アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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シスとジェダイと傍観者と

 

 

 

 

「嫌な予感がします、マスター」

 

トランスポーターとヴェネター級スターデストロイヤーが鎮座するターミナル。そこへ繋がる通路で、オビ=ワンと共に任務に出ることになったアナキンは、疲れた様子でそっと呟いた。

 

「ウータパウの任務。きっと骨が折れますよ」

 

アナキンが議長にオペラハウスへ呼び出された際に入手した情報では、ウータパウの議長からの外交連絡の中で断片的なメッセージが傍受されたことが明らかになった。

 

評議会は、コルサントの戦いから逃亡したグリーヴァス将軍率いる分離主義派がウータパウに潜んでいると断定し、交渉人として名高いオビ=ワン、そして荒事に対処できるアナキンを選抜し、二人をウータパウに送ることを決定したのだ。

 

「そうかもしれんな。だが、野生のバンサを追うようなことにもなりかねん」

 

「ジオノージアンに意味不明な寄生虫を植え付けられることに比べたら、まだ気分はマシだろう?」

 

「言えてるな」

 

見送りにと、二人と共に歩んでいるのはログだ。彼は引き続き、議長の代理人として任務に就く。心苦しいことだが、グリーヴァスを捕らえれば戦局は終結し、彼への扱いや不透明な任務が解かれることをアナキンたちは信じていた。

 

「マスター・スカイウォーカー。共に戦えるのは心強い」

 

トランスポーターへの入り口の前で、オビ=ワンは改めてマスターとなったアナキンへ笑みを送った。オビ=ワンは調和や調停を結ぶ交渉人としての任務は得意であるが、荒事になると後手に回ることが多い。飛ぶことなんてもっと苦手だ。アナキンが付いてきてくれるのは心から頼りになる。

 

そう言うオビ=ワンに、アナキンは驚いた様子で、頭を下げる。

 

「やめてください、マスター。僕はあなたを失望させてばかりでした」

 

マスターからの素直な称賛に慣れていないアナキンは、顔を陰らせながら本心からの言葉を紡いだ。

 

「教えをうまく理解できず、傲慢になっていました。申し訳ありません」

 

「おまえは強くて賢いよ、アナキン。おまえは私の誇りだ」

 

そう言ってくれる弟子の成長に満足したように、オビ=ワンはそっとアナキンの肩へ手を置く。小さな少年だったころからオビ=ワンはアナキンを訓練してきた。知るすべてを授けたつもりだ。

 

「おまえは私が望むよりはるかに偉大なジェダイになってくれた」

 

「光栄です、マスター」

 

「さて。私からの教えは終わりだ、マスター・スカイウォーカー。留守は任せるぞ、ログ」

 

トランスポーターとヴェネター級スターデストロイヤーの準備は整っている。タラップを降りていく二人を見送るログは、見下ろしながらオビ=ワンへ答えた。

 

「ああ、終戦祝いを万全に準備しておくさ」

 

頼むよ、と言うオビ=ワンの隣にいるアナキンの顔はどこか優れないように見えた。見送ってくれるログを見つめながら、アナキンのフォースは少しだけ鋭さを帯びてゆく。

 

「大丈夫だ、アナキン」

 

それを察したようにログはアナキンを見た。オビ=ワンの視線も加わり、僅かに狼狽えるアナキンを見つめながら、ログは言葉をかけた。

 

「お前はオビ=ワンのサポートを頼む。グリーヴァスを討てば戦争は終わりに近づく。将軍を失えば、分離主義者も対話のテーブルに着くしかなくなるさ」

 

「そうだな。あとは、議員の仕事になる。我々もやっと休暇が取れそうだ」

 

この戦争は長く続き過ぎた。失われた命も多く、失ったジェダイも多い。銀河中が深く傷ついている。二人が背負う責任も大きいが、それよりもこの戦争を終結させられると思えるなら、なんてことはない。

 

戦いさえ終われば、亡くなった者たちの鎮魂と安らぎを約束して、しばらくは修行に打ち込みたいよとオビ=ワンが呟いた。

 

「アナキン、オビ=ワン」

 

そんな二人をログは呼び止める。深くフォースを研ぎ澄ましながら、ログは二人へ告げた。

 

「フォースが共にあらんことを」

 

「さらばだ、古き友よ。フォースと共に」

 

その言葉を交わして、オビ=ワンたちはヴェネター級スターデストロイヤーへ乗り込んでゆく。ログは、飛び立ってゆくクローン船団をただ黙って見上げているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキンと入れ替わる形で代理人の仕事を受け持つことになった。あの日に二人と別れてから何度も議長と顔を合わせる日々が続いている。

 

今日も、ウータパウにてグリーヴァス将軍を見つけたアナキンたちが交戦を開始した報告をするためにパルパティーンの執務室へとやってきていた。

 

本当ならば、あの身長disりドロイドの四肢をぶった切って引導を渡したいところであるが、アナキンたちがその思いを成就させてくれることだろう。

 

そう。

 

アナキンがオビ=ワンと共にウータパウに向かったのだ。

 

「議長、マスター・ケノービとマスター・スカイウォーカーの報告を受け取りました。グリーヴァス将軍と交戦中とのことです」

 

至極、心を穏やかに議長にそう告げる。アナキンが認められ、オビ=ワンと共に行くことを命じられた段階で必要条件は大まかにクリアしていることになる。

 

アナキンとパルパティーンを引き離せたことと、彼の中にある師への疑心感を払拭できただけでも上々の成果だ。

 

その報告に、パルパティーン議長はその表情を変えずにゆっくりと頷いた。

 

「我々はただ二人が勝ってくれることを願うだけだ」

 

「彼らは強いですよ、議長。なんの問題もありません」

 

張り付く笑顔でそう答えると、パルパティーンは深くため息をつきながら議長の座席から立ちあがると、こちらに向かって歩み寄ってくる。表情と感覚は崩さなかったが、心にあった警戒心の線が震えるのがわかる。

 

「ログ。君の才能をろくに評価できないような評議会にはまったく腹立たしい限りだ。なぜ彼らが君をジェダイ・マスターに昇格させなかったのか分かるかね?」

 

「さぁ。私のジェダイとしての素質不足かと」

 

「違う。まったくもって違うぞ、ログ。彼らは君を信用していないのだよ。彼らは君の未来を見ているのだ」

 

そう言って、パルパティーンは下からこちらを覗き見るような目で見てきた。明るく、人のいい顔つきをしながらも、仄暗い水の底のような冷たさを感じる目だ。

 

「君の力が制御できないほどに強くなることを彼らは知っている。ジェダイが君の周りに作り上げた欺瞞の霧から抜け出すんだ。私にフォースの繊細さを知るための手伝いをさせてくれ」

 

暗黒面がざわつく。フォースに揺らめきが起こった。彼は勝負を仕掛けつつある。その兆候を彼自身が示し始めた。

 

「議長…」

 

「ダース・プレイガス…我が師がフォースに関するすべてを教えてくれたのだよ。ダークサイドの本質についてもね」

 

彼は気づいている。

 

〝私〟の変化に。ログ・ドゥーランの異変に。

 

「君は知っているのだろう?私の正体を」

 

そう言葉を発した瞬間。ログの顔に張り付いていた人当たりの良い笑顔が消えた。いつから気がついたのか…そんな無粋なことは聞かない。きっと最初から気がついていたのだろう。

 

彼がナブーで初めてログと会った時から。彼が最高議長となってからずっと、彼は気がついていたのだ。パルパティーンがシスの暗黒卿であるという真実に気がついていることを、パルパティーンは感覚的に理解していた。

 

「大いなる謎を理解するためには、ジェダイのような独断的で狭い視野ではなく、あらゆる側面を理解しなければならない。現に君はそうしてきた」

 

最初はフォースに触れるだけで満足していた。ライトセーバーを振り回すことだけに人生を捧げていたのなら、また違う世界に至れたかもしれない。ジェダイなんていう鎖に繋がっていなければ、もっと違う価値観を持って、この世界で生を謳歌していたのかもしれない。

 

だが、ログは出会ってしまった。

 

アナキンやパドメ。オビ=ワンやクワイ=ガンなど、自分が心から大切だと思える人たち。映画の中の登場人物では言い表せない思いを持つ人たちに。

 

その柔らかいところへ、パルパティーンは手を突き刺してゆく。

 

「完璧で賢明。君が望む終着点はそこにある。君がモールやヴェントレスを引き入れたことに関しても辻褄は合うだろう。だが、それでは足りん」

 

全てを知っていると言わんばかりの顔で、彼はいう。

 

「その力を授けることができるのは私だけだ。フォースのダークサイドを学びなさい、ログ」

 

そうすれば君の愛する者たちを確実な死から救うことができるようになる、と。

 

ふと、彼の後ろで青いライトセーバーが立ち上った。振り返ると、ログが懐からライトセーバーを取り出して起動させているのがわかった。

 

「聞きなさい、ログ。ジェダイであることに迷うことはやめるんだ。私と知り合って以来、君は平凡なジェダイの人生ではなく、より大いなる未来を求めていた」

 

パルパティーンは立ち昇るライトセーバーに臆することなく、一歩、また一歩とログの元へと歩み寄りながら言葉を紡いだ。

 

「それとも私を殺してこそ、その大いなる未来に繋がるのかね?」

 

そしてついに、彼の前に立つとパルパティーンは笑みを浮かべたまま問いかける。探りを入れる。彼が何を心から思っているのかを聞き出す腹づもりだ。抜き出す情報を抜き出し、相手を出し抜く。それは、シスの手段の一つだ。

 

だからこそ、ログは単刀直入にパルパティーンの思惑に答える。

 

「あんたを殺しても、意味がないことくらい〝知っている〟」

 

「ほう、興味深いことを言うな?それは何故かね?」

 

「アンタを殺しても…いや、アンタがいなくなっても、共和国は近いうちに終わるからだ」

 

そう言って、ログはライトセーバーを仕舞い、懐へ納めた。その言葉は真実であり、事実だ。パルパティーンはログの言葉を黙って聞いている。

 

シーヴ・パルパティーンの計画はすでに完成している。このクローン戦争で共和国もジェダイも消耗しすぎた。いや、それ以前に誰も彼もが、何もかも信じられずにいる。

 

「アンタが居なくなっても、ジェダイは滅ぶ。その道は変えられない。…アンタはすでに勝負に勝っている。相手がそれを認めるのを待っているだけだ」

 

まさに玉座に腰掛け、戦いの結果を聞くだけの王だ。戦うジェダイの全てが、パルパティーンの駒に過ぎない。たとえ反旗を翻されようとも、暗殺されたとしても、この玉座に座れるものは他にいない。

 

「故に、私を殺しても問題はないだろう?そのライトセーバーを私の胸に突き立てれば、ほんの僅かな時間であっても共和国とジェダイを存えさせることができるぞ?」

 

「それが多くの人を救うことや、俺の思う未来を切り開くとは思えない」

 

パルパティーンの疑問に、ログは即答する。たとえ、彼をここで殺したとしても、未来を変えることはできない。結局、バランスをもたらすための戦いは避けられないのだ。

 

それに、ログにはもう一つの確信があった。

 

「なにより、アンタは死にたがっている」

 

その言葉を聞いて、パルパティーンは仄暗い水の底のようだった目を見開いた。ログはライトセーバーを収めると、彼の周りを歩き回りながら、まるで猛禽類のような鋭い視線とフォースを纏っていく。

 

「ずっと疑問だった。アンタは何度も勝利を手にするチャンスがあったはずだ。それこそ、クローン戦争が始まる前でも、始まった直後でも」

 

勝つチャンスもタイミングもいくらでもあったと言うのに、彼は頑なに忍耐でそれに耐えた。アナキンや自分をダークサイドに引き入れる思惑があるとは言え、勝利し、ジェダイを抹殺し、銀河帝国の皇帝となるだけならば、手段など選ばずとも成り得る力を、彼はすでに有しているはずなのに。

 

「アンタはシスの暗黒卿でありながら、心の奥底でシスの支配欲すら凌駕する探究心を持っている」

 

パルパティーンは、支配なんて微塵も興味がない。のちの銀河帝国時代でも、彼は治世や外交手段のほぼ全てをターキンやダース・ヴェイダーに任せており、フォースの根元を知るために歩みを進める探究者を優先しているのが、彼の在り方である根元の証拠だ。

 

「そしていつかは、自分が『ダース・プレイガス』になり、自分を超える弟子が自分を殺して、更なる英知に歩みを進めることを夢見ている」

 

大いなる知識と力を持った者に討たれること。それは新たなシスの誕生であり、絶対的に揺らぐことのない最高の力を持つ者の誕生を意味する。パルパティーンは――その瞬間を楽しみにしているのだ。

 

「アンタはとっくに、自分の死を受け入れている。生きていることに興味なんてないのさ。ただ、その死に意味を持たせたがってるだけなんだ」

 

アナキンの時も。

 

ルークの時も。

 

そして…その先の物語でも。

 

彼の局面は、自身を凌駕する存在への期待と、それに裏切られた落胆と、自身のフォースへの探究心を満たすことの繰り返しだ。

 

ログの言葉の数々にパルパティーンは驚いた様子を見せたが、次第にその表情には笑みが刻み込まれてゆく。それは「最高議長パルパティーン」ではなく、シスの本質を行くパルパティーン自身の笑みだ。

 

「…面白い。やはり、君は素晴らしい。私が見込んだ通りだ。だからこそ君が欲しい」

 

ウータパウにアナキンが師と向かった段階で答えは出ていた。そして今の言葉の数々でも。自身の夢、自身の思惑、そしてシスの知識と力を引き継ぐには、ログが相応しい。パルパティーンは手を煙のように上げて、迎え入れるようにログへ差し出す。

 

「君に足りない知識を私が与えよう。シスの知識をつけ、叡智を知り、そして私を殺すのだ。私が師にした時と同じように」

 

パルパティーンの言葉は暗く、広く、そして闇の中で響く言葉だった。ログはしばし彼を見つめると、視線を鋭くしてパルパティーンの声に応えた。

 

「残念だが、俺は師を殺す弟子にはなれない」

 

「何、私は辛抱強くてね。待つには自信がある。だが予言しよう。君は必ず私の側へと来る。ジェダイを滅ぼして…な」

 

そう笑みを浮かべるパルパティーンの瞳は、黄金色に輝いてた。

 

 

 

 

 

 


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