アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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書きたかった短編です。
スターウォーズで好きなキャラなのでポチポチと進めます。


エピソード FN-2187
FN-2187とジェダイと


 

 

ファースト・オーダー。

 

武官派に対して、クーデター派と反乱軍による決戦は皇帝とダース・ヴェイダー、そして多くのシス・ストーカーを失った武官派が敗走。

 

新たに樹立された銀河連邦による永久停戦協定により、連邦軍へと属する事となった多くの帝国軍は武装解除と軍事縮小が呼びかけられたが、武官派は多くの物資、人員と共に銀河の未知領域へ逃亡した。

 

彼らはそこで新たな世代のストームトルーパーの編成や各種兵力の再配備といった軍拡を推し進め、シス・ストーカー、そして最高指導者スノーク率いる軍事組織「ファースト・オーダー」を結成。銀河連邦に対し宣戦を布告し、銀河各地でテロやゲリラ的な攻撃を続け、連邦軍との軍事衝突を繰り広げていた。

 

この小競り合いに目をつけたのが、帝国と反乱軍との戦いで私腹を肥やしていた軍事産業企業や、武器売買のバイヤーたちだ。

 

彼らは残った火種に油を注ぐようにファースト・オーダーに武器を流し、そしてファースト・オーダーに対抗するべく軍備の拡充が求められた連邦軍にも何食わぬ顔で武器や資材を売る死の商人。

 

帝国と反乱軍による大規模な戦争はなくなってはいたが、平和はまだ訪れる様子を見せていなかった。

 

そんな戦果の中、辺境の土地で民族浄化を掲げたファースト・オーダーの一部隊が抵抗する現地住人や戦士たちを次々と惨殺する事件が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだ。

 

広場に集められた住人たちを慈悲もなく撃ち殺していくファースト・オーダーのトルーパーたち。誰もが無感情に引き金を引く最中、一人のトルーパーは銃を上げることもできず、ただ目の前で無作為に打ち殺されてゆく住民を見つめることしかできなかった。

 

子供を庇って撃たれた母親は、亡骸となった子供の上に覆いかぶさるように倒れ、老人も、男も、関係なく撃ち殺された。倒れ伏し、光をなくした目がこちらを見ているような気がして、ハッと後ろへと後ずさる。

 

いやだ…。

 

抵抗する現地住人によって殺された戦友。吹き出した血のりと、戦友の手にべったりとついた血がヘルメットに刻まれている。

 

宇宙でも活動できるはずのヘルメットは空気を絶え間なく浄化しているはずなのに、血独特の鉄の匂いと生臭さが鼻について離れない。戦友の断末魔の悲鳴も。

 

いやだ…っ。

 

撃ち殺された住民たちが感情をなくした兵士たちによって穴の中に放り込まれてゆき、部隊長が放った火によって雑に燃やされ、浄化されてゆく。仄暗い瞳が炎に包まれてゆく様を見て、その死体の山の中に自分がいるという幻覚を見た。

 

咄嗟に吐き気がきたが、必死に堪える。

 

揚陸艇で母艦へと帰る最中、部隊長が作戦に参加しなかったことを叱責していたが、言葉が頭に入ってくる事はなかった。

 

いやだ!

 

母艦につき、通路を隊列を組んで歩く。足がほつれる。床が揺れる。息苦しい。苦しい。辛い。苦しい。辛い。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 

いやだ!!

 

隊列から静かに離れ、被っていたストーム・トルーパーのヘルメットを脱ぐ。新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで呼吸を整えることに意識を集中する。

 

額には汗が滲んでいて、体はひどく寒い。指先が凍えているようにかじかんでいるのがわかった。

 

しばらく息を整えるのに集中している。

 

ふと、彼は奥に見える扉を見た。なんら変化がない通路の先にある扉。だが、何か違和感がある。何か、ザラザラとした感覚が胸の奥を撫でてゆくような違和感だ。おぼつかない足取りで通路を進む。

 

扉が近づけば近づくほど、その感覚は大きくなっていき、扉の前に立った瞬間に消えた。

 

手を扉にかざす。何も起こらない。体の芯を刺激していた違和感や、感覚もない。

 

気のせいか?そう自分の感じたものに疑念を抱きながら、扉のポーターに手をかざす。掌に内蔵されたIDによって認識され、扉は空気が抜ける音と共に難なく開いた。

 

中を見ると、誰かが立っていた。不自然なまでに誰もいない「通信室」の中で立っている誰かは、地につきそうなローブを身に纏って珍しそうに辺りを見渡しているように思えた。

 

「あ、アンタは…?ファースト・オーダー…?」

 

恐る恐ると言った風に言葉をかける。扉が閉まる音と共に、その人物は振り返った。フードを深く被っており、顔つきを窺うことはできない。たが、彼から聞こえてきた声は、どこか楽しげで、優しい音色をしていた。

 

「そう見えるか?」

 

「どちらかと言うと…」

 

ジェダイ。

 

その単語がパッと頭に浮かんだ。茶色と暖色を基調にした旧共和国の服装。そして腰にぶら下げるアタッチメントにブーツ。新人時代、夢に出るまで読まされ、体験させられた教本マニュアルで見た通りだ…。腰にぶら下がる、そのライトセーバーも。

 

「これか?ああ、これは親友から借りたものだ。俺のライトセーバーは、今頃彼女が見つける頃合いだろう」

 

彼は腰に下げるライトセーバーを大事そうに持ち、困ったように笑った。だが、問題はそんなことではない。言い分など知ったものじゃない。ぶら下げていたヘルメットを被り、即座にブラスターを構えた。

 

「な、なぜここにいる!?ここはファースト・オーダーの船で!ここはIDが無いと入れない通信室で!アンタは、ジェダイ…なんだろ?」

 

「俺がここにいることに何ら問題はない。だが、君だ。君のような人間は、ここにいるべき人間じゃない。それはわかってるだろう?誰よりも、君自身が」

 

静まりかえった湖に小石を投げ込むような…そんな感覚を覚える。彼はフードを外して真っ直ぐとこちらを見た。端正な顔つきのジェダイはブラスターを突きつけられながらも、その声色に変化を見せる事はなかった。

 

「な、何を言ってるのか分からないが動くなよ!こっちにはブラスターがあるんだ!!わかってるのか!?」

 

「君は自分の在り方を間違ってると思える人間だ。人を無作為に殺せず、躊躇い、迷い、そして痛みを知り、誰かのために悲しむことができる人間だ。君はここにいるべき人間ではない」

 

関係ない。全てが。そう言わんばかりに、ジェダイが真っ向から投げつけてきた言葉は胸に突き刺さった。ファースト・オーダーがとんでもない組織だということを理解できる理性と知性を持っているからこそ、その言葉はより深く胸に突き刺さった。

 

まるでこう言っているように見える。

 

ファースト・オーダーから逃げろ、と。

 

「無理だ!ファースト・オーダーだぞ!?逃げたら捕まえられて、殺されるか、再教育だ!戦闘マシーンになるまで戦闘カリキュラムから出してもらえない!地獄だ!!わかってるさ!!」

 

いつのまにか下ろしたブラスターを腰のホルスターへとかけて、ヘルメットを外して床へと叩きつける。

 

そんなこと、もうわかっている。

けれど、どうすればいい!?

 

子供の頃、思い出せなくなった両親から引き離され、延々と人を殺すことと兵士になることを叩き込まれることしかなかった自分に、今更ここから逃げろと!?そんな真似、無理だとわかっているのに。

 

「俺は…俺は臆病者なのかもしれない!今日だって戦えない人達を撃つ事を…銃を向けることを躊躇った!!ああ、そうだよ!!俺は戦えない!!臆病者だ!!だから、ファースト・オーダーから逃げることなんて出来ない!!そんな無謀な真似なんて」

 

「だが、君ならできる。なぜならフォースが君を呼び、君がフォースの導きを選んだのだから」

 

慟哭のような言葉を、ジェダイは簡単な言葉で遮った。簡単な、簡単すぎる言葉。フォースが選び、自分がフォースを選んだ?戸惑うこちらを見て、ジェダイは更に言葉を重ねた。

 

「この扉から感じ取った違和感に従って。君はフォースを知っている。なによりも、それが武器になる」

 

「…フォ、フォース?」

 

「あらゆる物質、事象、世界、空間、時間、宇宙に存在する自然的なエネルギーだ。君と俺の間にもあるし、君にも、俺の中にもフォースはある。そしてジェダイは、そのフォースと協調することで力を借り受けることができる」

 

そう言うと、彼は床に叩きつけたヘルメットへと手をかざす。するとヘルメットはふわりと浮かび上がり、そのまま空中を彷徨いこちらへと戻ってきた。両手を差し出してヘルメットを受け止めるとズシリとヘルメットの重さが手にのしかかった。

 

たしかに、今までヘルメットは〝宙に浮かんでいた〟のだ。フォースの力の一部を証明したジェダイは微笑み、こちらを見つめる。

 

「協調するためには己を律し、フォースと向き合い、瞑想する必要があるが、借り受けることは誰にでも出来る。難しいことはない。君は君の感じ取った直感に従うことだ」

 

その言葉にハッとする。扉から感じ取ったザラザラとした違和感。市民を撃ち殺せと命じられたときにも感じた嫌な感覚。その全てが、フォースによる何かのメッセージだったのか。そして、自分はそれを疑いつつも従った。正しいことだと思えたから。

 

「恐れるものは常に、それを疑う自分だけだ。だから自分を信じろ。君が信じることで、フォースはそれに答えてくれる」

 

微笑みながら言うジェダイ。その瞬間、背後にある扉が開いた。振り返ると自分の部隊に属するチーフリーダーの姿があった。目を見開く。ジェダイといるところを見られたか、と。

 

「FN-2187。通信室で何をしている」

 

すると、彼は何事もないように部屋へと入ってきて通信機器の点検を始めた。どうやら定期的な確認巡回らしい。基本ドロイドか無人の通信室の中を念入りに調べてから、チーフはジロリとした視線でこちらを見た。

 

「部隊長が貴様を呼んでいる。先ほどの件だろう。さっさと出頭するように」

 

「ま、待ってくださいチーフ!あの…」

 

「何だ?」

 

チーフの真横に、データを閲覧しているジェダイがいる。だが、明らかにそれが見えていないようだった。モニターが切り替わっているが、チーフの立つ位置からそれを確認することはできない。

 

彼には見えていないのだ。ジェダイの姿が。

 

「い、いえ、なんでもありません。すぐに出頭します…」

 

「ふん、相変わらず可笑しな奴だ。兵士として優秀でなければ貴様のような臆病者は、さっさと下層級へと追いやっていたものを」

 

こちらを見下すような目線と、今日の件の叱責のように捲し立てたチーフはそのまま最終巡回を終えて通信室を後にした。

 

再び二人きりとなった。なってしまった。振り返るとジェダイが満足そうに微笑んでいるのが見えた。

 

「アンタ…」

 

「そういうことだ。言っただろう?〝君がフォースを選んだ〟と。ならば、君がなすべき事は何か?」

 

思考をよぎるのは数々のファースト・オーダーの悪行。無実な市民たちの断末魔の叫び。その悲しみ。痛み。苦しみだ。

 

その全てから逃げてきた。

 

そんな自分であるが、今、この瞬間をもって、臆病者と罵られた自分は生まれ変わったような気がした。ジェダイは腕を組んでこちらをじっと見据えてくる。そして言葉を紡いだ。

 

「本来なら、それをゆっくり考えろと言いたいが、時間はない。だから君が選ぶんだ。君自身の意思で」

 

同時に走り出す。通信室から出て一直線に。向かう先は感じ取れていた。なんとなくイメージが思考の中へと飛び込んでくる。

 

目指す先は決まっていた。

 

「願っているよ。君とフォースが共にあらんことを」

 

通信室で一人となったジェダイは、新たな道へと走り出した「フィン」を見送りながら、その身体をフォースの粒子へと溶かしてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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