アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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黄昏の中で

 

夢を見ていた。

 

もう随分と、昔に感じられる夢だ。

 

あの日、あの瞬間に、俺はログ・ドゥーランとしてスタートを切った。

 

通い慣れていたはずの小さな路地は、今になっては別世界のように見えて。いや、実際には別世界なのだろう。自分があの世界で過ごした時間は、すでに元いた世界よりも多い。

 

コンビニ袋をぶら下げた自分が目の前にいる。あの時と変わらない。何も知らないままライトセーバーに貫かれた自分自身。

 

「満足したか?」

 

ラフな格好をする相手が、ログへと語りかける。こちらは黒い服を身に纏っていて、手にはライトセーバーが握られている。

 

「お前が望んだ結末に、満足はできたか?」

 

アナキンの孤独を知って。

 

フォースに触れ。

 

世界の行く先を見据えて。

 

多くのことを学び、多くのことに触れ、多くを見たログ・ドゥーランは、満足したのか。

 

アナキンは、暗黒面に落ちなかった。ドゥーランが望んだ、アナキンを一人ぼっちにさせないために尽くした全てが報われたはずだ。

 

だが、何故だ。

 

なぜ、こんなにも虚無が胸の中にあるのだろうか。

 

そのために駆け抜けてきたはずだというのに、心の中には満足感どころか、あれだけ感じていたアナキンへの愛も、友情も、優しさも感じられない。

 

冷たさがあった。

 

後悔と、虚しさがあった。

 

そのためだけに、走ってきたというのに。その果てにあったものが、こんなにも残酷なものだったとは…。

 

自分はいったい、何のために世界を変えようとしたのか…いや、何のためにかは知っている。アナキンを一人にしないために、俺が一人になった。

 

ただ、それだけのことだ。

 

それだけが、今の自分にある真実だ。

 

「安心しろ、これからは俺がお前を愛してやる」

 

目の前にいるあの時の自分は、優しく微笑みながら歩み寄る。

 

悠然と手を広げて。

 

敵ではないという意思を示して歩いてくる。

 

彼がドゥーランの前に立った瞬間、胸に熱が走った。

 

 

 

視線を落とした先にあるのは、

 

赤いライトセーバーの光だった。

 

 

 

「ここから、始まる。全てがな」

 

 

そう言って笑みを浮かべる過去の自分の顔を手で覆い隠すと、裂けるような痛みと共にドゥーランの意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェイダー卿。余の声が聞こえるか?」

 

生命維持装置という楔から解き放たれたログ・ドゥーランは、そばに立つ黒装束の男性をマスク越しに見つめた。

 

彼はしばしの沈黙を持った。四肢はまだ起き上がった施術台の上に固定されている。固定されているはずだ。なのに、感覚がない。何も感じない。冷たさだけが体を駆け巡っている。

 

ドゥーランは、何も言わずに固定されている四肢をフォースでこじ開けて、地に立とうとしたが、うまく立つことができなかった。

 

奇しくも、その姿はそばに立つ黒装束の男性へ忠誠を誓うよう、膝ついているようにも見える。

 

「……はい、シディアス卿」

 

そう言って彼は何も言わずに黒装束の男、ダース・シディアスに頭を垂れる。その姿を見たシディアスは、少し目を見開いてから、しっかりとした言葉で語りかけた。

 

「そなたは…ログ・ドゥーランか?それとも、ダース・ヴェイダーか?」

 

暗闇から立ち上がるように、ドゥーランは立ち上がる。黒を基調としたサイボーグの四肢と、生体機能のほとんどを失った体を維持する生命維持装置が胸で光天を煌めかせる。

 

深淵のようなマスクの奥で、彼は声を発した。

 

「何なりと、ご用命を。我がマスターよ」

 

シディアスは、ひどく落胆した。

 

本来ならば、力を失った彼が手駒になったことを喜ぶべきであろうが、なによりも「ログ・ドゥーラン」という命が消え去っていることに、シディアスは酷く悲しみを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナブー郊外の田舎町。

 

閑散としているが、穏やかな人の営みがある小さな町の中で、美しさを持ったままのパドメが、二人の小さな子供を連れて歩いている。

 

一人は、ルーク・スカイウォーカー。

 

もう一人は、レイア・スカイウォーカー。

 

ナブーの自然豊かな環境の中で、二人は穏やかに育ち、豊富な経験と知識を持つジェダイであるクワイ=ガンからも少しずつ教えを受けてもいる。

 

緩やかな人通りの中を駆け抜けてゆくルークとレイアを見つめるパドメは、ふと、悲しげな顔をして青空が広がっている宇宙を見上げた。

 

この場にいて欲しい、想い人に心を馳せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナキン、新しい依頼が来たぞ」

 

オーウェンの言葉に、アナキンは「すぐに行く」と伝えて、手に馴染んだ工具箱を持ち上げた。

 

タトゥイーン。

 

アナキンはパドメや自身の子供を置いて、一人この星へと戻ってきていた。母であるシミ・スカイウォーカーや、ラーズ家の面々と交流を深めながら、アナキンは宇宙船の中古部品を売るワトーの伝を使い、今はジャンクの修理や、宇宙船の修理人として生計を立てていた。

 

今回はモス・アイズリーに出向いて、ジャバ・ザ・ハットお抱えの船の修理という大仕事がある。これを成功させれば、ハット族やモス・アイズリーに寄港する船からも信頼されることになるだろう。

 

ワトーから買い取った修理部品と工具を積み込んだスピーダーを準備する中、一人のジェダイローブを着た人物がアナキンの元へとやってきた。

 

「アナキン…」

 

「何を言われても、戻る気はありませんよ。オビ=ワン」

 

現れたのは年齢を重ねつつあるオビ=ワンだった。

 

彼もまた、ナブーにいるクワイ=ガンと共にルークやレイアを教育する家庭教師兼、ジェダイの教えを伝える役目に徹することを決めている人物だったが、フォースとの絆を断ったアナキンを心配する気持ちもある。

 

オビ=ワンの言葉を待たずに、アナキンは準備を終えたスピーダーのエンジンをかけた。

 

「帝国の束縛も強くなってきている…いずれはナブーにいるパドメや、子供たちも危害が及ぶぞ?アナキン」

 

「それでどうするんですか?帝国と戦争をするんですか?ジェダイだの、掟だの、教えだのと言って」

 

オビ=ワンの言葉に、もうウンザリだと言わんばかりにアナキンは苛立った様子を見せた。

 

「パドメは決めたけど、僕は子供たちにフォースの使い方を教えるのは反対なんですよ。あんなもの、災いしか呼び込まない」

 

「それを決めるのは若きスカイウォーカーたちだぞ、アナキン」

 

「その教えのせいで、いったいどれだけの人が傷ついたと思っているんですか!!」

 

オビ=ワンの言葉に敵意に似た感情を露わにしてアナキンは言葉を荒げた。すいません、と呟きながら、彼はスピーダーへと乗り込む。

 

「アナキン」

 

モス・アイズリーに向かおうとするアナキンへ、オビ=ワンは言葉を紡いだ。

 

「フォースと共に在らんことを、願っている」

 

アナキンは、何も言わないままスピーダーのスロットルを入れて走り出して行った。

 

砂煙りと静寂が砂漠を照らす中、オビ=ワンは遠く輝く二つの太陽を見つめて、ジェダイローブをはためかせるのだった。

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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