アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
「ログ!助けてくれ!ジェダイの反乱だ!」
パルパティーンの執務室に到着した時には、もう何もかもが手遅れのように思えた。
紫色のライトセーバーの切っ先を、無様にも這いつくばっているパルパティーンに突き付けながら、自分の師であった男は声高らかに宣言した。
「この場限りで終止符を打つぞ、シスめ!!」
「マスターウィンドゥ!」
俺はこの状況下でも、まだ希望を持っていたのかもしれない。自身のライトセーバーをフォースで手繰り寄せ、それと一体となって跳ね上がった体は議長とマスターウィンドゥの間へと滑り込む。
「貴様の言葉は聞かんぞ、ドゥーラン!」
「俺を逮捕しようが、処罰しようが、処刑しようが好きにすればいい!だが、彼とは然るべき場で言葉を交わすべきだ!!」
青と紫。師と全く同じ型を使って剣戟を交わす。背後にいるパルパティーンがニヤリと笑みを浮かべる。ああ、そうとも。すべてはもう手遅れだと分かっている。だが、それでも…!!
「元老院も法廷もこの男の意のままだ。生かしておくにはあまりにも危険すぎる!」
「そうやって視野を狭くして殺すというのですか!では、彼の意のままになる元老院や法廷はどうするのですか!」
共和国の腐敗はもはや致命的だ。だが、それでも彼らは民意と選挙によって選ばれた者たちだ。そんな彼らを「シスの息が掛かった者たち」と言ってジェダイが断罪すればどうなるか。つば競り合う閃光の向こうにいるマスターにはわかっているはずだ。
「元老院は納得しません!ジェダイと共和国での内乱になります!!取り消すべきだ!!」
「シスは邪悪の権化だ!ここで滅さなければならない!」
それでも、ジェダイとしての指針を揺るがさないウィンドゥとの戦いに、苛立ちと怒りが募ってゆく。このまま進んでゆけば、クローン戦争すら霞むほどの戦乱が来るというのに、その未来さえ見ずに、彼はライトセーバーを振るっている。
思考停止なんて言葉では収まらない。
未来を見つめるジェダイが…笑わせるッ!!
「多くの血が流れることになるんだぞ!ウィンドゥ!」
俺の叫びに、マスターもまた暗黒面の縁に立った中で答えた。
「シスを倒せばその未来は回避される!」
愕然とする。
その盲目的なシスとジェダイの関係に固執した言葉が、〝私〟の心を掻き毟る。
愚かしい言葉の応酬。
その全てが暗い霧へ覆われていく。
「この愚か者が!!」
ライトセーバーから片手を離して、稲妻が轟く。予想だにしていなかったフォースにより起こる稲妻を受けたウィンドゥは、膝を突きながら恨めしげに見下げる私を見上げる。
「ドゥーラン!!シスに加担するか!!」
「〝私〟が動くのはフォースの導きによってだけだ!!」
再会した彼との乱舞のような立ち回りに、マスターウィンドゥは違和感を覚えた。まるで自分が教えてきた弟子とは違う動きを繰り出してくる。
「ドゥーラン…!?」
ライトセーバーの斬撃の中、ウィンドゥは弟子だった男の目を見つめる。その目は黄金色でも、彼本来の深緑の瞳でもない。蒼白い眼色に染まり、感じ取れるフォースの流れも全く異なっていた。
「まだ足りないというのか!!まだ、ジェダイだと、秩序や平和だと宣いながら、ライトセーバーを振るい続けて来たというのに、足りないというのか!!」
剣戟を徐々に圧倒してゆく。防戦に回るしかないウィンドゥを追い詰めながら、身を委ねるまま、感じるがままにライトセーバーを振るう。
「暴力装置に成り下がるとは…この愚か者め!!」
その叫びと共に、手首を捻った一閃がライトセーバーを持つウィンドゥの手をはねた。議長との戦いで砕け散った窓から放物線を描いて落ちてゆくウィンドゥの手とライトセーバー。
その武器をフォースで手繰り寄せて、青と紫の光を携えると、そのまま痛みに苦悶の表情を浮かべるウィンドウの首元に、まるでハサミを添えるかのように光刃を突きつける。
「…言い残すことはあるか、マスターウィンドゥ」
蒼白く光る瞳で見下ろす弟子を見上げて、マスターウィンドゥは深く息をついてから清らかな声で答えた。
「――フォースが共にあらんことを」
その瞬間に、ログは彼の首を切り裂く。焼けた鉄のような匂いが鼻腔を刺し、師であった彼の頭が床に転がってゆく。力をなくした彼の体はゆっくりと倒れてゆき、光点が瞬くコルサントの摩天楼の底へと落下していった。
「素晴らしい…素晴らしいぞ。若きドゥーランよ」
それを静かに見下ろしていたログの後ろから、パルパティーンがまるで煙が立ち昇るように現れる。人望と優しげな顔つきを残したまま、彼は黄金色の瞳をログの後ろ姿に向けていた。
「そなたは自分の宿命を成し遂げたのだ。余の弟子となるがよい。フォースのダークサイドの使い方を学ぶのだ」
ゆっくりと、染み渡るように言い聞かすパルパティーンの言葉。ログは携えていた二本のライトセーバーから光刃を消し去ってから、ゆっくりと背後にいるパルパティーンへと振り返った。
「いえ、シディアス卿。私にはまだ為すべきことがあります。まだ、私がジェダイである内に」
その瞳を見て、パルパティーンは浮かべていた笑みを無くした。それは怒りや憎悪ではなく、純粋に驚愕したからだ。
蒼白く光り続ける眼光は、敵意も殺意も感じられない。そこにあったのは、いつも瞑想で感じられるフォースの揺らめきだけだった。
「…全てに終止符を打ちに行くというのか?ドゥーラン」
パルパティーンの問いかけに、ログは肯く。
「はい……暴力装置となってしまったジェダイを後世に残すのは危険すぎます。ここでとばりを下ろすことが、まだジェダイである私に課せられた責ですから」
「そなたは、フォースを見つめ続けているのだな」
パルパティーンは、普段は絶対に見せない悲しげな目をしてログを見つめていた。彼は今まさに、フォースに身を委ねる存在となった。なることができてしまった。シスでも、ジェダイでも、フォースに触れることしかできないというのに、彼はすでに人としてでなく、もっと別の〝何か〟になっているように思えた。
クローン戦争の終焉を迎える最中。
議長がシスであることを理由に民意すら無視して議長を暗殺しようとしたジェダイに絶望した。
議長のもとにやってくる前に、待ち受けていたキット・フィストーを殺した。
議長の暗殺が共和国の内乱に繋がることを知りながら、ジェダイとして戦争に加担した責任を取るとして、自身の死を受け入れてしまい、それがログの心に決定的な傷を残すことになった。
故に、思想に傾倒しすぎた今のジェダイ組織を終わらせる責任を取るために、彼は――。
「シスとして…いや、人としてそなたに足りてないものがようやく分かった気がするぞ、ドゥーラン。そなたは…自分自身を…」
パルパティーンは、そう決意するログの中に、シスとしても人間としても決定的に欠落している〝あること〟に気づく。
だが、ログはそれをわかっていると言わんばかりに、パルパティーンへ頭を下げた。
「その先に貴方がいると言うなら、その時はどうか私の師として、お導きをお願いします」
そう告げるログの思惑を、パルパティーンは理解していた。彼はシスに、暗黒面に身を委ねることはない。それすら利用してフォースの示す道を進んでゆくのだろう。シス・マスターのシディアスである自分すら欺いて、そしてログ自身すら、その供物として。
故に、パルパティーンは彼を認める。自身を利用し、後に裏切るというなら…それで自分を殺すというならシスの本懐を遂げることに繋がるのだから。
「――良かろう。そなたの覚悟を見せてもらおう」
議長の元を去るログの背中に、パルパティーンは言葉を紡いだ。
「だが、そなたのフォースは強い。強力なシスとなるであろう。私の元へ戻ってきた際は、こう名乗るがよい。――ダース・ヴェイダーと」
シナリオを練り直すのを許せるか?
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細かい描写も見たい
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ログの心の移り変わりを見たい
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とりあえずエンディングまで突っ走れ