歯止めをかけてくれただろう」

 

「――真実?」

 

「ああ、そうだ、真実だ」

 

ドゥークーは歩いていた足を止めた。オビ=ワンの目の前で立ち止まり、まっすぐと捕われているオビ=ワンの目を見据える。

 

「たとえば……共和国が、すでにシスの暗黒卿の支配下にあると言ったらどうするかね?」

 

その言葉に、オビ=ワンの目は驚いたように見開いたが、すぐにそれがドゥークーの誘い文句だと切り捨てて、眼光を鋭くさせた。

 

「そんな事はありえない。ジェダイが気付くはずだ」

 

だが、未来は暗黒面に閉ざされて見えていないのだろう?とドゥークーはオビ=ワンの毅然とした声に言葉を返す。

 

かのマスターヨーダですら、今の世界の行先を読み解くことができないのだ。ジェダイがジェダイであろうとすればするほど、見えるべき未来は閉ざされ、未来は暗雲の中に置き去りにされる。

 

「フォースのダークサイドがジェダイの見識を曇らせているのだよ。何百もの議員がすでにシス卿の影響下におかれているのだ。……稀代の暗黒卿、ダース・シディアスのな」

 

ドゥークーはニヤリと笑みを浮かべる。

 

そんな馬鹿な…そんな馬鹿な戯言を信じられるわけがない!!オビ=ワンの中にあるジェダイの思考がそう叫んでいるが、確かに状況を見るだけではドゥークーの言うことにも筋が通っている事も確かだ。

 

「少なくとも、君の友はすでに勘付いているように私は思うがな?ジェダイ・ナイトである、ログ・ドゥーランがね」

 

その言葉がオビ=ワンの何かに触れる。オビ=ワンから見ても、今のログの立ち位置は危うい。評議会からは白い目で見られ、ジェダイ勢力の中でも彼の居場所は極端に少ない。

 

にも関わらず、彼が頑なにジェダイとしてフォースと向き合うのはなぜか。破天荒なマスターであったクワイ=ガンと同じような雰囲気を持つ彼を思い返したオビ=ワンは、言葉を選びながらドゥークーを見つめる。

 

「…信じられんな」

 

「通商連合の総督も、かつてそのダース・シディアスと手を組んでいた。だが彼は暗黒卿に裏切られたのだよ。私に助けを求め、すべてを打ち明けてくれた」

 

そう言い終えてから、ドゥークーは改めてオビ=ワンへ手を差し伸ばした。

 

「君も私の仲間に加わってくれ、オビ=ワン。じきに君のマスターや、友であるドゥーランも〝私の側〟へ来る。そして皆で力を合わせ、シスを滅ぼすのだ!」

 

誘惑。心地の良い言葉がオビ=ワンの中へと入り込んでくる。だが……。

 

「…お前とは組めない、ドゥークー」

 

オビ=ワンは本質的にジェダイだった。ジェダイを裏切り、ドゥークーの本質を見極められないオビ=ワンにとって、彼と手を組むなどという選択肢は最初からありはしないのだ。

 

そう切って捨てたオビ=ワンをドゥークーは残念そうに見つめる。

 

「ならば、残念だ。君をここから解放してやることは難しくなったかもしれんな」

 

そう言い残して、ドゥークーはオビ=ワンが捕われている独房から足早に去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロォグ!!」

 

アナキンの声が聞こえる。

 

彼の母であるシミを救出し、水分農夫であるクリーグ・ラーズの下へと戻った俺たちは、安定し意識を取り戻したシミをクリーグに預けた。

 

しばらくはアナキンを母と二人きりにしようとパドメと共に船に戻った俺は、緊急暗号通信で送られていたオビ=ワンの通信を聞いたのだ。

 

評議会に通信をしたが、俺とアナキンはあくまでアミダラ議員を守ることが任務であると厳命されており、消息を絶ったオビ=ワンを救いにいく事は叶わないと思っていた。

 

『評議会の厳命は私を守ることよ。私はオビ=ワンを助けに行きます。私を守るなら、あなたもついて来なければならないわよ』

 

そう言って率先してジオノーシスに向かうことを決めたパドメに、俺とアナキンは顔を見合わせると笑みを浮かべて彼女に従うことを決断。

 

ラーズ夫妻と家族に見送られながら、俺たちはタトゥイーンを飛び立ってジオノーシスへと向かったのだ。

 

 

 

 

ドロイド製造工場のコンベアから落ちる風に飛び降りた俺は、アナキン達が見えないところまで落下してから腰に備わるワイヤーを使って最寄りの薄暗い場所へと難なく着地する。

 

彼らには心配をかけたが、R2やアナキンがいるのだ。ひとまずは無事だろう。

 

「名演技だったよ、クライアント。だが、ここまでめんどくさい手順を踏む必要があったのか?」

 

そう言って背中のジェットパックを使って下から上がってきたのは、マンダロリアンの装甲を身につけたジャンゴ・フェットだった。

 

「敵を騙すには、まず味方からと言うだろう?首尾は順調か?」

 

俺は着流すように羽織っていた外套を手頃な溶鉱炉へと放り投げてから、手を横へと広げると、ジャンゴもわかっているようにホルスターからブラスターを取り出して、卓越した射撃センスで俺の服の端へ閃光を放ち、焦げ目を作っていく。

 

何発か撃つだけで、激戦の末に捕らえられたジェダイの風貌の出来上がりだった。

 

「ああ、先約のクライアントにもバレてはいない」

 

「上出来だ」

 

次にライトセーバーをジャンゴに渡すと、彼は手際良く俺の手に手錠を嵌め始めた。その動きに寸分の余分な動きはない。すべて〝打ち合わせ〟通りだ。

 

「アンタの予見してた通りになってるな。これは、ジェダイに賭けて正解だったらしい」

 

「うるさいぞ賞金稼ぎ、契約料を伯爵の倍額払ったんだ。仕事はしてもらうぞ」

 

クローンのホストのためにドゥークーがジャンゴへ支払ったのは2000万クレジット。その倍額を超える5000万クレジットで、俺はジャンゴ・フェットを雇ったのだ。

 

彼と出会ったのは偶然という名の必然だ。評議会から言いつけられたドゥークーの内情調査で、ボグデンの月の一つに彼が向かう時期を知れた俺は、調査に出た際にドゥークーとの契約を終えたジャンゴを捕らえたのだ。

 

そのままジェダイ評議会に突き出そうとも考えたが、ジェダイ・テンプルがあるコルサントはすでにパルパティーンの支配下。迂闊にジャンゴを連れ帰っても共に口封じされるか、またはジャンゴが消されるのは明白だ。

 

クローンに関しても、第二のジャンゴにホストの話が行くだけであり、本質的にクローン戦争を止める事は不可能に近い。

 

よって俺はジャンゴを解放する条件として彼と契約を結んだ。

 

まず一つは、ジェダイとドゥークーに悟られないようにクローンのホストの契約を満たす事。次に、俺と会ったことを誰にも公言しないこと。そして最後に俺が指定した場所に再びやってくること。

 

次に俺がジャンゴと再会したのは、ボグデンの月で彼と激闘を繰り広げた5年後のことだった。

 

俺はドゥークーが支払った2000万よりも上である5000万クレジットでジャンゴを雇った。

 

資金源?ジェダイにはそんな金はない?

 

それは潔癖なジェダイであって、俺はそんな高尚なものじゃない。評議会やジェダイの多数から白い目で見られ、関心を集めなかったのが幸いした。

 

調査のたびに、俺は裏社会へと身を隠して潜り込み、賭博やカジノで金を稼いだ。名前も身分も変えながら。フォースを使えばイカサマなどいくらでもやりようはある。だが、連発するのは危険だ。ある程度負けつつ、利益を出す。金を手軽に増やすにはこれに限る。

 

あとはそれを資金源にして、ドゥークーの資金源の調査の際に投資などにも手を出し、短期間で金を増やすことに成功したわけだ。

 

というかジェダイの管理体制のガバガバぶりには驚かされた。そりゃ秘密裏にアナキンとパドメが結婚できるわけだし、ドゥークーの動きも見えないわけだ。せめて個人のクレジット口座くらい管理する体制を作れと突っ込みたくなるほど杜撰の極みであったが、今ではそれが良い隠れ蓑になっているので割愛しよう。

 

「そっちこそ、契約は忘れるなよ?」

 

そう言うジャンゴとの契約は他にもある。事が終われば彼とボバの身柄を保障するというものだ。これに関してはある程度目処は立っている。問題は他にあった。

 

「この先、お互いが生きて切り抜けられたらな」

 

「その点は心配していない」

 

待ち受けているジオノーシスの戦い。マスターウィンドゥに殺される未来が待つ戦いの中で、ジャンゴが生き残れる保証はどこにもなかったが、彼は渋みの効いた声ではっきりと断言する。

 

「アンタは俺より強い。それで充分さ」

 

「ご立派なことで」

 

そう言葉を交わして、俺はジャンゴに捕らえられると牢獄へと押し込められる。ライトセーバーを失ったアナキンと、パドメが同じ牢獄に放り込まれたのは、それからすぐ後のことだった。

 

 

 

 


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