アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
コア・ワールドのオルデラン星系に存在する山に覆われた地殻惑星、オルデラン。
銀河共和国の末期に、クイーン・ブレア・オーガナがオルデランを統治し、彼女の夫のベイル・オーガナ元老院議員が銀河元老院で惑星の代表者を務めていた。
皇帝シーヴ・パルパティーンにより、銀河帝国が誕生した後、オルデランは旧共和国の再建を目指す組織、反乱同盟の創設に際して重要な役割を果していた。
反乱軍の内情を知るルークやオビ=ワンにとって、この惑星に到着することは重要な意味を持っていた。レイアが託したR2が持つバトル・ステーションの解析が、この星にある施設で出来るからだ。反乱軍の秘密拠点でもあるオルデランなら、相応の対応も行える上に、ハンに支払う報酬も潤沢に準備することも可能だろう。
《ドッキング・ベイ48番へ着陸してください》
「こちら、ミレニアム・ファルコン。了解した。な?言っただろう、チューイ。ちょろい仕事さ」
オルデランの管制指示に従って、ハンはミレニアムファルコンをドッキング・ベイへと入港させた。着陸したファルコンのハッチから降りるルークとオビ=ワン。続くようにハンも降りてくるが、誘導員やスタッフ、それを言うよりも誰一人としての気配を感じることができなかった。
「オルデランへようこそ!って感じかな」
誰もいないドッキング・ベイの中で、ハンが手を広げてそう言うが、ルークとオビ=ワンは明確に嫌なフォースの揺らめきを感じ取っていた。
あまりにも不自然に、人の気配が無いのだ。
『動くな!』
突然、ドッキング・ベイから外へ繋がる扉が開くと、白い特徴的な装甲服を身につけた兵士たちが雪崩のように押し入ってきた。手を挙げろ!と怒声のような声が上がり、ハンはもちろん、ジェダイであることを隠しているルークやオビ=ワンもひとまず従うように手をあげる。
『確認しました。タトゥイーンから逃れた船と一致します』
帝国のストームトルーパーだ、とハンが言うと、ルークも小声で「知っているよ」と答えた。最悪のタイミングだ。こっちはバトル・ステーションの設計図を持つR2もいる。相手は大勢、こっちは師であるオビ=ワンと自分一人だ。
ここにトルーパーたちがいるということは、オルデランの中枢部はすでに帝国の手に落ちたということになるだろう。
「嫌な予感がするぜ」
そう呟くハンの腰には、DL-44重ブラスター・ピストルがぶら下がっている。素人から見れば分からないが、ハンの意識はすでにブラスターに伸びていた。一瞬の隙があればすぐにブラスターを引き抜く準備ができていると言える。
ルークもアイコンタクトでオビ=ワンと目を合わせて、辺りにいるトルーパーたちを注意深く観察していた。
すると、指揮官らしきトルーパーが、他のトルーパーを引き連れて並んでいるルークたちの元へと近づいてきた。
『ご苦労。乗組員は彼らか』
そう指揮官が声を発した瞬間、ルークたちの脇を赤い光がかすめて飛来し、ブラスターをむけていたトルーパーたちをなぎ倒すように吹き飛ばした。
『なんだ!?』
トルーパーたちが異常を察知する前に、隙をついたハンはブラスターを引き抜いて近づいてきていた指揮官とトルーパーたちを撃ち倒す。ルークとオビ=ワンも、手をかざしてフォースを送り込むと、並んでいたトルーパーたちが一斉に見えない力で吹っ飛ばされていった。
振り返ると、ファルコンの銃座にチューバッカが乗り込んでいるのが見えた。荷物を下ろす準備をしていたアナキンとチューバッカが、気付かれる前にファルコンの迎撃システムで押し入ってきたトルーパーたちを迎撃したのだ。
「乗り込め!」
ハンの叫び声のような声に頷き、オビ=ワンとルークもファルコンのハッチへと向かうために身を翻した。
その時だった。
動揺が広がるトルーパーの中から、一つの黒い影が飛び上がって、ルークの前へと降り立った。
黒い外套。漆黒の手袋とブーツ、そして洗練されたマスクを被る黒い影は、腰からあるものを取り出して、起動させた。
赤く迸った光は、ルークやオビ=ワンが待つ安定した光の刃と違って、炎のような揺らめきを放つ刃だった。それが十字を描くように柄から放たれる。
クロスガード・ライトセーバー。
主要ブレードに加えてクロスガード・ブレード、あるいは“鍔”と呼ばれる2本の小さな刃が放出される古い設計思想のライトセーバーだ。
ヒビが入ったカイバークリスタルから放たれる不安定な光は、まるで炎のような立ち上る光を再現している。
それを目撃した瞬間、ルークも呼応するようにライトセーバーを引き抜いた。
「やはり、貴様はジェダイだったか…!!」
マスク越しに放たれるくぐもった声と同時に、クロスガード・ライトセーバーを振るう黒き戦士。その一撃を防御の型である「ソレス」で受け凌いだ。
フリーハンドの人差し指と中指を伸ばして前に突き出し、ライトセーバーを持つ手は大きく後ろに引くという、弓を引き絞ったような独特な構えをするルークに対し、黒い戦士が取った構えは対ライトセーバー戦を想定した「マカシ」の構えだった。
「吧っ!!」
黒い戦士の一号の気迫と共に放たれる一閃は洗練されたライトセーバーテクニックだった。オビ=ワン直伝のソレスを駆使して受けるルークでも、一閃ごとにその切っ先が描く剣戟が如何な境地にあるかを理解するには申し分ないほどだった。
師であるオビ=ワンですら目を瞠る攻撃を放つ黒い戦士。だが、タイミングが悪かった。いくつかの剣戟を交わしたと同時に、ルークとオビ=ワンによるフォースプッシュを受けた黒い戦士は、壁際まで後退させられることとなる。
「スタンバイだ!ラーズのおやっさん!亜光速エンジンを始動してくれ!!」
ハッチから上がったハンの声に応じて、そのまま飛び立ったファルコン。
黒い戦士にファルコンを追う術はなく、周りのトルーパーたちがブラスターを放つ中、彼は飛び立ったファルコンを見上げ、揺らめくようなライトセーバーを収めた。
「どうやら、相手も相当の手練れだったようだな」
黒い戦士の背後から、声が降ってくる。
ファルコンを見上げてきた戦士は、相手を確認するまでもなく、振り向くと同時に跪いて頭を垂れた。
「ヴェイダー卿、申し訳ありません。完全に私の力不足でした」
頭を垂れる先にいたのは、オルデランの首脳部を制圧したばかりのヴェイダー卿だった。暗闇を象ったマントを翻すヴェイダーは、跪く黒い戦士の傍に歩む。
「どうやら、相手は我々が想像しているよりも遥かに強力なようだな、〝カイロ・レン〟」
カイロ・レン。
そう呼ばれた黒い戦士は立ち上がると、精巧な仮面越しに悔しげな目をしているように見えた。
「…筆頭騎士などという名に相応しくない戦果でした」
レン騎士団の筆頭騎士であるカイロ・レンを連れてきて正解だったと言えた。レン騎士団は、ヴェイダーが創設した治安維持を目的とした騎士団だ。
遠く無い未来で実現されるはずだった騎士団がなぜ、今の世界にあるか。
その答えは、ヴェイダーが発案した治安維持部隊にある。圧政を敷けば敷くほど抵抗を強めるのが市民たちの思考でもある。故に、市民たちを納得させる何かがあればいい。
たとえば、帝国に従順するならば市民の生活を保障しよう。
たとえば、帝国に反する反社会組織から財産や生活を守ろう。
たとえば、インフラがない場に整った政治や生活、社会能力を与えよう。
その一環で創設されたのがレン騎士団だった。彼らの目的は帝国市民の保護と救済、そして帝国に反旗を翻す敵の迎撃と排除だ。ヴェイダーは徹底してトルーパーへ独断による支配や恫喝、帝国傘下へと入った市民への差別や暴行を禁じた。そんなトルーパーたちを統べ、一拠点の兵士達として機能させているのがレン騎士団と言える。
彼らは帝国内の強力な戦力であると同時に、ジェダイ狩りに特化した者たち。そして、帝国傘下の市民から英雄として讃えられる存在だ。
誉れ高く、正々堂々と戦い、弱者を守るカリスマを備える彼らがいることで、帝国傘下の市民たちはある程度の制限を受ける代わりに、強者に怯える生活から解放され、秩序ある社会体系を築くことができていたのだ。
金を払えば必ず供給される物品。
徹底して整備されるインフラ。
クレジットという共通通貨で取引ができる市場。
そして、その秩序を維持する騎士団。
その効果は帝国に属する政治屋たちの浅はかな予想を遥かに上回る効果を発揮した。市民の中には、将来の夢に騎士団を志して帝国に志願する者も出るほど、ヴェイダーが打った政策は市民たちに大いなる納得を与えたのだ。
「気にするな、カイロ・レン。貴公の行動のおかげで相手の戦力を分析する事はできた。これで対策の立てようもあろう」
「ええ。しかし、ここはすでに我々帝国の地です。あの者たちを逃すことはありません」
「なら、次はその一閃を相手に届かせることだな」
ヴェイダーの言葉に「必ず」と答え、彼はクロスガードライトセーバーを腰にぶら下げて、足早にドッキング・ベイを後にする。
それを見送ったヴェイダーは、月のように遠くに見えるデス・スターを見上げた。ここから脱した以上、デス・スターのトラクタービームの範囲内であることは間違い無い。逃げる事は不可能と言えるだろう。
「ヴェイダー卿、シャトルの準備が整いました」
トルーパー・コマンドの報告を聞いて、ヴェイダーもマントを翻してシャトルのある場所へと向かう。
ここにくる直前で感じ取った何か。
忘れていた、とても懐かしいような感覚。
その正体を知るため、ヴェイダーもまたデス・スターへと戻るのだった。
▽
「なんだったんだ…さっきの…心臓が鷲掴みにされたような感覚は…」
オルデランを脱したファルコンの中で、操縦席をハンとチューバッカに譲ったアナキンは、さっきの発着ベイで感じ取ったフォースの強烈なイメージを忘れることができずにいた。
フォースとの絆を絶ってから初めて感じた現役の頃と等しいほどの力強いフォースだ。
「帝国軍!?冗談じゃないぞ!オルデランが制圧されてるなんて話は聞いてないぞ!」
「まさか惑星の裏側に隠れていたのか?」
突如して現れた帝国の軍勢にハンが怒りを露わにする中、オビ=ワンは冷静に情報を分析していた。たしかにオルデランは反乱軍に対して多大な貢献をしてきた惑星だ。だが、オルデランの議員メンバーであるベイル・オーガナや、アナキンの娘であり身分を偽っているレイアがいる限り、元老院の目があるうちは容易に手出しできるはずがない。
側で、肩で息をするルークもオビ=ワンと同じ意見だった。だが、さっき剣戟を交わした相手のことも初めてだった。
あのバトルステーションが完成してからというもの、今まで続いた帝国の在り方の方針に変化が現れているというのだろうか?
ふと、ハンがオルデランを脱していく先も無いファルコンの視界の前へ指を差す。
「あれは月か?オルデラン星系にあんな衛星は存在しないぞ」
徐々に近づいてゆく白い星。その姿を見たルークとオビ=ワンの顔から色が抜け落ちてゆく。
「…いいや、あれは月じゃない。宇宙ステーションだ」
その静かな声に、ハンは「なんてこった」と悲鳴のような声を上げ、すぐにファルコンの操縦桿を操作してゆく。
「こいつは不味いぜ。すぐに逃げるんだ!反転しろ!チューイ!」
そう指示をだすが、チューバッカの操作にファルコンは従う気配がない。手順をいくつか試しても効果がないことに唸り声を上げるチューバッカへ、ハンは諦めるなと声を荒げた。
「くっそ!なんだよ!チューイ!補助パワーもあげろ!」
「無駄だ、ハン!これは…トラクター・ビームに引っ張られてるんだ!」
解析を終えたアナキンが伝えると、ハンは即座に意識を切り替える。
「こりゃあ、出たとこ勝負ってわけになるか」
潔くスイッチを切ったハン。その場にいる全員が眼前に迫った帝国驚異のデス・スターを見つめる。
太陽の光を遮る巨体の中に吸い込まれる最中、アナキンは小さくオビ=ワンへ呟いた。
「これは過激な交渉になりそうですね」
ここまでくればヤケクソだ。アナキンもハラを括った。さっき感じたフォースのざわつきの正体を知るためにも――。
シナリオを練り直すのを許せるか?
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細かい描写も見たい
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ログの心の移り変わりを見たい
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とりあえずエンディングまで突っ走れ