アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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最後の希望を持って

 

 

 

 

「逃げるべきです」

 

アナキンたちがウータパウに旅立った後、ボガーノの秘密基地でホログラムの通信を受けるノーバディたちの中で、マスクを被っていないアソーカが、映像越しに最後の試練を伝えるログへ言葉をこぼした。

 

その場にいるバリスや、モール、ヴェントレスたちもアソーカのこぼした言葉に何も言えずに、じっと彼らの行く末を見つめる。

 

だが、同時にそれは、ノーバディたちにとっての総意でもあった。

 

「ログ、どうして貴方が…そこまでする事があるんですか!?」

 

彼の伝えた試練は、試練と呼ぶにはあまりにも酷いことであった。こちらの試練というより、彼自身に課せられた宿命とも言える内容だ。

 

フォースの示す行く先に身を投じるため、彼は〝ログ・ドゥーラン〟ではなくなってしまう危険もあるというのに、彼はその選択を受け入れてしまっている。

 

「貴方は充分に戦ってきた!クローン戦争の中で、多くの人を助けてきたのよ!?」

 

ログは戦い続けてきた。

 

アソーカの師であるアナキンと共に、多くの戦場を駆け抜けて、クローン兵を救い、戦禍に巻き込まれている現地惑星の住人や、多くのジェダイたちを導いてきた英雄的存在だ。

 

幽閉されていたバリスと共に、ジェダイを抜けたアソーカを「ノーバディ」としてスカウトしてきたときは驚きを隠せなかったが、クローン戦争の中でノーバディたちを指示していたのがログだと知ると、多くのことに合点がいく。

 

彼は常にバランスを守ってきたのだ。すでに崩れている天秤を支持し、死に体の共和国とジェダイの中で、彼はバランサーとしての役目を果たし続けていた。

 

しかし、それももう…限界が来ている。

 

ジェダイがやっていることは、たしかに平和の使者とは程遠い。過去のジェダイの在り方から完全に逸脱している。

 

けれど、それを…

 

「アソーカ」

 

顔を伏せるアソーカに、映像の向こう側でジェダイのローブを身につけるログが微笑みかけた。

 

「たしかに逃げることも正しい選択だろう。だが、それで世界がクローン戦争よりも酷い火に焼かれてゆくことを……この世界が焼かれてゆくことを、俺は見過ごす事ができないんだ」

 

フォースとの共鳴を続ける中で、暗闇の中に包まれていく未来を見た。

 

シスの玉座に座るアナキンを見た。

 

死んでいるパドメや、オビ=ワンを見た。

 

炎に包まれる…銀河を見た。

 

何度も問いかけた。なぜそうなるのか。なぜそんな未来が来るのか。なぜ…自分がこの世界の異物としてやってきたのか。

 

ただ、ひとつわかっていたことは、自分という異物が混入されたこの世界から逃げ出してしまえば、自分が見た未来が現実のものになるということだけだ。

 

そしていつしか、ログは思うようになった。

 

きっと自分は…この世界の未来を…アナキンや彼らの運命を…変えるためにこの場所へとやってきたのだ、と。

 

「けど…貴方が貴方じゃなくなったら…なにも…!!」

 

「人には、定められた運命がある。俺はそれに導かれたんだ」

 

「けど…でも!!そこに貴方が居ないじゃない!!そんなの…ダメだよ!!ダメ!!」

 

アソーカはそれでも首を横に振る。ログの持つ愛の大きさをアソーカは知っている。クローン戦争の時から、彼の愛は多くの者を救ってきた。

 

アナキンが…オビ=ワンも。

 

なのに、それなのに、愛されている者の中に〝彼自身〟が居ないなんて、みんなが悲しむ。

 

「ダメ!ダメよ!そんなこと!!」

 

「アソーカ!!」

 

ホログラムでしかない映像に手を伸ばそうとするアソーカを隣にいるバリスが必死に抑えた。衝動的にアソーカがバリスを見ると、昂っていた想いが沈んでゆく。バリス自身も、唇から血が滲むほど、彼の下した決断に納得しようと必死だった。

 

ジェダイに不信感を抱き始めた頃から、バリスは師よりもより人間らしい感性を持つログへ、心の内を相談するようになっており、バリスの起こした爆破事故も、彼自身が幽閉されているバリスを解放し、真っ先に彼女に謝罪をしたのだ。

 

(君の葛藤を見つめきれなかった自分の責任だ)

 

そう言って彼は深く自分を責めた。彼が導いた結果でもないと言うのに、彼はずっと崩れ落ちそうな顔をして、バリスの起こしたことを悔やんだのだ。

 

彼女も、そしてこの場にいるモールも、そんなログの在り方に心を動かされたのだ。苦しんで、もがいていた自分を見つけてくれたのは、他ならないログだったはずなのに…。

 

「俺たちは〝どこかの誰か〟であり、同時に〝何者でもない〟。だから、ここまでやってこれた。みんなには、感謝している」

 

どこか遠くにいるような彼は、笑みを浮かべたまま集まった「ノーバディたち」に語りかける。その中で、彼と一番付き合いが長いモールが頭を垂れて奥歯を噛み締める。

 

「マスター…」

 

「モール、後は頼んだ。この因縁は〝ジェダイ〟が終止符を打つ。お前たちは、その先にある夜を切り開いてくれ」

 

「マスター。アンタは…俺を見つけてくれた」

 

グッとモールの手に力が籠る。

 

彼から言い渡された試練は二つ。

 

一つは指定された場へ赴き、その場にいるジェダイを救出すること。そしてもう一つは、その後の世界を見つめ、理不尽な圧政に苦しむ者を守る存在であることだ。

 

彼は予見している。

 

ジェダイと共和国の終わりを。

 

だからこそ、決着は〝ジェダイ〟が付けるということも導き出しているのだ。

 

「アンタが見つけてくれたから、俺はここに来れたんだ」

 

故にモールは、彼を止める言葉が出なかった。出すわけにはいかなかった。ダソミアでログと再会し、彼の元でフォースとの繋がりを強固にする修行を続けた結果、モールもまた、フォースの示す先の一端を垣間見た。

 

ログが自身をすり減らすほどの闇が、その先に待ち構えている。そしてそれを変えるチャンスを掴むために、彼は今までのジェダイとしての全てを賭して戦い続けてきた。その姿を隣で見てきたモールだからこそ、彼を引き止める言葉を紡ぐことができなかった。

 

己の無力さに怒りが立ち昇る。

 

「ブラザー」

 

サヴァージに、肩を掴まれてモールはハッと我を取り戻す。ログが望んでいる「ノーバディ」の在り方は、そんなものではない。

の在り方は、そんなものではない。

 

彼は、そうならないために自分を鍛えてくれたのだ。

 

「――みんな」

 

映像の前で、ログは最後に集まってくれた彼らを見つめる。

 

「フォースと共にあらんことを、願っている」

 

そう言って、彼は深く頭を下げてから通信を終えた。ホログラムが消え去った部屋の中で、モールは自身のライトセーバーを握りしめると、傍に置いていたジェダイテンプルガードのマスクを被った。

 

それに倣って、全員が同じマスクを身につけてゆく。

 

「フォースの夜明けのために」

 

やるべきことは、決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナブーの船の中で、アナキンは目を見開いたまま、コルサントに潜入したヨーダと、マスター・クワイ=ガンから送られてきた映像を食い入るように見つめてから、そっと呟いた。

 

「嘘だ」

 

「アナキン…」

 

隣にいるパドメが、震えるアナキンの肩に手を添える。映像に映っていたのは、テンプルで起こったジェダイ大量虐殺の映像だった。

 

「こんなの、嘘だ」

 

そこには、目を覆いたくなる惨状と、迎え撃つジェダイたちをライトセーバーで次々と屠ってゆく影が揺らめいてる。フードを揺らしてジェダイナイトの胸を貫いたのは、ログ・ドゥーランその人であった。

 

「オビ=ワン。彼は…本当にダークサイドに転向したの?」

 

「わからない。だが、ジェダイ・テンプルを襲い、多くのジェダイや子供達を殺したのは……間違いなく、ドゥーランだ」

 

「嘘だ!!」

 

オビ=ワンの言葉を強く否定するように、アナキンはパドメの手を払い除けて立ち上がり叫んだ。

 

「アナキン!!」

 

「こんなの、嘘に決まっている!彼が…彼がそんな真似をするはずがない!!」

 

「アナキン!!現実を見るんだ!!」

 

「嫌だ!!」

 

モニターを指差すオビ=ワンの声を拒絶して、アナキンは映像から目を逸らす。信じられない。信じられるわけがない。自分が何より立派だと思えていたジェダイであるログが、あんな凄惨で酷いことをするなんて。

 

きっとこれは間違いだ。ヨーダや、クワイ=ガンがログを貶めようと映像をすり替えたに違いない。そんな根も葉もない現実逃避を繰り返し続けては、アナキンは映像からゆらゆらと幽鬼のような足取りで離れてから、ソファへとへたり込んだ。

 

パドメやオビ=ワンが、心配そうな目で座り込むアナキンと視線を合わせるように屈んで、弱々しい彼の目を見つめる。

 

「オビ=ワン…僕は…僕は…」

 

逃れられない現実を突きつけられて、アナキンは師であり、兄のような存在でもあるオビ=ワンへ、観念したように心にあった恐怖をポツリとこぼした。

 

「夢を見たんです…」

 

パドメが殺される夢を。

 

オビ=ワンが殺される夢を。

 

そして瞳を黄金色に輝かせて、こちらに刃を振るってくるログの姿を。

 

「アナキン」

 

「僕には…僕にはできない!!彼を倒すなんて…僕には…!!」

 

アナキンは顔を覆ってうずくまった。彼と対峙すること、彼と生死をかけて刃を交えることを想像するだけで体が震える。彼は誰よりも自分を理解してくれている気がした。そして自分も。

 

変わり果てた親友の姿を見つめて、アナキンは正常な判断をできる状況ではなくなっていた。

 

「アニー。どうか希望を捨てないで」

 

そんなアナキンに、パドメは優しく語りかける。まだ希望は失われていないと心強い言葉を口にして。アナキンは泣き出しそうな顔を上げてパドメを見つめると、彼女は微笑みを返した。

 

「彼はムスタファーで待ってる。だから、みんなで行きましょう。彼と…話をするために」

 

「パドメ」

 

「議員の意見には、私も賛成だ」

 

オビ=ワンも、頷いてくれた。心強い師が、アナキンの肩に手を置く。彼自身もログがなぜああなったのかを問わねばならない義務があった。ひとりのジェダイとして。

 

「行こう、アナキン。彼のもとへ」

 

「はい、マスター…!」

 

船はムスタファーへと舵を切る。

 

赤く染まる惑星の上で待つ、親友の元へ。

 

彼と、言葉を交わすために――。

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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