アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
「時間を巻き戻す能力…か。どう考えます?議長」
巴マミの自室にて話し合いの場を設けた中、まどかの隣に座るほむらがポツリポツリと零すように教えてくれた魔法少女の能力。
過去へと逆行するという普通なら眉唾物の能力について、ログはやや思考の中で考慮した上で、さやかの隣で瞑目するように目を閉じているパルパティーンへ問いかける。
「ログ、君は〝はざまの世界〟というアーティファクトを知っているか?」
ゆっくりと目を開いたパルパティーンの発した言葉に、ログは自身の記憶を辿ってから答える。
「いえ、正確なことは。ジェダイの伝承によれば、はざまの世界では時間や空間的な3次元の事象もすべて物理的な現象によって観測ができるということしか…しかし、それは太古の文献により伝えられてきたことです。現実に存在するのですか?」
「惑星ロザル、そのジェダイ・テンプルの壁に描かれたモーティスの神々の古代壁画がある。
アーティファクトさえあれば、そこからはざまの世界へと干渉することが叶うようだ」
はざまの世界とは神秘的な世界だ。そこは時間と空間をつなぐ道と扉の集合体で、この世のあらゆる瞬間をひとつに結びつけている。
まさに、“全宇宙を支配可能な”空前絶後の力。
パルパティーン自身も昔、その世界に入るための鍵を探してはいた。今では求める必要もない代物となっているが。
「つまり、魔法少女となった彼女の装飾品こそが、その世界へ干渉するアーティファクトと?」
「ある種それに近いものか…いや、限定的なものであろう。はざまの世界は時間と瞬間を引き付け合う世界。必要ならば、過去で起こる事象すらも変異させることが叶う。だが、相応の危険も伴う。変えてしまった事象の影響で時空連結帯が歪みを生じ、その文明や歴史に関わる全てを飲みこみ崩壊させてしまう危険があるぞ?」
故に、その力の行使にはある程度の制約や制限…いわゆるルールを設けなければならない。
「暁美ほむらの能力は限定的…たとえば、指定したポイントへの逆行するというような制限を置くことで過去へのタイムリープを可能にするポータル的な役割を持つのだろう」
「マスター、フォースの力を使えば過去への逆行も可能なのですか?」
隣で難しい言葉をイマイチ理解できていない様子だった美樹さやかが、師となったパルパティーンへと質問する。フォースへの理解が深まったようではないか、とパルパティーンは満足そうにさやかの言葉に頷く。
「いかにもだ、我が弟子よ。フォースの力はあらゆる物に通じているのだ。過去と現在と未来にも等しくフォースは流れ、それは常に惹かれあっておる。フォース感応者が未来を予知できる起源もそこにあるのだ」
そのパルパティーンの言葉はログの隣にいるマミにも一種の希望的な考えを与えることになった。
「じゃあ、そのはざまの世界を上手く使えば過去に魔女になった少女たちを救うことも…」
「結論を出すには問題が多いぞ?パダワンよ」
過去に多くの少女がインキュベーターの囁きによって道を誤り、不適切な手段と方法でフォースのダークサイドの化身にさせられた。その過去を改編すれば、魔女の勢力図を塗り替えることも可能になるだろうが、それでもたらされる結果は多くの危険を孕んでいた。
「議長も言ったように、はざまの世界には常に危険が伴う。たとえばマミが一人の魔法少女を過去から救ったとして、その先の未来にどんな影響が出るかを予測することは不可能だ。下手をすればこの銀河が消滅する事態にもなりかねない」
故に、ほむらのような意識のみの過去への逆行のように制約と制限を設ける必要があった。過去と現在と未来に最も影響を及ぼすことなく、多分岐のマルチバースによる世界の再構築を可能にする。それがほむらの魔法少女としての能力の本質といえるだろう。
「インキュベーターが、このポータルの技術をどのようにして手に入れたのかは疑問だが…調べる必要もあろう。あのような種族に持たせて良い技術ではない」
「そうですね、議長。然る日をもってインキュベーターの母星へ赴く必要があります」
はざまの世界はフォース感応者や歴史的に見ても、あまりにも危険なものであり、安易に使用していいものではない。ましてや、個人の願いや手段として使うなど論外だ。ほむらにポータルを付与したインキュベーターの技術にも目を向ける必要はある。
「その前に、やらねばならぬこともあろう」
パルパティーンの言葉に、全員が唸るように顔をしかめる。それはほむらから伝えられた数日後に訪れる厄災だった。
「ワルプルギスの夜。超ド級の魔女か。噂程度にしかアタシも聞いたことないけど…いったいどれほどの絶望を持って生まれ落ちた存在なのか…」
「その結論自体が早計かもしれんぞ?」
想像のつかない怪物級のダークサイドを見つめる佐倉杏子に、パルパティーンは忠告するように声を紡いだ。
「ダークサイドが濁っているのだ」
パルパティーンの言葉にログは驚いた。ダークサイドもフォースの「ネガティブ」な側面に過ぎない。ライトサイドがその側面によって陰ることはあれど、ダークサイドが覆い隠されることは少ない。それも、パルパティーンの表現が陰りというよりも濁りだということにも。
「彼女は自身の呪いだけで魔女になったわけではあるまい。ダークサイドの化身とは、フォースの側面の結果だ。そこに手を加えることもできよう」
「インキュベーターが謀ったと?」
「左様だ。かの者たちならば、ワルプルギスの夜が生まれた瞬間になんらかの作用を与えることも可能だろう」
パルパティーンの推測と考察は的を射ているように思えた。
感情を無用の長物として切り捨てたインキュベーターなら、魔女化の際に生まれるエネルギー効率を上げるために素質のあった少女に手を加えることも厭わなかっただろう。現に、ほむらが救おうとしているまどかが実例として存在しているように。
「なんて奴らなの…少女の気持ちを弄んで…!!」
マミの噛み締めるような声に、さやかや杏子も共感した様子だった。それをみてパルパティーンはほくそ笑むのをログは横目で見つめる。
まったく、このおじさまは素敵なことを考えてらっしゃる。
パルパティーンの言葉はあくまで〝推測〟であるが真実ではないだろう。ダークサイドの常套句は裏切りと策謀だ。裏切り面が自分の存在によって薄れているとはいえ、パルパティーンの言葉巧みな誘導は健在。見事にマミやさやかたちの思考を誘導し、インキュベーターへの悪感情を高めている。
まぁ、マミもさやかもフォース感応者としての修行を始めたばかりだ。
マミは正義感は強いが、まだまだ心に弱い部分を抱えているし、さやかも同じだろう。それに、さやかは心に巨大なダークサイドを抱えている。二人とも鍛えれば稀代のジェダイやシスに届く素質を持ってはいるが、いかんせん修行する時間が足りない。
パルパティーンの言葉巧みな誘導を行うことで意思や敵意を向ける相手をある程度固定化させることも大事なのだろう。
しかし、魂…いや、フォースの固定化や時間への干渉といい、インキュベーターの行うことは少々度が過ぎたものであることも違いはない。
「それで宇宙の存命など笑わせる。あいつらはフォースの力を侮り、蔑ろにした。その報いを受けさせる」
フォースの流れを見るログがそう呟くと、結論は出たな、とパルパティーンは満足した様子で笑みを浮かべた。それはもう楽しげな…。
すると、今まで沈黙していたほむらが少し体を下げてから全員に向かって深く頭を下げた。
「ごめんなさい…私は…貴方たちを…信じることができなかった」
何度も過去へ逆行し、何度もこの時間を過ごしてきた。今まで存在しなかったフォースという可能性。それにほむらは望みをかけた。浅はかで都合がいい事だとは思う。パルパティーンやログの強さはほむらも身をもって知っていた。そんな偉大な彼らを利用するような真似をした上に、嘘をついていたのだ。
「私は…」
罪悪感と心が軋む感覚にほむらが顔を下げていると、その両肩に温かな手がそっと置かれた。顔を上げる。そこには自分が利用していたはずのパルパティーンとログが真っ直ぐにほむらを見つめていた。
「そなたは強い子だ、暁美ほむら。称賛に値する。かの有能なジェダイマスターであれど、幾年の歴史の繰り返しに挑めば心を暗黒面に染める者もいよう。だが、そなたは高潔な願いと意思で、ダークサイドの誘いを跳ね除け続けた。他ならぬ友を守るためにな」
「君を見つめるフォースは、その行先を示しているぞ、暁美ほむら。君の夜明けはくる。そして、我々はその夜明けを迎えるためにここに呼ばれたのだ。フォースの導きによってな」
二人の力強い言葉は温かなフォースと共にほむらの胸の中に落ちて、穏やかに溶けていく。そして二人の隣からマミとさやかが出てくるとほむらの手を握って言葉を繋いだ。
「暁美さん。貴方の思いを決して無駄にはしないわ。必ず、ワルプルギスの夜を倒して夜明けを迎えましょう」
「ダークサイドの力を身につけたさやかちゃんに任せなさい!どんな敵でも、マスターやドゥーランさんがいれば怖いものなしよ!」
さやかの宗教じみた声に顔をしかめながらも、杏子もワルプルギスの討伐に協力すると頷いた。その様子を見つめながら、パルパティーンは感慨深そうに目を細めた。
「まったく、これまでとはまったく異なるタイプのアプレンティスを迎えてしまったなぁ、ログよ」
「これもこれで新たなフォースの側面ですよ、シディアス卿。愉快愉快、しがない探求者二人旅だ。こう言ったこともご賞味というもんです」
パルパティーンの泣き言に似た声を、抑揚の良い声でログは笑い飛ばした。うむ、これもまた自身のフォースに対する修行修行。
「ならば、示さねばならんな。暗黒面の…いや、フォースの偉大な力を」
「ええ、シディアス卿。あの稚拙な種族に見せつけてやりましょう」
全員の意思を感じ取ったほむらは、瞳を涙で潤ませながら、か細い声で全員へ再び頭を下げて言葉を零す。
「みんな…ありがとう…!!」
ワルプルギスの夜が来るまでもう少し。やるべきことは定まった。ログは立ち上がって弟子たちへ笑みを向けてこう言った。
「では、行こうか。みんな、フォースが共にあらんことを」
さやか「ダークサイドの力を見せてあげるよ…!」
まどか「目がまっ金金!!」
恭介「さ、さやか…?」
さやか「執着することも、独占することも正しいことだったんだ…私、恭介が好き…好き好き好き!!」
恭介「ひえ」
杏子「力こそパワーだよ!!さやか!!」
パルパル「愛弟子のさやかを蔑ろにしたらフォースライトニングな」
恭介「理不尽!!」
ほむら「やっぱり信用してよかったのかしら??」
ログ「こりゃもうわかっんねぇな」
マミ「さやかさんんん!!!」