アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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ジオノーシスの戦い 1

 

「メッセージを届けてくれたのかと不安に思いはじめてたところだ」

 

捕らえられたアナキンたちとは別の荷車に乗せられて運ばれたのは、かの有名なジオノーシスの闘技場…あるいは物見場である「ペトラナキ・アリーナ」だった。

 

煤汚れたジェダイの服を着るログは、呆れたように言うオビ=ワンと不満そうなアナキンの間に立つ柱へ鎖で固定されていく。

 

「受信と同時に転送しましたよ、マスター。それで助けに来ることにしたんです」

 

「全く、ドゥーランと一緒にさせておけば大丈夫かと思ってたのだがな」

 

「知らないのですか?ログはマスター・クワイ=ガンより過激な交渉の使い手ですよ」

 

「ああ、それならここの交渉も早く終わりそうだ」

 

好き勝手に言い合う二人の師弟の口喧嘩を聞き流しながら、ログはため息をついてアナキンに語りかけた。

 

「落ち着け、これくらいどうってことはないさ」

 

「これくらい?ああ、そうだな。敵陣のど真ん中で鎖に繋がれて、処刑用のモンスターの前で見せしめに殺されようとしている状況くらい、どうってことはないさ」

 

「野獣の巣穴に落ちた時よりはまだマシだな。明るいし」

 

そう言ってる間に、6本足で鋭い鎌のような爪を持つクリーチャー「アクレイ」や、2組の目を持つ獰猛な肉食獣「ネクスー」、サイのような硬い甲殻を持つ「リーク」といった処刑用のモンスターがジオノージアンによって闘技場へと連れてこられる。

 

なんでも、知覚生命体と猛獣との戦いを観戦する事がジオノージアンにとっての娯楽であり、それを「ペトラナキ」と呼ぶらしいので、アリーナにその名が付いたとか付いてないとか…。

 

「嫌な予感がします」

 

「気持ちを落ち着かせろ、集中するんだ」

 

そこでアナキンはハッと気がついたようにマスターとログへ言葉を投げた。

 

「オビ=ワン!ログ!パドメは…」

 

そう言った先の二人は、アナキンの後ろを茫然とした様子で眺めていて、アナキンも振り返ってみると、パドメはすでに鎖を外して柱の上へと登っていた。

 

「彼女すごいな」

 

「我々も見習うとしよう」

 

絶句するアナキンを他所に、ログとオビ=ワンも頷き合って迫ってくるクリーチャーの一閃を躱す。アクレイが放った鋭い爪の一撃を避けたオビ=ワンは、上手く鎖を切らせて身を脱出させる。

 

アナキンは突進してきたリークの頭突きを避けて背中へ飛び乗る。強靭な外殻から放たれた頭突きは立てられた柱を簡単に押し倒し、ログが囚われている柱ごとなぎ倒された。

 

「げっほげっほ…もっとマシなやり方はなかったのか?」

 

「文句言うなよ、ログ。君はオビ=ワンを」

 

「彼女は任せたぞ」

 

フォースによる疎通でリークを手懐けたアナキンと別れて、ログは手頃な石と千切れた鎖を持って拾ってアクレイに苦戦するオビ=ワンの元へと走ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなはずではないぞ!ジャンゴ!あの女を始末しろ」

 

一方的な殺戮ショーになることを期待していた分離主義連合のヌート・ガンレイ総督は、怒りに身を震わせながら忌々しいナブーの女王へ特徴的なヒダの付いた指を指し示した。

 

だが、ジェダイと処刑用のクリーチャーの乱闘をつまらなさそうに見つめる賞金稼ぎ、ジャンゴ・フェットはガンレイの金切り声を鼻で笑った。

 

「俺のクライアントはお前ではない」

 

「ちぃっ…賞金稼ぎめ…」

 

今にも怒りでどうにかなりそうなガンレイとジャンゴの間に、穏やかな口調でドゥークーが仲裁に入った。

 

「落ち着け、総督。落ち着くんだ。彼女は死ぬよ」

 

彼らに武器は無く、周りにいるのもジオノージアンや処刑用のクリーチャーだ。今は抵抗しているが時間が経てば劣勢になるのは目に見えている。

 

まさに高みの見物だ…と、ガンレイたちはそう思っているだろう。その茶番劇も仕組まれたものだと知っているのはドゥークーだけだ。

 

彼は動き回るオビ=ワンや、アナキン、そしてログの動きを注意深く観察する。それこそがドゥークーが担う役目だったからだ。あの三人は自身のマスターが気にかけるジェダイたちだ。できるなら無傷でこちら側に引き込めれば…。

 

その瞬間、紫色のライトセーバーが煌めく。

 

鋭い眼光を持ったジェダイマスターが、ヘルメットを外したジャンゴ・フェットの首元へライトセーバーの切っ先を振り向けたのだ。

 

「マスター・ウィンドゥ。君が来てくれるとはうれしいよ」

 

ガンレイら、分離主義連合の面々が狼狽る中、ドゥークーは動じなかった。むしろ当然と言えるように笑みを浮かべて、ジェダイ最強の剣士の一人として名高いマスター・ウィンドゥに語りかける。

 

そんなドゥークーを、ウィンドゥは意識を逸らさずに睨みつけた。

 

「パーティは終わりだ」

 

「勇敢だが…愚かだな、かつての友よ。多勢に無勢だ」

 

「そうかな?」

 

挑発する様なウィンドゥの言葉に続くように、アリーナの至るところからライトセーバーの光が迸る。観客に紛れ込んでいたジェダイたちが一斉に立ち上がった。

 

パニックに陥ったジオノージアンたちが飛び立つ中、ドゥークーとウィンドゥの睨み合いが続く。

 

「思い切りがいいな?ジェダイ・オーダーも。だが、多勢に無勢は変わりない」

 

名のあるジェダイたちが総出で攻めてきたというのに、ドゥークーのフォースに揺らめきはない。ウィンドゥがどう攻めるか考えていた時だ。

 

ドゥークーのフォースがわずかに揺らめいた。

 

「どういうつもりかな?ジャンゴ・フェット」

 

ドゥークーの横に控えていたジャンゴがヘルメットを被ってドゥークーの後頭部へ二丁のブラスターを突きつけていたのだ。あくまで声色を変えないドゥークーの質問に、ジャンゴは特に感情のこもっていない声で答える。

 

「ああ、俺は賞金稼ぎ。アンタの他にもクライアントがいて、もうアンタは俺のクライアントではないということさ」

 

「裏切ったのか…!?ジャンゴ!!」

 

「俺はもとよりそう言う存在だ。それ以上でもそれ以下でもないね」

 

ガンレイの怒声のような言葉をもあしらうジャンゴ。形勢は逆転したかと思えたが、すでにドゥークーは手を打っていた。

 

ウィンドゥが歩いてきた通路から無数の無機質の足音が響く。ライトセーバーを閃かせてウィンドゥが振り向くと、そこには新型のバトルドロイドの軍勢が迫っていた。

 

その隙をついて、ドゥークーは銃口を突きつけてきたジャンゴへフォースを叩き込むが、彼もすぐさまジェットパックを使って殺気を帯びたドゥークーから離れる。ドロイドに追い立てられたウィンドゥも続くように観覧席からアリーナへと飛び降りた。

 

そこからすぐに乱闘が始まる。

 

雪崩れ込んでくるバトルドロイドの軍勢を相手取って、少数精鋭のジェダイたちがブラスターを弾き返して反撃していく。

 

ブラスターでドロイドを次々と撃ち抜いていくジャンゴは、ログの側へと飛行すると腰にぶら下げていた彼のライトセーバーを投げ渡した。

 

彼と同等のクローンであるボバは、すでに愛機のスレーブⅠの発進準備を行わせていた。本来ならライトセーバーを渡してずらかる予定ではあったが、これほどの乱闘になれば逃げるのも難しい。

 

腕に備わる火炎放射器でドロイドを丸こげにしながら、二丁からなる鮮やかなブラスター捌きでジャンゴも次々とドロイドを討ち取っていった。

 

「ログ!」

 

「マスター・ウィンドゥ!」

 

乱闘の中で背中合わせになったウィンドゥとログ。二人は似たライトセーバーの型でドロイドを蹴散らしながら息を上げずに会話していた。

 

「お前の破天荒さにはほとほと手を焼かされる」

 

「けれどマスターは来ました。それが全てですよ」

 

クワイ=ガンから報告を受けたときは頭を抱えたものだが、自分がここに乗り込む決断をしたことと、この状況が起こった結果を省みる限り、今まで遠ざけてきた弟子がやってきたことが正しかったことが証明されたようなものだった。

 

紫と青のライトセーバーが交錯し、嵐のようなブラスターのほとんどを撃ち出された出所へと返却していく。

 

「話はこれが片付いてからにしよう。聞きたいこともある」

 

「ええ、ひとまずは賛成です」

 

今はとりあえず敵をどうにかすることだ。二人の師弟は止まっていた足を前へと動かし、ブラスターを跳ね除けながら迫るドロイドの大軍へと突撃していった。

 

「オビ=ワン!」

 

仲間から受け取ったライトセーバーで、ドロイドの攻撃を捌いていたオビ=ワンへ、よく通る声が響く。フォースの揺らめきを感じて振り返ると、鎌を振り上げたアクレイが自身に襲い掛かろうと迫っていた。

 

そんなクリーチャー相手に、ライトセーバーを掲げて挑んだのはオビ=ワンのマスターであり、ドゥークーのパダワンでもあったマスター・クワイ=ガンだった。

 

「マスター!」

 

「蹴散らすぞ!」

 

二人でアクレイを囲みながら飛んでくるブラスターも対処していく。慌ただしい戦いだとクワイ=ガンが思っていると、オビ=ワンは懐かしそうに笑みを浮かべた。

 

「司令船の中よりはマシみたいですね」

 

たしかに、ナブーの戦いよりはマシだな。オビ=ワンの言葉にフォースで応じながら、クワイ=ガンは弟子と協力してアクレイの足を切り落とし、その凶悪で残忍な猛獣へ終止符を打った。

 

アナキンやパドメも敵の乗り物を奪って応戦しており、アリーナの中はブラスターとライトセーバーが蠢くカオスと化していた。

 

「迂闊だぞ、ジェダイ!」

 

ログの背後から迫るドロイドを撃ち抜いたジャンゴ。その援護を受けたログは、何も言わずに手に持っていたライトセーバーをジャンゴの方めがけて刃を出したまま投擲する。

 

ジャンゴは身動ぎせずにライトセーバーを見据えていると、投擲されたライトセーバーはジャンゴのすぐ脇を通り過ぎて彼の背後にいた変形直後のデストロイヤードロイドの胴体を真っ二つに切り裂いた。

 

「迂闊だぞ?賞金稼ぎ」

 

フォースで手繰り寄せたライトセーバーを手に取りながらそう言い返したログ。

 

だが、状況はドゥークーが言ったように多勢に無勢だった。四方をドロイドに囲まれたジェダイ陣営は数で押されてゆき、アリーナの中央へと追い詰められる。

 

もう一息でトドメというところで、ドロイド軍は戦闘を止めた。

 

「マスター・ウィンドゥ!君たちは勇敢に戦った。ジェダイ・オーダーのアーカイブに表される価値があるだろう。だが、ここまでだ。降伏しろ。そうすれば命は助けてやる」

 

最後通告だと言わんばかりに、ドゥークーが高み台から高らかに宣言した。圧倒的に追い詰めてから見せる最後の希望。その悪の誘惑に、ジェダイたちは惑わされなかった。

 

「取引のための人質になるつもりはないぞ、ドゥークー!」

 

ウィンドゥがそう叫ぶと、ドゥークーは残念そうに目を伏せてから、手で合図を送る。銃を下げていたドロイドたちが一斉に攻撃準備へと入った。

 

「それは残念だ、かつての友よ」

 

だが、その攻撃が振り下ろされることはない。ウィンドゥたちが用意した奥の手でも…そして、その場を支配するドゥークーにとっても。

 

パドメが指をさす。

 

空から大いなる力が、翼を得て降り立ってきた。

 

 

 

 

 

 

 


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