アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
「フォースは我らと共にありました、マスター・シディアス」
ジオノーシスからコルサントへ帰還を果たしたドゥークーは、真っ黒なローブを身につける暗黒卿、ダース・シディアスへ頭を垂れる。
「よくぞ戻られた、ティラナス卿。よくやってくれた」
「よい知らせをお持ちしました、閣下。戦争が始まりました」
そう言ってドゥークーが顔を上げると、シディアスはフードの下でニヤリと笑みを浮かべる。ジオノーシスの戦いや、決定的な場面で投入されたクローンの軍勢。そしてその争いの手配をしていたのも、タイミングもすべて、シディアスが主導権を握っていた。
この戦いに挑んだジェダイたちも、ほぼ全てがシディアスの掌で踊る道化と等しい存在となっていた。
「すばらしい。すべて余の計画通りに進んでいるな」
〝ただひとつの例外を除いて〟
シディアスは満足そうに頷きながら、誰にも知られていない場所を歩む。唯一、シディアスが見通せなかった存在は、「ノーバディ」と名乗ったジェダイテンプルガードの存在だった。
あの身のこなし、考えればそれが誰なのかは見当はつくが、そこに至る「過程」をシディアスは見通すことができなかったのだ。
考えが間違っていなければ、ノーバディは自分が知る存在。しかし、彼らは今やフォースの波の中に身を潜めている。見つけ出すのは困難極まりない。
そして、彼らは確実に「ログ・ドゥーラン」と関わりを持っているはずだ。
ジェダイのほぼ全てがシディアスの掌で踊る中、彼だけは自分の前に立って真っ直ぐとこちらを見据えているのだ。
彼の意思はフォースと深く結ばれている。ドゥークーの目論見を上回る一手を打ち、決定的な場面で彼を出し抜いたのだ。
報告によれば、彼を試す為に差し向けたドロイド軍の将軍グリーヴァスも、入手したライトセーバーを全て切り落とされた上に、脚部を切り裂かれ敗走すると言う結果だった。
彼はジェダイの中でも、アナキン・スカイウォーカーと並ぶ別格者だ。シディアスはその事実に笑みを浮かべる。
良いことだ。とても素晴らしいことである。
彼が目を付けた二人は、これから起きる大きな戦いの中で、その潔癖さを汚していくだろう。心を傷つけ、精神に暗い影が差し込んだ時が、シディアスが望むチャンスとなる。
この戦争は長い。やりようはいくらでもある。
その時間を制した時、暗黒面はついに世界を制するのだ。シディアスの笑い声が広いホールの中にこだました。
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「やはり、そのときに現れたテンプルガードはジェダイの者ではないと?」
「テンプルガードがジオノーシスに出た記録はありません。マスターウィンドゥ」
ジェダイ・テンプルスパイアの中で、マスターウィンドゥの質問にオビ=ワンは簡潔に答えた。
ドゥークーとの戦いの中で現れたテンプルガード。その存在は今も謎に包まれており、このジェダイ・テンプルから彼らが出立した記録も残っていない。
となれば、彼らは別の場所を守護する存在か、あるいは別の勢力なのか…。
「…ドゥークー伯爵はシディアスが元老院を支配していると言っていましたが、信じられますか?私には信じられません」
オビ=ワンが悩んでいる理由としては、独房でドゥークーから言われた事もあった。もし仮に元老院がシスの支配下に置かれている場合、カミーノのデータ抹消や、秘密裏に進められていたクローンの製造、そして現れたテンプルガードの存在も深く調べなければならない。
「ダークサイドに与したのじゃ、ドゥークーはな。嘘と欺瞞、疑いを作るのが奴らのやり方じゃ」
「いずれにしても元老院に十分目を光らせておく必要がありますな」
マスターヨーダの言葉にマスターウィンドゥも同意する。
発信源がダークサイドに与した者だとすれば、こちら側を混乱させる思惑もあるのだろう。迂闊に信用するわけにもいかないが、政治面の不透明さもあり、ジェダイとしては常に意識を張り巡らさなければならないことに変わりは無かった。
「アナキンとドゥーランは、引き続きアミダラ議員の護衛でナブーへ向かっています。ドゥーランへの質疑は二人が戻ってからになるかと」
ログがこの十年間の間、水面下で動いていたことや、マスタークワイ=ガンや、マスターキット・フィストーらが調べている情報もある。
ナブー出発前にログが開示したデータを見る限り、クローン戦争の資金源はコルサントを中心にアウターリム・テリトリーを経由して銀河中に循環している。
誰も彼もが他人を疑うようになっているのだ。故にジェダイは自分たちの道を見誤ることが許されない。
マスターウィンドゥは疲れたように息を吐く。
「多くのジェダイが失われる戦いとなったな」
「認めざるを得ませんが、クローンがいなければ勝利はありませんでした」
オビ=ワンの言葉に、マスターヨーダは顔をしかめた。
「勝利じゃと?勝利と言ったのか?オビ=ワン、勝利ではない。ダークサイドのとばりが降りてきたのじゃ」
これから世界は暗い時代へと突入していく。マスターヨーダは揺らめくフォースを感じ取りながら、言葉を紡いだ。
「始まったのじゃよ、クローン戦争がな」
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ナブーの美しい湖畔地帯。
そこにある小さな教会で、アナキン・スカイウォーカーと、パドメ・アミダラの結婚式は行われた。
式と言っても本当に儀式のようなもので、あたりには神父や、アナキンたちが信頼する存在しか立ち会っていない。
その立会人の中に、ログ・ドゥーランはいた。
「これがボガーノへの航路だ。大丈夫さ、まだ共和国にも知られていない惑星だ。身を隠すにはうってつけだろ?」
私服姿のジャンゴへ、俺は「ボガーノ」へ至る航路が入った端末を渡す。
ボガーノは帝国時代になっても発見されない辺境の惑星だ。湿地帯が多い場所であるが、自然が豊富であり、食料も申し分ない。依頼を果たしたジャンゴは、端末をポケットにしまいながら、あえて誘いをかけた。
「お前、俺と共に来ないか?俺たちなら、銀河最強のコンビになれるぞ?」
銀河最高の賞金稼ぎからの誘いに、小さく笑ってしまう。個人的には魅力的な話ではあったが、俺は首を横に振った。
「俺はジェダイだよ、賞金稼ぎ」
「そうだったな」
わかりきってたことだな、とジャンゴは肩をすくめる。そんな彼に、ジオノーシスで契約した金額が入ったケースを渡した。隣にいたボバがケースを受け取ると、偽装したスレーブⅠへと運び込んでいく。
「約束の分だ。残りの依頼の件、頼むぞ?」
そう言った俺の視線の先には、アナキンとパドメの結婚を祝福するシミ・スカイウォーカーや、シミと結婚したラーズ家が、義兄弟の結婚を祝っている光景があった。
ジャンゴに依頼していた件の中には、タトゥイーンから秘密裏にナブーへ彼らを連れてきてほしいと言う依頼もあったのだ。
「俺を誰だと思ってるんだ?」
そう言ってスレーブⅠへ向かうジャンゴ。彼からしたら、民間人を惑星から連れ出すくらい何と言うことは無いのだろう。
式が終われば、彼らをタトゥイーンへ送るまでがジャンゴの仕事となり、そのあとはボガーノへほとぼりが冷めるまで身を隠す手筈となっている。
ジャンゴが去ったあと、俺は湖畔のバルコニーに腰を下ろして結婚式の様子を眺めていた。
穏やかな木漏れ日と、湖畔から舞い上がってくる風の中にいる幸せそうなアナキンとパドメ。
本来なら、彼らを祝福してくれる者は居なかったが、今はアナキンの母や家族がいる。これは確かな繋がりとなっていく。
改めて俺は実感することができた。彼らの行く先をほんの少しでも変えることができたということを。
ふと、裾にしまっていたコムリンクへ通信が届く。コムリンクを起動すると、そこにはジオノーシスでアナキンたちを救った「ジェダイテンプルガード」の服装をした人物が映し出されていた。
《はじまったな、マスター》
仮面越し、そして変声機で変えられたくぐもった声が届く。彼が言うように、テンプルガードの〝変装〟をした男は、十年間の中で俺に仕えてくれる〝弟子〟となった人物だ。
「すまないな、ノーバディ。苦労をかける」
これからが大変だぞ、と伝えると、ノーバディの後ろには同じテンプルガードの服を着た二人の人影が、跪いて頭を下げた。
そうだ。この十年間、俺は何もしてこなかったわけではない。来るクローン戦争の中で、アナキンたちの未来を守る為。フォースの導くままに俺は行動を起こした。
口々に彼らは言う。
《すべては夜明けの為に》
「ああ、フォースの夜明けの為に」
まだ見ぬ未来が、訪れようとしていた―――。
クローン大戦編はこれにて終了となります。
次はシスの復讐から。クローン戦争編は番外編で描いていけたら良いな…。