アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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母として、父として、友として。

 

 

 

 

《グリーヴァス将軍。分離主義のリーダーたちをムスタファーへ移動させるがよい》

 

薄暗い部屋の中で、ローブを身につけるシスの暗黒卿、ダース・シディアスは跪くグリーヴァス将軍へ緩やかに手を上げながら、抑揚のついた言葉遣いでそう告げる。

 

《かしこまりました、閣下》

 

《戦争の終わりは近いぞ、将軍》

 

くぐもった声で頭を垂れるグリーヴァスに、シディアスはそう言った。その言葉に、グリーヴァスはどこか違和感を覚える。コルサントの戦いが失敗に終わった以上、分離主義者たちの劣勢は決定的になる一方だ。それに、もっと深刻な問題もある。

 

《しかし、ドゥークー伯爵は依然、行方不明のままです。閣下》

 

ドゥークー伯爵は、何者かに拐われた。それだけは確かな情報としてグリーヴァスは入手していたし、マスターであるシディアスも熟知しているはずだ。

 

今大戦時に何度も邪魔をしてきたジェダイテンプルガードの姿をした「ノーバディ」たち。ダソミアでの手痛い失態と、ノーバディに付けられた顔の傷をサイボーグの手で撫でながら、グリーヴァスは邪魔をした敵に怒りを立ち昇らせて行く。

 

そんなグリーヴァスに、シディアスは落ち着いた口調で告げた。

 

《――彼の犠牲は、必要不可欠だったのだ。だがすぐに新しい弟子が手に入る。はるかに若く、より力強い弟子がな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アニー、赤ちゃんが生まれたらナブーの実家で暮らしたいの」

 

コルサントのアミダラ議員専用のサロンで休むパドメは、ナブーの美しい景色や自然を撮った映像をアナキンに見せながらそう言った。

 

妊娠経過は順調であり、医療設備が整ったコルサントで出産すれば、何ら問題なく過ごすことは可能になる。肩の重い公務を優先していたパドメも、すっかり母親の姿となっていた。

 

「レイク・カントリーに行きましょう?そこなら誰にも分からないし…安全よ。シミお母様にも話はしているし、オーウェンさんも手伝ってくれるって。先に行って子供部屋を用意しておくわ。最適な場所があるの。庭のすぐそばよ」

 

映像をいくつもスクロールしながら、実家のある風景を見つめる。ナブー郊外、湖畔地域から少し離れた田舎町がレイク・カントリーだ。住むには困らない小さな村があるそこに、パドメの実家の屋敷がある。

 

映像の中には、屋敷の掃除を手伝いに来たオーウェンや、ガールフレンドのベルーも映っていて、公務で帰省したパドメたちと楽しげに写っている写真も幾つもある。

 

「…アニー?」

 

そんな映像に視線を向けながらも、アナキンの反応は薄かった。隣に座っていたパドメが視線が定まっていないアナキンの顔を覗き込んだ。

 

ふと、パドメに気がついたアナキンは困ったように笑って肩をすくめる。

 

「え、ああ、大丈夫さ。聞いているよ」

 

「子供が生まれたらどこに住むか、わかる?」

 

「ええ…と…」

 

まったくもう、と言わんばかりにパドメは顔を離して不貞腐れたように座り込む。機嫌を損ねたパドメに許しを乞うように、アナキンは彼女の柔らかな髪に指を通した。ただ、それさえもパドメには、アナキンが何かを誤魔化しているように思えた。

 

「アニー、本当にどうしたの?どこか上の空のように見えるわ」

 

いくつかの言葉の応酬を繰り返した後、しつこく食い下がるパドメに観念したように、アナキンは小さく息をついて、彼女の疑問に応えた。

 

「最近、夢を見るんだ」

 

「悪い夢?」

 

「母さんが傷ついている時によく見た夢に似ている」

 

「聞かせて、アニー」

 

言葉を濁しているアナキンと真っ直ぐに向き合うパドメ。彼はどこか恐れているような仕草をしてから、意を決してパドメに悪夢の正体を告げた。

 

「ログが…君とオビ=ワンを殺す夢だ」

 

恐ろしい夢だった。見るはずのない光景だというのに、あまりにもリアルな感覚にアナキンの手は無意識に震えている。それを察したパドメも、驚愕するように目を見開いていた。

 

「そんな…あり得ないわ」

 

「そうだ、あり得ないんだ…こんな夢を見ることすら…なのに。日に日に不安は大きくなってゆく…僕は…」

 

「アニー、ただの夢よ。そんなバカな話が現実になるわけないわ」

 

パドメも、ログ・ドゥーランという人物をよく知っている。アナキンと共に駆ける立派なジェダイだ。事実、パドメが危機に陥った時も彼はアナキンと共に真っ先にやってきて、自分たちを助け、導いてくれた。

 

他のジェダイには無い、アナキンと似た感性を持っている彼はパドメですら尊敬できる人格者であり、アナキンと自分の心からの友だと言える。

 

そんな彼が、そんな酷いことをするはずがない。あり得ない幻影に震えるアナキンを、パドメは優しく撫でた。

 

「貴方のお母様を救ってくれたのも、私や貴方の命を何度も助けてくれたのも、他ならないログなのよ」

 

母を救ってくれた時も。パドメとの禁断の恋への思いに背中を押してくれたのも。弟子の無実を証明するために共に評議会の決定に抗ってくれたときも。彼はいつでも、アナキンの味方でい続けてくれた。

 

「ああ、実現なんてさせない」

 

だから、そんな未来なんてないんだ。アナキンは震える手をぐっと握りしめる。パドメは優しく自身のお腹を撫でた。

 

「この赤ちゃんは私たちの人生を変えることになる」

 

ログが作ってくれた時間は、二人にとってかけがえの無い時間だった。彼がもたらしてくれた時間が無かったら、パドメもアナキンも、何も自覚も、覚悟も出来なかっただろう。

 

「女王は…私に元老院の仕事を続けさせないと思うわ。評議会もあなたが父親になったことを知ったら、あなたはジェダイから追放――」

 

「それでも構わない」

 

そう言ってアナキンはパドメを抱き寄せた。心からの言葉だ。たとえ、ジェダイから追放されようとも、彼女と、彼女が産む命が共にあるなら、何も怖くは無い。本気でアナキンはそう思えた。

 

「アニー」

 

「ログは言ってたんだ。愛する人を何より優先しろと。彼は常に行動と誠意で、それを僕に示して導いてくれた。だから僕は…」

 

「オビ=ワンは、私たちの力になってくれるかしら?」

 

そう不安そうに言うパドメに、アナキンは優しく笑みを作る。

 

「なってくれるさ。僕のマスターだからね」

 

誰一人として、あんな悪夢のような道にはいかない。アナキンはそう思っている。きっとこの幸せをみんなで分かち合える未来が来ると。

 

その時は、本気で信じていた。

 

だが、フォースの導きは―――

 

 

 

残酷だった。

 

 

 

 

 


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