アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
「衰えたものだな…マスター・ヨーダ」
静かになった元老院の議会ホールの中で、ジェダイ・マスターのローブを見つめながらパルパティーンは誰にも聞こえないような声で、そっと呟いた。
彼との戦いは熾烈を極めたが、結果は見えていたと言える。仮にマスター・ヨーダがパルパティーンを討ち倒せていたとしても、帝国政府はつつがなく、その勢力を銀河全域へと広めてゆく。ジェダイの生き残りたちの排除も進み、シスが滅びようともジェダイが滅びる定めは変えられない。
そして、結果はパルパティーンの勝利で終わった。マスター・ヨーダの力は凄まじいものであったが、長年この時のためにダークサイドの力を蓄え、準備をしてきたシスと、その場当たり的な対応でしか対処できなかったジェダイでは、その戦局を覆すことなど出来なかった。
マスター・ヨーダがシスに敗れたと同時に、時代はジェダイを切り捨てたのだ。
「閣下。死体はやはり見つかりません」
「では、生きているのでしょうか」
側近やクローン兵の報告を聞きながら、パルパティーンは特に関心があるような様子もなく、クローン兵へ言葉を紡ぐ。
「徹底的に探せ。それと大尉。シャトルをいつでも飛び立たせられる準備を」
彼の思考は、すでに最強のジェダイ・マスターから別のものへと移っていた。
「ドゥーランに危機が迫っておる…あるいは…」
彼にとっての終局か。パルパティーンはフードを深く被りながら息をつく。フォースの揺らめきが正しい事柄を伝えているというなら…彼をシスへ引き入れることは難しいだろう。
ログ・ドゥーランは、その終わりに救いを見出してしまっているのだから。
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「マスター・ヨーダ!」
元老院の施設にある隠し通路から出てきたマスター・ヨーダを迎えたのは、フードを深くかぶって変装するマスター・クワイ=ガンであった。彼もコルサントに侵入していたが、マスター・ヨーダの命により、シス卿の暗殺とは別の任務を遂行していた。
「暗殺は…失敗じゃ。力不足であった」
力なくそう言うマスター・ヨーダに、マスター・クワイ=ガンはいくつか入手したホロクロンを見せる。
「ジェダイ・テンプルの地下には、やはりシスの遺跡がありました」
ジェダイ・テンプルに残されていたジェダイの記録に加えて、本来なら足を踏み込むことを許されないテンプルの地下で、マスター・クワイ=ガンは大規模なシスの遺跡を発見したのだ。
その言葉を聞き、マスター・ヨーダは感慨深く瞳を伏せながらそっと言葉を発した。
「そうか…我々も長らく、シスの手の内で踊らされていたのかのぅ」
その言葉に、マスター・クワイ=ガンは何も言わなかった。いや、それよりも、その言葉にすら疑念を抱き始めている自分がいることにマスター・クワイ=ガンは気付き始めていた。
ログ・ドゥーランの生き様。彼が残した足跡を入手したマスター・クワイ=ガンは、マスター・ヨーダを見ずに呟く。
「あるいは、我々が道を見失ったとも」
その言葉に、マスター・ヨーダは何も答えなかった。
▼
溶岩が照らす橋の上に差し掛かった2人の影。
1人はライトセーバーを持ちながらもジリジリと後退するアナキン・スカイウォーカー。
そしてもう1人は、片腕を失いながらも乱れることのないフォースを揺らめかせて向かってくるログ・ドゥーランだ。
「お前には失望したよ、アナキン。俺の期待外れだった」
片腕を失いながらも、ログの威圧感は全く衰えていない…それどころか大きな悪魔…黒いドラゴンになっているようにアナキンには見えていた。幾度の夢の中で見た、漆黒の悪夢の龍がそこにあった。
「選ばれし者でありながら、その体たらくだ。そんなことでは俺を倒せんぞ」
「僕は…君と戦いたくない…ログ!!」
黄金色の目に貫かれながらも、アナキンは彼の中にある善意を信じた。信じたかった。この期に及んでもそれに縋り付くことしかできない自分に、ひどく焦燥と怒りを覚える。
ライトセーバーを握りしめながら、後退するアナキンに、ログは残念そうな目を向けながら言葉を放つ。
「戦わなければこの瞬間は終わらないんだよ、アナキン。俺かお前。生き残るのはどちらかだけだ」
このムスタファーに、自分と、彼が来た瞬間に運命は決定付けられたのだ。ここでどちらかが滅びるか、生きるか。それを選択しない限り、この銀河にもたらされた動乱は消えない。この瞬間が永遠に続く。永遠に…。
アナキンの絶望した顔に、小さな笑みを浮かべながら、ログは遠くで噴火するムスタファーの火山を見上げる。
「お前が戦わないと言うなら…お前の悪夢は現実のものとなる」
アナキンの胸の鼓動が妙に鮮明に聞こえる。彼は、知っているのか…自分が見た悪夢を。その懐疑の目を見て、ログは確信したように笑みを深めて、ライトセーバーの切っ先をアナキンへと向ける。
「お前を生きたまま捕まえて、お前の前で、パドメとオビ=ワンを殺そう。お前にたっぷりと助けを求めさせてからな…!!」
決定的だった。
アナキンの中にある何かが爆発した。
「やめろぉおお!!」
さっきまですくんでいた足は力強さを取り戻していて、腕から振るわれるのはクローン戦争で培ってきた必勝の剣戟だ。フォースと一体となって飛び上がったアナキンの攻撃を受けながら、ログはさらに閃光を翻す。
火山に照らされる橋の上で、目まぐるしい速さの光が煌めき、ぶつかり合った。
「ロォオオグ!!」
勝負は一瞬だった。
ログがいるところよりも高さがある場所へと飛び乗ったアナキンが、大きくその一閃をログへと放った。
一撃目はいなされた。軽々と払われた剣戟に怯まずに、アナキンはログを下がらせるためにライトセーバーで突きを放つ。
あくまで敵を下がらせる牽制のため。ジェダイの型でも基本的な突きだ。
そして、それは―――。
「そうだ…それでいい…」
ログの体を貫いた。
なんだ。
何が起こっている。
アナキンは自分の目の前にある光景が飲み込めなかった。
ログは、アナキンの放ったライトセーバーの一撃を防御するどころか、構えすら取らないまま受けたのだ。
青く光る刃が、ログの胸部を貫いているのが見える。
咄嗟に、ライトセーバーの光をなくすと、ログは今までの威圧感の一切を失って、その場に崩れ落ちた。
「ログ…そんな…何故なんだ」
遠くで火山が猛る音が聞こえる。地獄のような光景の中で、アナキンは震える声で呟いた。橋の脇へ背を預けるように崩れ落ちたログは、火山から流れてくる風に髪を踊らせたまま、何も発しない。呼吸をしているようにも思えない。
信じられないほどの静寂がアナキンを襲った。
「避けられたはずなのに…なぜ、攻撃を受け入れたんだ…」
渾身の一撃を跳ね除けられ、牽制のつもりで放った一閃がログを捉えた。避けられるはずの一撃だったはずだ。彼なら、難なく払い退けて「甘いぞ、アナキン」と言って、訓練用のセーバーであしらわれていたはずなのに。
目の前にあるのは、ただの虚無と、悲しみと、戸惑いと、虚しさだけだ。
「ログ…なぜだ…何故なんだ…!!」
「お前が…俺にとっての英雄だからだ…」
アナキンの悲痛な言葉に、ログは抑揚のない声でそう言った。
胸を焼かれた痛みと、腕をなくした痛みから、体の感覚はほとんど無くなっていたのに、アナキンの泣きそうな声だけは、はっきりと聞こえていた。
体を起こすこともせずに、少しだけ咳き込んでから、ログは見下ろすアナキンを見上げた。その目は…彼らしい本来の瞳の色へと戻っていた。
「お前は、その道を行くんだ…もう、ジェダイだとか…戦いに苛まれることはない…お前の先には…未来がある…お前たちは…幸せになれるんだ」
火山の火柱が上がる。ログは最後の力を振り絞って感覚が遠くなっている腕を持ち上げると、最後となるフォースの共鳴を果たした。
「だから、これでいいんだ」
呆然としているアナキンを、フォースで吹き飛ばす。後ろから追ってきていたオビ=ワンが、吹き飛んできたアナキンを受け止めるが、2人は橋へと折り重なるように倒れる。
刹那。
ログがいた場所を、噴き上がった溶岩が襲い掛かった光景を、アナキンは見てしまった。
「ログ!!なんでだ!!なんで…君は…自分を愛することをしなかったんだ!!」
ずっとそうだった。
彼はずっと、僕を後ろから見ているだけで。
彼からの愛はあるのに。僕らからの愛はあるのに。彼は自身を愛してなかった。自分をどこか遠い世界に追いやるような形にこだわって…。
僕は…彼の在り方に、頼り切ってしまったのだ。パドメとの愛を育めたのも、自分がパドメとの間にできた子供の父親になる覚悟を決めさせてくれたのも。ジェダイ・マスターになれる自分になれたのも。
すべて、彼がいてくれたからだというのに…なぜ、彼は愛を受け止めてくれなかったのか。
アナキンの慟哭が溶岩の雨の中で響き渡る。
「アナキン!!」
オビ=ワンがフォースでアナキンに降りかかろうとしていた溶岩の塊を吹き飛ばして、アナキンの肩を掴んだ。雨の向こう側しか見ていないアナキンの体を、反対側の方へと引きずるように連れてゆく。
「オビ=ワン!!待ってください!!ログが!!」
「ダメだ!彼はもう…」
「ログ!!」
アナキンは身じろいでオビ=ワンの手を振りほどこうとした。溶岩の嵐は激しさを増すばかりで、その力は橋すら寸断していく。
「アナキン!!クローン兵がくる!!このままではパドメも危険だ!!」
「彼を置いていけない!!」
軋む音が響く橋の上で、オビ=ワンは狼狽るアナキンを掴み上げて声を荒げた。
「彼は死んだ!!アナキン!!」
その言葉と同時に、溶岩が降り注いだ箇所が致命的な損傷に耐えきれず、ゆっくりと溶けて落ちてゆく。ログがいた橋は支えを失って溶岩の川の中へと落下していった。
アナキンは何も言えなかった。
何も、感じることができなかった。
彼の死を知らせるフォースすらも。
「船に戻るんだ…行こう。アナキン」
崩れ落ちた橋と、戻ってきた静寂の中で、オビ=ワンはアナキンの肩へ手を置く。優しさと温かみがある手を肩に感じながら、アナキンはライトセーバーを握りしめ、オビ=ワンへと振り返った。
「…はい、オビ=ワン」
そう答えたアナキンと共に、オビ=ワンはパドメが待つシャトルの場所へと歩んでゆく。ふと、アナキンは足元に落ちている何かに気がついた。
拾い上げると、それはログが愛用していたライトセーバーだった。
振り返る。
そこには、さっきまで繰り広げていた激闘の痕跡はなく、火山の遠い轟音が響き渡っているだけだった。
シナリオを練り直すのを許せるか?
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細かい描写も見たい
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ログの心の移り変わりを見たい
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とりあえずエンディングまで突っ走れ