アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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踏み絵

 

 

 

「二人の評議会への列席は認めるが…しかし、ドゥーランへのマスターの地位を与えることはできない」

 

「は…?」

 

パルパティーン最高議長から、ジェダイと元老院の架け橋として、代理人に選ばれたアナキンとログは、最高議長からの二人のマスターへの昇格の打診を受けて、マスターヨーダや、マスターウィンドゥが並ぶ評議会への召集が掛けられた。

 

その中で、パルパティーンからの打診を受けて出した評議会の結論が、アナキンが声を上げた判断であった。

 

「何ですって?」

 

アナキン・スカイウォーカーとログ・ドゥーランの評議会の参列は認めるが、マスター認定をするのはアナキンだけ。

 

その結論に意を唱えたのは、隣で黙って判断を聞いていたログではなく、アナキンだった。

 

「アナキン、お主はマスターとして相応しい存在となっている。だが、ドゥーランは…」

 

「どういうことですか?ひどい侮辱だ!」

 

アナキンは自分でも驚くほどの感情が制御できずに、その判断を下したマスターたちを見渡しながら怒声をあげる。

 

「ログは素晴らしいジェダイです!僕よりもずっとマスターに相応しい!数えきれない多くの星を救ってきました!なのにマスターじゃない!?そんなことが――」

 

「落ち着け、アナキン」

 

怒りにも似た感覚に苛まれるアナキンの肩を叩いて、ログは落ち着いた顔つきで激情に駆られるアナキンにそう告げる。

 

アナキンも、ログ自身がそう言うならと昂っていた自身の感情をどうにか押さえつけて頭を下げた。

 

「すまない…」

 

そんなアナキンにログは微笑むと、複雑な表情をするマスターヨーダや、マスターウィンドゥに一礼し、毅然とした態度で判断を受け取った。

 

「マスターヨーダの言い分も、自分は分かっています。しかし、私にとってジェダイは全てです」

 

「分かっておる…席に着きたまえ、マスター・スカイウォーカー、ジェダイナイト・ドゥーラン」

 

そう言って空いてる席へ促すマスターヨーダに従い、ログとアナキンは評議会の席へと腰を下ろすが、真正面にいるオビ=ワンから見たら、アナキンは全く納得した様子には見えなかった。

 

「では、これより評議会を始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスターヨーダが大隊を連れてキャッシークへ赴くことが決定した評議会の後、マスターウィンドゥから残るように言われたログを残して、アナキンとオビ=ワンは、長く続くジェダイ・テンプルの通路を歩んでいた。

 

「こんな馬鹿な話がありますか?」

 

マスタークラスとなった弟子の放った一言は、とても不満げで怒りすら覚える感情がこもった声であった。

 

「評議会のメンバーにしておいて、マスターにはしない?ジェダイの歴史に前例がありません。これはログへの侮辱だ!」

 

やれやれ、戦時中の特殊な事例でなければ反対していたところだとオビ=ワンは内心思いながら、感情を荒立てるアナキンを見つめる。

 

「落ち着け、アナキン。大変な名誉だぞ?」

 

そう言ったオビ=ワンは、穏やかな笑みを浮かべたまま、アナキンを宥めるように言葉を選びながら彼に語りかける。

 

「お前の歳でマスターで、ドゥーランも共に評議員なんて、それこそ前例がない」

 

「僕は納得できませんよ」

 

そう即答するアナキンに、オビ=ワンは驚いた。少なからず、マスタークラスになることを望んでいたアナキンが、こうも不満をあらわにするとは。オビ=ワンから見ても、アナキンとログはマスターに相応しい充分な活躍をし、多くの銀河に光と平和をもたらしてきた。

 

アナキンもまだ精神的に鍛錬を積む必要はあるが、彼がマスターになれないのは何故かと嘆くたびに、ログは言った。

 

〝ジェダイ・マスターというのは、戦いの功績や力の強さで認められるものではない。フォースと深く繋がり、正しき知性と正しき精神をあわせ持ったジェダイが得られる称号だ〟

 

その度に、アナキンは感情的になっているところを指摘され、時には言葉を失い、時には感情的になってログと言い合いになったりと手を焼かされたものだ。

 

そんなアナキンが、自分のマスターへの昇格よりも、ログがナイトのままという結果に怒りを露わにするとは。

 

オビ=ワンも、評議会の内情を知るが故に、アナキンにかける慰めの言葉を言う権利は無かった。

 

「…実のところ、彼はこの戦争の裏側に関わりすぎているという噂もある。議長が、お前とドゥーランを通じて、ジェダイの問題に干渉しているだけに、評議会はそれを好ましいと思っていないんだ」

 

「ログが?」

 

そう言って疑問の目を向けるアナキンに、オビ=ワンは頷く。

 

「ジオノーシスの戦いで、彼は秘密裏に賞金稼ぎを雇っていた。結果的に事態は前向きに動いていたが、一歩間違えればとんでもない事態になっていただろう」

 

あの一件以来、その賞金稼ぎ『ジャンゴ・フェット』も行方不明。一説にはジオノーシスの戦いで戦死したとも言われているが、真相は闇の中だ。だが、オビ=ワンは彼の船がジオノーシスから飛び立ったことを知っている。

 

そしてアナキンも…。

 

「それだけではない。戦時中に現れた無銘のジェダイテンプルガードの存在。生きていたモールやシスの暗殺者であったヴェントレスとも、何らかの通じるものがあると評議会は考えている」

 

クローン戦争の中で現れた暗黒面の使い手を名乗るモールや、その仲間。そしてドゥークーが差し向けた暗殺者であるアサージ・ヴェントレスの存在も、不可思議な点が多い。

 

彼らは決定的なチャンスが訪れる時に、それに手を出さず、鮮やかともいえる撤退を行っているのだ。まるで、こちらと戦っている姿が幻影に見えるような行動。

 

そして、それに似た感覚をオビ=ワンは『ノーバディ』と呼ばれるジェダイテンプルガードの姿をした謎の存在にも感じることがあった。

 

この矛盾点が何らかの関係を持っている可能性は高い。それを危惧して、評議会はログのマスター昇格を頑なに認めなかったのだろう。

 

「ドゥーランが、暗黒面のスパイとでも言うのですか?」

 

「だからこそ、彼に議長の行動に関する全ての報告を求めるんだ。評議会はパルパティーン議長の思惑を、知りたがっている」

 

最近のコルサントの動きの不審さも増している中、ジェダイの問題に口を出しつつあるパルパティーンへの警戒も強まっている。彼がアナキンと、そしてログを指名したことは、評議会にとっても好都合と言えた。

 

アナキンはそこで理解した。

 

これは、ログに課せられたジェダイからの踏み絵なのだと。

 

「だから、ログをマスターにせずスパイに仕立て上げようと言うのですか!?それは、彼に対しての裏切りですよ!!」

 

「これは記録に残せない任務だ。アナキン」

 

「議長もログも悪い人じゃありませんよ、オビ=ワン!わかっているでしょう?!彼は…彼らは親切にしてくれました。僕がここに来たときからずっと助けてくれてたんです」

 

パルパティーンも、ログも、ジェダイとしてのアナキンを支えてくれた恩人だ。パルパティーンは祖父のように多くのことを聞き、そして教えてくれた。ログは親友として、パドメや自分のことを後押しし、導いてくれたのだ。

 

アナキンは、そんな二人を探るような真似を是とするジェダイ評議会に、軽い絶望と失望、軽蔑の念を覚える。スッと彼の目が鋭くなると、アナキンはオビ=ワンを見つめながら言葉を放った。

 

「マスター。貴方は…貴方たちは、ジェダイの規範に反することをログに求めています。共和国の在り方に反することをね」

 

共和国とは調停と平等をもたらす機関だと言うのに、その根幹を疑う行為をジェダイが行うなど、あってはならないことだ。そして何よりも、アナキンはオビ=ワンがログをそう言う目で見ていると言うことが気に食わなかった。

 

「友人でもある人への裏切りです。それこそおかしいでしょう…なぜそんなことを求めるんですか?」

 

そう問いかけるアナキンに対して、オビ=ワンはひとつ息を置いてから、簡潔に答える。

 

「――評議会が求めるからだよ、アナキン」

 

それは、オビ=ワンが考えることをやめていることの証明のようにアナキンには思えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 


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