アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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シスの復活 1

 

 

それが起こったのはジェダイ・テンプルに戻ってきた時だった。

 

「なんのつもりだ?」

 

テンプルに入ってからただならないフォースの揺らめきを感じ取っていたが、人目のつかない通路に差し掛かった途端、柱の陰から何人ものジェダイが姿を現し、周りを取り囲んだのだ。

 

「とぼけるな。シスの手先め」

 

そう吐き捨てたのは、グリーヴァスの根城で命を助けたはずのナダールだった。多くのジェダイが起動させていないライトセーバーを片手に、こちらを睨みつけている。

 

「ジェダイナイト、ドゥーラン。非常に残念だ。残念でならない」

 

その取り囲む彼らを分けるように現れたのは、師であるはずのメイス・ウィンドゥだった。彼はゆっくりとこちらに歩み寄ると、ジェダイローブの一部に手を差し込み、そこから小型の機器を抜き取る。

 

それは、小さな形をしていたが、明らかに盗聴器の類だった。

 

「君とシス卿の会話は全て聞かせてもらった。残念だが、貴様たちの好きにはさせん」

 

それを手で弄びながら、彼ははっきりとした目つきでこちらを見据えている。そんな状況に陥っているというのに、自分の体を流れるフォースは至って正常そのものだった。

 

「マスター。ドゥーランのライトセーバーです」

 

「ありがとう、ナダール」

 

ナダールが抜き取ったライトセーバーを受け取るのは、ウィンドゥと共にやってきていた友であるはずのキット・フィストーだ。少なくともマスタークラスが四人、こちらを囲むのもクローン戦争で名を上げたジェダイナイトだ。

 

ウィンドゥはしばらく値踏みするような目つきでこちらをなじるように見つめてから、小さく息を吐いて言葉を続ける。

 

「ログ。議長…いや、シスとのケリが付くまではお前を拘束する。理由は言わなくても分かるな?」

 

「彼をどうするつもりなのですか、マスターウィンドゥ」

 

彼の言葉を待たずに、自然と言葉が溢れる。こちらの発言はまるで聞こえていないような素振りをするウィンドゥは、マスタークラスを連れて自分が歩いてきた反対方向へと歩み出した。

 

「答えろ。彼をどうするつもりだ」

 

今度は語気を強めて問いかける。盗聴器がローブに仕掛けられているなど、百も承知だった。彼らがこのような手段に出ることも、心のどこかで予感はしていた。

 

だが、ウィンドゥに問いかける言葉は、それよりも重要なことだった。彼の思う言葉と、議長に対する処遇次第で、共和国とジェダイの行く道は大きく変わることになる。

 

「…連れて行け」

 

だが、彼は答えることはなかった。こちらを見ずに放たれた言葉に、重い何かで頭を叩かれたような気になる。脳が痺れ、思考が膠着する。

 

「さぁ、早く歩け。裏切り者め」

 

気がつくと幾人のジェダイナイトがこちらを囲み、ジェダイテンプルガードらと共に、自分を牢獄へと連行していく。

 

「ナダール。これから何が起こると思う?」

 

拘束すらされない中で、先頭を歩くナダールへ問いかけた。

 

「シスは滅ぼされ、クローン戦争は終わり、世界は平和になるんだ。そしてそれは、お前が見る世界じゃない」

 

「シスを倒せば、世界は平和になるのか?」

 

「そのために僕たちは戦ってきた」

 

「違うぞ、ナダール。戦争は終わりなんかじゃない。わからないのか?消費されてきたクローン兵を持て余すことになったら?力を示し過ぎたジェダイを元老院が元の枠組みに戻すと、本気で思っているのか?」

 

答えは全てノーだ。戦争は終わらない。ドゥークーが言ったように、これは「始まり」に過ぎない。

 

仮に、ジェダイがシスを殺したら?パルパティーンという中枢を失った元老院が何をするか。消費されなくなったクローン兵。漬かり切った戦争経済の停滞による政治不安。

 

シスやジェダイなどいうよりも先に、世界が破滅に向かうことなど、少し考えれば誰にでも分かることだ。

 

「黙れ、シスの戯言など」

 

その思考停止な言葉に、ついに我慢が限界を迎えた。前を歩く彼の肩に咄嗟に手を伸ばし、声を荒げる。

 

「答えろ、ナダール!」

 

「黙れと言っているんだ!」

 

振り返ったナダールの手には、ブレードが起動したライトセーバーが握られていた。周りにいたジェダイたちもライトセーバーを起動し、ジリジリと自分の周りを取り囲んでゆく。

 

どうやら、脅しではないようだ。

 

フォースの揺らめきを感じ取りながら、〝私〟は落胆に似た息をついて、ナダールを見据える。

 

「そこまで腐っていたか…愚か者たちが」

 

裾から降りてきた〝ライトセーバー〟を握ると、そこから黄色の閃光が立ち昇る。

 

ギョッとしたナダールの背後。

 

彼らを護衛していたジェダイテンプルガードたちも黄色ライトセーバーを煌めかせる。援護に加わるのか?ナダールがそう思った矢先。

 

ひとりのジェダイがテンプルガードに切り殺された。

 

「すべては、フォースの夜明けのために」

 

人目がないテンプルの一角で、黄色と青のライトセーバーがぶつかり合い、やがて音は聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁマスター・ウィンドゥ。ついにグリーヴァス将軍が倒されたそうだね。それにしてもずいぶんと早いご到着だな」

 

とても気分が良かった。

 

現れた数人のマスタークラスのジェダイがこちらを見ているというのに、ひどく気持ちは穏やかで、まるで深い森林の中にいるような心地よさすら感じる。

 

「共和国銀河元老院の名において、議長。あなたを逮捕する」

 

その言葉が、すべてを物語る。全てが思うように動き始めた。ドゥークーや自分が始めた企みの「火」が、やっと彼らの背中に燃え広がった。すべてが、思い浮かべたイメージ通りに進んでゆく。

 

パルパティーンは不自然なまでに笑みを浮かべていた。

 

「…私を脅迫するつもりかね、マスター・ジェダイ?」

 

「貴様の運命は元老院が決める」

 

「残念だが、元老院はこの私だ」

 

そう淡々と答えると、彼らは有無を言わずにライトセーバーを抜いた。やれやれ、ゆっくりと会話する思考すら放棄したか。呆れたものだな。そう思いながらパルパティーンは呼応するように豪勢な席から立ち上がる。

 

「もう違うぞ、シスの暗黒卿め」

 

「では、反逆だな?」

 

返答のない答えに、パルパティーンは笑みを浮かべながら、袖に隠していた赤いライトセーバーを引き抜く。

 

もうすぐだ。

 

もうすぐ、私のシスとしての願いは成就される。この戦いが、それに至るための試練だと言うのならば、私は歓喜してその試練に挑もう。

 

フォースの力を借りて飛翔したパルパティーンは、剣を構えた思考停止者たちへ、自身の刃を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 


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