アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
話をしよう。あれはジオノーシスの戦いから3年後のことだ
19 BBY
コルスカ宙域―――惑星、コルサント。
「楽しくなってきたぞ」
イータ2アクティス級軽インターセプターのコクピットの中で、立派な青年に成長したアナキン・スカイウォーカーはニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
クローン戦争の勃発から3年。
銀河共和国は分離主義者の独立星系連合を相手に善戦し、勝利は目前に迫っていた。
共和国はこの頃アウター・リム・テリトリーへの包囲攻撃を進め、ジェダイ・オーダーのメンバーもまた戦争の終局を予期していた。
そんな中、“シーヴ・パルパティーン”という名で共和国元老院の最高議長を務める傍ら、独立星系連合を影から操っていたシスの暗黒卿ダース・シディアスは、数十年がかりの陰謀の最終段階に着手していた。
シディアスはクローン戦争でジェダイが疲弊するのを待ち、シスが支配する新しい銀河系国家の創設を目論んでいたのだ。
アプレンティスであるドゥークー伯爵が独立星系連合の国家主席として計画に協力していたが、シディアスは年老いた伯爵よりも若くて強力な弟子を求めていた。
シディアスはかねてより目を付けていたジェダイ・ナイトのアナキン・スカイウォーカーと、ログ・ドゥーランを、フォースのダークサイドに引きずりこむため、共和国の首都惑星コルサントを舞台にした茶番を仕組んだのだった。
「マスター、前方にグリーヴァス将軍の船が見えます。ヴァルチャー・ドロイドを連れて徐行している船です」
星空のように広がる無数の光全てが、クローン艦隊と分離主義のドロイド軍の想像を絶する戦いの光だ。
ヴェネター級スターデストロイヤーから放たれるプラズマ砲で分離主義連合の船が爆散するのを避けて、アナキンのマスターであるオビ=ワン・ケノービは、コクピットから前方に浮かぶ巨船《インヴィジブル・ハンド》を見つめた。
「見えるぞ。あれなら侵入は簡単そうだな。オッド・ボール、聞こえるか?」
《聞こえます、レッド・リーダー》
「私の位置をマークしろ。中隊を後方に並べるんだ」
急遽、他惑星からコルサントへ呼び戻されたアナキンとオビ=ワンに課せられた任務は、グリーヴァス将軍によって誘拐された元老院最高議長であるシーヴ・パルパティーンの救出任務だった。
《後尾についています、ケノービ将軍。Sフォイルを攻撃ポジションにセット》
クローン兵たちが乗る170スターファイターは、余剰熱を逃すSフォイルと呼ばれる可変翼を動かしながら、アナキンとオビ=ワンのファイターの後ろへ編隊を組んで配置につく。
インヴィジブル・ハンドから発進したドロイドのファイターが嵐のように襲いかかってくる。その内の数機が、アナキンたちの後ろにいたクローンたちを捉えた。
《襲い掛かってきた!!援護を…!!》
「今援護に向かう!」
「いや、ダメだ。彼らに任せろ。我々も自分の任務を行う」
旋回しようとしたアナキンを止めるオビ=ワン。その物言いにアナキンはわずかにだが嫌悪感を覚える。クローン戦争は、代用が利くクローン兵を大量に投入した戦いだ。
だが、彼らは生きている。命令を聞くしか能がないドロイド兵とは違い、彼らは考えて行動しているのだ。アナキンとこれまで共に戦ってきたクローン兵たちの中にも、情を持つ勇敢な兵士はたくさんいた。
「しかし、見殺しには…」
「任せておけ、アナキン」
そう言って歯を食いしばったアナキンに、通信が入る。すると、オビ=ワンやアナキンのファイターの間を通り抜けるように、一機の黒と赤で塗装されたファイターが飛び去っていき、クローンたちを追い回していたファイターを次々と撃破していく。
機体をくるりと旋回させて、迫るミサイルをマニューバで躱した上に、敵ドロイドと巻き込むように撃ち抜いたファイター。
アナキンでも口笛を吹くほどの操縦センスを持つのは、ジェダイナイトのログ・ドゥーランだった。
「久しぶりだな、ドゥーラン」
「第二次ジオノーシス侵攻作戦以来か。あの件は不味かったな」
ジオノーシスでの戦いの後、ログも銀河の戦場を転戦しており、この戦いには報告のため、クワイ=ガンと共に戻っていたのが幸いし、参加する事ができた。
クワイ=ガンは地上に残り、評議会ともに混乱する場を収めるために奔走しているだろう。
「各機は配置につけ、グリーヴァスの船から敵を引き剥がすぞ」
《了解です、ドゥーラン将軍》
クローン兵に指示を出して、ログもアナキンたちに続いてインヴィジブル・ハンドに向かって前進して行く。
その後、ログはシールドゲートの破壊を忘れていたアナキンのおかげで、自慢のスターファイターの右半分が吹き飛んで格納庫内に不時着することになった。もちろん彼は無事だった。
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《ようこそ、我が船に。ドゥーラン将軍》
あーもう、めんどくさい奴にあったよ。
アナキンたちと共にグリーヴァスの旗艦であるインヴィジブル・ハンドの艦内を探索していたところ、罠にハマって三人で運命のダストシュートへ脱出したのだが、自分だけ出るところが違っていたらしい。
ローブについたゴミを払いながら通路を歩いていると、マグナガードやバトルドロイドを連れてブリッジに向かっていたグリーヴァスと鉢合わせたのだ。
「ああ、歓迎感謝するよ。グリーヴァス将軍」
《ここが貴様の墓場となるのだ》
その台詞を聞いたのは何度目だろうか。
初めてジオノーシスで会った時は、勢い余って達摩にしてしまったが、それからというもの、グリーヴァスとは何度か戦っている。最後に戦ったのは、マスターキットと彼の元パダワンだったナダールと共に、グリーヴァスの根城に入った時だ。
あの時は口の悪いドロイドに身長のことを言われ、勢い余って腰を切り落としてしまったが、彼の底知れぬ逃げ足の速さに追いきれず、これまで逃してしまったわけだ。
懲りない男…もとい、懲りないドロイドだ。
「それはどうかな?議長を返してもらうぞ」
俺はライトセーバーを抜いてグリーヴァスと向き合う。マグナガードがエレクトロスタッフをブンブンしながら近づいてくるが、スタッフの根本を折り返して超至近距離からの一閃で即座に首を落とす。
隣で狼狽えたマグナガードを見逃さずに、ライトセーバーを投擲し、胴と腰を両断。すぐさまフォースでライトセーバーを引き戻し、シャイ=チョーの構えをとる。
《向こうには伯爵がいる。こちらは二人で楽しもうではないか》
マグナガードを相手にしていた隙に、周りはデストロイヤードロイドと、バトルドロイドで溢れかえっていた。これは骨が折れるぞ、と思いながら、フォースを研ぎ澄ましてゆく。
《武器を捨てろ、チビめ》
刹那。
そう言ったリーダークラスのバトルドロイドの上半身が宙に舞い、軍勢の後ろでほくそ笑んでいたグリーヴァスの背後へと火花を散らしながら落ちた。
グリーヴァスはドロイド。人間的な感覚はすでに捨てている。にも関わらず、彼は背筋に冷たい何かを感じていた。幻痛とでもいうのだろうか。ゾワゾワと嫌な感覚がグリーヴァスを苦しめる。
四肢を切り落とされ達摩にされた時も、腰を切り落とされた時も、逃げようとして上から踏みつけられた際にも感じたモノ。
《馬鹿者!奴の身長に触れるな!》
くぐもった声がうわずる。最近になって、それが久しく忘れていた恐怖だとグリーヴァスは気づいていた。
目の前で揺らめくフォースを持つ男が、構えを攻撃的なものへと変化させていくのがわかった。
「ほう、いい度胸だ貴様ら。ここで死んでいけ。足を置いて死ね。俺をチビと言ったやつは漏れなく死んでいけ!!」
あかん。
グリーヴァスはドロイドに足止めを命じて、一目散にブリッジへと逃げ込む。
ログとの戦いでグリーヴァスが培った物。それは逃げるタイミングを見極める目だった。
後ろでは凄まじい溶断音と、ドロイドたちの断末魔が響いていた。