アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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ジェダイトレーニング

 

 

タトゥイーンの包囲網を脱したミレニアムファルコンの中では、手隙になったルークが久し振りとも言えるオビ=ワンからの指南を受けていた。

 

自律駆動するポッドから放たれるレーザーをライトセーバーで防ぐという単純な修行ではあるが、これがまた難しい。設定がライトセーバーの型ごとにあり、中でもオビ=ワンが得意とする防御の型の設定がとんでもなく早いレーザー設定となっているのだ。

 

ルークは子供時代にかぶっていた目隠しをせず、オビ=ワンとクワイ=ガンから学んだ型を正確に繰り出し、恐ろしい速さで射出されるレーザーの全てを防ぎ切っていた。

 

その傍らでは、C-3POたちがチューバッカとのボードゲームを楽しみ、その横ではアナキンが持ってきていた工具の手入れをしていた。

 

「ハッハー!ノロマな帝国軍とのゴタゴタはもう大丈夫だ。逃げ切ってやったぜ」

 

ハイパースペースの移動航路を入力し、オートパイロットに設定し終えたハンが、堂々とリラクゼーションルームへと入ってくるが、その言葉に返す声は誰からもあがることはなかった。

 

「……って、誰も感謝してないようだな。まあいいさ、オルデランにはものの数分で到着するはずだ」

 

不満そうにどっかりと通信機用の椅子へと腰を下ろしたハン。その目線の先では、R2が操作する盤上のモンスターが王手の一撃をチューバッカへ浴びせていた。

 

「こっちは正々堂々とやってますよ。叫んだってダメですからね」

 

対戦結果が気に入らない様子のチューバッカが、声を上げて抗議の意を示すが、C-3POはその不満を跳ね除ける。それを聞いていたアナキンが、拭いていた工具を下ろしてため息を吐く。

 

「言うとおりにしてやれ、C-3PO。ウーキーを怒らせるのは賢明とは言えないぞ?」

 

「しかしながらアナキン様、ドロイドを怒らせるのは構わないのでしょうか」

 

「まぁ、ドロイドは負けたからって他人の腕を引っこ抜いたりはしないだろう。だが、ウーキーは、どうかな?」

 

いつぞやのバーで腕をもがれた賞金首はかわいそうだったな、とアナキンが思い出すように語ると、C-3POが止まる。

 

目の前にいるチューバッカはやる気満々と言わんばかりに拳を作って骨を鳴らして、オールバックのように生える体毛を後ろへと流して整えていた。

 

これは、間違いなく負けたらC-3POの腕が引っこ抜かれるか、R2の頭が引っこ抜かれるかのどちらかだろう。

 

「よく分かりました。新しい作戦で行くぞ、R2。ウーキーに勝たせるんだ」

 

小声でR2に伝えるC-3POたちを一瞥してから、アナキンは別の工具の手入れへと移った。その視線の先では、小休憩を終えたルークが再び自律駆動したポッドを前にライトセーバーを構えている。

 

「忘れるな、ルーク。ジェダイは内を流れるフォースを感じることができるのだ」

 

奥から見つめるオビ=ワンの声に感覚を研ぎ澄ませながら、ルークは降りかかるレーザーをライトセーバーで華麗に受け流して行っていた。それを初めて見るハンは、面白げに口笛を吹いている。

 

「…オビ=ワン、それって行動を支配されるということ?」

 

「まぁ、ある程度はな。しかし、同時に命令にも従ってくれる」

 

フォースというものはそういう物だ、と教えるかつての師の言葉を聞いて、アナキンはうんざりした様子で工具の手入れを続ける。フォースなんてものは毒にも似ているものだと、今のアナキンには思えてならない。それに身を委ねることが如何に危険な行為か、彼は身をもってその片鱗を味わっていたのだから。

 

「まやかし宗教や古臭い武器じゃ突きつけられたブラスターには勝てないぜ?」

 

その教えに待ったを掛けたのはハンだった。フォースの教えを説くオビ=ワンと、それを熱心に聞くルークを怪訝な目で見つめる彼に、ルークは問いかける。

 

「あんたはフォースを信じないのか?」

 

「坊主、俺はこの銀河から端から端まで飛び回ってきたんだ。変わった代物もたくさん見てきた。だが、万物を支配する万能の力の存在を信じさせてくれるようなものには一度もお目にかかったことがないね」

 

ハン・ソロという男は、そういう人物であるということをアナキンはよく知っていた。彼は自身が体験したことを確固たる土台として生きている男だ。窮地にも立ち、トラブルや、命の危機も自身の力で脱してきた。そこにフォースの導きや、ジェダイらしい考え方など介在しない。

 

全てを己が運と実力で乗り越えてきたからこそ、彼はフォースという偶像的な力を信じることができなかった。

 

「俺の運命を支配する神秘的なエネルギー・フィールドなんてものは存在しないのさ。そんなものは単なるトリックやナンセンスだ」

 

そう切って捨てるハンのいい草に、年頃らしい反感を抱いたのがルークの隙だった。閃光のように放たれたレーザーが、ルークの肩と太ももを捉えたのだ。低出力とはいえレーザーだ。軽い火傷を負うのも仕方がない。そうやって体に覚え込ませていくこともジェダイのトレーニングには必要であった。

 

「まだまだ自身の精神に頼り過ぎているな、ルーク。君の父上も、君と同じ歳くらいのときは同じミスをしていたものだ」

 

「…本当なの?父さん」

 

突然、オビ=ワンに言葉を振られたアナキンも、幼少期はルークと同じような訓練を受けたものだ。あの駆動ポッドに何度世話になったか。ルークと同じ歳の時は身体中に火傷のあとが残っていたものだ。それに自分の親友との模擬戦にも一度も……。

 

「昔のことを持ち出さないでくれよ、オビ=ワン」

 

過去を振り返りそうになった自身の精神を治めて、アナキンは嫌そうな顔でオビ=ワンへそう返す。すると、ルークよりも驚いた顔をしたハンが、おずおずと手をあげるような素振りを見せた。

 

「おい、ちょっと待った。ラーズのおやっさんもそうだって言うのか?」

 

ハンが駆け出しだった頃から面倒を見てくれていたラーズのおやっさんが、まさか噂で聞くジェダイだとか?そんなもの信じられないと言った顔で見てくるハンに、アナキンも「真にうけるな」と言葉を返す。

 

「僕はしがない修理工だよ、ハン。見ての通りさ」

 

そう言ったと同時、オビ=ワンが手を振るう。停止状態だった自律駆動ポッドが急に動き出すと、工具を拭いているアナキンへレーザーを数発放った。

 

苦笑していたアナキンは、即座に目つきを変えて拭いていた棒状の工具を振るい、飛来するレーザーの全てを工具で受け止めたのだ。タトゥイーンでも高値である特殊合金の工具の表面に軽い傷がつく程度で済んだが、それを見たハンとルークは驚きのあまり目を白黒させていた。

 

「腕は衰えていないようだな?だが、剣筋に迷いはある」

 

悪戯心が過ぎるぞ、と元師であるオビ=ワンを睨みつけてから、アナキンは大きなため息をついて席に腰を下ろし、手に持っている汚れた工具の手入れを再開する。

 

「やめてくれ、オビ=ワン。僕はもう違う」

 

そう、違うのだ。

 

親友をこの手で殺したあの日。

 

あの日から、アナキンはフォースとの絆を絶った。

 

絶ったはずなのに、フォースは変わることなくアナキンへと語りかけてくる。それがアナキンを悩ませるものになるとも知らずに。

 

ルークとレイアの修行を目にして、フォースを閉ざす扉を叩かれるような感覚に嫌気がさして、アナキンは一人辺境の土地であり、自身の故郷であるタトゥイーンへと身を隠したのだ。

 

だが、フォースとの絆はそう簡単に断ち切れるものではない。

 

今もなお、フォースはアナキンを導いている。彼が望む望まざるに関わらず、その行先には常にフォースがあった。

 

そして今も。

 

「オルデランに着いたようだ」

 

それが、新たな道へ続くことも悟らせずに…。

 

 

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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